自作キャラでバトロワ2ndまとめwiki

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利用する者される者 ◆ASQQNYexes


 その刹那、霧島無色は動きを止めた。
 一瞬だけ、どこかで誰かが道路工事を始めたのかと錯覚した。
 遠くで響いた連射音が、アスファルトを破砕する音のように聞こえたからだった。

 しかしすぐに勘違いだと気付く。
 ここは無人島、いるのは2年D組の生徒のみ、そして今は殺し合いのさなか。
 こんなときに誰が道路工事などするものか。
 そもそも自分がいるのは森の中、音がした場所も恐らくは森。
 この音は、違う。地面を砕いているのではない。
 あの夜、人間としての自分が死んだ夜、自分を撃ち抜いたあの音を思い出すが、まったく違う。
 耳慣れない音、そして殺し合いの場で鳴り響いた音、ということは――

(銃火器を支給された奴がいる、というわけか……)

 考えてみれば、当然の話だった。
 自分への個別支給品は日用品で、鹿狩瀬荻矢が所持していたのはサバイバルナイフ。
 ならばより殺傷力の高いものを支給された生徒がいたとしても、まったく不思議ではない。

 無色は思案を巡らせる。
 接近戦ならば、誰にも負けないつもりだった。
 自分には、感覚操作能力がある。
 ありもしない激痛を相手に与え、自分自身の苦痛を完全に消去できる特殊能力が。
 たとえ相手が武術の達人であっても一方的に屠殺できるほどの特殊能力が。
 だが、もしも遠方からの銃撃によって致命傷を受けてしまったら。
 あのときのように、自分が撃たれたことも理解できないまま殺されてしまったら。
 そもそもこの島には、安佐蔵恭二郎をミンチにした巨大殺人機械が徘徊しているのだ。
 いかに自分が超越的な能力を有していても、発揮できなければ意味がない。

(囮と盾が必要になる、ということか……)

 無色はその手段について、冷静に冷淡に吟味する。
 自身の腕と能力のみを信じる彼は、他人を利用することに抵抗があった。
 卑怯な真似をしたくない、などと思っているわけではない。
 自分しか信じていないだけ、いや、自分の強さを信じていたいだけだ。

 それに――改造人間となる前の彼は、心身ともに健全な少年だった。
 当時から人付き合いは苦手だったが、それは慎ましさの裏返しでもあった。
 他人に対する破壊衝動を心の奥底に抱えてはいたものの、ボクシングでしかそれを発散しない、
合意の上でしかおこなわない、という良識と自制心を持ち合わせていた。
 ある日突然殺されて違法改造を施され、あれほど好きだったボクシングの公式試合に
二度と出場できなくなったとき、彼の感情は完全に死んだ。夢と共に心を失くした。
それでも彼の価値観や矜持が完全に損なわれたわけではなかった。
 しかし改造人間としてのアイデンティティが彼の美質を蹂躙する。

(感覚操作によって、人の心や行動を自在に操るにはどうすればいいか)

 その方法を見つけ出すのだ。無法地帯となったこの島で、クラスメイトを実験台にして。
 いくら強くなっても、いくら特殊な力を得ても、素手では銃を持った相手に勝てない。だが――
 無色は自分の口元が薄く冷たく歪んでいることを自覚する。

 彼は隣接エリアにあたるB-6の診療所を目指す。
 恐らくは負傷者が逃げ込んでくるであろう場所。
 怪我人、すなわち痛覚からの解放を望む者が目指すであろう場所。
 非情なる改造人間、霧島無色の足をそこに向かわせたのは、
初日深夜に死亡した中井沢尽の発射した自衛用サブマシンガンの音だった。

               ◇

 渡世朝秋の目的地はA-3エリアだった。
 島南西部の住宅街を迂回する形で森の中を進み、展望台を目指す。
 夜の森は不安を煽り、恐怖をかき立てる。見知らぬ地となれば、尚更だ。
 迷い込んだ者はやがて恐慌状態に陥り、一刻も早くここから抜け出したいと思うだろう。
 だからこそ彼は森を往く。人目を避けるため、そして、この森を自然の要塞として利用するために。

 その道程で遭遇した鹿狩瀬荻矢の死体は、違和感に満ちていた。
 荻矢は感情が昂ぶると痛みを感じなくなるという特異体質の持ち主だった。
 だが、事切れた彼の顔は苦悶に歪み切っている。
 かといって、感情が昂ぶることなく殺されたのかといえば、そういうわけでもなさそうだった。
 光漏れを警戒し、デイパックで覆ったランタンでざっと確認した限りでは、外傷は三つ。
 太腿と腹部の刺し傷と、顔面の打撲痕。死因は、太腿の大動脈損傷による失血だろう。

 つまり、鹿狩瀬荻矢は殺される前に顔面を殴られているのである。
 激昂しやすい性格の彼が、果たして冷静でいられただろうか。考えられない。
 にもかかわらず、感情が昂ぶると痛覚を失うはずの彼の死に顔は、苦悶に歪んでいる。
 それだけではない。彼の体には、抵抗した形跡がまるでなかった。
 手には汚れも傷もなく、衣服の損傷は刺し傷によるもののみ。
 つまり、抵抗はおろか、身を庇おうとすらしていなかった、ということになる。
 キレやすく、喧嘩慣れしているはずの彼にしては、あまりにも不自然と言わざるを得ない。
 死体が死の状況を語る――鹿狩瀬荻矢は、一方的な加害行為によって殺された。

 だが、一体誰が? 朝秋は犯人像を推測する。
 殺害者は男子生徒だろう。女子の中にも武術の達人や暴力狂がいることは知っているが、
相手の顔面を殴りつける、という手段を彼女たちが採るとは考えにくい。
 それに、この痣。迷いがなく、重量のあるパンチを繰り出せる者にしか成し得ない。

 重量のあるパンチ。真っ先に思い浮かぶのが、琴浦周斗だった。
 プロボクサー入りが決定している彼のパンチには、破壊力があるに違いない。
 しかし、彼ではないだろう。周斗なら、先ほど拡声器で叫んでいた。
 それに彼には裏表がなく、無抵抗の相手に対する暴力は嫌っているように見受けられた。

 では、国分寺多聞はどうか。喧嘩の強さ、という点では加害者候補に挙げられる。
 しかし周斗と同様に、能力的には可能だが人格的には不可能と判断せざるを得ない。
 多聞はその外見に反してマイペースかつ慎重で、自分から喧嘩を吹っかけることはない。
 もし、異常な状況下であることを理由にこの二人の変心を疑うのならば、そのような疑心こそが、
状況の異常性に流されている証なのだと言わざるを得ない、と朝秋は思う。
 もっとも、上から目線でそう思えるのは、犯人に心当たりがあるからだが。

 彼が殺害者と目した人物、それは霧島無色だった。
 学校内では大人しく、クラスメイトとほとんど口を利くことのない無色の裏の顔。
 ヤンキー狩りと称して夜の街に繰り出す彼の存在は、不良グループの間では有名だった。
 周斗と同じジムに通っていたが不正行為を働いて公式試合の出場資格を剥奪された、とも
厄介ごとに首を突っ込んで射殺されたはず、とも伝え聞くが、真偽の定かでない過去の経歴などよりも、
実際に彼の襲撃を受けた不良たちの証言のほうが今の朝秋には興味深い。

 曰く、顔を殴られただけなのに、有り得ないレベルの激痛が全身に走った。
 曰く、実験と称し、物理法則では説明のつかない手段で耐え難い苦痛を与えてきた。
 曰く、いくら相手を殴っても、まるで痛みなど感じないかのように平然としていた。

 負け犬の遠吠えにしては芸がない、と当時は思ったものだった。
 だが、今は違う。彼らの証言を事実であると仮定すれば、目の前の違和感に筋が通る。
 すなわち、痛みを感じないはずの鹿狩瀬荻矢の顔が苦悶に歪んでいる理由――

(どんなイカサマを働いているのかは知らんがね、一つ目のキーワードは『痛み』ってとこかねぇ?)

 朝秋はPSO-1スコープを覗き込み、その倍率を調整する。
 木々の向こう、B-6エリア方面に見慣れた後ろ姿が見える。
 小柄で細身の同級生。予想通りの人物が、こちらに背を向け歩いている。

(やはり、俺の睨んだとおりか……)

 冷笑が込み上げる。しかしすぐに表情を引き締め、無色の後頭部に照準を合わせた。
 今ならば、確実に殺せる。だが、彼は撃たなかった。

 自身が優勝するために、霧島無色を生かしておく。それが朝秋の判断だった。
 無色はゲームに乗っており、肉弾戦に関しては圧倒的な強さを誇る。
 野放しにしておけば、死者を量産してくれるだろう。
 一方、自分に支給された弾丸は30発。全員を殺し尽すには数が足りない。
 予備の武器を手に入れるという選択肢もあるが、自分が殺し合いに乗っていることや
自分自身の存在を徹底的に秘匿した方が、ことを有利に運べるはずだ。
 ならば、接近戦に特化した“予備の武器”は、手元に置かない方がいい。
 潜伏の邪魔になる危険物は別の誰かに持たせ、好き勝手に暴れさせておく方がいい。

 朝秋にとって無色は予備弾薬、文字通り鉄砲玉だった。
 人減らしに貢献させ、利用価値がなくなれば、間合いを詰められる前に始末する。
 それだけではない。優勝を狙う以上、韋駄天に勝たねばならない。
 勝算は、ある。だが、身体能力が高く、尚且つ好戦的な人物の存在が不可欠だった。

 朝秋に支給された光学照準器PSO-1は、現行モデルではなく初期型だった。
 PSO-1の初期型は、赤外線投光器検知用フィルターを内蔵している。
 つまり、敵の赤外線暗視装置を発見できるのである。
 それは韋駄天のサーマルビジョンモードを無効化できることを意味していた。
 たとえコックピットが防弾仕様になっているのだとしても、索敵機能をすべて破壊してしまえば、
韋駄天の命中精度は大幅に落ちる。あとは“予備の武器”の立ち回り次第だ。

(ゲームに乗った者同士、せいぜい協力し合おうじゃないか。なぁ、霧島クン?)

 もっとも、最後に笑うのは俺一人だがね。
 胸中でそう付け加えながら、闇の中、朝秋は枯れ枝を踏み鳴らした。



【C-6 森林/一日目・黎明】

【男子二十番:渡世朝秋】
【1:俺(達) 2:相手の容姿(おっさん、茶髪、チビなど)、お前(ら) 3:あいつ(ら)】
[状態]:冷静、健康
[装備]:ドラグノフ狙撃銃+PSO-1スコープ(9/10)
[道具]:ライフル用予備弾薬(20/20)、基本支給品×1
[思考・状況]
基本思考:狙撃を駆使して優勝を狙う
0:狙撃ポイントの確保のため展望台へ向かう。
1:霧島無色を鉄砲玉として利用する。
2:琴浦は追わない。
[備考欄]
※狙撃の有効範囲は1エリア分の端から端辺りまでです。対象がエリアの真中に居れば隣のエリアからでも狙撃できます。



               ◇

 アニメキャラの明るい声が自分の現状を叙述する。
 脳内で放映される次回予告の繰り返しに、八十島秋乃の胸は痛む。
 涙が溢れそうだった。脳内在住のアニメキャラにひどく申し訳ないことをしているようで。
 自分の過去や現在や未来を彼らに語らせてしまうことが、途方もなく重い罪に感じられた。

(どうして、どうしてこんなことに……)

 疑問に答える者はいない。考えようとすれば、悲しみに押し潰されそうになる。
 何故こんなに悲しくなるのかは分からない。ただ逃げているだけなのに。
 怖いから、全力で逃げる、そんな当たり前のことをしているだけなのに。
 だから秋乃は走り続ける。もし立ち止まってしまえば、蝶野に対する恨み言を
ぶちまけずにはいられなくなると心のどこかで気付いているから。
 路地の向こうに人影が見えた。細身の男子生徒が行く手に立っているのが分かる。

(あれは、霧島無色……)

 温かな安堵が胸に込み上げ、秋乃の視界が涙で滲む。
 良かった、助かった。無色は大人しいから、殺し合いに乗ったりなんかしない。それに、
周斗と同じボクシングジムに通っていたっていうし、いざというときは頼りになるはず。
 張りつめていた糸が切れるように、秋乃はその場にへたり込んだ。
 もう、走る必要はない。もう、逃げる必要もない。もう大丈夫、どうにかなる。
 秋乃は激しく息づきながら、自分のほうに近付いてくるクラスメイトの男子を見上げた。
 闇に溶け込むような彼の表情は、秋乃にはよく分からない。

「八十島か……」
「あぁ、良かった、無色……、助けて……お願い……」
「……助けるように、見えるのか?」
「何言ってるの……、こんなときに、冗談、言わないで……」
「いや、俺は冗談なんか言わないさ」

 一歩、また一歩、こちらに歩み寄る無色の口元が冷ややかに笑っているのが見える。
 あぁ、知らなかった、無色って、こんな風に笑う人だったんだ――
 自分の胸の奥底が凍りついていくのを、秋乃はまるで他人事のように認識していた。

 気付いたのだ。無色はゲームに乗っている。だが、そんな相手に捕まってしまったのは、
自分を助けてくれた不動院凛華を信じられずに逃げ出したことへの罰のように思えてならない。
 だからこそ、あんなに悲しかったのだろう。脳内次回予告に申し訳なさを感じたのだろう。
 凛華が怖い、しかし凛華を裏切ったのは本当は自分の方なのだと心のどこかで気付いていたから。

 凛華は今、どうしているだろう。桜は今、どうしているだろう。
 きっと、誰も生きて家には戻れない、と秋乃は無色を見上げて思った。
 殺し合いに乗ろうと乗るまいと、蝶野先生の計画に飲み込まれてしまったことに変わりはないのだから。
 そしていくら強くても、たとえ凛華のように強くても、飲み込まれた者が足を引っ張る。
 冷ややかに自分を見下ろす殺人者に、秋乃は諦めの言葉を告げた。

「……殺し合いなんかに乗ったって、生き残れないわ」
「俺は生き残るさ」
「でも、蘭子の首輪は爆発した……だから、無色の首輪だって……」
「話が見えないな。俺が生き残れないことと嵐崎の首輪の爆発に、何の関係がある?」
「蘭子、殺し合いに乗って、桜を襲ってた。そしたらいきなり首輪が爆発したの!」
「桜……? 有栖川か……」

 気のせいだろうか。無色の表情が一瞬だけ変わったように思えた。
 仲間と共にいるときのような、年相応の無警戒な顔を見せた。
 なんだ、無色もこんな普通っぽい顔をするんだ。でも、どうしてこんなときに?
 秋乃が疑問に思ったときには既に、無色の表情は元の冷ややかなものに戻っていた。
 いや、ただ戻ったのではない。その冷酷さは先程までとは比べ物にならないほど
冷たく鋭く研ぎ澄まされ、残忍な光をたたえていたのだった。



【B-6 診療所付近/一日目・黎明】

【男子十五番:霧島無色】
【1:俺(達) 2:苗字呼び捨て、お前(ら) 3:あの男・女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、サバイバルナイフ、不明支給品×1(日用品)
[思考・状況]
 基本思考:人間の強さを超えてやる
 0:クラスメイトを使って装置の実験をする
 1:有栖川が本物のサイキッカーかどうか確認したい
 2:まさか、有栖川が嵐崎の首輪を爆破した?
[備考欄]
※霧島無色の能力で現在判明しているのは「触った相手と自分自身の感覚の操作」
 ですが実験中なのでゲームを進めると新たな使い道を思いつくかもしれません。


【女子十九番:八十島秋乃〈やそじま・あきの〉】
【1:私(達) 2:下の名前呼び捨て(達) 3:皆(皆)】
[状態]:恐怖、不安、混乱、精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本思考:殺し合いの撃破。
0:どうしよう…もうダメなのかな…
1:蘭子の首輪が突然爆発した…怖くて仕方がない…
2:不動院凛華に対する恐怖と罪悪感。
3:蝶野先生…どうして…
4:ここから逃げたい…
[備考欄]
※麗山への復讐を蝶野がしたがっているのではないかと考えています。



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006:霧島無色は改造人間である 霧島無色
010:マッハ!!!!! 渡世朝秋
022:あたしが殺した(後編) 八十島秋乃

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