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十二番目の憧憬

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十二番目の憧憬 ◆CUPf/QTby2


ゴリラの着ぐるみを着用したまま、日常生活を営む自分。
それが普通でないことくらい、彼――ジョナサン大山(男子十二番)――自身も知っている。
おかしなことをしている、という自覚はある。しかし、着ぐるみの中にいると安心する。
帰るべき場所に戻ったような、全てのしがらみから解放されたような、不思議な安堵を覚えるのだ。

いつからこんな風に生活しているのか、それは彼自身にも分からない。
ただ、この学校に入学してすぐ、高校一年の初夏には既に、彼は着ぐるみを被っていた。
覚えているのだ、現クラスメイトの月元夢子(女子十二番)と初めて話した日のことを。

当時の二人は互いに別のクラスにおり、演劇部所属、この一点のみが唯一の接点だった。
当時の夢子は入学間もない身でありながら既に演劇部の看板女優で、
芸能界でも通用するような端整な顔立ちと癖のない艶やかな黒髪が印象的な、
清潔感のある楚々とした少女だった。

一方の大山はその日、部室の片隅で、素行の悪い数人の幽霊部員に包囲されていた。
彼らは大山を小突いてからかい、その素顔を確認すべく、着ぐるみを剥ぎ取ろうとしていたのだった。

「おまえ、このクソ暑いときにそんな暑苦しい格好してんじゃねえ!」
「ツラ見せろよツラ! なんでツラ隠してんだよ、ああ?」
「中は蒸れてクセェだろ? 新鮮な空気を嗅がせてやろうってのに、何だよその態度は」
「自分の体臭に興奮する変態かァ? 大山の中の人も大変だな、おい!」

次第にエスカレートする彼らの横暴、大山は「中の人などいない」と叫んで抗議する。
普段の大山なら、この風体に相応しい野性的な手段をもって彼らを撃退するのだが、
バランスを崩して転倒した巨体が大道具の間に挟まれてしまい、今は身動きすらままならない。
着ぐるみの構造など意に介さず、力任せに剥ごうとする不良たち。そこに夢子が現れた。
彼女は穏やかな声で、しかし迷いのない口調で、大山の救出を一同に求めた。
彼に大切な話があるのだと言って。勿論それは、不良を退ける口実に過ぎなかったのだが。

何故、助けてくれたのだろう――大山の胸中を違和感がかすめた。
舞台から降りた月元夢子は物静かな少女、他人から話し掛けられない限り口を開くことはなく、
まして、自ら進んでこのような面倒ごとに関わってくるなど考えられなかった。
しかし今日の彼女は大山を助け、控えめながらも曇りのない笑顔を彼に見せた。

「また着ぐるみを取られそうになったら言ってください。私があの人たちに……」

いやいやいやいや、いいッスいいッス、あんな連中、俺一人で追い払えるッス。
大山がそうまくし立てるよりも早く、夢子の表情に影が落ちた。
あの人たちにこう言いますから。そう言い切った彼女の眼から光が失せ、虚ろな敵意に満たされる。
え、俺なんかまずいこと言ったッスか? うろたえる大山、夢子は精彩を欠いた顔で呟く。

「やっぱり、嘘だったんじゃないですか。中に誰もいませんよ」

ちょっ、言葉様かよwwwww
つーか「中に誰もいませんよ」って、刺されるのは俺かい。俺が腹を捌かれるんかい!
大山は心の中でツッコミを入れる。全身全霊で、盛大に。しかし声に出すことは出来ない。
おかしい、着ぐるみを被ると自由になれるんじゃなかったのか。夢子の眼に光が戻る。
着ぐるみの中で狼狽する大山の姿を見透かすように、彼女は悪戯っぽく笑ってみせた。

「……っていうのは冗談です。大山くん、何かツッコミ入れてください」
「いや、中に誰もいないの、当たり前っていうか……」

……それが、最初で最後だった。
その後も一度だけ件の不良数名に絡まれはしたものの、身動きを封じられる前に
全力で反撃した結果、彼らは二度とまとわりついてこなくなった。
そうなると、お互いに、会話の糸口を見出せない。
夢子のことは気になっていた。俺に気があるんじゃないかと舞い上がりもした。
しかし、夏が終わる前に、彼女の異常行動が始まった。
まるで、のぼせ上がった恋心に冷や水を浴びせ掛けるかのように。

病的な暴食。夢子は人目をはばからずスナック菓子を食べるようになった。
その容積は常人の胃袋の数倍にのぼり、彼女は嘔吐するまで――いや、
嘔吐しても尚、憑かれたようにそれらを口に詰め込んでいた。

冬が来る頃には、彼女は別人のように肥え太っていた。
程よく丸みを帯びた形の良い頬はゴム鞠のように膨れ上がり、
見る者に可憐な印象を与えた大きな眼は贅肉に圧迫され、ひしゃげている。

看板女優の変貌に、部員たちは戸惑った。
しかし、夢子は誰に何を言われても、ただ無言で笑っていた。
何故これほどの暴食に走るのか、何故美貌を損ねているにも拘わらずダイエットをしないのか、
誰に何を訊かれても明確な答えを返すことなく、ただ無言で笑っていた。

大山の恋は醒めた。以前のような夢見心地で夢子を見ることが出来なくなった。
しかし、興味を無くしたわけではない。恋情だったものは変質し、より深く、より暗く、
より複雑に、大山の心に根を張っていった。それは彼に苛立ちと痛みを催させた。
暗い着ぐるみの中、視界を確保するための覗き穴の向こうに見える夢子の姿に大山は思う。

 ――何だよそれ。月元も、着ぐるみに入れば良かったんだよ。

          □ ■ □

ジョナサン大山は、着ぐるみの中で目を覚ました。
覗き穴の向こうには星空しか見えない。どうやら野外で居眠りをしていたようだ。
奇妙な夢を見た。しかし、夢だと分かって一安心だ。さて、そろそろ戻るか。
それはそうと、さっきから首に引っかかってるコレは一体何なんだ?

思考がそこに至ったとき、先程の惨劇が夢ではなかったことに気付く。
教育委員会なる連中に着ぐるみを剥がれた上で、この首輪を装着させられたのだと気付く。
しかも彼らはこちらに抵抗の機会を与えなかったばかりか、勘付かれることすらなくそれを行ない、
再び着ぐるみを装着させるという余裕まで見せ付ける始末である。

大山にとってそれは、肉体だけでなく精神の生命線すら掌握されたことを意味していた。
逆らおうなどとは思えない。かといって、命じられるまま殺し合いを行ないたいとも思えない。

身を起こし、辺りを見回すと、四方を柵に囲まれた見知らぬ場所にいることが分かる。
空が広い。周囲には誰もいない。ゆっくりと立ち上がり、柵の方へと足を運ぶ。
どうやら、かなりの高所にいるようだ。恐らくここは、展望台のような施設なのだろう。
角には双眼鏡が一基ずつあり、中央部には下に降りる階段がある。
立て篭もるには有利だが、それは相手が生身の人間のみの場合。
柵も床も階段も全てが木、韋駄天の攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。

 ――そういえばあいつ、今、何処にいやがるんだ?

双眼鏡に両手を添え、上下左右に動かしてみる。
しかし視線と覗き穴とレンズ、これらがなかなか一直線にならず、うまく覗くことが出来ない。
とはいえ大山にとってこの着ぐるみはもはや己の身体の一部、パフォーマーとはわけが違う。
数分の試行錯誤の末、彼はついに双眼鏡の向こうの情景を目視することに成功する。
だが、レンズが捉えたのは韋駄天ではなく、月下の草原を独り歩く見慣れた少女の姿だった。

 ――おい、こいつ、月元じゃないか……。

夢子の姿を目にした途端、死の恐怖が現実感を伴って彼のすべてを急き立てる。
殺し合いなんてしたくない。しかし、殺されるかも知れないのだ。
月元夢子に会いたいと思った。会ってどうしたいのかまでは分からない。
伝えたい言葉すら浮かんでこない。それでも、死ぬ前にもう一度彼女に会いたかった。
だが、双眼鏡が捉えたこの光景、彼女は今、一体どの辺りにいるのだろう。
そういえば、リュックのような鞄があったっけ、位置を確認出来るものがあの中に――


     ガ コ ッ ! ! !


デイパックを取ろうと屈んだ拍子に、その事故は発生した。
着ぐるみの一部、大きすぎるゴリラの頭部が、双眼鏡と側面衝突を起こしたのである。
慌てて顔を上げるが時すでに遅し、双眼鏡の角度はすっかり変わってしまっていた。

「は、はわわ~」

奇妙な呻き声を上げる大山、その背後で床板が小さく軋んだ。
おい、気のせいだよな。今の、風だよな。恐る恐る振り返る。しかしそこには誰もいない。
人の姿はおろか気配すらも存在しない深夜の展望台、その板張りの床の中央で、
下へと続く階段がぽっかりと口を開けているのみ。
良かった、やっぱり気のせいか。そう思い、胸をなで下ろした瞬間、また、ぎしり。
足元よりも遥かに下、床板の向こうで木材が軋んだ。凍りつく大山、再びぎしりと音が鳴る。
そしてまた、ぎしり。その音はゆっくりと、だが確実に、こちらとの距離を縮めている。
掌が汗ばみ、鼓動が加速する。誰かが階段を昇っている。誰かがここにやって来るのだ。

ここは地上十数メートルに位置する展望台。ジョナサン大山に、逃げ場はなかった。



【A-3 展望台/一日目・深夜】
【男子十二番:ジョナサン大山】
【1:俺(ら) 2:おまえ(ら) 3:あいつ(ら)、○○(苗字呼び捨て)】
 [状態]:健康
 [装備]:ランダム支給品(未確認)
 [道具]:支給品一式
 [思考・状況]
  基本思考:殺し合いは嫌だが、死にたくない。
  0:は、はわわ、月元様、敵が来ちゃいました!
  1:威嚇するか、それとも死んだフリをするか…
  2:月元夢子に会いたい。
 [備考欄]
  ※ランダム支給品の詳細は後続書き手の方にお任せします。



          □ ■ □

これは、オーディションと同じなんだ――そう思うと納得出来た。
何十人、何百人の才人が集っても、主役を射止めるのは一人だけ。
最後の一人になるために、他の全員を振るい落とすために、心身を駆使して全力を尽くす。
だからそう、これはオーディションと同じ。ただ、その手段が殺し合いだというだけの話。
それが異常に思えるのは、常識や倫理に毒されている証拠。舞台の上では、そう、
他人の生き方を表現する上では、常識や倫理に囚われた心なんて邪魔なだけ。

殺し合いに乗る。月元夢子はその決断に時間も迷いも要さなかった。

デイパックの中身は確認した。地図、コンパス、筆記用具、二日分の食料と水、
時計、ランタン、そして大型のメイクボックス。中にはメイク用品がぎっしりと。
口紅もチークもアイメイクもかなりの色数が揃っており、まるで画材のようだった。

そう、画材。これは己を美しく見せるために用いるべきものではない。
己の演技に説得力とリアリティを与えるためにこそ利用すべきなのだ。
このオーディションを勝ち抜くために。たった一人の優勝者となり、再び舞台に立つために。

夢子にとって演劇は人生そのもの、いわば唯一の自己表現手段だった。
演じること、それは彼女にとって言語であり表情であり動作であり、現実だった。
「あの人は目立ちたいから舞台に立つ」と自分を指して言う人がいることは知っていた。
そのような動機や目的で舞台に立つ人が周囲にいることだって知っていたし、
そのようなタイプの人間が自分の存在を快く思っていないことも知っていた。

しかし、大した問題ではない。そのとき覚えた不快感は、演じる上での糧となる。
教師から受けた性的虐待だってそう、今となっては遠い過去の出来事でしかない。
あのときの経験が自分の演技に幅と深みを与えたことは紛れもない事実、
得がたい宝を得たのだから、今更補償を求める必要などなかった。
この容姿にしてもそう、今の自分を表現するにはこの姿がもっとも適しているというだけの話。
華やかなヒロインが全てではない。今のこの容姿でしか演じることの出来ない役柄に命を吹き込む、
そうすることによってしか自分は自分になれないのだと彼女はよく知っていた。

だからきっと、この殺し合いも、己の血肉になるだろう。
この殺し合いを勝ち抜くことによって舞台に戻れるだけでなく、更なる高みへと上り詰める。
だからきっと、これでいい。殺し合いに乗ることは、自分にとって間違いじゃない。
夢子にとっては夢こそうつつ。舞台の上こそが、彼女の生きるべき現実だった。

 ――それにしても……。

ふくよかな腹に片手を添えながら、夢子は空を見上げて思う。
ああ、スナック菓子が欲しい。また、気が済むまでスナック菓子を頬張りたい。
口の中がひりひりしてきても。胃がむかむかしてきても。あの頃のように食べまくりたい。
そういえば、最近は全然食べてなかったわ。どうして食べずにいられたんだろう。

今は、こんなに食べたいのに……。



【???/一日目・深夜】
【女子十二番:月元夢子】
【1:私(たち) 2:あなた(たち) 3:あの人(たち)、○○(苗字に君・さん付け)】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、メイクボックス&メイク道具一式
 [思考・状況]
  基本思考:優勝を目指す。
  0:凶器を入手したい。
  1:強敵排除のため一時的に誰かと手を組むことは有り得る。
  2:スナック菓子を食べたい。
 [備考欄]
  ※月元夢子の現在地は後続書き手の方にお任せします。



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