[[ディアボロ]]の動揺⑥
俺は長門に襲われた。状況は前とは違い閉ざされた空間だった。
不良のやつらに襲われた時よりも絶望的な感覚。
なんたって誰にも助けられない空間に覆われ死に続けるのだから
まるでゴールド・エクスペリエンスレクイエムだ
「ところで俺が助けられた方だよな」
「うっ、すまん」
キョンはなぜか侵入できて、俺を助けだした。
だが腰を抜かし立てなくなってしまい俺が肩を貸して家まで送っている。
これじゃあどっちが助けに来たのか分からない
「まぁ、泣きわめかないだけマシだ一般人のくせに」
「そりゃどうも」
キョンがバツの悪そうな顔をして下を向く、相変わらず地味な男だ。
背景に溶け込むぐらいしか脳のない存在感のない奴だと思っていた。
しかし、必死に叫んで助けようと思うあたり‥‥こいつ、案外とんでもない奴なんじゃないか?
俺に見られた事に気づくと、男のくせに男をジッと見るなと注意された。
俺が悪態をつこうとすると前から光がもれ、一台のタクシーが現れた。
そのタクシーに見覚えがあるのかキョンは高校生らしくない神妙な顔でため息をもらす。
後部座席のドアが開き、中から制服姿の古泉が現れた。
「お二人とも無事なようで何よりです」
たしかに見た目に傷はないが、さっきまでは酷いもんだった。
キョンも下手したら怪我してたかもしれないしな
「機関が調べて駆けつけたんですが、長門さんは?」
「帰ったよ」
「長門は‥‥どうなる?」
「どうもなりませんよ」
古泉はさらりと言ってのけた。組織の意見を聞かず、
独断で動いたのに処罰もなしという事は、俺を消しても問題はないと言うことか
古泉は乗ってきたタクシーの後部座席に俺達を乗せ、
自分は助首席に座ると、タクシーを発車させた。
「確かに、あなたの正体が分かった時には僕達の機関の間でもその意見は出ました。けど、凉宮さんが暴走してはいけません」
古泉は前を向いたまま、鏡に写っている俺達を見ながら話した
「そして、何より貴方に死んでほしくなかった。数日間でしたが貴方とは親しくなりましたから」
「なっ‥‥どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」
俺は悪態をついて、さっき切られた腹を撫でた。傷跡は一つもついていないが、むずがゆく感じる。
「世界が一巡したことは知ってるか?」
「一巡? なんですかソレ?」
古泉は助首席から顔を出して答えた。本当に分からなさそうだ。
「なら俺の正体は何で分かった?」
「それが、お恥ずかしいことに長門さんが教えてくれたんですよ」
アイツか‥‥。なら一巡したことは言わなかったのか。
言わない方が良いだろうな、知らない方が良い事も有るんだ。
「一巡はこのさい置いときましょう‥‥ギャングのボスというのは本当なんですか?」
辺りがシンとして空気がはりつめた。
キョンも聞きたかったが申し訳なかったのか、怖くて聞けなかったのだろう。
できた人間だが損をするタイプだな。
「あぁ、そうだ組織名はパッショーネ。
イタリアで一番の組織だったよ。実母も殺し育ての親も殺した最低な奴だ」
「‥‥なぜ娘に会いたいと思ったんですか?親友の遺体も探したいと」
「‥‥孤独の死を繰り返していくうちに、走馬灯のように昔を思い出した。
最初は娘を愛してやろうと思ったよ。でも、無理だった。
帝王の座を‥‥忌まわしい過去に奪われると思い込んでしまった」
横を通りすぎる車を眺め、俺は自分の記憶を細かく書いてある本を読む感覚で話していく。
そんな本があったら、きっと歪んだ言葉の羅列で埋まってるに違いない
「親友も俺がギャングのボスだと言う事は知っていた。
あいつは俺がやる事は正しいと信じ、生きがいとまで言ってくれた。
俺はそんなアイツを道具としか思ってなかった‥‥ずっと一緒だったのにな」
「ずっと一緒って、兄弟だったのか?」
「兄弟か‥‥そうだな俺とあいつは兄弟なんだ。
あいつは俺に頼っていた弟だ。俺はそれを知らないふりをして一人で遊んでいた。
できるハズなんかないのに、掴めると思い込んで空に手を伸ばして夢を見ていた」
星を掴もうと、雲を掴もうと、そんな下らない、できもしない空想に浸るより弟と遊んでやれば良かったんだ。
今となっては俺に兄の資格なんかもない。
車は交差点にさしかかり、信号が赤になりスピードをゆるめ車は止まった
「‥‥俺は、俺を信じてくれた奴を裏切ったゲス野郎だ。裏切って悪かったと会って謝りたかった」
謝ろうと思っても謝るべき相手は別の人間になっている。
そいつに謝っても意味はない、俺が許されることは永遠にない。
アイツが言ったとおり俺が真実に到達することは永遠にない。
車は再び速度をあげ走っていく。
俺はこれから何をすべきか分からずただ動いていく景色を眺めているだけだった。
to be continued...
最終更新:2009年03月20日 13:42