第17話 「クランクインは静かに告げられる」
※『』内は英語だと思って読んで下さい
『徐倫!レフ板OKだ!』
「集音マイクはセット出来たぞ!」
「ライトも大丈夫だ」
「すげぇな……徐倫………」
あたしの横でキョンが呟く。
「あんたはハルヒと一緒に行かなくていいの?」
「別に構わん。朝比奈さんも一緒だしな。そろそろ帰ってくる頃じゃねぇか?」
昨日のハルヒの迷惑なアイデアから一日たった今日、あたし達はSPW財団によって届けられた機材を空き教室を使ってテストしていた。
脚本は明後日届くそうなのでそれまで撮影は出来ない。
「俺達の方はもう脚本も決っているらしいぜ。主演は朝比奈さんだ」
妥当じゃない。内容は?
「さあな。香港映画方式だとよ」
と、その時、
『徐倫!』
どうしたのよ?エルメェス。
『このハンディカメラ壊れてんだよ……どうする?』
『代りは無いの?』
『ねぇんだよ………』
『じゃあまた届け………』
その瞬間、
「あれ?徐倫達何してるの?」
ハルヒとみくるが帰ってきた。持っている箱にはどうやって手に入れたのか、大量の模型とハンディカメラが入っている。
「撮影機材のチェック?ふーん………あれ?そのカメラどうしたの?」
壊れてたんだ。
「じゃ、このハンディカメラあげるわ。余ってたから必要ないのよ」
そう言ったハルヒが渡したのはちょっと古ぼけたカメラだった。
「………本当に撮れんのか?これ?」
「当たり前でしょ!ちゃんとしたお店でもらってきたんだから!あ、それとキョン。
あんた、この模型組み立てといて、それじゃあ、また明日!」
と、ハルヒはいつものように言いたい事だけ言って突発的なトルネードのように去ってしまった。
「やれやれだわ………」
「やれやれだぜ………」
「やっと終わったわね」
機材のチェックが終わった頃には辺りも暗くなり始めていた。
「機材多すぎだぜ………」
「アナスイ。お前は今からこれを研け」
「な!?承太郎さん!?」
『明後日が楽しみだぜ!』
「そうね………」
と、その時、廊下に一瞬何かが見えた。
「………クワガタ?」
『クワガタなんて見えねーぞ、徐倫?』
『エルメェス!横だ!てめーの顔の横にいるぞ!』
「……馬鹿な!?こいつは……花京院に倒されたハズの………タワーオブグレー!?」
エルメェスがスタンドを繰り出す。
『ウオシャア!』
が、エルメェスのパンチは一発も当たらない。
「マヌケがーーーッ!へっへっへっ……てめぇも俺と同じような能力持ってんのか?いきなり身に付けたこの能力……有効に使ってやるプガッ!?」
と、話を遮り親父のスタープラチナがいきなりクワガタを殴った。
「やれやれ……昔はかわされたが今の私ならお前程度のスピード簡単に見切れる………じゃあな」
「て、てめっ………」
「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「げひゃっぶ!」
と、変な叫び声を残し、クワガタのスタンドは消えた。
「お、親父………」
「あぁ……今のスタンド……間違なく本体はこの世にいない………だが……何故………」
『とりあえず今の本体を探してくるぜ。どっかその辺にいるハズだ』
と、エルメェスは出ていった。
「なぁ……徐倫……今、もう一つ奇妙な事があったんだが………」
「なんだ?アナスイ?」
「いや……動いてたんだよ………」
何が?
「この涼宮がくれたハンディカメラ……さっき勝手に電源が入って……動いたんだ……しかも宙に浮いてスタンドを撮影してたんだよ………」
「本当か……?アナスイ?」
「間違ねぇ……ビデオデッキあるか?」
テープを差し込み再生してみる。
「………おい……嘘だろ……」
「スタンドが……映っている………」
『徐倫!見つけたぜ!本体だ』
エルメェスが引きずってきたのはいかにもチャラ男といった感じの生徒だった。
「ひぃぃぃぃぃ!あ……あんたら……一体なんなんだよぉぉぉぉ」
「質問するのはこっちだぜ………よし、こっちへ来い」
アナスイが隣の教室に男を引っ張っていく。すると軽快な音楽が聞こえてきた。
「ウんんんんンーーーーッ!ガアアアアアーーーーッ!」
ズッタン ズッズッタン ズッズッタン ズッタン ズッズッタン
「ンゴォおおおおおおおぉぉーーーーーッ!」
ズッタン ズッズッタン ズッタン ズッズッタン ズッタン ズッズッタン……………
数十分後、アナスイが男から全てを聞き出していた。
「つまり……そいつはいきなりスタンド能力を身に付けたという事か……弓と矢もなしに………」
「そういう事だ」
『だけどよ~~どういう事なんだ?それにこのカメラも一体………』
「見当もつかない………とにかく明日あの二人に聞いてみよう」
「明日……ね………」
その日、親父は少し遅れて帰るという事で、あたしとエルメェスはカメラを持って二人で下校していた。
『はぁ………映画だけでも大変なのにまた変な事が増えるなんてよ……なぁ、これも涼宮とかいう奴のせいなのか?』
『さあね………』
と、突然あたし達の目の前に一人の男が立ちはだかった。手には釣り竿を持っている。
「へ……へへへ……俺よぉ……最高の能力てに入れたんだぜ……見たいか?……へへ……見せてやるよ!」
と、男の釣針が飛んできてあたしの腕に刺さり、そのまま心臓目掛けて昇ってくる。
「オラァッ!」
釣糸を切断しようとするとその打撃が自分に返ってきた。
「へっへ……その釣針は決して力じゃ外せないぜ………」
『ジョ……ジョリィン!』
『慌てるな……エルメェス……この程度の針なら………』
体を糸にしてほぐし、針を外す。
「な……なにィ!」
「オラオラオラオラオラオラァッ!」
「なぐがぁ!」
名も知らぬ男が吹っ飛び気を失う。
『徐倫……さっきのもまさか………さっきの教室でのと同じ……』
『残念だけどあんなスタンドは聞いた事ないわ。それよりも……カメラは?』
カメラは数m後ろに転がっていた。いつの間にあんなところに?
『やっぱり動いていたみてーだな………』
エルメェスがカメラを調べ呟く。………何がどうなってんだ?
「それは実に興味深いですね」
翌日、あたし達はSOS団の部室で有希と古泉に昨日の事を話していた。
ちなみにハルヒは「今度の配役はこうよ!」と叫んでみくるが未来から来た戦うウェイトレス、古泉が超能力少年、有希が悪い宇宙人という
なんていうかかなり絶妙な配役を発表しさっさと帰ってしまい、キョンとみくるもこれ幸いと帰ってしまった。
………しかし……みくるのウェイトレス姿にもびっくりしたが今の有希の魔法使いスタイルにはスタンドも月までブっ飛ぶ衝撃を受けた。
………結構似合ってるわよ。有希。
「……………そう」
「話を戻そうぜ。で、これは涼宮のせいなんだな?」
「ハッキリと断定は出来ませんが恐らくそうでしょう」
『だけどなんでそんな事になったんだよ~~』
通訳して伝える。
「それは……まずカメラを済ませた方が説明しやすいと思います。長門さん?」
「そのカメラからはあなた達がスタンドと呼称する情報エネルギーの存在が観測される」
「本体は分かる?」
「分からない」
と、有希はあたしに一瞬申し訳なさそうな表情をした……ように見えた。気のせいよね………。
「ならある程度は分かるな……恐らくこのカメラは一人歩きしているタイプのスタンドだ。………まぁ本体も自分がスタンド使いと分かっていたか怪しいものだが」
「で、カメラがどうハルヒに繋がるんだ?古泉?」
「このカメラを涼宮さんが見つけたという事が重要なんです」
説明をしている古泉は実に生き生きとしている。いるよな。こういう説明好きな奴。
「どういう事?」
「そしてあなた達の前にあなた達が知っているスタンドが現れた事……この二つが鍵です」
昨日の釣針野郎は親父にも聞いた事無いぞ。
「そのスタンドだが……昨日調べたらポルナレフが知っていた。
ビーチボーイというスタンドで本体のペッシという奴は既に死んでいるらしい」
「つまり結論を言いますとこの事態は涼宮さんがあなた達にスタンドを使ったアクション映画を撮って欲しいと望んだからです」
ハッキリ言ってうさん臭いのもいい所だ。どう考えてもこじつけにしか思えない。
「なぁ……ならなんで俺達が知っているスタンドしか現れねーんだ?」
「推測に過ぎませんが恐らく涼宮さんがスタンドを知らない事、
それとスタンド能力が涼宮さんが望んで生まれた能力では無いせいだと思います」
「なるほど………スタンドが涼宮ハルヒの生み出した物で無いのとハルヒ自身がスタンドという概念すら知らない……
それがポイントか……なるほどな………」
親父……何が言いたいんだ?ハルヒは宇宙人や未来人、超能力者は生み出したんだぞ?
「それは涼宮さんがそれらの概念を既に知っていたから生み出せた……承太郎さんはこう言いたいのですね?」
「あぁ、涼宮といえど自分が知りもしないスタンド能力を他者にいきなり与えるのは不可能だろう。
そこで私達の記憶から既にこの世界に存在しないスタンドを選びだし適当な人に与えているという事か」
「そう考えて差し支え無いでしょう」
『困った事になったな………』
あたし達に通訳してもらって話を聞いていたエルメェスが呟く。
「明日私が知っている範囲でのスタンド能力を調べてデータを持ってくる。
今までの傾向を見る限り本体が死んでいるスタンドがくるようだからデータを揃えておけばこちらが有利に戦えるだろう」
その親父の言葉を合図に有希が本を閉じ、全員解散となった。
はぁ………本当に困った事になった。ハルヒのこの映画作りに懸ける情熱は現実世界をも巻き込むレベルに達しているらしい。
が、ハルヒはあたし達に見せつけたレベルでは飽きたら無かったらしく、この後ハルヒの暴走はドンドンエスカレートしていく訳だが
………ま、それはもうちょっと先の話になる。
カメラのスタンド 本体―不明 空条邸にて保管
To Be Continued・・・
最終更新:2007年12月20日 14:37