第22話 「 映画制作中異常発生中 3 」

昨日のハイエロファントグリーンに襲われた日の翌日、あたしは学校の前の坂道を自転車を押して登っていた。
と、目の前に凄まじいまでの負のオーラを纏った一人の男子生徒がいた。
「どうした?キョン?」
「あ……徐倫か………」
昨日、あの後なんかあったのか?
「……あの三毛猫……ほんとに喋りやがったんだ………」
「……………………」

「今、涼宮さんによる異常は確実に進行しています」
休み時間、あたしとキョンは古泉の小演説を聞かされていた。
「その話は分かってるぜ……ハルヒの映画撮影を止めちゃいけない、けど撮影をこれ以上進めちゃいけない………」
矛盾してるじゃない。
「だから言っているじゃないですか、映画の中で起こる現象に合理的な説明をつければいいと、徐倫さんのスタンドのように」
「だけどどういう説明をつけるのよ?生半可な物でハルヒが納得すると思う?」
「………じゃ、少し話を変えましょう。僕は以前僕の組織“機関”において涼宮さんを神と見ていると言いましたよね?」
言ってたな。
「あれは厳密には少し違います。僕達は涼宮さんを神だと本気で思っている訳ではありません」
「当たり前だろ」
「僕達は涼宮さんを神によって力を与えられた存在……そう考えています」
見事なまでにあたしとキョンの相槌を無視して古泉は話を進める。

「涼宮さんが神では無い……その根拠は涼宮さんがこの世界の中にいるという事です。もし本当の神ならばこのようなめんどくせい方法などとらずに高みの見物でこの世界を変えてまわるでしょう」
それは人それぞれの考えだけどね………。
「そして涼宮さんがこの世界の中にいるというのは実は大変重要な事なのです」
「なにがだ?」
「仮に涼宮さんがこの世界をファンタジーに変えてしまったとしましょう。その変化はきっと誰にも気付かれません」
「………は?」
「何故なら涼宮さんがそう望めば世の中はそうなっていた……そう認識されてしまうからです。
更に凄いのはこの変化に涼宮さんですら気付かないという事です……
この世界の在り様が変わった事に誰も気付かず誰も疑問に持たない……恐ろしい事だと思いませんか?」
「……………」
「僕はこの世界が好きです。たとえ間違いだらけでも……あなた達もそうだと思いますが………」
「……………」

昼休み、あたしとキョンは屋上で弁当を食べていた。古泉が小演説をブチまけてくれたせいで授業はまるで頭に入らなかった。
お互い無言で弁当を食べていると、
「あの……一緒に食べてもいいですか?」
「朝比奈さん……」

「キョン君、徐倫さん」
珍しく真剣な顔でみくるが話す。まぁ、いつもふざけている訳ではなく、むしろ一生懸命な人ではあるのだが、いつも空回りしてる感じはあるからな……だから真剣って感じるのかもね………。
「何ですか?」
「あんまり……その……古泉君の話に耳を貸さないで欲しいの。あ、別に古泉君が悪い人って言いたいんじゃなくて、
その……機関が………ごめんなさい……上手く言えなくて………」
今にも泣き出しそうだ。まぁ、一生懸命なのはよく伝わってくる。
「わたし達の考えは古泉君達の考えとは少し違うの」
「どう違うんですか?」
「古泉君は涼宮さんに現在を変える力があると解釈しています。ですが、あたし達は涼宮さんの役割は発見だと考えているんです」
………ハ?
「あーその……あたし達未来人や宇宙人、それに超能力者は涼宮さんによって生み出された物ではなくて、もともといたんです。
涼宮さんには、それを見つける力がある……あたし達はそう考えているんです」
「………ハァ……」
「わたしの役割は涼宮さんがわたし達の既定事項……あ、わたし達の未来で起こっている出来事です……をきちんと発見するように、
そして涼宮さんがそれに気付かないようにサポートする事です」
でもそれじゃあ意見が食い違ったグループがハルヒを奪いに来るってのも考えられない?
「もちろん、わたし達の未来ではそういう覇権争いみたいなのがあって、それに勝ち残ったのがわたし達のグループです。
………もちろん他のグループも諦めたわけでは無いですけど」
「当たり前だろ」
「でも最近他のグループの動きが極端に少くなっているのも事実なんです」
「………?」
「ほら……あの……徐倫さんの能力……えーと……」
スタンドよ。
「あ、はい。時々襲ってきてる謎の組織の人達が他のグループを片っ端から潰してまわっているらしいんです……
何処のグループもなす術もなくやられているそうです………」
「じゃあ、俺達はなんで無事なんだ?」
「アホか、あたし達が全員撃退してるからだろ」
「あ、そっか………」
しかし……ハルヒも気になる存在ではあるがそれ以上に気になるのがやはり敵スタンド使いの組織だ。……一体奴等は何なんだ?

みくるが去って数分後、入れ違いに古泉がやってきた。
「先程朝比奈さんと話していらしたようですね?」
「……見てたら分かるだろ」
「朝比奈さんに……そうですね……僕達の言う事を信用するなと言われませんでしたか?」
言われたわね。
「あなた達が僕を信じようが朝比奈さんを信じようと自由ですが……朝比奈さんには特に気を付けて下さいね、キョン」
「………俺がかよ」
「ああいうかわいらしい人に弱いようですからね」
だけど気を付けるって何をよ。
「朝比奈さんは確かに愛くるしいです……しかし、あれが演技だとしたら?」
…………は?
「あれが僕達を騙すための演技かもしれないという事です」
「なんだよ……冗談にしちゃ出来が悪すぎだぜ」
「おや、あなたが看破するとは以外でした。てっきり徐倫さんに見破られると思っていましたから………
今度の文化祭で演劇をするんですが、上手くいくか少し不安ですよ。けれども僕達は彼女の組織と仲が良くないという事は事実です。
“機関”にはタダでさえ敵が多いですからね」
あんた達以外にもハルヒを狙ってる奴がいるっていう事か?
「えぇ、僕達の血みどろの抗争を聞かせてさしあげたいですよ……最近は少し違いますけどね」
……………まさか
「そのまさかです。最初は何故こんな簡単に他の組織が潰されていくのか不思議でしたが、スタンドなどというものを相手にしては僕達や朝比奈さん達の組織では太刀打ちできませんね……
長門さん達なら互角かもしれませんが」
奴等はここでも出て来た。古泉達の組織まで潰して……何がしたいんだ?

放課後、あたしとキョンがたった二人の部室でFーMEGAをして、あたしが10連勝した時だった。
部室のドアを音も無く空け、有希が入ってきた。そして有希はあたし達の心でも読んだのか、いきなり説明を始めた。
「朝比奈みくるの主張はこうだと思われる」
「……………」
「涼宮ハルヒはこの世界における変数、その変数を彼等にとっての正しい数値に調整するのが彼女の役割」
「じゃあ、古泉達の事を悪く言ってたのは何なんだ?」
「朝比奈みくるの理論は古泉一樹の理論とは基盤が異なる。二つの理論は決して相容れない物」
それだと正しい物がサッパリ分からない。古泉はうさん臭いし、みくるは少しぬけてるし……
有希、あんたなら答えを知ってるんじゃないの?すると有希は初めて見せる、そう、伝えたいが伝えるべき言葉が見つからない、そんな表情をした。
(気のせいか、あたしよりキョンに向けられた表情だった気がする)
「たとえ私が真実を伝えたとしてもそれが真実とは限らない」
……………?
「あなた達にとっては」
何とも分かりにくい。ほとんど哲学の世界だ。隣のキョンはどうも思考がフリーズしている。暫く誰も喋らず、動かず、有希は彫刻のようで瞬きすらしていないし、キョンは壊れた電化製品の如くフリーズ、あたしも動き出せず、そのまま永遠に続くかと思ったその時だった。
突然有希がその場に崩れ落ちた。口から血を流している。
「な、長門ッ!」
「敵かッ!」
しかし……一体有希に気付かれずに攻撃とは……何者だ?

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年01月24日 13:20