第52話 「ファントムハウス 1」

「………なあ、なんで俺達は吹雪の中を歩いてんだ?」
「分かりません……しかし長門さんですら道を見失うとは……普通の吹雪ではないのは確実ですね」
ウェザーさえいればな………。
「彼は天気を操れるんでしたね?」
「ああ」
「ならば……こんな風にいきなり吹雪を出す事もないでしょう」
古泉の言葉通り、あたし達はいきなりの吹雪に巻き込まれていた。いつ巻き込まれたのかは分からない。気がついたら吹雪だったのだ。
「ありのまま話すぜ!……って言いたくなるな」
全くだ。
「長門?どうだ?」
「分からない。方向は正しいはず」
ハルヒは元気なものであたし達の先頭をズンズンと、そのすぐ後ろを長門、少し離れてあたし、キョン、古泉だ。突然先頭のハルヒが叫んだ。
「屋敷よ!でかい洋館!」
「洋館?そんなものあるわけないでしょ………あるわね」
あたし達の前にはかなり大きな洋館があった。今迄気付かなかったのがおかしい大きさだ。電気が付いているのか窓から光が漏れている。
「誰かいるんだわ……ここで吹雪を凌がせてもらいましょ!」
「徐倫………」
「絶対に罠だな……おい待てハル………」
だが、時既に遅し、ハルヒが扉を開いてしまいその瞬間吹いてきた突風にあたし達はなだれ込んでしまった。
「………敵スタンドの攻撃か?」
「とにかく警戒する必要がありますね」
「……………」
入ってすぐに吹き抜けの大広間があり、巨大なシャンデリアと真紅の絨毯と階段があたし達を迎えた。
「誰かいますかー?」
ハルヒの呼び掛けに返事は返ってこない。まあ返ってきたらそれはそれで困るが。
「……うーん……聞こえてないのかしら……キョン!行くわよッ!」
「あ、てめぇちょっと待………」
が、嫌がるキョンをハルヒは無理矢理連れていく。
「……徐倫さんはどう見ますか?」
「敵スタンド使い……或いはそれに準ずる奴の仕業だな」
「準ずる?」
「スタンドの仕業にしては少しおかしい、今迄の奴等なら真っ先に攻撃してくる筈だ」
「確かにそうですね……では……その他という事に………」
そうだな……一体誰なのかは見当もつかないが。
「……………」

「……それにしても二人とも遅いですね」
あれから1時間程がたった。二人が帰ってくる気配は一向に無い。
「……少し実験してみましょう……長門さん、今から僕らから見えないところに行って10分たったら戻って来て下さい」
「………分かった」
有希が隣の部屋へと姿を消す。二人で数えていると3分程で有希は戻ってきた。
「………ばかな………」
有希が数え間違える等まず有り得ない。だとすれば……
「この空間の時間の流れがおかしいという事でしょう……場所あるいは個人、両方の可能性もありますがそれぞれに差異があるという事です」
「有希はどう思う?」
が、有希からは沈黙しか返ってこない。不思議に思って有希の顔を見ると心なしか顔色が悪そうに見える。
「大丈夫………」
「みんな!今帰ったわよ!」
「随分遅かったな」
「……ハ?徐倫何言ってんの?30分ぐらいしかたってないわよ」
「………そうか」
「誰もいないし通信機器もなかったわ。それより向こうで食堂見つけたのよ、ここの人には悪いけど腹ごしらえしとかない?」

食堂も予想通り広く、まるでレストランのようなたたずまいだった。料理はハルヒと公正なるジャンケンの結果古泉がする事となった。
「………時間の流れが違うだと?」
「ああ、お前らは30分程のつもりだったようだがこっちは3時間近かった。有希にも数えさせたから間違いない」
「じゃあ……これも敵スタンド使いの………」
「いや、多分違う……スタンドは一人一能力……にしてはやってる事が多いうえに脈絡が無い」
「幻覚を見せる能力とかはどうだ?」
「考えたがスキーの真っ最中で散らばってるあたし達に同時に幻覚を見せるなんて至難の技だ……恐らく………」
「なあ、有希はここをどう思う?」
「……この空間は私に負荷をかける」
………なんだと?一体どういう事だ?
「情報統合思念体との連結が遮断されている。原因解析不能」
有希ですら分からない……ますますもって不可解な場所だ。と、その時厨房からハルヒが到着した。
「ご飯できたわよ!ここの冷蔵庫沢山入ってるから色々やりやすかったわ!」
他人の物を盗んでいるというのにケロッとした顔だ。……きっとハルヒは長生きするんだろう。飯の間喋っているのはハルヒだけで古泉が時折相槌をうつ程度だった。
まあ、こんな状況で明るくある方が無理だ。
「……なあ、徐倫……長門……なんかおかしくないか?」
………確かに。いつも以上にだんまりな上……
「少食だな」
普段は呆れるような食欲だけにこれはあまりにもおかしい。一目で分かる酷さだ。
「何か嫌な感じがするわね………」

ハルヒと有希が風呂に入っている間、あたし達はクリスマス前に起きたハルヒ消失事件を古泉に話していた。
「……なるほどね」
妙な口振りだ。何か知ってるのか?
「涼宮さんと長門さんの力が弱まっている可能性があると言う事です」
……確かにハルヒも落ち着いてきた。有希も少しずつ変わっている。……こいつが有希の事にまで気付くとは意外だったが。
「僕にとっては最高の展開です。涼宮さんの力が無くなれば僕の仕事は終わりですし長門さんが普通の女子校生になってくれたら大助かりです……朝比奈さんはどうとでもなりますね」
「だな……だけど今聞きたいのはそんな事じゃねぇ」
「ええ、この異空間ですね」
それだ。少なくともキョンと有希、みくるが帰れないとあの出来事は起こらないぞ。
「その点については僕にある仮説があります……今の僕達はオリジナルではなくコピーかもしれません」
「は?」
キョンが理解できないという顔をする。
「つまりだな……今のあたし達はRPGのセーブデータみたいなもんだって事か?」
「その通りです、恐らく長門さん以上に強力な力を持つ何者かによる仕業でしょう」
「あたし達はさしずめモルモットって事か………」
「……とにかく、なんとしてもここを脱出しましょう。僕達を閉じ込めておきたいと思うような存在は我々SOS団の明確な敵です」
ああ……もちろんだ。意地でも脱出してやる。

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年11月02日 23:06