第53話 「ファントムハウス 2」

遊ぼうとうるさいハルヒをなんとか言いくるめ、あたし達は隣と向かいで取った5部屋に入って寝る事になった。
あたしがウトウトしていると扉を開けて誰かが入ってくる。咄嗟にベッドから飛び降り、スタンドを出して身構える。
「どしたの?徐倫?そんな身構えて……」
ハルヒか………遊ぼうとでもいうのか?
「なんだ、分かってるなら話早いわ、トランプ?麻雀?それともバックギャモン?ま、あたしが勝つに決ってるけど」
………こんな時に呑気な奴だ。
「今はそういう気分じゃねぇ……また後にしましょ」
「………なんだ、つまんないの。ところで……さっきから徐倫の後ろにいるの誰?」
………なんだと?
「ハルヒ……なんで見えている?」
「へ?な、何?なんかおかしい?」
「……………」
ハルヒはスタンドが見えないはずだ。有り得ない。
「……偽者ならぶん殴っても良いはずだよなぁ!」
スタンドを出し殴りかかる。
「キャッ!な、何すんのよ!」
扉を閉めて出ていったハルヒを追い、扉を殴って開ける。
「オラァッ!」
「グボフッ!」
………吹っ飛んだ扉が出て来た誰かに当たった。見ると全員同時に扉を開けたらしく、皆が困惑した顔を浮かべていた。
「……なあ、なんでみんな出てきたんだ?」
「……顔面に扉ぶつけられた俺の心配は無しか」
「……キョン、あんたさっきまであたしの部屋にいな……かったわよねぇ」
「……………」
「これはこれは」
……待てよ、すると全員………。
「なんか、夢でも見たのか?」
「そうよ徐倫!なんかどっかおかしなキョンが現われて、ぶん殴ってやったら逃げ出して………」
「僕の部屋にも現れましたよ、変なあなたが」
「あたしんところはハルヒだ……絶対にあんたが言わないはずの事言ってた」
「俺は徐倫、お前だ……殺されるかと思ったぞ………長門、お前は誰だ?」
すると有希は、
「あなた」
と、キョンにポツリと呟くと床に突如倒れた。
「有希ッ!?」
ハルヒが真っ先に動き、有希を抱き抱える。
「有希!?……すごい熱……古泉くん、有希をベッドまで運ぶの手伝って、キョンは氷枕、徐倫は濡れタオル……早く!」
ハルヒの大声にあたし達は蜘蛛の子を散らしたように慌てて走り出した。

ハルヒに濡れタオルを渡したあたしはこの館から脱出する術がないか玄関を調べに来ていた。すると古泉とキョンも同じ考えだったらしく、既に玄関に集まっていた。
「ちょうどよかった……二人共これを見て下さい」
玄関の扉に金属のパネルが付いていた。いつの間についたのかは分からないが、数式が書かれている。
              x-y=(D-1)-z
下には答えを入れる為の枠らしきものと床には数字ブロックが3組ある。
「………まさかな」
「そのまさかです、扉に鍵がかかっています」
扉を開けようとするが開かない。スタンドで殴り壊そうとしてみるが壊れない。
「鍵穴も無し、オートロックでも無し、徐倫ですらぶち壊せねぇ………」
「ここが普通の空間で無いのは明白ですね」
するとこれはやはり………。
「あなたの考えている通りでしょう……長門さんが作ってくれた脱出路だと思います」
「長門さんがどういった方法でこれを出してくれたのかは分かりません。しかし先程の奇妙な夢と関係しているのは確かです」
「おい古泉、お前の超能力でなんとかならないのか」
「無理ですね。僕の能力はスタンドとは違うんです……一定状況下でしか使えません……それに徐倫さんが開けれない扉を僕が開けれるとも思えません」
キョンが古泉の胸ぐらを掴む。
「そんな事聞いてんじゃねーよ!」
「落ち着けッ!キョン!今はそんな場合じゃねーだろ!」
と、三人でもめていると、ハルヒがやってきた。
「何やってんの?氷枕遅すぎよ!大体徐倫も看病手伝えば良いのにすぐにどっか行っちゃうし……組み手の練習なら後にしなさいよ」
と、氷枕を拾ったハルヒが数式に目を止める。
「これオイラー?なんでこんなとこにあるの?」
「……ああ、なるほど……見た事があると思ったらオイラーの多面体定理でしたか」
「多分ね、このDが次元数じゃない?」
オイラーってあのケーニヒスベルクの橋問題か?

「その通りです……これが立体にも当てはまる事を証明したのがオイラーです」
と、ここで置いてけぼりを食っていたキョンが口を挟む。
「それってどんな定理なんだ?」
「あらゆる凸型多面体において、その多面体の頂点の数に面の数を足して辺の数を引けば必ず2になるという定理です」
「……………」
「例えば正六面体なら頂点が8、面が6、辺が12です」
「………2だな」
「四角錐なら頂点が5、面が5、辺が8」
「……やっぱり2だな」
キョンが納得できた顔になる。
「ちなみに次元数というのは2の事です、立体なら2、平面図なら1になるます」
例えば……そうだな五芒星なんかどうだ?
「……10、6、15……1だな」
「この式ではxが頂点、yが辺の数、少し分かりにくいですがzが面の数、Dは3か2です」
キョンが希望が見えたと言わんばかりの顔をする。
「……ならこの答えは………」
「無理だ、キョン……肝心の図形が分からない」
すると今迄だんまりを決め込んでいたハルヒが叫んだ。
「そんなのどうでもいいわ!それよりキョン、有希があんたの名前をうわ言で言ってたわよ、キョン、って」
………待てよ、まさか………。なんだか塞ぎ込んだキョンを無視し、あたしはハルヒを問いただす。
「ハルヒ、それ聞き間違いじゃないか?例えば4とか………」
途端にキョンと古泉がハッとする。
「うーん……言われてみればそんな気がするかも……それよりも後でお見舞い来なさいよ!」
そう言うとハルヒは去っていった。

「これで全ての鍵が出そろいました……さっきの夢の説明がつきますね」
「ああ、そうだな」
が、またもやキョンがおいてけぼりをくらう。
「……すまん、説明してくれ」
「先程の夢ですよ、あなたから初めてそれぞれが夢で見た相手に繋いでいくと数字の4の形になるんですよ」
キョンがブツブツと呟きながら考える。
「……本当だ……てことはxが5、yが5、zが1………」
「両辺が0になりますからそれが答えでしょう」
遂にあたし達は答えにたどり着けた。早速数字ブロックをはめようとする。
「……その前に一つだけ言わせて下さい」
「……なんだ」
「今後長門さんが何らかの危機に陥った場合、僕はそれがどれほど機関に不利だろうと1度だけあなた達……ひいては長門さんに味方します」
「………そうか」
ま、それでこそSOS団の一員だな。
「僕にとっても長門さんはかけがえの無い仲間です……それに僕はSOS団の副団長ですから」
「………それじゃ行くぜ」
キョンも古泉も心なしか緊張している。当たり前だ。合っている保証は無いし、今後どうなるかの保証も無い。まさに一発勝負だ。そして数字を入れ、扉を開けた次の瞬間、

一面の銀世界だった。あたし達はそれこそいつの間にか元のスキー場にいた。ハルヒと有希は少し離れた場所にいる。見るとハルヒは有希を背負って走り出した。と、その瞬間、
「………油断はァ禁物ですゥ」
突然銃声がした。突如撃たれたものの、怪我等は無い。
「な、なんだ!?」
するとウェザーの声が聞こえた。
『気をつけろ…敵だッ!』
「……あまりにもタイミングが良すぎます、恐らく先程の異空間の創造主と手を組んでいますね」
「一難去ってまた一難か………」

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年11月02日 23:08