第56話 「ラッシュ」

side of 徐倫
「一難去ってまた一難か……」
ウェザーはどうやら他の敵にかかりきりのようだ。助けは期待出来そうも無い。
あたし達を襲ったのは黒いコートにブーツ、皮帽子を頭にのっけた男だった。身長は180前後、歳は20後半ぐらいに見える。手には猟用のライフル銃を持っている。
「何者だ、てめー」
「柳明堅ともうしまァす……会っていきなりですが死んでもらいましょォ」
「オラァッ!」
ストーンフリーで殴りかかるが、銃でガードされる。なかなか素早い。
「話には聞いていましたがァ、接近戦だと負けますねェ……」
柳が銃を構える。咄嗟に相手の腕を殴り、銃口を別の方向に向けさせる。
「……残念でェす、私の能力がバレてしまいましたァ」
「………何の事だ?」
すぐに答えは分かった。男のライフルから信じられない数の弾丸が発射されたのだ。
「ま、マシンガンかよあれ!?」
「いや、違うぞキョン、あれは恐らくスタンド能力だ………」
だが、あれだけ雨あられと撃ってこられたら流石にどうしようも無い。
「逃げるぞッ!キョン!古泉!スキーは付けたかッ!」
「万全です」
「な、なんとか………」
「行くぞッ!三方向に散らばれッ!」
「させまあ………」
「オラァッ!」
雪玉を投げ付け柳がひるんだ隙に全員逃げ出した。
「逃しはァしませェん」

男が銃を構える。
「来るぞッ!」
次の瞬間、凄まじい勢いで銃から弾丸が発射される。あたしや古泉はS字にカーブを描きながらかわしていったが、キョンだけ少し逃げ遅れ、行き止まりに追い詰められる。
「……マズいです……徐倫さんッ!」
「しゃがめッ!キョン!」
スノボ用に作られたジャンプ台に乗り、男に向けてジャンプする。
「残念ながらァ、今のあなたは的でェす……空中では身動きがとれまァせん」
「それはどうかしら」
柳が銃を構え、キョンを背にした瞬間だった。
「くらえッ!」
キョンがスキーストックで殴りかかる。柳に当たるかと思ったが、気配を感じた柳が銃身で止めた。
「的になったのはお前のほうだな……オラァッ!」
その瞬間、柳が銃の引き金を引いた。弾丸が次々と地面に炸裂し、雪と土が舞い上がる。
「グッ………」
「ウッ………」
視界が開けると柳は5mほど離れた場所にいた。
「意外と素早いじゃないか………」
「銃は間合いが命でェす……距離を詰められた時の為に脚力は強くしていまァす」
「……そうか……スキーははけたか?キョン」
「あ、ああ………」
「逃げるぞッ!」
そう合図し、逃げ出すのと男が撃ってくるのはほぼ同時だった。弾丸が何発か顔をかすめていったが命中はしない。
「こちらです!」
古泉が合図した方には雪の壁があった。これ幸いと滑り込む。

「……どうする」
「まいりましたね、弾丸が大量に出てくるのはやはり……」
「スタンド能力だろうな……実弾なのを見ると弾丸を何らかの方法で銃に送り込んでいるんだろうだが………」
「弾丸を作り出してるんじゃねえのか?」
キョンがきょとんとした顔で口を挟んでくる。
「いくらスタンドでも本物の弾丸を何もなしに作り出すのはまず無理だ」
「それではこういうのはどうでしょう?」
古泉が気障なしぐさをしながら話し始める。
「そこいらにあるであろう鉄分から弾丸を作り出しているというのは」
「……それも考えた、けどそれじゃ装填してる様子が無いのがおかしい」
いくら弾丸を作り出しても銃に装填しないと撃つのは不可能だ。となると………
「弾丸を何らかの方法で銃に送り込んでいるんでしょうね」
多分そうだな。問題は奴がそれを何処に持ってるかだが。
「あいつ割と軽装だしなあ………」
キョンの言葉通り、柳はポケット等が一切無いコートの上、コートの中に何か持っているようでもない。その時、古泉が何かに気付いた。
「マズいです……この雪の壁、崩れてきています」
奴の弾丸で削られたってわけか………。
「……行くぞ古泉、危ないが飛び出す」
「分かりました」
「なら俺も………」
一緒に行こうとするキョンをあたしは静止する。
「あんたには他にやってもらう事があるわ……いい?」

古泉と同時に雪の壁から飛び出す。柳がすかさず銃を乱射してくるが、二手に分かれているせいか狙いがばらついている。
「いけるぞ……このまま時間を稼げば………」
「それは無理でェす……狙いがばらついているのはわざとでェす」
そう柳は呟くと突然見当違いの方向を撃った。
「……………?」
すると次の瞬間、撃った銃弾が地面で跳ね返って飛んできた。
「なッ!?」
スタンドでガードしたのでダメージは無い……が、今のは一体………。
「徐倫さん!そこはさっき奴が撃った場所です!」
「……跳弾かッ!」
「正解でェす……銃弾に銃弾を当てて跳ね返らせましたァ」
柳は次々と引き金を引き、弾を跳ね返らせて攻撃を仕掛けてきた。スタンドでガードしつつかわしていくが、不規則な軌道が読み切れず何発かくらってしまう。
「グッ………」
幸いまだ軽傷だが、余裕が無くなってきているのも事実だ。見ると古泉も似たり寄ったりの状況だ。
「マズいな……キョン、間に合ってくれ………」
その時だった。
「でやッ!」
男にこっそり近付いていたキョンが男の帽子を奪った。すると中から皮袋が落ちてきた。キョンが袋を開け中を地面にぶちまける。
「……どうして帽子に弾丸を入れた袋があると予想したのですかァ?」
「簡単だ……お前、帽子を深く被らないでのっけてるだけだろ、こんな寒いのにおかしいと思ったんだ」
「……………」
「恐らくその袋から弾倉に直接弾丸を送り込んでいるんだろ?」

「……なるほど、正解でェす……しかしあさはかでしたねェ」
「……何がだ」
柳は無言でキョンの頭に銃を突き付ける。
「動かないでくださァい、私の弾倉には1発弾が残っていまァす……動けばあなたのお仲間の頭が吹き飛びますゥよ?」
「お前こそ……ハッタリじゃないのか?」
「……ならば、試してみればいいでェす……お仲間を犠牲にすれば少なくとも私は倒せますよォ」
「……撃ってみろよ」
「なッ!?何言ってんだ徐倫ッ!」
「フフ……いいんですかァ?」
あたしは返事をせずにダッシュで柳へと突っ込む。
「残念でしたァ……弾は入っていまァす」
柳が引き金を引く。が、カチリと音がしただけで何も起こらない。
「なッ!?一体何が……」
「オラァッ!」
ストーンフリーの拳が柳に突き刺さる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「ギツベッ」
柳が吹き飛ばされる。死にはしていないようだが半年はベッドから出られないだろう。
「不発弾でしたか……助かりましたね」
「いや、今のは不発弾じゃあない」
「?……それでは………」
「キョン、よく頑張ってくれたな」
「ああ」
「………?どういう事です?」
「周りを見ろよ、何故かは分からないけど雪が溶けて水になってるじゃない、これを奴の銃にかけて火薬を湿らせたのよ」
「……なるほど……ところで、アナスイやウェザーさんは大丈夫なんですか?」
「分からない……助けに行くぞ」

柳明堅 ラッシュ 再起不能

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年11月02日 23:17