第61話 「‘イカサマ師’がいる! 3」
第4ゲーム
ハ「さっ、速く配ってよ徐倫」
イカサマ師がハルヒ、ウェザー、アナスイの三人に絞られてきた。三人共表情からは何も読み取れない。
ウェザーさんやアナスイはともかく意外なのはハルヒがここまで感情を隠せるという事だった。……いや、と言うよりもしかしたら今の氷のように冷静なのがこいつの本当の姿なのかもしれない。徐倫がカードの交換を始めた。
鶴「んじゃ……2枚」
長「1枚」
み「2枚です………」
「……おーい、キョン、何長考してるんだ?カード何枚交換するか言ってくれない?」
どうやらいつの間にか考えこんでいたようだ。配られた札を見ると既にフラッシュが出来上がっている。
キ「……………変えない」
本当はもっと上の役を目指そうかと思ったが止めた。博打はあまり得意じゃないからな。……待てよ、そういえば俺は最初からかなりいい手が揃っている。
なら、ここらで仕掛けるのも面白いかもしれねぇ………。
キ「いや、コールだ……2000円かける」
俺の高額なコールを受けて鶴屋さん、長門、朝比奈さんは早々に降りた。勝負を諦めてイカサマ師を見つける事に専念するようだ。
ハルヒ、アナスイ、ウェザーさんは降りない。
ハ「そ、じゃ3枚………」
キ「待て」
キ「……ここらでハッキリさせないか?」
ハ「何をよ」
キ「イカサマ師が誰か……だよ」
ア「……………」
「誰か分かったのか?キョン」
キ「いや、サッパリ分からん」
ハ「それじゃあタダの言い掛かりじゃない!」
キ「ただ、誰がイカサマ師じゃないかは……分かってきた……今から俺の推理を話すぜ」
一旦言葉を切り周りの様子を見る。現在最重要容疑者である3人に変化は全く見られない。……少しくらいボロを出すかと思ったんだけどな。
キ「まず朝比奈さんは無い。……さっきからイカサマどころかろくに勝負に出てないしな、
次に長門、これも朝比奈さんと同じ理由で無し……鶴屋さんは少し怪しいけど勝負が消極的過ぎる、本当にイカサマ師ならもっと積極的な攻めをする人だろうしな」
鶴「言ってくれるねィ……けどその推理には一つ穴があるね」
なんだよ。
鶴「もしキョン君がイカサマ師だったら?自分から疑いを外す為にわざと言い出してるかもしれないじゃないか」
キ「確かにある、けど今はこのまま俺の話を聞いてくれ」
憮然とした表情でハルヒが呟く。
ハ「で、その続きは?」
キ「これで容疑者は絞られた……ハルヒ、アナスイ、ウェザーさん……だけどこっから先が分からない……で、だ」
俺はそう言うと突然自分のカードを表にする。
キ「これが俺の今の手札……フラッシュだ。それとイカサマ師が自分の手札をばらすメリットは何もない……俺はイカサマ師じゃないって事が証明された」
ア「……自分の手札見せてどうするんだよ」
キ「今からお前ら三人はカードを交換する……その時俺のカードより強い奴がイカサマ師だ」
ア「何言い出してんだよてめーッ!ただの脅しじゃねーか………」
キ「……ああ、そうかもな。だけど本当のイカサマ師なら交換の際にディーラーに指示して俺のフラッシュより強い役を作るぐらい簡単だろ?」
ハ「イカサマ師がバレるのを恐れて勝負に出なかったらどうするのよ」
キ「……まあ見てなって……どうする?」
ア「……2枚だ」
『3枚チェンジ』
ハ「ちっ……バカキョン、覚悟しなさいよ……2枚」
全員が交換を終え、後は互いに手札を開けるだけになった。
キ「……んじゃ開けろ」
役はアナスイはスリーカード、ウェザーはツーペア、ハルヒはブタだった。
ハ「どう?あんたより強い役無かったじゃない……これで疑いは晴れた?」
キ「ああ……分かったよ……イカサマ師が誰かな」
ア「な………何?」
キ「イカサマ師はてめーだよ………」
そして俺は一人を指差した。
「ハルヒ、てめーがイカサマ師だ」
ハ「何よ……あたしがイカサマ師だって根拠は?」
キ「その役だよ……ハルヒ、なんでブタなんだ?」
ハ「引きが悪かったから……よ」
キ「違うな、多分お前は俺のフラッシュより強い役を始めから持っていたんだ……俺の行動にビビったお前は慌ててブタを作ったんだ」
ハ「………ただの推論じゃない」
キ「まだある、賭け方だ。アナスイは強気に出ているように見えたが違う、ウェザーさんが勝ちを上げたのも違う………」
ア「……………」
キ「アナスイの強気はハッタリだ、大きく賭けて他をビビらせてイカサマ師以外を全部降ろすつもりだったんだろ?」
ア「ああ……だから最初はハルヒがイカサマ師だと思ったんだがウェザーが強気に出てきたから分からなくなった」
キ「そのウェザーさんはいい役がきたから賭ける……だろ?」
『そうだ……適当に賭ければイカサマ師はどれくらいの役か分からない……焦ってでかい役を作らせるつもりだった……まさかあそこまで慎重になる相手とは思いもしなかったがな』
キ「二人共紛らわしいから勘違いしたのかもしれない……こうなったら後は消去法だ、ハルヒ……お前だけなんだよ」
ハ「待ちなさいよ、あたしは単に引きが悪かっただけって言ってるじゃない!」
キ「それとな、お前嘘つく時に指を弄る癖あるだろ」
ハルヒは慌てて指を隠す。
ハ「え……は、ハァッ?そ……そんな癖………」
キ「安心しろ、お前にそんな癖ねぇよ……指を隠したって行動で自分が嘘ついてるってばらしてるけどな」
ハ「………参ったわ、あたしの負けよ……そうよ、あたしがイカサマ師よ」
み「……一体どうやってイカサマしてたんですか?」
ア「俺も聞きてえな」
ハ「簡単よ、徐倫にあらかじめ合言葉を教えてたのよ……フッフーン、ならフォーカード、さっ、ならストレートフラッシュ、ブタは、ちっ、だしファイブカードは、ふうん、よ」
キ「……えらく簡単だな」
ハ「暗号ってのは単純な方がいいのよ」
鶴「だけど意外だねいッ!ハルニャンは自分は楽しむ側でこうやって仕掛ける側に周るなんてしなさそうな気がしてたのにサッ!」
すると徐倫が苦笑いを浮かべて口を開いた。
「実はハルヒにあたしが頼んだのよ……みんな鶴屋さんみたいに考えるだろうから適任だと思ったんだけどな」
ア「しかしハルヒ、てめぇよくOK出したな」
俺はハルヒが憮然とした表情で不満をいい始めるだろうと思い、そちらを見た。するとハルヒは意外にも満面の笑みを浮かべていた。
ハ「あたし、意外とそういうの好きよ。他人の驚く顔を悪くないし」
確かにハルヒは団員への命令も多いが、それ以上に自分で何かをする事も多い。意外な印象だったが案外納得がいく。
「……んじゃ、今回賭けた金は………全部キョン行きだ」
……そうか、すっかり忘れてたがそういうルールがあったんだな。金欠の俺にとっては有り難い。
ハ「あ、そうそうキョン。あんたにはSOS団員と鶴屋さん、森さんにお年玉あげなさい」
キ「ハァ?……なんでんな事………」
ハ「うるさいわねッ!団長命令よ!」
その時、古泉が隣の部屋から顔を出した。
古「おや?終わりましたか?僕の推理ショーも今から始まりますよ」
勝負が終わり、いつもどおりのバカ騒ぎを始めた俺達は徐倫がこっそり長門に耳打ちしたのを見逃してしまった。
「有希……ありがとな……途中で気付いてたのに黙ってくれて」
「………何の事か分からない」
「……またまた………」
二人の話は一切聞いていなかった。ただ、俺は長門が薄く、本当に薄く微笑んだのだけは……見た。
To Be Continued・・・
最終更新:2008年12月25日 17:32