第62話 「ほんの少し不思議な物語」

SOS団の冬休み合宿も終わり、俺達は再び電車に揺られて懐かしい我が家へと向かっていた。
「今回の合宿のMVPは徐倫と古泉君ね!二人共楽しかったわよ」
「それは光栄です」
「ところであのシャミセン2号誰が飼うんだ?」
「僕が飼おうと思っていますが………」
「……そうか」
そんな感じで皆取り留めの無い会話を繰り広げていた平和な時の事だった。
「ねえねえキョン君キョン君」
今迄眠りこけていた妹が目を覚まして俺に話し掛けてきていた。
「……なんだ?」
「あれ何ー?」
妹は電車の外を指差していた。見るとそこには、
「……あー、あれは飛行船だな……しかし今でもあんな物飛んでたんだな」
外には黒い大きな飛行船が浮かんでいた。高度が低いのかわりとはっきり見える。
「宣伝とかで使うらしいぜ」
同じく妹に言われて飛行船に気付いたアナスイが豆知識を披露してくる。……その程度俺でも知ってるけどな。朝比奈さんも言われて気付いたらしく、
「変わってますね……こんな山の中で飛行船飛ばすなんて………」
「たまたまだろ……それよりトランプの続きやらねえか?」

全員でのババ抜きを5ゲームほどして(アナスイは4回負けた)1時間近くたっても飛行船は電車から離れなかった。
「……飛行船って随分速いんですね、電車に並走するなんて」
「飛行している物体は地面との距離が離れているため相対的に遅く見えるから」
長門が朝比奈さんに飛行船の速度について説明しているのを聞いている時だった。

「なあキョン………」
徐倫がこっそりと話し掛けてくる。
「妙じゃないか……あれ」
「確かにそうだな……けど何もしてこねえぞ」
「……そうだけどな」
その時、ウェザーさんが横から口を挟んできた。
『気になるなら俺の能力で打ち落とせるが……どうする?』
やめといて下さい。
『だろうな……中に誰か乗っているかもしれないしな』
様子を見る事になったついでに飛行船をジックリ眺めてみる。フワフワと漆黒の機体が上下しながら飛んでいくのはさながらクラゲのようだ。
「でもなんつうか……落ち着くな、あれ見てると」
「確かにね」
多分いつもハルヒというジェット機に乗せられて乱気流の中を無理矢理飛んでいるような事をしてるせいだろう。なんだか癒しを求めてしまう。
「……なんか本格的にジジむさくなってきたな……俺」
「何がジジむさいのよ」
「ハ……ハルヒッ!?」
いつの間にか俺の横にハルヒがいた。いきなり現れんじゃねぇ、ビビるだろう。
「3人共何見てるのよ?」
「あの飛行船よ、あれ」
言われてハルヒは外を見る。
「ほんとだ、気付かなかったわね」
ハルヒにしては珍しい。誰かに言われないと気付かないなんてな。
「鶴屋さーんッ!飛行船があるわよッ!」
「どれどれィ?……ほんとだねィ!あたしが今迄気付かなかったとは不覚さッ!」
「……………」
横から気配がしたので見ると徐倫が考えこんでいた。気難しい顔してどうしたんだ?

「飛行船かァ……あたしん家はジェットはあるけどさすがに飛行船はねィ……そだ、前スイスに行ったときだけどさッ!」
少し徐倫の事が気になったが、俺は鶴屋さんの話を聞くことにした………。

鶴屋さんの愉快な体験談も終わり、再び暇になった俺は窓の外を見た。
「……まだいるな、あの飛行船」
「ほんと、何なのかしら………」
横でハルヒが呟く。
「……気になってんのか?」
少し意外に感じた俺はハルヒに質問した。
「何よ、悪い?」
「いや……別に」
「でも可哀相よね、あの飛行船」
……可哀相?
「たった一人でプカプカ浮かんでて……仲間ができたらいいのにね」
「……………」
そう語るハルヒの目は飛行船に向けられてこそいるものの、その目は別の何かを見ているようだった。ハルヒが何を伝えたいのかはよく分からない。ただそう言われるとなんだか俺も飛行船が可哀相に見えてきた。
「………なあ、キョン」
今まで黙って考え事をしていた徐倫が話し掛けてくる。
「なんだ?徐倫?」
「あの飛行船……何か分かった気がする」
「………敵なのか?やっぱ」
すると徐倫は黙ってしまった。顔を少しうつむけている。まだ何かに迷っているようだ。
「……早く言えよ」
「ああ……あれはな、存在していて、存在していないんだと思う」
「………ハ?」

「要するに幻だと思ったらいい」
「待てよ、納得いかねぇぞ。確かにあれはあそこにあるだろ」
「……最初にあれを見つけたのは誰だ?」
「……俺の妹だ、多分」
「そうだ。んで、あたし達はキョンの妹に言われてから気がついた」
そういえばそうだったな。だが、それが飛行船が幻だっつー話とどう繋がる。
「……なんであんなでかい物を言われるまで気付かなかったんだ?」
……たまたまだろ。
「あたしの考えでは……あれは誰かに言われてから初めて見えるものなんだと思う」
「……んだそりゃ」
俺が理解できないでいると徐倫は妹を読んで飛行船をいつ見つけたか聞いていた。
「隣の人が話してるのを聞いたー」
「……な?」
「ね……あれは誰かが誰かに教えてもらって……そうやって人から人へと伝わってここに来たのよ」
どうやら徐倫の仮説はかなり正しいようだ。だが、全ての疑問が解けたわけじゃない。俺はやはり電車についてきている飛行船を見て言った。
「で、結局のところあれは何が生み出したんだ」
「さぁね」
「ハァ!?何言ってんだ徐倫?」
「……この世界には確かにあるって事よ、科学で解明できない何かがね」
そう言うと徐倫は話は終わったとばかりに寝始めた。
「……ハルヒが聞いたら泣いて喜びそうな話だな」
だが、俺は言わない事にした。言ったら面倒な事になるのは間違いない。それに、あの飛行船は何故かそっとしといてやらないといけない気がした。独りぼっちのあいつが、一緒に飛んでくれる仲間を見つけるまで………

ちなみに飛行船は気がつくといつの間にか消えていた。多分、今頃別の誰かが見つけているに違いない。

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年12月25日 17:41