第67話 「未来からの第1指令“朝比奈みくるを保護せよ” 1」
「やっぱり日本に生まれたからには日本の伝統行事も大切にしないとね!」
2月3日、突然こんな事を言い出した涼宮は俺と朝比奈、そして長門について来いと命令した。学校を出て向かった先は近くのホームセンターだった。豆と鬼のお面を買うという。
「……仮装パーティーでもすんのか?」
「アナスイ君はアメリカ人だから知らないですよね?節分」
……セツブン?
「簡単に言うと豆をまいて鬼を追い払って福を呼び込む行事よ!」
「ふーん」
後で徐倫に細かい点を聞いとくか。
部室にたどり着くとキョンと古泉、徐倫がいた。ホワイトボードには8の字が二つ組み合わさったような珍妙な図形が描かれている。
「何これ?ベルヌーイ曲線?」
「別になんだっていいだろ……それより豆撒き始めないのか?」
「分かってるわよ……あ、掛け声は福はうちだけだから」
「ハルヒ……それじゃあ節分の意味ないじゃない……鬼を追い出してこその節分だろ?」
「あたしさ……昔、泣いた赤鬼って絵本を読んで鬼がすっごい可哀相だって感じたのよね。それにSOS団は人以外の者にも寛容なのよ!」
……生憎泣いた赤鬼を読んだ事の無い俺にはそれがどれくらい良い話かは分からなかったが、とりあえず涼宮の言う事には一理感じる。鬼だからという理由だけで追い払うのもなんだしな。キョンも同じ思いだったらしく、
「たまには良い事言うじゃねーか」
「たまにって何よ」
豆撒き役は涼宮直々の提案で女組のみが投げる事となった。
「ハルヒにしては良い提案じゃねえか?アナスイ」
「明日は雪だな」
「……今は冬だぞ」
「んじゃ、ハリケーンで」
キョンとそんな他愛無い事を話しながら豆を投げる4人を見る。最初は何事かと様子を見ていた野次馬達は、朝比奈が一生懸命な様子で投げる豆や、長門が手からパラパラと落とすだけの豆を拾い集め始めた。
ちなみに涼宮の投げる散弾銃のような豆は皆避けており、徐倫はというと………
「オラァッ!」
「……なあ、徐倫が投げる豆やたらと速い気がすんだが……つーか当たったら冗談抜きで死ねる速さだぞ?」
実際涼宮の豆は当たってもみな少し痛がる程度だ。だが、徐倫の豆は何人かを昏倒させている。
「スタンドを使ってベアリングしてるな」
「……ベアリング?」
「指で弾を挟んで打ち出すやり方だ……昔の暗殺者とかが使ってた暗器なんかが近いな」
「なるほど……で、肝心なのはなんでそんな事してんだ?」
「さぁ………」
豆撒きが終わると今年の恵方を調べて巻き寿司を食った。無言で食うのがルールの上、全員縦に並んでいるので珍妙な光景にしか見えない。
「………ま、平和が一番……か」
が、数日後。俺は平和とは程遠い状況に巻き込まれることを、まだ知らなかった………。
節分が終わり、数日がたったある日。俺は珍しく長門も朝比奈もいない部室に一人でいた。
「暇だな……帰るかな………ん?」
隅にある掃除ロッカーから物音が聞こえた……気がした。中に誰かいるのか?……いや、まさかな……スタンド使いでもねえ限り………
「待てよ?」
こないだ朝比奈と車に轢かれそうになっていたガキを助けた時に、車の中にいたはずの運転手は消えていた。未来人の技術かとでも思って気にしていなかったが、未来にもスタンド使いはいるのかもしれない。
「………開けるか」
扉に手をかけ、ダイバーダウンを出して身構えてから扉を一気に開ける。が、そこには未来人もスタンド使いもおらず、
「ア……アナスイ君?どうしたんですか?……そんな怖い顔して」
「………朝比奈?」
まさかこんな所で隠れんぼ……な訳ないよな。
「アナスイ君が言ったんじゃないんですか?この時間に飛べって………」
「未来の俺が?」
「はい、そこにいる俺が何すればいいのか知ってるって………」
俺には未来予知のスタンドなんざ無いぞ。何考えてんだ未来の俺は………。と、考えたていた瞬間、誰かがドアを開けようとした。
「隠れて!」
朝比奈に引っ張られ掃除ロッカーの中に入れられる。
「なんだよ朝比奈……くそ、狭いな」
誰かが入ってくる前に間一髪ロッカーを閉める。首をひねって後ろを見ると、
「あ……朝比奈?」
扉を開けて入ってきたのは朝比奈その人だった。双子でもいたのかと思ったが、そっくり過ぎる。……すると今俺とロッカーですし詰めになってる朝比奈は本物か………ん?すし詰め?
「……どうかしましたか?」
……よく考えたらこれすっげーマズい状況じゃないか?朝比奈の胸が俺の腹辺りに当たり、息は常に胸辺りにかかる。……く、くすぐったい上になんか息苦しくてしょうがない。まさに生き地獄だ。
頼む、早く行けェ!朝比奈ァ!(過去)……が、そんな思いとは裏腹に朝比奈(過去)は着替えを始めたようだ。
「見ないで!」
朝比奈(未来)に目を塞がれてますます密着状態になる。
「……落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……2、4、8、16、32………」
「アナスイ君、それ2の階乗です」
そんなあと1分続いたらそれこそ死んでしまいそうな生き地獄は突如ドアが開かれた音によって中断させられた。
「長門さん……?あの、なんで中に入らないんですか?」
朝比奈(過去)の言葉を察するに長門はこちらの危機に気付いてくれたのだろう。ありがたい。
「へ?話があるんですか?……分かりました今行きま……あ、引っ張らないで長門さん………」
長門と朝比奈(過去)が去っていく足音を聞くと俺はロッカーの外へと飛び出た。
「死ぬかと思ったぜ………」
「ふぇ?」
「ところで……これからどうするんですか?」
「相手が長門だったから良かったが……涼宮とかに会うと面倒だな………帰るぞ」
「あ、はい」
人目を少し気にしつつ、ロビーへとやって来る。朝比奈は靴を取ろうとする。
「……お前が今靴を取ったらもう一人のお前はどうすんだ?靴が無くなったんなら話は別だが」
「……無かったです……でもどうやって帰りましょうか………」
俺は無言で適当な棚から靴を出して朝比奈に放ってやる。
「え!?泥棒ですよアナスイ君………」
「後で返しとくよ……ん?なんだこりゃ?」
俺のロッカーを開けるとそこにはかわいらしい封筒に包まれた手紙があった。
「ラブレター……な訳ないよな……俺宛だし開けていいよな」
開けて中を見る。そこにはこれまたかわいらしい文字で、“そこにいる朝比奈みくるをよろしくお願いします”と書いてあった。
「朝比奈……これが何か分かるか?」
「!!……上からの指令書です……多分………」
よく分からないがこいつは未来人からの命令所らしい。
「やれやれだな………」
思わず徐倫やキョンの口癖が口をついて出た。これからどうなるんだろうな……ほんと。
To Be Continued・・・
最終更新:2009年03月06日 15:08