第79話 「未来からの第4指令」
涼宮が突如言い出した不思議探索の土曜の午後。俺は長門に図書館に居るよう頼み、あらかじめ待ち合わせしておいた朝比奈と合流した。
「こ……こんにちは………」
「朝比奈……なんだその格好?」
朝比奈は帽子を深く被り、マスクとグラサンをしたいかにもな怪しい人物になっていた。
「もー……アナスイ君じゃないですか、変装して来いって言ったの」
そういえば言ったな………だが、そういう事じゃない。
「あれは目立たない格好って事だ……そんなんじゃ目立ちすぎるだろ?帽子以外取れ」
「………はい」
が、朝比奈は取ろうとしない。何故かモジモジしている。
「どうした?」
「あ、いえ……何でもないです………」
が、そう言いながらやはり取ろうとしない。仕方ねえ………
「ほれよ」
朝比奈のグラサンを取ってやる。
「ひ、ひゃうッ!」
「わ、悪い……驚かせたか?」
「そ、そそそ、そんな事無いです!むしろ上手くいって嬉し……な、何でも無いです!」
そう早口で喋った朝比奈は慌てた様子でマスクをとった。……なんなんだこれ。気のせいか周りの奴がなんだかニヤニヤしているようだが……うん、多分気のせいだ。考えたら負けだ。
「確か夕方までに指示された橋の植え込みに行けばいいんだったな」
「はい……ちょっと時間ありますけどどうします?ちょっと商店街にでも………」
「あんまり動かない方がいいと思うがな」
「ふぇ?なんでですか?」
朝比奈はキョトンとした様子で首をかしげる。
「涼宮や今の時間のお前に会ったら不都合だからだよ」
「あ、それなら大丈夫ですよ……何処を周っていたかは覚えてますから」
「………ならいいが」
朝比奈の提案により夕方の指定された時間になるまで俺達は商店街でウィンドウショッピングをしていた。あるお茶っ葉を朝比奈は買いたがったが、金を持っていない事に気が付き、諦めていた。
「………ハァ………」
「まだ言ってんのか」
「だって、あのお茶っ葉すごく良かったんですよ………」
「ま、金がねえんじゃ仕方ないだろ……商店街も出たんだし諦めろ」
「……うぅ……でも………」
仕方ねえ、ほんとは黙っておこうと思ったが………。
「しょうがねえな……やるよ」
俺は朝比奈が欲しがっていたお茶っ葉を懐から取り出した。
「え?え?アナスイ君……それ一体………」
「午前に買ったんだよ。お茶切らしてたからな……やるよ」
「で……でも………」
「別にお茶が無くても俺は構わねえからな、遠慮すんな」
「……ありがとうございます!」
指定された花壇に到着した朝比奈は、早速植え込みをあさり始めた。
「……アナスイ君?なんでしないんですか?」
「………いや、なんていうか……恥かしくないか?」
「そうですか?」
朝比奈は平気そうな顔をして答えた。うーむ……普段はどんな小さな事でもかなり恥ずかしがる奴のはずなんだが……よく分からんな。朝比奈一人に任せておくのもなんなので、俺も横に座って手伝い始める。
「……見つかったか?」
「いえ、ありません……そっちはどうですか?」
「いくら探してもねえぞ……ダイバーダウンで中も探ったが無い」
「おかしいですね………」
「未来の上役が間違えたんじゃねえか?」
「そんな事有り得ません!」
いや、上役は未来のお前だから十分有り得るんだよ……とは流石に言えなかった。そんな事を話していたせいだろうか。俺はそいつが後ろに来るまで気がつかなかった。
「下らないな……そんな不確定な物を信じているのか?お前らは」
突如聞こえた声に慌てて振り返る。そこには一人の男がいた。年の頃は20代。イケメンといって差し支えないが、世の中を馬鹿にして見下しているような表情で台無しだ。
何となく、古泉がグレたらこういう感じになるんだろう、そう思った。
「未来に振り回されている気分はどうだ?」
「てめぇ……朝比奈と同じ………」
その時、俺は男が何かを持っている事に気がついた。
「てめぇ、それはなんだ」
「君達が探してた物だよ」
「返しやがれ!……返さねえっつうんならそれなりの考えもあるぜ?」
「返すに決っているさ……こいつは僕達にとっても必要な物だ……ほらよ」
その男はそう言うと手に持っていたメモリースティックを投げてよこした。慌てて朝比奈がキャッチする。その弾みでお茶っ葉入れが懐から転げ落ちた。
「なんだこれ?………ただのお茶っ葉か……ふん、下らないな」
男はそう言ってそれを投げ捨てた。
「しかし君は下らなく感じないのか?未来にいい様に操らタワバッ!」
俺は男が話しているのを遮るようにダイバーダウンで殴った。突然殴られた男は右ストレートがクリーンヒットし、受け身もとれずに無様に倒れた。
「お前……何をする!」
「うるせぇぞ……なんなら今からてめぇを拷問して未来の情報を聞き出してもいいんだが?」
「俺が聞いてるのはそんな事じゃない……何故いきなり殴る」
「お茶っ葉だ」
「………ハ?」
「てめぇ今朝比奈のお茶っ葉を放り投げただろ?そのお礼だ」
「………フン……済まなかったな」
男は嫌そうな顔をしながらお茶っ葉を拾い、口先だけ謝りながら朝比奈に渡した。
「せいぜい足掻いてるんだな………」
男は見事な捨て台詞を吐きつつ、ふらつきながら何処かへ去っていった。
「あれはお前とは別の勢力の未来人か?」
「はい……そうです」
いけ好かない野郎だ。……やっぱもう2、3発殴っとけば良かったな。
「あの……アナスイ君……ありがとうございます」
「………別に」
「フフッ……照れ屋ですね、アナスイ君は」
「………照れてねえよ」
俺はこの時、黄金色の夕日を見ながら、この不思議探索もそう捨てたもんじゃないと、初めて思った。
To Be Continued・・・
最終更新:2009年06月28日 18:45