第80話 「未来からの第5指令 2」
俺は法定速度を完璧に無視した暴走車のボンネットに張り付いていた。
「覚悟しな……ダイバーダウンッ!」
車の中の人物を殴ろうと拳を振り上げる。が、たまたまか狙ってか、突如車が急カーブをした。振り落とされないように必死でしがみつく。
「大丈夫ですかッ!?」
森さんが車から身を乗り出して大声で叫ぶ。
「何とかなあッ!」
体勢を立て直して叫び返す。
「そうですかッ!……少し乱暴をしますッ!しっかり掴まって伏せていて下さいッ!」
「ああッ!」
多分車をぶつけるんだろう。そう思い、ピッタリと体を張り付かせる。が、いつまでたっても衝撃が来ない。疑問に思って後ろを向く。
「……………」
「………鉄球を投げますよッ!」
車から身を乗り出した森さんは、黒いスーツを着た普通のOLに見えた。腰にホルスターを付け、そこに入った鉄球を投げようとしている点以外は。
「先に言えェ!」
「………注文がいちいち多いですねえ」
「当たり前だッ!車ぶつけるのかと思ってたんだよッ!色々と準備が変わるんだッ!」
「それじゃ鉄球投げるから準備して下さいッ!それッ!」
「早いわあッ!」
森さんが投げた鉄球は、車のタイヤ目掛けて飛んできた。が、車はまるで鉄球が見えているかのように急カーブをしてかわした。
「妙だな………」
俺のパンチといい、森さんの鉄球といい、軽々とかわされる。何らかの手段でこちらの攻撃を察知しているのかもしれない。……反撃してこないのが不気味だが。
「ぶつけますッ!」
今度こそ正真正銘、森さんの車がぶつかってきた。が、敵もなかなかのドライビングテクニックの持ち主らしく、前輪をロックし、ドリフトで体当たりをかわす。
「うぐっ………」
急なドリフトに振り落とされかけるが、ダイバーダウンを潜行させ、なんとか体勢を立て直す。
「やるじゃねえか………」
再び、森さんの車が並走し、激しく車体をぶつけてきた。車を横から押しつけた為、互いに押し合う形になった。
「パワーは互角ってとこか………」
均衡は崩れそうに無い。が、押し合いの結果、車体が安定し始めた。今ならパンチを叩き込めそうだ。
「ダイバーダウンッ!」
先程のように妨害は入らない。このまま中の運転手をノックアウトと思った瞬間、車体から手が突出してきた。
「クソッ!スタンド使いがいやがったかッ!」
パンチはスタンドの手によって弾かれる。それと同時に乗っていた車が森さんの車を弾き返した。俺は車体の揺れでバランスを崩して足を踏み外してしまう。ダイバーダウンも間に合いそうに無い。
「しまった………」
「アナスイさんッ!」
森さんが車から身を乗り出し、再び鉄球を構える。
「少し痛いですが我慢して下さいッ!」
そう言った森さんは俺に鉄球を投げ付けた。投げた鉄球は俺の体を巻き込んで、硬くし始めた。
「硬質化させてダメージを和らげますッ!………まあ衝撃までは無理ですけど」
森さんの言葉通り、道路に叩き付けられると凄まじい激痛が体に走った。骨は折れずにすんだみたいだが。なんとか体勢を立て直し、森さんの車に飛び乗る。
「大丈夫ですか?」
「全身凄まじく痛てえが怪我は無い」
「なら良かったです……あ、鉄球返して下さい」
「ほらよ」
森さんに渡そうと車の中を覗きこむ。すると運転席には、
「新川さん?」
「お久し振りです」
ロマンス オブ グレーという言葉がこれ以上なく似合う老執事は現在渋いタクシー運転手となっていた。
「そういえば二人共普段は何してんだ?」
「見ての通り、しがないOLとタクシー運転手ですよ」
「OLは鉄球なんか投げねえよ」
「御二人とも、前を見て下さい」
新川さんの言葉で前を向く。すると今迄見事な走りをしていた敵の車がガードレールに突っ込んで止まっていた。
「マヌケだな………」
「あんな猛スピードで急カーブに突っ込んだらF1レーサーでもああなりますよ」
車のボンネットから飛び降りると森さんも扉を開けて車を降りた。
「車の中にいるあなた達……出てきなさい」
声の調子や態度こそ変わらないが、森さんからは凄まじい殺気が放たれている。
ある程度場数を踏んでる俺でもちょっとひるむくらいだ。
「怖じ気付きましたか?」
「まさか」
森さんの殺気が伝わったのかは分からないが、運転席と助手席から人が降りてくる。助手席から降りてきたのは、
「てめぇ……あん時のいけ好かねえ未来人………」
「酷い呼び方だな……名前を教えるつもりは無いがな」
返事は無視して運転席から降りてきた奴の方を見る。
「女………?」
しかも年は俺達と対して差が無いように見える。茶色い髪を短いショートカットに整えている。
「こんなはずじゃあ無かったのにね……あんた達が協力的じゃ無いからよ」
女は俺達には目もくれず、横の未来人を睨んで文句を言い始めた。
「知るか……大体俺はこんな下らん事は止めておけと言ったはずだ」
「いいえ……彼等に私達の存在を誇示する事はできたわよ」
「……するとなんだ?てめぇらは失敗するって見当がついていたのに自己紹介の為にこんな事をしたっていうのか?」
女はそこで初めて俺に気がついたと言わんばかりの表情を浮かべた。追い詰められている人間とは思えないふてぶてしい態度だ。
「初めましてかしら?あなた達とは」
「……てめえはなんだ?未来人か?宇宙人か?それとも超能力者か?」
「それは今言う必要は無いわね」
「それでは……彼女、朝比奈みくるさんは?」
森さんが妖艶な笑顔で聞く。とびきりの微笑みだが、場慣れした筈の俺ですら背筋が凍りそうな恐ろしい笑みだ。
「無事よ。麻酔で眠ってもらってるだけだから」
が、女はそんな森さんを気にも止めずに話を続ける。よほどの無神経か、こういうのに慣れているかのどっちかだろう。
「さっきも言ったけど今回は顔見せ、彼女は返すわ。それじゃ、バイバ………」
「待ちやがれ」
「何よ?」
歩いて立ち去ろうとした女は嫌そうな顔で振り返る。
「悪いがてめえからは聞かなきゃならねえ事が山程ある……なあ?森さん」
「……拷問ですか?あんまり好きではないんですが………」
「馬鹿言うなよ。あんたらに俺達が捕まえられるのか?」
未来人が口を挟む。
「できると思うが?」
「何をッ………!」
「止めときなぁ」
女が拳を握りしめ、こちらに突進しようとした瞬間、後部座席の窓から一人の男が女の肩を掴んだ。
「スタンド使いにただの人間が素手で挑むなんざ、戦車にナイフで挑むようなもんだぜェ………」
「ぐ………」
「ピザはピザ屋……スタンド使いはスタンド使いだ」
「てめえさっきのスタンドの本体か………降りてきな」
「言われなくても今から行くぜえ」
To Be Continued・・・
最終更新:2009年06月28日 18:50