第82話 「ザ・ミュージックとハート 1」

「かかってきな………」
車の後部座席から男が降りてきた。短く刈り込まれた黒い髪は所々にラインがあり、後ろ髪は首のあたりから細く長くまとめられている。服装は高級そうなワイシャツとジーンズというよく分からない組み合わせだった。
「ふん………」
「行くぜッ!ダイバーダウンッ!」
右のストレートを繰り出す。が、かわされる。俺はかわされたのを気にせず、返す刀で裏拳で殴る。しかしこれもかわされた。
「随分と速いじゃねーか……スタンドのスピードにくらいつく野郎なんざ初めて見たぜ」
「フン………」
続いて左の手刀。やはり紙一重で見切られる。が、これの狙いは攻撃では無い。次を繰り出すと見せかけ、突然しゃがむ。すると俺の頭がさっきまであった場所から鉄球が飛んできた。
「アナスイさんに気を引かせてその隙に鉄球で攻撃する……これはかわせませんよ?」
が、男はまるでそうしてくるのが分かっていたとでもいわんばかりにかわす。
「なっ!?」
俺と森さんが驚いて止まった隙を見逃さず、男は一気に距離を詰め、俺に鋭いローキックを入れる。
「グウッ………」
スタンドでガードし、直撃は避けたものの、体勢が崩れていたせいで大きく吹き飛ばされる。

「ちいッ!」
やはり妙だ。手刀はともかく、俺を壁にして放った鉄球まで防がれるなど、あまりにも出来過ぎている。
「彼のスタンド能力ですか?」
「今んとこ奴がスタンドを出した様子は無い」
「それでは単に読まれただけでしょうか?」
「スタンドの中には姿形を持たずに能力だけを持つ奴もいる……その手の類かもな」
「………分かりました。少し下がっていて下さい」
森さんは俺を下がらせると二つの鉄球をホルスターから取り出した。
「スタンド能力ではありませんが……私達の鉄球にも個性があるんですよ」
「………どんなだ?」
「能力です。左半身失調、衛星、黄金比を使った黄金の回転……そうそう、馬の鐙を使う回転なんてのもありましたね……1000年近い長い歴史の中でも今迄一人しか成し得ていない回転だそうですが」
「………森さんのは?」
「見ていれば分かりますよ……ハァッ!」
森さんは両手の鉄球を同時に投げる。しかしまたしても男にかわされた。
「どうした?それがお前の技術か?」
「いえいえ……違いますよ」
「負け惜しみかな?クラエッ!」
男は一気に距離を詰めて来る。
「森さんッ!」
「助けはいりませんよ、アナスイさん……それよりも前に出ないで下さい」
「は?」
俺が呟いた瞬間、鉄球が隣りの崖に当たり、同時に崖が崩れ落ちて岩が男に降り注いだ。

「私の家系は音楽家でした。そんな私達の先祖が鉄球に取り入れようとした物……もう分かりますね?」
「音か………」
「ザ・ミュージックと呼ばれています。私の鉄球、一切模様が無くて滑らかなんですよ」
言われてみればそうだ。にしてもネーミング安直だな。
「これは音を発生させ、それを伝えるためです。今私は二つの鉄球であの崖にある音波……つまり周波数を伝えました」
「その程度で崖が崩れんのか?それに音なんて聞こえなかったぞ」
「音は聞こえる物だけではありませんよ、超音波だって音です。崖が崩れたのは
共鳴現象です。物には共鳴する周波数が存在します……共鳴が起こると僅かな衝
撃が何倍にも強くなるんですよ」
なるほど……だから鉄球が当たっただけで崖が崩れたのか。
「その通りです」
「なるほど……そういうカラクリだったとはな」
「なッ!?」
声のした方を向くと岩の下敷きになった筈の男が立っていた。
「今のはかわせなかった筈……なのに何故………」
見ると当たりの岩が幾つか小さく砕かれている。
「スタンドで砕いたか………」
「フン………」
「ダイバーダウンッ!」
右のフックを繰り出す。しかし、突然何かにボディをカウンターで打ち抜かれ、
俺は吹っ飛んだ。
「ハァッ!」
森さんが手元に戻ってきた鉄球を投げ付ける。が、これはかわされた。
「大丈夫ですか?アナスイさん」
起き上がった俺は森さんの横へと戻る。
「なんとかな」

「しかし……今何が?スタンドに攻撃されましたか?」
「分からん。いきなり何かに殴られた……攻撃の時も姿が見えねえスタンドなんて初めてだ」
「妙ですね………」
「何かカラクリがある筈だ………」
と、そこで俺は車の近くにいる謎の女に気がついた。横にはいけ好かない未来人もいる。………逃げたと思ったんだがな。
「やるじゃない、あなた」
「……………」
「それだけの実力があるならもっと協力しなさいよ」
「手は結ぶと言ったが、なにも手伝うとは言ってないぞ」
「フン……どいつもこいつも愚かだな」
相変わらず仲の悪い連中だ。なんで同盟なんか組んだのか不思議だな。
「ダイバーダウンッ!」
再び男へと襲いかかる。
「無駄だな……真正面からでは何も変わらないぞ」
「そいつはどうかな?」
そう言うと俺は足元の石を拾い、斜め上に投げると同時に男に左足のハイキックを叩き込む。
「………なるほど、そういう事か」
「………?」
ハイキックが当たる瞬間、男の頭上に迫った石から潜行させておいたダイバーダウンの腕が男を同時に襲う……筈だった。
「なッ!?石が弾かれたッ!?」
スタンドに弾かれたのならまだ分かるが、まるで見えない壁に当たったかのような弾かれ方だ。放ったハイキックもかわされる。
「一体どうなってやがる………」
「フン………」

To Be Continued・・・

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年06月28日 18:51