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術伝流一本鍼no.20 - (2020/03/07 (土) 12:55:23) のソース

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&color(green){術伝流一本鍼no.20 (術伝流・先急の一本鍼・内科系編(2))}
&bold(){&size(24){&color(green){表位の急性期、概要}}}
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#contents

*(1)はじめに
 先回は、内科系急性期の1回目で大雑把なことを説明しまし
た。今回から、より詳しく、表位、上焦、中焦、下焦に分けて
説明していきます。また、刺鍼法や施灸法についても細かく説
明していきます。

**表位の急性病症でのツボは、手首から先に出やすい
 急性症状のツボが、手首足首から先に出やすいというのは、
運動器系の場合と同じです。

 表位の場合は、手甲と手指甲側にツボが出ています。

 鍼では手甲のツボを使います。手指への鍼は痛がられること
が多いためです。

 灸では、手指の甲側を使います。手甲よりも皮膚が破れるこ
とが圧倒的に少ないからです。

 カゼなどで、上焦にも症状が出ている場合は、手陰経のツボ
も使います。その場合には、手平は痛がられることが多いので、
前腕の手首近くのツボ(列缺、内関、陰郄)を使います。

 「表位のみの症状では無く、上焦に症状が出ている」という
状態は、現代医学的には「上気道だけの症状では無く、下気道
はじめ関節痛など全身に症状が出ていると考えれば良いように
思います。

*(2)体の横輪切り分類
 鍼灸の世界では、経絡という形で、体を、立ち姿勢で縦割り
に分類してみることが多いです。比較すると、漢方の世界では、
立ち姿勢で横割りに分類する方が多くなります。鍼灸の世界で
言うと、臓腑論や兪募穴などに見られる体の分類の仕方です。

 内科系を鍼灸で治療していく場合には、運動器系よりも、漢
方に近い見方、つまり、体を立ち姿勢で横輪切りに見る見方も
取り入れた方が分かりやすいことが多くなります。

 具体的にいうと、体を以下の4つに分けます。

1.表位:肩甲骨・鎖骨から上

2.上焦:1.の下で横隔膜より上
    (頭首の内部も含めることもある)

3.中焦:2.の下でヘソより上

4.下焦:3.の下側の胴体部分

 細かく書くと、表位というのは、「表」という字が付いてい
る位で、肩甲骨・鎖骨から上でも、表面に近い部分を指します。

 こういう横切り分類と経絡の縦切り分類を組み合わせていく
ことで、内科系の病変が理解しやすくなります。

 特に、表位の場合は、陽明経と少陽経のものが多く、それに
太陽経が加わります。体の前側に主に症状の出る場合と、体の
横側に主に症状が出ることが多いということです。

*(3)表位の内科系急性症状
 内科系の急性症状は、病を未病と発作に分けた場合には、発
作に分類される現象です。先回も書いたように、基本的に、腹
の邪毒・虚から頭に向かって邪気が衝き上げる「上衝」という
現象が見られます(図1)。

 この様子は、ドブロクを作り冷蔵庫で保管した後に、温かい
所にしばらく出しておいてから栓を抜いたときの様子に、よく
似ています。

&ref(doburoku-hyoui.jpg)図1 

 ですから、頭に行く邪気を少なくすること、邪気に頭を衝か
せないように体の外に引き出し、それに因って上衝を鎮(しず)
めることが基本的な処置になります。

 上焦、中焦、下焦に歪みが少ないときには、邪気はそのまま
表位に昇り表位の急性症状を引き起こします。

 上焦、中焦、下焦いずれかに、歪み、邪毒があるときには、
歪みの有る所で急性症状を引き起こす(図2)ので、表位の症
状は(その分だけ)軽くなることが多いです。逆に言えば、表
位の症状が目立つときには、上焦、中焦、下焦の歪みは比較的
少ないことが多くなります。

&ref(naikakei-kyuusei2.jpg)図2

 表位の急性症状の特徴は、すでに頭に邪気が上がっているの
で、顔や頭はじめ、肩甲骨・鎖骨から上の表位に、熱や痛みを
始めとする色々な症状が出ていることです。

**1.表位陽明経の急性症状
 邪気が陽明経を衝き上げれば、体の前側の症状が出ます。

 前側の症状の例は、ニキビ、モノモライ、前頭部痛、カゼの
初期の前頭部発熱、真夏の老人の譫語(せんご)、疳の虫、口
唇ヘルペスなどです。

 邪気が陽明を衝き上げるときは、体の左右差が余り無いこと
が多いです。

 この場合の慢性期の養生は、腹の邪毒、歪み、虚と、下半身
の冷えのを少なくすることです。

**2.表位少陽経の急性症状
 邪気が少陽経を衝き上げれば、体の横側の症状が出ます。 

 横側の症状の例は、目眩(めまい)、耳鳴り、突発性難聴な
どです。聴覚に関係する耳や、体の平衡に関係する三半規管が、
体の横側にあることに由来すると思われます。

>「小陽の病たる、口苦く、ノド乾き、目眩(くるめ)くなり」
                       (傷寒論)

 邪気が少陽を衝き上げるときは、体の左右差が大きい場合が
多いです。体の左右差が大きいため、邪気が真っ直ぐ上に向か
わず、横にズレて上衝することになり、その結果として少陽経
病症になるようです。

 言い換えれば、体の左右の歪みが大きいので、上焦した邪気
に左右差の歪みが影響されて、少陽経の症状が出やすいという
ことかなと思います。

 そのため、この場合は、応急処置で治まっても、体の左右差
を少なくしないと、再発することが多くなります。ですから、
慢性期の養生では、陽明経病症のときにした、腹の邪毒、歪み、
虚や下半身の冷えの改善に加えて、 左右差の改善を試みます。

**3.表位太陽経の急性症状
 典型例は、葛根湯証系のように首や肩が強張(こわば)るカ
ゼの、初期のものです。

 この場合は、その表位後側の筋の過緊張によって、上衝を治
めにくくなっています。そのため、上衝を下ろす以外に、表位
後側の筋の過緊張を弛める必要があります。

 ただし、カゼも咳も出るようになると、表位だけではなく上
焦の症状も混じってくるので、上焦の症状への対処も必要にな
ります。

*(4)診察で経絡病症を区別するには
 表位の急性症状の診察で、先ず見たいのは、どの経絡を、邪
気が衝き上げているかです。その目安になるのは、主に3つ、
症状、頭の熱さ、八邪の厚みです。

 症状は、(3)に書いたことを参考にしてください。

 頭の熱さは、先回も書きましたように、頭のハチマキをする
辺りの熱さを比べます。先ずは左右、次にその中で前横後ろを
比較します(図3、写真1)。

&ref(atama-keiraku3.jpg)図3

&ref(DSCF1432.jpg)写真1

 八邪というのは、手の指の根元の水掻き状の部分のことです。
関係する経絡に異常があると、その部分の筋肉が、他よりも厚
くなります。この部分の筋肉が、機能性病変を起こし、過緊張
状態になっているためです。

 拇指と示指で挟んで厚みや圧痛を調べます(写真2)。

&ref(DSCF1228.jpg)写真2

 手を開いたときに指と指の感覚が狭かったり(写真3)、井
穴を押して異常を感じたり(写真4)、指を反らせてピリピリ
ビリビリする感じがしたり(写真5)などでも判断できます。

&ref(DSCF0924.jpg)写真3

&ref(DSCF0926.jpg)写真4

&ref(DSCF0925.jpg)写真5

 この辺りは、運動器編の「手足甲のツボで運動鍼」で詳しく
書きましたので、見直しておいてください。

 この3つ、症状、頭の熱さ、指の異常が一致していればよい
(写真6)のですが、一致していないときには、理由を考える
ようにしてください。

&ref(DSCF1405.jpg)写真6

 私は、基本的に、体の自然の状態を重視するという立場に立っ
ています。そのため、3つが一致していないときには、指への
刺鍼では、指の状態を一番重視し、頭への散鍼では頭の状態を
一番重視します。

 患者さんが訴える症状、あるいは、鍼灸師がその時に目標に
している症状とは、別の症状や歪みが関係して、その症状の状
態と少し違う所にツボが出ていることは、よく有ります。その
ため、指の状態を中心にして刺鍼施灸する所を決めても、目標
にしている症状が消えることが多いです。

 まぁ、どうしても症状が消えない場合には、症状に合わせて、
刺鍼施灸する所を選ぶこともありますが。

 また、カゼの初期などは、陽明と太陽の両方に異常がある場
合も多いです。特に、葛根湯証系のカゼの場合には、項(うな
じ)に手平を入れて確かめても汗ばんでいないことが多く、肩
首はじめ、表位の後側の凝り、つまり、太陽経の異常と見るこ
とができます。

 いずれにしろ、1番目と2番目に異常な感じの経絡を選びま
す。1番目の経絡に出ているツボへの刺鍼施灸から施術を始め
ます。

*(5)表位は、陽経病症が多くなる 
 表位は、体の中では、陽位ですし、体の横輪切り4分類の中
では、上にあるので、他の3つ、つまり、上焦、中焦、下焦よ
りも、陽位の要素が強くなります。

 そこで、以下のように、手足陰経に引くことを省略すること
が多くなるというか、しなくてもよい場合が多いです。繰り返
しになりますが、陰経というのは、体の内側、つまり陰位に関
係した経絡ですから。

1.診察

2.準備:上衝をおさめる
  (1) 手甲に引く

(3.手足に引く)
(  (1) 手足陰経に引く)
(  (2) 必要があれば、陽経にも引く)

4.陽に引く
  (1) 熱かったら散鍼
  (2) 陽側に出ているツボに引く

5.後始末:上衝をおさめる
  (1) 頭の散鍼
  (2) 手甲に引く

 先に書いたように、準備では、診察で一番異常を感じた経絡
のツボを選んで施術をはじめ、後始末では二番目に異常を感じ
た経絡のツボを選んで施術ということが多いです。

 ただし、後始末のときに、指を調べて、診察のときと様子が
異なっていたら、後始末の時に観察した状態の方を重視し、そ
のとき異常な経絡のツボを選んで施術します。

 また、3.(1)の「手足陰経に引く」で、もし使うとすれば、列
缺だと思います。

>「頭項は列缺に尋ね」

 列缺の使い方や、その後に必要ならばする3.(2)の「陽経に
引く」の使い方については、列缺を使うことの多い上焦の病の
ときに説明します。というのも、列缺を使う必要があるなら、
表位のみの症状というよりも、上焦の症状も少し混じった状態
と考えた方が良いと思うからです。

 例えば、カゼの初期と思って、手甲手指に刺鍼施灸しても症
状が治まらず、列缺に刺鍼したら症状が軽くなった場合には、
もう既に上焦にもカゼの症状が及んでいる状態と考え、施術を
した方が良いと思います。

*(6)手陽末端で軽減したら終えてもよい 
 そういうわけで、表位の症例で、初期の場合や、軽い場合に
は、手甲や指のツボの施術だけで、症状が消えてしまうことが
結構多いです。

 そうした場合、私は、それ以上の施術はせずに様子を見ます。
軽くなったのに、手陰経などに施術すると、症状が再発するこ
とも有るからです。

 治まらなかったら、それ以降もしてみるという感じで、ご理
解いただければよいなと思っています。

 また、少し丁寧にするなら

1.診察

2.準備:手甲手指のツボに引く

3.陽位:陽位の熱いところに散鍼

4.始末:頭の散鍼
     手甲手指のツボに引く

ということも多いです。

 この辺りは、患者さんによって、あるいは、同じ患者さんで
も時と場合によって、また、施術者の得手不得手や熟練度によっ
ても異なってきますので、経験を積んで、判断力を磨いていっ
てください。

 次回は、表位の陽明経病症を中心に、カゼの初期など、それ
に太陽経病症が少し混じったものも書きます。次々回に表位の
少陽経病症について書いていきます。


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いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役
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 くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。

 よろしくお願いします。

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