734 :支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 20:23:30.06 ID:OQO1NHFH0 「先輩、明日って予定空いてますか?」 唯先輩にそんな電話をしたのはついさっき。 『うん? 空いてるけど、それがどうかしたの?』 どうしてこんな勇気が湧いてきたのかは分からない。 もしかしたら海の日というちょっとしたイベントのせいなのかもしれない。 ――先輩を、デートに誘うんだ……っ! 「えっと……海に行こうかと、思ってるんですが」 『海? いいね~』 勇気を振り絞って誘ってみると、意外とすんなり誘いに乗ってくれた。 ……と、安心したのも束の間。 『それで、他には誰を誘うの?』 「えっと、その……」 唯先輩はこれがデートのお誘いだということに気がついていなかった……。 しょうがないか、鈍感なんだし。 もう一度、勇気を振り絞って言わなきゃ気づかないよ。 「その、できれば、唯先輩と二人っきりで行きたいんですけど……」 『えっ?』 750:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 20:37:02.52 ID:OQO1NHFH0 「どんな水着を着ていこう……」 そんなわけで、私は今とても悩んでいる。 「まさか、唯先輩がOKしてくれるなんて……」 すっごくうれしい。 だから、恥ずかしくないようにかわいい水着を選んでるんだけど―― 「どんなのがいいのか、わからない……」 唯先輩のセンスは独特だから、どんなのがかわいいと思ってくれるのかわからないや……。 どうしよう……憂に聞いても、 『梓ちゃんが自分で選んだほうがいいよ。そのほうがお姉ちゃんもきっと嬉しいもん』 だとかなんとか、答えになってない答えではぐらかされてしまった。 「でも――」 自分で選んだもの、かぁ……。 どういう意味なのかな。私がかわいいと思ったものでいいってこと? ――悩んでてもしょうがないや。 「よし、これにしようっ」 明日は頼みますよ! 754 :海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 20:45:33.76 ID:OQO1NHFH0 翌日。 服もとびっきりかわいいのを選んで待ち合わせ場所に行く。 ――先輩、もう来てるかな。 結論から言うと、それは幻想だった。 唯先輩は、約束の時間を30分ぐらい過ぎた頃に息を切らせてやってきた。 「ごめ~ん! あずにゃん待った~?」 ばたばた。 「遅いですよ、まったく……」 どうしても声に不機嫌さが滲み出てしまう。 ……ほっとした雰囲気も出てしまっていたかもしれない。 せっかくデートに誘えたのに、来なかったらどうしようとか考えていたからかもしれない。 唯先輩は約束を守る人なのに。 そんなことを考えていると、 「ほんとにごめんね~」 ぎゅっと抱きしめられた。 当然、私はびっくりしてしまう。 「わわわ、先輩、何するんですか急に」 「ちょっとしたお詫びだよ~」 なでなで。 頭を優しく撫でられる。 「ふにゃぁ~」 すごく気持ちいい。 758:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 20:52:37.86 ID:OQO1NHFH0 「よ~しよし」 なでなで。 気持ちい―― 「――ってそうじゃないでしょう!」 うがーっ。 恥ずかしさを隠すためにちょっとだけ強く言ってみる。 「わわわ、どうしたのあずにゃん?」 唯先輩はびっくりしているみたい。 ……とりあえず、ごまかせたかな? 「遅れてきてなんですかその態度は! へらへらしすぎですよ!」 「ううぅ……ごめんなさい」 しゅん。 「どれだけ私が不安になったと思って――あ」 やってしまった。 「やっぱり不安だったんだね、あずにゃ~ん」 なでなで。 「ちちち違いますよ!? 今のは口が滑っただけで――あ」 ……またやってしまったっ。 「やっぱり! 不安だったんだね~?」 なでなで。 恥ずかしい。 「ううううううぅ……。は、早く行きますよ!」 「あ、待ってよあずにゃ~ん!」 頬の火照りを冷ますために、速く進む。 ……先輩に今の顔を見せると間違いなくいじられるだろうし。 764:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 21:00:04.14 ID:OQO1NHFH0 「――着きました」 道中で頬の火照りは冷めて、無事海にまで辿り着けた。 「――うみだー!」 わーっ。 子供のようにはしゃいでる唯先輩……かわいいな。 「さすがに、貸し切りはできませんでしたけど」 「いいよいいよ~! むしろみんなで遊べるから楽しいもんっ!」 ……あれ? 先輩、もしかして……。 「みんなで、ですか……」 私とデートだって気付いてない……? 769:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 21:08:11.39 ID:OQO1NHFH0 「いっくよ~?」 「こ~いっ!」 唯先輩は、私のことを放って途中で捕まえた小学生ぐらいの姉妹とビーチバレーをして遊んでいる。 「あ、ずる~い」 「ずるくないよ~」 「えへへ~」 ……唯先輩、楽しそうだなぁ。 「ちょっと抜けるね~」 「うん~」 ……先輩がこっちにきたけど……。 773 :支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 21:14:12.75 ID:OQO1NHFH0 「あずにゃん、どうしたの?」 「何が、ですか」 「何がって……」 先輩には何を言っても伝わらない……。 そう思うと、自然と涙が出てきてしまう。 「あずにゃん……? どうしたの? どこか痛いの?」 おろおろ。 先輩が困ってるのは影の動きで解った。 だから―― 「別に、身体がどうかしてるわけじゃ、ありません」 ――とりあえず安心してもらう。 「だけど……」 「うん?」 これは、言ってもいいのか迷う……。 でも、たぶん唯先輩には解らないから言っても大丈夫……? 「あ、あずにゃ――」 「心のほうが、どうにかしているかもしれません」 先輩の声に被せるように、言えた。 伝わったらそれでいいし、伝わってなくても別に大丈夫。 「それは――」 「やっぱり何でもありません。さ、早く戻りましょう」 「あ、待ってよあずにゃ~ん!」 ……やっぱり伝わらなかったな……。 791:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 21:28:52.99 ID:OQO1NHFH0 「楽しかったよ~!」 「またね~!」 「ばいば~い!」 「では、さようなら」 その後、もう一度あの姉妹ちゃんたちと遊んだ。 今度は私も楽しめた。 「先輩、そろそろお昼にしましょう」 「そだね~」 そろそろ先輩のおなかが空く頃だろうし。 「どこで食べますか?」 「やっぱり海の家だよ~」 せっかく海に来たんだし、それでいいか。 「わかりました、ではそれで」 「れっつごーっ!」 795:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/23(木) 21:31:47.29 ID:OQO1NHFH0 「先輩、よくそんなに食べますね……」 「え~? そうかなぁ?」 3人前も食べられる胃袋……。 「そうですよ! 普通の女子高生は1人前でもいっぱいいっぱいなんですよ!?」 「それもどうかと思うけど……」 唯先輩の感覚が理解できない……。 「あずにゃん、あ~ん」 そんなことを考えていると、唯先輩がスプーンをこっちに向けてきた。 「あ~ん――って何やってるんですか!」 「いいからいいから~」 ぱくっ。 「もきゅもきゅ……あ、おいしい」 「でっしょ~?」 ぱくぱく。 「あ~ん……そんなに食べたら私の分が無くなっちゃうよぉ~」 ぴたっ。 「あ――ああああああ!!!!? 何やってくれてるんですかあああああ!!!!!!!」 絶叫。 それはもうこれからの生活を考えての大声を出した。 「あ、あずにゃんちょっとうるさいよぉ……」 気がつくと、唯先輩が少し涙目になって耳を押さえていた。 807:支援代わりに海の日あずにゃん視点verとか:2009/07/23(木) 21:40:57.14 ID:OQO1NHFH0 「あ、すみません……でも! 先輩のしたことも酷いことですよ?」 「え~? そうかなぁ」 ……こんなところでも鈍感を発揮ですか。 「そうですよ! だいたい先輩はいつもいつも――」 「あんなにおいしそうに食べてたのに」 ぴくっ。 「そ、それは……そうですけど」 「ちょっと体重が増えたぐらい気にしなくてもいいと思うんだけどな~」 「せ、先輩は体重が増えないからそんなことが言える――」 「可愛いのには変わりないし」 ぴたっ。 ……先輩はこういうことを素で言うから困る。 どれだけ天然なんですかと。 「あ、あずにゃん……?」 「そ、それとこれとは話が別です!!!!」 「わあああっ!?」 どんがらがっしゃーん。 大声を出したせいで、先輩の椅子がひっくり返ってしまった。 「あぁ! 先輩ごめんなさい!」 ……さすがに、これは私が悪いから謝って起こしてあげる。 ――先輩は意外と軽かった。 312:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 16:38:52.73 ID:j2aVnGUo0 お昼ごはんを食べ終えて、海の家を出る。 「次はどこに行きますか?」 「う~ん、そうだね~」 なんだか、完全に唯先輩任せになっちゃってるな……。 「あそこの岩場とかどうかな?」 唯先輩が選んだのは、ここから数百メートルほど離れたところにある小さな岩場。 「いいですね」 ……あれ? 返事がない。 不思議に思って唯先輩の顔を覗き込んでみると―― 「……」 ――なんだかぼーっとしていた。 唯先輩を起こすためにあえて大きな声で言ってみる。 「あれですか、少し遠いですけどいいですよ!」 すると、ようやく唯先輩がこっちの世界に戻ってきた。 「へ?」 「だから、岩場に行くのに賛成ってことですよ」 どうしても、声に不機嫌さが混じってしまう。 「あ、うん。じゃあ行こっか」 「はいっ」 にこり。 だから、とりあえず表面上は笑っておいた。 ……これでごまかせたらいいんだけど。 510:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 22:02:45.79 ID:j2aVnGUo0 「とうちゃ~く!」 唯先輩と一緒に、予定通り岩場に来てみた。 ……疲れた。 「け、けっこう……疲れますね……」 「そうだね~」 唯先輩……そんな元気そうな声で言っても信用できませんよ……。 「あずにゃ~ん! みてみて~! おっきなヒトデさんだよ~!」 まったく、この人は……。 楽しそうなのはいいけど、もう少し大人っぽくできないのかな……。 そんなことを考えて、ふと海を振り返ってみると―― 「たすけてー!」 ――浮き輪に流されている女の子がいた。 「ゆ、唯先輩! 大変ですよ!」 そして唯先輩に頼ってしまう私。 でも―― 512:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 22:03:30.27 ID:j2aVnGUo0 「あぁもう! どうしてまた放心してるんですか!」 ――大事なときなのに! 「せんぱい! 唯先輩!」 「ん……?」 やっと戻ってきた。 「ど、どうしたのあずにゃん? 何があったの?」 「何があったじゃありません! 先輩は――ああもういいです! とにかくあそこを見てください!」 先輩がおろおろしても意味がない。とにかく今は事態を教えるために指で指し示す。 「たすけてー! ママァー!!」 女の子を見つけると、唯先輩は本格的に慌てだした。 「た、助けなくちゃ!」 「で、でもどうやってですか!?」 「今から泳げばたぶん間に合うよ! あずにゃんはライフセーバーの人を連れてきて!」 「あ、先輩待って――」 私が止めるのも聞かずに、唯先輩は海へと飛び込んでしまった。 「――ライフセーバーの人っ」 私も動かなきゃ。 546:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 22:32:57.29 ID:j2aVnGUo0 それからの私はすごかったらしい。 いつもの3割増しぐらいのスピードで辺りを走り回り、ライフセーバーの人を見つけたところまでは覚えてるけど……。 気がつくと、私は浜辺に正座して唯先輩を膝枕していた。 膝の上には目を閉じてすやすやと寝息を立てている唯先輩。 ライフセーバーのお兄さんはこのまま寝かせておけばそのうち起きるよなんて言ってたけど―― 「ゆいせんぱいゆいせんぱいゆいせんぱいゆいせんぱい……」 ――それでも心配だから必死になって呼びかける。 「おきてくださいよ。はやくおきてください。そうしたら今まで溜め込んだ文句を全部言うんですから」 今まで私がどれだけ苦しかったか知らないでしょう? 「だから――」 「んっ……」 起きてください、と続けようとしたら唯先輩が小さく身動ぎした。 「せん、ぱい……?」 恐る恐る、声をかける。 「んぅ……あずにゃん……」 今度ははっきりと名前を呼ばれ、目も開いた。 547:海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 22:34:04.04 ID:j2aVnGUo0 「せんぱい……! よかったぁ……」 気持ちがあふれて唯先輩を抱きしめてしまう。 「あ、あずにゃん……?」 唯先輩はびっくりしてるみたい。 それはそうだよね、私からこんなことするなんて滅多にないんだから。 「もうっ……しんぱいしたんですからね……!」 気持ちが暴走してもう歯止めが効かない。 ぎゅうっ。 さらに強く抱きしめる。 すると―― 「ごめんね、あずにゃん」 ――唯先輩は、そう謝ってきた。 「……かんたんには、ゆるしませんよ……」 ぎゅっ。 さっきより抱きしめる力を緩める。 ――今しか、言えないと思った。 「どうしたら、いいの?」 隙間から、唯先輩の顔が見える。 「それじゃあ――」 今まで言えなかったことを……。 「――キス、してください」 ……言えた。 548 :海の日あずにゃん視点verとか ◆/BV3adiQ.o :2009/07/24(金) 22:34:50.38 ID:j2aVnGUo0 「そ、それじゃ……」 「はい……」 …………ちゅっ。 「――ん、これで、いい?」 「はい……」 夕焼けに染まった唯先輩の顔は、とっても赤くて。 きっと、私も同じぐらい赤いんだろうな……。 そんなことを考えていると。 「あずにゃん、ちょっと聞いていい?」 「何ですか?」 唯先輩が何かを質問するみたい。 ……せっかくいい雰囲気だったのに。 「――今日の水着、可愛かったかな?」 ……あぁ、この人も、私と同じように悩んできたんだ……。 だから私は―― 「そんなの、唯先輩が私のために選んでくれたんだから、可愛いに決まってるじゃないですか」 ――憂が言ったとおり、私が思ったとおりの答えを返した。 Fin