706 :ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 00:54:52.34 ID:Lz1bye8y0
「ねえ、梓ちゃん」
「ん~?」
四時間目が終わってからの昼休み。
待ちに待ったお弁当の時間に、私は梓ちゃんへと質問を投げかけた。
「人を好きになるって、どういうことなのかな?」
「・・・急にどうしたの? 憂らしくないよ」
梓ちゃんは口にくわえていたエビフライをもぐもぐと動かしながら、不思議そうな顔をする。
そう、私らしくない。けど、ずっと抱えていた疑問。
「うん、梓ちゃんには彼氏さんがいるし・・・どういうことなのかわかるかなって」
「難しいよ・・・それ」
うーん。と、腕を組んで頭を捻っている梓ちゃんは、私から見てもすごくかわいらしい。
だから、お姉ちゃんに好かれているのかな・・・
私は、ずっと一緒にいたからもう飽きられてしまったのだろうか。
最近は以前よりも抱きつかれる回数が減っているし、なにより梓ちゃんへのお姉ちゃんの接する態度が、『姉』としての態度のように、私は見えてしまう。
それが、私にはすごく羨ましくて、すごく悲しい。
715 :ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:03:21.79 ID:Lz1bye8y0
「やっぱり、一緒にいて安心できる、っていうか・・・無償で信頼できるような人が、好きって言えるんじゃないのかな」
「そうか・・・そうだよね」
その答えは、何となくわかっていたこと。でも、聞かずにはいられなかった。
自分の気持ちを確かめると共に、それが家族に向ける愛情ではなく、好きな人に向ける愛情と確信するために。
私は、お姉ちゃんのことが好きだ。
家族としてではなく、一個人として、人として大好きだ。
「憂も、誰か好きな人ができたの?」
「うん・・・私は昔からずっと好きなんだけど、向こうは私なんか・・・」
「そんなことないよ! 憂なら絶対大丈夫だって」
「うん、ありがとう。梓ちゃん」
梓ちゃんの励ましが、私にはすごく辛い。
だって、梓ちゃんが想像しているのは、私が男の人と歩いている姿。
でも、現実は、お姉ちゃんと私が二人で歩いている、今までと同じ光景。
そのギャップ。その普通とはズレている感性が、私を苦しめる。
家族でなくとも、私が選んでいる道は、簡単な道ではなく、茨の道。
719:ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:11:23.42 ID:Lz1bye8y0
「私もできるだけ応援するから・・・そうだ、今日の放課後ゆっくり聞くよ」
「そう、だね。少し、話したいかも」
喩え話す内容が、少しばかりの嘘を含んでいたとしても。
話す相手が、もしかしたら私がとても羨み妬んでしまう立ち位置の人であっても。
私は誰かに話さないと、とてもじゃないけど心が潰れてしまいそうだから。
「それじゃあ放課後・・・あ、部活があるんだった・・・終わってからでいい?」
「うん。あ、それじゃあ家に来て、ご飯食べていってよ」
「え、いいよいいよ。わざわざ申し訳ないし」
「大丈夫だよ。二人分作るのも三人分作るのも変わらないから」
「うーん、わかった。それじゃあ、ごちそうになるね」
「うん。おいしいの作るから、楽しみにしててね」
梓ちゃんは二本目のエビフライを口に運びながら、元気よく頷いた。
- やっぱり梓ちゃんはかわいい。本当、あずにゃんって呼ばれるのもわかる気がする。
:ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:23:50.30 ID:Lz1bye8y0
「それじゃあ、また明日ね。ごはんすごくおいしかったよ」
「お粗末様でした。それじゃあ、バイバイ」
梓ちゃんを見送ってから、小さくため息をつく。
やっぱり・・・本当のことは話せないな・・・
梓ちゃんが誰かにこのことを喋ってしまうとか、そういうことじゃなくて、これはきっと、気持ちの問題。
「あれ~? あずにゃん帰っちゃったの?」
家の中からすごく寒そうにお姉ちゃんが出てくる。
最近は寒いせいか、パジャマの上に半纏を羽織っているのが定番のファッションになりつつある。
あとは炬燵でカタツムリとか、とてもかわいらしいことばかりやってくれる。
そこが大好きなんだけどなぁ・・・どうやら他人にはよくわからないらしい。
「ん? どうしたの憂? 私の顔になにかついてる?」
「ううん。なんにも。ほらお姉ちゃん、寒いから中はいろ? お茶いれるから、炬燵で飲もうよ」
「おぉ! さすが憂~。気が利くね~」
そういって、急に私を抱きしめる。半纏と、お姉ちゃんの柔らかさがとても心地いい。
「もう~、早く入ろう? 風邪引いちゃうよ」
「は~い」
離れるのももったいないが、本当に風邪をひいてしまいかねないぐらい外は寒かった。泣く泣くお姉ちゃんから離れ、背中を押して家の中に入る。
これで、いいんだ。これで。
731:ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:27:51.53 ID:Lz1bye8y0
私の気持ちは、一方的で、誰からも受け入れてもらえない。
お姉ちゃんは、お姉ちゃん。その区切りからは、絶対に抜けれない。
でも、それでも、お姉ちゃんが笑っていてくれるなら、それで幸せ。
本当に好きならば、その人の幸せを第一に願う。そう誰かが言っていた。
だから私はお姉ちゃんの幸せを願った。だから私は身を引いた。
でも、
それでも、
悲しいものは、悲しいんだよ?
734:ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:35:18.12 ID:Lz1bye8y0
気がつくと、私は道路の上に立っていて、気がつくと、目の前に明かりがあって。
ああ、時間が遅く感じってのは、こういうことを言うんだな、って感じる時間もあって。
鉄の塊が、あと数メートルまで目前に迫っている状況で、妙な冷静な部分があった。
走馬燈が、私の頭の中を駆ける。
お姉ちゃんがくれたホワイトクリスマス、打ち上げでやった人形劇。
ああ、楽しかった。
楽しかった・・・でも、
何で私は泣いているんだろう?
ああ、
「死にたくなかったんだ、私」
743:ぽんじゅーす ◆dmeDqVUA961G :2009/07/27(月) 01:45:59.33 ID:Lz1bye8y0
「危ない!」
声が聞こえると同時に、誰かが私を抱きしめて跳んだ。
冷たいアスファルトに、受け身もとれないまま体が投げ飛ばされる。
さっきまでゆっくりだった時間が急に流れはじめ、車がものすごいスピードで目の前を通り過ぎていった。
なぜか平気だった恐怖心や体の震えが今更になって襲ってくる。
怖い。何でさっきまでこんなに怖いのに、それすら感じていなかったのか。
でも・・・生きてる。
「な、なにやってたんだよ!」
私を助けてくれた人が、声を荒げて私に問いただす。
「死ぬつもりだったの・・・か・・・って」
向こうも、どうやら気づいたようだった。
- 何から何まで厄日みたいだ。こんなものすごく格好悪いところを、知り合いに見られちゃうなんて。
「憂だよな・・・憂・・・なにやってんだよ!」
「・・・ごめんなさい。律先輩」