2月13日、学園には冷たい風の吹いていた。
「明日はバレンタインだね…」
思わずそう切り出してしまう。
そう、明日は2月14日、バレンタインデーである。
そう、明日は2月14日、バレンタインデーである。
「考えたくないな・・・そんなこと」
去年まではクラスの友達やお母さんからもらえたが、いまはクラスに女子の友達がいない。
お母さんからは今年は寮住まいだから、それすらももらえない。
礼奈さんは…期待できないな、あの人そういうの興味なさそうだし。
お母さんからは今年は寮住まいだから、それすらももらえない。
礼奈さんは…期待できないな、あの人そういうの興味なさそうだし。
「あぁ・・・そうだな」
寂しそうに溜息をつきながら、教諭が言う。
そうそう、なぜかは知らないが村崎教諭も一緒にいる。
最近真紅と親しげだし、一体どうしたんだろう。
そうそう、なぜかは知らないが村崎教諭も一緒にいる。
最近真紅と親しげだし、一体どうしたんだろう。
「あぁ・・・そういえば、そんなイベントがあったな」
その真紅は遠い空を見上げて、何かを考えているようだった。
たまに真紅は何を考えているか分からないときがある。
たまに真紅は何を考えているか分からないときがある。
「明日は・・・楽しくなるといいね」
僕は思わずそう口にしていた。
それは、僕がバレンタイン云々以前に思うことだった。
それは、僕がバレンタイン云々以前に思うことだった。
「そうだな…」
真紅が屈んでいた。
その手が何かを拾い上げる。
「・・・バレンタインチョコをもらおう」
ボロボロになってしまったチョコレートの包装を。
「へ・・・」
「・・・は?」
真紅以外の誰もが言葉を理解できなかったようで、怪訝な声をあげている。
「バレンタインチョコだよ」
もう一度僕らに向き直り、そう告げた。
「バレンタイン作戦を行なう」
「作戦名は…オペレーションチョコレートバスターズだ」
「で、どういうことなんだ?
正直さっぱり意味が分からないんだが…」
正直さっぱり意味が分からないんだが…」
舞台を部屋に移し、教諭が切り込む。
さっきの話で教諭も僕と同じか、それ以上の境遇だと分かり、急に親近感が湧いている。
さっきの話で教諭も僕と同じか、それ以上の境遇だと分かり、急に親近感が湧いている。
「言葉通りさ、オレたちでバレンタインチョコをもらうんだよ」
「いや、ほしいからってもらえるものじゃあないだろう…」
その通りだ、事前に友人に頼んでおくならまだしも、今から頼んでもらえるようなものじゃない。
「いや、それは甘いな」
「・・・!?池谷、お前には作戦があるというのか!?」
教諭が全力で喰いついてる!?
「ああ。これが、俺が寝ないで考えた、『プロジェクト・ヒモテバレンタインデー』だ」
「そんな下らないことを考えないで寝た方がいいと思うよ・・・・・・」
説明ッ!「プロジェクト・ヒモテバレンタインデー」とは、文字通りモテない男がどうしてもバレンタインデーに女の子からチョコを受け取りたい時に使う作戦だ!
①女性店員がレジで応対しているコンビニを探す。
②コンビニでチョコを買う。この時になるべくお札を使う。
③多いお釣りで忘れたフリをしてチョコを受け取らずにレジを離れる。
④女性店員が「あの、これ…」と言って渡してくれる。
コイツはバカじゃないのか、いやバカなんだが。
「い、池谷…」
ほら、やっぱり教諭も呆れて―
「お前、天才じゃないか!?」
教諭もバカだった!!
「ハッハッハ、なめてもらっちゃあ困るぜ」
ああ、これはとんでもないバカに巻き込まれたなぁ・・・。
「待てオイコラ人をそんな蔑んだ目で見るな。とりあえずやってみるんだ。もらえなくてもともと、もしかしたらとびっきりの美人にチョコを渡されるかも知れないんだぜ?」
僕は乗り気でないが、真紅と教諭は「コイツは世紀の大発見をしちまったぜぃ」とばかりにはしゃぎながら押してくる。
どうやら、逃げられないようだ…
―翌日―
PM2:00 ケースその1 村崎況屋の場合
「意外と女性店員のいるコンビニは少ないんだな・・・」
そういいながらセ〇ンイレブンに入る。
「いらっしゃいませー」
女性店員が応対する。その様子を、僕らはまじまじと見ていた。
「さて、教諭はどうでるかな・・・?」
「というか、そもそも真紅は幼女にチョコ貰いたいんじゃないの?」
そういった途端、真紅の目が遠くなる。
「一樹・・・現実はそう甘くはないんだぜ…」
なんだか、すごい重みがある言葉だった。
それはさておき、教諭視点。
(とりあえず、まずチョコを買わなくてはな…)
そう思い、ブ〇ックサンダーを手にする。
チョコといえばチョコだが、ここでその選択はどうかと思う二人。
そんなことことを知るはずも無く、レジへと向かう。
「えーとー、32円になりまーす」
女店員がそつなくレジの応対をする。
(ここで札を出すんだったな・・・・・・)
夏目漱石を出す。それを受け取ってレジに入れ、お釣りを渡す。
「よし、そこでチョコを受け取り忘れろ!」
「まぁチョコなんだけど・・・なんかなぁ」
(ここでこのブラック〇ンダーを忘れるんだったな・・・・・・)
事前に教えられたように行動を起こす。
チョコを受け取らずにレジから歩き出し、おでんの側を通り抜け、そして、
「って呼び止めない!?あぁ、店員ブラック〇ンダー食べてる!教諭が買って忘れた〇ラックサンダー食べてるよ!」
「こ、この展開は予想外だぜ・・・」
「おい池谷、話が違うぞ!32円はどうなる!?」
三人が各々個別の反応をする。
というか、たった32円にあそこまで執着する教諭はいかがなものだろうか。
そんなわけで本日の失敗(一回目)。敗因、店員の性格。
PM2:30 ケースその2 東一樹の場合
(さっさと済ませよう・・・)
そう考えつつ店に入り、適当に板チョコを手にとってレジに持って行く。
「はい、200円になります」
「えと・・・すいません、大きいのしかないんですが…」
「大丈夫ですよ」
その頃真紅と教諭
「畜生、東のヤツ普通に店員と仲良くしてるだと・・・!」
「いや、あれは5000円札を出すからゴメンって言ってるだけだと思うぞ?」
(さて、ここで忘れるんだっけ…)
彼もまた事前に教えられた説明に従い、レジを離れる。
「あ、お客さん、品物忘れてますよ」
「あ、すいません」
条件反射で取りに戻り、そのまま背を向ける。
「ありがとうございましたー!」
「なんで取りに行ってんだ!?自ら失敗してんじゃねえか!」
「えと・・・その…ごめん」
本日の失敗(二回目)。敗因、条件反射。
「畜生、こうなったらオレの出番だ。見てろお前ら、華麗にチョコを受け取ってやる!」
絶対失敗する気しかしない。
隣で教諭がきらきらした目で真紅を見送るのが気持ち悪かった。
PM3:30 ケースその3 池谷真紅の場合
「うぃーっす」
「いらっしゃいませー」
レジにいるのはショートカットの少女。
(さて、やるか)
まずは第一歩とピ〇を選んでレジへと向かう。
「コレをくれ」
「はいー、250円になりますー」
「分かった。諭吉でいいか?」
ここぞとばかりに経済力をアピールしようとする。アホか。店員の苦労が増えるだけである。
「あ、はい、大丈夫ですよー」
だがその迷惑な行動にも顔色一つ変えずにレジを打つ少女。
(俺のバレンタインのために・・・さらば諭吉ぃ!)
別れを惜しみつつ、諭吉を差し出す。
「あ、お客さん、お釣り忘れてますよ」
「ああ、悪い」
(いかんいかん。作戦を遂行しようとする余り釣りを忘れてるなんて、オレらしくないミスだ)
「はい。ではこちら、お品物になります」
と、レジにおかれたビニール袋。
「・・・・・・え?」
「ですから、お品物になります♪」
「・・・・・・ああ、ありがとな」
「はい、ありがとうございましたー!」
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この日、町に一人の漢の叫びが響き渡ったと言う。
この日、町に一人の漢の叫びが響き渡ったと言う。
PM5:00 学園内 小等部付近の公園
「チョコが・・・チョコがあ・・・」
「ご、ごどじごぞはもらえると思っだのに…」
寮の前では、四つんばいになって落ち込んでいる漢がふたり。
教諭にいたっては涙目で、何を言ってるか分からない。
教諭にいたっては涙目で、何を言ってるか分からない。
「結局一つももらえなかったね・・・真紅、元気だしてよ。
それに教諭、来年はきっともらえますって」
それに教諭、来年はきっともらえますって」
『うるせぇ・・・今大事なのは今年のチョコだ!』
二人は息がぴったりで、凄い落ち込みようだった。
ここまでくると、呆れを通り越して少しばかり哀れになってくる・・・。
とりあえず、僕が真紅と教諭を慰めようとしたその時。
「あ、そこのおにいさんたち~」
可愛い声とともに、二人の女の子が声をかけてきた。
この子たちは・・・この間のりんごちゃんとさなえちゃんだった。
自然と顔が紅潮してしまうのが分かる、表情を押さえ切れない…。
自然と顔が紅潮してしまうのが分かる、表情を押さえ切れない…。
「わたしたち、がっこうのひとたちに『ちゃこれーと』をくばってるんだー!」
「いまくばりおわったんだけど、ちょうど3つあまってるから、おにいさんたちにあげるよ~」
「なん・・・だと…?」
思わず声が漏れる。
しかし、それほどに魅力的な申し出だった。
例えるなら・・・トリシューラとブリューナクのセットをゴキボールと交換してくれといわれたような衝撃だった。
真紅と教諭にとってもそれは同じだったらしく、動揺を隠せないでいる。
しかし、それほどに魅力的な申し出だった。
例えるなら・・・トリシューラとブリューナクのセットをゴキボールと交換してくれといわれたような衝撃だった。
真紅と教諭にとってもそれは同じだったらしく、動揺を隠せないでいる。
「あれ、もしかして・・・いらない?」
返事がなかったのを否定と受け取ったのか、りんごちゃんとさなえちゃんは涙目になっている。
「いや、ぜひとも受け取らせてくれ!」
と、真紅が真っ先に切り出し、
「村崎況屋は、生徒からの期待を絶対に裏切らない!」
教諭はどこかで聞いたような台詞を胸を張って口にし、
「人の好意のこもった贈り物を受け取らないなんて、最低だよ!」
僕は別の世界のなにかを批判するように口を開く。
三者三様の反応を示しつつも、願ってもない事態に、テンションがあがっていることだけは一目で分かる。
「よかった~。じゃあ、はい、どうぞ~」
「いっしょうけんめいつくったから、のこさずたべてね!」
二人からチョコレートを受け取る。
「あぁ、言われなくても残すつもりなんて毛頭ないぜ!!」
「他人からの贈り物を残すなど、言語道断だな」
「そもそも、頼まれても残さないよ」
三者三様の返答をするが、顔が緩んでいるのは皆同じである。
「じゃあわたしたちは寮にもどるから、じゃあね~」
「『ちょこれーと』もらってくれてありがとね~」
PM7:30 学園内 イフリートレッド寮
「人生初、幼女からのチョコレートだ!いやっほぉぉぉぉう!!」
真紅のテンションがおかしい。
「しかし思わぬ収穫だったな、一樹」
「そうだね…諦めていた部分も大きかったからね」
二人して今日の成果について語り合う。
今日もバカなことに付き合わされた一日だったけど、楽しかった。
「じゃあ、始めようか」
僕と真紅はファンタの入ったグラスを握り、
「オレたちのバレンタインを祝って・・・乾杯!」
「かんぱーい!」
今日という一日を喜び合った。
PM7:30 学園内 教員寮
「久々にチョコを貰った・・・しかも幼女にだ!」
思わず声をあげてしまい、慌てて平静を取り戻す。
教員寮は防音性に優れているが、100%ではない。気をつけよう。
教員寮は防音性に優れているが、100%ではない。気をつけよう。
「しかし、思わぬ収穫だな…」
作戦は失敗したが、真紅に付き添ってよかった。
今日という一日を、オレは忘れないだろう。
今日という一日を、オレは忘れないだろう。
「さて…俺は一人だが、乾杯だ」
真紅と東は今頃二人で乾杯しているだろう…。
一人だが、負けないように楽しもう…。
一人だが、負けないように楽しもう…。
そう考えつつ、チョコを口に運ぶ…。
PM8:00 学園内 イフリートレッド寮
「ぐっ・・・まさかこれほどとはな…」
真紅が苦痛に表情を歪ませる。
「正直、僕挫折しそうだよ…」
そういう僕も、そろそろ体の限界が近い。
りんごちゃんとさなえちゃん、二人から貰ったバレンタインチョコは・・・とてつもない味がした。
甘くてしょっぱくて辛くて苦くて・・・なんとも言えないハーモニーを生み出していた。
りんごちゃんとさなえちゃん、二人から貰ったバレンタインチョコは・・・とてつもない味がした。
甘くてしょっぱくて辛くて苦くて・・・なんとも言えないハーモニーを生み出していた。
「一樹、お前自分の言ったこと忘れたのか!?
『そもそも、頼まれても残さないよ』なんて、爽やかに決めたじゃねぇか!!」
『そもそも、頼まれても残さないよ』なんて、爽やかに決めたじゃねぇか!!」
そ、そうだった。
あんな爽やかに決めて残しなんてしたら、二人に合わせる顔がない。
あんな爽やかに決めて残しなんてしたら、二人に合わせる顔がない。
「そ、そうだね・・・食べないと、ダメだよね…」
「あぁ・・・オレたちは、逃げちゃダメなんだ!!」
そう言って、またチョコを口に運ぶ。
『うごごごごごごご』
二人して壊れた機械のような音をあげる。
PM9:00 学園内 教員寮
「はぁ・・・はぁ…」
あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!
「チョコを食う前に時計を見たら7時半だったのに、その後すぐ、もう一度確認したら既に1時間以上経っていた」
な…何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった… 。
催眠術だとか寝ぼけてたとか、時計がずれていただとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
正直、もうこのチョコからは手を退きたい。
だが、俺はチョコをもらうときに
『村崎況屋は、生徒からの期待を絶対に裏切らない!』
『他人からの贈り物を残すなど、言語道断だな』
などと言ってしまっている!
こんなことを言って残した挙句、二人に会った日には、罪悪感で胸が埋め尽くされるだろう…。
こんなことを言って残した挙句、二人に会った日には、罪悪感で胸が埋め尽くされるだろう…。
「食べるしか・・・無いんだな…」
覚悟を決め、もう一口と口へ運ぶ―
「げげごぼおぅえ」
どこかで聞いたような奇声をあげていた。
「そういえば、最後のおにいさんたちにあげた『ちょこれーと』、まちがえていろいろなものいれちゃってるんだったなぁ…ねむねむ」
「おにいさんごめんねぇ…むにゃむにゃ」
小等部寮で、そんな寝言があったとか。
バレンタインデーの夜、翌日朝までトイレの住人になる三人の漢がいたそうだ。
真相は誰も知らない。
礼「ぶっちゃけ、パクってない?」
旅「聞こえが悪い、引用と言ってくれ」
神「一応書き換えてはいるみたいだけど…」
旅「流石に丸パクリなんてねぇ…」
礼&神「その程度のプライドはあったのね」
旅「どんだけ下劣に見られてんだよ、オレ!?」
礼「・・・え、今更?」
神「自覚が無いなんて・・・かわいそうな子」
旅「さて、次回の二人は10話後かなぁ…」
礼&神「ごめんなさい」
一「(さ、作者が勝っただと!?)」
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