どんな時でも一人じゃない

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どんな時でも一人じゃない - (2008/07/22 (火) 14:23:42) の1つ前との変更点

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蟹座氏は大蟹球を走る。 あのまま誰かが来るのを待っているだけでは何も変わりはしない、自分とてここまで生き残ってきた対主催の一人なのだ。 ……確かに今の自分は戦力として考えた場合、最も弱いだろう。 だからといって誰かに助けてもらうことを考えてなどいられない、自分は熱血書き手だ、そんなことで弱気になどなっていられない。 更に走る速度を上げようとするが、すぐに止まる。 「もう少し待っていてもらいたかったんだがな」 「ジョーカー……! どうして今頃!?」 「……ただボタンを押すだけで、勝手に時間を浪費してくれていた、わざわざ襲う必要もない」 「うぐっ……!」 改めて言われると非常に無駄な行為だったかもしれない……いやいや、結果を見ればそうだったかもしれないが、あれはそう間違った考えではないはずだ。 気を取り直し、蟹座氏は真っすぐナナシを睨みつける。 「ししょーはどこ!?」 「この先だ……だが、完全に改竄が終わるまでもうしばらくかかる……それまでお前に合わせるわけにはいかない」 「――っ!」 剣を構えて抑えていた敵意を開放しただけ、それだけで蟹座氏は数歩後ろに下がってしまう。 間違いない強者のオーラ、以前の蟹座氏ならばそれでも真っ向から受け止めていただろう…… だが、下がってしまった。体が、本能が勝てっこないと逃げ腰になる。 (ど、どうしちゃったんだよボク!? こんな簡単に下がるなんて! 前に別のジョーカーと戦った時にはこんなこと……!) 「……行くぞ」 自分自身に戸惑う蟹座氏に構わず、ナナシは蟹座氏へと斬りかかる。 咄嗟に『誓い』で受けるが、ソードサムライXの連撃にそのまま受けに回るしかなく少しずつ押されていく。 「絶・霧氷装……!」 「え!?」 ソードサムライXと触れている部分から『誓い』が凍り付いていき、蟹座氏の手のひらをも凍らせていく。 慌てて飛び退りながら左手は柄から放すことに成功するが、右の手のひらは柄に張り付いてしまい放せない。 そのまま凍結は進行していく、このままでは右手が、そしてそのまま全身が凍り付いてしまうだろう。 それだけは避けなければと、デイパックから鉈を引き抜き『誓い』の柄へと狙いをつける。 躊躇しながらも柄に向かって鉈を振り下ろし、『誓い』は凍りついた皮膚と僅かな肉を持っていきながら手放される。 それはテイルズロワでのミトスと同じ判断だ、右腕を持っていかれるぐらいなら武器を手放す。 「あっ……く……!」 だが――凍結の危機からは逃れられたものの、走る痛みに右手を押さえながら呻いてしまう。 それほど深い傷ではない、しかし、蟹座氏の心は手の傷以上に深く傷つけられる。 ――蟹座じゃないもんさえあれば。 この程度の怪我、亜沙の力ですぐ治すことができるのに。 いや、そもそも『誓い』をアイスソードやフランベルジュに変化させれば凍結すること自体を防げたはずなのだ。 自分を苦しめた力が、今はたまらなく欲しい。 「……蟹座じゃないもん」 ずっと言ってきた言葉なのだ、ずっと、ずっとこの言葉を言ってきた。この言葉が自分を繋ぎ止めていた。 けれど、その言葉はもう何も意味をなさない、自分が今まで使ってきた力はもう存在しない。 「まだ気づかないか。自分がいるロワそのものを否定していて、俺に勝てると思っているのか?」 「……え、ロワを、否定って……?」 突然ナナシからかけられた言葉の意味がわからず、思わず問い返す。 それを冷めた眼で見ながら、ナナシは口を開く。 「蟹座氏、それがあんたの名前。ギャルゲロワでつけられた、存在の証」 「あ……」 「それをあんたは否定してきた、蟹座じゃないもんの異能としての力を取り上げられた今でさえ、あんたはその名を、存在を否定している」 「ち、ちが……だって」 本当に蟹座じゃないのだから、それを訂正しただけ……そう口にしたいのに、言葉が出ない。 「あんたは自分の存在を、ギャルゲロワそのものを否定しているんだ」 「う、そだ……」 「蟹座じゃないもんの異能はそれを受け止める器の役割もしていた。それがなくなった今、あんたはギャルゲロワを否定するだけの、書き手でさえない存在だ」 「そんな……嘘……あ、ああ……」 初めての作品で、仇というしがらみに囚われていた参加者を和解させたのも、 大好きな人のために必死で頑張り抜いた少女を書いたのも、 疑心暗鬼の闇に逃げ込んだ青年を諦めずに説得させて見せた妻を書いたのも、 誰の言葉も聞かずただ復讐鬼の道を歩んでいた少女を決死の行動で改心させた青年を書いたのも、 死に行く最期、最高の親友の仲間であれた青年を書いたのも、 負傷を乗り越え不屈の精神で復活したのも、 全部――全部自分が否定した!? 「ぁ……ボ、クは……いや、ちがう……」 ……言うまでもなく、蟹座氏がギャルゲロワを否定したことなどありはしない。 ならば何故ナナシの言葉にここまで心を抉られているのか? それはナナシの異能『姿無き縁の下』によって、自分の異能を七氏の異能『闇に囁く言葉責め』と繋げたからだ。 繋げただけで本来の力である過去の改竄までは使用することができない、だが相手の心を抉るだけならそれで十分。 「違う、違う……」と蹲りながらただ呟き続けるのみの蟹座氏目掛け、ナナシは剣を振り下ろ―― 「神の世界、展開!」 「……え、あ、あれ……?」 ナナシの、世界の時が止まり、困惑する蟹座氏の前へ少女が駆けつける。 その姿を見て、蟹座氏は驚きと歓喜が混ざった声でその名を呼んだ。 「うっかり氏!?」 「ツキノです!」 確かに、ギャグ将軍を追っていたはずのツキノンがここにいるのは「うっかり」道を間違えてしまったからではあるのだが。 それはそれとして、ツキノンはずりずりと蟹座氏を引きずってナナシの間合いから放す、ゲームとは違い実体があるからこそできる技だ。 「よっと……蟹座氏、大丈夫ですか?」 「ツキノン……ボク、ボクは……」 「……話自体は少し前から聞こえていました、ごめんなさい。結界によって神の世界の効果範囲も狭まっていて助けるのが遅くなりました」 「……助けてもらう資格なんて、ないよ」 「蟹座氏……!」 彼女を知ってる者からすれば信じられないほどに、蟹座氏の表情は暗い。ナナシの言葉は蟹座氏の心を打ち砕いていた。 ツキノンが何か言葉をかけようとするが、それよりも早く神の世界が解かれ、ナナシの剣を鬼狩柳桜で受け止める。 「時止めの力が、そう長く使えると思ったか」 「くっ……! 一度に止められないのなら、連続で使うまでです、神の世界!」 神の世界が再び展開されていき…… 「パッと行く!」 ナナシは動きを止めずに斬りかかる。 慌てて剣を受け、苦渋に満ちた表情でナナシを見る。 「二つ目の異能ですか……!」 「厳密には違う。『パッと行く』はテイルズロワの人間ならば誰もが知り、使える特技だ」 テイルズではお馴染みのシステム、イベント時遠く離れた町などまで一瞬で行ける「パッと行く」 この力で「神の世界が切れる時間まで」自分を移動させたのだ。 ……稀になくなっていたりするシステムだったりもするのだが、そこは突っ込んではいけないところである。 「『投下早撃ち』と繋げてもよかったが、こちらの方が確実だったからな。不意打ちじゃない限り、神の世界は俺たちには効かない!」 「っ……! なら、蟹座氏は『みんな』に任せるしかないようですね……!」 「なに?」 ツキノンの言葉に蟹座氏の方へ視線を向ける。 蟹座氏自身は相変わらず蹲っているだけだったが、その背後に何人もの人影が現れていた。 「あれは、ギャルゲロワの!? く、管理者の力を使ったか!」 「貴方の相手は私がする! 来なさい人の子よ!」 ◇ ツキノンが戦ってる……ボクの代わりに…… 手伝わ、ないと……だけど、今のボクじゃ足手まといにしかならない…… ……それに、ギャルゲロワを否定したボクなんかが、ツキノンと一緒に戦う資格なんて…… 「いつまでうじうじしてんのよあんたは!」 「ふやっ!?」 自ら心を閉ざそうとする蟹座氏の後頭部に、何者かの拳が炸裂する。 「お、落ち着け沙羅さん! じゃなかったtu4氏!」 「放しなさいー! こんなイベントの最中自分から動こうとしないなんて! アレね! 今まで目立ってたから別に動かなくたって空気化なんてしないだろー、とか思ってるんでしょう!? これだから人気キャラはー!」 「だから落ち着けと……! 首を刎ねますよ!?」 突然目の前で始まったどつき漫才を、蟹座氏はぽかんとした表情で見つめる。 沙羅さんもといtu4氏を初め、何人かは初めて見るがギャルゲロワのみんながそこにいた。 以前バトルマスターを殺してしまい、自殺を図った時と同じように…… ステルス鬼畜や頭脳戦に抑えられてるtu4氏は置いておき、最速の人が蟹座氏へと口を開く。 「あー、こほん。蟹座氏、立てますか?」 「最速氏……ボク、は……」 「……私は以前言いました。蟹座を否定している姿が萌え……げほん、蟹座氏のあるべき姿だと」 「それは……違うんだよ、ボクは、ロワ自体を、みんなを否定し続けて……」 「しっかりしなさい蟹座氏! あのような男の言葉に惑わされてどうするのですか!」 最速の人の言葉にも蟹座氏は立ち上がろうとしない。彼女の心はそれほど深く抉られているのだ。 見かねたお姉さま達が近寄ろうとするが、それよりも早く、一人の少女が口を開く。 「本当にそうだったのかな?」 「え……」 「本当にマイ――蟹座氏はその名前を否定してただけだったのかな?」 蟹座氏はその銀髪の少女の姿に見覚えがあった。 666の策略によってバトルマスターに襲い掛かり、ギャグ将軍に気絶させられた時にロリカードと共に自分の夢へ現れたあの少女だ。 あの時とはまったく違う、優しい口調で蟹座氏へと問いかける。 「そ、そうだよ! ボクは一度も認めたことなんてない……! 慰めなんてよしてよ! 誰だか知らない、け……ど……?」 「本当に?」 三度問いかけられる。 そして、その問いに同じ答えを返すことができなかった。 記憶の片隅で何かが語りかけている。自分は覚えていると、この少女の言っていることへの本当の答えが別にあると! それに――この少女のことも、自分は知っている! 「ボク……違う、『私』は……!」 「……ん、思い出せたかな♪」 「そうだ、私……一度だけ」 それは本来知りえないはずの時の記憶。 更新されていった記憶の中で、蟹座氏はたった一度だけそのことを認める言葉を発したことがあった。 「だ、だけど……それだけじゃ、否定し続けてきたことに変わりは無いよ……」 「違うよ。一度だけでも、最後の最後で認めたんだ、それは今までの否定を覆す。そもそも――否定なんて、してたのかな?」 「あ……!」 真っ向から蟹座氏の思考を否定したところで、外から傷つけられた心を治すことはできない。 少女は問いかける形で、内側からその心を癒そうとする。 これが七氏によってつけられた傷ならばそれでも言葉が届かなかったかもしれない。 だが、不完全な『闇に囁く言葉責め』では完全に心を打ち砕くことはできていなかった、故に言葉が届く、傷が癒えていく。 「あんな言葉に惑わされちゃダメだよ……頑張って……!」 「うん……!」 その返事に少女は嬉しそうに微笑みながら、一歩後ろへと下がる。 代わって最速の人が蟹座氏へと手を差し出す。 「さあ、こんなところで落ち込んでいる場合じゃないですよ。バトルマスターを助けるのでしょう」 「最速氏……うん! あ……だけど、今の私じゃししょーには……」 「にゃはは、大丈夫だよ蟹座氏、僕たちも一緒だから!」 「蟹座氏、あなたは一人じゃない、私達がついてるよ」 「汚れなき愛氏、お姉さま……」 瞳を潤ませる蟹座氏へ次々と手を差し出していく。 蟹座氏も手を伸ばし……お姉さま達の体が透けていき、蟹座氏の心へと入りこんでいく。 ―よし決めた! 私、お姉様のために奉仕する!― ―待っていて下さいお姉さま。貴女のために、私頑張ります― 最後の最後まで、お姉さまを想いながら戦った汚れなき愛。 ―その首、刈り取らせていただきます― ―あっ、そうだ。孔明さん― 自身の頭脳を生かし戦い、それを超える頭脳の前に散っていった歩く頭脳戦。 ―俺こそが岸田、俺こそが最強の岸田だよ― ―ルールがあるからこそスポーツもゲームも面白いものだろう!― 道こそ間違っていたものの、自分の望む道を貫き通し、自身の熱意をはっきりと示したステルス鬼畜。 ―この殺し合いを生き抜いて見せるんです!― ―そのままの……君が……好きなんだ、みんな……だから、決して憎まないでくれ― 真っ向から死亡フラグと戦い続け、仲間を守るため、確定的な死へも自ら踏み込んでいったギャルゲロワ版最速の人。 ―じ、じ実に申し訳ない!! 某とした事がとんでもない勘違いを!!!― ―なんと言われようとも…。某は貴殿を止めねばならぬ!― もはや言うまでもない「うっかり」を続けながらも仲間を守り続け、仲間を信じ続けながら死んでいった永遠のうっかり侍。 ―なら……力を貸して! 理想を貫く為に! 皆を助けられる力を!― ―ずるいよ。あんな顔されたら、倒せるわけがないじゃない……― 不幸な目に合いながらも真っ当な対主催として戦い抜き、最後はその優しさの下倒れたお姉さま。 ―見せてあげる……空気王と呼ばれた私の本当の力、空気キャラの戦い方を!― ―私が自分で選んだ道よ。あんたに悲しまれる謂われはないわ― 全ては空気キャラのため、全ては空気から逃れるため、その想いは誰よりも真っ直ぐだった予約被りのtu4氏。 このロワで散っていたギャルゲロワのみんなが、対主催もマーダーも関係なく蟹座氏へ力を貸していく。 ――そう、それはまさに蟹座氏が目指していた、ギャルゲロワの最終回のように。 「……だけど、まだ足りない」 「そう、マスターが欠けていては、全員での最終回はありえない……」 一人残った少女が手を伸ばす。 「ボクじゃマスターの代わりにはなれない。それでも蟹座氏を……妹者を支えることは、できるから!」 「うん……力を貸して、兄様!」 ◇ 「絶空裂氷撃!」 「あぅっ!」 無数の氷柱がツキノンを吹き飛ばす。 神の世界が通じない以上、剣技ではナナシの方が圧倒的に上だ。 更に、今のナナシの獲物はソードサムライXではなくソーディアン・ディムロス。テイルズロワでも最終戦までヴェイグの相棒を務めた剣。 圧倒的な力の差を前にし、ふらつきながらも鬼狩柳桜を構えるが数合打ち合っただけで刀を弾き飛ばされてしまう。 「終わりだな」 「くっ……! ソーディアンも持ってきていたなんて……」 「ツキノン!」 ナナシとツキノンの間へと滑り込むように、鉈を持った蟹座氏が滑り込むように割り込む。 その瞳にはもはや迷いはない、あるのはただ――前へと進もうとする、強い意志! 「下がってツキノン。後は……私が戦う!」 「蟹座氏……戻ったのですね」 「もう私は逃げない! みんながついていてくれるから!」 「嘗められたものだな……永遠神剣でさえないただの鉈で勝てると思ったか」 ナナシがディムロスを振るうが、蟹座氏は鉈であっさりと受け流して反撃する。 慌ててバックステップをし反撃を回避したつもりだったものの、前髪がいくらかもってかれてしまう。 明らかに今までの蟹座氏とは比べ物にならない技量に驚愕し、ナナシは何が起こったのかを悟った。 「蟹座じゃないもんによる能力変化か……!?」 「惜しいかな、私自身の力じゃないってところは合ってるけど……だけど、もう否定はしないって決めたんだ」 『剣術なら某に任せてくだされ! ジョーカーなどに負けはしませぬ!』 蟹座氏の姿にうっかり侍の姿が重なって見える。 それは否定することで得た力ではない……受け入れたことで、肯定することで得た力! 「いくよ!」 「く……凍れ!」 駆け出そうとした瞬間、氷のフォルスによって蟹座氏の手足が凍りつく。 身動きできなくなったと思ったのも一瞬で、その氷はすぐさま砕け散りナナシの顔が再び驚愕に染まる。 『願って! 純粋な気持ちで想い続けるんだ! そうすれば桜は応えてくれる!』 桜の魔法の力で氷を砕きながらナナシへと突き進み、ナナシにも劣らないうっかり侍の剣技で攻め立てていく。 ここまで来れば、ナナシも蟹座氏に何が起こっているかに気づく。 『真正面から行くだけが戦いじゃありませんよ、周りの地形を利用して!』 『あえて退き、油断したところを殺る……これもステルス思考のちょっとした応用だ』 ナナシが反撃の糸口を掴もうとする絶妙なタイミングで蟹座氏は退く。 ギャルゲロワ二大頭脳派の戦略を覆すのは容易じゃない。 「ならば、ディムロス!」 火球を放ち蟹座氏の足を止め、そこへ斬りかかる。 当然受け止められるが、それこそがナナシの狙いだ。 「絶・霧氷装!」 「っ!」 同じ目に合うわけにはいかないと即座に鉈から手を放す。 だが――この状況で武器を捨てるのは余りにも無謀。 「もらっ――何!?」 ナナシがディムロスを振るうよりも速く、 まるでどう動くかが分かっていたかのように速攻で蟹座氏はその場から離れていた。 『その程度死亡フラグとさえ言えないぞ! 私を殺ろうと言うのなら女子高生をもってこい!』 だが蟹座氏に武器はない、ケリュケイオンの攻撃魔法では威力は低いし、後無事な武器はツキノンの刀のみのはず。 一瞬だけツキノンへと視線を移し、その隙に蟹座氏は素手でナナシへと突っ込む。 「なっ!?」 『行くよ、蟹座氏!』 「うん、お姉さま!」 武と同じ身体能力、そこに中国の強化された腕力がプラスされた拳がナナシの腹へと突き刺さる。 体をくの字に折り曲げ、辛うじて倒れるのは堪え―― 『こいつ空気王に似ててやりづらいのよねぇ……ああもう、仕方ないから力を貸してあげるわ! しっかり決めなさい!』 「う、うん! ダークインパクト!」 至近距離から放たれた闇の衝撃波に吹き飛ばされる。 ちなみに、最後の方でヴァッシュが空気化から抜け出したためにエンジェルアームは使えないらしい。 蟹座氏は倒れ伏すナナシを見ながら、荒くなっていた息を整える。 他作品の能力を扱う、tu4氏や影の繋ぎ氏のような元々の能力ではない以上、疲労というリスクが付いていた。 「蟹座氏、大丈夫ですか?」 「うん……ありがとうツキノン」 それでも蟹座氏は前を見続ける、もう止まらない、迷わないと誓う。 ツキノンから鬼狩柳桜を受け取りそれを構える。 『誓い』と鉈は今だに凍りついたままだ、動かないがまだナナシは意識を失っていない。 油断もしないようだと思い、ナナシはふらつきながらその場に立ち上がる。 全身が傷つきながらもその闘志は衰えていない、決意を新たなにした今でも、気圧されてしまいそうだ。 「まだだ、この程度で倒れるほど柔じゃない……!」 「ツキノン、できるだけ下がって……何か、来る」 高まり続けるナナシの闘志に危険を感じ、装備の無いツキノンを下がらせる。 構える蟹座氏目掛け、ナナシはディムロスを構え駆け出していく。 「ディムロス、力を貸せ!」 ナナシのから発せられる青い光と、ディムロスから発せられる赤い光が混ざり合う。 それはテイルズロワ最後の戦いで放たれた技、全てを打ち砕く必殺の一撃。 『これは……!』 『燃え盛れ、紅蓮の炎ッ!!』 その動きと闘気に思わずうっかり侍が呻き、同時にディムロスから強大な火炎が波のように放たれる。 「……楽に死なせはしないッ!!」 桜の魔法で炎を消すより速く! 最速の人が死亡フラグを感知するよりも速く! 頭脳戦とステルス鬼畜が対抗策を考えるよりも速く! ナナシは蟹座氏の懐へと飛び込み、ディムロスを振るい続ける! 蟹座の黄金聖闘衣に亀裂が入る。 バリアジャケットの防御をできる域などとっくに超えている。 黄金聖闘衣に守られていない部分が傷ついていき、その黄金聖闘衣の亀裂も全身へと広がっていく。 弓を引き絞るかのようにディムロスを引き――止めの一撃を繰り出す! 『「奥義!! インブレイスエンドッ!!!」』 黄金聖闘衣が砕ける、バリアジャケットがはじけ飛ぶ、 ギリギリのところで最速の人が蟹座氏の身を捻らせ直撃を避けるが、それでも剣はわき腹に突き刺さり衝撃で蟹座氏の体は吹き飛ばされる。 確実に致命傷になる一撃だ、だが桜の魔法による治療の可能性を考え痛む身体を振るい起こしてナナシは駆け出そうとする。 『つらいよね、苦しいよね』 全身を激痛に襲われながら、蟹座氏は汚れなき愛の力を使おうとしてはいなかった。 『だけど、頑張ろう。今なら、君を支えられるから!』 その力は、本来このロワの全ての力を集めてもありえない力。 承が感じ取り、コロンビーヌが呼び出した、ここに集められていないはずのロボロワの力。 『「IS――ランブルデトネイター」』 その呼び出された力とは――『金属を爆弾に変える力』! 『「発動!」』 砕け散り、ナナシの周囲へと降り注いでいた黄金聖闘衣。 その破片全てが、一斉に爆発しナナシを襲う! 「――――!?」 氷のフォルスも間に合わず、悲鳴すらもかき消してナナシを爆発が包み込む。 そして―― 「心地いい、繋がりだ……あんた達なら、対主催ENDへの道が、繋げるかもな……」 楽しそうに微笑み、その場に崩れ落ちた―― ◇ 「もう動いても平気なのですか?」 「なんとか……時間もないし、ししょーを助けないと……」 ツキノンに肩を貸してもらいながら、蟹座氏は歩き続ける。 桜の魔法で傷の治療は行ったものの、その表情は険しい。 管理人の力を持ってしても、死者や外部介入には限度限界はあった。 疲労は増加し、桜の魔法も効果が薄れてきている。お姉さま達と会話することも不可能なようだ。 それでもみんなの力を使うことは可能だが、ロボロワの力はすでに失われてしまっている。 回収した核鉄で回復させているが、今だバトルマスターと渡り合うにはつらい状況、それでも蟹座氏は止まらない。 「私達は、一人じゃないから……!」 【2日目 深夜】【D-7 大蟹球フォーグラー内部・HIMMEL付近】 【蟹座氏@ギャルゲロワ】 【状態】:健康、首輪解除、疲労(極大)、折れない決意 【装備】:体操着(ブルマ)、鉈、永遠神剣『誓い』(鉈型)、ケリュケイオン+バリアジャケット@なのはStS 【道具】:支給品一式(食料全て消費)×5、最高ボタン、カードデッキ(シザース)@ライダーロワ、閃光弾、まふうじの杖、バッド・カニパニーの甲羅、蟹座氏の写真×10      腕時計型麻酔銃(1/1)@漫画ロワ、麻酔銃の予備針×3、変化の杖、対戦車地雷×2、リュート@からくりサーカス、      ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃@トライガン、ドラゴンオーブ@AAA、ティーセット一式 、ソードサムライX@漫画ロワ 【思考】:  基本:ししょーは助ける! 主催者も倒す!  1:ししょーを助ける。  2:もう、絶対に迷わない! ※容姿は蟹沢きぬ(カニ)@つよきすです。 ※最高ボタンを押すと台詞がハクオロの声で流れます。シークレットボイスにも何かあるかも? ※身体能力は本気を出せば倉成武ぐらいの力が出ます。通常はカニ。 ※蟹見沢症候群について。  へこみのLvが5になった時、発祥します。発症した場合、自分を苛めたり辱めたりした者を優先的に殺します。(今は鳴りを潜めている様子) ※言霊『蟹座じゃないもん』は 現在ジョーカーの手で能力を完全に分離させられました。 ※蟹座氏のバリアジャケット姿がどのようなものかは以降の書き手に任せます。 ※『蟹座じゃないもん』を失う代わりにブラック系のマイナスステータスを完全回復しました。 ※蟹座であることを受け入れました。 ※バトルマスターを除いたギャルゲロワ書き手勢の力を扱えるようになりました。ただしそのたびに疲労が蓄積されていきます。 【ツキノン@GR1st】 【状態】:首輪無し 【装備】:鬼狩柳桜 【道具】: 【思考】: 基本:打倒WIKI管理人 1:ギャグ将軍と合流 2:蟹座氏を守る 3:???? ※主催側に反抗したため(自滅ですが)支給品に封印されていました。 ※何らかの主催側の情報を持っているかもしれません ※他お任せ ※羽入の力は使えます。 薄れ行く意識の中、ナナシは静かに思う。 心地よい繋がり、ギャルゲロワの仲の良さ。 自分達とて、周りで言われるように仲が悪いわけじゃない、むしろ互いを信じあってるからこそここまでやってこれたのだ。 だが、それでも羨ましく感じるほどに暖かかった、互いを信じあい、それぞれが親友のように助け合う。 「……すまない、みんな……俺は、あの絆を繋ぎたいと思ってしまった……」 『……それもまた、一つの道だろう』 「ああ……そう、だな……アナザー……道は、一つじゃない……」 その思いに、後悔はなかった。 【ナナシ@テイルズロワ 死亡】
蟹座氏は大蟹球を走る。 あのまま誰かが来るのを待っているだけでは何も変わりはしない、自分とてここまで生き残ってきた対主催の一人なのだ。 ……確かに今の自分は戦力として考えた場合、最も弱いだろう。 だからといって誰かに助けてもらうことを考えてなどいられない、自分は熱血書き手だ、そんなことで弱気になどなっていられない。 更に走る速度を上げようとするが、すぐに止まる。 「もう少し待っていてもらいたかったんだがな」 「ジョーカー……! どうして今頃!?」 「……ただボタンを押すだけで、勝手に時間を浪費してくれていた、わざわざ襲う必要もない」 「うぐっ……!」 改めて言われると非常に無駄な行為だったかもしれない……いやいや、結果を見ればそうだったかもしれないが、あれはそう間違った考えではないはずだ。 気を取り直し、蟹座氏は真っすぐナナシを睨みつける。 「ししょーはどこ!?」 「この先だ……だが、完全に改竄が終わるまでもうしばらくかかる……それまでお前に合わせるわけにはいかない」 「――っ!」 剣を構えて抑えていた敵意を開放しただけ、それだけで蟹座氏は数歩後ろに下がってしまう。 間違いない強者のオーラ、以前の蟹座氏ならばそれでも真っ向から受け止めていただろう…… だが、下がってしまった。体が、本能が勝てっこないと逃げ腰になる。 (ど、どうしちゃったんだよボク!? こんな簡単に下がるなんて! 前に別のジョーカーと戦った時にはこんなこと……!) 「……行くぞ」 自分自身に戸惑う蟹座氏に構わず、ナナシは蟹座氏へと斬りかかる。 咄嗟に『誓い』で受けるが、ソードサムライXの連撃にそのまま受けに回るしかなく少しずつ押されていく。 「絶・霧氷装……!」 「え!?」 ソードサムライXと触れている部分から『誓い』が凍り付いていき、蟹座氏の手のひらをも凍らせていく。 慌てて飛び退りながら左手は柄から放すことに成功するが、右の手のひらは柄に張り付いてしまい放せない。 そのまま凍結は進行していく、このままでは右手が、そしてそのまま全身が凍り付いてしまうだろう。 それだけは避けなければと、デイパックから鉈を引き抜き『誓い』の柄へと狙いをつける。 躊躇しながらも柄に向かって鉈を振り下ろし、『誓い』は凍りついた皮膚と僅かな肉を持っていきながら手放される。 それはテイルズロワでのミトスと同じ判断だ、右腕を持っていかれるぐらいなら武器を手放す。 「あっ……く……!」 だが――凍結の危機からは逃れられたものの、走る痛みに右手を押さえながら呻いてしまう。 それほど深い傷ではない、しかし、蟹座氏の心は手の傷以上に深く傷つけられる。 ――蟹座じゃないもんさえあれば。 この程度の怪我、亜沙の力ですぐ治すことができるのに。 いや、そもそも『誓い』をアイスソードやフランベルジュに変化させれば凍結すること自体を防げたはずなのだ。 自分を苦しめた力が、今はたまらなく欲しい。 「……蟹座じゃないもん」 ずっと言ってきた言葉なのだ、ずっと、ずっとこの言葉を言ってきた。この言葉が自分を繋ぎ止めていた。 けれど、その言葉はもう何も意味をなさない、自分が今まで使ってきた力はもう存在しない。 「まだ気づかないか。自分がいるロワそのものを否定していて、俺に勝てると思っているのか?」 「……え、ロワを、否定って……?」 突然ナナシからかけられた言葉の意味がわからず、思わず問い返す。 それを冷めた眼で見ながら、ナナシは口を開く。 「蟹座氏、それがあんたの名前。ギャルゲロワでつけられた、存在の証」 「あ……」 「それをあんたは否定してきた、蟹座じゃないもんの異能としての力を取り上げられた今でさえ、あんたはその名を、存在を否定している」 「ち、ちが……だって」 本当に蟹座じゃないのだから、それを訂正しただけ……そう口にしたいのに、言葉が出ない。 「あんたは自分の存在を、ギャルゲロワそのものを否定しているんだ」 「う、そだ……」 「蟹座じゃないもんの異能はそれを受け止める器の役割もしていた。それがなくなった今、あんたはギャルゲロワを否定するだけの、書き手でさえない存在だ」 「そんな……嘘……あ、ああ……」 初めての作品で、仇というしがらみに囚われていた参加者を和解させたのも、 大好きな人のために必死で頑張り抜いた少女を書いたのも、 疑心暗鬼の闇に逃げ込んだ青年を諦めずに説得させて見せた妻を書いたのも、 誰の言葉も聞かずただ復讐鬼の道を歩んでいた少女を決死の行動で改心させた青年を書いたのも、 死に行く最期、最高の親友の仲間であれた青年を書いたのも、 負傷を乗り越え不屈の精神で復活したのも、 全部――全部自分が否定した!? 「ぁ……ボ、クは……いや、ちがう……」 ……言うまでもなく、蟹座氏がギャルゲロワを否定したことなどありはしない。 ならば何故ナナシの言葉にここまで心を抉られているのか? それはナナシの異能『姿無き縁の下』によって、自分の異能を七氏の異能『闇に囁く言葉責め』と繋げたからだ。 繋げただけで本来の力である過去の改竄までは使用することができない、だが相手の心を抉るだけならそれで十分。 「違う、違う……」と蹲りながらただ呟き続けるのみの蟹座氏目掛け、ナナシは剣を振り下ろ―― 「神の世界、展開!」 「……え、あ、あれ……?」 ナナシの、世界の時が止まり、困惑する蟹座氏の前へ少女が駆けつける。 その姿を見て、蟹座氏は驚きと歓喜が混ざった声でその名を呼んだ。 「うっかり氏!?」 「ツキノです!」 確かに、ギャグ将軍を追っていたはずのツキノンがここにいるのは「うっかり」道を間違えてしまったからではあるのだが。 それはそれとして、ツキノンはずりずりと蟹座氏を引きずってナナシの間合いから放す、ゲームとは違い実体があるからこそできる技だ。 「よっと……蟹座氏、大丈夫ですか?」 「ツキノン……ボク、ボクは……」 「……話自体は少し前から聞こえていました、ごめんなさい。結界によって神の世界の効果範囲も狭まっていて助けるのが遅くなりました」 「……助けてもらう資格なんて、ないよ」 「蟹座氏……!」 彼女を知ってる者からすれば信じられないほどに、蟹座氏の表情は暗い。ナナシの言葉は蟹座氏の心を打ち砕いていた。 ツキノンが何か言葉をかけようとするが、それよりも早く神の世界が解かれ、ナナシの剣を鬼狩柳桜で受け止める。 「時止めの力が、そう長く使えると思ったか」 「くっ……! 一度に止められないのなら、連続で使うまでです、神の世界!」 神の世界が再び展開されていき…… 「パッと行く!」 ナナシは動きを止めずに斬りかかる。 慌てて剣を受け、苦渋に満ちた表情でナナシを見る。 「二つ目の異能ですか……!」 「厳密には違う。『パッと行く』はテイルズロワの人間ならば誰もが知り、使える特技だ」 テイルズではお馴染みのシステム、イベント時遠く離れた町などまで一瞬で行ける「パッと行く」 この力で「神の世界が切れる時間まで」自分を移動させたのだ。 ……稀になくなっていたりするシステムだったりもするのだが、そこは突っ込んではいけないところである。 「『投下早撃ち』と繋げてもよかったが、こちらの方が確実だったからな。不意打ちじゃない限り、神の世界は俺たちには効かない!」 「っ……! なら、蟹座氏は『みんな』に任せるしかないようですね……!」 「なに?」 ツキノンの言葉に蟹座氏の方へ視線を向ける。 蟹座氏自身は相変わらず蹲っているだけだったが、その背後に何人もの人影が現れていた。 「あれは、ギャルゲロワの!? く、管理者の力を使ったか!」 「貴方の相手は私がする! 来なさい人の子よ!」 ◇ ツキノンが戦ってる……ボクの代わりに…… 手伝わ、ないと……だけど、今のボクじゃ足手まといにしかならない…… ……それに、ギャルゲロワを否定したボクなんかが、ツキノンと一緒に戦う資格なんて…… 「いつまでうじうじしてんのよあんたは!」 「ふやっ!?」 自ら心を閉ざそうとする蟹座氏の後頭部に、何者かの拳が炸裂する。 「お、落ち着け沙羅さん! じゃなかったtu4氏!」 「放しなさいー! こんなイベントの最中自分から動こうとしないなんて! アレね! 今まで目立ってたから別に動かなくたって空気化なんてしないだろー、とか思ってるんでしょう!? これだから人気キャラはー!」 「だから落ち着けと……! 首を刎ねますよ!?」 突然目の前で始まったどつき漫才を、蟹座氏はぽかんとした表情で見つめる。 沙羅さんもといtu4氏を初め、何人かは初めて見るがギャルゲロワのみんながそこにいた。 以前バトルマスターを殺してしまい、自殺を図った時と同じように…… ステルス鬼畜や頭脳戦に抑えられてるtu4氏は置いておき、最速の人が蟹座氏へと口を開く。 「あー、こほん。蟹座氏、立てますか?」 「最速氏……ボク、は……」 「……私は以前言いました。蟹座を否定している姿が萌え……げほん、蟹座氏のあるべき姿だと」 「それは……違うんだよ、ボクは、ロワ自体を、みんなを否定し続けて……」 「しっかりしなさい蟹座氏! あのような男の言葉に惑わされてどうするのですか!」 最速の人の言葉にも蟹座氏は立ち上がろうとしない。彼女の心はそれほど深く抉られているのだ。 見かねたお姉さま達が近寄ろうとするが、それよりも早く、一人の少女が口を開く。 「本当にそうだったのかな?」 「え……」 「本当にマイ――蟹座氏はその名前を否定してただけだったのかな?」 蟹座氏はその銀髪の少女の姿に見覚えがあった。 666の策略によってバトルマスターに襲い掛かり、ギャグ将軍に気絶させられた時にロリカードと共に自分の夢へ現れたあの少女だ。 あの時とはまったく違う、優しい口調で蟹座氏へと問いかける。 「そ、そうだよ! ボクは一度も認めたことなんてない……! 慰めなんてよしてよ! 誰だか知らない、け……ど……?」 「本当に?」 三度問いかけられる。 そして、その問いに同じ答えを返すことができなかった。 記憶の片隅で何かが語りかけている。自分は覚えていると、この少女の言っていることへの本当の答えが別にあると! それに――この少女のことも、自分は知っている! 「ボク……違う、『私』は……!」 「……ん、思い出せたかな♪」 「そうだ、私……一度だけ」 それは本来知りえないはずの時の記憶。 更新されていった記憶の中で、蟹座氏はたった一度だけそのことを認める言葉を発したことがあった。 「だ、だけど……それだけじゃ、否定し続けてきたことに変わりは無いよ……」 「違うよ。一度だけでも、最後の最後で認めたんだ、それは今までの否定を覆す。そもそも――否定なんて、してたのかな?」 「あ……!」 真っ向から蟹座氏の思考を否定したところで、外から傷つけられた心を治すことはできない。 少女は問いかける形で、内側からその心を癒そうとする。 これが七氏によってつけられた傷ならばそれでも言葉が届かなかったかもしれない。 だが、不完全な『闇に囁く言葉責め』では完全に心を打ち砕くことはできていなかった、故に言葉が届く、傷が癒えていく。 「あんな言葉に惑わされちゃダメだよ……頑張って……!」 「うん……!」 その返事に少女は嬉しそうに微笑みながら、一歩後ろへと下がる。 代わって最速の人が蟹座氏へと手を差し出す。 「さあ、こんなところで落ち込んでいる場合じゃないですよ。バトルマスターを助けるのでしょう」 「最速氏……うん! あ……だけど、今の私じゃししょーには……」 「にゃはは、大丈夫だよ蟹座氏、僕たちも一緒だから!」 「蟹座氏、あなたは一人じゃない、私達がついてるよ」 「汚れなき愛氏、お姉さま……」 瞳を潤ませる蟹座氏へ次々と手を差し出していく。 蟹座氏も手を伸ばし……お姉さま達の体が透けていき、蟹座氏の心へと入りこんでいく。 ―よし決めた! 私、お姉様のために奉仕する!― ―待っていて下さいお姉さま。貴女のために、私頑張ります― 最後の最後まで、お姉さまを想いながら戦った汚れなき愛。 ―その首、刈り取らせていただきます― ―あっ、そうだ。孔明さん― 自身の頭脳を生かし戦い、それを超える頭脳の前に散っていった歩く頭脳戦。 ―俺こそが岸田、俺こそが最強の岸田だよ― ―ルールがあるからこそスポーツもゲームも面白いものだろう!― 道こそ間違っていたものの、自分の望む道を貫き通し、自身の熱意をはっきりと示したステルス鬼畜。 ―この殺し合いを生き抜いて見せるんです!― ―そのままの……君が……好きなんだ、みんな……だから、決して憎まないでくれ― 真っ向から死亡フラグと戦い続け、仲間を守るため、確定的な死へも自ら踏み込んでいったギャルゲロワ版最速の人。 ―じ、じ実に申し訳ない!! 某とした事がとんでもない勘違いを!!!― ―なんと言われようとも…。某は貴殿を止めねばならぬ!― もはや言うまでもない「うっかり」を続けながらも仲間を守り続け、仲間を信じ続けながら死んでいった永遠のうっかり侍。 ―なら……力を貸して! 理想を貫く為に! 皆を助けられる力を!― ―ずるいよ。あんな顔されたら、倒せるわけがないじゃない……― 不幸な目に合いながらも真っ当な対主催として戦い抜き、最後はその優しさの下倒れたお姉さま。 ―見せてあげる……空気王と呼ばれた私の本当の力、空気キャラの戦い方を!― ―私が自分で選んだ道よ。あんたに悲しまれる謂われはないわ― 全ては空気キャラのため、全ては空気から逃れるため、その想いは誰よりも真っ直ぐだった予約被りのtu4氏。 このロワで散っていたギャルゲロワのみんなが、対主催もマーダーも関係なく蟹座氏へ力を貸していく。 ――そう、それはまさに蟹座氏が目指していた、ギャルゲロワの最終回のように。 「……だけど、まだ足りない」 「そう、マスターが欠けていては、全員での最終回はありえない……」 一人残った少女が手を伸ばす。 「ボクじゃマスターの代わりにはなれない。それでも蟹座氏を……妹者を支えることは、できるから!」 「うん……力を貸して、兄様!」 ◇ 「絶空裂氷撃!」 「あぅっ!」 無数の氷柱がツキノンを吹き飛ばす。 神の世界が通じない以上、剣技ではナナシの方が圧倒的に上だ。 更に、今のナナシの獲物はソードサムライXではなくソーディアン・ディムロス。テイルズロワでも最終戦までヴェイグの相棒を務めた剣。 圧倒的な力の差を前にし、ふらつきながらも鬼狩柳桜を構えるが数合打ち合っただけで刀を弾き飛ばされてしまう。 「終わりだな」 「くっ……! ソーディアンも持ってきていたなんて……」 「ツキノン!」 ナナシとツキノンの間へと滑り込むように、鉈を持った蟹座氏が滑り込むように割り込む。 その瞳にはもはや迷いはない、あるのはただ――前へと進もうとする、強い意志! 「下がってツキノン。後は……私が戦う!」 「蟹座氏……戻ったのですね」 「もう私は逃げない! みんながついていてくれるから!」 「嘗められたものだな……永遠神剣でさえないただの鉈で勝てると思ったか」 ナナシがディムロスを振るうが、蟹座氏は鉈であっさりと受け流して反撃する。 慌ててバックステップをし反撃を回避したつもりだったものの、前髪がいくらかもってかれてしまう。 明らかに今までの蟹座氏とは比べ物にならない技量に驚愕し、ナナシは何が起こったのかを悟った。 「蟹座じゃないもんによる能力変化か……!?」 「惜しいかな、私自身の力じゃないってところは合ってるけど……だけど、もう否定はしないって決めたんだ」 『剣術なら某に任せてくだされ! ジョーカーなどに負けはしませぬ!』 蟹座氏の姿にうっかり侍の姿が重なって見える。 それは否定することで得た力ではない……受け入れたことで、肯定することで得た力! 「いくよ!」 「く……凍れ!」 駆け出そうとした瞬間、氷のフォルスによって蟹座氏の手足が凍りつく。 身動きできなくなったと思ったのも一瞬で、その氷はすぐさま砕け散りナナシの顔が再び驚愕に染まる。 『願って! 純粋な気持ちで想い続けるんだ! そうすれば桜は応えてくれる!』 桜の魔法の力で氷を砕きながらナナシへと突き進み、ナナシにも劣らないうっかり侍の剣技で攻め立てていく。 ここまで来れば、ナナシも蟹座氏に何が起こっているかに気づく。 『真正面から行くだけが戦いじゃありませんよ、周りの地形を利用して!』 『あえて退き、油断したところを殺る……これもステルス思考のちょっとした応用だ』 ナナシが反撃の糸口を掴もうとする絶妙なタイミングで蟹座氏は退く。 ギャルゲロワ二大頭脳派の戦略を覆すのは容易じゃない。 「ならば、ディムロス!」 火球を放ち蟹座氏の足を止め、そこへ斬りかかる。 当然受け止められるが、それこそがナナシの狙いだ。 「絶・霧氷装!」 「っ!」 同じ目に合うわけにはいかないと即座に鉈から手を放す。 だが――この状況で武器を捨てるのは余りにも無謀。 「もらっ――何!?」 ナナシがディムロスを振るうよりも速く、 まるでどう動くかが分かっていたかのように速攻で蟹座氏はその場から離れていた。 『その程度死亡フラグとさえ言えないぞ! 私を殺ろうと言うのなら女子高生をもってこい!』 だが蟹座氏に武器はない、ケリュケイオンの攻撃魔法では威力は低いし、後無事な武器はツキノンの刀のみのはず。 一瞬だけツキノンへと視線を移し、その隙に蟹座氏は素手でナナシへと突っ込む。 「なっ!?」 『行くよ、蟹座氏!』 「うん、お姉さま!」 武と同じ身体能力、そこに中国の強化された腕力がプラスされた拳がナナシの腹へと突き刺さる。 体をくの字に折り曲げ、辛うじて倒れるのは堪え―― 『こいつ空気王に似ててやりづらいのよねぇ……ああもう、仕方ないから力を貸してあげるわ! しっかり決めなさい!』 「う、うん! ダークインパクト!」 至近距離から放たれた闇の衝撃波に吹き飛ばされる。 ちなみに、最後の方でヴァッシュが空気化から抜け出したためにエンジェルアームは使えないらしい。 蟹座氏は倒れ伏すナナシを見ながら、荒くなっていた息を整える。 他作品の能力を扱う、tu4氏や影の繋ぎ氏のような元々の能力ではない以上、疲労というリスクが付いていた。 「蟹座氏、大丈夫ですか?」 「うん……ありがとうツキノン」 それでも蟹座氏は前を見続ける、もう止まらない、迷わないと誓う。 ツキノンから鬼狩柳桜を受け取りそれを構える。 『誓い』と鉈は今だに凍りついたままだ、動かないがまだナナシは意識を失っていない。 油断もしないようだと思い、ナナシはふらつきながらその場に立ち上がる。 全身が傷つきながらもその闘志は衰えていない、決意を新たなにした今でも、気圧されてしまいそうだ。 「まだだ、この程度で倒れるほど柔じゃない……!」 「ツキノン、できるだけ下がって……何か、来る」 高まり続けるナナシの闘志に危険を感じ、装備の無いツキノンを下がらせる。 構える蟹座氏目掛け、ナナシはディムロスを構え駆け出していく。 「ディムロス、力を貸せ!」 ナナシのから発せられる青い光と、ディムロスから発せられる赤い光が混ざり合う。 それはテイルズロワ最後の戦いで放たれた技、全てを打ち砕く必殺の一撃。 『これは……!』 『燃え盛れ、紅蓮の炎ッ!!』 その動きと闘気に思わずうっかり侍が呻き、同時にディムロスから強大な火炎が波のように放たれる。 「……楽に死なせはしないッ!!」 桜の魔法で炎を消すより速く! 最速の人が死亡フラグを感知するよりも速く! 頭脳戦とステルス鬼畜が対抗策を考えるよりも速く! ナナシは蟹座氏の懐へと飛び込み、ディムロスを振るい続ける! 蟹座の黄金聖闘衣に亀裂が入る。 バリアジャケットの防御をできる域などとっくに超えている。 黄金聖闘衣に守られていない部分が傷ついていき、その黄金聖闘衣の亀裂も全身へと広がっていく。 弓を引き絞るかのようにディムロスを引き――止めの一撃を繰り出す! 『「奥義!! インブレイスエンドッ!!!」』 黄金聖闘衣が砕ける、バリアジャケットがはじけ飛ぶ、 ギリギリのところで最速の人が蟹座氏の身を捻らせ直撃を避けるが、それでも剣はわき腹に突き刺さり衝撃で蟹座氏の体は吹き飛ばされる。 確実に致命傷になる一撃だ、だが桜の魔法による治療の可能性を考え痛む身体を振るい起こしてナナシは駆け出そうとする。 『つらいよね、苦しいよね』 全身を激痛に襲われながら、蟹座氏は汚れなき愛の力を使おうとしてはいなかった。 『だけど、頑張ろう。今なら、君を支えられるから!』 その力は、本来このロワの全ての力を集めてもありえない力。 承が感じ取り、コロンビーヌが呼び出した、ここに集められていないはずのロボロワの力。 『「IS――ランブルデトネイター」』 その呼び出された力とは――『金属を爆弾に変える力』! 『「発動!」』 砕け散り、ナナシの周囲へと降り注いでいた黄金聖闘衣。 その破片全てが、一斉に爆発しナナシを襲う! 「――――!?」 氷のフォルスも間に合わず、悲鳴すらもかき消してナナシを爆発が包み込む。 そして―― 「心地いい、繋がりだ……あんた達なら、対主催ENDへの道が、繋げるかもな……」 楽しそうに微笑み、その場に崩れ落ちた―― ◇ 「もう動いても平気なのですか?」 「なんとか……時間もないし、ししょーを助けないと……」 ツキノンに肩を貸してもらいながら、蟹座氏は歩き続ける。 桜の魔法で傷の治療は行ったものの、その表情は険しい。 管理人の力を持ってしても、死者や外部介入には限度限界はあった。 疲労は増加し、桜の魔法も効果が薄れてきている。お姉さま達と会話することも不可能なようだ。 それでもみんなの力を使うことは可能だが、ロボロワの力はすでに失われてしまっている。 回収した核鉄で回復させているが、今だバトルマスターと渡り合うにはつらい状況、それでも蟹座氏は止まらない。 「私達は、一人じゃないから……!」 【2日目 深夜】【D-7 大蟹球フォーグラー内部・HIMMEL付近】 【蟹座氏@ギャルゲロワ】 【状態】:健康、首輪解除、疲労(極大)、折れない決意 【装備】:体操着(ブルマ)、鉈、永遠神剣『誓い』(鉈型)、ケリュケイオン+バリアジャケット@なのはStS 【道具】:支給品一式(食料全て消費)×5、最高ボタン、カードデッキ(シザース)@ライダーロワ、閃光弾、まふうじの杖、バッド・カニパニーの甲羅、蟹座氏の写真×10      腕時計型麻酔銃(1/1)@漫画ロワ、麻酔銃の予備針×3、変化の杖、対戦車地雷×2、リュート@からくりサーカス、      ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃@トライガン、ドラゴンオーブ@AAA、ティーセット一式 、ソードサムライX@漫画ロワ 【思考】:  基本:ししょーは助ける! 主催者も倒す!  1:ししょーを助ける。  2:もう、絶対に迷わない! ※容姿は蟹沢きぬ(カニ)@つよきすです。 ※最高ボタンを押すと台詞がハクオロの声で流れます。シークレットボイスにも何かあるかも? ※身体能力は本気を出せば倉成武ぐらいの力が出ます。通常はカニ。 ※蟹見沢症候群について。  へこみのLvが5になった時、発祥します。発症した場合、自分を苛めたり辱めたりした者を優先的に殺します。(今は鳴りを潜めている様子) ※言霊『蟹座じゃないもん』は 現在ジョーカーの手で能力を完全に分離させられました。 ※蟹座氏のバリアジャケット姿がどのようなものかは以降の書き手に任せます。 ※『蟹座じゃないもん』を失う代わりにブラック系のマイナスステータスを完全回復しました。 ※蟹座であることを受け入れました。 ※バトルマスターを除いたギャルゲロワ書き手勢の力を扱えるようになりました。ただしそのたびに疲労が蓄積されていきます。 【ツキノン@GR1st】 【状態】:首輪無し 【装備】:鬼狩柳桜 【道具】: 【思考】: 基本:打倒WIKI管理人 1:ギャグ将軍と合流 2:蟹座氏を守る 3:???? ※主催側に反抗したため(自滅ですが)支給品に封印されていました。 ※何らかの主催側の情報を持っているかもしれません ※他お任せ ※羽入の力は使えます。 薄れ行く意識の中、ナナシは静かに思う。 心地よい繋がり、ギャルゲロワの仲の良さ。 自分達とて、周りで言われるように仲が悪いわけじゃない、むしろ互いを信じあってるからこそここまでやってこれたのだ。 だが、それでも羨ましく感じるほどに暖かかった、互いを信じあい、それぞれが親友のように助け合う。 「……すまない、みんな……俺は、あの絆を繋ぎたいと思ってしまった……」 『……それもまた、一つの道だろう』 「ああ……そう、だな……アナザー……道は、一つじゃない……」 その思いに、後悔はなかった。 【ナナシ@テイルズロワ 死亡】

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