ながされて藍蘭島エロパロSS

 

『寝取られて』 第17話

 

 

 

 

 

 

 

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 悪夢はその日訪れず、久しぶりによく眠れたためか行人は爽快な朝を迎えることができた。回数だけに限れば嫌な夢を見ない日の方が多いのだが、その影響は計り知れない。悪夢のせいでこの頃寝覚めが悪くなっているのは確かだし、そのせいで躰が重かったりもする。スッキリした気持ちで起きることができるのは何よりも有り難いことだった。

 蒲団を片付けて水を汲みに行き、朝稽古、掃除、朝食と済ませる頃には空はすっかり明るくなっており、仕事に行く時間だ。すずが弁当を作ってくれるため昼食の心配をしなくていい。朝から甲斐甲斐しく働くすずの姿を見るといつもホッとさせられる──と、行人は安堵にも似た気持ちを抱くことができた。

 それにしてもこの頃のすずはすこぶる機嫌が良く、行人とは真逆に身のこなしも軽やかに掃除や洗濯に勤しむ姿が妙に印象的だった。

「すずさ……何か嬉しいことでもあった? 最近、やけに浮き浮きしてる気がするんだけど」

 弁当である笹の包みを受け取りながら行人がそう尋ねると、

「え? そう見える?」

 すずはニコニコしたままそう答えた。その笑顔が透き通るぐらいとても目映く、今まで以上に綺麗に見えてしまい、質問した行人の方がドキッとして慌てて目を逸らしてしまったぐらいだ。やっぱり何かあったのかな──と、何かが行人の心をかすめたが、それが解るはずもなかった。

(でも一つだけ言えるな)

 こんなに上機嫌で明るいすずにぱん太郎の魔の手が及んでいるなど到底考えられない。良くない事があればもっと様子がおかしい筈だ。すずがパン太郎に抱かれているだなんて──あんな突拍子もない光景が正夢であるなどというのは実に下らない妄想だという裏付けになる。

「すずの方は今日の仕事決まってるの?」

「うん」青リボンの少女は台所を片付けながら答えた。「今日はみちるちゃんの赤ちゃんの子守りだよ」

「そう……頑張ってね」

 子守りを任せるということは、ひょっとして──行人はそれ以上考えを進めず、ウェストポーチに笹の包みと水入りのペットボトルを入れて家を出た。ウェストポーチは家出した時の持ち物の一つで、ペットボトルはすずの家が建つ崖から降りてすぐの海岸を少し歩くだけで、大して時間もかけずに洗えば使えそうなものを拾える。

 以前、行人はちかげが愛蔵している外界の雑誌を借りた時に海のゴミに関する特集を読んだことがあるが、世界各地の海岸に打ち寄せるゴミの山の写真は想像以上の悲惨さを伝えていた。木材なども漂流物になるが、酷いのはプラスチックやビニールの類だ。金属でさえ時間をかければ錆によって分解される。だがプラスチックは水で分解されにくいからいつまでも海上を漂い、いずれどこかの海岸に打ち上げられる。海流によっては酷いところは砂浜ではなくまさにゴミ浜となってしまう。そうなると景観だけではなく生態系すらも破壊しかねないらしい。

 藍蘭島は幸いなことに比較的そういったゴミが流れ着きづらいようだったが、それでもちかげが収蔵する漂流物は増える一方で、定期的にパナ子の怒りを誘って捨てられるほどだから、十年百年という長いスパンで眺めればかなりの量のゴミが到来しているのかもしれない。

(それにしても、中学生のボクが仕事に出掛ける──ね)

 家を出て道を歩き始めた行人は、やれやれと苦笑まじりの溜め息をついた。我ながら学校の皆んなより一足早く社会に出た気分である。もし家出などしなければ、今も親に養われながら相変わらずの学校生活を送っていたことだろう。義務教育というやつだ。社会人になるのはまだ何年も先の話で、どんな職業に就きたいかも今は漠然としか考えられなかったはずだ。

 ところがこの島では働かざるもの食うべからず、行人も仕事をすることになった。無論、今の役目を終生の稼業にする気はない。この島に永住するつもりもまだなかった。いずれは本当にやりたい事が見つかるはず。

「行人ー、いってらっしゃーい」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、爽やかな朝の光が差す戸口にすずが立って手を振っていた。心温まる朗らかな笑顔。藍色の服と凹凸も豊かな肢体。やはりどこか美しくなったような雰囲気──。

「うん、行ってくる!」

 行人は手を振り返した。可愛くて元気なこの青リボンの少女を見ていると力が湧く気分になれる。あの笑顔を守りたい。大切な存在を守りたくなる。彼女もきっとぱん太郎なんか眼中にないはずだ、と行人は信じている。毎日甲斐甲斐しく世話してくれて、家族のように親しく接してくれる子が、こうして別れた後、アイツの元に走って娼婦のように変貌した眼差しで股を開き、ヌルヌルになったアソコに苦もなく巨根を受け入れて合体し、男女の享楽を貪って逝きまくった末、アイツの中出し種付けをたっぷりと受け止める──そうやって連日のように溢れるほど溜め込まれているアイツのザーメンが今もすずの胎内に充ち満ち、子宮の中では夥しい数のアイツの精子が泳ぎ回っている──

 そんなことあるはずもないだろう。実にくだらない幻影だった。

「今日もいい天気になりそうだなー」

 再び前を向いて脚を動かしながら行人はそう呟いた。

 

 

 だから、揚々と鼻歌など唄い始めたその後ろで、戸口で見送っていた少女の背後が黒い影に覆われ、何かに引っ張り込まれるようにして急にその姿が家の中に消えたことなど。

 

 その時、忘れ物でもしてそれを思い出し、踵を返していれば──

 

 いや、もうひと目彼女の姿を見たいと振り返りさえしていれば。

 少年は今考えた通りの光景を目撃できたのだ。

 

 ほんの数十秒前まで光り輝くような純真な笑顔を見せていた少女が、彼の弁当を作っていた台所に手をつき、痴漢されるように後ろからあの大男にからだをまさぐられている光景を──。

 

 だが、突然の出来事に驚きながらも男の愛撫を拒絶せず、早くも反応しだしている態の少女がそこにいた。股布をずらされ弄られ出した秘裂から、前日に注がれていた白い体液がコポコポと溢れながら震える内股を伝い落ちて──。

 「あっ、だめっ、まだ行人が……」と少女は声を震わせながらも、愛撫されるからだは切なくわななき、胸元に手を突っ込まれて乳房を揉まれると、指先で数回擦られるだけで「にゃあんっ♥」と気持ち好さそうな声を漏らし、弄られた乳首が固く膨らんできてしまう。間近でこの男の体温を感じ、体臭を嗅ぎ、その大きな手で求められるように肌を撫でられるだけで、もう──条件反射的に気持ちが昂ぶって来てしまう。カッとからだが熱くなってしまう。

 昨日も屋敷へ夕食の支度の手伝いに出向いた際、その日の“一日妻”であった娘たちを気絶させるまで抱いた男がふらりと厨房に現れ、台所で調理しているところへ後ろから抱きすくめられ、今とまったく同じ体勢で少女は愛された。庖丁を置いて台に手をついた少女は、男が体内に侵入するがままに乱れた喘ぎ声を発し、二人はそうして立ったまま下半身を繋げ合って数回も連続して果てたのだ。

 そうして膣いっぱいに男の精子を満たした少女は、そのまま少年の待つこの家へ帰宅した。

 行人の妄想は妄想ではなかった。彼が目にしていたすずの肢体の奥では、実際にオス臭い体液が溢れるほど残留していたのである。すずの子宮内はぱん太郎の精子で充ち満ちていたのである。

 その時のようにあっという間に騰がる吐息。からだの奥から湧いてくるいやらしい気分。男の腕が届く限りの肌を愛撫されているうちに、すずは少年には見せたこともない淫惑に烟(けぶ)る顔つきになってゆく。外から丸見えなのにも関わらず、男から促される前に自分から腰を突き出して股を拡げてしまう少女。

 行人とはまだ百メートルも離れていない。声が届きそうな距離で早くも挿入され、いきり立つ剛塊が苦もなくぬるぬると秘肉の中に呑み込まれてゆくと、すずの喉から歓喜に潤んだ媚声が発せられた。

 ──だが、少年の背中に気付いた気配はなく。

(行人ぉ……♥!)

 遠ざかってゆく後ろ姿を快感に抗えない目で眺めながら、傘の広い逞しい巨根が陰洞の肉壁をたっぷりと擦って往来するたまらない感触に、青リボンの少女は正常な意識を急速に削り取られてゆく──

 子宮まで届く亀頭が少女の膣奥にあった精液の残り汁をグチャグチャと掻き回す。それはそもそもが少年に向ける切ない眼差しに相応しくないほどの量であった。入り口から最奥まで少女の膣内でオス臭い精子が染み込んでいない箇所はなく、ぱん太郎という性慾の権化によって開発されまくったメス肉の淫窟と化していた。

 最奥のさらに奥──子宮内もまた、ぱん太郎の精子群が当たり前のように闊歩する繁華街であった。この何ヶ月間かずっと、バイタリティの塊のような精子に絡め取られた少女の卵子が連れ込まれるラブホテル状態の愛部屋になっている。

 膣も子宮も違う男の体液と匂いで満たされながら、この一週間だけでも指折りでは数えられないほど放出されたザーメンの重みや温かみを意識の片隅で常に感じ取りさえしながら、少女は少年に笑顔を送っていたのである。

 ──もっとも、それはここ最近の話だけではなく、男との関係が始まった数ヶ月前からずっと続いているのであるが。

 量さえ問題にしなければ、ぱん太郎の放った白濁がすずの膣粘膜にこびり付いていない日は一日たりとてなかった。すずの子宮内にぱん太郎の精子が存在していない時は一時間たりとてなかった。

 それに元より、そこに少年の存在が至ったことは一度もない──性的な行為一つしたことがない。逆に、少女とぱん太郎が理性を無くすほど性器同士を一体化させた回数は、もはや三桁に達しているとしか分からないほどであるが。極太の巨根がずっぽりと難なく填まるまで拡張され、秘洞の型はぱん太郎の肉棒の形に適するまでハメられ抜き、柔肉粘膜はぱん太郎の精液の味しか知らなかった。少女の秘陰はぱん太郎好みに開発され、絶頂とその気持ち好さもぱん太郎に教わり、何から何までぱん太郎一色に染められた。

 最近ではぱん太郎がヤリたいと思って近くにすずがいれば、三十分もしないうちに数回以上逞しい肉棒と種付けを味わって快楽の霧中を彷徨っている少女の姿がある。彼女のからだはぱん太郎の所有物のように扱われているも同然で、しかし──すず自身がそれを許していた。

 行人といても決して得られない経験。逞しい男に抱かれる悦び。からだの芯まで溶けてしまいそうな、気がおかしくなりそうなほどの昂揚感、満足感、至福感──。

 そして──少女は無垢で清らかだと信じている少年の想いとは裏腹に、ぱん太郎に専有されているのはオマンコだけに留まらなかった。その奥の聖域のさらに奥で最後に残った宝石のように秘められた少女の卵子すら、本人同様、何度も何度も徹底的に貪り食われていたのだ。

 行人が表の入り口にも辿り着いていない時点で、最終地点にあるすずの生殖ゴールテープはぱん太郎にむしり取られて無残に破り捨てられ、優勝賞品はぱん太郎に独占されていた。

 清らかさの欠片もない淫蕩なセックスの果てに、肉慾にまみれた愛で結ばれたすずとぱん太郎の受精卵が何度も生み出される場所。着床が上手く行っていないからこその毎月の受精だったが──本人たちと同じく、回数を経るにつれ運命を感じ始めたかのようにぱん太郎の精子とすずの卵子は引き合って接触するようになり、よりなめらかな愛の工程を育んでいた。

 もしも行人がこのミクロの世界を覗くことが可能だったならば、野蛮さすら感じる力強いオタマジャクシの群れに覆われてウニのようになったすずの卵子が激しく輪姦されながらも歓喜を覚えているかのように喜びのダンスを踊り、ぱん太郎の遺伝子によって受精が完成し、すずとぱん太郎が一つになった生命が誕生する様を観察できたことだろう。

 しかも月に一度必ず、である。

 大切に想っている少女の分身までもが憎い男に食い散らかされている。憎い男の遺伝子と愛の結合を果たして新しい命を創造しようとしている。その事実の現場をもし知ってしまったとしたら、少年が陥る絶望の深さはどれほどであろうか──。

 あと一歩で、あと一押しですずは子宮の隅々まで完全にぱん太郎の精髄に征服し尽くされ、清純さも仄かな幸せも少年への想いも……何もかも奪った男の子供を宿し育む母胎に生まれ変わろうとしていた。

「イクト君気付きもしないね。振り返りもしないね。すずちゃんがこんなになってるのに」

 ほぼ密着状態で余裕綽々に腰を打ち付けながら愉快そうに言うぱん太郎。パチュンパチュンと粘つきのある音は、繋がった部分から飛び散る淫液が早くも結合部とその周囲をぬるぬるに濡らすほど広がった証拠だ。

「ふにゃあぁぁん……♥」

「よし、アイツの姿がまだ見えるうちに出すよ。もしかしたらこっち振り向くかもだけど、それでもすずちゃんのナカにボクの精子注ぎ尽くしちゃうからね」

「…………うん♥」

 行人の姿が道の彼方に消える前にすずの胎内で早々と熱い肉棒が弾け、ビュクビュクと新たなザーメンの大量追加が始まった。ぱん太郎のされるがままにその灼熱の飛沫が下腹の奥深くに強く打ち付けられるのを、男の手が腰から離れてもじいっと動かず感じ続ける少女。それどころか淫らに蠕動する膣襞で射精中の肉棒を搾り上げすらする。

(うにゃああっ……にゃあぁぁっ……♥! い、行人ぉ……私、私、もう……♥! このヒトの赤ちゃん……孕みたくてぇ…………♥!)

 本人が意識しなくともその発情した顔は淫靡の泥沼に沈んでゆき──失望の色はなかった。たとえ少年が引き返して来て今この瞬間を見られたとしても、青リボンの少女は男から身を離さず、膣奥にドクドクと子種を浴びせられるままだったかもしれない。

 微かに諦めのような気配もないでもなかったが──それよりも全身を満たされる充足感や己を求められる幸福感が色濃く勝り、それら抗い難い甘美な感覚に浸った瞬間、道の向こうに見える人物は少女の視野から──頭の中からすらも掻き消えてしまった。すずはうっとりと目を瞑って本能と肉体の歓喜にすべてを委ね、火傷しそうなほどに熱い剛棒と射精の脈動を心地好く感じながら強く締め付け返す。自分を求めてくれる、自分を孕ませたくて仕方がないというその熱意に嬉しさと愛しさがこみ上げ、メスの官能がこみ上げ、自分からも受胎を乞うように腰を押し付け、秘肉をこれでもかとばかりに締め付ける。美味しそうに熱々の精子を啜(すす)る子宮口。

 たったの数分間で娼婦に──少年ではない男の肉棒と精子を欲しがる娼婦に変貌する美しい少女──。

 今度は白濁が飛び散る結合部も丸見えの、土間に足をついて框に寝転がったぱん太郎の上にすずが跨ったかたちで、乳房を揉まれながら夢中で腰を振る姿が開け放された戸口から覗(うかが)えたが、それでも行人が気付くことはなかった。お互いに背を向ける形となって距離が離れてゆくすずと行人。だが少年はむしろすずへの信頼感も新たに、彼の妄想がこの上なく実現している家から遠ざかっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   2

 

 

 

 集落を通り抜ける道すがら、まさに当人の家の横を通り掛かる時、行人は嬰児をおぶったオババとばったり行き会った。

「おお、行人か。相変わらずそうじゃの」

「こ、こんにちは。オババ様もお元気そうですね」

「元気も元気よ」

 齢百歳(ももとせ)を引いてもまだ行人の倍以上を生きているという村の最長老は大して曲がっていない背を反らし、晴れ晴れと澄み渡る青空に向かってカッカッカッと高らかに哄笑した。

 この村の開拓者の一人であり、百年以上前に難破した蒸気船アイランド号の生き証人なのだから度を越している。十九世紀を見知っている人間なんて、世界広しと言えどももうこの人しか現存していないんじゃないだろうか──と、行人は思う。

 しかもその大老婆がまだ一歳にも満たない赤子をおぶっている。何世代離れているんだ……。

「女たちが次々と産むわ孕むわ身重になるわ、疲れる暇もありゃしないわい。今も朝一でりんとみことの診察に行って来た帰りよ。二人とも安定期に入ってだいぶ落ち着いてきたわ」

「……そ、そうですか……それは良かったですね…………」

 行人は心のどこかにモヤモヤとしたものを感じながらも、愛想を崩さないように返事をした。りんとみこと。今でも時々大工一家の仕事を手伝いに行くが、二人は当たり前のように作業場にいた(軽い仕事が主になっていたが)。昼休みの談笑では女性陣で固まって専ら妊娠や出産などといった話で盛り上がるため、行人はなんとなくその輪の中に入りづらく、とげ太やえて吉などと茶を啜ったりしている。彼女たちと接する機会が無くなったわけではないが、近くにいても遠く感じるようになったのは確かだ。

 オババはそんな行人の髪の毛からつま先まで眺め渡しながら、

「ふむ、おぬしは……からあげに頼まれた役目の途中か? 滞りなくこなしておるか?」と、最後に行人の利き腕の肩に担がれた木刀に目をやった。

「ええ、任されたからにはいい加減には出来ませんしね。ボクなりに頑張って務めてるつもりです」

「おぬしのそういう生真面目なトコロは間違いなく美点なんじゃがな……」

 目の前の少年を褒めながらもなぜか溜め息をついたオババは、

「どうじゃ、たまにはワシの家で一服していかんか。仕事の様子も訊きたいしのう」

と、すぐ後ろの自宅を指差した。

 行人は少し逡巡したが、

「じゃあ、ちょっとだけなら……」

と応諾してオババの家に招かれた。

 

 こっちでいいです、と前庭に回って縁側に腰掛けた行人がハイビスカスの生け垣や陽気のいい空を眺めながらしばらく待っていると、オババは冷茶を運んで戻ってきた。

「今日は暑くなりそうじゃから冷たいのにしたぞ」

「ありがとうございます。もう暑いですよね」

 時刻にすればまだ午前9時ぐらいのはずだが、すでにうっすらと汗が浮いてくるほどの気温がある。

「じゃがこの天候だと、夕方あたりにひと雨来るかもな。注意しといた方がいいかもしれんぞ」

「そうなんですか? ボクにはわからないなあ──」

 空を見渡しても一日中快晴に恵まれそうな上天気な青一色だ。その地に永く住む人間にしか分からない兆しというのがあるのだろうか。

「からあげの代役はもう慣れたか?」

 何とか、と行人は多少苦笑交じりに言った。

「でも正直、受ける前はここまで大変だとは思っていませんでした。何でも屋の仕事を村の外でもするようになった感じだけど、これの出番も多くて」と、傍らに置いた木刀に視線を落とす。「代行の話が広まったのか、腕を確かめに勝負を挑んで来るのが多くて……けっこういるんですよ、そういうの。主に北と東からですけどね」

「あそこらは喧嘩好きな輩が多いからのう。大事には至っておらんか?」

「ええ、今のところは。どうにか全部撃退してます」

「ほお、それはやるもんじゃのう」

 ところで──と、行人はがらんとした室内を見回した。

「みちるさんは……お出掛け中なんですか?」

「ああ、今はいないぞ」

「だからさっき赤ちゃんおぶってたんですね」

「癇(かん)がなくて助かる子じゃ、今は隣の部屋で寝かせとる。みちるは今日は“当番”らしくてな。婿殿の屋敷へ行っとるよ」

 もう一人の男の存在が出てきた返答に、行人は質問したことに対して軽い後悔を覚える反面、この村にいる限りもはやあの男の話題は避けて通れないという諦念もあった。

(婿殿……ね……)

 それは以前、行人に使われていた呼び方であった。いつの間にかオババはただ“行人”と呼ぶようになり、婿殿という称号はぱん太郎に移った。始めからそんな呼ばれ方は歓迎していなかったし、肩の荷が下りるような気分になったのでそれはそれで構わなかったが、ともかくとして、

「当番──ですか……?」

と、それよりも行人は不吉さを覚えた用語の意味を──嫌な予感がしたが──尋ねずにはいられなかった。

「ああ、おぬしは知らんでも当然か。なに、婿殿の相手をする役と、身の回りの世話係のことよ。あれだけ大きな屋敷じゃからな、家事をこなすだけでもひと苦労じゃて。だから何人かで組になって持ち回りでやっとるそうじゃ」そう言うとオババはムフフと皺だらけの相好を崩し、「今日のみちるは婿殿とイチャつける番じゃ。これも日替わりで決まっとるらしいぞ」と付け足した。

 やっぱり訊くんじゃなかったと苦い気分になりながらも、自分から水を向けた手前遮るわけにもいかず、さらに続くオババの話に行人は耳を貸す他なかった。

 ぱん太郎と懇意な関係になった女性たちが──目ぼしい女性ほぼ全てと言っていいが──毎日数人ずつで屋敷に詰め、炊事洗濯などの面倒を見ているらしい。要するに家政婦だ。まるで使用人扱いじゃないか、アイツは殿様にでもなったつもりなのか──と、行人は憤りを覚えかけたが、ぱん太郎が強要したわけではなく、彼女たちから自然にやるようになったらしい。当番でなくとも暇さえあれば手伝いに訪れるのも含めると、多い日は十人以上も屋敷に集まるという。そのお陰でぱん太郎は何の苦労もなくずっと女を抱いていられる。誇張ではなく、女性を連れ込んだ寝室から日がな一日出て来ない時もあるのだそうだ。

 しかし、それよりも気になる事実がオババの口から飛び出してきた。

「婿殿の寝床、西洋風のベッドというやつ……これがまたとんでもないデカさでのう。天蓋まで付いとる。躰の大きい婿殿でも楽に手足を伸ばせるようにと、主にりさが意気込んで作ったようだが、ま、本音は大柄の婿殿と存分に乳繰り合える広さの寝床が欲しかったんじゃろうな。ともかくも十畳以上ある部屋のほとんどを占拠しておっての、解体しないと外に出せないほどじゃ。よう作ったもんだわ。蒲団も全頭から集めた羊毛を馬鹿なほど詰め込んでてのう、躰が沈むほどフカフカだったわ。そんな大きさだから敷布の洗濯もこれまた大変でな、いつも数人がかりでやっとるらしい」

 それを聞いた時の行人の何とも言えない嫌な気持ちといったら。

「巨大ベッド……天蓋付きの……」

と、微かに震える声で小さく呟く。

 あの悪夢の……通り……なのか…………。

 ぱん太郎とすずが愛し合っていた……“愛の巣”……。

 が、すぐに気を取り直す。と言うより奮い立たせる。だから──だから何だって言うんだ。たまたま当たっただけだ。どこまで行っても夢は夢でしかない。

「ん? どうした、気分でも悪いのか?」

「あ、いえ……大丈夫です……」

「そうか、それでな──」

 およそ未成年に話す内容ではなかったが、この島では行人の年齢になるともう子供扱いされないようで、オババは歯に衣着せなかった。

「──婿殿の寝所、あるいは屋敷自体が“愛の巣”などと呼ばれ、女たちはそこで極楽の夢を見ているそうじゃ。愛慾という生々しい極楽じゃがの。寝所から睦み声が漏れ出ぬ時はなく、屋敷に詰めた女を取っ替え引っ替え、悉(ことごと)く昇天させてしまうのも珍しくないらしいぞ。そしてそれを毎日のように繰り返しているということじゃ。そこまでして精気枯れ果てず尚盛んと言うのだから、耳を疑うほどの性豪家じゃのう。儂もだいぶ長く生きとるが、ここまで並外れた絶倫男の話はついぞ知らぬな」

 そこでジロリとオババは行人を見据えた。

「どうじゃ。おぬしも同じ男として何か感じるところはないか?」

「え? い、いや……いきなりそんなこと言われても…………」行人は自信なさげに視線を落とした。「ボクとしては……ただ、村の風紀が乱れないかが心配なだけで…………」

 村の女性たちがこぞってぱん太郎の元に通っているのは知っていた行人だったが、当番制まで敷いているとは思いも寄らなかった。この村の人たちの連帯感はそこまで及び、皆んな協力し合ってぱん太郎とよろしくやっているということか……。

 みちるやまち達までもがその“愛の巣”とやらでぱん太郎と肌を重ね、善がり声を上げてアイツとのセックスに溺れているのかと思うと、堪らない気持ちになるけれど……。

 悄然となった行人を眺めながら、オババは独りごちるようにため息をついた。

「あの娘たち──いや、今の村の有り様(よう)は……全てはあの大津波がもたらした産物とも言えるかのう。あの災厄が男どもを根こそぎ攫っていったせいで、大半の娘は物心ついた時から異性というものをまるで知らずに育った。母親たちもあの件についてはあまり語りたがらないしの。父親の顔さえ覚えとらんのが多い。まちやくないといった例外も一部あるが、あやつらとてそう大差はない。男と共に生き、男という生き物がどのようなものかを知り、男と所帯を持つのが至極当たり前であった儂らが考える以上に、娘たちは男に対して免疫がない。と同時に過剰な興味を抱くようにもなった。これが本土であれば、たとえ一村に男子が途絶えたとしても他から招くなどの手立てを打てたじゃろうが……この島ではな。こればかりはしようのないことじゃが」

 やれやれと首を振るオババ。

「儂もここまで早くはあれむ化が進むとは思わなんだ。婿殿への過度な依存は、恵まれたこの村ならではという背景もあるやもしれぬな。この島では少ない労働量で大きな収穫が得られる。儂は常々仕事をしろと鞭を打っとるが、あれは怠ける時間が簡単に取れてしまう裏返しとも言える。多少仕事をほっぽり出しても何とかなってしまうんじゃ。うちの穀潰しもずっとぐうたらして生きてきたからのう」

(あれで労働量少ないんだ……)

 行人からすれば村の人たちは毎日懸命に働いているように見えるが、皆んな楽にこなしているのだろうか。

「作物はほっといてもよく育つ。度々大食い大会など開いて消費せねばならんほどにな。徴税もない。飢饉を招くほどの天災もおよそ来たことがない。儂がまだ本土にいた頃は御上への貢納もあり、また度々起こる凶作や災難もあり、自分たちの食い扶持だけ稼いでいれば良いというわけではなかった。それに比べると、この藍蘭島はまさに天国のような場所じゃ。大怪我や大病を患うのも極めて少ない……まことに龍神様のお恵みだのう。人口が少ないことに変わりはないがな」

「徴税に飢饉……ですか」

「うむ。儂がいた頃は富国強兵などと叫び国を挙げて盛り上がっていたが、平民の生活は決して楽ではなかった。ひとたび不作が起これば民はたちまちのうちに飢え苦しんだ。儂が生まれる少し前までは武士の世であったが、士人は士人で相場に関わりない固定の俸禄のやりくりに苦慮していたと言う。そこへ御一新という時代の流れもあって、閉塞感を打破する先進技術や最新知識を得るためにも西洋主義が推し進められ、その因果もあって儂らはここにいるわけじゃが。

 ……少し話が逸れたか。原因は一つだけではないな……永い男不在、子孫断絶の危機感、そして婿殿の女をたらしこむ手管。女たちが皆健康で盛りの頃合いであるのも見落とせぬか。男がおぬしぐらいの齢になると日がな一日スケベなことばかり考える生き物になるとはよく言われるが、女の本性も変わらんよ。男が気になって仕方なくなるし、色事に対する興味が俄然湧いてくる。女は受けるのが基本だから男ほどの印象を与えないだけじゃ」

「そ……そうなんだ…………」

 言われてみれば、と行人は追想する。島に流れ着いた時、男というだけで鬼気迫る表情の娘たちに追いかけ回されたのは忘れられない壮絶な経験だ。その後も度々争奪戦の具にされたこともあり、オババの言葉は妙に腑に落ちた。

「女も心身が成長すれば、自然と男を欲するようになるものよ。どんな女にも性慾は眠っておるし、ひとたび火が点れば排出される一方の男よりも長く燃え盛るぐらいじゃ。カラダが健康であれば尚更のう。しかも性愛の気持ち好さに目覚める時期が若(はや)ければ若(はや)いほど、性衝動も身の深いところに刻まれてしまう……相手次第でもあるがな。じゃが、ぱん太郎に首ったけにされた娘どもを見れば一目瞭然じゃろう?」

「あの……」行人は少し躊躇ったが、思い切って踏み込むことにした。「その……首ったけになってる中に……母親の皆さんも混じってるみたいなんですが……」

「ああ、女は齢とともに情慾も深まるからな。それでなくとも夫を喪い、十年以上も孤閨を過ごしておる。我慢しきれなかったんじゃろう。儂も強くは言えん」

「は、はあ……」

 旦那さん達のことはいいのか──と、行人が気にする点はそこだった。確かに消息不明で音沙汰もないが……。ある意味、行人の同世代よりもその所業を見逃せない面々である。帰らぬ人間を気にしても仕方ないということなのだろうか。それとも……オババの言う通り我慢できずに過ちを犯してしまい、そこからはもう……娘同様にぱん太郎に参ってしまったんだろうか。いけない事だとわかっていても、久しぶりに味わう性交の快楽に負けて。アイツの人間離れした逞しさと粘っこいセックスに負けて…………。

「女も一皮剥けば性慾の塊なのは間違いない。要はその皮を上手く剥けるかどうかじゃ。剥けすぎてしまうのも考えものじゃがの……。結局、知恵やら理性やらを誇りたがる人間も、本能からは逃れられぬ生き物ということじゃ。男も女もな。

 ──まあ、色々言うたが、そういった諸々の原因が合わさった結果か。村長である儂がお墨付きを与えてしまったのもあるやも知れぬの。じゃが……その判断は間違ってないと思うとるよ。何はともあれ、婿殿のお陰で村は死に絶えずに済む。その功績は計り知れんわい。その婿殿が全員相手に出来ると豪語するのであればそうしてもらって一向に構わぬ。これはおぬしがこの島に初めて来た時にも告げた言葉じゃぞ」

「……そんなので……本当にいいんですか……?」

「人間齢を重ねると孫子がいる尊さが身に沁みて解ってくる。若いうちはなかなか理解できぬのものじゃが、おぬしも年を取れば解るやもしれぬな。未来への命脈が涸れ果ててしまっては、どんなに富み栄えようが、どんなに文明を開化させようが、どんなに生き永らえようが……何の意味もない虚しいものよ。誰もがいずれは老いて死ぬ。この儂とて例外ではない──何じゃその目は。まあいい」

 オババは咳払いをひとつすると言葉を続けた。

「子を成した女たちはまだいい。可哀想なのはお主らの世代よ。もし子も成せぬまま老いさらばえるようなことになったら、なんと虚しいことか。だから儂は本気で思うとるぞ。盛りのうちに子を作る機会が与えられて本当に良かったと。願えるのならば各々に違った男があれば文句なしじゃったが、それが望めないからこその現状じゃし、概ね満足しとるよ、儂はな。

 まァ、今さらとやかく言っても何も始まらん。儂らはやるべき事をやらねば後がない、ただそれだけのことじゃ」

「それが……その……あんなヤツに……好き放題にさせてる理由なんですか? 皆んなが仕事を疎(おろそ)かにして風紀が乱れても構わないと──」

「そうじゃよ」

 事も無げにあっさりと跳ね返ってきた返答だった。呆気に囚われる行人にオババは二の句を継いだ。

「確かに仕事を疎かにしてまで入れ込むのは困るがな。しかし先程も言うた通り、あやつらも当番などを組んで秩序立ちつつある。今は一過性の感冒に罹ってる最中みたいなものよ。とうとう自分達を相手にしてくれる男が現れて浮ついているわけじゃな。男女の関係など一日でご破算になることもあれば、傍から見れば呆れるほどにのめり込むこともある。しかし、そのうち子でも産めば落ち着くべきところに落ち着くものじゃて。

 何にしろ、これまでとは全く異なる状況じゃからのう。まるで思いも寄らなかった新しい存在がもたらす新しい状態によって新しい関係が組み上げられる。今はその過渡期といったところか。慎重に事態を見守る必要があるのじゃ」

「そ……そう、ですか…………」

 新しい存在。新しい状態。新しい関係──。

 村の長であるオババが認めているのならば、自分などが横から口を挟む余地はない。だけど……そこに介在する余地がない者は、一体どうすればいいのだろうか。

(アイツ、ボクのことなんて眼中にないよな……)

 天下御免で憚ることなくハーレムを築いてゆくぱん太郎。梅梅、まち、ゆきの、りん、しのぶ、ちかげ……自分と親しかった女子たちまでも次々とぱん太郎に食べられ、そのハーレムの中に取り込まれている。

(アイツとのセックスが気持ち好いからなんて理由で……)

 ぱん太郎にからだを許して、アイツの巨根に身も心も奪われ、その子宮まで届くという肉棒で溢れるほど中出しされて悦んで。そして快感でグチャグチャになった顔でアイツの子供を孕んで産むことを誓わされて……。

 アイツの途方もない射精に病みつきになるまで何度も何度も中出しを味わわされながら、彼女たちがセックス好きの肉奴隷同然に堕とされていくのを、黙って指をくわえて見ているしかないのか……。

 狭い村では隠れる場所もなく、距離を置くのも限界がある。厭でもその行状は耳目に届いてしまうのだ。それが苦痛だった。

「……行人よ、おぬしはおぬしなりによくやっとる」オババは慰撫するような口調で言った。「からあげからぬしとしての仕事を一部なりとも任されたからこそ目に余る部分もあるのじゃろう。じゃが今のところ村は円滑に回っておる。待ち望んだ次世代が誕生し、病もなく健やかに育っておる。おぬしと同じく婿殿は責任を果たしておるのじゃ。多少のことは大目に見よ。未来を作ってくれたんじゃからな」

 そう告げるオババは実に嬉しそうであった。

 村の雰囲気が明るくなったことに関しては、行人も喜ばしい気持ちを抱いている。理由はどうあれ、皆んなの明るい様子が見られるのは嬉しいことだ。これまでも温かい村であったが、新しい生命の誕生にどこか解放感が生まれて温度が騰がったような雰囲気を肌で感じている。すずの機嫌が良いのもその影響かもしれない。

 だとしたら、やはり……益々以って何かを差し挟む余地はないのか……。

「問題があるとすれば……いや、まだ問題など起きてはないが──」オババは歯切れが悪かった。「──おぬしじゃよ、行人」

「え……ボク……ですか? ボクが何かしましたか……?」

 行人は驚いて顔を上げた。まさか自分が問題視されているとは思ってもみなかったからである。何かしただろうかと心中でも自問したが、思い当たる節などなかった。

「何もしとらん。何もしとらんな。じゃが心配はある。おぬしが婿殿と衝突せんかという心配がな」

「……ああ……」

 なんだそういうことか──と、行人は脱力した。こうして呼び止めたのもきっとそれが一番言いたかったのだろう。

「おぬしはその齢でなかなか分別が働く。今まで問題らしい問題が起きなかったのも、おぬしの忍耐力があったからこそだとも思うとるよ。じゃから、今後ともよろしく頼むぞ。おぬしからすれば婿殿の行状はだいぶ目に余るようじゃが……その気持ちも解らんでもない。が、くれぐれも短気を起こして喧嘩などせぬようにな。婿殿の躰は今や貴き宝、怪我などしたら大変じゃからのう」

「……からあげさんもそんな風に説得したんですか?」

「む? ああ、うむ……。からあげもここが村の一大事と理解してくれた上でぱん太郎の代わりを承諾して東の森に行ってくれておる。あやつも昔のような愚行者ではないからな、話せば解ってくれたわ」

「そうですか……いえ、ボクだってわかってます。アイツを気に食わないのは、個人的な感情に過ぎないってことぐらい……」

「それならば良いのじゃ。……ところで、おぬしが剣の腕を上げてるのは分かった。色恋の方に関してはどうなんじゃ?」

「へっ!?」

 思わずビクリと持っていた茶碗を揺らし、ズボンにこぼしてしまう行人。

「婿殿に負けぬよう、良き相手の一人や二人ぐらい作れたのかな? ん?」

「そ、それは」

 顔を赤くした行人は何も言えずに俯いてしまった。

「……やれやれ。選び放題の環境にずっと身を置き、らいばるまで現れたというのに。未だにそのような態度しか取れぬとは……。男として情けない限りじゃのう。すずとはもう幾夜枕を並べて──」と言いかけて急にオババの言葉が切れたので、行人は不思議に思って顔を上げたが、その時にはもう次の言葉を発すべく皺くちゃの口は開かれていた。「儂も以前、おぬしには色々と働きかけたものじゃな。何度もおぬしの争奪戦を催したり……じゃがそんな事せずとも、すずであろうと誰であろうと手を出しても一向に構いやせんかったのよ。それこそ何人でもな。陰ながら尽力した甲斐もないとは、いっそ悲しくなってくるわい」

「そ、そうは言っても、ボクにもボクなりの恋愛観とか、結婚観とか、男女の理想像とか……色々ありますから!」

 行人はそう言い返すのがやっとだった。ボクはアイツとは違う、アイツは女性を容姿や抱き具合などで判断する下劣な奴で、性処理の道具にしか思っていないフシがある。それに結婚もしていない女性に子供を生ませて面倒も見ず任せきりで、無責任、無節操に何人もの女性と関係を持つ最低男じゃないか──続けてそう喉まで出掛かったが、既(すんで)の所で飲み込んだ。さっきの話を聞いてしまっては、そんな主張をしても滑稽に思えたからだ。

 婚姻すら交わしてない男女の子作りを容認する村。その辺の草むらで淫行に及んでいてもそれがいけない事だとは思わず、それどころか羨ましがりすらする女の子たち。一夫多妻のハーレムが形成されてゆくのを当然のように受け入れている当事者たち……。行人が抱いてきた男女関係の観念──いや幻想などとうに打ち砕かれていた。

 おかしい。何かがおかしい。これでいいのか。これが普通なのか。

 行人の内なる心ではそう声高に叫ばれてはいた。

 

 ──いいのだろう。異議を唱える人間がいないのだから。

 

 己の内から気が抜ける音が聞こえるようであった。

 誰も困ったり嘆いたりしていない。むしろ幸せそうだ。皆、あんな下半身で物を考える生き物と真昼間から乳繰り合っても楽しそうなのだ。ぱん太郎一人に何人も群がり、順番待ちになっても不満はないのだ。おそらく屋敷では完全に人目を気にせず、行人が野外で見たものよりもひどく淫猥で肉慾に満ちた宴が繰り広げられているのだろう。何発放ってもけろりとしている性豪ぶりなのだから、あの屋敷の門を潜ったが最後、女性は全員が全員、足腰が立たなくなるまでやられまくっているに違いない。

 人間の慾望は時に想像もつかない可能性を展(ひろ)げる。良くない方面においても。人の価値観は一つじゃない、と言えば聞こえはいいが。これも人生経験の一つなのだろうか……。

 そこまで考えた行人の脳裏に悪夢の内容──天蓋ベッドですずがぱん太郎と愛を誓った恋人のように濃密なセックスをしている映像が反射的に蘇り、また、家を出る時に抱いた妄想が再度よぎった。

(もし、ボクが家を出た後、一人になったすずが──)

 戸口で手を振っていた眩しい笑顔のすずの姿が思い起こされる。

(あのすずが──)

 行人が立ち去ると別の場所へと向かう──ぱん太郎の屋敷に。そしてアイツに抱き締められて──あのベッドに入ってアイツと愛し合う。行人のことなど気にも掛けず、すずは望んでぱん太郎と子作りセックスしまくる────

 

 実際はもっと酷く、彼の背後で抱き締められ、家の中で愛し合い始めていたのだが。

 

 その場でなくともここに来る途中で戻りさえすれば、彼とすずが生活している空間で裸同士になった二人が結合部を白濁にまみれさせながら、完全な子作り体勢で人目も憚らずに淫声を上げて夢中で腰を打ち付け合っている交尾現場を発見することが出来ていたのだ。

 すずはまぎれもなくぱん太郎にからだを許し、身も心もぱん太郎の巨根に奪われ、子宮まで届く肉棒で中出しされるのを悦び、快感でグチャグチャになった顔でぱん太郎の子供を孕んで産むことを誓っていた。行人と一緒に暮らしている家の中で行人のことを忘れ、ぱん太郎とのセックスの快楽で頭をいっぱいに満たしていた。ぱん太郎にいやらしくハメられて悦ぶ発情したメスとなっていた。

 行人とすずが枕を並べている寝床の位置の間に偶然ぱん太郎とすずが一つに繋がった部分が来て、愛液と精液が混ざった淫汁をまき散らしながら貪るように交わる。

「いきなり来たのに、もうこんなにキミの方から腰を振ってボクを求めちゃって……イケナイ娘のん♥」

「だってぇ、気持ち好いんだもん……♥! うにゃあぁん……とまらないよぉ……♥!」

「のふふ……のの、また出そうのん……すずちゃんのオマンコ気持ち好すぎ……」そう言ってすずの腰を掴み抽送を加速させるぱん太郎。「ボクに、種付けられてる、時に……カレが、戻って来たら、どうする……?」

「あっ、あっ、あっ……♥! そ、その時はぁ……♥」

 すずのトロトロの肉襞がさらに活発に蠢き、キュウキュウとぱん太郎の孕まし棒を搾り上げた。何度放っても飽きない極上の肉壷であった。

「あっ、あっ、もう、もう、ぜんぶ、見せちゃう……♥ 私が、ぱん太郎様に、抱かれて……孕まされてる、トコロ……♥! うにゃあぁぁ……♥!」

 すずの背すじがゾクゾクと仰け反った。ぱん太郎の腰に力が籠もり、三度目の膣内射精が始まったのだ。

「あっ、うにゃっ、あっ、あっ、すごい、すごいの、出てる、出てるぅっ……♥! 行人が出掛けてすぐなのに……ぱん太郎様に……いっぱい種付けられちゃってるのお…………♥!」

「のおお……すずちゃん……好きだよ……ボクの子を孕ますからね……!」

「ぱん太郎様ぁ……♥♥!!」

 

 ──まさか自分が仕事に出てすぐ、彼と住んでいる家の中で朝から裸になって犬猫のようにすずはサカッていたなど、そこまで行人の想像が及ぶはずもなかった。

 ただ、場所が異なるとはいえ、ほぼ妄想通りなのは間違いなかったわけだ。いやそれ以上であろう。すずはぱん太郎がヤリたい時に股を開き、いつでもセックスする性処理肉奴隷同然になってしまっていたのだから。それだけでなく、当たり前のように種付けされてそれを受け入れる女になってしまっていたのだから。行人とすずの関係が育まれてきた“巣”ですら、行人が居ないのをいいことにぱん太郎とすずの“愛の巣”にされてしまったのだから──

 次の瞬間、行人はそのおぞましい妄想を記憶の底に強く念じて封じ込め直した。

(また、こんな……! すずは今日、みちるさんの赤ちゃんの子守りをするって言ってただろ……! ダメだ……何度もこんなこと考えてたら、本当に夢と現実がごっちゃになりそうだ…………)

 げんなりとそう思う。息遣いまでもが生々しく、すずがぱん太郎と汗と汁にまみれたセックスに溺れて何度も絶頂を覚えながら膣内射精を繰り返されている悪夢など、できれば記憶ごと忘れてしまいたい。だがあまりにも真に迫りすぎていてなかなか忘れられないのも事実だった。

「こだわりを持つのも大事じゃが……ま、いいわい。おぬしにはこれまで口が酸っぱくなるほど繰り返し言うてきたしの。今さら詮ないのう」

 オババの声が再び耳に入ってきて、切り上げるのにちょうどいいタイミングだと思った行人は、そこで腰を上げて縁側を離れた。

「もう行くのか?」

「……ええ……今日のコースは、下手すると帰りが日没になっちゃうんで……」

「そうか。おぬしのその仕事に対する姿勢だけは評価しとるからな」

「あははは、だけですか……そうだ」

 乾いた笑いを浮かべると、行人はすずが子守りに来ることをオババに伝えた。

「うむ、儂もそう聞いとるから一旦家に戻ってきたんだがの。おぬしと一緒でなかったのが意外なぐらいだわい。ま、その方が都合がいいが」

「え?」

「すずにも少し尋ねたいことがあってな。まあこっちの話じゃ。どうじゃ、またみちるの子を見ていくか? 可愛いぞ」そうオババは血縁者の笑みを浮かべた。

「そうですか……いえ、いいです」

 行人がそう言って出て行くのを縁側に座ったまま見送っていたオババは、

「今からでも遅くはない……誰か一人ぐらいその手に掴んでおけ」

と、最後にそう声をかけたが、返事がないまま生け垣の向こうに行人の姿は消え、「やれやれ……」と首を振るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  3

 

 

 

 

 

 日常の大半を占めるようになった役割も、最近では楽しむ余裕も生まれてきていた。引き受けて良かったのかもしれない──と、にこやかに挨拶を交わして離れていくしおりとかおりを見届けながら行人はそう考える。村の南を廻る道すがら出遭った羊飼いの姉妹は、いつもの餌場をあらかた食べ尽くした毛の短い羊の群れを引き連れて別の牧草地へと移動する最中だった。

 いつだったか、今日のような好晴の日の下で、草を食(は)んでいる羊たちからそう離れていない叢(くさむら)の中、彼女たちがぱん太郎と青姦に及んでいて、二人とも股間から夥しい白濁をダラダラとこぼしながら、陶然とした表情で大男の逸物を両側から挟むようにして夢中で舐めていたのを偶然発見したことがあるが、その記憶を努めて封じながらの顔合わせであった。

 姉妹と別れるとその記憶も圧し潰すように頭の土底に埋め、しばらく足を進めると、平常心が戻ってきて行人はフゥと息を吐いた。

 働くというのは気分がいい。頼られ、認められていれば尚更に。村の皆んなが生き生きとしているのも納得できる。汗をかいて仕事に勤しみ、仲間や自然とふれあい、太陽とともに生活するというのはとんでもなく健康的で清々しい気分を得られる。

 多種多様な植物や昆虫を眺めながら歩くのも楽しみの一つだった。藍蘭島はとにかく緑が豊かである。行人自身はあまりその方面に詳しくなかったが、この島には独自の固有種が多いらしい。ガラパゴスみたいなものなのだろう。仕事中とはわかっていても、ついつい色鮮やかであったり奇妙な形をしている草花に目を奪われてしまう。濃密な生命力を感じさせる原色の光沢。その存在感の強さは何となく村の女の子たちを連想してしまうのは、どちらも眩しいほどの生気を感じるからだろうか。

 いつだったか、ちかげが教えてくれた。

「この島は南国系の植物も数多いですわね。でも全体的に常緑樹林、つまり本土と同じ植生が中心ですの。けれど外界と隔絶している時間が長く、島に流れ着いた最初の祖先が見たこともないような種がかなり多いようですわ。この島で生まれ育った私たちには違いというのがピンと来ませんが」

 だから動物も独特なのかな……と、変に納得できたものだ。

 行人は天測でこの島の経緯度を求めようとしたことがある。大雑把であっても地球上の座標が解れば日本帰還の強い手助けになる。ところが、太陽の高度も星の位置も日々でらためで測るどころの話ではなかった。驚愕してちかげにそれを告げると、さもありなんといった訳知り顔で彼女は肯定した。祖先もそれでこの島の正確な位置を掴めなかったらしい。原因は不明で、いつしかそれは海龍様の大いなる力の一部だと解釈され、島の守護神を崇める理由の一つとして今に至っているということであった。

(そんな馬鹿な……こんな天体運動が起こりうるのか……?)

 中学生の知識しかない行人でもこの天体現象がどれだけ無茶苦茶な事なのか理解できる。宇宙の営みは厳然とした物理法則で支配されている。太陽や星の運行がランダムになるはずがない。それが起きた時、地球上の生物は無事では済まないだろう。

 おかしいとは思ったが、この島独自の風土が影響して蜃気楼のような現象が上空で起こっているんだろう、と強引に“謎を解き”、それ以上深く詮索しないことにした。蜃気楼のようなものと考えたのは、空が澄み渡った好天の日を選んで富士山に登って四海を観察しても他の島影一つ見つけられなかったという体験も影響している。

 あの全円の青海原を眺め回したとき、どこまでも途方もなく続く平板な青一色の世界に、ある種壮絶な感覚に襲われた。それは孤独と言うより喪失と言うほうが近かった。そう、それこそ独りで絶海の孤島に取り残されたような──。

 あって欲しいものが一切ない世界。孤独を感じるための相手すらいない完全なる隔別世界。

 これは孤独ではなく喪失だ。世界の全てが切り離された空間。

(島流しや流刑じゃあるまいし、ハハハ……ハ……)

 当時の最先端の知識や技術を求めた集団が、どうしてこのような農牧の暮らしに落ち着いたのか。その理由の一端が何となく理解できるような気もした。

 植生と気候から推測すればさすがに赤道は超えていないようだが、太平洋のどこにあるかも分からない場所──。

 だけれど島じゅうを埋め尽くすほどの原生林が広がる自然の絶景を眺めながら山を下るうちに、行人の中からそんな寂しい感覚は無くなっていた。雲一つない陽気な青空。空気は美味しく、景色は映え渡り、登山が爽快にさえ思えてくる。この島にいると何故だかいつまでも気分が落ち込むということがない。

 例の悪夢があるので快食快眠とまではいかないが、この島だからこそ病的にまで陥らずに済んでいるのかもしれない。

 村の人々が何の罪を犯したというのか。喪失──とても馬鹿馬鹿しい妄想だ。

 見廻りをしていてもまるでハイキングのような楽しい気分を味わえる。あの富士山を登って四海を見渡した日と同じ、快晴の今日など特に。

 本当、あのパンダ男さえいなければこの島は天国なのに……。

 

 

 集村から離れ、雑木林を抜けてしばらくすると、海に近い丘の頂にある小さな草地にぽつんと建っている木小屋が見えてきた。

 木小屋というのはその名の通り材木置場である。すぐに使う木材はりんの家の傍で野晒しで置かれるが、日や雨に当てずに保管しておくのがいい木もあるらしく、風抜けが良いこの場所を置き場の一つにしているという話だった。とは言え、申し訳程度の屋根と上下に隙間がある杭のような板が横壁に張られただけの簡素な掘っ立て小屋である。

 道の遠くから吹き通しになっている正面を眺めても中は薄暗く、今までと変わらずただ木材が隙間を作りながら積み重ねられているだけで、当初は何も気付かなかった。

 変色したボロボロの板壁を横目に通り過ぎようとすると、小屋の中から声と物音が聞こえた。明らかな人の気配。

 それだけで行人はピンと来るものがあった。

 立ち止まって辺りを見渡し誰もいないのを確認すると、そっと裏手に回る。

 何日ぶりだろうか。喉が一気に渇き、ごくりと唾を飲み込む。材木の山に隠れて中を覗くと、薄暗い中に──予想通りあの男の巨体があった。

 そして──ぱん太郎の腰の高さほどまで積まれた木材の上で前腕を枕にして頭を乗せ、腰を掴まれバックからハメられている女性──。

(まーた……朝からサカってるのかよ…………)

 行人はもう一度周囲を窺って他に人影がないことを再度確かめる。

 二人とも全裸だった。いや、履き物だけはしているが……。女性のからだはハッとするほど透きとおっていて、まさしく雪のような柔肌だった。そこに七分咲きの桜を思わせる薄紅がうっすらとさし、昂奮しているのがよく判る。そして、ぱん太郎の腰が前後に動くたびに、りんにも負けないほどのボリュームがある乳房と尻肉がたぷたぷと波打つ。

 鴇色の髪をおさげにした少女。

「ああっ、ああっ、ああっ♥」

 大きな嬌声が漏れ、喉を晒すまで顔が持ち上がる。

 ──みちるだった。

 

 もう一児の母となってる女性を少女と言っていいのだろうかという疑問も行人にはあるが、まだそう呼べる年齢なのも確かだ。

「はっ、あっ、あっ、あぁ、あぁん、はあ、あぁ……♥」

 ……呼べる筈なのに、少女と呼ぶには似つかわしくないほどの淫感が篭った喘ぎ声や、成人女性顔負けの起伏に富んだ女体がなまめかしくくねる様などを目の当たりにすると、やはり差し支えがあるようにも思える。梅梅もそうだが、出産を経験したせいなのか躰つきが変わった気がする。とは言っても太ってプロポーションが崩れたとかいう悪い方向ではなく、少女特有の細さや瑞々しさを残しつつも、全身の肉感が増したというか……。

 みちるのくびれた腰をがっしり掴みながら抜き差しを繰り返しているぱん太郎の動きは、まだ始めたばかりなのか、ルーズな感じさえあるのろさだった。最初からガツガツとやらず、相手の反応を見ながら次第に本腰を入れていくのがぱん太郎の常套手段だ。何度も観察しているうちに行人もいい加減そのやり口をなんとなく把握していた。

 予想した通りに徐々にぱん太郎の腰遣いは早まってゆき、より情熱的になってゆく。インターバルを取るように止まる時は、みちるの上体を起こしてキスや言葉を交わしたり、白い肌や乳房、陰核などをマッサージみたいな優しげな手つきで愛撫する。

「のふふ、おっぱい揉むと母乳が出るね♥」

 豊かに張った双乳がしごかれるように揉まれると、薄いピンク色の突端からピュッ、ピュッと乳白色の液体が吹き出し、

「あぁん……だめぇ……♥」

と、みちるは甘ったるい声を漏らしてイヤイヤするように腰をくねらせた。

 ぱん太郎は後背位で繋がった状態からみちるの片脚を抱え上げて彼女の腰を上に九十度回転させると、上体を自分の方に向かせて乳房にむしゃぶりつき、チュウチュウと音を立てながら乳首を吸った。

「あっ……あっ……あっ……♥ だ……だめですぅ……♥ 赤ちゃんに飲ませる分があ……♥」

「キミの母乳、甘くておいしいのん。ボクも飲みたいのん♥」

「もう……ぱん太郎様ったらあ……♥」

 みちるは夢中で自分の乳を吸う男を愛おしそうに見つめ、満更でもない蕩けた表情で気持ち好さそうに声を漏らしながら授乳し続けた。ぱん太郎はみちるの乳首を弄びながらも腰を動かすことも忘れておらず、器用なものだと行人は呆れてしまう。

 だがそれも時間が経つうちに次第に生殖器同士の交合一本に絞られていった。

 乳飲みに満足して再び後背位に戻ると、抽送の勢いがさきほどよりも激しくなり、みちるは背中を仰け反らせて大げさなまでに喘ぎ始めた。演技じみている反応ではなく、本気で感じているらしい。密室ではないから外までだだ漏れなのに、気にする素振りも見せずに声を張り上げる。ぱん太郎の腰振りがパンパンと音を立てながら小気味良い速さになった頃にはもう、みちるの首から上は真っ赤だった。

「のふふ、キミのオマンコ、前からズポズポしやすかったけど……一段と柔らかくなってるのん」

「そっ……それって……ユルいって……ことですかあ……?」

 みちるは涙目になって肩越しにぱん太郎を見上げる。

 確かにぱん太郎の極太の肉棒はすんなりとみちるの中に出入りしているが、ユルいかどうかなど、行人にその真否を判断できるはずもない。

「のの、誤解しちゃいけないのん」ぱん太郎は首を振った。「キミのオマンコはユルくなんかないのん。ホラ」

 そう言ったぱん太郎が角度と深度を変えて突き回すと、

「んっ、ん、んんっ! んんっ、んあっ、んああっ♥!」

と、みちるはからだを仰け反らせて敏感に反応し、ぱん太郎が突くたびに陶然と喉を震わせた。

「のお……良い締りのん♥」

 深く挿したまま腰を止めて同じく気持ち好さそうに息を吐くぱん太郎。

「はあぁう……♥ ぱん太郎様のおっきいおチンチン……奥まで入ってるの……わかりますうぅ……♥」

 女性たちは衆口一致でぱん太郎のペニスを称賛する。

(そりゃ……男のボクから見ても羨ましいほどのデカさだけどさ……)

 可愛いもの好き綺麗もの好きな女性の観点だと、男性器は奇異でグロテスクなモノに映らないのだろうか。しかもぱん太郎のときたら赤黒くいびつに曲がっていて、彼女らが両手を縦重ねに握ってもまだ肉竿が十分に余るほどの長さまで勃起するのだ。あんな禍々しい代物に惚れ込むなど、行人には信じられなかった。

 だが……そうなのだ。

 今まで見た限りであのペニスを怖がっている女性はいない。挿入の瞬間は誰しもが期待感を抑えられない眼差しを向け、挿(は)いると満たされたような吐息をつき、後は出し入れするだけでアンアンと気持ち好さそうに喘ぐのだ。あれだけの巨根なのに痛がる場面はそう多くなかった。たまに突き所が悪いのか明らかに女性が苦悶を漏らした時は、ぱん太郎はすぐに謝って速度を落とし、気持好い箇所に当たるよう角度を変えるらしい。

(そんなにアイツがいいのかよ……あんなヤツが……)

「ボクもみちるちゃんの奥まで感じるのん。すっごく気持ち好いよ」情慾の視線を交わす二人。「柔らかくなったってのは、ますます丁度いい具合になったってことの。ボクのデカマラじゃ、大抵の娘(コ)のオマンコがキツキツだからね」

「よかった……♥」

 安心したように表情を和らげるみちるに、行人の胸のどこかがチクッと痛んだ。

 ぱん太郎は半妖の雪娘の肉付きの良い尻を撫で回しながら、彼女の耳元まで背を曲げ、猫撫で声で囁く。

「キミのオマンコは最高のん。いつまでも繋がっていたいぐらいのん♥」

 お前は誰にだってそれ言ってるだろ……と、心中ツッコむのを忘れない行人。ぱん太郎と交わった女性は──彼が目撃した限り──1人残らず忘我状態になるまでアソコを掻き回され、突きまくられ、中出しされまくるのだ。何時間でも勃起しっぱなしで挿入している。その淫虐に平常を保った女性はいない。最後は皆んな悶えきって息も絶え絶えになるまでぱん太郎は女性の花園を堪能するのだ。そうやって藍蘭島の無垢な少女たちを次々と穢し、穢すだけでなくあの巨根の虜にして自分色に染め上げているのだ……。

「奥にある子ども部屋の入り口も大きくなってて……一人産むと穴が拡がって精子も入りやすくなるから、より妊娠しやすくなるんだってね。そんなこと聞くと、突き当りまでチンポくっつけてドピュドピュしたくなるのん。ていうかするのん。みちるちゃんの子宮口にチンポの先くっつけて、拡がった穴からドピュドピュ直接ボクの精子注ぎ込むのん♥」

「はぁん……あぁ……ダメェ……ダメ……ですぅ…………♥」

 ダメと言いながら嬉しそうにからだを震わせるみちる。

 彼女たちが子供を預ける理由の中に、こうして男との時間を作りたいからというのがあることは行人も承知している。納得できる理由ではなかったが、育児放棄するよりはマシだろうし、支援があるからと言っても女手一つで子育てしている梅梅やみちるを非難する気は起こらなかった。

「そろそろイクよ」

「はあっ、あぁっ、ああっ、ああぁっ……♥!」

 喘ぎまくりながらコクコクと頷くみちる。当然だが、厭がる素振りなど皆無だ。完全にぱん太郎の女になっていた。アイツに種付けられるための女になっていた。射精に向けてぱん太郎の動きがペースアップすると、嬉しそうに表情がほころぶのが見ていて辛かった。

「出るっ……のお……おッ……!」

「はああぁぁ……ッ♥♥!!」

 激しく突いていた巨躯が急に動きを止め、痺れたように痙攣する。みちるも木材のテーブルに突っ伏しながら全身を震わせた。密着した下半身。ぱん太郎は一度のけぞるとすぐ逆に背を丸めてみちるの上に覆い被さり、ぐっぐっとゆるやかに腰を押し進め始める。

 種付け運動だ……ああやって射精のタイミングに合わせて女性器の奥まで突き入れているんだ……と、行人は暗澹とした気持ちになる。あの長い陰茎がみちるの奥の奥まで届き、彼女の子宮に濃厚な白濁液を思う存分ぶっかけている…………。一人目の時よりも多量のぱん太郎の精子がみちるの子宮内に入り込むのだろう…………。

「あぁ……ぁぁ……ああぁあ…………♥!」

 感に堪えないように奮えるみちるの艶声。舌が見えるほどだらしなく口を開け、生殖本能の快楽で染まった惚け顔。慾望を正直に解放したその表情は一種の神々しさすらあった。それが申し分ない美しさの少女なら尚更だ。

「ぱん太郎様の……熱い精液……染み込んでくるぅ……♥!」

 繋がった部分の真下に収まりきらなかった白濁汁が粘っこくボタボタとこぼれる。二人の内股も伝って流れ落ちてゆく。みちるの体内にぱん太郎の子種が注がれている証拠。ほんの数カ月前に出産したばかりの少女がぱん太郎の子をまた身籠ろうとしている証明──。

 二人の腰に加わっている力は、明らかに互いの存在を求め、孕ませよう、孕みたいという意思が合わさったものだった。オスとメスの到達点。みちるだけに限らず、ぱん太郎に身も心も奪われた女性が辿り着く姿態。

 そう、それはすずも──あの悪夢の中のすずも同じだ。このように熱烈に愛し合い、ぱん太郎と深く一つになった末の生殖。子宮に熱い精液を浴びせかけられながら幸せの極地の果てに流れ着いたような嬉悦に包まれたすずと、今のみちるの姿が違和感なく重なる──。

 発情の頂点に達した男と女が溶け合って迎える至福の世界。

 これが人間本来の──雌雄二対に別れた生物としての正しい有り方なんだろう、という理解は、行人も頭の片隅でいちおうはできる。男と女はこんな風に互いを求め合って愛の結晶を作るものなのだと。この瞬間ばかりは知能も理性もふっ飛ばして、ただ肉の本能だけが全てに君臨する。こうでなければ種の存続はないのだということも。

 でも、だからって、藍蘭島の女の子たちがこんな──あんな種馬男を受け入れるなんて──

 すずがぱん太郎とこんな風に愛し合って子作りするなんて──

 行人にとっては有り得なさすぎて、遠く、この世の果てより遠く感じる世界であった。

 

 

 

 それからも抜かずに二回、もう一度バックからと駅弁でみちるは責め立てられ、大きな喘ぎ声を振りまきながら何度もむっちりとしたからだを強く奮わせて絶頂し、ぱん太郎の力強い膣内射精を恍惚と感じまくった。

 ぱん太郎は放出が終わると駅弁状態のままさっきまでみちるが上体を預けていた木材の上に腰掛け、対面座位になって彼女を抱きしめキスの嵐を降らせた。愛してるよと囁きながら口づけすると、みちるも幸せそうに惚け尽くした顔で母乳がたれる胸を押し付けながらぱん太郎の頭を掻き抱き、二人は熱い吐息を吹きかけながらむちゅむちゅと何度も口づけを交わす。その間も依然としてぱん太郎の剛直は硬度を喪わずみちるのアソコを貫いたままで、栓がされたように根元まで埋まり、白濁の逆流は緩やかであった。

「久しぶりに外でして……スゴク良かったです……♥」

「そうだね」

「いつまでも……こうしていたいです……♥」

「ボクもだよ」

「ぱん太郎様、大好き……♥」

「のふふ……来年も、再来年も、こうやって種付けセックスして、毎年キミのお腹を大きくさせちゃうからね。覚悟するんだよ」

「はぁい……ぱん太郎様の赤ちゃん、何人でも産みますぅ……♥ 私のオマンコはぁ、ぱん太郎様専用になりましたから……♥ ぱん太郎様が満足するまで、いくらでも精液注ぎ込んでください……♥」

「そうそう、それでいいのん。行人クンなんかに貸しちゃダメだよ?」

「やだぁ……そんなコトしませんよぉ……♥」みちるは妖しい笑みを浮かべた。「それにどうせ、行人クンは手を付けようとしないしい……」

「わからないよー。カレもシシュンキ……だっけ? ハツジョーキに入ってるはずなんでしょ? 前よりずっとエロ可愛くなったキミたちに迫られたら、さすがの行人クンの理性も飛んじゃうかもよ。それほどエロい匂いプンプンさせてるし♥ でも男が欲しいからって、行人クンまで誘惑しないようにね。でないと二度と抱いてあげないんだから」

「そんな……絶対しませんからぁ」

 抱かないと言われたみちるは、泣きそうな表情になってイヤイヤとぱん太郎を咥えたままの腰をくねらせた。そんなにショックなのか……。

「行人クンも悪くないと思いますけどお……ぱん太郎様には敵いませんよ。こんな逞しいおチンチンに……♥」と、ゆるやかに腰を上下させるみちる。その拍子に彼女の胎内に留まっていた白濁粘液がゴポリゴポリと溢れ出してきた。「あっ、あっ……」と、微かに背すじを震わせ、情慾に垂れる瞼でまた熱の籠った吐息を漏らす。軽く動いただけでも彼女の膣内をみっちりと支配する肉魁がたまらなく擦れるのだろう。

「──このおチンチン以外……もう、興味持てません……♥」

「のふふ……可愛いのん♥」

「……ところで……」みちるの腰がピタリと止まった。「……さっきから私のこと、キミとしか呼びませんけど……」

「……」

「あの……私の名前……もちろん憶えてますよね?」

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

 二人の間に流れる空気が微妙なものに変わりつつあるのを見ながら、その隙に行人はそっとその場を後にした。

 

 

 

第18話に続く)

 

 

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最終更新:2019年01月23日 02:39