ながされて藍蘭島エロパロSS

 

『寝取られて』 第18話

 

 

 

 

 

 

 

  1

 

 

 コナラやミズナラ、アカマツ、カシなどの生活用木が生える雑木林をひとつふたつと過ぎていくうちに、地衣類や蔓蔦で覆われた古樹老岩がしばしば現れ、次第に周囲が原生的な風景になってゆく。南の縄張りに近い証拠だった。それでも西の内ならば踏み固められた野道がか細くとも伸びている。樹木もそれほど密集しているうちには入らず、太陽光がよく射し込むため下草の茂りが活発だったが、道筋がはっきりしているのでほぼトレッキングになる他の地域と比べれば遥かに歩き易かった。

 行人がこのところ気にしている事柄の一つに靴の状態があった。家出時のスニーカーを一年以上も毎日のように履き続けているが、近ごろは道なき道を歩く頻度が格段に増えたため、目に見えてくたびれてきている。手入れはこまめにしているものの、もし穴でも開いてしまったらどうしよう──と思案していた。

 洋靴が広まる以前の日本では草履が主に用いられていたようだが、藍蘭島では草履派と地下足袋派が半々ぐらいなのが面白い点であった。すずも地下足袋派である。最初は革靴だと思っていたが、動物の殺生がないこの島では肝心の獣皮を調達できないじゃないかと、今さら気付いたのは最近になってのことだ。布製の外履きなんて靴底は大丈夫なのかな、とも行人は思ったのだが、驚いたことに地下足袋の靴底にはゴムが使われていた。ゴムノキを栽培している場所があるそうだ。アイランド号に乗った留学生達の渡航先の一つであるイギリス(当時は大英帝国)では既にゴム産業があり、ゴムノキの種子も持ち帰り品の一つだった。手間は掛かるが精製もしているという。それがこの村の女性たちがパンティーを穿いている秘密でもあるわけだ。

 それならブラジャーも作ろうとすれば作れるのではないかと、行人はちかげの裁縫技術を思い起こしながら考えたことがある。鉄製の農具や庖丁、釘などがあるのだから、どこかで鉄鉱を採掘加工しているのは間違いないだろうし、工夫次第で針金を作ることも可能なのではないだろうか。

 ──何にせよ、まだ履けているうちに予備の靴を用意しておいた方がいいだろう。

(……こうやって段々と島の住人と変わらなくなっていくのかな……)

 そういった事をつらつら考えながら明るい森の小径を歩いていると、株立ちした幹の一本一本が太い立派なカツラの大樹があり、その中ほどでまだ幼い仔猫が降りられなくなって泣いているところに出くわした。樹高ニ十メートルはあるだろうか。遊び友達の他の仔猫や仔犬たちが周りに集まり、下から声をかけながら心配そうに見上げていた。南からここまで遊びに来たのだろう。

(う……けっこう高いな……)

 決して太くない枝にしがみついた仔猫のところまで七、八メートルといったところか。高所は行人の苦手の一つだが、かといって困っている子供たちを見捨てることなどできなかった。

 「任せて」と安心させるように周囲に言うと、自分を奮い立たせて登り始める。幸い、何本も幹が伸びている上に枝も豊富に繁っていたので、手足の置き場には困らなかった。これならと勢いづき、震えて固まっている仔猫のところまで何とか到達すると、「さ、おいで」と、片腕の中に飛び込ませてしっかりと胸に抱く。

 地上までの距離を計ろうと下を見ようとして躊躇う。ここまでは登ることに集中して意識が上に向いていたから怖さも引っ込んでいた。だが、今度は自分が高さの恐怖に強張って、もし誤ってこの子を落としでもしてしまったら――

(くっ……)

 その時、

「行人様っ!」

と、聞き覚えのある声が下から飛んで来た。

 思わず下を向く。高い。

(うわ──)

 血の気が引いて思わず軽いめまいのような視界のぐらつきを覚え、手足に緊張が走ったが、枝の間からこちらを見上げてしきりに両手を振っている人影があるのに気付いた。

 艶めく長い黒髪を白いリボンでツインテールにまとめた少女。

「──あやね!?」

「私がその子を受け取るわ、そのまま落として!」

「で、でも――」

「大丈夫、私を信じて!」

 行人は頷くと、「目を瞑って力を抜いてて」と仔猫に囁き、落下地点を誤らぬよう気を付けながら腕を開いた。背を丸めながらまっすぐあやねめがけて落ちていった仔猫は、くるりと回って吸い込まれるように少女の両腕の中へ受け止められた。

「ナイスキャッチ!」

と、思わずガッツポーズを作った途端、行人の足がずるっと滑った。

「うわあっ!?」

 一瞬の浮揚感の後、バサバサバキバキと枝が折れる音と共に躰のあちこちに痛みが走り、次いでザンッ!と乾いた葉を散らすような音、背中や腰、脚にしたたかな衝撃が襲った。

 視界がグルリと回る。息が詰まるほどの激痛。

「ぐうっ!」

 揺さぶられる意識。喪われる平衡感覚。

 だが、地面であることは辛うじて分かった。

「行人様ッ!?」

 今度はさっきと真逆に上から降ってくるあやねの声。しばらくじっと耐えていると、痛みに奪われていた感覚が徐々に戻ってゆき、行人は何とか胴体を転がして四つん這いになり、痛みを我慢しながら上体を起こした。躰じゅうが枯れ葉と土埃まみれだった。カツラにもたれかかって打ったと思われる箇所をさする。どこもズキッと響く部位ばかりだったが、骨に達していると思えるほどの鋭い痛みはなかった。打ち身や擦り傷だけだとしたら幸運だが……。

「行人様っ!?」

 目の前に仔猫を胸に抱いたあやねが青ざめた顔でしゃがみ込んでいた。普段の青い巫女装束ではなく、いつだったか見覚えのある洋服姿。裾の短いスカートのため両足の隙間から下着が覗き見えてしまっていたが、今はそれに気を取られて鼻血を出すほどの余裕は行人にはなかった。

「だ……大丈夫……たぶん、問題ないよ」

 今度は立ち上がって手や腰を回転させ、駆けるように腕を振り膝を曲げながら脚を交互に踏み鳴らしてみる。次に屈伸や前後屈などその場でひと通り軽い準備体操。打ち身の痛みで顔が歪む。が、やはり動けなくなるほどの深刻な重い痛みが襲って来ないということは、どうやら骨折は回避できたようであった。衣服もどこも破けてはいない。

「ホントに怪我はない!?」

「アハハ、この島に馴染んだおかげで、あやね並に躰が丈夫になったのかな。怪我はしてないみたい」

と、服のあちこちに付いた埃をパンパンと音を立てて払いながら行人は明るくそう答えた。根の部分に落ちなくて運が良かった。朽ちた葉で敷き詰められた地面がクッションになったらしい。カツラ特有のどこか醤油を連想させる甘さのある匂い。まだ落葉の季節でもないのにこうして通年枯葉でいっぱいな手付かずの自然に助けられた。

(ただ……いくら苦手とはいえ、こうも簡単に足を滑らすなんて……)

 これも悪夢の影響によるだるさが祟ったのだろうか。だがそんなのを失敗の理由にしていては情けない。まだまだ修行不足だ──と、行人は忌々しく思った

「よかった……」心底安堵したあやねの表情が、すぐジトッとした目つきに変わる。「──って、私並ってどういう意味よ……」

「え、だって、あやねって富士の頂上から蹴落しても死なないんでしょ?」

「さすがに死ぬわ! それ死ぬから! 誰よそんなふざけたこと言ったのは!? ……ま、まあいいわ…………それより本当によかった……」あやねはホッと息をついたが、すぐに気まずそうな顔になり、腕に抱いた仔猫に視線を落とした。「ごめんなさい、私が余計なことしちゃったかしら」

「そんなことないよ」

 行人は即座に首を振り、心からの感謝の笑顔を輝かせた。

「あやねが来てくれなかったら、途中でやっぱり足を滑らせて、この子もまとめて落ちてたかも。本当に助かったよ。ありがとう。な」と、あやねの胸に抱かれた仔猫の頭を行人が撫でると、「ありがとにゃー」とその子供も嬉しそうに尻尾を振って答えた。あやねが降ろすと友達らとひとしきり喜びにはしゃぎ、動物の子供たちは改めて二人に御礼を言い、何度も手を振りながらきゃいきゃいと森の中に駆け去っていった。

「もう危ないことはするなよー」

「気をつけて遊ぶのよー」

 そう声をかけた子供たちの姿が見えなくなると、

「ふふ、子供って可愛いわね……」

と、あやねは無意識に髪を指で梳(す)きながら目を細めて優しげに微笑んだ。──と、そんな自分を横からポーッと眺める行人の視線に気付く。

「? 行人様、私の顔に何かついてる?」

「あ、い、いや、ごめん。何でもないよ」行人は頬を掻いて誤魔化すように視線を逸し、言葉を濁した。今、あやねの横顔が思わず見とれてしまうほどに綺麗だった──などととても言えない。幸い当人はキョトンとしていて、行人の視線の意味に気付いていないようであった。

「……と、ところで、あやねはどうしてここに? またそんな格好して。あ、いや、似合ってるけどさ……」

と、はぐらかすように行人はあやねの服装に目をやった。

 黒に近い紺色の袖なしブレザーに同色のフリルを二段重ねにしたミニスカート。シャツの袖の肩が切られているのが特徴的なデザインで、赤いネクタイがよく目立っている。下は純白のオーバーニーソックスを穿いていて、ずり下がり防止のリボンがネクタイと同色のピンポイントであった。

 いつもの見慣れた巫女服は躰の線が出ないので、こうして見ると腰の細さといい、脚線美といい、意思の豊かなぱっちりとした瞳といい、可愛く端正な顔つきといい──“黙っていれば美少女”の面目躍如といったところだ。

 すずに負けないぐらい短いスカートから伸びる、あまり日焼けしていない白く美しい脚。ニーソックスとの間に生じた太ももの領域が眩しく、締まった腰も相まって年頃の女を感じさせるくびれを生んでいた。本人が美乳と誇りながらも密かに気にしている胸の控えめなボリューム感も、自己主張を殺して全身の造形バランスの完成度を高めている点において、その言どおりの完璧さを誇っていると認めていいかもしれない。

 そんなことを行人が考えている一方、あやねは想い人の言葉にどきりとして顔をほころばせていた。

(に、似合ってるって……♥)

 この一張羅のことを行人が憶えていてくれていたのも嬉しいことだった。ただ、彼を捜し求めに家を飛び出してここへ来た理由──今日こそ好きと告白して行人を落とそうと燃え盛る心は、こうしていざ本人を面前にすると、自分でもビックリするぐらい瞬く間に鎮火してしまっていた。

 だから、行人の問いかけに、

『貴方に会うために来たのよ♥』

と即答して媚びを売ろうと思っても、

「……た、単なる気分転換ですわ」

 ──と、照れを隠しながらまるで違う台詞をボソッと言うに留まってしまった。

(あああ、私ったら何言ってるのよ~~~!?)

 昔だったら間髪入れずそう答えてたはずなのに……。

「ふうん……」

と、少年の目つきがやや疑わしげになった。以前、同じ服を着てきたあやねと一緒に栗拾いをしたことがあるのだが、その時、食事にしびれ薬を盛られて酷い目に遭っている。ただ、その時に思いがけなく(すずの人工呼吸をカウントしなければ)人生初めてのキスをしてしまったのだが……。

「また何か企んでたり……してないよね?」

「ええっ!?」その視線の意味に気付いたあやねは涙目になって必死に手を振った。

「や、や、やあね、もうあんなコトしないったら!」

 

 したくてもできない。自分から行人様にキスするなんてそんな──いや、でも、した方が進展が──ここまで来た意味が──でも――

 

 ──と、勝手に内部崩壊していくあやねの意識。

 だが行人は目の前の少女がわたわたと慌てふためく様を見て、彼女の心中がそんな事になっているなど知りもせず、

「どうだかね。ふふっ……」

 そう柔和な笑みを浮かべた。

「あ……」

 我に返って思わず行人の顔をぽーっと見入ってしまうあやね。

「ん?なに?」

「え?」

「え?」

「あ、いえ、な、何でもないわ!」

「はあ……」

「と、とと、ところで行人様」

「なに?」

「よ、よ、よけ──」

「よけ?」

「よ、よけ、よよよ、よよよしね」

「ヨヨ死ね?」

「違う! そ、そうじゃなくて、よ、よよ、よよろしけ、けれ、ける、ければ、けるとき……」

「な、なに……?」

「えっ」

「えっ」

 会話が成り立たなくなり、行人は狐につままれたような顔をする。

「どうしたの? さっきからなんか変だよ」

「えっと、あっと、えっと……つ……つき……つっ……ついてってもいいかしらッ!?」

「へっ? ――ああ、見廻りについて来るってこと?」

「え? あ、そ、そう! そうなの! ちょ、ちょーど暇してたし……!」

「いいよ、別にそれぐらい……」

「ほんと!?」

「え? い、いや、別にそこまで同意を求めるほどのことじゃ……?」

 救助に駆け付けてくれたと思ったら突如オドオドとどもり始め、同行を認められたぐらいでまたいきなりパアアッと明るい顔に変わるという、あやねの目まぐるしい態度の変化に、

(なんか相変わらずの平常運転ぶりだなあ……でも、いつもと変わらないあやねだ……うん)

と、行人は頭を掻きながら、どこか嬉しそうに頬をゆるめた。

 

 

 

 

 

 

 

  2

 

 

 躰の調子を確かめながら最初はゆっくりと歩みを進めていた行人だったが、やはり幸運が味方したようであの高さから落ちたにしてはどこからも出血はなく、打った痛みも次第に引いていった。そうとわかると陽気に誘われるようにあやねと他愛もないお喋りをしながら歩調は元に戻ってゆき、何事もなく麗(うら)らかな時が流れ始める。

 日もだいぶ高くなって村落から遠ざかり、しのぶの実家の忍者屋敷がある南境の山に入ると急な勾配も増えてきた。

 雑草や落葉、土砂などに侵食されて形が喪われつつある径や、砂利道のように小石が多分に混じった荒れ道。どこを通ってきたか見失いそうになる灌木の群生地、川沿いや丘陵で段差を乗り越えるのに苦労するところにも出くわす。こうした二足歩行に適していない地形が本来の自然の姿であった。だがそういった難所を踏破するのも鍛錬と思えば苦にはならなかったし、一歩も踏み入れられないような鬱蒼と繁った密林や峻険な崖地など、初めから人間の侵入不可能な場所など他にいくらでもある。

「ほら、あやね、手を貸して」

 エメラルドグリーンの水面がキラキラと光る美しい渓流を眼下に眺めがら急な段状になっている岩場を踏み越えるとき、行人は小奇麗な格好でやや歩きにくそうなあやねに手を差し伸べて登るのを助けた。

「こんな所まで来てますの?」

「道沿いばかり見ていても皆んなに会えないことが多いからね。地域の治安を任された以上は、道のない場所でも足を運ばないと。さすがに森や山の奥深くまでは分け入って行けないけど」

「やっぱり行人様って生真面目よねえ……そこがまたいいんだけど♥」

「あ、何か言った?」

「な……なんでもないわ!」

「そお……?」

 行人が聞き返してきたのだからそれを切っ掛けに告白に移ればよいものを、あやねは反射的に首を振ってしまっていた。(あ……)と気付いても後の祭りで、再び前を向いてしまった行人の後をしゅんとしながら付いていく。

(どーしたのよ私……いつもならこんな風じゃないのに…………)

 前回はすずが隠れて様子を見ていたが、今、周囲に邪魔な存在などないし、これから出てくる気配もない。完全に二人きりである。行人を独り占めにできている。迫るならまたとない機会じゃない。

 そんなあやねの気も知らず、行人は岩場の頂上まで来ると、「んん~」と両腕を晴天に向けてぐーっと伸ばし、開放感に浸った声を出した。二人が立った場所は山の中腹にあり、この近辺では一番見晴らしのいい絶壁の高台であった。渓谷を挟んだ向こう側が低くなって山麓に続いており、濃緑の樹冠層がなだらかに広がっているのがよく眺望できる。その樹海に埋もれるようにして遠くに村の家屋や田畑があったが、海に浮かぶ群島と言うよりも頭を覗かせているだけの小岩が散在しているようであった。それだけ戸数が少ないということであり、自然が人間の営みを圧倒している光景でもある。人類は自然破壊を行って自己生存圏を拡げるが、集団の力と文明の利器が無ければ逆に自然は人間をいともたやすく覆い尽くしてしまう。決して人間が自然を克服しているわけではない──それがよく理解できる風景であった。

「ああ、今日はなんだか楽しいな。久しぶりに誰かと一緒な気がしてさ」

「そういえば……最近はすずと出歩くのも少なくなったの?」

「うん……」と幾分元気なく頷き返す行人。「ボクがすずの仕事を手伝えなくなっちゃったしね……居候させて貰ってる身で心苦しくはあるんだけど。でも、すずも頼りにされてる証拠だって喜んでくれててさ」

「ずっとあの子といるのが当たり前でしたものね。なんかごく自然にいつも一緒だったから、そのうち何とも思わなくなったけど…………ん?」

 改めて振り返ってみれば、ほぼ毎日毎時付かず離れず行動していたなんて、それって夫婦以上の仲じゃないの? ──とあやねは気付き、今さらながら軽い戦慄にも似た驚きを覚えた。朝も昼も晩も寝る時も一緒。すずの家に部屋は一つしかないのだから、それこそ寄り添うような生活だったろう。とんかつもいるとはいえ、二人きりの時間も多かったに違いない。それを一年以上も……行人がこの島に流されたその日から何百日も繰り返して来たのだ。

(よくもまあホントに何も起こらなかったわね…………)

 驚きを通り越して呆れた感情を抱く。家族同然の絆は深まったらしいが、さりとて恋仲になったわけではない。逆に言えばそれだけ二人が恋愛感情に疎いということで、行人攻略の難易度の高さの証明にもなるのだが、そこは努めて考えないようにする。

(それがこうして別行動が増えた……大きな変化よね、これは)

 やはり何かが起こる季節。波乱と激動の到来。新時代の幕開け。あやねはそう感じた。動くなら今、今しかない。今なら行人に急接近して落とせる気がする。それでなくとも好敵手(らいばる)たちが一抜け二抜けと身を引いているのだ。最大の難敵であるすずでさえいない。またとないほどの絶好のチャンス!

 

 ──の、はずなんだけど──

 

 手を翳しながら見晴らしの良い景色を眺める行人の横で、「行人様、好きなの! 私と付き合って!」と思い切って打ち明けようとしても、

「い、い、い──」

と、普段の彼女らしくない吃(ども)り方で言葉が出て来なかった。

「……ん? あれ、どしたの? 発声練習? あ、わかった、山彦でしょ。ボクもやろうかな。ヤッホー! ……高い山ないから木霊しないね」

(何もかも違うわよ………………)

 心の中でさめざめと泣くあやね。

 行人はあやねを誘って切り立った崖の突端に腰を下ろし、十メートル以上も落ち込んでいる真下の川に向かって足をブラブラさせながら、「釣り竿持ってくればよかったなー」と軽く惜しむように言ったが、ふと何かを思い出したのか急に顔を上げた。

「そういえば、ここからそんなに離れてないかな、海」

「え?」と、隣に座ったあやねは一瞬きょとんとしたが、この辺の地勢を頭に浮かべ、「そうね、忍者山を南の方に回れば海に行けるわね」と、道筋を思い起こした。

「やっぱり。一ヶ月ぐらい前、そこにあるすごく綺麗な入り江にすずと海水浴に行ったんだ」

「へえ、あそこ……に……すず、と……だけで?」

 途端にあやねの目つきが剣呑になる。その入り江は彼女もよく知っていた。門塀のように両端からそびえる崖が外海からの波浪を防いでいるため、一日中穏やかな潮騒が耳を優しく撫でるだけの美しい白浜。その場にいる者だけのために設(しつら)えられたような碧く透き通る浅瀬。刻が経つのを忘れてしまう悠々とした風情があり、親しい人とゆっくり過ごすにはもってこいの隠れた名勝であった。

「ボクは夕方になる前に引き上げたんだけど、すずはしまとらさんに顔を見せに行って、一日遅れで帰って来たんだ」

「初耳ね……まさかすずとのでえとだったんじゃないでしょうね……?」

「えっ、デート!? い、いや、とんかつもいたよ。すずにはいつもお世話になってるのに、最近遊んだりしてないなーって思って……それで誘ったんだ……」

 赤くなってしどろもどろに説明する行人に、フンと鼻息を荒らげるあやね。

「なによ、やっぱりでえとのようなものじゃない。私に黙って……!」

 奥手は奥手なりに油断ならないわ──と、考えを訂するツインテールの少女だった。

 

 

 × × × × × × × × × × × 

 

 

 行人とすずだけの海水浴……の、筈だった。

 ──実はその時、そこにはもう一人の男が潜んでいて。

 行人の目を盗んでは──すずはその男と密やかな情事を繰り返していたなど、行人とあやねには知る由もなかった。

 あやねは行人がすずと水入らずの休暇を満喫したのだと立腹したし、行人は行人で師匠のしまとらに顔を見せるため──と、すずの言葉を信じてそう思い込んでいる──彼とは一日ずれて帰宅した少女が驚くぐらい充実した表情や物腰だったので、誘って正解だったと嬉しく思ってすらいた。

(水着になったすず、可愛かったなあ……)

などと、堅物の行人であっても妙に色っぽかった少女の肢体を思い起こさずにはいられない。それまでにも水着姿のすずは何度も見たことがあったが、あの日の姿だけはどうにも目を取られずにはいられないほどの愛らしさを発散していて、やけに記憶に強く焼き付いていた。

(……紐水着のせいかな?)

 最初、すずはなんとマイクロビキニで登場したのだ。豊かに張り出た胸と尻、照りつく日差しも負けずにはじき返す健康的な艶肌──元から規格外なほどの最高素材がさらに成長を感じさせる、顔もからだも文句の付けようがない眉目好い美少女が、ほとんど紐同然の水着で出て来た時は本当に仰天したものだ。この時のために陰毛も剃ったとあけすけに言うすずをさすがに正視できなかったため、すぐに普通の白ビキニに着替えて貰ったのだが。

 オーソドックスなビキニでも肌の露出度が高いことに違いはない。たゆんたゆんと揺れる弾力ある胸、女らしくくびれた腰と丸みを帯びた尻、すらりと長い手足……。少年にとって直視するのが照れくさいほど“目に毒”な女らしさであった。すずが異性の注意を惹かずにはいられないからだつきをしているのは十二分に理解しているつもりだったが、遊んでいる最中に躰が触れ合うのも妙に意識してしまうほどで、どことなく気後れすら感じてしまったものだ。

 

 そんな、少年が眼福で満足していた生唾もののからだを。

 誰にも邪魔されず二人きりなのだと面映ゆく見つめていた美しい少女を。

 

 

 少し離れている時間、もう一人の男が美味しく──

 実に美味しく頂いていたのである。

 

 

 まさかそんなとんでもない淫事が二人きりの筈の浜辺で起きていようなど、少年は夢想だにしなかった。

 見えないと言ってもほんのニ、三十メートルしか離れていない浜の隅にある小屋の中で、その淫蕩な密会は行われていたのだ。

 艶めかしい肢体に指先を掠めさせるのも躊躇っていた少年とは対照的に、その男は好色を隠そうともせずに少女のからだを味わいまくった。夏の日差しで火照り汗ばんだ肌を撫でまくり、胸を揉みまくり、アソコを舐めまくり……。浜辺を照りつける太陽に負けない灼熱と化した陰棒で少女の股間のふっくらとした肉饅頭を押しのけて柔らかい牝肉の中に分け入り、少女の帰りを待っている少年の声を聞きながら秘洞の奥まで侵入し。熱く濡れるメス肉を激しく擦り上げて──そして、味わった証もしっかりと彼女の胎内に放ってから少年の元へ帰す徹底ぶりであった。

 

 大事に飾られた美々しい宝石を眺めて感嘆するだけの少年。

 極上のメス肉に躊躇いなくかぶりつき、一片残らず喰い尽くす男。

 

 少女は──すずはぱん太郎のそんな慾望まみれの求めを拒まないどころか、早い段階から受け入れて悦びに悶える始末であった。

 行人は知らない。

 手洗いや休憩などと口実を付けてすずが海から上がっていた、長くともせいぜい十数分の間に──蒸し蒸しとする薄暗い密室で、汗だくになって絡み合っている男と女がいたことなど。

 彼が何度となく視線を向けていた小屋の中では、すずとぱん太郎が下半身を密着させてセックスしていて、彼女の胎奥にとびきり濃厚な精液が何度も放たれていたことなど。

 短くも熱い交わりの後、行人への遠慮など欠片もなくぱん太郎がすずの中で果て、性器を繋げ合ったまま二人でじっと絶頂と膣内射精の余韻に浸っている時間──小屋の壁の向こうから届く少年の声を耳にしながら、少女もまた、陶酔した表情で自分の膣内でドクンドクンと勁(つよ)く脈動する固く熱い肉棒と、からだの奥底に当たる射精の心地好さを感じ続けていたのだ。行人ではない別の男の精子を注ぎ込まれているというのに。

 

 それも、一度だけではない……二度も、三度も。

 

 すずはそれらしい理由を付けては小屋に入ってゆき、行人がちょっと遅いな、何をしているんだろう、様子を見に行ってみようかな、でも静かな屋内で今のすずと二人きりになるのって──などと逡巡しながらくすんだ色の小屋を眺めている頃合いに、汗ばみ朱の差したからだで出て来る少女……。

 そうして行人の元に戻ったすずのアソコには、たった今仕込まれたばかりのぱん太郎の子種がなみなみと満たされていたわけである。

 すずは肉壷の入り口を強く締め付け、その孕み汁を逃さないようにしていた。機械などに一切頼らない野良仕事や山野で鍛えられた藍蘭島の女性たちの足腰の強さは尋常ではない。こぼさないようにしようと思えばほとんど漏れ出させることなく過ごせるのである。村の女たちのアソコの締りの良さは抜群であった。

 行人と過ごしている最中にもすずの性器の中に充満した搾りたての白濁液は膣粘膜を通して彼女の体内に吸収されてゆき、傲岸なほどに元気なぱん太郎の精子は何百、何千、いや何万という単位で次々すずの子宮内に泳ぎ入っていった。

 

 ……日が出ている間、ぱん太郎とすずの逢引は何度も繰り返された。

 

 とうとう朝から夕までほぼ一日、膣内に温かさの失われない新鮮な精液を常に満たしながら、すずはその子種の主ではない少年の傍にいたのである。

 そうとも知らない行人は機嫌良くすずに愛想良く笑いかけていた。遊んでいる合間、半ば無意識にちょくちょくと大切に想っている少女の姿をぽーっとした目で追ってしまったりもして。

 だが、少年の瞳に映る愛らしい紅唇は、朝から何度も彼の嫌う男とディープキスを交わし、淫らな体液で汚れた肉棒を掃除していた。口内の奥隅に白濁液の残滓が残っていた。白ビキニのトップスからはみ出さんばかりの豊乳は、乳首の勃起がなかなか収まらず、布に隠れた部分に強く揉まれた痕が赤く残るほどであった。

 そして、ボトムの奥では──少ない時間の中で中出し同時絶頂すら味わった愛慾の結果が凝集し、愛し合った男女の生殖活動の続きが盛んに行われていたのである。

 そう。

 少年が見惚れたように眺めていた少女のからだの中では、今や彼がこの世で最も嫌悪していると言ってもいい男の精子が星の数ほど群れ泳ぎ、次から次へと膣壁や子宮壁にこびりつき、粘膜に吸収されて少女の一部となっていた。すずの中でぱん太郎が同化していた。あるいは卵管の終着点すら埋め尽くし、卵巣に繋がる隔壁に黒い雲霞となって取り付き、彼女の分身の登場をせっついたりと──少年の淡い想いなどあざ笑うかのように、少女の生殖器官の内部でやりたい放題だったのだ。

 もしこの時に排卵していれば、瞬く間に夥しい精子の大群に囲まれて即座に受精が始まっていたことだろう。少年少女の特別なひと夏の思い出となる時間の中、何百日も仲睦まじく暮らしてきた少年から親しみの笑顔を向けられた中、青リボンの少女は母親になっていたかもしれないのだ。

 少年ではない別の男の種で────。

 

 しかし実のところ、この前日もさらにその前日も、もっと言えばそれ以前から、すずはぱん太郎に抱かれまくっていて、種付けの意志を篭められた膣内射精を数え切れないほど受け止め続けてきていた。この浜辺に来た時点ですずの子宮内外には既に相当量のぱん太郎の精子が残留していたし、それでなくとももう何ヶ月も前からすずの生殖器は奥の奥までぱん太郎の存在を刻み込まれて来ていた。行人が表にも触れたことのない秘所は、とっくにぱん太郎の縄張りであり、生殖交尾の甘味をとことん覚え込まされてメス化していたのである。

 だからこそ、予告もなく突如現れたぱん太郎に襲われるようにして抱かれても、すずは前戯もそこそこに気持ち好く感じてしまい、行人の声を聞きながらぱん太郎の力強い種付け射精を恍惚と受け止めてしまったのだが……。

 

 行人に見つめられていた時、すずもまた浜小屋に目をやりながら、今日新たに注がれた子種の重みと温かさを感じていた。少年の視線に気付くことなくその男の姿を頭に想い浮かべ、その男から与えられる快楽を想い浮かべ、ほのかに頬を染めてすらいた。少年は少女がそんな風にどこか気怠げなのは夏の暑さのせいだと思っていた。

 少女は海に入っていても男の愛撫を思い出してしまい、逞しい巨根でオマンコの奥まで掻き回される感覚が下半身に蘇り──少年と遊んでいる最中も無意識に男とのセックスを反芻し、火照りの鎮まらない秘肉をキュンキュンと切なく疼かせていた。

 少年に微笑みを向けていても、また向けられていても、陰奥に残る余韻は絶対に忘れられない。行人の海パンの内側に同じモノがある事実など考え及びもしない。そこに居ない男の股間にそそり立つ極太の肉棒を恋しく感じてしまっていた。いつの間にか浜小屋に戻る理由とタイミングだけを考えていた。

 

 

 その晩、家に戻った行人は自分で作った夕食を済まし、蒲団を一つ敷いて横になると、あの浜で別れたすずの、「今晩はおししょーさまのところに泊まって来るかも」という言葉を思い出しながら、ぽっかりと空いている横の板床を何度も眺めた。

 今までのすずならごく自然に行人やとんかつも連れて行っていただろう。というか、すずが先に帰っていいよと言わなければ、行人は自(おの)ずと付き添っていたはずだ。南のぬしでありすずの武術の師匠でもあるしまとらとは行人も面識があった。

 だが、行人からすればすずが一人で知己の元へ行くことを不思議に思うはずもない。家族が知人に会うと言って出掛ける時、いちいち付いて行くだろうか? 家族もプライベートがある一個の人間──それに、行き先は南の森なので出会って欲しくない奴と鉢合わせする心配もない──行人は現地で別れたすずに対して何の疑問も抱いていなかった。

 やけに広く感じる隣の空間をぼんやりと見つめながら、昼間の彼女を暗闇の中に思い描く。

 毎日見慣れているはずの同居人なのに、今日は自身でも戸惑いを覚えるほど妙に惹きつけられた。何故だかは解らない──夏の日差しとバカンス気分の仕業だろうか。それとも、やはり健康的過ぎる水着姿が目に毒だったのだろうか。何となく胸やお尻のボリュームも増していたような気もするし……。

(うーん、完璧すぎる美少女がこれほど正視に困るものとは……)

 いつもは顔ばかりを見て話をしているから、日常では意識しないのだろうか。

 おばけを怖がるすずが夜を避けて次の日に帰りをずらすだろうことはまず間違いない。それでなくとも電気のない真っ暗な夜道は危ない。

(……すずももう寝てるかな。それともまだ話しに花が咲いてるのかな。みゃあさんもいるのかな……)

などと心の中を占める少女のことを考え続けながら、行人は眠りに落ちたのだった。

 そうして、少年が南の森で猫たちに囲まれているとばかり思っていた頃──

 

 

 

 その少女は。

 

 

 まだあの入り江にいて。

 

 

 発情しきった淫らなセックスをしていたのである────

 

 

 

 行人と遊んだ時間よりもぱん太郎と性器を繋げ合っていた時間の方が多かったと言えば、すずがどれほど爛れた一夜を過ごしたかわかるであろうか。

 行人が去るとすぐに二人は表で堂々と絡み始め、砂浜に茣蓙を敷いて文字通りのセックス漬けとなって数え切れないほど交わった。ぱん太郎に激しく求められ、自分からも積極的に求め、すずは数えきれないほど逝きまくった。逝かされまくった。夜が白むまで中出しされまくった。粘り気も濃さも熱さもまったく失われない白濁液をからだじゅうに浴びせられまくった。塗りたくられまくった。普段は誰も寄り付かない静かな景勝地の空に、その明媚に似つかわしくないケダモノのような二つの淫声が絡ま合いながら吸い込まれていったのだ。

 

 

 満天の星々の煌きの下で──

 あるいは、営みの音以外はしんとした小屋の中で──

 最初の夜と比べ物にならないほど長い長い時間。

 重なった男と女の陰影は、ずっと、一つの黒い花を咲かせていた。

 

 

 あまりにもハメまくったせいで拡がりきった肉洞からぱん太郎の巨根が引き抜かれると、夥しい白濁粘液にまみれた奥壁と子宮口まで覗ける淫穴がぽっかりと姿を現し、孕まし汁が瀑布になるほど開きっ放しになる有り様であった。決して行人には見せられない、ぱん太郎サイズに拡がった肉洞。揉まれ吸われまくった乳房も真っ赤に腫れ上がり、唾液と淫汁、汗が交じり合った体液で胸全体がぬらぬらと濡れ、特に限界まで膨らみ勃った両の乳首と乳輪などは母乳が垂れているように妖しくぬめるほどであった。連続アクメの痙攣が止まらないすずはからだを閉じられず、腰はビクンビクンと弾みっぱなし、幸せ惚けた顔は涎と涙を垂れ流しっぱなしで、少年が知った瞬時に絶望の奈落に叩き落とされるだろうそんな姿をぱん太郎の前に晒していた。

 それからもまだハメまくり、とうとうすずが体力の限界を迎えて昏睡してしまった後も、ぱん太郎はまったく硬度を失わない男根を二人の体液で溶けきった膣内に入れ続け、彼専用のメス穴として目覚めたすずの生殖器の開発具合を堪能していた。反応が喪われてある意味本当の性玩具となったすずの肉壷でさらに数回楽しんでからようやく彼も躰を休めたが、眠ってるうちにも何度も無意識にぱん太郎の腰はカクカクと動き、朝遅く二人が起きると両者の股間は前夜よりも白濁の洪水が広がっている有り様であった。ひとしきり笑い合うとそのままお互いへの愛撫と接吻が始まり、すずとぱん太郎は再び恋人か夫婦のような夢中さでお互いを求め合い出した。それが生殖発情を抑えもしないケダモノの貪り合いに変わるのにそう時間はかからなかった。

 日が昇りきって性臭が充満する小屋の中がいよいよ蒸し風呂状態になって我慢できなくなると外に待避し、波打ち際に足を進め裸同士でじゃれ合っては駅弁で交尾、岩場に腰掛けて語らっては座位で交尾、森の木陰で涼んでは幹に手をついて立ちバックで交尾、水と食材を集めて小屋の囲炉裏で火を熾し、腹を満たしたらまた交尾……。

 

 交尾、交尾、交尾…………!

 

 昼を過ぎてもぱん太郎の肉棒はまだすずの体内にあり、二人は半日以上も性器を癒合させていたことになる。

 快楽の喘ぎの合間にすずは大好き、ぱん太郎様大好きと幾度も反覆し、熟(こな)れきった媚肉はぱん太郎の巨根を根本まで喰らい尽くさんばかりに奥へ奥へと招き蠢めいた。その無類の心地好さに幾度も力強い吐精が少女の最奥に叩き付けられ、その度にすずの膣襞は歓喜の悲鳴を上げどんなに放出しても微塵も精力を失わない無類の肉棒をメスの本能のままに惚れ惚れと搾り取りまくった。ぱん太郎が行人の名を出すと、簡単に行人なんて知らない、ぱん太郎様がいいのとすずは言い放った。もはや行人の存在が割り込む隙はこれっぽっちもなかった。二人が喉を震わせて一つに融け合う様が何遍も繰り返される光景は、まさに子作りに励む熱愛夫婦のようであった。

 日暮れ間近、ようやく村はずれまで戻って来た二人が傍の草むらで最後の情愛を交わしてやっと別れた時は、すずの瞳にはぱん太郎に対する思慕と情慾がはっきりと宿り、一年以上淡い想いを胸奥に抱き続けてきたはずの少年のことなど忘れ果てた顔だったのである──。

 

 

 

 × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

「誤解だよ……」

「どうだか……」と、あやねは拗ねたようにプイと顔を背けたが、ふと何かを思い出した表情になった。「そういえばこないだ、すずがお腹を壊したようだけど……大丈夫だったのかしら?」

「え?」

と、行人は目を丸くした。すずが体調を崩したことなど初めて聞いたからだ。

「あら、行人様知らなかったの? 半月ぐらい前なんだけど……お昼頃に会った時、あの子急にお腹おさえてしゃがみ込んじゃって。慌てて腹下しになる野草を採って戻ったんだけど、居なくなってたのよね。じゃあ……あの後すぐに治ったのかしら?」

 その時もあやねが呼ぶ声が届くところですずは仕込まれていたバイブの代わりにぱん太郎の肉棒を胎内に迎えて歓喜に満ちた淫声を漏らし、一体化するぐらいの密着具合で濃厚な種付け射精に悶えていたのだが、その物音は森の樹間に吸収されてあやねの耳まで届かなかったのだった。

「知らないなあ……この頃、すずって機嫌が良くない日が無いぐらいだし……」

「そうなの……何か良いコトでもあったのかしらね」

「さあ、何があったかボクには判らないけど──」急にニコニコと破顔する行人。少年の脳裏には今朝のすずの輝く笑顔があった。「──すずのことだから、その通りだと思うよ。良いコトがあったんだよ、きっと」

「フフ……行人様もからあげ様の代行なんて大変そうだけど、すずはすずで子守りやら仕事の肩代わりやらで大忙しみたいね」

「うん。赤ちゃんの世話は大変らしくて、泊って来るときもあるんだ。本人は相変わらずの村の何でも屋のつもりだけど。……ぱん太郎がこっちに定住してから、そうした忙しさが増えたみたいでさ」

「へえ……」

 それにしては以前よりすずの姿を外で見かけなくなったような気もしたが、あくまで気がするだけだったのであやねは特に口に登らせることはなかった。

「でも忙しいのはすずだけじゃないみたい。他の女の子たちとも当たり障りのない話ぐらいはするけど、一緒に遊ぶこととかすっかりなくなっちゃったし」

 言われてみればと、あやねも最近の自分の交友状態を振り返る。彼女自身も他の娘たちと遊んだりすることがあまりなくなった気もする。もう子供ではないのだからと言ってしまえばそれまでだが、ただ、ぱん太郎という共通項で繋がっている娘たちは申し合わせて屋敷に連れ立ったり、何処かへ出掛けたりしているようだった。そういう意味でもあやねはそれとない疎外感を覚えている。

(まあ、皆んな変わっていくってことよね……)

 朝の姉との会話を思い出す。

 自分は取り残されていく――いつまでも独りで――

(…………)

 不意にあやねは言いようのない焦りが胸の奥に宿るのを感じた。私だってもう十分大人の年齢だけれど、内実は──他の皆んなは相手を決めて子供もこさえて、私より年下の子たちもうんと大人びてきているのに──

 そっと行人を盗み見る。いくらこうして隣に寄り添っても、ちっとも女性として意識してくれる様子のない朴念仁。

 暗い影が背後から忍び寄って来るような、寒気にも似た言い知れない感覚をあやねはおぼえた。

 それを打ち払うようにブンブンとツインテールを揺らして首を振る。

(他人は他人、私は私じゃない!)

「ど、どうしたの?」

 隣に座っている少女が突然激しく頭を振り始めたので行人がギョッとする。

「えっ!? い、いえ、何でもないですわ、オホホホホ……」

「まあいいか。──だから、さ」

「?」

「だから……今日、こうしてあやねと一緒にいるのが、けっこう嬉しかったりするんだよね」

「……行人様…………」

 二人が見つめ合っていることに気付いたのはしばらくしてからであった。

 

「「──あっ!」」

 

と、どちらも頬を紅潮させてほぼ同時に顔を背ける。

「ご、ごめん、変なこと言って……!」何故か謝る行人。

「わ、私こそ…………そ、それより、行人様……」

「ん、なに?」

 あやねは赤らめた顔を伏せ気味に行人の手に流し目を送る。手を、手をつなぎたい。一緒にいるのが嬉しいと言われて、それだけでもう充分に報われた気分になったが、それでは駄目だということは解っている。接吻までした仲なんだから、手を握るぐらいおかしくはないはず――。

「て、て、て、ててて」

 行人の表情が、また始まった、とでも言いたげな微妙さになった。「……て?」と、見つめられている手を持ち上げる。

 

 手をつないでもいい──?

 

 ――たったそれだけの言葉が、やはり口に出せなかった。

「て――手が汚れてるわっ!」

 そう叫んだあやねはシュバッと電光石火の素早さでハンカチを差し出した。

「え!? あ、ああ、ありがとう。さっき木に登った時だね」

と、行人は感謝しながら受け取り、手を拭いた。「……ん? どしたの?」

 あやねが今にも下の川へ落ちそうなほどがっくりとうなだれていたのだ。

「……な、なんでもないわ…………」

 ごまかすように埃を払って立ち上がるあやね。

 その時、急にぐるるる、という音がした。

「……あっ…………!」

 あやねの腹からであった。少女の顔面がまたカーッと赤くなる。

「あはは、お腹空いた?」

「え、ええ…………」

 消え入りそうな声で恥ずかしそうに俯くあやね。姉に焚き付けられたように飛び出してきたので朝食も摂ってなければ弁当も持参してなかった。私としたことが行人様の前で何て恥ずかしい真似を、と、内心自分をポコポコ殴るあやねだったが、鳴ってしまったものはどうしようもない。

 その様子を見た行人は真上を仰ぎ、ほぼ天頂に太陽が掛かっているのを確認すると、

「ちょうどお昼だね。座りなよ」

 あやねに再び腰掛けるよう促し、ウェストポーチから笹折とペットボトルを取り出した。二枚重ねの笹折の麻紐を解くと、中から両手サイズの黒々とした大きなおむすびがでんと二つ並んで飛び出してきた。

「わっ、でか! 爆弾むすびだ、重いはずだよ……はい、あやねの分」

と、行人は隣に座り直した少女に一つ手渡した。

「ありがとう、行人様」

 どちらともなく微笑み合う。

 早速かぶりついたあやねは、むぐむぐと咀嚼しながら、どこか違和感を覚えて歯型のついたを眺め、小首を傾げた。

「……これ、あの子が作ったの?」

「そうだよ。どうかした?」

「いえ──」ちょっと考えて、あやねはその違和感の正体に気付いた。「残り物っぽい具を適当に詰め込んでるだけじゃない、これ。なんかぞんざいねえ……。私ならもっとちゃんとした物を作りますのに」

「そう? 確かに昨夜の残り物とかだけど……用意してくれるだけで有り難いよ。すずだって働いてるんだから」

 確かに昼食などは軽く済ませるのが普通だから、これはひと手間加えている方だろう。毎日凝った弁当を作るのは大変なのも確かだ。

(でも私なら、愛する人のために毎日一生懸命作るけどね♥)

 あやねはまだどこか違和感が拭い切れなかったが、悩んでいても仕方ないので再びかぶりつく。

 濃密な磯の薫りを漂わせる海苔と精製されていない分ミネラルの豊富な塩の風味が効いたむすびは美味しく、白米の中に詰まった色々な具材は目を楽しませる。文句を付けたあやねであったが、まあたまにはこういうのも悪くはないわねと思い直した。

「言っていただけたら私が毎朝でも届けますわよ」

「あはは、ありがと。でもわざわざ悪いでしょ」

「そ、そんな……」

 そんな、行人様のためなら喜んで。だって、私、行人様が好きなんだから。

「――ん、どうしたの?」

 俯きながら顔を赤くして何かブツブツ呟いているあやねに、行人は不思議そうに声をかけた。

「い、いえ、何でも!」

「そお……?」

 小首を傾げつつもすぐに隣の少女から注意を離し、キラキラと太陽の光を照り返す翡翠色の川面や対岸の森などを見渡しながら食事を進める行人。そんな少年の態度にあやねはわずかに恨めしげな横目を送り、食べかけの爆弾むすびに視線を戻すと心の中でモヤモヤとした溜め息をついた。

(ああもうっ、私ったら!)

と、自分自身にいきり立つ。行人に対する妙な羞恥心は和らいだと思っていたのに。肝心要なところになると途端に緊張する癖はまだ直っていないらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

  3

 

 

 昼休憩を終えると何事もなかったかのように二人は歩き始めたが、その後もあやねは上手く切り出すことができず、その都度行人を戸惑わせ、首を傾げられる始末であった。

(ああああああああああああああもう!!!!)

 出遭った動物たちに挨拶したり、異常はないかと行人が周囲に気を払っている隙に、その背後で髪を掻き毟るあやね。

(行人様も行人様よ、少しぐらい察してくれてもいいじゃない!)

 この時ばかりは折り紙つきのニブさが苦々しく思える。

 もし、行人様の方から迫ってくれれば……喜んでこの身を捧げますのに。

(それとも……やっぱり、私の存在なんて気にならないってことなのかしら…………)

と、いつもの自信に満ちた彼女らしくもなく、あやねは一抹の不安を抱いた。そして、そうかもしれないと寂しい気持ちになった。行人の堅物ぶりは叩けば響く鐘のようだ。良く言えば人一倍義理堅く、責任感がある頼もしい性格。それでいて人当たりが良くて協調性もある。社交上手でなくともその好青年ぶりは女子たちにとても好ましく映っていた。

 だが同時に身持ちも堅かった。藍蘭島の少女たちから見れば信じられないほどに。どれだけ親しくなったと思ってもなかなか近づいた気になれない――どこか他人行儀なのだ。悪く言えば余所余所しい。島に来て一年ちょっとの部外者なのだから当然なのかもしれないが──ぱん太郎が現れる前の娘たちは、自分たちにあまり興味を示してくれない行人の素っ気なさを大いに嘆いたものだ。

 今日にしても、せっかくのおめかしも行人の目を引いたのは最初だけで、それもあやねにとって悄然となる材料であった。新しい服を縫うべきだったかもしれない。

(……ぱん太郎、ね…………)

 今や村じゅうの注目を一身に集めているもう一人の男があやねの頭の中に浮かぶ。

 東のぬしとして北の住人に負けず劣らずの荒くれ者──だった。

 昔──ほんの一年ぐらい前までのことだ──は、東の森で余所者を見つけると、それが女であっても腕力に物を言わせて攻撃してきてどこまでも追い掛けて来るため、あやねたちもその凶暴ぶりを恐れていたものだ。

 それが今ではどうだろうか。

 彼に抱かれた女たちは評価を翻し、男らしい、逞しい、意外と優しいなどとベタ誉めなのである。血の気の多さはどこへ行ったのか、話によると労りの言葉をよくかけてくれたり、気を遣ってくれたり、おしゃれに目を留めて褒めてくれたりするのだそうだ。確か妖怪化しておらず、したがって妖術も使えないはずだったが、人化の術を誰かにかけて貰いでもしたのだろうか。

 ぱん太郎との関係が良好とは言い難いはずのからあげまでもが彼に手を貸して東の森の面倒を代わりに見ているのは、“烈火の白刃”がぱん太郎を認めたのかと驚きをもって皆に噂された。だが、西の治安はこうして行人が請け負っており、ぱん太郎がやっていることと言えば女を抱くことだけだ。

(まあ……こっちが頼んだ事なんだけど…………)

 ぱん太郎の子種は“命中度”が極めて高いと評判で、もう何人もの女が身籠り、ひと足先に生まれた赤子たちは元気にすくすくと育っている。他も絶賛種付け中で、この分だと産める女は一人余さずぱん太郎の子を宿すだろうとまで言われていた。オババは笑いが止まらないらしい。ぱん太郎がどれだけ節操なく次々と女に手を出してもお構いなしの放免状態なのはそのせいもあった。

 屋敷がまだ建築中の頃、集落で真昼間から堂々と盛っていた話も聞いたことがある。というかその手の話題は枚挙に暇がなく、あやねも話どころか実際に何度も“目撃”している。

 住まいが定まるまでは野外行為も多く、田圃のすぐ傍の茂みの陰で盛っていたり、食事などに招かれるとそのままその女の家に泊まり込むのが常で、縁側にぎょっとするぐらい大きな草履がある家の中を覗くと、そこの娘と母が交互にハメられながら善がり声を上げていた、などというのがお決まりであったのだ。

 とある日のこと、障子の張り替えのため開け放たれた家屋の中、結合部も露わに淫液をしぶかせながら腰を打ち付け合い、女の嬌声が垣根の外まで筒抜けになりながら交わっているところへオババが通りがかった。当然、中の様子に気付いたが、交合現場を見てもわずかに眉間にしわを寄せてほどほどになと小言を与えただけで、オババは何事も無かったかのようにすぐ立ち去ったらしい。村長の黙認を得た二人の交わりはその後も小一時間続き、見物人が軒先まで入って来る中で、ぱん太郎の相手になっていた娘はとても声を抑えられずに感じまくり、乱れまくり、何度も大きな絶頂を迎えたという。

 娘の胎内から巨根がやっと引き抜かれると、種付けされまくった娘はぱん太郎の股間に顔を埋(うず)め、注がれた孕まし汁が粘っこく滴る尻をふりふり掲げ、淫水まみれの肉棒を愛おしげに丹念にしゃぶり清めたり、胸に挟んでの本格的な口唇奉仕に移り、勢いの衰えない顔面射精を受けて陶然としたり……。

 果ては大股開きにされながら抜き差しされる様を集まった女たちに間近から嫌というほどじろじろ観賞されたり、柱に寄りかかって立ちバックで腰を打ち付けられながら、あるいは種付けプレスされている最中に、

『このコもこの通り完全に行人クンからボクに鞍替えしたから』

『はっきりとボクを選んだから、前とは比べ物にならないほど遠慮なくハメまくってあげてるの』

『だからこのコもボクの赤ちゃん孕んだら祝福してあげてね♥』

『あ、行人クンには告げなくてもいいよ。聞かせるのも可哀想でしょ? それでなくても彼はこの島に身寄りがない寂しい身上なんだから』

 などと、オーガズムに飛んでいる娘に大量の濃濁精液を滾々と流し込みながら、そうぱん太郎が宣(のたま)ったそうだ。

 その相手が誰だったかまではあやねの耳に伝わっていない。その家の子であるはねとつばさが海女漁に出た代わりに張り替えの手伝いに来ていた娘らしい。それは何でも屋のすずも候補に入ることを示唆していた──というより、仕事柄、筆頭に置いてもおかしくない──が、あやねは思い浮かべた時点で即座に候補欄から振るい落としていた。その娘とぱん太郎のセックスは愛し合う夫婦のようで、何度膣内射精されても嬉々として受け止めていたという。すずがぱん太郎とそんな関係のはずもない。

(あの子が行人様を差し置いてぱん太郎なんかと婚前交渉するなんてあり得ないしね)

 まだ性知識のかけらもなく興味もない初(うぶ)なお子様なんだから。だからこそ一年以上異性と暮らしていても何も起きないのだし、それが実はもうぱん太郎に抱かれまくっていて、他の娘たちと同じく種付けを拒まないほどの虜になり、大人顔負けのいやらしいセックスをしている──などと。

 作り話にしてももっと信憑性を持たせなければならないだろう。

 姉や母を始めとした肉慾に溶けた女たちの浅ましい姿……。

(すずまでもがあんな風になってるですって? 私や行人様が知らないところであの男に抱かれてる? しかも夫婦みたいに見えるほどの熱々ぶりで? 他の子たち同様あの男にぞっこんに? あの子までもがぱん太郎の赤ちゃんを産むですって? 行人様と暮らしてるのに? 行人様が好きなのに? あの男と子作りを? すずがあの男と爛れた行為を? あの男に犯されて悦んでる? 行人様への想いを無くして? あの──あのアソコが裂けそうなほど大きなアレをズポズポされて……あの一発で孕みそうなドロドロの子種を……?)

 

 まさか!

 

 あやねは自身の妄想に頬を染めながら、やれやれと首を振った。

(馬鹿も休み休みね……あの子が殿方との交わりを私より先に済ませて……私さえまだ知らない女の悦びまで覚えてるだなんて…………)

 大方、既にぱん太郎の虜にされている中の一人だろう、とあやねは思った。すずより当てはまる娘は何人もいるのだから。ぱん太郎のモノになっているのだと改めて周知されたのだ。姉、ちかげ、しのぶ──あやねもよく知っている間柄である可能性も十分にある、というか、ぱん太郎が殊更に行人を引き合いに出して言うのだからほぼ間違いないだろう。他の娘たちより積極的に行人に接近していたグループ。

 だが、そこであやねは気付いてしまった。

(……でも……あの中に……海女の家の手伝いに行くようなのがいたかしら?)

 そこが気にかかる点だった。姉が障子の張り替えなんて仕事をするはずもないし、ちかげとみちるも同様、というか忘れがちだがみちるは既に子供を産んでいる。りんも孕んでいるし、梅梅が今さら鞍替え宣言するのはおかしい。

 こうして消去法で考えると、しのぶかゆきのしか残らなくなる。この二人ならまだ可能性があるだろう。

 だが……やはり、最も不自然でないのは…………。

(…………)

 

 まさか、ね………………。

 

 自問自答に耽りすぎて前を歩く行人の背がだいぶ離れているのに気付き、あやねは慌てて歩調を速めて足早に追いかけた。

 その脳裏で、すずが蕩けた顔でぱん太郎と抱き合っている姿──四つん這いになってあの巨根をねじ込まれている姿──柱にしがみつきながら後ろから突きまくられ、その気持ち好さに泣き腫らしている姿──などの妄想が去来する。

 

 ぱん太郎の子を宿すために大股を開いて精液注射を迎え入れているすずの姿──快感にまみれて幸せそうに悶え尽くした顔──

 

(ありえ……ないわ…………)

 現実味のない飛躍したとんでもなく迷妄。

 しかし……例えこれまでは無事であったとしても、村のめぼしい女すべてにちょっかいをかけて、そのほぼすべてを成功させているあの男にかかれば、今後どうなるかはわからないかもしれない。

(冗談じゃあないわよ、私は絶対ご免蒙るんだからね! 絶対に!)

 種馬ならぬ種パンダ。もっとも今の姿からはパンダを連想することが出来ないが……。

 実はあやねも何度か話しかけられたことがあった。この間の夢の原本がこれかという自然さで、「やあ、いい天気のん。子作りする?」と、まるでお茶にでも誘うかのように言葉をかけてくるものだから、最初は条件反射的にほんの少し考えてしまい、すぐに慌てて拒否した。案外こんな手に引っ掛かってよく考えもせずにあれよあれよという間に関係してしまった娘も多いのではないか。村の娘たちなら有り得そうだ。

 出くわす都度その誘いは必ずあったが、あやねがけんもほろろに断わると、「気が変わったらいつでも言ってのん」と、それ以上は言い寄らずあっさりと離れていった。

 とは言え、ぱん太郎の印象も昔とはだいぶ違っているのは認めざるを得ない。正式に招かれてからは面倒な騒動を起こしたこともないし、それどころかぱん太郎を誉めそやす賛辞が増えるばかりだ。道端で女たちに囲まれて談笑しているところを見かけると、すっかり角の取れた福々しい顔を和やかに崩していて、その振る舞いも人間ぶりが板に付いて来ていた。東の森のぬしとはまったくの別人なのではないかと疑う時もあるぐらいだ。

 何にせよ、あれだけ好んでいた喧嘩を封印して、慕われるぐらいの事はやっているのね――と、あやねはいくらか見直す気持ちにはなったものの、だからといって自分から近づくことは決してなかったが。

 それでも姉たちと交歓してる時の、腹は出ているが力こぶの目立つ躰を思い出すと、胸がどきっとしてしまう。汗でてかる肌、筋骨の太い肉体。太いのは股間から伸びるアレも──。

 脚は短いし太鼓腹だし、行人より見栄えのいい男とはとても思えない。肉体的な均整の美醜は比べるべくもない。だが、よく注視すればぱん太郎の躰はだらしなく弛(たる)んでいるわけではなく、腕も足も筋肉が盛り上がった雄くさい躰だった。胸板もとても厚く、腹の出っ張り具合よりそちらに目が向いてしまうぐらいだ。その辺は腐ってもぬしの風格なのだろう。ぱん太郎の肉体を基準に考えてしまえば、行人の躰が細く小さく映ってしまう。

 前を進む行人の背を追いかけながら手すら繋げられない自分を考え、気付いてくれない少年との距離を考え、ぱん太郎の太い腕に抱かれて満ち足りたように悦ぶ姉たちの幸せそうな姿を思い浮かべ、そうやって悶々としていると、視界の上部にある空模様が暗く沈んでいることにあやねは気付いた。

 いつの間にかどんよりとした雲が頭上を低く覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

  4

 

 

「あ……ひと雨来そうね」

「ホントだ。オババの言った通りだ……参ったなあ、もうすぐ日暮れなのに」

と、雨宿りでも考えたのか辺りをキョロキョロする行人。周囲に生えている木はすべてブナであった。水気の多いブナは木材としてはあまり用いられないものの、薪やお椀にしたり、毒素のない木の実は森の動物たちの良い食べ物になる。十分な樹冠を広げているので適当な木陰に入れば雨を避けることは出来そうだが、ブナは雨を集めて幹から流し落とす木なので身を寄せるにはあまり適していなかった。

「もうここまで来てたんだ」

 今日のコースはこの林を抜ければ村落までそう遠くはないな、と判断する行人。

「ってことは、近くにあの家があるな……」

「あの家?」

「樵小屋みたいな所があるんだ、知らない?」

「ああ……あそこね……」

 思い出したようにあやねは頷いた。其処なら彼女も知っていた。

 昔はこのブナ林に妻を失った老木地師が独りで住んでいて、他の職人では真似できない趣きや精巧さのある見事な漆塗りの木細工を作ったり、良質な薪の配達をしたりしていたそうだが、御多分に洩れず大津波によって代が途絶えてしまった。それからは木製品もりんの一家が全て引き受けるようになり、後は老木地師が暮らしていた家屋が残されるのみとなった。このように無人となった建物がぽつんぽつんと点在するのも、西の人里の特徴である。放っておくのも忍びなく、休息所として手頃なので村人が掃除や修繕をしながら時折使っているようで、行人もたまに利用させて貰っていた。

「あそこで雨宿りさせて貰おうか」

 二人は小走りに急いだが、目的地に辿り着く前にザアーッと大量の雨粒が落ちて来た。空の開けた林道では避けようがない。

「うひゃあ、本格的に降ってきた」

「急ぎましょ!」

 径に積もる枯れ葉を踏みしだきながら途中でさらに細く輪郭の薄れた小径へ曲がって入ると、しばらくして急に空間が開けた。雑草が生え放題の土庭を囲むようにして建物が三つあった。母屋、作業場、そして材木置場。どれも齢に負けた老体のように悄然とした面持ちの風情があり、庭の隅には薪を割るための切り株が草深く埋もれていた。長い間葺き替えられていない屋根は荒れていて、朽ちた板壁は雨に濡れて不気味さすら感じる黒ずみようであったが、二人はそれらを眺めるどころではなく、急いで母屋の戸口を開けて中に飛び込んだ。

「うわー、すっかり濡れ鼠だよ」

「せっかくの一張羅が……火を熾せるかしら──あら?」

 全身から水を滴らせながら居間に上がろうとしたあやねは、そこで囲炉裏に薪がくべられ火が付いているのに気付いた。天井から吊り下げられた錆浮く鉄瓶からはシューシューと湯気が吹いている。急須と茶飲み茶碗が三つ置いてあり、飲み残しの形跡があった。

「あれ……ここって空き家……だよね? 先客がいるのかな」

「そう考えるのが自然ですわね。誰かしら」

「すみませーん」

 行人は居間の奥にある閉め切られた二枚戸の向こうに届くよう声を出した。以前来た時の記憶では畳敷きの寝間になっているはずだ。

 しばらく待っても返事はなく、二人は首を傾げたが、

「とにかく上がらせて貰おう。このままじゃ風邪を引いちゃうよ」

「そうね」

と、框の前に履き物を並べて座布団に腰を下ろし、火に当たり始めた。

「いやあ暖まるね──って何してんのッ!?」

「え?」

 行人がギョッと声を上げたのも無理はない。あやねがノースリーブジャケットのボタンを外し、ネクタイを抜き取り、ブラウスも脱ぎ落とし──行人の目の前でさっさと上半身裸になってしまったのだ。起伏のなだらかな双つの丘陵が綺麗なピンク色の乳首までばっちりと見えてしまう。

「濡れたままは嫌だから服を乾かそうと思ったんだけど。行人様も早く脱いだ方がいいわよ、この方が服も躰もすぐ乾くわ」

 あやねはそう言って立ち上がり、行人の視線を気にすることなく下も脱ぎ始めてしまう。ニーソックスを脱ぎ、ホックを外したスカートがストンと落ちて現れる純白のパンティー。

「ちょ、ちょ! そっ、そっ、そうだけどさっ!」

 とうとう秘部を覆う白布にも平然と手をかけたあやねを見て、行人は座布団に座ったまま躰をギュルッと百八十度急反転させた。それでもあやねの秘部を少し視界に捉えてしまい、あ、陰毛けっこう薄いな……などと思ってしまったが。

 藍蘭島の娘特有の異性に対する羞恥心や警戒心の欠如というか、本土ならば花も恥じらう女子高生の年齢であるこの少女も、やはり異性に局所を晒してもまったく臆するところがない。この島で育った娘で裸を見られて恥ずかしがるのはりんぐらいなものだ。かと言って、何に対しても羞恥心が無いというわけでもないらしく、たまに恥ずかしそうな態度を取ったりする。基準がズレていてよく解らないというか、行人は彼女たちが価値観のまったく異なる未開の部族のように思えてしまう時がたまにある。今世紀に入っても他所者の踏み込めない僻地などに文明と接触しない極めて閉鎖的な部族社会が未だにあると聞くが、実際、状況的には違いがないのかも知れない。

 それにしても、自分の口から堂々と島一番の美少女と言って憚らない自信家のあやねだが、すずに劣らない眉目秀麗な顔立ちといい、整ったスタイルといい、肌のきめ細やかさといい、言うだけのことは十分にある美しさなのは間違いなかった。

 すっぽんぽんになったあやねは台所から手頃な大きさの桶を持って来ると、服を絞って水をそこに溜め、パンと小気味よい音を立てて広げる。そうして一枚一枚焚き火の熱気にかざした。

「ホラ、行人様の服も頂戴。乾かしてあげる」

「え、あ、う、うん…………」

 黒い半袖シャツを脱いで上半身裸になった行人が、背を向けたまま後ろ手に渡そうとすると、「──あ……」と、何故かあやねは頬を染めて行人の上半身から目を逸しながら受け取った。

 ただ、同じく目を逸らしていた行人には見えていなかったが。

 その時だった。

 寝間に通じている板襖の向こう側から何やら物音がすると共に、微かに人声のようなものが聞こえて来たのだ。

「……やっぱり」

「誰かいるようね……」

 ツインテールの少女と顔を見合わせ、即座に相手が全裸なのを思い出してグキッと首が鳴るほど瞬時に視線を外す行人。首の痛みを努めて無視しながら木刀を掴んで立ち上がり、板襖の引手に指をかけて一気に開いた。その後ろにつくあやね。

「誰かいる────の…………」

 中の様子が明らかになった途端、行人の発する言葉から勢いが霧消する。

 行燈が灯された薄暗い畳間には蒲団が敷かれ、小山のような生白い物体が中央にそびえ立っているように見えたが、すぐにそれがごつい体格の人体だとわかった。

 ここまでの巨体は村に一人しかいない。

「「……!」」

 行人とあやねの顔面が驚愕に固まる。

 ──全裸のぱん太郎が蒲団の上にいた。

 

 

 行人とあやねから見て横向きになった寝床に、正しくは膝立ちになったぱん太郎と、後背位で繋がっている女性らしき下半身──らしき、と言うのは、見えているのは腰から下だけで、上体は掛け蒲団が被さって隠れていたからだ。

 くびれた腰からドキリとしてしまうほど魅惑的な丸みを形作っている桃尻が、ぱん太郎の広い両手に掴まれていた。頭がすっぽり隠されているので女性の正体は判らなかったが、二人がお楽しみの真っ最中であったのは間違いない。ぱん太郎の股間から生えた大淫棒がぬらぬらとした体液にまみれながら女の秘裂に出入りしていたのだ。

 あやねはわざとらしいほど緩やかに抜き差しされているぱん太郎の肉根に目が吸い寄せられてしまう。行人が傍にいるのも忘れて。

(やっぱり……すごく大きい…………)

 男性器の平均寸法など知らないが直感で並ではないと判断できる。それに、行人の“モノ”とは比べものにならないと他の娘たちが話しているのも聞いたことがあった。鼻は室内に篭った匂いを嗅ぎ取る──性交している男女が発散する体臭と、秘液の性臭が入り混じった卑猥な淫気。その甘ったるい匂いをあやねは無意識のうちに、嫌忌することなく味わうように吸い込んでしまっていた。

「のの、行人クンにあやねちゃんじゃないの」

 その呑気な物言いに、お前、昼前は違う場所にいただろ──と言いかけて慌てて飲み込む行人。

「な……何してんだよ、こんなところで……! てか、ソレ隠せよ……!」

 出くわしてしまった手前無視はできず、行人は嫌そうに顔を顰(しか)めながらそう言葉を投げかけた。みちる……だろうか。あれから場所を移してここに連れ込んだのだろうか。そう思うと、みちるらしいむっちりした太ももにも見えてくる……。

「何って、仕事してるのん。大事な仕事のん♥」

 ぱん太郎はそう言って挿入したまま、いやらしさを感じさせる手つきで女の尻を撫で回した。蒲団の中から、「んっ……ふぅんンッ……♥」と、微かな媚声が聞こえるが、くぐもっていて誰の声か判然としない。

 子作りするのがぱん太郎の仕事──身も蓋もなく言ってしまえば間違いはない。それが今この村では公然と罷り通っているのも……と、行人は苦々しく思った。

「盛り上がってきたところだったのに……ほら、見て♥」

と、ぱん太郎は女の片脚をグイッと持ち上げて肩に載せ、行人たちの方に開帳して見せた。

「「…………!!」」

 思わず息を呑む行人とあやね。

 ぱん太郎の逞しい巨根が謎の女の陰唇をぱっくりと割り広げ、秘肉の中に埋(うず)まっているのがこれでもかというほどに確認できたのだ。どちらの性器もつるつるに剃られているため、ぱん太郎が腰を前後する度にぶ厚い肉根が出たり、入ったりをなめらかに繰り返すのが嫌でも詳しく観察できてしまう。行燈の光に照らされて二人の陰部が洪水の跡のようにぬめっているのも鮮明に写し出されていた。

「妊娠してない子はまだまだいるからね。このコもそう。もう何ヶ月もヤッてるっていうか、子作り公認になってから一番長いんだけどね……。ま、お陰でこんなに美味しいカラダをずっと味わえてるからイイんだけど♥」

 ぱん太郎は横目でニヤニヤと行人を見ながら女の脚を降ろし、本格的なピストン運動を始めた。パンパンと腰を打ち付ける音が立ち、またも掛け蒲団の中からくぐもった嬌声が漏れ聞こえる。

「のっ、のっ、締まる、締まる♥ もうすっかりボク専用のオマンコのん♥」

と、ぱん太郎は涎を垂らしながら喉を晒し、気持ち好さそうな惚け声を上げた。

「や、や、止めろよ……! ボクたちがいるんだぞ……!」

 行人は気を呑まれ、声が顫えないようそれだけの言葉を絞り出すのがやっとであった。我ながら滑稽で情けないとは思ったが、しかし、この異常な場を即座に収められる妙案がないのも事実だった。

「後から来た奴に言われても困るなー」と、ぱん太郎は綽々と返した。「このところ家でばっかりだったから、たまには外で気分転換したいと思ってね。これでも他人(ひと)の邪魔にならない場所を選んだんだよ」

 そう言われると行人は抗弁の威勢を失いそうになったが、いや、そんなことはない、と思い直した。コイツはそんな殊勝なタマじゃない筈だし、誰か来たらこんな破廉恥行為は止めるのが常識だろう……と。

 だが、この男にそんな常識が通用するともまた思えなかった。

「二人とも濡れてるのん、遠慮せずに火にでも当たってくつろぐといいのん」

 ぱん太郎がそう言いつつ真裸のあやねのからだをジロジロと眺めた。どきっとしてたじろぐあやねだったが、それでも局部を隠そうともしないのがこの島の娘らしかった。だが、行人が眦(まなじり)を裂き横に躰を滑らせてツインテールの少女の前に立ち塞がり、その無遠慮な視線を遮った。

「おいっ! あやねをそんな目で見るなよ……!」

「行人様……♥」

「あ、あと、そんなサカッてるすぐ近くで……くつろげるわけないだろ。せめて……ボクたちが出て行くまでは止めてろよ……!」

「そう言われてもな~。お楽しみを邪魔したのはそっちだしね」腰を小気味よく振り続けながらわざとらしく嘆息するぱん太郎。「あ、ちなみにこのコ、キミもよぉ~く知ってる女のコだよ♥」

「なっ……!? えっ……はああッ…………!?」

「誰だかわかるかな? のふふふ……」

 ぱん太郎は満面にいやらしい笑みを張り付けたかと思うと、それが急に弛緩して腰の動きが止まった。

「のっ、おっ、おぅ、おうぅっ…………。──おぅふぅっ……。今、すっごい締まったのん……おもわず出ちゃいそうだった♥」

 大仰な息を付くと、悪戯っぽい笑みを浮かべて貫いている女を掛け蒲団越しに見下ろし、その悦に入った目を行人にも向ける。「キミに正体を知られそうになって、このコもコーフンしたみたい♥ まだキュウキュウ締め付けて来るのん♥」

 そう言うと、再び抽送を始める。すると後背位で繋がった女の脚が今までよりもビクビクと強く痙攣し、ぱん太郎のピストンに合わせて腰が妖艶に揺れ動いた。蒲団の中から漏れ出る嬌声も勢いを増す。顔は見えなくとも、女の方も惑乱するほど感じているのがよく解った。

「のの、のの♥ とってもスケベで気持ちいいエロエロマンコのん♥ 行人クンに見られてコーフンしてる変態マンコ♥ ボクがここまでスケベに育てたんだけどね♥」

 ぱん太郎がチラと横目を使うと、彼の言葉に耐え切れなくなった行人が怒りに紅潮した顔をそっぽに背けたところであった。その後ろから顔を出して覗き見しているあやねも頬を赤らめていたが、こちらは明らかに違う面持ちで交淫箇所に目を奪われている。

「このマンコのナカで何回出したっけかな~……百回以上は確かだけど♥」

「ひゃ……って……!?」

 思わず驚きに声が裏返りそうになる行人。

「のふふ……そう、このマンコはもう何百回もボクの子種を注がれてるんだ♥ もちろん、子宮の中もボクの精子でイッパイだろうね♥ まだ孕んでないのが信じられないぐらい♥」

「くっ……ううぅ……!」

 ぱん太郎は優越に満ちた笑みを深めるとまた悠々としたリズムに戻り、ゆっくりと見せつけるように長いストロークで、だが精力的に女の媚肉へ肉竿を突き入れ続ける。ぬるぬるの蜜壺と化した膣洞はどこまでも彼の巨根を迎え入れる。締まり具合も先程までと段違いであった。

(ちくしょう……!)

 行人は激しい感情に握り拳を震わせていた。ぱん太郎はわざと挑発している。下半身を虜にした女たちに認められてすっかり支配者気取りになり、ボクを見下して嘲笑しているんだ──。

「行人クン、キミは実にイケナイ男のん」

「──はあ?」

 行人が顔を戻し、刺突するような鋭い眼差しを向けて来たのも意にも介さず、ぱん太郎は腰をゆるゆると前後させたまま、謎の女の脇腹から太ももにかけて愛おしむように撫で回す。

「見るのん、このスベスベでプリプリの肌。綺麗でエロいカラダ。若さではちきれそうなメス肉……まさに今がせっくすするお年頃のん。男を知らなきゃ損するお年頃のん。毎日だってヤりたい盛りの年頃のん。そんな女の子たちを、君は」ぱん太郎の視線がまた行人に移る。優越感と蔑みを同時に湛えた双眸。「男の義務を果たさずに、このコたちの若く貴重な時間を無駄に過ごさせた。のらりくらりと逃げるばかりで、このコたちに何の一つも、本当に何の一つのイイ経験も思い出も与えなかった。それとも与えられる自信がなかったのかな?」

 喋りつつも下半身の運動を乱さず女を気持ち好くさせているぱん太郎は巧みなものであったが、行人とあやねにそこまで気付くゆとりはない。

「くっ……うぐ……!」

 行人は猛烈に言い返したかったし、反論の言葉はいくらでもあったが、ギリリと奥歯を噛みながら唇を真一文字に結んだままであった。朝のオババとの会話を思い出していた。そんな行人を傍らのあやねが心配そうに見つめる。

「のの? 何か言いたそうだねえ、行人クン。でもボクは何か間違ったこと言ってるかな? 女の子たちとセックスして子供を作るのは村の希望でもあるんだよ」

 愉快そうに喋り、一旦腰を引く。女陰からぬっちゃりとした淫液の架け橋を垂らしながら全貌を現す、ぬらぬらと黒く光る凶器のような大肉柱。そして、その自慢の逸品をあやねが見入っているのを視野の隅に確認しながら、ぱん太郎は女の正体がばれないよう掛け蒲団でくるんだまま躰の位置を入れ替えた。下半身は相変わらず剥き出しのままで、今度は彼が下になっての騎乗位。

 掛け蒲団から女の腕が出て来て股下に伸び、手慣れた作業でぱん太郎の肉棹を掴みながら己が入り口に当てて腰を沈めると、

「んふうぅー……♥!」と、気持ち好さそうな呻き声が漏れ聞こえた。

「このコは今、幸せの真っ只中のん。ボクのおかげでこんなに素敵な経験ができて」

 相変わらず下半分以外は隠したままの女性は見物人が間近にいるのも意に介さず、ぱん太郎に跨がりながら腰を振り始めた。パンパン、グチャグチャという猥雑な音が行人とあやねのところまで届き、童貞処女の二人は眼前で行われる生々しい交尾に完全に主導権を握られ、狼狽えるばかりであった。なまじ顔が隠れているせいで結合部が殊更に強調されてしまっているのだ。

「ね、キミもそう思うでしょ? ボクともっとオマンコしたいって。こんな風にボクの逞しいチンポをもっともっとハメハメして貰いたいって。思うならぴーすしてみて♥」

 女だけを動かさせながら、腕枕をして寝そべったままのぱん太郎が掛け蒲団の中に向かって言うと、すぐにピースサインが突き出て来て、さらに行人とあやねをたじろかせることとなった。

「だってさ、のふふ……♥ いやあ、このコも行人クンのことが大好きみたいだったけど、この通り、今ではすっかりボクのチンポ漬けになっちゃってさあ。中出しした回数は梅梅ちゃんより上なんだよね。ボクのチンポはデカくて固くて熱くて気持ち好くて、もう病みつきだってさ……あ、さっきも言った通り、行人クンがよく知ってるコだからね」ぱん太郎はまたも繋がっている女に声をかける。「ホラ、行人クンがすぐそこで見てるけど、キミの卵子にボクの精子ひっかけてるのバレちゃったけど、それでもボクとせっくすしたい? せっくすするの気持ち好い?」

 もう片方の腕が追加されてダブルピースになり、さらに賛意を加えるように揺らされる。

「な…………くっ…………」

 よろめくように後ずさり、あやねに当たりそうになる行人。

「いったい誰だろうね? のふふ……。いやもう、このコのオマンコが絶品でさー。名器ってヤツ? 今も出そうなのをすっごい我慢してるんだから。でも、行人クン、キミがイケナイんだよ。キミがそんなんだから、このコもボクに奪(と)られちゃったの。ま、たとえキミが行動を起こしたとしても、結果は同じだったかもしれないけどね♥」

 誰だというのか──行人は怒りと混乱でまとまらない脳内を必死に統制しながら思考を働かせた。むっちりとしていながらもよく引き締まった下半身は、当人のスタイルが相当良いことを伝えている。木小屋で見たみちるのなまめかしい肢体が真っ先に思い浮かぶ。だが既に一児の母である彼女は先程の妊娠していないという発言にそぐわない。それに贅肉が付くような生活をしていない村娘たちは、大半がこんなくびれた腰つきをしていると言ってよかった。母親たちだって美人ばかりだ。豊かな島で健康的に育まれた美女、美少女揃いの女人村。その妙齢の女人たちほぼ全てを手中に収めている男・ぱん太郎──。

 体格はどうだろう。まちやゆきのではなさそうだが……りん? しのぶ? いや、条件が既知の間柄だけなら、母親の誰かという線もある。ぱん太郎からすれば母親たちだって若い娘扱いできる年齢差かもしれない。だがそうなると絞りきれない。行人はそっと後ろを見たが、あやねも誰だか判別のついていない表情をしていた。

 躰の半分が見えているといっても、普段見慣れているわけでもない裸体の鑑別など簡単に出来るわけがない。ましてやこんな異様な状況下で足腰だけなど。結局のところヒントなど無いも同然であった。

 行人は勢いを作るように腕を大きく横に薙いでから拳を固めたが、

「そんな……そんなこと……村の人達とは、もうほとんど顔見知りで……誰だか判るわけないだろ! それに、大体……公序を蔑ろにする事ばかりして……村の風紀を乱すのも大概にしろ!」

と、そう言い返すのが精一杯だった。

「のの、判んないんだ」わざとらしくがっかりしたようなため息をつくぱん太郎。「だってさ。行人クン、キミのこと判んないって。半分も見えてるのに」

 しゅんと元気がなくなってぱん太郎の胸板に置かれた手に、ぱん太郎の手が伸びてきてしかと掴んだ。

「大丈夫、ボクがついてるからね。ボクは彼みたいな臆病者じゃないのん。キミを寂しがらせはしないから。たっぷり愛してあげる。女の悦びを教えてあげる。可愛い赤ちゃんも授けてあげるの。女の幸せを与えてあげるよ♥」

 厚ぼったく広い手にしなやかな指がギュッと絡まり、二人の間にある絆を見せつけるように強く握り合う。

「…………くっ……うっ………………!!」

 最近の悪夢ではすずとぱん太郎が手を合わせたり指を絡めたりしながら愛し合っている場面が多く、すぐにそれを思い出した行人は、思わず頭が真っ白になってよろめいてしまった。

 あれは夢だ。これはすずじゃない。すずであるわけがない。頭の中でそう必死に否定しても、心の中を荒れ狂う戦慄(おのの)きは抑えきれなかった。

 すずのからだつき──否定は──あの掛け蒲団を捲ったらすずが現れる可能性は──

 

 あるはずないだろう!!!!

 

 心の中で絶叫する行人。己にそう強く言い聞かせる。それでも最悪の気分が持ち返すことはなかった。

 ──だから、行人は。

 自分が動揺している間に、ぱん太郎がまたもやツインテールの少女に顔を向けたのにも気付いていなかった。

 ぱん太郎と目を合わせてしまったあやねは、

「…………!!」

 獣性を隠そうともしない目つきに、まるで頸(くび)に猛獣の牙を突き立てられて逃げるのを諦めた草食動物のように動けなくなり、ぱん太郎と何秒間も──あやねにとっては永い永い縛鎖の時間──見つめ合ってしまう。

 

 ──ゾクリ────

 

 異様な震えがあやねの背骨を走る。心の奥底を見透かされているような双眸。

 しかも行人がよろめき、彼女自身も覗き見するために横にずれ、さらにはぱん太郎も位置を変えていたために、あやねの全身はまたもやぱん太郎の視界に曝け出されてしまっていたのだ。

 しばらくしてやっと、あやねの目からぱん太郎の目が離れると、今度は下へとゆっくりと降りてゆく。美しい輪郭を描く妙年の肢体を味わい舐(ねぶ)るように……。

 瞳、唇、鎖骨、乳房、乳首、腹部、腰……。

 そして──

 その下は逆三角の空隙で行き止まりとなっている、淡い草の萌える土手。そこでぱん太郎の視線は止まった。

(…………ッ!)

 羞恥──も、多少は含まれていたかもしれないが──それよりも言いようのない不安を感じ、あやねは半ば無意識に手を動かして陰部を隠そうとした。だが、途端にぱん太郎が隠すなとでも言うように眼を上に戻して合図を送ると、即効性の麻痺毒を流されたかのように彼女の腕は力なく停止してしまった。なぜ止めてしまったのか、自分自身でも分からなかった。

「…………!」

 寝そべったぱん太郎からよく見えてしまうアソコを──洞穴が空いているわけでもないのに奥の奥まで丸々覗き込まれている気分に襲われ、あやねはまるで金縛りにでもかかったような感覚とともに、ゾクゾクとからだの芯が震え上がるのを抑えられなかった。

 

 野獣のような眼光。犯したいという欲望にまみれた目。

 だが──女という女を快感にまみれさせている男の目。

 

 彼に蕩かされた女たちの艶姿、そして自慰と淫夢の記憶があやねの脳裏に喚び起こされる。数々の淫逸な場面。同時絶頂の快感に鳴き合うぱん太郎と女たち。好きな少年の皮を被った男に犯される妄想で絶頂を迎えてしまった自慰。この男に抱かれて気持ち好くなってしまった夢──。

 アソコが、アソコが熱い────。

 色事師の視線が注がれている下腹に──その奥にズクズクとした疼きをあやねは覚え始めていた。それだけで子供を孕んでしまいそうなほどの錯覚すら感じる情念の篭った目つき。両脚が震え、全身から力が抜けて立っていられなくなってしまいそうになる。ドキドキと心臓が高鳴って息が乱れ、下腹部の熱さが益々実感できるようになり、首と言わず脇と言わずじんわりと汗が浮かんできてしまう。

 それでも隠せなかった。脚を閉じられなかった。

 ぱん太郎に秘部を見つめられ続けるあやね。

(い──行人様────)

 助けを求めようと行人に目を移した彼女だったが、少年はまだ正体不明の女の下半身や握り合っているを思い詰めたように凝視し続けていた。あやねがぱん太郎に視姦されていることなど気付いてもしない。

 その間もぱん太郎の魔的な眼力があやねのアソコをこそぐり続ける。

 チロチロと赤い舌を覗かせながら、撫で回すように……舐め回すように……内部を突き回すように……。

 ぱん太郎に股間を弄られて善がる女たちの姿──。

(あ……あ……あぁ…………!)

 アソコの疼きが、脚の震えが。からだの火照りが、

 おかしな気分が──抑えようもなく増してゆくばかりであった。

 

 『一方は全然手ぇ出さへんし。どっちにするかてゆうたら、女として扱ってくれる方を選ぶのは自然やないか?』

 『ぱん太郎様って……ホント素敵よ♥ どんな女でも極楽浄土へ案内してくれるんだから』

 

 姉やみことの言葉を思い出しながら、再びぱん太郎の目に吸い込まれてしまう。誰とも──行人とさえもこんなに長い時間、目を離さずにいたことはない──と、感じてしまうほどの時間……。

 それは一種の真摯さすら感じる意志と情熱を煮え立たせた眼差しであった。ぱん太郎の慾望に滾った目は、女からするとそうとも映る。確かに滾りすぎて澱んでしまっているかもしれない、だが──心から欲しているものに対して正直な気持ちを隠さず、堂々と見通している──ある意味純粋極まりない目の光であった。

 ぱん太郎のそんな眼力の強さに奪い取られるかのように、見習い巫女の目から意志の光が薄くなってゆく……。

 

「キミもたっぷり愛してあげる。女の悦びを教えてあげる」

「可愛い赤ちゃんも授けてあげるの。女の幸せを与えてあげるよ」

 

 蒲団を被っている女性に対して発せられた言葉──行人はそうとばかり思っていたが、そうではなかった。

 先ほどの台詞の後半は、あやねに視線が移って口にされたものであった。

 ぱん太郎に幸せを与えられたことを証明するかのような、姉を始めとした歓喜に満たされた女たちの官能の嬌態があやねの脳裏にまたも現れ、明滅するように次々と通り過ぎてゆく──。

 ツインテールの少女はハァハァと浅く早い呼吸になりながら、ぱん太郎の視線から目を剥がせなかった。絡み取られてしまったかのように。突き離して身を遠ざけることが出来なかった。情慾の眼差しが注がれ続けるアソコの熱い疼き。おかしな気持ち。それらに囚われたように動けなかった。

 

 そして──

 

 理性と入れ替わるように情念めいた切なさがあやねの瞳に段々と宿り始め、次第に表情が熱に浮かされたように変わっていったかと思うと……──

 

 

 信じられないことに────

 

 

 あやねは、ぱん太郎の視線が注がれている股を。

 

 

 徐々に開き始めた………………

 

 

 

 後から考えても、なぜ、この時、こんな事をしてしまったのか……彼女自身でもよくわからない。

 無言の要求に屈してしまったかのように、妖術で操られてしまったかのように。

 

 あるいは──この好色魔に見られたいかのように。

 

 心の奥のさらに奥に眠る、ドロドロとした底意が、得体の知れない衝動によって圧し上げられ、とうとう表に噴き出して来てしまったかのように。 

 脚を拡げ、腰を突き出すことによって、初々しい恥裂を形作るあやねの秘陰の表面が──ほんのわずかな幅しか開かれていないワレメが、ぱん太郎の目にしっかりと捉えられてしまう。

 

 女である部分を、あやねはぱん太郎に晒してしまったのだ。

 

(ああ……ああぁ…………♥!!)

 

 行人の前で全裸を晒したことは何度もある──先ほどもそうだ。しかし、それで特別意識したことも恥ずかしいと思ったこともない。

 だが、“男”に見られているとはっきり認識したり、ソコが子供を作る器官であるとわかっていながらこのような行為に及んだことなどは、当然ながらなかった。

 

 それを──好きな人以外の男に……してしまった……!

 

 自分で自分が理解できないまま、体内で昂っていくばかりのおかしな感情があやねの背すじをゾクゾクと駆け上がり、頭を沸騰させ、アソコの疼きがさらに切なさを増す。

 気が付くと、ぱん太郎があやねの陰部に目を注いだまま、ゆっくりと抽送を再開していた。

(あ…………あ…………あぁ…………!)

 大男の腰が上に乗った少女をグッ、グッと力強く突き上げる毎に、あやねのアソコも一瞬の高熱を帯び、その度に彼女の腰もビク、ビクと小さく跳ねる。

 いつの間にかアソコだけでなく、あやねは全身を茹だるほどに火照らせていた。胸が張り詰め、乳首が固くなる。白リボンの少女はわずかに開いた唇から千千に乱れた吐息を漏らし、熱さが特に目立つ下腹部に手をあてた──本当に熱いのはそのさらに下だったが。今度は隠そうと考えたわけではなく、半ば無意識的にであった。

 それを見たぱん太郎が片頬を歪めると、わずかに顎をしゃくり、燃えるような目であやねを睨めつける。

 もっと見せろと。

 

(ああっ……ああぁ…………♥)

 

 ドクン!──と、ひときわ激しい鼓動を打つあやねの心臓。

 普段の勝ち気さ、自立心の旺盛さはどこへやら……弱々しく、だが、目ばゆい昂奮に潤んだ瞳。

 

 内から湧いてくるわけのわからないおかしな情動に操られるがままに、ぱん太郎の目に指図されるままに──あやねはさらに両脚を拡げ、ゆっくりと上体を後ろに逸してもっと股間を突き出すと──まだあまり濃くない陰毛が生え揃う肉園の扉に手をかけ──

 

(あぁ……だめ…………だめよ………………♥)

 

 これまで拒み続け、これからも拒もうと思っていたはずの男に。

 この人と──と想っているはずの少年が、横顔が窺えるほどすぐ近くにいるのに。

 

 ──その恋しい男子にも見せたことのない鮮やかな薄紅色の女肉を。

 

 もはやソコがどんな役割を果たすか知ってしまっているのに。

 

 子供を作る大事なその器官に己が生殖棒を突っ込み、掻き回し、本能のままに孕まし汁を注ぐ事しか考えていない男に。

 

 

 指を震わせながら、観音開きに見せてしまったのだ……!

 

 

 今年で十七になる乙女の柔肉は極めて健康的な血色で、色素沈殿の一切ない可憐で美しい花園であった。どこが膣口でどこが尿道口か遠目では判らないほどに閉ざされていたが、よく見れば蜜液が滲み、小陰唇までぬめっていた。

(はあぁ──あぁぁぁぁ…………♥♥!!!!)

 あやねは今にも意識が遠のき倒れそうだったが、その一方で異様な昂奮に支えられて立っていた。気分はますますおかしくなり、からだの火照りも尋常ではなく募るばかり。

 

(ココにアレを突っ込まれたら……あのドロドロの白い汁を中で注がれたら……妊娠しちゃう……子供ができるのよ……!?)

(行人様が嫌っている男なのに……その言いなりになるように……!)

(この男(ひと)が入って来たら……間違いなく……このナカで……あの濃厚な子種を……もの凄い勢いで出されちゃう…………!)

(あぁ……私も……この男(ひと)の赤ちゃんを……孕まされちゃう…………!)

 

 

 

 あやねの秘陰から滲み出る蜜のこぼれ具合をニヤニヤと眺めながら、ぱん太郎は舌なめずりをして、スローペースでグッ、グッと腰を溜めた抽送を続ける。あやねが広げて見せている秘肉の入り口にこうして己が肉棒をぶち込みたい、という意思がありありと出た表情と仕草。

 あやねのアソコを視姦していた。目に見えない淫棒をあやねの秘肉に捩じ込ませていた。

(あっ……あっ……あっ、ああっ…………♥!)

 何もかもが行人とは違う。行人を理想の好男子像とするならば、こちらは俗物の極北。慾棒が滾るままに女のカラダを欲して熄(や)まず、快楽と生殖のみを底なしに追求する生物。この男の慾求が満たされるまで抱かれた女は、自身も肉慾を満たされまくり、もはや彼と同じ生物になってしまう。孕むまで終わらない無限生殖地獄に堕とされ、果てなき淫虐快楽から逃れられなくなってしまうのだ。あやねが見てきた女たちの姿が、今目の前で姿を隠しながら腰を振っている女がその証明であった。

 それなのに──

(あ……あ……はあぁ……あああぁ…………♥)

 あやねはとうとう夢遊しているようなとろんとした目つきになり、湿り気を帯びた内肉が覗く秘裂を指で拡げたまま、ぱん太郎の動きに合わせて腰をゆるやかに揺らし出してしまう。野獣の慾望に応えるように。先ほどよりも開いた唇から舌先を覗かせ、なま暖かい息を漏らしながら……。

(だめ…………だめ…………こんなコト、しちゃ…………♥)

 だが、考えていることと、やっていることが、まったく別であった。

 からだの──そしてアソコの火照りは、今や爆ぜそうなほど燃え盛って抑えられない。

 もし何も知らない第三者がこの場を見たならば、もっとお似合いの少年が傍にいるというのに、このツインテールの少女はそんなに大男の方に犯されたがっているのか──と、そんな感想以外は持たなかったであろう。格好の良い少年よりも、あのいかにも女泣かせの巨根が欲しくてたまらない淫乱娘か……と、結論付けたことだろう。

 

 

 今、この瞬間、あやねは行人のすぐ後ろでぱん太郎と交わっていた。

 

 ぱん太郎の肉棒を胎内に迎え入れ、交淫する悦びに疼いていた。

 

 

 あやね自身の指で割り開かれた肉扉から、ぱん太郎の視線に乗って煮え滾った慾望が彼女の秘陰に入り込み、律動し、奥を叩き、膨らみ、征服しようと犯していたのである。

 行人は──行人は気付く様子がない。振り返りもしない。背中に目があるわけでもなく、後ろにいるあやねがまさかそんなとんでもない真似をしているなど、夢想だにしていないのだろう。ただ、憎い男の面を一目見れば、またあやねをいやらしい目で見ていることにすぐ気付いた筈だ。それすらもしないほど少年は長い間、繋がり合った下半身や指の一本一本まで絡み合った手に気を取られ、(誰だ……誰だ……)と考え続けていた。

 そして、それは唐突に起こったのだった。

「あふん」

と、いきなり行人の険しい顔が弛緩して間の抜けたような声を漏らしたかと思うと、病人のような覚束ない千鳥足でふらふらし、次の瞬間、糸の切れた人形のように膝からガックリと崩折れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

  5

 

 

「い──行人様!?」

 吃驚して夢から醒めたように正気を取り戻したあやねは、慌ててしゃがみ込み行人を介抱しようとして、すぐに彼の首根に風受けの付いた細い針が刺さっているのに気付いた。

「これは……吹き矢……!?」

「眠って貰っただけだから安心なさいな」

 居間から聞き慣れた声──さらに驚いたあやねが振り返ると、いつの間にか吹き筒を握ったまちが炉端に立っていた。

「お姉ぇ様……!? な、なんで……!?」

「貴女の答えが出たみたいだからよ」

「……?」

 意味を飲み込めない風の妹に、まちは口元を袂で覆ってクスクスと笑った。

「行人様のすぐ傍であんな真似をするなんて……貴女も相当溜まってたのねえ。気付かなくて御免なさいね」

「なっ……な……!? あ、あ、あれは、あ、あ、あの、その──」ようやく姉が何を言っているのか気付いたあやねは、カーッと顔を赤らめ弁解しようとしたが、しどろもどろで言葉にならなかった。

「本当は私の出番はなかったんだけど、あそこまでしちゃう以上、もう判断の余地もないと思ってね」

 行為を中断し、蒲団の上にあぐらを掻いたぱん太郎が、「あやねちゃんがこっからさらにどうなっちゃうか楽しみだったのに」と言うと、

「あら、余計な事しちゃったかしら……申し訳ないわ」

と、まちはあまり悪びれた様子もなく謝罪し、ぱん太郎も鷹揚に頷き返した。

「いいよ、どうせ時間の問題だったしね。……さ、キミももう出ておいで」

「……どうしたの……?」

 ぱん太郎に促されて掛け蒲団をめくり上げて出て来たのは──

「な……な…………」

 今度こそあやねは驚愕のあまり顔が固まり、開いた口が塞がらなくなった。

 

 

 すず──────!

 

 

 腰まで届く栗色の長髪を団子状にまとめた少女の肩を、「驚いた?」と、得意げな顔で抱き寄せるぱん太郎。「でもさっきも言った通り、すずちゃんとは随分と前から子作りする仲のん。ね?」

 すずはぱん太郎にもたれかかり、はにかみながらもコクリと頷いた。

「な…………な…………な……………………!?」

「黙っててゴメンね、あやね。でも、なんとなく言いづらくて……。言う機会もなかったし」

「い、い、い、い────行人様は…………行人様はどうしたのよ!? あなたは──あなたは行人様を────」

 

 好きじゃなかったの……?

 

「行人は……」すずは悲しげに目を落とした。「行人は、ちっとも私に興味持ってくれないから…………」

 ぱん太郎がすずのからだを包む腕に力を篭め、支えるように強く抱き締めた。俺の女だという無言の主張。安堵したようにすずはぱん太郎へからだを預け、厚い胸板に頬ずりする。すっかり互いに気心が知れた風であった。

「すずちゃんは悪くないよ。悪いのはすずちゃんをずっと放ったらかしにしてきた行人クンのほう」そう言いながらぱん太郎は昏倒している行人を残念そうな目で見下げる。「ボクに奪(と)られないための時間は十分過ぎるほどあったのに」

 すずの豊かな肉付きの乳房をぱん太郎がむにむにと揉み、「途中で止めちゃってゴメンね」「いいの♥」「今から続きしちゃおっか」「えっ、でも……」「ホラ、跨って。行人クンやあやねちゃんの方向いてね♥」「あぁ、いやぁ……♥」と、二人の会話が恋人のように交わされ、すずは寝ている少年を気にしながらもぱん太郎の言うがままに、あぐらを掻いている巨体の膝上に蟹股になって跨がった。股の下にそそり立つ大勃起の肉茎を掴みながら、先ほどのように亀頭を女陰の入り口へと誘い込む。慣れた手つきであった。また、その時の表情の淫媚さと言ったら……。

 秘肉の中に埋(うず)まった剛棒がヌプヌプと滑らかに入り込んでいくと、

「うにゃっ……うにゃあぁ……うにゃああッ♥!」

と、すずは頭の天辺を抜けるような欣喜に満ちた淫声を発し、ぱん太郎の巨根はみるみるうちに根元まで埋まっていってしまった。

「うにゃ──あぁ…………♥!」

 行人以外が見守る前で心底気持ち好さそうに安堵めいた吐息を漏らし、しばらく震えながらじっとしていたすずだったが、やがて豊満な胸をぶるんぶるんと揺らしながら腰を上下左右に動かし始めた。

「あっ、あっ、あっ、あっ♥! ぱん太郎様、ぱん太郎様ぁ♥!」

 何往復かしたところで早くもその瞳からは焦点が喪われ、ぱん太郎の精悍な肉棒が与える快感しか知らない表情になる。蒲団の中でもこんな風だったのだろう。あやねが見たこともない──そして、見覚えのありすぎる享楽の風貌であった。

「あっ、あっ、うにゃっ、ああっ♥ すごい、すごいの、ああっ、うにゃああっ、ぱん太郎様のチンポすごい、とまらない、とまらないのぉ♥!」

 

 すずが──あのすずが──

 行人ではない男と────

 

 到底信じられない光景だった。意識を失っているとはいえ行人本人が目の前にいるというのに、ぱん太郎の言うなりになってその猛々しい男性器を自らの女性器に迎え入れ、嘘偽りなく気持ち好さそうに腰を振って──。

 

「そ…………んな……………………」

「普通だよ、あやねちゃん。別に驚くことじゃない。これが男と女の正しい関係なの」

と、盛んに揺れるすずの乳房を掴んで揉みしだきながら、ぱん太郎はニヤニヤとあやねに笑いかけた。

「ずっと一緒にいる女の子に──いや、こんな女だらけの環境で、しかも望まれてすらいるのに、何もしない方がおかしいでしょ? こうしてボクの求愛を受け入れたすずちゃんの方が正しいのん」

「うにゃぁあ……ごめんね、あやね……私、私、もう……ぱん太郎様のモノだから……私、私も、ぱん太郎様の赤ちゃん、種付けられちゃうの……行人にはナイショで……♥」そう言いながらすずは腰の動きを止めることはなかった。「ああっ……もう……だめぇ、もう……イッちゃうよおッ……♥!」

「えっ、もう?」

 笑みを残しつつも少し驚いた風にぱん太郎が目を丸くする。

「だってぇ……さっきも、イきかけてたし……こんな……こんな、行人の前で…………♥」

「なるほど、じゃあイッちゃおうか♥」

 そう言うとぱん太郎はすずの腰を掴み、少女の動きに合わせて自らも下から突き始めた。

 

 パンパンパンパン!

 

「あっ、あっ、あっ、あっ♥! いいっ、いいのおっ♥! おかしくなっちゃう、おかしくなっちゃうぅ♥♥!!」

 発情しまくって真っ赤になった顔。嬉悦の涙を零す目を瞑り、緩んだ口からはだらしなく舌を覗かせ、ぱん太郎と共に激しく腰を振りながら、ただただ快楽を貪って性悦の頂点へと向かうすず。

 あやねはまだ信じられなかったが、そこには彼女の知る純粋無垢なお子様少女の姿はひとかけらもなかった。他の女同様、男を十分に学んだ艶かしい態度でぱん太郎の男根に支配され、オスとの交わりが生み出す快感に堕ちた、立派な一匹のメス犬──いやメス猫であった。

 絶頂に向かう交尾の激しい揺れで団子になっていたすずの髪がほどけ、美しく艶めく栗色の長髪が流れ落ちたが、性器に意識を集中させた二人は気にも止めずにひたすら腰を振り続ける。

「行人クンの前で……ボクの子を種付けちゃうからねっ!」

「うにゃああッ、イクイクイクゥッッ♥!!」

 すずが逝く数瞬前、ぱん太郎は彼女の頭を掴んで後ろに引き寄せ、唇を重ねた。

 

「「ウウゥ──ッッ♥♥!!!!」」

 

 パン──パン! と、最後の肉の音が打ち鳴り終わると、停止した二人のからだがぶるぶると震える。

 

 キスしながらの同時絶頂────

 

「の"ぉ……ぉ"……♥!」

「あ……あ……あ……♥!」

 息継ぎのために離れる唇の隙間からが漏れ出る切羽詰まった二つの声。眠るように細まりながらも意識し合う互いの眼。死にそうなほど荒い息遣い。全身に走る緊張と弛緩の繰り返し──。

 二人が絶頂という甘美な桃源郷に誘われていることを如実に示していた。

 そして──

(ああ……そんな…………)

 

 結合部からゴプゴプと溢れ返って来る大量の白濁汁。

 すずが──すずまでもがぱん太郎に種付けられているという逃れられなき事実。

 

 あやねは大木槌で後頭部をぶん殴られたように、言いようのない衝撃でクラクラとする意識の中、ぱん太郎の肉棒が深々と刺し込まれたすずの股からとめどなく溢れ落ちてゆく粘液の白滝を見つめ続けた。

 射精の一噴きごとにぱん太郎の腰が浮き揚がるように伸び、すずの尻を押し上げ、また戻る。その一連の二人の動作が合わさった様がたまらなく官能的で、本能的で、ありのまま過ぎて……一種の神性すら感じる肉体の営みであった。

 すずがぱん太郎に種付けられている──行人以外の男と子作りしている──その揺るぎない光景が、あやねの網膜に焼き付けられる。

「のおお……いつもより締め付けが……すごくて……最高のん……のぉぉ……♥!」

 そう呻きながらぱん太郎は繋がったままあぐらを組んでいた脚を解き、後ろに倒れて寝そべると、すずもその上に重なるように後ろ手にからだを支えながら背中を反らし、二人は撞木反りの姿勢になった。

 股間が開けたことによりこれまでの背面座位よりも結合部分が見えやすくなり、すっかり熱心な観客となった巫女姉妹に見せつけるよう、射精抽送の突き上げが続く。とろろのように濃厚で粘り気のある白濁汁がひっきりなしに結合部から溢れて来る。普通のピストン運動と違うのは、射精するタイミングでぱん太郎の尻が引き締まると共に痺れたように動きを止めるという点であった。

「行人クンや……あやねちゃんたちの前で……ボクの子を……バッチリ妊娠のん♥!」

「ああッ♥! あぁ……ああ……うにゃあ……ああぁ……♥!!」

 昏睡中とはいえ恋していたはずの少年がすぐそこにいるというのに、少年が起きれば違う男と繋がって種付けされている部分をありありと見られてしまうというのに、すずはぱん太郎に膣内射精されながら陶然とした表情を崩さず、大男の巨根を根元まで突き刺された体勢を決して変えなかった。開脚しきった蟹股で突き上げられるままにからだを震わせながら、際限のない放精をうっとりと感じ続けるだけであった。その目に宿る意識は普段とはあまりにかけ離れ、己が胎内で猛り狂っている生殖器と生殖放水の力勁さが今のすずを支配する全てであった。

 完全に堕ちていた。

 どこからどう見ても他の娘同様──いや、それ以上にぱん太郎のモノとなっていた。

「行人ぉ、私、孕んじゃうぅ……♥ 行人じゃなくて……ぱん太郎様の赤ちゃん、孕まされちゃうんだよぉ…………♥♥!!」

 幾百の日月を共に過ごし、淡色であっても一糸一糸しっかりと編まれた、太く強固な関係を行人と築いてきたはずのすずが──行人とのその絆の縒り糸を、情慾の淫鬼から与えられる快楽と官能がズタズタに引き裂いていて、代わりに生々しくもグロテスクな色合いにぬめる淫情の肉鎖がすずとぱん太郎を結び付けていたのだ。

 それも行人のとは比べものにならない分厚さと強度で……。

(すず……………………!)

 あやねの瞳には、ぱん太郎の逞しい肉棒と注入される精液の事しか頭にない、からだの芯まで性の甘美に満たされた少女の浅ましい姿しか──後悔も負い目もなく、初恋の少年ではない男と深い深い契りを結ぶ親友の姿しか映っていなかった。

 

 

 

 ようやく種付け射精が終わると、その間にも何度も逝きまくっていたすずは満足気な表情でくったりと伸びた。ぱん太郎は掛蒲団を裏返して隣に広げ、白濁の源泉掛け流しとなった股を閉じられずに痙攣している少女をそこに寝かせた。

「さて」

 ぱん太郎がくるりと躰を返し、白濁まみれの大剛直を隠しもせず、あやねに対して正面を向く。

「ひっ……」

「貴女の番よ、あやね……」

 それまであやねと共に静かに控えていたまちがそう言って妹を立ち上がらせ、ぱん太郎の方へ背中を押しやった。足が震えて力が入らないあやねはつんのめりながら大男の足元に倒れてしまい、慌てて顔を上げると、人を殺せそうなほどの威容を発する剛堅な肉魁が眼前に迫り、

「ひいいっ……」

と、思わず息を呑んだ。つい先程まですずの胎内にあったソレは男女混合の淫汁で生々しくぬめり、誇らしげに反り返りながら隆々と勃起脈動している。先端の亀頭はあやねが今まで見たどんな松茸よりも立派な大傘を広げて真っ赤に腫れ上がり、青筋張った陰茎の中心は鉄の柱が埋め込まれているようで、その下には彼女の胸ほどもあろうかという巨大な玉袋が双つずっしりと実っていた。

(私…………私も…………これで………………!?)

 明らかにこの性器が発生源の異常な匂い……噎せるほどの濃厚な性臭……息が詰まり思考が澱むようなオス臭さ……!

「や……あ…………!」

 間近で見ると本当に鬼の金棒かと見紛うばかりのゴツゴツとした肉質で、ぱん太郎の荒くれた性格は全てこの剛根に吸い上げられてしまったのかと思えるほどだ。

 だが──最初こそ反射的に怯えてしまったが、肉根から滴る粘液が鼻頭にかかるほどの近さで巨大陰茎の貫禄を眺め、嗅覚が狂いそうなほどの淫臭を嗅いでいると、あやねの胸は再びドキドキと早鐘を打ち始め、霞がかってくる頭から恐れが薄らいでゆくのを感じた。顔も目もひとときも離せず、吐き出す息にも生ぬるさが戻って来る。

(あ…………あ………………)

 そんなあやねの様子を面白そうに見下ろしていたぱん太郎が口を開いた。

「さっきのあやねちゃん、とっても可愛かったよ」

「あッ……!」

 本当になんてコトをしてしまったのか──これまでに覚えたことのないほどの猛烈な動揺に襲われて真っ赤になるあやねだったが、脅し文句を浴びせられたように気弱くなった双眼はぱん太郎の顔と淫棒を往復するだけで、ぱん太郎を拒むべくこの場から逃れるという選択肢は持っていないようであった。

「もう我慢しなくていいのん」

 ぱん太郎がずいと腰を突き出すと、あやねの顔と同じぐらいの長さがある雄壮な剛魁が鼻先あと数ミリのところまで推し迫る。ポタポタと落ちてくる淫液が鼻を、唇を濡らす。

 何よりも熱くて、何よりも新鮮で、何よりも強烈なニオイ──!

「…………!!」

「あやねちゃんもボクのチンポに興味津々だったんだね。でも全然おかしくないよ、てか普通だよ普通。皆んな行人クンよりボクのチンポの方が気になっちゃうのん。皆んなおんなじ♥ そしてそれは正しい。女のカンってやつなのかね? なに、行人クンにはバレやしないからダイジョブのん。すずちゃんがボクの肉便器になってる事さえ気付いてない超ニブチンなんだからさ……ホラ、呑気に眠っちゃって」

 そう言ってぱん太郎が畳に頬を付けて微動だにしない行人の姿を顎で示すと、その後ろではまちが部屋から下がってそっと板襖を閉めるところであった。

 二人の視線に気付いたまちは、

「数日は起きて来ないようにしたから安心して♥」

「だ、大丈夫なのそれ!?」

「ええ。貴方で試したことがあるのよ、あやね」

「えっ!?」

「じゃ、ごゆっくり♥」

と、隙間からそう言い残して手をヒラヒラ振りながら完全に閉め切った。

 気が利くのん、後でまた善がり狂うほどいっぱい可愛がってあげなくちゃ──と思いつつ、ぱん太郎はあやねに顔を向け直す。

「だってさ。良かったね、行人クンは気にしなくていいって♥」

「……で……でも…………」

「それとも……行人クンがこんなコトしてくれるかな? あやねちゃんを女として見てくれるかな? 女として求めてくれるかな? 女の幸せを与えてくれるかな?」

「そ──それは────」

「彼に遠慮して、若くてぴちぴちした今の時間を無駄にしちゃう? 二度と取り戻せないよ……皆んなは今のうちに男を知って、素敵な悦びを知って、一生ものの思い出を作ってるのに。あやねちゃんも男に愛されるのがどんなコトなのか知りたかったら、これしかないよ」

と、ぱん太郎は股間の逸物を尊大に指し示し、愉悦げに目を細める。

「………………」

「彼といくら時間を過ごしたって無駄なことは、すずちゃんを見てわかるでしょ? 行人クンと一年……十年……いやそれ以上? どれだけ一緒に居たって実現しなさそうなコトを、ボクはたった一日で体験させてあげることも出来るよ♥ 一年後なんて、世界がまったく違ってるかもね。

 ほら、触ってごらん……舐めてごらん。これが本物のオトコってやつのん……こんなフニャチン短小野郎とは違う、本物の雄のチンポのん。キミに本物の気持ち好さを教えてくれる、唯一無二のお宝のん♥」

 長広舌が終わってぱん太郎が口を閉ざした後、ツインテールの少女が天を衝く逞しい肉塊を凝視していた時間は、十秒にも満たなかったであろうか。

 あやねは頬を染めたまま、すがるような目でぱん太郎を見上げた。

「……──ひ──ひとつだけ…………約束を………………」

「なに?」

「そ、その…………」恥ずかしそうに俯きながら、たどたどしく言葉を紡ぐあやね。「わ、私……あ……あの…………あ、あ、赤ちゃんを作るの……だけは…………どうしても…………」

「のの? それって……中出ししないでってこと?」

「え、ええ…………」

「ふーむ……」

 ぱん太郎は神妙な顔つきになった。だが、その心中では、なるほど姉妹のん──と、密かに北叟笑んでいた。先ほどまで居た姉を初めて抱いた時も、同じような言葉を聞いた憶えがあったのだ。そして、そのたった数時間後には、精液まみれになって膣内射精を何度も浴び、中出しされる心地好さに快感を得まくっているまちの姿があった。

 あの時は怒ったように立ち去る演技をしてまちに決断させたが……。

「それって、行人クンをまだ諦めてないってことだよね?」

「あ、当たり前よ……ええ……そう、そうよ、わ、私は……私は、な、何を言われようが……行人様だけ……なんだから……!」声を震わせて自分を叱咤するように喋るあやね。「こ、これは……行人様を振り返らすためよ……。そう……きょ、興味があるのは……そのためなのよ…………!」

 そう言う割りには、喋っている間じゅう、あやねの目はぱん太郎の肉棒に釘付けであり、幾度もスンスンと肉棒の匂いを嗅ぎながら息を熱く弾ませ、すぐ後ろにいる行人の存在を忘れたように潤んだ表情をしていた。

「ふむふむ。まずボクで女を磨いて、それから彼をモノにしようってケーカクだね」

「そ、そうよ…………貴方とするのは……そのため……なんだから……。だ、だから……こ、ここ、子作りまでは…………ダメ…………ダメよ……! 絶対にダメ……。私は……子供は……子供は、行人様と…………」

(ふうん……子作りじゃなきゃ……ボクとしてもいいんだ。行人クンを差し置いてボクに処女捧げて、彼には抱かれたコトもないのにボクのチンポをハメハメされちゃってもいいんだ♥)

 そう思いつつもおくびにも出さず、ぱん太郎はニコニコしながらあっさりと頷いた。

「いいよ。ぬしの名に誓って約束してあげる。勝手に中出ししないって」

「……ほ……ホントに…………?」

「女を磨きたいなら、中出しも味わった方が絶対いいんだけどね~。でもボクはぬしのん、一度した約束は必ず守るよ。それに行人クンが可哀想ってのもあるしね。彼は独り身なんだし、一人ぐらい傍に居させてもいいかなって考えてるよ。あやねちゃんがそうなりたいなら、協力してあげてもいいよ。女を磨いたあやねちゃんがあたっくしたら……行人クン、振り返ってくれるかもね♥」

「そ、そうね…………そうよ…………だから……だからなのよ………………」

 行人を気にかけた言葉とぬしの名を賭けて誓ったことで安堵したのか、誘惑の危険な痺れが頭の奥まで染み通ったように、とろんとあやねの目尻が下がった。物欲しそうに緩んだ唇。ぱん太郎の妖眼に呑まれた先ほどと同じように──。

 あの時と違うのは、あやねとぱん太郎の間には、もはや邪魔するものは何も存在しないという点であった。

「ナカで出しちゃ……ダメ……なんだからね…………」

「うんうん♥ じゃあ、まずは……コレを弄ってみるところから始めよっか」

「……え、ええ…………」

「がんばって男を勉強しようね♥」

「……ええ……♥」

 ほっとしたような笑みをこぼしながら、これから起こる事への期待を隠せない眼で、はちきれんばかりに漲る剛根にあやねは指を絡めさせる。

 …………。

 しばらくして──今度は舌が触れて…………。

 …………。

 結局、行人を振り返らせるためにと言ったツインテールの少女は、一度も少年を振り返ることなく、彼が嫌う男の肉棒への奉仕を始めたのであった。

 

 

 

第19話に続く)

 

 

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最終更新:2023年04月24日 14:41