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呪いのゲーム 「第一章」

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  呪いのゲーム 「第一章」


※この物語はフィクションであり、
 登場する人物、団体等は実際のものと何の関係もありませんので
 予めご了承下さいm(_ _)m









呪いのゲーム・・・・









それは・・・・・・







決してやってはいけない・・・・・・・



















 恐 怖 の ゲ ー ム・・・・・・・・・・





「ねえ・・・









 呪 い の ゲ ー ム っ て 知 っ て る ? 」









「え?」


休み時間

親友の亜里砂があたしに訊いた。


「ううん、知らないよ。てか初耳だしっ!」

「うっそー!由香は怖いのが大好きだからもう知ってると思ってた!」


あたしの名前は、 七瀬 由香 (ななせ ゆか)

親友の武知 亜里砂 (たけち ありさ)の言う通り、あたしは怖い系のものが大好き

…ていっても、霊感は全然ないんだけどね。



「で、何なの?その呪いのゲームってやつ!」


あたしは、亜里砂の言う『呪いのゲーム』に興味を持った。


亜里砂はゆっくりと話し始めた。





――それは、ある男の元で作られた1本のゲームソフトから始まった…


30年前、ある家で、女子学生の変死体が見つかった。

女子学生の部屋は散らかり放題で、ドアや押入、窓などのありとあらゆる入り口にガムテープが何重にも貼ってあった。

他にも、このような変死体はそこの近所で広がっていた。


調査しているうちに、あることがわかった。

変死体で見つかった人達は、3日前にあるゲームをやっているということ――






それが、呪いのゲーム





そのゲームソフトを手にしたら、必ずやらなくちゃいけない。

そして何が何でも最後までクリアしなきゃならない。

ゲームをやり終わったら、必ず他の人に回さなければならない。

もし、ゲームをやらなかったり、ゲームオーバーになったり、他の人に回さないなんてことをしたら――…









 3 日 後 に 死 ぬ 。 










このゲームは、あっという間に日本全国で話題の中心となった。

ニュースでも報道され、夏には呪いのゲームにまつわる番組もあった。

しかし、いつの日かパッタリとその噂を口にする者はいなくなった。

だが、呪いのゲームソフトは、今も日本の何処かで生き続けている――…。


「う…うそぉ…。それ、まじ?」


亜里砂はゆっくりと頷いた。


「それで、そのソフトがここら辺で回ってるらしーよ」


あたしはその話しを聞いて、全身に鳥肌が立つのを感じた。

しかも亜里砂によると、そのゲームの内容は不明。

クリアした者は今までに1人もいないらしい。


「そんな…回ってこないことを祈るしかないじゃん」

「うん…」


――翌日――

「あ、由香おっはよー!」

教室に入ると、すでに亜里砂はいた。

「亜里砂おはよっ」

あたしは笑顔で亜里砂に挨拶をした。

「ねぇねぇ、昨日のお笑い天国見たー!?」

「ああー!見た見たっ!チョーうけたんだけどぉ!」


あたし達は、朝っぱらから昨日のテレビの話題で大盛り上がりで、2人の笑い声が静かな教室に響いた。

もちろん、あのソフトのことなんて、すっかり忘れてた。


しばらくすると、青白い顔をした女の子が教室に入ってきた。

秋山 里世 (あきやま りよ)

普段は活発で明るい子なのに…よっぽど何かあったに違いない。

あたしはそう思った。


亜里砂も里世の様子に気づいて、里世の所へ向かった。


「おっはよー里世!どーした?元気ないぞ」


明るい口調で里世に呼びかける亜里砂。

すると里世は、さっきまで下を向いていたのに、いきなり顔を上げて


「ねえ!!!お願いだからこれ受け取って!!!!!」



すごい形相で亜里砂に何かが入った袋を渡した。

里世の目は飛び出るほどカッと開き、目の端には目やにが溢れ、どす黒いクマができていた。


「え…なにこ…」

「あたしはもうアンタに渡したからねっ!!!!あたしは渡したからっ!!!!!もう知らないよ!!!!」


いきなり怒鳴りつけて、風のように教室から出て行った。


「な…どーしちゃったの?…りよ…」

「わかんない。この袋の中、何入ってんだろーね?」

「なんだろー…てか、袋かなりボロボロじゃない?」


袋は至る所に穴が開いていて、何度もテープで止められた跡があった。

袋の真ん中には、あたしたちに微笑みかける女の子のイラスト。

その笑顔は、逆に不気味にも見えた。


「これさぁ、絵的に結構古い袋だよね」

「ねー!里世ってこんな趣味だったっけ?」

「でさ、中は何が入ってんの?」


亜里砂は袋の中を覗いた。

その瞬間、亜里砂の顔がかたまった


「…え?なに……?」


あたしもチラッと覗くと

そこには



「…………えっ!?」



 あ っ た 。


 古 び た 、 1 本 の ソ フ ト が 。


「ひっ……きゃあぁっ!」


怖くて、あたしは尻餅をついた。

しかし、亜里砂は冷静にからソフトを取り出した。


「…ついにあたしにも回ってきちゃったんだ…」


その言葉には、何の感情も入ってない、ただの棒読みに聞こえた。


「やだ…やだやだっ!亜里砂死んじゃうよー!!」


あたしは泣き叫びながら亜里砂に抱きついた。

あたし達の様子に、他の人達が気づくわけもなく、みんなの視線があたし達に集まるのを感じた。

そんなあたしを見て、亜里砂は静かに言った。


「…由香、大丈夫だよ。ゲームをクリアして誰かに渡せば助かるんでしょ?」

「でっ…でも!!今まで誰も全クリできなかったんでしょ?30年前からずっと!無理だよ…」

「確かにそーだけど…やってみなきゃわかんないよ…」


あたしにはわかってた。

亜里砂にはこのゲームはクリアできないって。

だって、亜里砂はゲームなんてほとんどやらない。

今までみんなゲームオーバーなんだもん…並大抵の人じゃ絶対絶対無理なんだよ!!




放課後


帰りの挨拶を終えた瞬間、亜里砂はすごい勢いで教室を出て家に帰ってしまった。

あたしのことなんて眼中にもなかったみたいだった。

一瞬だったけど、あの時の亜里砂の目は、充血していてすごくギラギラしてた。

あのゲームを渡された者は…みんなあんな風になって死んでいったのかな…


……里世も…



ハッとした。


そうだよ…里世っ!!

里世もあのゲームをやったんだ!!

クリアできたのかな…?いや、できるわけない!

じゃあ里世は…




    死  ぬ  ?






「りよおぉ―――っ!!!!」


あたしは猛スピードで教室を出た。

外靴にも履き替えず、カバンも持たずに…

里世は、朝、あたし達にソフトを渡して出ていったきり。




――お願い…どうか無事でいて…


「里世っ!りよおぉ!!」


里世の家の呼び鈴を左手で何度も押し、右手ではドアをバンバン叩いた。

だけど、家の中に人のいる気配はなかった。


「…誰もいないの?じゃあ、里世は…?里世…」


何も考えずに猛スピードで里世の家まで走ったから、なんだか頭がからっぽだった。

家以外に里世のいる場所なんて、今のあたしじゃ考えられない。


「…りよ……」


どうしようもできなくて、里世の家のドアに寄りかかった。

すると





キィ……






ゆっくりと、ドアが開いた。


「あれ…?なんだ…誰かいるんじゃん。」


あたしはほっとしてドアの隙間から室内を覗き込んだ。


「すいませーん!」


大声で言った。

だけど、家の中からは応答はない。


やっぱりいないのかなぁ?

でも、鍵をかけないで出かけるなんて不用人な家。

きっと寝ててあたしに気づいてないだけよ!入っちゃえ!


「お邪魔しまーす…」


恐る恐る玄関で靴を脱いだ。


里世の家に来るのは久しぶりだ。

里世のお母さんは奇麗で、掃除も大好きなお母さん

なハズなのに…

何故か、今は散らばっている。

綿埃がそこら中にあった。


「里世ー…いるー?」


いるかいないかもわからない里世に呼びかけながら、階段を上った。

階段を上ってすぐ前が里世の部屋。



ベリ……ベリ…



階段を上るにつれて、変な音が聞こえてくるのを感じた。


ベリ…ベリベリ……


どうやらその音は2階から出ているらしい。

もしかして…里世?


「里世ー!?いるの?」


あたしは急いで階段を上った。

そして里世の部屋のドアを何度も叩いた。

あの変な音も、里世の部屋から聞こえる。

もしかして、里世に何かあったのかも…


「里世ーっ!!」


あたしは強引にドアを開けた。

その瞬間



「開けないでっ!!!!」



部屋にいた里世がすごい形相であたしを睨みつけた。


「ご…ごめ…ん」


あたしは、里世から目をそらして下を向いた。


…えっ!?

な…なにこれ…


由香を見ると、爪で引っ掻いたような跡がいくつもあった。

天井には無数のシミができていた。


「…どーしたの…?…りよ…」


苦笑しながら里世を見ると


「…閉めて」

「え?」

「早くドアを閉めてよっ!!!!」

「あ…ごめん」


素早くドアを閉めて、再び里世を見ると、里世は震えていた。

そんなに寒くないのに、何枚も何枚も重ね着をしていて

かなり神経質になってる。

あたしは我慢しきれなくて、口を開いた。


「ねぇ、里世どーしちゃったの?今日の里世なんだか可笑しい!…あの…ゲームのせいなんでしょ…?」


『ゲーム』


その言葉を聞いた瞬間、里世のふるえは激しくなった。


「ねえっ、お願い!あのゲームは何なの?里世は何を見たの?」

「いや…いやあああ!!!」

「ねえ!里世ってば!」

「いやああああああ!!!来るな…来るなあああ!!!」

「里世っ!!」


あたしは里世に抱きついた。

たった1日だけなのに、里世のがっちりした肩は、すっかり痩せ細っていた。


「里世…お願い…。里世を助けたい…」

「……」

「りよ……」

「……あの…ソフトが……いけなかった…」

「え?」


里世は落ち着いたのか、ポツリポツリと話し始めた。


「一昨日…隣のクラスの渡辺…に…ソフト…渡された…。渡辺…鬼みたいな…顔…

やっみたら…噂の……ソフトだった…ゲーム……クリアできなかった…

…渡辺…昨日…死んだ……だから…あたしも……死……ぬ…死ぬ……や…やだあああ!!!」


里世は再び大声で叫び始めた。

あの里世が、ここまで狂ってる。

あの、しっかり者で明るい里世が……

「…ソフ…ト……ソフトを渡さないと…もっと…怖いことになりそう…で…だれ…かが…誰かがああああああぁ!!!」

「里世っ!落ち着いて!誰かって誰なの!?」

「うわああああ!!!いやあああああああ!!!」


凄まじい叫び声。

部屋は密室状態だけど、この声は隣に聞こえてるはず。


これ以上、里世に何を言っても無理…なのかな…


ふと床を見ると、ガムテープの芯が床に転がっていることに気がついた。

1つどころじゃない。10個は軽く超えてる。

今まで気がつかなかったことが不思議なぐらいだ。


あたしはハッとして、窓のカーテンを勢いよく開けた。


「開けないでええええ!!!」


里世が叫んだ時には、既にカーテンは開け放たれていた。


「…な……なに…これ…」


顔が引きつった。

窓ガラスがほとんど見えなくなる程、窓にはガムテープがべったりと貼ってあった。



 絶 対 に 開 け ら れ な い よ う に 。



あたしはふと亜里砂から聞いたあの話を思い出した。



――…30年前、ある家で、女子学生の変死体が見つかった。

女子学生の部屋は散らかり放題で、ドアや押入、窓などのありとあらゆる入り口にガムテープが何重にも貼ってあった。







『 ドアや押入、窓などのありとあらゆる入り口にガムテープが何重にも貼ってあった。 』







里世の部屋を見渡すと

押入や引き出し、クローゼット



 ガ ム テ ー プ が び っ し り 。

「り・・・よ・・・」


ああ





里世は死んでしまうんだ




あたしは悟った。

里世への悲しみと同時にこみ上げてくるもの



 恐 怖



「・・・ふ・・・あははは・・・」


突然、力のない声で里世は笑った。


「・・・声がするの・・・近づいてくるの・・・気配がするの・・・

窓から・・・押入・・・引き出しから・・・クローゼットから・・・」

「・・・え?」

「あああ・・・いる・・・。ドアの向こうにあいつがいる・・・。

来ないで・・・。止めるのよ・・・入ってこられないようにしなくちゃああ!!」


か細い腕でガムテープを掴もうとする里世


「・・・いやっ!」


あまりの恐怖に、あたしは里世の部屋から飛び出した。

恐怖で震える足を必死に動かして・・・。

なんとか里世の家から出ることはできた。


あんな里世と一緒にいたら・・・こっちまで頭が可笑しくなっちゃう・・・


今のあたしの頭には、里世の『死』なんて

とうに忘れていた。

翌日
   
昨日のこともあって、今日は体もテンションも重く感じた。


「・・・おはよ」


力のない声を出しながら、教室のドアを開けた。

亜里砂はまだ来ていなかった。

もちろん、里世も・・・


朝のホームルームで


「・・・みなさんに、残念なお知らせがあります」


教室に入って来るなり、先生はいきなり話しをきりだした。

亜里砂はまだ来ていないことに気づきもせずに・・・。

先生は、重い口を開き、話し始めた。


「昨夜、秋山里世さんが・・・亡くなりました」


 ・ ・ ・ え ?


突然の里世の死を宣告され、みんな口をポカンと開いていた。


「せんせー・・・どーゆーこと?嘘でしょ?」


1人の女子が先生に訊いた。


『嘘でありたい』


誰もがそう思った。

もちろん、あたしも。

先生はかすかに首を横に振った。


「嘘ではありません・・・。深夜に秋山さんの両親から電話があったんです・・・。

秋山さんは病院に運ばれましたが・・・病院に運ばれた頃には、既に・・・」


先生は堪えきれず、涙を流した。


「な・・・なんで里世が死んじゃったの・・・?事故?」


先生は、震えた声で言った。



「・・・原因不明だそうです」



    原 因 不 明 


その言葉を聞いた瞬間、昨日の里世との出来事を思い出した。

・・・あたしが出て行った後に・・・何かが起こったんだ。


 何 か が ・ ・ ・



今日1日、みんな活気がなかった。

幽霊のようにふらふらしていた。


突然のクラスメートの 死


それを聞いて、平気な方が可笑しい。


ガラ・・・


静かな教室に、ドアが開く音が響いた。

あたしもドアの方に目をやった。


「・・・あ・・・りさ・・・」


「おはよ、由香」


亜里砂はいつも通りだった。

このクラスで、ただ1人だけ笑顔。

亜里砂は・・・里世のこと、知らないのかな?


「・・・先生から聞いたよ。里世のこと・・・」


あたしが切り出す前に、亜里砂が口を開いた。


「・・・聞いたんだ。・・・あたしね、昨日行ったの・・・里世の家に。

里世・・・ひどかった・・・。里世じゃなかった・・・」

「・・・そう」

「ねえ亜里砂。やっぱり・・・やっぱりあのゲームのせいだよ!里世が死んだのも!!」


我慢しきれなくて、ついつい言ってしまった。

あたしの言葉を聞いて、みんなは一斉にあたし達を見た。


「由香・・・なんなの?そのゲームって・・・」


1人の女子があたしに訊いた。


「みんな・・・知らないの?あの噂・・・」

「噂?なにそれ?」

「ゲームと里世になんか関係があるの?」

意外にも みんな知らなかった


 あ の 噂 の こ と を 。


だから、あたしは話してあげた。

亜里砂が教えてくれた通りに

1文字も間違えずに――・・・


「・・・な・・・にそれ・・・」

「それで里世が死んだって言うの・・・?」


あたしは静かに頷いた。


「里世以外にも、ここら辺で広まってるでしょ・・・?不可解な死に方をした人達が・・・」


教室は、これまで以上に静かになった。

みんなの顔には、血の気がない。

沈黙を破ったのは1人の男子だった。


「・・・じゃあ!そのソフトは今誰が持ってんだよ!?」

「ああ、ソフトは今ね――」


 あ


そうだよ


ソフトは――



  ソ フ ト は ――― ・ ・ ・


あたしは、ゆっくりと亜里砂に視線を移した。


「・・・そうだよ、亜里砂・・・亜里砂が今・・・持ってるんでしょ・・・?」

恐る恐る訊くと、これまで黙っていた亜里砂が口を開いた。

それも、満面の笑みで。


「そうだよ、あたしが今ソフトを持ってる。昨日やったもの」

「キャ――っ!」


1人の女子が悲鳴を上げながら教室から飛び出した。

長い間閉じこめられた者達が、やっと出口を見つけたかのように、

他の生徒達も、一斉に教室から出て行った。


そうして残ったのは 亜里砂 と あたし


そうだ

あたしが里世に、本当に訊きたかったことを

亜里砂が知っているんだ

あたしが、本当の知りたかったこと――


「ゲームの内容について、知りたかったんでしょ?」


亜里砂は突然切り出した。

その言葉に驚いて、あたしの体はビクッと震えた。


そう、亜里砂の言うとおり



『ゲームの内容』


あたしが、1番知りたかったこと――・・・

「そうだよ。あたし・・・知りたかったんだ。みんながクリアできないぐらい難しいゲームなんでしょ?

そんなのか気になるし・・・」

「そーゆーことはさ・・・」


亜里砂は途中でカバンに手をつっこみ、ある物を出した。




「 知りたきゃ自分でやりなよ 」




カバンから出したモノを、あたしに差し出す。



そう。




 あ の ソ フ ト を 。 





「・・・えっ・・・!?」


驚きで、口が上手く回らない。

だって

親友の亜里砂が

小さい頃から、ずーっと2人一緒の、あの亜里砂が

 あ た し に ソ フ ト を 回 す な ん て


 思 っ て も い な か っ た か ら 。


あたしのポカンとした表情を見て、亜里砂は愉快そうに笑った。


「あはははっ!自分に回ってくると思わなかったのぉ?由香ぁ。

由香ってほんと面白い!だってこのソフトって自分の生死に関わるゲームなんだよ?

まじで死んじゃうヤツなのに、他の子とのくだらない友情だの気にしてられないからぁ!」

「・・・・」


頭をハンマーで殴られるかのような、衝撃が走った。


『くだらない友情』


亜里砂

亜里砂にとっては あたしと過ごした十年間が

くだらなかったの?


あたしは、のどを振り絞るかのように声を出した。


「・・・ありさ・・・ありさはゲーム・・・クリアした・・・?」


「 さあね 」


亜里砂は、あたしを見て鼻でふふんと笑い、軽い足取りで教室から出て行った。

亜里砂のいなくなった 教室

あたし独りの 教室


「・・・っ・・・ぅっ・・・」


汚い教室の床に、ぽたぽたと滴が落ちる


「・・・ありっ・・・さ・・・」


本当に

本当に ショックだった。


『 他の子とのくだらない友情だの気にしてられないからぁ! 』


あの言葉・・・

あたしの中で、何度も繰り返される


「・・・ぁ・・・」

ふと、目の前に『あの袋』が置いてあることに気づいた。


何千人、何万人も恐怖に陥れた

 呪 い の ソ フ ト が 。

このソフトのせいで

今まで 何人の人が死んでいったのだろう

このソフトのせいで

今まで 何人の人の心が痛んだのだろう


全ては・・・このソフトがあるからいけないんだ!

あたしは、そっと袋を持った。

ずっしりとした、あのソフトの重み


涙も拭かず 鞄も持たず

あたしは、そのソフトを持って 学校を出た。


学校から家までの記憶はなかった。

いつの間にか、家の中にいて

テレビの前で座っていた。

目の前には、ご丁寧に

ゲーム機にあのソフトも入れてあった。

テレビもついているし



 ス イ ッ チ を 入 れ る だ け



不思議と、緊張はなかった。

何のためらいもなく、スイッチを入れた。

途端に、ブツッという音がして、テレビは真っ赤な画面に変わった。









              死









死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死








「きゃあっ!」


いきなりの、『死』の夥しい数

赤い背景に、黒く、はっきりと書かれるその字には

このゲームで死んだ、1人1人の命にも感じた。


しばらくすると、『死』の文字は消え




――おめでとう!貴方は3678人目の挑戦者です――




真っ赤な画面に、ゆっくりと文字が浮かび上がった。

――このゲームに挑むなんて、貴方はなかなかの度胸がありますね――

度胸って・・・

だってやらなきゃ死んじゃうんでしょ!


――まあ、このゲ-ムを渡された貴方の生き残る方法は、このゲームをクリアすることしかないんですけどね――


―― あなたにこのゲームはクリアできるかな? ――

ブツッ!と嫌な音がして、真っ赤な背景から真っ黒な背景に変わった。

白い文字がゆっくりとにじみ出て



――今からこの画面をずっと見ていてください――


との文字。


――この画面から0,5秒以上目をそらしてはいけません――


何だろう

何か出てくるのかな?

ネットでよくある、怖い系のフラッシュみたいな感じ?

とにかく・・・ずっと画面を見つめていればいいらしい

何だろう

何が出てくるんだろう








「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」






「ひっ!!」


突然、画面から女の人と思われるすさまじい叫び声が聞こえた。

そして、真っ黒の画面からパッと画面が変わった。



「ギャアアアアアアアアアアア!!痛い痛い痛い――!!!!」


泣き叫ぶ女の人

女の人は、台の上に横になって、手足を縛られていた。

そして、血だらけのメスを握る男が3人


「・・・あああああっ!!」


この人達が何をしてるのかわかった瞬間、鳥肌がぞーっと立った。


作りモノ・・・?

作りモノに決まってる

え?

でも やけにリアルだよ?

だって あの女の人の叫び声

演技じゃ絶対に出ない

あの血の紅さも 肉の裂け方も




 本 物 だ 。




え?でも 本物なんてありえない!

この映像・・・何処から手に入れたの!?



――そう。


あたしの目に飛び込んできている映像は















 麻 酔 な し の 解 剖


女の人の白い腹部は、血で真っ赤に染まり、皮膚が裂けてぱっかりと臓器がむき出しになっていた。

1人の男が、1つの臓器を無理やり抜き取ろうとしていた。

「ぐわああああああああああああ!!!!ぎやあああああああああああああ!!!!」

女とは思えない叫び声

女の人の顔はボロボロだった。

何度も何度も殴られたのだろう。

顔は傷だらけで、まぶたは腫れて目という目が見えない。

頬には涙が伝った後がはっきりとわかった。

歯は何本か無造作に抜かれていて、時折血を吐き出す場面もあった。


画面を通して感じる 女の人の悲痛な思い。

何十年も前のものなのに、映像や音声も最新のテレビとほとんど変わらない。

あたしの頬に、涙が伝った。


目を背けたい

目を瞑りたい

1つ1つのシーンが 頭の奥まで焼き付く

『普通』の精神力が どんどん奪われていくのを感じる


女の人の拷問の映像は続いた。

臓器は何個か取られ、目をくり抜いて、手足を切断されて

傷口を焼かれて・・・


女の人が、『 人間 』という姿形ではなくなった瞬間

ブツッ!と音がして、画面は変わった。

この映像だけで、あたしの精神は限界だった。

たった数分の映像だけど、あたしにとっては何時間にも感じた。

こんな映像がまだまだ続くんだ・・・

だから里世も・・・あんなにクマができて、精神もヤバかったんだね。

・・・亜里砂は・・・どんな気持ちでコレを見ていたんだろう

次に映し出されたのは、日本人ではない民族衣装を着た人。

肌は黒くて、アフリカになら何処にでもいそうな人だった。

その人は、右手に大きな刃物を持っている。

その人の視線の向こうには

両手両足を縛られた少年。

何を言っているのかはわからないが

とにかく泣き叫ぶ少年。

刃物を持った人を見ると、尚更声を大きくした。

刃物を持った人は、ゆっくりとその少年に近づいて

      首に向かって刃物を振り下ろした。


溢れる血。

男の子は即死。 でも

首から下はピクピクと痙攣していた。

ニワトリが 首を切断されても 首なしの胴体は動くかのように

ここまでは、何とか見られた。

だけど、次のシーンを見て、あたしの精神はぶっ飛んだ。

男の子の首と胴体の血を抜き、切り刻み

シチューとのようなスープの中に肉を入れた。

ぐつぐつと音を立てるスープ。

お鍋ごとスープをみんながいる所へ持って行き



    美 味 し そ う に 喰 ら っ た 。



「ああああああああああああああっ!!!!!」


思わず絶叫した。

あたしは、両手で髪の毛を乱暴に掴んだ。


肉を噛む あの音

みんなの笑い声


突然、映像が乱れた。

画像がブレ始め、ザーッという雑音も入ってきた。

完全に画像が見えなくなる前に 異国語なのに、ハッキリとわかった。


「  豚や牛よりも  やっぱり肉は人間の子どもに限るね  」


その後も グロすぎる映像は続いた


何分・・・何十分・・・何時間・・・いや、何十時間


それ程時の長さがゆっくりに感じた。


そまたもや画面が真っ黒になり

今度は赤い文字がにじみ出た。


――ここまで見られるとは、貴方もなかなかすごいですね――


――ですが、これはゲームの序幕――



――いよいよ本当のゲームが始まります――






やっと ゲームらしい画像になった。

画面の真ん中には、『 死 』という文字が大きく書かれている。

ゲームの説明を読むと、とにかく道成に進めばいいらしい。

自分以外の人間はどんどん武器でやっつけろ!とのこと――

パッと画面が変わると、主人公らしきアイコンが画面の真ん中にちょこんと居た。

画面が暗いから、多分夜という設定なのだろう。

周りには住宅街が広がっていて、このシーンだけを見れば普通のゲームだ。

とりあえず、前に進むことにした。


ちょこちょこと可愛い効果音を出しながら歩く、あたしのアイコン。

ちょこちょこという効果音が出てから数分。

しばらく歩いても、敵はいっこうに現れない。

それに――



・・・なんでかな?

なんか・・・ここ・・・

初めてじゃない気がする・・・

このゲームのアイコンも

外の風景も

何処かで・・・


 あ



もしかして 此処は・・・


前方から、いきなり敵と思われるアイコンが現れた。

来たっ!!


はじめから主人公が持っている剣で、敵の体を貫いた。


「ぎゃああああ!!」


敵のアイコンからだろうか

ゲームながら、よくできた叫び声が聞こえた。


次の瞬間、画面がパッと変わって

さっき倒した敵がアップで映された。


「なん・・・で・・・?信じてた・・・。由香のこと・・・」


そう言いながら、敵は口から血を流し、倒れた。


え!?

なんであたしの名前を知ってるの!?


それに この声・・・


絶対に聞いたことがある


もしかして この声は

 も し か し て 



          里 世 ?


・・そうだ

この声は・・・元気な頃の 里世の声っ!

なんで?

なんでゲームに出てくるの?

・・・あ

ちょ・・・ちょっと待って・・・

この 住宅街って・・・

あたしの街じゃん

今画面に映ってるあの家・・・同じクラスの子の家だよ?

じゃあ

主人公のアイコンは

  あ  た  し  ?

その瞬間、再び敵が現れた。

それも 今度は2人。

・・・この敵達は・・・誰なんだろう・・・

どうか・・・あたしの知らない人であってほしい

少しためらったけど、持っている剣で2人一気に倒した。

この敵達も、叫び声をあげて、画面にアップで映された。

「ゆか・・・痛いよ・・・死んじゃうよ・・・」

「酷い・・・友達なのに・・・」

そう言って、敵のアイコンは倒れた。

やっぱり、聞いたことのある声だった

倒れた敵のアイコンをじっと見つめた。

ああ

この子達は・・・

同じクラスの子だ・・・

この2人は、いつも仲良しで

時折2人と一緒に遊んだ

一緒に居ても 苦じゃなかったし

あの2人も あたしを喜んで入れてくれた

ズキン

胸が苦しい

不意に、最初に見た女の人の拷問の映像を思い出した。

あの 女の人の悲痛な叫び

この2人と 何故か重なった

「いやああああああ!!!」

 ド ウ シ ヨ ウ

 コ ノ ゲ ー ム  リ ア ル ス ギ ル ヨ

再び敵が現れた。

今度はダレ・・・?

涙でパンパンに腫れた目を、カッと開いて見ると

人目でわかった。
        「  俊くん・・・  」

 俊 く ん ・ ・ ・

本名は 武田俊之(たけだとしゆき)

あたしの・・・好きな人。

好きになってから、かれこれ3年は経つ。

長い片想い。

最近は、よく2人でしゃべるようもになった。

いい感じの仲だった。

できない

俊くんを倒せない・・・

涙でまた画面が歪む。

その間に、敵の俊くんはどんどん近づいてくる

そうよ

これは ゲームよ

現実の俊くんとは違う

俊くんには・・・明日学校で会えるじゃない!

だけど・・・

ダメ・・・

       リ ア ル す ぎ る よ 

   『  ゲームオーバーは 死  』

不意に頭に過ぎったこの言葉

そうだ

ここで俊くんを倒さなきゃ

 あ た し は 死 ん で し ま う

あたしがハッとした瞬間には、俊くんが武器を振り上げているまさにその瞬間だった。


「あああああああああ!!!」

コントローラーをがむしゃらに押して、今度は銃で俊くんの体を貫いた。

「うぐわあああ!!!」

俊くんの 叫び声

そして

   「  自分の命しか・・・頭にないんだな・・・最低だよ  」

そう言って、アイコンは倒れた。

最低だよ

 最 低 だ よ

       サ  イ  テ  イ  ダ  ヨ

「いやああああああああああああ!!!!」

俊くんに嫌われ

偽物の俊くんだけど

偽物だなんて・・・もう考えられなかった

  最  低  だ  よ

俊くんの あの声しか

もう聞こえない

ああ・・・もう駄目だ

疲れたよ

どんなホラー映画よりも

どんなブラックフラッシュよりも

どんなウイルスよりも

このゲームが1番怖い。

いつの間にか、ゲームの中の『あたし』は、学校にたどり着いていた。

やっぱり、現実に通っている学校と全く同じ・・・

校庭に着いた瞬間、敵が現れた。

て・・・き・・・?

もう 無理だよ

誰?誰なの・・・?

敵のアイコンをじっと見た。

涙のせいでよく見えない。

だけど わ か っ た 。

見慣れた髪型

見慣れた着こなし

ああ


亜里砂だ


亜里砂・・・


亜里砂を見るのが、久しぶりに感じた。

今日、あんなに酷いことを言われたのにね・・・

『他の子とのくだらない友情だの気にしてられないからぁ!』

ねえ 亜里砂

やっぱりあの言葉

ホントなの?

画面の中の亜里砂に声を掛けても

何の反応もしてくれない

ポタ ポタ

ああ・・・まだだよ

いつまで・・・この涙は流れ続けるのかな

い1年分の涙を このゲームで流した感じ・・・

突然、亜里砂のアイコンが武器を振り上げた。

  やられる!

あたしは間一髪でよけきった。

俊くんのときには・・・この時に武器でやっちゃったんだ


  最  低  だ  よ


ああ


思い出しちゃったじゃん・・・


そうだよ あたしは最低なんだよ

涙がさらに溢れた。

その瞬間

亜里砂が武器を振り上げたことに、涙のせいで気づかなかった。

ハッとして、あたしが気がついた頃には

「ぎゃあああああああーーー!!!!」

あたしのアイコンは、無惨に切り刻まれた・・・


嘘・・・





やられちゃった・・・。

あたしの・・・アイコン・・・


ズキン


「うぅ・・・っ!!」


突然、全身に走る痛み

体を切りつけられたような 鋭い痛み

こんな大きな痛みは生まれて初めてで、あまりの痛さに声さえ出なかった。


やがて、痛みは治まった。

慌てて自分の体を見たけど、外傷は全くなかった。


そして、突然画面が変わり、黒い背景に戻った。

―― G A M E  O V E R ――


赤黒い文字で、画面にでかでかと書いてある、ゲームオーバーの文字・・・

突然のことで、あたしは状況が飲み込めない。

――残念です。貴方もこのゲームをクリアできなかったんですね。――

――これで貴方の人生は、あと3日で終わることになります。――

――しかし、貴方にはまだ、「このソフトを誰かに回す」という使命があります。――

――それを怠ったら・・・どうなっても知りませんよ。――


この瞬間、背筋がぞくっとした。

一瞬で全身の鳥肌が立つ。



ああ



あたし 死ぬんだ

  3 日 後 に


――これまでのゲームオーバー者――


牧村里未 小西準 秋村誠一 俊理恵子 樋口雅美 
田辺絵里子 吉田美佐恵 多田準 長南利香 赤司劉生
戸田啓治 加藤由佳子 木村正典 藤田由紀子 佐野沙織
麓康生 神田真央・・・


ゲームオーバー者・・・このゲームで犠牲となった人達の名前が、淡々と画面に流れ出る。


ああ・・・あたしも・・・ここに・・・名前を載せられてしまう・・・


疲れ切った瞳で、ぼーっと流れる名前を眺めていた。

そのとき

見逃さなかった。

あの 名前を。


        秋  山  里  世

りよ・・・

やっぱり・・・貴女は・・・

秋山里世 と赤黒く書いてある文字の横には、もう名前はなかった。

この画面では、里世が最新の犠牲者だから・・・。

あたしの名前は、里世の横に並ぶことになる。


え?

待って

それじゃあ 可笑しくない?

あの子は?

          亜 里 砂 は ?


再び画面を見た。

やはり、亜里砂の名前は何処にもない。


何故?

可笑しい

ゲームは 必ずやらなければならないはず・・・

『やってない』なんて選択はないんだ

じゃあ、何故此処に亜里砂の名前がない?

それは・・・

 も し か し て


     ――これまでの、ゲームクリア者――


     武 知  亜 里 砂

     「えっ!!!?」

思わず、声が漏れた。

ちょっと待って

待って待って・・・待ってよ

亜里砂が?

あの 亜里砂が?

3千何百人も・・・クリアできなかった このゲームを

  あの 亜里砂が?

ちょっと待ってよ

可笑しいって

ありえないって

以外な結果に、あたしの頭は混乱する。

だって、それほど信じられないから。

あの拷問やグロいシーンだけでも・・・相当答えるはず・・・

あのゲームだって・・・精神的にかなりヤバいはず

それを あの亜里砂は

拷問のシーンも 全部見て

ゲームも 出てくる敵を・・・みんな殺しちゃって

敵の中には あたしも絶対いたはず!

そんなあたしも・・・亜里砂が・・・

あたしは・・・亜里砂を倒せなかった

なのに 貴女は・・・


――なお、ゲームクリア者には、私から、素敵なプレゼントがあります。――

――では、 七 瀬 由 香 さん。残りの3日間の人生を有意義に過ごしましょう。good luck!――

           プツン

音がしたかと思うと、画面は普通のテレビの画像に戻った。

ゲーム機のスイッチが、勝手にきれていた。


・・・あと3日

     あと3日

              ア ト 3 カ


そうだよ!

あたし

 死 ん じ ゃ う ん だ よ

「や・・・やだっ・・・死にたくないっ・・・」

息づかいがどんどん荒くなる

ゲームをやり終えたばかりで まだ精神的に参ってるんだ

「やだああ!死にたくな・・・」

その瞬間、感じた。

気配を。


誰?

違う・・・『誰』じゃない

『人』じゃない

じゃあ

何?

背後から感じる気配

誰かが・・・違う

何かが・・・あたしをじーっと見つめてる

見なくても わかる

『それ』が どんなに恐ろしいか

部屋の中に広がる 『あれ』の気配。

あたしの頭に、ふと里世が浮かび出てきた。

里世の・・・あの言葉が――

『・・・声がするの・・・近づいてくるの・・・気配がするの・・・

窓から・・・押入・・・引き出しから・・・クローゼットから・・・』

『あああ・・・いる・・・。ドアの向こうにあいつがいる・・・。

来ないで・・・。止めるのよ・・・入ってこられないようにしなくちゃああ!!』

「いやあああああああぁぁぁ!!!」

後ろを向かずに、部屋を飛び出した。

すごいスピードで階段を降りると、誰かとぶつかった。

「いやあああああ!!!やあああああ!!!!」

「由香っ!?どうしたの!?落ち着いて!」

叫び回るあたし

ぶつかった『もの』は、あたしの両肩を掴む

「やあああああ!!!!」

あたしは、そいつから離れようと・・・逃げようと必死だった。

    「 由香っ!落ち着きなさい!お母さんよ!! 」

その言葉で、あたしは落ち着いて、我に戻った。

おかあさん・・・

お母さんが 何十日間も会わなかったくらい

久しぶりに感じた。

お母さんは静かな声であたしに訊いた。

「今さっき家に帰ってきたの。そうしたら由香が叫びながら階段を降りていく音がしたから・・・どうしたの?」

「・・・・・・」

ああ

お母さんの 温もり

久しぶりに感じる お母さんの匂い

でも

もうすぐ 久しぶりではなくなる

永遠に

お母さんの温もりも

お母さんの匂いも

感じることはできなくなる

ゲーム中にあんなに流した涙が、再び目の奥から溢れ出る

「・・・っおかあさん・・・」

お母さんは、状況を把握していないから、ぽかんとしていた。

時折、小さな声で「どうしたの?」と訊く。

だけど、あたしは首を横に振った。

それからは、ずっとお母さんと一緒に居た。

夕ご飯の準備も手伝った。

こんな年で恥ずかしいけど・・・お風呂も一緒に入った。

とにかく、1人でなければ良かった。

だって

1人だと 感じてしまう

   あの気配を。

あの気配は・・・何なんだろう

ゲームオーバーになった人には、自動的にああいうモノが憑いてしまうものなのかな



やっぱり夜も、親と一緒に川の字になって寝た。

でも、眠れなかった。

あのゲームのことを

嫌でも思い出してしまう

時折 発狂しそうになる

でも そんな時は

両親の寝顔を見る

それで なんとか正常さを保てる



また 嫌なことを思い出した。

あのソフト

 誰 に 回 そ う ?

回す人なら・・・いくらでも居る

だけど・・・

どうしても ゲームの内容を思い出してしまう

友達という敵を倒したときの・・・あの時の言葉

あのソフトを誰かに渡したら

現実のモノになってしまいそうで・・・

『  自分の命しか・・・頭にないんだな・・・最低だよ  』

         『  最 低 だ よ  』

「・・・とし・・・くん・・・」

そうだよね

最低だよね あたし

だけど 怖いの

あのソフトを回さなければ

もっと怖いことになりそうで――

『回さない』なんて選択もないんだ

 回 さ な け れ ば い け な い んだから・・・


―――翌朝

一睡もできなかった。

昨日いっぱい泣いたから、目はハチに刺されたようにぱんぱんに腫れて

目の下には、どす黒いクマができていた。

そう

里世のように――・・・

食欲なんてない。

何もやる気がしない

お母さんは

「学校休む?」

って訊いてきた。

昨日から様子が可笑しいあたしを、ひどく心配してる

心配してくれるのは嬉しい

だけど

「ううん、行く。大丈夫だよ」

お母さんの笑顔を崩したくなかった

だって お母さんと一緒に居られるのは・・・あとわずかだから

教室に入ると、あたしの顔を見て友達はびっくりしていた。

「どうしたの?」

「昨日なんかあったの?」

いくつもの口から、あたしへの心配の言葉が出てくる。

だけどあたしは、みんなの問いに首を横に振った。

「大丈夫、なんでもない」

その瞬間、あの子が教室に入ってきた。

亜里砂が。

亜里砂は、友達の中にいるあたしを、すぐに見つけた。

そして

「由香、どーしたの?てか2人きりで話があるからぁ」

そう言いながら、あたしの腕を引っ張った。


人気のない北校舎の廊下まで連れてこられたあたし

やっと亜里砂は足を止め、口を開いた。

「残念だったね。結構いいトコまでいったのに」

「え?」

「ほらぁ!由香がきのう必死でやってたやつぅ」

「ああ・・・あのゲーム・・・」

何故

何故

亜里砂が知ってる?

あたしが昨日 あのゲームをやって

ゲ ー ム オ ー バ ー し た こ と 

あたしが訊こうと口を開いた瞬間、亜里砂は言った。

「な・・・」

「なんでかって?」

「・・・うん」

「人目見りゃわかるしっ!その目の腫れ、クマ、やつれ様・・・それに・・・あたしには・・・」

亜里砂は嬉しそうにくすくすと笑った。

何が可笑しいの?

何故笑うの?

こんな時に――

亜里砂の些細な笑いが、あたしの怒りに触れた。

「・・・なにが可笑しいの!?」

「え?」

「なんで笑うの!?あたしがゲームオーバーしたから!?死ぬから!?」

やばい

また 涙が出てきた


亜里砂は無表情であたしの話を聞く。

だけど、今のあたしには

亜里砂の顔色なんて気にする余裕はなかった。

「大体・・・亜里砂が可笑しいんだ!あんなゲーム1人でクリアしちゃって!あんなグロ画像も平気で見て・・・友達が敵のゲームを・・・みんな殺しちゃったなんてっ・・・」

「・・・」

「あたしはね!亜里砂が出てきた時にゲームオーバーしたんだよ!?亜里砂を・・・殺せなかったのに・・・なのに・・・亜里砂は・・・亜里砂はあたしを・・・」

もう駄目だ

声が震えて 上手く喋れない

溢れる涙

おねがい 止まって

もっと喋りたいことがいっぱいあるの

泣きじゃくるあたしに、亜里砂は静かな声で言った。

「はぁ?由香、馬鹿じゃないの?」

「・・・ぇ・・・」

「グロ画像はさすがに効いたけど・・・あのゲームに出てくる由香達は『偽物』なんだよ?惑わされる由香が悪いんじゃん」

「・・・でも」

「あたしショックだよ。由香が偽物のあたしと本物のあたしを区別できないなんて。最低だよ」

          『  最 低 だ よ  』

効いたことのある台詞

そうだ

俊くんの・・・

亜里砂にも言われた

あたし やっぱり

 最 低 だ・・・・・・


最低だ・・・・・・


もう いいよ

わかってるよ 自分でも

そうだよ

ゲームの敵達は よくできた『偽物』

あ亜里砂以外の犠牲者は みんなまんまと騙されたんだよ

だけどさ

だけどさぁ


「本物と偽物の次元じゃないって?」

「え・・・」


それ

あたしが 今さっき考えてたこと・・・


「あ、図星~?」

「・・・」

「図星なんでしょ?わかってる、わかってる。まあ、それもわからない気はしないけどね~」


ありさ

あたしの心が 読めてるの?


あたしは、ふと思い出した。

ゲームの あの言葉







――なお、ゲームクリア者には、私から、素敵なプレゼントがあります。――

        素 敵 な プ レ ゼ ン ト

「亜里砂!亜里砂は・・・何をもらった?あのゲームから・・・」

「え?それはね・・・




     ヒミツ~」

そう言うと、亜里砂は行ってしまった。

あたしを独り残して・・・


結局その日は ソフトを誰にも回せなかった。


 残 り 2 日 ――

「・・・ただいま・・・」

疲れ切った表情で、家のドアを開けた。

だけど

誰もいなかった。

お母さん・・・買い物かな・・・

リビングのソファーに寝そべり、側にあった雑誌を読んだ。

紙の中に描かれる 可愛い洋服を着た 可愛い女の子達

何故か

その女の子達が 妬ましく感じた

その時

「・・・っ!」

感じてしまった。

 あ の 気 配 を 。

「・・・ヵ・・・ュ・・・ヵ・・・」

何処からともなく、あたしを呼ぶ声が聞こえる。

人間の声じゃない 声色で

「・・・ュ・・・ヵ・・・ユ・・・カ・・・」

声は どんどん近づいてくる

それに比例して 気配も どんどん近づいてくる

来る!

こっちに来てる!!

「ユ・・・カ・・・」

「きゃあああああああああ!!!!」

リビングを飛び出した。

手をつきながら、階段を上った。

そして、自分の部屋に入ると、ドアから入ってこられないように
椅子やクッションなどもドアの前に置いた。
急いでベッドに潜り込んだ。


怖い・・・

  コ  ワ  イ

怖い時って よく布団の中に頭をつっこむけど

でも 駄目だ

こんなことしてたって

わかる。

 あ い つ が  ど ん ど ん 近 づ い て く る こ と

気配を 感じるの

何処からか わからないけど

近づいてくる・・・

「・・・ユ・・・カ・・・」

            あ の 声

「・・・っいやああああああああ!!!!!!」

「ゆかぁ!?」

その瞬間

お母さんが、すごい勢いで部屋に入ってきた。

あたしの様子がおかしコトを、す
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