《行為無価値》

〔メジャーどころ〕

  • 裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案』司法協会(2008/09補正・3訂補訂版)……「書研」(こちらは旧称)とか「総研」と呼ばれ る。裁判所書記官の研修用テキストであり、裁判官が執筆している。したがって判例・(伝統的)通説ベースだが、薄い。某予備校の指定教科書でもあり、司法 試験受験生の間でも非常に人気がある。理論刑法学を割り切るのであれば第一の選択肢として本書が挙げられよう。
  • 井田良『講義刑法学・総論』有斐閣(2011/07・補訂)……もともと井田説は行為無価値の中でも理論的に高度で独自色が強いものである(基礎 理論では目的的行為論、消極的構成要件要素の理論など、解釈論では緊急行為での有責性考慮や緊急避難の類型論など。試験対策上は前者を長々記述するような 問題はあまり考えられないが、後者が修得と論述に一手間いるだろう)。しかし、本書ではそうしたアクは前面に出ておらず、良くも悪くも学生向けの概説書に 徹している。また論理も非常に明快で、大谷説のように社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧で道徳的な語を使うことはない。そして、論点・学説も豊 富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸である。なお、自説を詳細に展開した現代刑事法への連載を単行本化したものとして『刑法総論の理論構造』成文堂 (2005/06)、入門編として「ゼロからスタート☆刑法“超”入門講義」(法教331-、331-342号は刑法総論、343-は刑法各論)。
  • 井田良『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2007/05)……本書の特徴は、ふつうの体系書ではごく簡単にしか言及されない、それぞ れの犯罪類型に関する、基礎的な事項についてかなり詳しく説明しているところであろう。(はしがき一部抜粋)ということからもわかるように、図表も豊富で 初学者でも読むことができ、中級者になるための橋渡しになるような本である。もっとも、司法試験にも十分対応できる水準は確保されているため、総論・各論 とも最近の行為無価値論による解釈で一貫性をもたせたい人には有用であろう。刑法総論講義案、とくに講義刑法学との相性はかなり良い。
  • 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2010/04,☆2011/06)……本格派の体系書。客観的帰属論をはじめとする最先端の学説や問 題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養とあいまって、行為無価値の最先端を示すものに仕上がっている。行為規範と制裁規範と いう独自の体系をとるが、おおむね結論は判例・通説に近い。判決文の紹介に多く紙面を割いているほか、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されて おり、受験生にも使いやすい本になっている。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書である。
  • 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2009/04・新版第3版)……改訂(改説)頻繁。受験生に人気。学説の一貫性に疑問の声も。判例 索引に誤記多し。かつてほどの人気はないが、行為無価値の中ではまだまだシェアNo.1だろう。いわゆる予備校説は団藤=大塚説に共犯だけ大谷説をとりい れたもの。なお、受験生からは「行為無価値は社会的相当性というマジックワードで片付けがち」と批判されるが、それは大谷説だけであり、大谷説が行為無価 値の主流であるという訳ではない。大谷自身も刑法の機能をそのようなものであるべきと意識して、あえてそうした言葉を使っており、こうした発想に合わない 学生は用いるべきではない。
  • 伊東研祐『刑法講義・総論』『同・各論』日本評論社(2010/12,2011/03)、『刑法総論』新世社(2008/02)……東大最後の行 為無価値論者(夭折の天才)藤木英雄の弟子。著者曰く3冊とも未修者向け。著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載 せていない(もちろん自説主張がないわけではい。著者の法哲学見地(『講義総論』第1章)から体系がまとめられており、それに沿った主張もある)。また、 学説の引用元を表示していない。近時出版された基本書の中では、判例の紹介・引用がやや少なめになっている。この点は賛否がわかれるところだろう。藤木弟 子だが団藤=大塚ラインとは一線を画した洗練された行為無価値論をとる。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考に なる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。予備校ベースの行為無価値論とも比較的親和性が高いと思われるので、これから人気となるかもしれな い。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められないが、一方、読み応えがあるという評価もある。日本評論社、新世社の総論はともに法科大学院未習 者を対象に書かれたものであるはレベルは日本評論社の方が幾分か高く踏み込んだ記述が多い。これに対し、新世社の総論は未習者、初学者向けであり記述は あっさりしている。自分のレベルに合わせて好みで選ぶと良い。
  • 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ総論』日本評論社(2012/11)……帯に「本書の立場は『判例説』。」と書かれている。本 書は、判例説と書かれてはいるものの、試験対策的観点からみて従来の学説対立についても必要充分に述べられている。本書の大まかな構成としては、細かく何 節にも分かれており、学説について説明した後、判例の立場を述べ、その判断要素などを最後にまとめている。また具体的な叙述について、答案のように一つ一 つどの段階の問題なのかを省略せず明示しており、また、重要性が低いところなどは、フォントを小さくしたり、説明を省略するなど初学者にも配慮している。 また本書のとても親切な点として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っている点にある。(一通り総論を学んだ中級者は当てはめ部分を飛ばせば割と早 く通読できる点で○)とかく、学説の解説ばかりに目が行くが、当てはめなどをここまでしっかり行っている基本書は他にないのではないだろうか。コラムにも 試験対策上躓きやすいミスなどが指摘されており、中級者以上の使用にも耐えうる一冊となっている。欠点としては、「本書の立場は『判例説』。」となってい るが、その判例に割く分量が学説の解説に比べてやや少ない点であろうか。判例の規範をどう答案で活かそうかと思っている学生にとっては、やや物足りないか もしれない。とはいえ、そのエッセンスは抜き出されているため、判例の理解の一助になることは間違いない。初学者には間違いなくおすすめでき、中級者以上 にも当てはめなどにつき示唆に富む一冊である。個人的な使用感としては、『刑法総論 (伊藤塾呉明植基礎本シリーズ1)』弘文堂(2008/11)との親和性が高いので、(相対的ではあるが)呉の刑法総論の簡易辞書(あてはめなどの参考と して)代わりとして使用できるのではないだろうか。

 

〔その他〕

  • 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990/06・第3版,1990/06・第3版)……刑法実務で通説といえば、おおむね 団藤説または大塚説を指す。重鎮の代表作。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を 肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしているが、いかん せん古い。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、近時さまざまに実質論を展開する判例・多数説との距離が開いており、団藤説は 発展的に解消されつつある。改訂の可能性は低い。三島由紀夫ファンなら必読。
  • 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008/10・第4版,2005/12・第3版増補版)……刑法実務で通説といえば、おおむね団 藤説または大塚説を指す。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため、やや古い。とくに総論は最新の議論に対応し切れていない。共謀共同 正犯否定説。論理の一貫性には定評がある。1冊本『刑法入門』(2003/09・第4版)は検察事務官の研修用テキストで口語体の良書。
  • 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(☆2011/10・第5版,2002/05・第3版増補)……著者は団藤門下にして、戦後昭和期の代表的 な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説など。論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を 排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成と なっている。
  • 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2006/02・第2版,2007/03)……二元的厳格責任説(正当化事情の錯誤において違法 性阻却の余地を認める立場)。中・上級者向けの論点本『集中講義刑法総論・各論』成文堂(1997/06・第2版,1999/07)、1冊本『刑法』放送 大学(2005/02)、『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008/09)。その他著作多数。『刑法総論講義』は最新判例がほとんど掲載さ れておらず、最新の論点にもあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。
  • 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975/11,1976/12、OD版2003/10)……団藤門下の夭折の天才。可罰的違法 性論、新々過失論、誤想防衛の違法性阻却、実質的正犯概念など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはない と言われている。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011/01)が最近復刊されたが、既に克服された学説がそのまま掲載され ているだけなので現時点で読むには物足りない。時機に後れた復刊と評さざるを得ない。
  • 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008/05・第6版,2009/03・第3版)……学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。
  • 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007/04・補訂版,2004/06)……判例を重視した学説。1冊本『刑法』有斐閣プリマ(2008/02・第5版)もある。
  • 小林充『刑法』立花書房(2007/04・第3版)……元刑事裁判官による1冊本。自説僅少。判例の考え方を簡潔に説明。
  • 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2011/05・第3版)……各論のみだが内容には定評がある。長らく2版から改訂されていなかったがようやく改訂。横書きになり、よりコンパクトになったが内容は最新の状況をフォローしているとは言いがたい。
  • 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009/08,2006/09)……大塚弟子。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。
  • 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2006/04・第3版,2007/04・第3版)……通称「薄いほう」。上記の本よりも大谷説を理解するのに向いているとの声あり。
  • 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論』有斐閣(1978/04・増補版)……名著。目的的行為論の古典。古いが阿部純二『刑法総論』日本評論社(1997/11)でフォローすれば使えなくはない。

 

《結果無価値》

〔メジャーどころ〕

  • ☆山口厚『刑法』有斐閣(2011/09・第2版)……平野門下。1冊本。通称「青本」。法科大学院未修者、法学部初学者を念頭に、判例 および全ての学説の前提となっている通説の解説を主眼とした教科書である。刑法の第一人者によるこのような教科書ということで、初版の頃から本書をメイン として利用する法科大学院生は多い。第2版のはしがきでは、山口教授自身が刑事系主任調査委員とし関わった「法科大学院コアカリキュラム」案件を参照しな がら本書を読むように推奨しており、以後もロー生向けという傾向に変わりはないだろう。特に結果無価値を採るロー生の事実上の国定教科書に近い存在ともい える。自説は控えめで、本書ではどれが山口説かは明かされないが、結果無価値で一貫しており、また広く浅い掘り下げのために山口説を理解していないと正確 な文意は理解できないという声もある。入門書として『刑法入門』岩波新書(2008/06)
  • 西田典之『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2010/03・第2版,2012/03・第6版)……平野門下。総論の体系は平野説に比較的忠実。各 論は分かりやすさとバランスの良さに定評がある。とりわけ各論は、判例解説や論文の中で代表的見解として引用される回数が非常に多く、プロから厚く信頼さ れているという証拠であるから、学生にとっても間違いのない一冊である。ただし、総論で西田を使わない場合、食い合わせに注意すべきこと(とくに身分犯の 共犯等)は当然である。講義テープをもとにした本なので、ところどころクスッとさせる説明も見られる。なお、総論第2版では、刑罰論に関する記述が新たに 追加された。結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向しているため、使い勝手がよく、受験生にとって最もメジャーな体系書であろう。
  • 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2007/04・第2版,2010/03・第2版)……現在の東大を代表する結果無価値論。総論は、薄い なかに正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せた。それ故従来の議論を知らずに1冊目として勉強するのは困難。また第2版で改説部分 多数。各論は、厚くなってしまっているが総論より読みやすく判例を元にした分析も丁寧で、山口説を採らなくても辞書的に利用する価値あり。
  • 佐伯仁志「論点講座・刑法総論の考え方・楽しみ方(1)~(19)」佐伯連載(法 学教室連載・283号~306号)……平野門下。総論の殆どの論点を解説。故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説をとり、西田・山口よりなじみや すい体系。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容となっている。とくに不作為犯論と正当防衛 論は試験対策に有用。※法教355号(2010年4月号)から各論の連載中。
  • 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(☆2011/03・第5版,2012/01・第5版)……平野門下。実質的犯罪論とい う独自の立場から書かれている。他の学説と比較して考えると混乱するおそれ大のため、前田説のつまみ食いは危険。旧試験委員時代は受験生の間で覇権を築い ていたが、近時急速にシェアを落としている。前田説が前面に出ていない概説書としては『刑法の基礎・総論』有斐閣1993年5月がある。元々、法学教室連 載を単行本化したものなので記述は東大出版会のものより中立的。久しく絶版だったがOD版で復刊。

 

〔その他〕

  • 平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1975/06,1984/01、OD版2004/08)……法益侵害説中興の祖。日本の結果無価 値論刑法学のバイブル的存在。平野体系はいわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口にとっつきにくさを感じる人には現在でもお勧め できる。平野刑法学のエッセンスが抽出されたものとも言うべきなので、深く理解したい時は平野執筆の論文に当たった方がいい。『刑法概説』東京大学出版会 (1977/03)も簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返す となお有意義。
  • 齋野彦弥『基本講義刑法総論』新世社(2007/11)……東大出身者だが大学院がケンブリッジなので団藤・平野門下ではない。学部時代の刑法教 授は内藤。実行行為概念を否定する、という点では山口の説に近く結果無価値と親和性が高い。本人は「行為無価値と結果無価値の対立」として問題を扱うこと を党派刑法学であるとして拒否する。解釈論の結論を導くにあたって、最初に刷り込まれた立場から個別解釈論を決定するのは自分で考えることを放棄するも の、だとする。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。
  • 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004/04・第2版,2003/11)……平野門下。総論・各論あり。評価待ち。
  • 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008/09・第2版,2007/10・第2版)……平野門下。著者は財産犯の研究から出発 し、財産犯の第一人者といえる。ということで各論の教科書は使い勝手がよいようにも思えるのだが、非常に簡潔な記述となっているため、その意味内容を正確 に把握するためには著者の論文を読む必要がある。そのため、そこまで勉強している人にとっては便宜ではあるものの、教科書だけ読んで林説を理解しようとい うのは無理がある。総論は評価待ち。
  • 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983/03~2002/10)……団藤弟子だが徹底した結果無価値論者。山口説が過激すぎるという人におすすめ。1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997/10)
  • 町野朔『刑法総論講義案1』信山社(1995/10・第2版)……平野門下。未完。入門書『プレップ刑法』弘文堂(2004/04・第3版)
  • 木村光江『刑法』東京大学出版会(2010/03・第3版)……前田門下。1冊本。前田好き向け。増刷ごとに一部改訂されている。
  • 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2008/03・第2版,2009/03・第2版)……結果無価値+危険無価値によって違法性を判断 (結果無価値論に近いが、一元的結果無価値論ではない)。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。大作。ロースクール向け教科書として 『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005/04)、『刑法概説I・II』成文堂(2008/10)。
  • 中山研一『口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007/07・新訂補訂2版,2006/04・補訂2版)……関西結果無価値。『刑法総論』成文堂(1982/10)は名著。
  • 浅田和茂『刑法総論』成文堂(2007/03・補正版)……関西結果無価値。学説は少数説が多いが、内容は原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている。本格的体系書。
  • 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2009/03・第4版,2008/03・第2版)……読みやすいが、理論的にかなり突っ込ん でいるため、内容は難解。ドイツのヤコブスの説に基づいた見解が多い。著者の研究成果が現れており、そもそもドイツではどのように理解されていたかなどを 記述するが、そこは言わずもがな試験に必要ではない。基本書でドイツの刑法学の状況を確認したいならこの本をおいて他の選択はない。松宮説を理解するに は、『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997/11-2009/06)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし新司のレベルをはるかに超え ていることに注意。
  • 大越義久『刑法総論』『刑法各論』有斐閣Sシリーズ(2012/12・第5版,2012/12・第4版)……結果無価値の立場から刑法理論をコンパクトに解説。さすがにこれだけでは薄すぎるとの評があるも、1冊目としては適しているともいわれる。
  • 曽根威彦『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2008/04・第4版,2008/09・第4版)……独自説をあっさりとした記述で流すことがあるの で注意。演習書として『刑法の重要問題 総論、各論』成文堂(2005/03,2006/03・いずれも第2版)、松原芳博との共著『重要課題刑法総論、 同各論』成文堂(2008/03)。
  • 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』(2008/11・新版補訂版,2010/12・第3版)……著者は学者だが予備校での指 導経験あり。大谷・前田がメジャーな受験生説だった時代(平成10年台前半頃)に、それらに親和的な内容の副読本として読まれていた。現在では大谷・前田 の受験生シェアは低下しているものの、刑法が苦手な場合になお有用。

 

《共著》

  • 伊藤渉・小林憲太郎・鎮目征樹・成瀬幸典・安田拓人、齊藤彰子・島田聡一郎『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂 (2005/04,2007/04)……主に山口・西田弟子と中森弟子との若手有望学者による共著。刑法学理論の最先端を著述している。総論は行為無価値 にたつ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例より新しい 判例・学説の展開に重点が置かれている。リーガルクエストとかぶる部分はコピペになっている。齊藤と島田は各論のみ執筆。使い勝手の良いところだけつまみ 食いで使うのがベスト(安田の責任論など)。内容はかなり深いところにまで突っ込んでおり現代の刑法学の到達点と言っても過言ではない。リークエよりやや 薄めで脚注が付いているのでレポートなどにも活用しやすい。
  • 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『リーガルクエスト刑法総論、同各論』有斐閣(2009/01、☆総論は2012/10改訂予 定,2007/04)……西田・山口門下による共著。したがって、立場のばらつきは少ない。最新の議論までコンパクトにまとまっている。ただし,今井執筆 部分は微妙。総論で小林ががんばりすぎているところも。共犯論や罪数論(島田)は秀逸で分かりやすい。各論は西田・山口をコンパクトに整理した感じになっ ているので、こちらも案外使い勝手がいい。
  • 町野=中森『刑法1・2』有斐閣アルマ(2003/04・第2版)……内容的に中途半端で共著の悪い面がでてしまっている。
  • 高橋則夫他『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007/10・第2版,2008/04)……行為無価値論者によるテキスト。総論はちぐはぐ感が否めないが、各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説カタログとして使い勝手が良い。
  • 大谷實編『法学講義刑法1総論』悠々社(2007/04)……行為無価値論者によるテキスト。従来の教科書から一歩前へ進めた議論を紹介しており、ちょうどリークエに対応する1冊。各論は未刊。
  • 松宮孝明編『ハイブリッド刑法 総論、各論』法律文化社(2009/01)……関西刑法読書会のメンバーによるテキスト。といっても関西結果無価値論の主張は控えめで、最新の論点にも言及している。
  • 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義-総論・各論』有斐閣(2009/04)……1冊本。「いわゆる」通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある。
  • 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009/07)……関西系学者による比較的初学者向けのテキスト。京大 刑法総論とも言うべき執筆陣(葛原は中門下、葛原以外は中森門下)。葛原(結果無価値)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値)が客観的構 成要件・未遂犯・罪数と立場が現れる部分を異なる論者が執筆しているためやや一貫性に欠けるが、共著故の欠点である。学説検討がかなり詳しく最先端の議論 にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。この点はリーガルクエストやアクチュアルに軍配が上がる。
  • 生田勝義・上田寛・名和鐵郎・内田博文『刑法各論講義』有斐閣(2010年5月)……学部向けの教科書。総論はない。

 

〔コンメンタール〕

  • 西田典之・山口厚・佐伯仁志『注釈刑法 第1-3巻』有斐閣(2010年12月-)……旧版に比べ、大幅にスリム化された。理由として、 (1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁 判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。著者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述が多 く、旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれている。現時点で第1巻のみ刊行。
  • 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博編『条解 刑法』弘文堂(2007/12・第2版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められている。文字が大きく余白も多いため他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。
  • 阿部純二編『基本法コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/05・第3版)……情報量は意外に多い。こちらは研究者中心の執筆となっているため、理論的な面については条解より詳しく安い。☆2012/09に新基本法コンメンタール刑法として改訂予定。
  • 伊東研祐・松宮孝明編『学習コンメンタール 刑法』日本評論社(2007/04)……存在意義が良くわからない本。基本法コンメンタールより400円安いが、内容は薄い上に独自説も多くかなり劣る。

 

〔判例集〕

  • 芝原=西田=山口『刑法判例百選I・II』有斐閣(2008/02,2008/03・第6版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載され ているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例 の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。
  • 西田=山口=佐伯『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(2009/03・第5版)……こちらは解説なし、判例のみ。下級審裁判例まで網羅してお り、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える 学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本第2版でも本書の該当番号が引用されるようになった。刑事事実認定重要判決50選と併せれば、ほぼ基本書とし て使える。
  • 前田雅英『最新重要判例250 刑法』弘文堂(2009/03・第7版)……274判例を収録。二色刷り。コンパクトに多くの判例を解説してい る。但し、自説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田先生の基本書を使用している人以外が使用するのはやや危険。
  • 大谷実編『判例講義刑法1総論、2各論』悠々社(2003/12)……大谷門下による判例集。
  • 山口厚『新判例から見た刑法』有斐閣(2008/10・第2版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。
  • 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010/06,2011/10)……判例を素材に重要論点を平易に解説。書下ろし。各論は評価待ち。
  • 成瀬幸典・安田拓人編『判例プラクティス刑法I』、成瀬 幸典・安田 拓人・島田聡一郎編『同Ⅱ』信山社(2010/01,2012/03)……Ⅰは総論。Ⅱは各論。Ⅰの収録判例は444件、Ⅱは543件と『判例刑法』に迫 る収録件数。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の 一貫した理解に資すると考えられる。
  • 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』商事法務(2011/09)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより 図示しており、イメージを持ちやすい。また、解説は簡潔であるが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。

〔その他読み物〕

  • 山口厚=佐伯仁志=井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001/09・2006/05)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。
最終更新:2013年02月24日 20:13