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忌闇装介伝~ソックスハンター外伝~」(2007/08/10 (金) 23:48:02) の最新版変更点

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『忌闇装介伝~ソックスハンター外伝~』 /*/ ソックスハンターの在るところ 風紀委員在り。 「本日21:00丁度、小笠原で手に入れし秘宝を頂に参上します 怪盗F」  小笠原秘宝館――ニューワールド中の技族と文族の技巧の粋によって、小笠原の思い出が封じ込められた秘宝館。  そしてその館長、忌闇装介...は、「怪盗F」の冗談めいて書かれたカードを握り、ゴシック体で印字されたその文字を凝視していた。  閉館時間も過ぎて気づくものもいないが、その顔面は蒼白である。 「うそだ! なんであの件がバレるのさ! アレは俺がこっそり...」  荒らげた語気もすぐにしぼんでいく。  作戦はあくまで隠密に行われた。  あまりにも隠密すぎてGMにもスルーされていたはずだった。  それでも作戦は決行され、遂行されたのだった。  装介はソックスハンターだった。  ソックスハンター業界にはこういう言葉がある、 “ソックスハンターの在るところ 風紀委員在り。”  ならば――その逆もしかり!!  そして、akiharu国には風紀委員が存在する。故に、 “風紀委員の在るところ、ソックスハンター在り。”  装介もまたakiharu国に蔓延るソックスハンターの一人であった。  ハントはあくまで隠密に行われた。  あまりにも隠密すぎて、GMに至ってはガン無視だったが。  それでもハントは決行され、小笠原の海水浴場...その脱衣所より藩民とふみこと火焔のソックスを手中にしたのである。あったはずだ。  まあ、多分。設定的にはそれで良いじゃないか。誰も損しないんだし。 「ありえねえ...脱衣場は作戦のどさくさで爆破したし、証拠も考えられる限り隠滅した! バレるはずがないんだよ!」  イライラをごまかすように頭をガリガリ。残りの手首が何もない空間でスナップする  閉館時刻を過ぎての無人の秘宝館を練り歩く。  犯行予告カードが装介のデスクに置かれたのが20時。  今から参謀に警護を要請したところで無理だろう。エントリーすら間に合わない。  1時間で編成ができるモノなら、是非やって貰いたいものだ。 「イベント告知おせえよ、対応できるかこんなモノっ。だいたいそもそも、怪盗Fってなんだ? 第五異星人?なわけないし、それとも泥棒猫――まさか...猫泥棒は既に藩王の御用達の猫駆除剤によって一掃されたはず。現在この国に登録されている泥棒猫は一人もいない...なら、誰だってんだ!」  靴を叩きつけるように、赤絨毯の上を歩き回る。思考が纏まらない。  内容が内容だ。他の館員に知らせるわけにもいかない。  この危機に瀕し。動ける人員があまりにも少なすぎる。 ――いや、 「いるか――アイロン」  閉館後の闇に落ちた展示室。  その闇に問うかのように装介は訊いた。  返事は数秒と待たずにあった。 「ふふふふ、お呼びですかぁ! チキーーーーン!!」  どこからともなく鴨瀬高次(摂政)の声、見れば手近な展示台に登ってポーズを取っていた。  展示されている像の振りをしていたのだ。  鴨瀬は皺一つ無いマントを広げ、高笑いを上げた。 「ハーーーーハッハハ! ハーーーーーハッッハッッハ!! ソックスアイロン参上!」 「おお、神出鬼没! さすが略奪系摂政!」 「ハーーーハッハ、そこは略さないでプリーズ!」  それにしてもこの摂政、ノリノリである。  それはともかく、堂々たる高笑いに警報装置が惜しみない警笛をあげて応じた。  押し寄せる警備員。世界中の技族の絵を集めているだけあって、特殊部隊顔負けのフル武装である。  あわてて弁明する装介。 「あ~ごめん、この人関係者だから」 「勘弁してくださいよ、館長さん」 「すんませんまじすんません」  警備員が去ったのを確認して装介、安堵のため息。  時刻は20:30分。既に余裕はない。   「フフフフ...さて、チキーーーン。いかなる御用をありがとうございました」 「ええと、あれ? 鴨瀬さんってそういう口調というか、国民設定だったっけ?」 「心配いらず! ソックスハンターは設定をもオーバー越えるのでした!」 「なるほどっ!」  そんなことを言いつつも、歩いている二人。  螺旋階段を昇っていく。  たけきの藩王よりの依頼と書かれた、秘宝館の中でも一二を争う人気のその部屋の横。  その横、「トップページ」 と簡潔に張り紙のある扉を押して、二人は閉ざされた部屋へと入り込んだ。  入室者を感じて、照明が自動で点灯する。両脇に窓があり正面に二枚の絵。それだけの部屋だった。  その絵の一枚...メイド姿の遥とその他大勢の記念イラスト。そこを、装介はじっと見つめている。その視線は絵を見てはいない。絵の方向を向いてはいるが、焦点はその絵の先のものを見ていた。 「ふむ、これはチキン直筆の一枚絵...ここに」 「森の中では木に隠れるべし、そういうことだ」  袖からリモコンを滑らせて絵に向ける。  ボタンを押せば、カチ、ゴゴゴゴという音とともに額縁がスライドしていった。 ベタな装置である。  スライドした額縁から現れたのは――ソックスだった。  丁寧に一枚一枚、まるでそれが至高の宝であるかのように飾られている。  実際、装介にとっては、なによりの至宝であった。 「嗚呼...美しい」  うっとりと装介がため息を漏らす。 「美しいを通り越して神々しい...この建物に飾られている、どれよりも」  ニューワールド中の技族と文族が化けて出そうなこと呟く装介。 「お前もそう思うだろう...チキン」 「なるほど、こんなところに隠していたのね」 「...?!」  振り向くその顔を注射器が通り過ぎた。  鼻先数ミリのところで避けられたのは、勘とmihaダイスのお導きとしか言いようがない――あるいは「それ」 が、ソックスハンターに対して絶大なる能力評価を持つのと同様に、ソックスハンターもまた、それに対して本能とも言える戦闘向上力を持つのかもしれない。  振り返って、展示室の入り口に立っていたのは、鴨瀬(摂政)一人だった。  だが、その鴨瀬の様子がおかしい。 ――笑っていた。不気味に。不適に。 「...この距離で避けるなんてね。藩王特製の強化ドラッグ――避けなければ、何も気づかないまま楽になれたのに...」 「鴨...瀬...? いや、」  気づけば踵を返し、後ろに飛んでいた。  距離を取った装介の両手には鞭が握られている。 ――鞭の達人故の反射行動、半ば無意識に鞭を構え、距離を取っていた。  その鞭で牽制をしながら、いまさら、ようやく、自分が重要なことを見逃していたことに気づいた。  鴨瀬のソックスの色がいつもと違う―― 「――その靴下、その色、柄、臭い――まさか、風紀委員っ!?」 「珍妙な断定をするなっ!!」  叫びと同時、殺気を放ち飛来したのはメスだった。その全てが、急所を狙っている。  装介は放たれた8本のメスの全てを、鞭の一降りでなぎ払った。  そして、 「ぐっ――」  床に落とされたメスと同時、鴨瀬が手を押さえた。  その手から注射器が二つ...割れて落ちる。  鞭は八本のメスを落とすと同時、鴨瀬の注射器(おそらく麻酔入り)を取り出した手首を打擲したのだ。 「く、鞭の達人――まさか、これほどとは」 「鴨瀬...じゃないな。風紀委員の、誰だ...なぜこのソックスを知っている!」 「まだわからない?」 「問答するつもりはない。正体を現せっ」  神速の鞭を振るう装介。動態視の優れた猫ならば見えたであろう。装介の両手に持った鞭の紐がばらけて多条の鞭となって放たれたのが。  9を越える鞭撃(ナインオーバー)の――手首から放たれた鞭が、ソニックブームを起こして鴨瀬の変装を破り捨てる。  現れたのは――少女だった。  装介も知った顔である。彼女は、   「阪...明日見さん?」 「そのとーーり!」 「いやそれ無理がなくなくない? 主に身長的にさぁ」 「うるさいっ、背のことは言うなー」  阪明日見。akiharu藩国1のちびっ子。  そして泣く子も黙る医療系風紀委員である。  鴨瀬の変装を解き放った彼女の腕には「風紀」の二文字のゴシック体が腕章になって見栄を切る。 「はっ、まさかシークレットソックs」 「あるかそんなものーーっ!」 「てか、だいたいなんで猫泥棒でもない風紀委員が変装を!」 「着替えたの!!」 「そんなタイミングねえよ!!」  何故か逆ギレして装介。  しかし明日美は不敵に笑うだけ。 「そう、確かに一見着替えるタイミングはなかったかのように見えるよ。しかし、あったの。お見合いイベントの始まるその直前に、着替えるタイミングがね!!」 「! では、あのとき...」 「そう、こっそり着替えて、そして変装をして、このタイミングでまた戻った! 変装は解かずにね!!」 「なんて奴だ...そこまで暇人だとは。ちびっ子にしておくのが惜しいぐらいだぜ」 「ちびっこいうなー!!」  メスと注射器が機関銃のように矢継ぎ早に飛んでくる。  だが、全ては装介の巧みな鞭捌きの前に撃墜されていく。 (暇人は良いのか。じゃなくて、まずいな...)  いくつもの足音、包囲されている...風紀委員の気配...いや臭い。 「要件はなんだ!!」 「あ、あたしの靴下返しなさい!」  言ってて自分で恥ずかしいのか、明日見は少し顔を赤らめた。  ...なるほど、小笠原イベントには確かに明日見もいた。  そして風紀委員の勘で、ソックスがまだ無事に保管されていることに気づいたのだろう。  あるいは、事実を隠し切れたことによる装介の気の緩みを、感じ取ったのかもしれない。 「怪盗F――つまり風紀委員会か。怪盗を名乗ることで、まんまと自分をお宝の場所に誘導したというわけか」 「その通り。いいからさっさと返しなさい、みんなの分! 全部!!」  小さい手を前に突き出して、びしっと装介を指さす。  装介は毅然とした態度で、答えた。 「断る。持ち主が誰であろうと、一度手に入れたからには俺のソックス、ソックスハンターとして返すわけにはいかん! たとえ寸詰まりのソックスであろうと!!」 「誰が寸詰まりだーーー!!」  機関銃のような攻撃。  いや、本当に機関銃だった。 「どぇわぁああああ!!?」  ブチギレて腰だめに構え乱射している。  以下に鞭の達人とはいえ、さすがに銃弾は撃ち落とせない。 「死ぬ、これは死ぬ!!」  銃の火線軌道とは逆の斜め後ろに飛びながら、鞭を振るう。  音を越えて放たれた鞭が、機関銃を明日見の手からあっさりはじき飛ばす。 「こ、殺す気かよ!!」 「死ね、死んでおけばいいのよ! このっくのっ乙女の敵!変態!変態!!」  銃が手元から消えたせいで、またメスを取り出して喚く明日見。  もともと近距離の素養がないのか下手なのか、銃弾は装介に当たることもなく大きく逸れたが、油断はならない。なにしろ風紀委員には学習能力がある。いや、タイミング的には効果が発動していそうだが、だとしても油断はならない。 「変態じゃねえ! 仮に変態だとしても変態という名の狩人だ!!」 「なおさら変態じゃないのっ!!」  叫ぶ明日見の後方から、風紀委員が2人、機関銃を構えて現れる。 「ころせ! フルバースト!!」 「まじでっ!?」  まじだった、一人の機銃が装介を、残りの一人が装介が移動する可能性の高いポイントにデンジャーゾーンを形成する。なるほど、確実に殺すやり方だった。  銃弾の雨が装介を激しく撃った。 「安心して...死んでも蘇生してあげるから」  もうもうと、銃弾が巻き上げた煙で辺り一面が白くなる。  明日見は、白煙の向こうで機能停止したはずの装介に向かって、優しく微笑んだ。 「へっ、医療系風紀委員の台詞とは思えねえな」 「なっ...んで...?」    驚いている、のだろう。銃弾の巻き上げた煙で何も見えないが、気配で分かる。   「ぐっ。くくく...簡単な話さ。お前さんが猫泥棒に着替えたタイミングで、着替えたのはお前さんだけじゃなかった。ただそれだけのこと、」  明日見には見えたことだろう。  白煙の向こうで揺らぐ人影、その影が奇妙に膨れあがっていくのを。  明日見はその異様な光景に息を飲んでいた。  だが、同時にある「可能性」に思い当たっていた様子だった。 「まさか、“竪穴に封印されし化け物”!!? あなた、正気なの!?」 「くく、正気でこのアイドレスを獲得する奴なんていないさ...」 「そこまでして...」  体格が増幅倍増し、おぞましい姿に変容する。  服を引き裂き、鋭角的な骨格が体を覆っていく。  自分の中の残虐な部分が心の底から表側へ、そして肉体へと介抱されていく、そんな感触だった。 「ぐ、ぐぐぐぅげぇ...ソックスハントのためなら、この体、例え化け物になろうと...」 「――でも竪穴になったら、ソックスハントできないよね」 「え」  変化が止まった。 「だって、竪穴取ったら戦闘以外のイベントに参加できなくなるもん。当然、戦闘イベント以外のソックスハントも出来なくなる...んじゃないの?」 「mjdsk?(まじですか?)」 「知らないけど...どうでもいいし」  煙の向こうで肩をすくめる明日見。  後ろの風紀委員に手当を受けながら首を傾げて、 「それよりね、今、わたし短距離移動、白兵、白兵、白兵で、治療を受けてAR3なの。後ろの二人は短距離と白兵と治療でAR3かしら。この意味わかる?」 「えっ...」 ――akiharu国、風紀委員。  正確には医師+風紀委員会+... 「せ、生徒会役員の能力――」 *生徒会役員は戦闘時AR3以下の際に動員によって任意の評価を×7.59(評価5)補正することが出来る。(食料を10万t消費する)" 「白兵16だっけ? ご立派よねえ。私たちの白兵は、あらあらいくらだったかしらぁ」  含み笑う声。子供らしいかわいらしい声なのに、煙の先のその笑い越えは背筋を凍らせるかのように寒々しい。  青ざめる、装介。  一瞬のひらめき、「ならば」 と、鞭で部屋中の照明を破壊した。 「や、夜戦を入れれば17だっ! これなら!!」  勝ち誇った様子で装介だが、明日見の声のトーンは変わらない、落ちついたモノだった。 「おっけー。認めましょう...ふふふ」  死刑を宣告する裁判官が、もしその場で笑ったならば、こんな感じになるのだろうか。  冷酷に死を告げるかのように、なんの感情もなく、そして果てしなく怖い。 「そ、そうだ略奪系の遺跡、地下補正!!」 「ふうん、ここ地下室だったっけ?」  煙が晴れた。  中途半端に変形したままの装介は、晴れた煙の先でそれを見た。  「ひっ」 顔面を引きつらせる装介。 「か、館長権限で今から秘宝館の名前を秘宝遺跡に!!」 ――メスを闇に輝かせて微笑む、阪明日見。  その瞳が、メスの反射で狂気の色に輝いた。 「通るわけないでしょおがあああ!!!!  死に晒せ乙女の敵いいいい!!!!!」 「ぎゃあああああああああああああああああ!!」  凄惨な悲鳴が秘宝館にこだました。 ――なおこの先の記録は、秘宝館にもakiharu藩国にも残されていない。  よって、装介と明日見が、あるいはソックスハンターと風紀委員が、あるいはソックスがどうなったのかは誰も知らない。どのみちGMすらスルーしている話である。  どうとでもなるのである。望めばソックスはそこにある。  ともあれ、記録は存在しない。白兵25レベルの壮絶な戦いで瓦礫と化した秘宝館の一室だけが、皆の記憶に残るだけであった。 (終わり)
『忌闇装介伝~ソックスハンター外伝~』 /*/ ソックスハンターの在るところ 風紀委員在り。 「本日21:00丁度、小笠原で手に入れし秘宝を頂に参上します 怪盗F」  小笠原秘宝館――ニューワールド中の技族と文族の技巧の粋によって、小笠原の思い出が封じ込められた秘宝館。  そしてその館長、忌闇装介...は、「怪盗F」の冗談めいて書かれたカードを握り、ゴシック体で印字されたその文字を凝視していた。  閉館時間も過ぎて気づくものもいないが、その顔面は蒼白である。 「うそだ! なんであの件がバレるのさ! アレは俺がこっそり...」  荒らげた語気もすぐにしぼんでいく。  作戦はあくまで隠密に行われた。  あまりにも隠密すぎてGMにもスルーされていたはずだった。  それでも作戦は決行され、遂行されたのだった。  装介はソックスハンターだった。  ソックスハンター業界にはこういう言葉がある、 “ソックスハンターの在るところ 風紀委員在り。”  ならば――その逆もしかり!!  そして、akiharu国には風紀委員が存在する。故に、 “風紀委員の在るところ、ソックスハンター在り。”  装介もまたakiharu国に蔓延るソックスハンターの一人であった。  ハントはあくまで隠密に行われた。  あまりにも隠密すぎて、GMに至ってはガン無視だったが。  それでもハントは決行され、小笠原の海水浴場...その脱衣所より藩民とふみこと火焔のソックスを手中にしたのである。あったはずだ。  まあ、多分。設定的にはそれで良いじゃないか。誰も損しないんだし。 「ありえねえ...脱衣場は作戦のどさくさで爆破したし、証拠も考えられる限り隠滅した! バレるはずがないんだよ!」  イライラをごまかすように頭をガリガリ。残りの手首が何もない空間でスナップする  閉館時刻を過ぎての無人の秘宝館を練り歩く。  犯行予告カードが装介のデスクに置かれたのが20時。  今から参謀に警護を要請したところで無理だろう。エントリーすら間に合わない。  1時間で編成ができるモノなら、是非やって貰いたいものだ。 「イベント告知おせえよ、対応できるかこんなモノっ。だいたいそもそも、怪盗Fってなんだ? 第五異星人?なわけないし、それとも泥棒猫――まさか... 猫泥棒は既に藩王の御用達の猫駆除剤によって一掃されたはず。現在この国に登録されている泥棒猫は一人もいない...なら、誰だってんだ!」  靴を叩きつけるように、赤絨毯の上を歩き回る。思考が纏まらない。  内容が内容だ。他の館員に知らせるわけにもいかない。  この危機に瀕し。動ける人員があまりにも少なすぎる。 ――いや、 「いるか――アイロン」  閉館後の闇に落ちた展示室。  その闇に問うかのように装介は訊いた。  返事は数秒と待たずにあった。 「ふふふふ、お呼びですかぁ! チキーーーーン!!」  どこからともなく鴨瀬高次(摂政)の声、見れば手近な展示台に登ってポーズを取っていた。  展示されている像の振りをしていたのだ。  鴨瀬は皺一つ無いマントを広げ、高笑いを上げた。 「ハーーーーハッハハ! ハーーーーーハッッハッッハ!! ソックスアイロン参上!」 「おお、神出鬼没! さすが略奪系摂政!」 「ハーーーハッハ、そこは略さないでプリーズ!」  それにしてもこの摂政、ノリノリである。  それはともかく、堂々たる高笑いに警報装置が惜しみない警笛をあげて応じた。  押し寄せる警備員。世界中の技族の絵を集めているだけあって、特殊部隊顔負けのフル武装である。  あわてて弁明する装介。 「あ~ごめん、この人関係者だから」 「勘弁してくださいよ、館長さん」 「すんませんまじすんません」  警備員が去ったのを確認して装介、安堵のため息。  時刻は20:30分。既に余裕はない。 「フフフフ...さて、チキーーーン。いかなる御用をありがとうございました」 「ええと、あれ? 鴨瀬さんってそういう口調というか、国民設定だったっけ?」 「心配いらず! ソックスハンターは設定をもオーバー越えるのでした!」 「なるほどっ!」  そんなことを言いつつも、歩いている二人。  螺旋階段を昇っていく。  たけきの藩王よりの依頼と書かれた、秘宝館の中でも一二を争う人気のその部屋の横。  その横、「トップページ」 と簡潔に張り紙のある扉を押して、二人は閉ざされた部屋へと入り込んだ。  入室者を感じて、照明が自動で点灯する。両脇に窓があり正面に二枚の絵。それだけの部屋だった。  その絵の一枚...メイド姿の遥とその他大勢の記念イラスト。そこを、装介はじっと見つめている。その視線は絵を見てはいない。絵の方向を向いてはいるが、焦点はその絵の先のものを見ていた。 「ふむ、これはチキン直筆の一枚絵...ここに」 「森の中では木に隠れるべし、そういうことだ」  袖からリモコンを滑らせて絵に向ける。  ボタンを押せば、カチ、ゴゴゴゴという音とともに額縁がスライドしていった。 ベタな装置である。  スライドした額縁から現れたのは――ソックスだった。  丁寧に一枚一枚、まるでそれが至高の宝であるかのように飾られている。  実際、装介にとっては、なによりの至宝であった。 「嗚呼...美しい」  うっとりと装介がため息を漏らす。 「美しいを通り越して神々しい...この建物に飾られている、どれよりも」  ニューワールド中の技族と文族が化けて出そうなこと呟く装介。 「お前もそう思うだろう...チキン」 「なるほど、こんなところに隠していたのね」 「...?!」  振り向くその顔を注射器が通り過ぎた。  鼻先数ミリのところで避けられたのは、勘とmihaダイスのお導きとしか言いようがない――あるいは「それ」 が、ソックスハンターに対して絶大なる能力評価を持つのと同様に、ソックスハンターもまた、それに対して本能とも言える戦闘向上力を持つのかもしれない。  振り返って、展示室の入り口に立っていたのは、鴨瀬(摂政)一人だった。  だが、その鴨瀬の様子がおかしい。 ――笑っていた。不気味に。不適に。 「...この距離で避けるなんてね。藩王特製の強化ドラッグ――避けなければ、何も気づかないまま楽になれたのに...」 「鴨...瀬...? いや、」  気づけば踵を返し、後ろに飛んでいた。  距離を取った装介の両手には鞭が握られている。 ――鞭の達人故の反射行動、半ば無意識に鞭を構え、距離を取っていた。  その鞭で牽制をしながら、いまさら、ようやく、自分が重要なことを見逃していたことに気づいた。  鴨瀬のソックスの色がいつもと違う―― 「――その靴下、その色、柄、臭い――まさか、風紀委員っ!?」 「珍妙な断定をするなっ!!」  叫びと同時、殺気を放ち飛来したのはメスだった。その全てが、急所を狙っている。  装介は放たれた8本のメスの全てを、鞭の一降りでなぎ払った。  そして、 「ぐっ――」  床に落とされたメスと同時、鴨瀬が手を押さえた。  その手から注射器が二つ...割れて落ちる。  鞭は八本のメスを落とすと同時、鴨瀬の注射器(おそらく麻酔入り)を取り出した手首を打擲したのだ。 「く、鞭の達人――まさか、これほどとは」 「鴨瀬...じゃないな。風紀委員の、誰だ...なぜこのソックスを知っている!」 「まだわからない?」 「問答するつもりはない。正体を現せっ」  神速の鞭を振るう装介。動態視の優れた猫ならば見えたであろう。装介の両手に持った鞭の紐がばらけて多条の鞭となって放たれたのが。  9を越える鞭撃(ナインオーバー)の――手首から放たれた鞭が、ソニックブームを起こして鴨瀬の変装を破り捨てる。  現れたのは――少女だった。  装介も知った顔である。彼女は、 「阪...明日見さん?」 「そのとーーり!」 「いやそれ無理がなくなくない? 主に身長的にさぁ」 「うるさいっ、背のことは言うなー」  阪明日見。akiharu藩国1のちびっ子。  そして泣く子も黙る医療系風紀委員である。  鴨瀬の変装を解き放った彼女の腕には「風紀」の二文字のゴシック体が腕章になって見栄を切る。 「はっ、まさかシークレットソックs」 「あるかそんなものーーっ!」 「てか、だいたいなんで猫泥棒でもない風紀委員が変装を!」 「着替えたの!!」 「そんなタイミングねえよ!!」  何故か逆ギレして装介。  しかし明日美は不敵に笑うだけ。 「そう、確かに一見着替えるタイミングはなかったかのように見えるよ。しかし、あったの。お見合いイベントの始まるその直前に、着替えるタイミングがね!!」 「! では、あのとき...」 「そう、こっそり着替えて、そして変装をして、このタイミングでまた戻った! 変装は解かずにね!!」 「なんて奴だ...そこまで暇人だとは。ちびっ子にしておくのが惜しいぐらいだぜ」 「ちびっこいうなー!!」  メスと注射器が機関銃のように矢継ぎ早に飛んでくる。  だが、全ては装介の巧みな鞭捌きの前に撃墜されていく。 (暇人は良いのか。じゃなくて、まずいな...)  いくつもの足音、包囲されている...風紀委員の気配...いや臭い。 「要件はなんだ!!」 「あ、あたしの靴下返しなさい!」  言ってて自分で恥ずかしいのか、明日見は少し顔を赤らめた。  ...なるほど、小笠原イベントには確かに明日見もいた。  そして風紀委員の勘で、ソックスがまだ無事に保管されていることに気づいたのだろう。  あるいは、事実を隠し切れたことによる装介の気の緩みを、感じ取ったのかもしれない。 「怪盗F――つまり風紀委員会か。怪盗を名乗ることで、まんまと自分をお宝の場所に誘導したというわけか」 「その通り。いいからさっさと返しなさい、みんなの分! 全部!!」  小さい手を前に突き出して、びしっと装介を指さす。  装介は毅然とした態度で、答えた。 「断る。持ち主が誰であろうと、一度手に入れたからには俺のソックス、ソックスハンターとして返すわけにはいかん! たとえ寸詰まりのソックスであろうと!!」 「誰が寸詰まりだーーー!!」  機関銃のような攻撃。  いや、本当に機関銃だった。 「どぇわぁああああ!!?」  ブチギレて腰だめに構え乱射している。  以下に鞭の達人とはいえ、さすがに銃弾は撃ち落とせない。 「死ぬ、これは死ぬ!!」  銃の火線軌道とは逆の斜め後ろに飛びながら、鞭を振るう。  音を越えて放たれた鞭が、機関銃を明日見の手からあっさりはじき飛ばす。 「こ、殺す気かよ!!」 「死ね、死んでおけばいいのよ! このっくのっ乙女の敵!変態!変態!!」  銃が手元から消えたせいで、またメスを取り出して喚く明日見。  もともと近距離の素養がないのか下手なのか、銃弾は装介に当たることもなく大きく逸れたが、油断はならない。なにしろ風紀委員には学習能力がある。いや、タイミング的には効果が発動していそうだが、だとしても油断はならない。 「変態じゃねえ! 仮に変態だとしても変態という名の狩人だ!!」 「なおさら変態じゃないのっ!!」  叫ぶ明日見の後方から、風紀委員が2人、機関銃を構えて現れる。 「ころせ! フルバースト!!」 「まじでっ!?」  まじだった、一人の機銃が装介を、残りの一人が装介が移動する可能性の高いポイントにデンジャーゾーンを形成する。なるほど、確実に殺すやり方だった。  銃弾の雨が装介を激しく撃った。 「安心して...死んでも蘇生してあげるから」  もうもうと、銃弾が巻き上げた煙で辺り一面が白くなる。  明日見は、白煙の向こうで機能停止したはずの装介に向かって、優しく微笑んだ。 「へっ、医療系風紀委員の台詞とは思えねえな」 「なっ...んで...?」  驚いている、のだろう。銃弾の巻き上げた煙で何も見えないが、気配で分かる。 「ぐっ。くくく...簡単な話さ。お前さんが猫泥棒に着替えたタイミングで、着替えたのはお前さんだけじゃなかった。ただそれだけのこと、」  明日見には見えたことだろう。  白煙の向こうで揺らぐ人影、その影が奇妙に膨れあがっていくのを。  明日見はその異様な光景に息を飲んでいた。  だが、同時にある「可能性」に思い当たっていた様子だった。 「まさか、“竪穴に封印されし化け物”!!? あなた、正気なの!?」 「くく、正気でこのアイドレスを獲得する奴なんていないさ...」 「そこまでして...」  体格が増幅倍増し、おぞましい姿に変容する。  服を引き裂き、鋭角的な骨格が体を覆っていく。  自分の中の残虐な部分が心の底から表側へ、そして肉体へと介抱されていく、そんな感触だった。 「ぐ、ぐぐぐぅげぇ...ソックスハントのためなら、この体、例え化け物になろうと...」 「――でも竪穴になったら、ソックスハントできないよね」 「え」  変化が止まった。 「だって、竪穴取ったら戦闘以外のイベントに参加できなくなるもん。当然、戦闘イベント以外のソックスハントも出来なくなる...んじゃないの?」 「mjdsk?(まじですか?)」 「知らないけど...どうでもいいし」  煙の向こうで肩をすくめる明日見。  後ろの風紀委員に手当を受けながら首を傾げて、 「それよりね、今、わたし短距離移動、白兵、白兵、白兵で、治療を受けてAR3なの。後ろの二人は短距離と白兵と治療でAR3かしら。この意味わかる?」 「えっ...」 ――akiharu国、風紀委員。  正確には医師+風紀委員会+... 「せ、生徒会役員の能力――」 *生徒会役員は戦闘時AR3以下の際に動員によって任意の評価を×7.59(評価5)補正することが出来る。(食料を10万t消費する)" 「白兵16だっけ? ご立派よねえ。私たちの白兵は、あらあらいくらだったかしらぁ」  含み笑う声。子供らしいかわいらしい声なのに、煙の先のその笑い越えは背筋を凍らせるかのように寒々しい。  青ざめる、装介。  一瞬のひらめき、「ならば」 と、鞭で部屋中の照明を破壊した。 「や、夜戦を入れれば17だっ! これなら!!」  勝ち誇った様子で装介だが、明日見の声のトーンは変わらない、落ちついたモノだった。 「おっけー。認めましょう...ふふふ。ちなみに、白兵17って、生徒会役員の特殊を “入れていない” あたしと同じ数値なのよねぇ」  死刑を宣告する裁判官が、もしその場で笑ったならば、こんな感じになるのだろうか。  冷酷に死を告げるかのように、なんの感情もなく、そして果てしなく怖い。 「そ、そうだ略奪系の遺跡、地下補正!!」 「ふうん、ここ地下室だったっけ?」  煙が晴れた。  中途半端に変形したままの装介は、晴れた煙の先でそれを見た。  「ひっ」 顔面を引きつらせる装介。 「か、館長権限で今から秘宝館の名前を秘宝遺跡に!!」 ――メスを闇に輝かせて微笑む、阪明日見。  その瞳が、メスの反射で狂気の色に輝いた。 「通るわけないでしょおがあああ!!!!  死に晒せ乙女の敵いいいい!!!!!」 「ぎゃあああああああああああああああああ!!」  凄惨な悲鳴が秘宝館にこだました。 ――なおこの先の記録は、秘宝館にもakiharu藩国にも残されていない。  よって、装介と明日見が、あるいはソックスハンターと風紀委員が、あるいはソックスがどうなったのかは誰も知らない。どのみちGMすらスルーしている話である。  どうとでもなるのである。望めばソックスはそこにある。  ともあれ、記録は存在しない。白兵25レベルの壮絶な戦いで瓦礫と化した秘宝館の一室だけが、皆の記憶に残るだけであった。 (終わり)

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