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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/614 - (2011/07/03 (日) 13:12:09) のソース

*ラプラスの神様 1
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『一一一主演、夏の新ドラマ!!マル秘レポート&独占インタビュー』
 先日始まったばかりのドラマの特集記事が目玉らしい、女の子向けの週刊アイドル雑誌を食い入るように読んでいる佐天涙子と、そんな雑誌にはビタ一興味がない御坂美琴は、第一五学区のファミリーレストランにいた。
「くー、やっぱり来期のドラマはアツイですね!!90年代ドラマのリメイクラッシュですって!!あぁ、期待しちゃうなあ…」
 嬉しそうにそう言った佐天が手にしている雑誌に美琴が目をやると、この秋は、昔のヒットドラマを5本もリメイク放送する予定であることがそこに書かれていた。昨年冬に放送された過去作品のリメイクドラマが流行して以来、低調なドラマ業界ではそんな手法が増えていたのだった。
 雑誌に掲載されていた5作品のうちの一つは、早くも先週から放送が開始されている。8月中旬という半端な時期に放送が始まった理由は、先々週まで同じ時間帯に放送されていた同局の夏ドラマが、5話目にしてあえなく打ち切りの運びとなったからに他ならない。
 今秋放送予定の作品の殆どが過去の焼き直しという、昨今のTVドラマの不作ぶりを象徴するような作品群には苦笑するしかなかったが、テレビ業界がどこに需要ありと見込んだのか、作品数だけは妙に多かった。
「う、う~ん…名作とはいえリメイク作品ばっかりほいほい出されると、私は興ざめしちゃうけどなあ…」
「チッチッチ、わかってないですねー御坂さん。乱造リメイクドラマは、あの期待はずれ感が良いんじゃないですか。明らかに劣化したストーリー構成!!中途半端な追加要素!!そして顔が良いだけのアイドル俳優っ!!毎週見終わるごとに昔は良かったなあ…と懐古に浸るのが低予算リメイクドラマの正しい楽しみ方なんですよ!!」
「…そ、そうなの?」
「そうなんですよ!」
 熱っぽくドラマの楽しみ方を語る佐天に、正直なところドン引きの美琴だった。中学生が90年代のドラマを語れることもまた驚きである。
「……それにしても遅いわね。初春さん達」
「まあ、仕方ないですよ。お仕事だし」そう言った佐天は再び雑誌に目を戻した。
 白井黒子と初春飾利はここにはいない。風紀委員の仕事でトラブルがあったらしく、少々遅れてしまうという旨の連絡を、待ち合わせ時間の直前に美琴達は受けていた。それから既に1時間が経過していたが、その後は何の音沙汰もなく、月曜日だというのにやたらと賑わう夏休みのファミレスで二人は延々と時間を潰しているわけだ。
 ショッピング目的で繁華街まで出てきた美琴達だったが、待ちぼうけているとだんだん買い物も面倒になってきた。そんな頃合いである。
「…っていうか佐天さん、わざわざ雑誌買うほど好きなんだ?ドラマの情報なんて今時ネットでいくらでもみれるのに」ドラマの専門誌ではなく、アイドル雑誌を買った理由も美琴にはわからなかった。
「あ、いや、あたしも普段はネットで情報集めるんですけど、ちょっとこの雑誌の占いコーナーが気になって…」
「占い?」
「ほら、これですよ」
 少し照れたような仕草で、佐天が寄越してきたアイドル雑誌には、彼女の言うとおり占いの記事が掲載されていた。しかし、血液型や星座などの占いとは別なようだ。それよりもずっと細かな分類で記事が書かれている。雑誌のおまけみたいな位置づけによくある占いとはどうも毛色が違う様子で、特集でもないのに40ページにも渡って誌面が割かれていた。
「…うわ…なにこれ?……細川十神流占術……?」胡散臭さに美琴の顔が引きつった。そんな名前はこれまで一度も聞いたことがなかった。
「あ、知りません?いま結構話題の占いなんですけど」
「…ううん、全然」
「変な名前付いてますけど、これ人間が占っているんじゃなくて、どこだかいう行動経済学を研究している研究所が開発したスーパーコンピューターで…。えーと…なんたら未来予測演算システム?とかいうのが占ってるんですよ」
 佐天自身もうろ覚えらしく、一体どこが何をしているのか、美琴にはさっぱり伝わらなかった。
「で、そのなんたら研究所が、システムのモニタリングの一環として一般向けに占いをさせてるみたいなんですけど、これがまたよく当たるって評判で…」
 よく読むと最後のページには『提供:細川技研』と小さくクレジットされていた。科学万能の学園都市では、雑誌の占いもコンピューターまかせらしい。
 コーナー最後の頁には、占い師のプロフィールよろしく、演算に使用されたコンピューターのマシンスペックが簡単に開示されていた。紹介は簡単であったものの、相当のコストがかけられた高性能機であることは一目でわかる。だからと言って、美琴はそれに興味を引かれたりはしなかった。
「ふうん。佐天さん相変わらずこういうの好きだね」
「あ~!!御坂さん信じてませんね!?それでも女の子ですか!!ちょっと待ってください。御坂さんの運勢も見てあげますから!!」
 さも興味が無いといった表情の美琴に頬を膨らませた佐天は、勢いよく頁をめくり、美琴の運勢が記載されている箇所をすぐに探し出した。
「どれどれ…あ、すごい!御坂さん今週の恋愛運最高じゃないですか!!」
「えっ?そそ、そうなの!?」恋愛運と聞いた美琴の心は思わず跳ね上がった。美琴の頬が赤くなったのを佐天は見逃さなかった。
「ふふ~ん。気になってきましたかあ?えーとなになに…今週のアナタの恋愛運は最高!!意中の男性から猛烈アタックの予感!!週末には彼からデートに誘われそう!!普段彼の前ではついつい天邪鬼な態度をとってしまうアナタも、今週こそは素直になりましょう。人生最高の幸せが待っているかも!?ラッキーアイテムは…」
 雑誌には他にも勉強運、健康運、仕事運などについてつらつらと書かれていたが、当たると評判な割には結構曖昧な内容である。しかし、内容がどうあれ今の美琴には雑誌を読み上げる佐天の声などほとんど聞こえておらず、関心事は一点に集約されていた。
(アアアイツからデート…?しかも、ももも猛烈アタックって…!?)
「おーい、御坂さん?どうしました?」
「えっ!?あ…いやでも、評判って言っても所詮は占いでしょ?こんなのアテにならないって」
 ハッとしてそう言った美琴は真っ赤になった自分の顔を冷ますように、あわてて飲みかけのジンジャエールを飲み干した。
 オカルティックな事柄に関しては総じて言えることなのだが、美琴が言うように、この手の占いは学園都市では話半分程度にも信用がない。
「えー。だって、なんたら予測演算システムですよ?スーパーコンピューターですよ?」
「……そりゃ易学や占術だって立派な学問だけど、LV4クラスの予知能力者でも正確に予知しようとしたら、数時間先の未来を見るのがやっとって言うじゃない」
 先程は恋愛運と聞いてうろたえたが、美琴は占いというものをそれ程信じていなかった。
 ハイスペックな演算器を用いていようとそれは同じことで、結果をアテに出来るほどの精度があるとは美琴には到底思えないのだ。
 人の運命など、機械の計算で推し測れるものではない、と美琴は常々考えていた。
 あの少年が、あらゆる運命を拳一つで全てねじ伏せてきたのをこれまで何度も見てきたから、未来の予知なんて考えるだけでバカバカしいとさえ思えたのだ。
 きっとあのバカの未来なんて、たとえ「樹形図の設計者」であったとしても予測出来なかったに違いないと、美琴は決めつけていた。
「…む、それならこれから来る初春と白井さんの運勢を見てみましょう。ふふふ…細山なんたら流の真髄をお見せしますよ」
「いや、つか既に名前が――」「むむっ…!!これは、二人ともあまり良くないですね!!」
 夢中で雑誌にかじりつく佐天は、美琴の声など聞いちゃいなかった。
 この場に居ない二人の運勢が彼女によって読み上げられていく。
 意外なことにこの占いは、中々よく当たると言って良さそうだった。

 佐天によって読み上げられた白井の運勢は、お世辞にも良いとは言えなかった。
「えーと…白井さんは、仕事運が急下降の予感。勤務中に大失敗して残業必至です。特に週の始めは要注意!普段なら絶対にやらないミスを連発。それが原因で右腕に切り傷を作ります。この不調は週末まで引きずりそうなので、注意して仕事に臨んでください。感情の波が激しく正義感の強いアナタは、仕事となると冷静さを失いがちです。落ち着いた行動を心掛けましょう。えー、ラッキーアイテムは…別にいいですね。続いて金運――」
 それから、半分位記事を読み上げたところで、佐天は読むのをやめた。
 残りの半分は、運気の上げ方だとか、不運の回避方法などについて書かれていたためだ。それは本人がいない場で読んでもあまり意味がない。
 肝心の占いだが、性格の面で言えばそれなりに当たっているような気がしなくはない、というのが美琴が抱いた率直な感想だった。
 確かに白井は歳の割には大人びているが、冷静さに欠ける部分もある。直情的で、それゆえに風紀委員の仕事でも生傷が絶えない。
 しかし、運勢については一部断定的な表現もあったが、全体から見るとまさに雑誌の占いといった感じの非常にざっくりとした内容である。たとえ結果が外れていたとしても、これなら何とでも言えるのではないか、と美琴は思った。
 佐天は続けて初春の運勢が載っている頁に目を移すと、すぐにあちゃあという顔をして笑った。どうやら、こちらもあまり良くないようだ。
「ぷっ…はははは、白井さん程じゃないですけど、初春も仕事運急降下してますねー。『同僚の失敗に巻き込まれて苦労します』ですって。あはははは!」
「なにを笑ってるんですか佐天さん…」
けらけらと笑う佐天の後ろから、不意に声がかけられた。可愛らしい声の主は、今まさに運勢を読み上げられていた初春飾利だった。
「おっ…初春ぅ!!ようやく来たね、お疲れさんっ!!」
 待ち合わせから遅れること1時間半。ようやく風紀委員の仕事を終えてやってきた。
「すみません。仕事がちょっとバタついちゃって…」
「初春さんお疲れ様。あれ?黒子は一緒じゃないの?」
「白井さんは、仕事でちょっとやらかしちゃって、いま支部で始末書を書いてます。あの様子だと、今日は来れないかもしれないですね…」
 連日勤務が続いていた初春は、少し疲れた様子で簡単に事情を説明してから、席についた。
「あー、それは残念。ちょうど白井さんと初春の運勢を見てるところだったのに」佐天が言葉通り残念そうな声をあげた。
「占い?ああ、その雑誌の。結構評判なんですよね、それ」
 メニューを見て、すぐさまジャンボフルーツパフェを注文した初春は、雑誌に目をやるとそう言った。
「白井さんの仕事運がまた酷いんだコレが。ねえ、初春?その様子だと、結構当たってたり?」面白がって佐天が初春に雑誌を見せながら詳しく訊いてみた。
「それが、今日は酷かったんですよ…」初春の声には、呆れたようなため息が混じっていた。
「おおっ!!なになに?これはやっぱり当たってるんじゃないですか?ねえ、御坂さん!!」
 ぺしぺしと美琴の肩を叩きながら、佐天は視線で初春を促した。嬉しそうだ。
「あ、いえ、業務内容なのであんまり詳しく説明出来ないんですけど…私と白井さんで街の警ら中に能力者同士の喧嘩があったんですよ」
 ここ学園都市では、夏休みの間中、学生同士の喧嘩が絶えない。能力者同士の喧嘩もこの時節にはそう珍しいことではなく、治安維持の要たる風紀委員や警備員は連日大忙しだ。
「そのとき喧嘩をしていた学生二人が、LV3の能力者だったので、私は警備員に支援要請をしようと白井さんに言ったんですが…」
「いつも通り、さっさと一人でぶちのめしちゃったわけね。まったく目に浮かぶわ…」
「まあ、そこはいつも通りなんですけど、今日はちょっとやりすぎちゃったんですよねぇ…。近くにあったお店のショーウィンドウと軽自動車一台を完全に巻き込んで大破させてましたから」
 どうやら、遅れた原因はそこにあるらしい。
―――初春飾利は回想する。

 白井にしてはその日、珍しく苦戦をしていた。喧嘩をしていた相手のうち一人は体躯のいい思考解析系の能力者で、白井の思考を巧みに読み取り、空間移動を利用した彼女の攻撃を躱していた。思考演算によって転移先の座標指定をおこなう白井のテレポートは、相手の能力によって、ことごとく避けられてしまう。
 数分間の戦闘の末、ついに白井がぶち切れた。
 サイコメトラーの能力有効範囲圏外に空間移動した白井は、既に喧嘩に巻き込まれてバラバラになっていた警備ロボットを、遠距離から相手の頭上にテレポートさせ、ようやく学生を取り押さえることに成功した。だが、それがよくなかった。
 警備ロボットを空間移動させた際に、機体の一部が、学生の目の前にあった軽自動車のエンジンを巻き込んだようで、燃料に引火し、爆発を起こしたのだ。
 元々人通りが少ない場所であったため、運良く一般人にケガ人は出ず、破損したものも、爆発した無人の自動車と、近日中にビルごと解体が決まっている空き店舗のショーウィンドウのガラスだけだったため、幸いなことに事後処理にはそれ程時間を要さなかった。
 警備ロボットは巡回テスト中の試験機だったらしく、これについては破損報告の対象外である。製造したメーカがいそいそと回収していくその様子は、見ていて実に気の毒だった。こうもあっさり壊されては、開発者も立場のないことだろう。
 当の学生二人も、間一髪爆発に巻き込まれる寸前で白井がテレポートさせたため、爆発によるケガはなく、夏休み中は病院のベッドではなく、仲良く能力者用の更生施設住まいとなる見込みだった。
――そんな経緯を、業務に差し支えない範囲で、掻い摘んで初春は説明し、丁度運ばれてきたばかりのジャンボフルーツパフェに手を伸ばした。
「――で、今は177支部で固法先輩からキツイお説教をくらってまふ」パフェのアイスクリームを頬張りながら初春は付け加えた。
「成程ね…」それは確かにツイてないとも言えるが、自業自得だろうと美琴は思った。
「まあでも、白井さんも腕にケガをしてましたし、これからは反省してくれると良いんですけどね…」
「えっ!?なに?白井さんケガしたの!?大丈夫!?」佐天が心配そうな声をあげた。
「ええ、といっても大したケガじゃないですから心配無用です」
 そう初春が告げると、佐天は安心したように息をついた。
「あれ……?ちょっと待って、初春さん。黒子がケガしたのって、どっちの腕?」
「…?ええと、右腕です。こう…手首の甲側から肘くらいまで浅く切ったんですよ」
 半袖の制服からのぞく細い自分の右腕に、左の人差し指をあてて、白井がケガをしたという場所をなぞりながら初春は説明した。爆発時に飛び散ったショーウィンドウのガラスの破片で切ったらしい。
「右腕に切り傷…?」美琴が呟くと佐天も気付いたようだ。先程、彼女自身が読み上げた占いコーナーにもそんなことが書かれていた。
「…!!御坂さん、すごい!!やっぱり当たってますってコレ!!見たか初春!細山なんたら流の真髄を!!」
「…え?え?なんですか?さっきの占いの話ですか?」
 佐天は興奮して勢いよく立ち上がり、初春の手をとりきゃあきゃあと騒ぎ出した。ファミリーレストランの客が、一体何だとこちらを伺っている。
『右腕に切り傷』『仕事運急降下』『残業』いずれも雑誌の占いコーナーに書かれていたことだった。初春についても、『同僚の失敗に巻き込まれる』という点で的中している。
(え…いや、ちょっと待って。…ということは、もしかして…?)
 美琴がそう考えた瞬間だ。佐天がニヤリとした笑みを浮かべた。
「わー。でもいいなあ。御坂さん、今週の恋愛運最高だったじゃないですか。『意中の男性から猛烈アタック!!』ですって。ひゅーひゅー!うっらやましー」
「……へっ!?え、ででででも、こ、この程度じゃデータが足りないっていうか、偶然ってこともあるでしょ!?」
 佐天の入れてきた茶々に美琴は耳まで赤くさせられた。
「フフフ…御坂さんの言うとおり、確かにこれはウィークリーの占いなので、それほど詳しい情報は載っていません」それに雑誌媒体という関係もあり、掲載される情報にも限りがある。
「しかし、ここに雑誌と同じエンジンを使用した占い情報サイトがあるのです!!」
 閉じられたままの二つ折りの携帯を美琴の眼前に突きつけて佐天は言った。じゃじゃーんと自分の口で付け加える演出も忘れない。
「ここならば、占いはデイリー更新。誌面上の文字数制限も無いため、情報はより詳細です…その上、分類の更なる細分化により精度は桁違い!!」
「……!!」
 昼間の通販番組のような軽やかなセリフ回しだった。放っておけば勝手に布団圧縮袋くらい付けてくれるのではないか、と初春は思っていた。
「メルマガ登録すれば、毎日朝イチで詳しい運勢情報が届きます。…さあて、御坂さ~ん?どうしますう?」ニヤニヤしながら佐天が言った。
(わあ、佐天さん楽しそう)
 美琴のほうはすっかり飲まれてしまったようで、顔を真っ赤にしたままオタオタとしていた。佐天や初春から見ても、女としてちょっと悔しいくらい可愛らしい反応だった。
 やだなあ、そんなにイジッて欲しいんですか?御坂さん、と佐天と初春は心の中で同時に思った。
「ちょ…でででも私は、登録とか…そこまでしなくても…。そ、それに、いま私にすすす好きな男なんて…」
「あ、でも、これを逃したら一生ないって書いてありますよ。ほらここ」
「うそッ!?」
 美琴は初春が手にしていた雑誌を受け取った。慌てて受け取った自分の手が震えているのが恐らく彼女にも伝わったはずだ。
 先程は佐天によって読み飛ばされていたが、雑誌にはいかにその男性との出会いが運命的なものであったかが綴られており、文末には確かにこれが最後のチャンスであると書かれていた。
 バカバカしいとは思ったものの、こんな書き方をされては、信じないわけにはいかなかった。
「……登録しときます?」
嫌味の全くこもらない爽やかな口調で、ニッコリと佐天は美琴に訊いた。美琴はこんなに晴れやかな佐天の顔は見たことがない。
「…………………………………………………………………………………………。」
「おや、しないんですか?」


「………………………………………………………………………………………………する」
散々迷ったような素振りでうつむきがちにそう答えた美琴は、すがるような手つきで先程まで読んでいた雑誌をギュッと胸に抱え込むと、眼前に突きつけられた佐天の携帯に向かって、そっと震える右手を伸ばした。
「おーっと。ダメですよ、御坂さん!!もしや、この人生バラ色確実の超重要情報をタダで手に入れようと!?」
佐天は美琴の手が届く寸前で、ヒョイっと自分のポケットに携帯をしまいこむと、またニヤリといじわるな笑みを浮かべた。
「……!!?」
(うひゃあ、佐天さん、今日は攻めるなあ)
美琴は少し涙目になってきた。傍観している初春は内心笑いが止まらないようで、表情を顔に出さずにいるのが辛そうだ。
「くっ…何が目的なのかしら?」
「いえいえ、目的なんて。そんなに難しいことじゃないんですよ。やっぱり恩ある御坂さんの恋ですし、あたしらも応援したいわけです」
面白半分ではあるが、これは佐天の本心だった。美琴には命だって救われたのだ。美琴に対する感謝は誰よりも大きいつもりだった。
「そうするとやっぱり、好きな男性の名前くらいは知っておきたいじゃないですか?」
「~~~~~~ッッッ!!」
これでもかというくらい真っ赤になった美琴の手から雑誌が滑り落ちた。発せられた声はかすれきっており、佐天も何を言っているのか全然聞き取れない様子である。先程ジンジャエールをひといきに飲み干したばかりなのに、美琴の喉はもうからからだった。
(おお…そういきますか。やるなあ佐天さん)
さり気に巻き込まれた初春だったが、感心したように頷いていた。
「これから微力ながらもご支援させて頂くために是非っ!!」
「………………な…なまえ?」
「そ…そう、名前!!」
美琴の狼狽ぶりは、訊いている方の佐天まで緊張するほどだった。
目線を自分の膝の上に落とし、しきりにまばたきを繰り返している。指をもじもじと弄り黙り込むその姿は、学園都市に七人しかいない超能力者にはとても見えない。
からからになった喉で、美琴は振り絞るように声を出す。ここで覚悟を決めなくては一生後悔するかもしれないと、そう思っていた。
大袈裟かもしれないが、美琴にとって問題は深刻なものになっていた。
「…………………と…とと……とう……」
「…とう?」
 とうとう観念して話す気になった美琴は、ぼそぼそとした声を出した。
ゴクリ…と生唾を飲み込み、佐天は続く言葉を待っていた。手のひらに汗が滲むのを彼女は感じていた。

「………とう………………………………………………………………………………ぐすっ」
「へ?」
 美琴は泣き出す一歩手前だった。
(―――ッ!しまった!!やりすぎた!?)
(えぇーっ!?いやいや、小学生ですか御坂さん!!)
 目に涙をいっぱい溜めながら、美琴はなんとか言葉を紡ごうとした。
 普段の彼女ならば、ここまで追いつめられることはないだろう。最後のチャンスという言葉が効いているのだ。からかい半分でつついてみた佐天と初春も、これにはさすがにうろたえた。
 そんな美琴の必死な姿に罪悪感をおぼえた佐天は、落ち着きを取り戻すため、ふう、と短く息を吐いた。こんな顔をされたら見逃してやるしかないではないか。
「……ところで御坂さん、その占いだと、あたし今週、金運が最高なんですよ」
 ニイっと笑いながら言う佐天に、俯いていた美琴はゆっくりと視線を合わせた。
「この場は御坂さんのおごりというなら、特別に教えて差しあげましょう」
 ウインクをしながら告げられた佐天の申し出に、美琴は無言で首を縦にふった。
「ふふっ…まいどありー!!」
 それから佐天は遠慮なくチーズケーキを追加注文した。
 ドリンクバーケーキセット980円と引換に、美琴は占い情報サイトのURLゲットに成功したのである。
「いやあ、今日は本当に運がいいなあ」
 ニコニコと満足そうにそう言った佐天の占い結果も、的中したと言って良さそうだった。

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