とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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新年早々不幸?な二人




1月1日、年が始まるその日に、学園都市内のとある神社には大勢の学生が初詣に訪れていた。
その中で一人、暗いオーラをたたずませている少年がいた。

「はぁ、新年からこれかよ……不幸だ……」

その少年、上条当麻は一人でため息をついていた。
これまでの事を思い返してみる。親元から送られてきた新品の袴を着て、居候をしているインデックスと共に初詣に訪れたまではよかった。
今年こそは、と意気込んで引いてみたおみくじが悪かったのだろうか。
当然のごとく大凶が出現し、気がつけばインデックスはいつの間にか合流していたクラスの担任の先生、その他数名の知り合いと共に、食べ放題の店に旅立っていた。
(先生が福引で当てた食べ放題券の枚数が、ちょうど上条を除く女性陣の人数と一致していたのだ。なお、その場にいた男性は上条のみである)

一人残され暇になってしまったため、お参りだけやってから帰ろうかと思っていたところで、上条は知り合いの女性を見つけた。
御坂美琴。名門常盤台中学に通うその少女は、いつも来ている制服ではなく、赤い下地に桜の花をなぞらえた、鮮やかな振袖を身に着けていた。

彼女の普段の姿とのギャップに加え、振袖姿があまりにも似合っていて可愛らしかったため、上条はしばらくその姿に見入ってしまった。
やがて、美琴の方も気付いたようだったので、上条は声をかけることにした。

「よ、御坂」
「あ、やっぱりアンタだったんだ」
「やっぱり?」
「だって、なんか見慣れない格好してたから。なんか違和感あって」
「上条さんだってたまにはこういう服も着るんですよ」
「ふうん……ま、まあ、わりと似合ってるんじゃない?」
「そいつはどうも」

美琴はそこで言葉を切り、何かを期待しているかのような様子で上条をチラチラと眺めていた。

「お前も今日は制服じゃないんだな」
「ま、まあね」

美琴の期待通り、上条が振袖姿に関心を向けてくれたため、美琴は胸を高鳴らせながら上条の感想を待っていた。
無意識のうちに腰に手を当て、ちょっとしたポーズをとってしまっている。

「そういや、お前も初詣なんだろ?」

しかし、その期待は見事に裏切られた。上条は別の話題に移ってしまう。

「……はぁ。そうよ、何か文句ある?」
「いや、ないけど……なんで急にため息?」
「なんでもないわよ」
「そ、そうか……ああそうだ、俺まだお参りしてないんだけど、お前もまだなら一緒に行くか?」
「……行く」




二人は歩きながら、今日の事を話していた。
上条と会った時、美琴は一人だったが、来た時はそうではなかったらしい。
一緒に来ていた2人が先ほど風紀委員の急な仕事が入ったため、急遽呼び出されてしまったということだった。
なお、本当なら更にもう1人いるはずだったが、風邪でこれなかったのだそうだ。

「はは、新年早々そりゃついてねえな」
「全くよ。これじゃアンタを笑えないわね」
「……」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「アンタこそ、一人出来たの?」
「……ああ、実はな」

上条は正直に今日の出来事を話した。
ふと美琴の表情を見てみると、いつの間にか視線が非常に険しくなっている。
自分を置いて行った連中に対し、怒っているのかと思う上条だが

「ふーん、そんなにいっぱい女の子に囲まれてたんだ」
「そこかよ! 一人残された俺に同情してくれてもいいだろ!?」
「なんか、あんまり同情する気になれないのはなぜかしらね……」
「うう、不幸だ……」
「はぁ……今までさぞいっぱい振袖姿の女の子を見てきたんでしょうね。……私のは眼中に無いってことか」
「ん?」

最後の方は上条に聞こえないように小声で嘆いたつもりだったが、どうやら聞かれてしまったようだった。

「振袖か、いや、今日見た中ではお前のが一番だぞ?」

上条のその言葉を聞いた瞬間、美琴は固まった。
上条も言った途端恥ずかしくなったようで、

「あ、ああ、あくまでも振袖がだからな!」
「そ、そうよね! これすっごく気に入ってる奴だし!」

本来なら聞き流せない上条の発言ではあったが、その前の不意打ちの余韻が残っている美琴には気にならなかった。
また、上条の焦り方からも、振袖だけの評価ということが嘘である事は明白である。
美琴は頬が緩んでくるのを隠すために、上条に背を向けた。

「御坂?」
「ちょ、ちょっと待って!」

美琴は必死に普通の表情を作ろうとするが、なかなか上手くいかない。

(もう、あんな一言だけで何を浮かれてるのよ私は……)

何か気を紛らわすものはないかと美琴が周囲を見回していると、おみくじをやっているのを発見する。

「あ、おみくじ」
「……あー、おみくじですね」

何か嫌な事を思い出したかのように、上条のテンションが下がっていた。
ふと別の話題を発見し、落ち着きを取り戻した美琴は、上条の方に向き直った。

「大凶って私見たことないのよ。アンタさっき引いたんでしょ? せっかくだから見せてよ」
「あんなもんすぐに捨てたわ!」
「えー……」

心の底から残念そうにする美琴。少し考えたあと

「ねえ」
「ん?」
「アンタさ、もう1回大凶引ける自信ある?」
「……鬼かお前は」

・・・




「おっ」
「……うげ」

やや嬉しそうな反応をする上条とは対照的に、美琴の目の前のおみくじは「凶」を告げていた。

健康×……大怪我をする可能性あり、要注意
金運×……大損をする危険あり。周囲の人間に気をつけること
学業△……予想外の妨害が入る可能性あり、日頃から備えておくこと。友人の力を借りれるなら借りるべし
恋愛△……あなたの努力次第。好機は少ないが、勇気を持って一歩踏み出すことで道が開ける

(うわー、これは酷いわね……でも、恋愛運はまだいいほうかな……)

おみくじの内容を一通り読み終わった美琴は、上条のおみくじの結果を聞こうとする。
先ほどの反応から察するに、残念ながら悪い結果ではないのだろうが。

「アンタは何が出たの?」

すると、上条はなぜか誇らしげに「ほれ」とおみくじを美琴の目の前に差し出した。

「……凶って書いてあるように見えるんだけど、なんで喜んでるの?」
「いやー、大凶じゃないって凄いことじゃないかと」
「私、凶で喜ぶ人間を始めて見たわ」
「ま、まあ内容もそれほど悪いこと書かれてなかったしな」
「そうなんだ、どれどれ……あれ?」

上条のおみくじの内容は美琴が引いたものと全く同じだった。

「へぇ、珍しい事もあるもんだな」
「そうね、同じ凶でもいろいろあるでしょうに」
「そうだな……」

二人の会話が一旦途切れる。
美琴の頭には、さきほどのおみくじの内容が浮かんでいた。

(勇気を持って一歩踏み出す……)

そんなとき、上条がふと呟いた。

「勇気を持って一歩踏み出す、か……」
「えっ!?」
「い、いや、なんでもない……」

思っていたことと同じ内容が、上条の口から出てきたため、美琴は一瞬混乱した。

(勇気か……たしかに今はチャンスなのかもしれないわね)

さきほど聞いた話から推測すると、上条にこれからの予定があるとは考えにくい。
今なら遊びに誘っても、案外成功するのではないだろうか。
おみくじを信じるわけではないが、このようなチャンスがまた訪れる保障も無い。
そう思って、美琴は上条に声をかけようとする。




「ね、ねえ「なあ」」

タイミング悪く、二人の発言がかぶってしまう。
美琴は躊躇したが、上条はそのまま言葉を続けた。

「お前さ、今日暇なんだろ?」
「う、うん……」
「俺も暇になっちまったし、せっかくだからこの後、ちょっとそこらを回ってみないか?」

上条からの突然の申し出に驚く美琴。上条の表情をよく見てみると、目線が少し逸れていて、若干照れくさそうな表情をしていた。
どうやら自分の言葉がデートを意味していることは理解しているようだ。
美琴にとっては願ったり叶ったりなので、すぐに賛成の返事をする。

(コイツから誘ってくれるなんて……夢じゃないわよね……)

念のため、美琴は自分の頬をつねってみた。夢ではないようだった。

「御坂、なにしてんだ?」
「な、なんでもない。気にしないで」

美琴はいったん深呼吸をする。

(勇気か……ひょっとしてコイツはさっきのおみくじを見て……なんてのはさすがに考えが甘いか。
 ……私はまだ何もしていない、勇気を出さなきゃ……)

そして、美琴は少し考えこんだ後、意を決したかのような表情で上条のすぐ隣に並び、自らの腕を上条の腕に絡ませた。

「さ、行きましょ」
「み、御坂さん?」

さすがに上条も戸惑ったのか、素直にそのまま歩き出してはくれなかった。
その反応は美琴も想定していたため、取り繕う言葉も「人ごみではぐれるかもしれないから」「寒いから」などと、いくつか用意してあった。
しかし、いざ腕を組んだ後では美琴も緊張してしまい、結局、

「……ダメ?」

と、頬を赤く染め、不安げな表情で上条に尋ねただけだった。
しかし、それは上条には十分効果的だったようだ。

「い、いや……ダメじゃない」
「そ、そっか……よかった」

そして、二人はたどたどしく歩き出した。
その日は、ぎこちなく腕を組んだ2人が、学園都市のそこら中で目撃されたという。








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