とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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初恋同士の恋の詩



 学園都市第7学区にあるとある寮。
 そこに住む上条当麻は何やら最近になって思いつめる事が多くなっていた。
 ぼーっとする時間が多いせいか、料理には失敗するし、授業では先生にチョーク投げられるし、街ではスキルアウトのお兄さん達に
 からまれまくるし。とにかく何をやるのも上の空だった。
 しかし、そんな上条もある人物の前だけ反応を示す。それは――

「ちょっとアンタ! さっきから何ぽけーっとしながら歩いてるのよ!」
「あ…み、御坂」
「ん? ど、どうしたのよアンタ! 顔真っ赤じゃない!! 熱でもあるの!?」
「ちょ…熱なんかねえよ! か、顔! 顔近い!!」
「あ、…ご、ごめん」

 彼女は御坂美琴。学園都市で5指に入るお嬢様学校常盤台中学のエースでレベル5の第3位。
 そんな彼女が上条に気さくに話しかけてくるのは、とある事件で上条が美琴の事を救った事から始まったのだが。
 美琴はその一件から少しずつ上条に惹かれていった。
 そして最近になって、普段は自分の想いも分からなかった彼女だが、上条に自分だけの現実を揺るがすくらいの恋をしている事に気付いたのだ。
 しかし気恥ずかしさか、今の関係が壊れてしまう恐怖からかわからないが、いつまで経っても素直になれなかった。
 色々上条に対してそれらしいアプローチはしているのだが、鈍感大魔王の上条は美琴の想いに気付かない。
 最近になって減ってきたが、以前は事あるごとに上条を目の敵にしビリビリと電撃を浴びせられていた。
 もちろんこれは、美琴の『かまって欲しい』の表現なのだが、面と向かって言い出せない。
 そんな事が色々とあったのだが、その上条が最近になって美琴の事を過剰に意識し始めてきた。
 以前の美琴の様に胸がもやもやしているのだ。これが恋なのか女性を好きになった事がない上条には分からない。
 ただ、美琴を見ると顔が熱くなるし、美琴と遊んでいると時間はあっという間に過ぎてしまう程面白い一時を送れる。
 上条は上条なりに、美琴に対して好きかどうか自分でも分からないようなアプローチをしている。
 手を握ったり、頭に手を置いて撫でたり。
 このもやもやした感情がない時はこんな事たいした事なかったが、美琴を意識し始めた上条にとっては顔を真っ赤にしるほどのものだった。
 だが、そんな上条にとってはうれしくない誤解があり、アプローチをしたら美琴は必ずと言っていい程漏電し出す。
 上条はこの漏電を、以前の出会い頭に電撃を浴びせるという風に捉えてしまい、自分が美琴に近づけば近づくほど美琴に毛嫌いされると
 誤解してしまって、その先のアプローチまで至っていないのだった。

「あ、あぁ。俺の方こそ…ごめん。やっぱり何か病気みたいかもしれない。顔が熱いし、胸痛いし」
「え…? 病気? じゃ、じゃあこんな所にいちゃダメじゃない! ほら。アンタの寮まで送ってあげるから掴まりなさいよ」
「………………えっと、御坂さん? 掴まれとは?」
「病気でダルいんでしょ? だから肩貸してあげるって言ってんの!」
「かっ、かかかかか肩ぁ!? い、いえいえいえいえいえ!! そ、そんな事したらまた悪化するというか近くなるけど遠くなると言うか!」
「……はぁ!? アンタほんとに大丈夫!? 最近変よ? …、もしかして何か隠してるわけじゃないでしょうね?」
「なっ、何にも隠してない! と、ととととにかく何でもないから! それじゃ!!!」
「あっ! ちょ…アンタ! 待ちなさいよ!!」

 上条は美琴の申し出を断り、光の速さで逃げ出した。超電磁砲も光には追いつけないのだ。
 この上条の逃げるという行為は、美琴の漏電の様なもので、この事にも美琴は悩んでいた。
 美琴も過剰に上条とスキンシップを取ろうとすると、上条は慌てて逃げ出してしまう。あまり親しくするのは迷惑なのか、と。
 もちろん上条にとっては照れ隠しなワケで、そんな迷惑なんかとは全然思っていない。
 そして、その場に残された美琴は「ちぇ。何よアイツったら…人の気も知らないで」といい自分の寮へと戻っていった。

 上条は顔を真っ赤にしながら走っている。
 途中、なんか最近会ったスキルアウトのお兄さんに声を掛けられた気がしたが、そんな声なんか聞こえないくらい頭が美琴の事でいっぱいだった。

「か、肩に手を回すって事は…その、抱きつくって事だよな。……あぁ、素直にしてもらうんだった………じゃない! 死ぬかと思った…」

 上条は寮まで帰ってくると一気に部屋に駆け込み、ドアを閉めて息を荒げた。
 顔は真っ赤で、頭の中はさっきの映像がフラッシュバックする。

「はぁ…」
「ん? あ。とーまおかえりー」
「おぅ、ただいま。インデックス」
「…? どうしたの? 顔真っ赤だけど」
「え!? そ、そんなに真っ赤か!?」
「うん。恋する乙女が想い人に迫られた時みたいに真っ赤なんだよ」

 インデックスは妙に核心突いた言い回しをしてくる。
 それもそのはずで、最近の上条は誰が見ても変だった。何をやるにも上の空だし、話しかけても生返事ばかりで。
 これは恋に敏感な高校生、中学生ならまだしも、恋に疎い小学生でも気付くであろうレベルだった。

「―――で。とーまはどこの誰にその心を奪われちゃったのかな?」
「……………恥ずかしくて言えません」
「まっまさか…私!?」
「それは違うと言い切れます」
「むぅ! そこまでハッキリ言われたら流石に傷つくんだよ!……あぐっ!」
「ぎゃああああああっ! い、インデックスさん、すみませんでしたーーーッ!! 頭噛み付かないでぇぇぇぇ!!!」
「ほーまふぁほっほほんなほころほふぁんふぁえないふぉいふぇないふぁよ!(とーまはもっと女心を考えないといけないんだよ!)」

 インデックスの噛みつき攻撃によりダメージをうけた上条は鬱な表情で夕食の準備に取り掛かる。
 しかし、ここ最近まともな料理が出来ないためか、軽く作れるものが多くなってきた。
 そんな料理でもインデックスは美味しそうにバクバク食べる為、上条はその時だけは美琴の事は忘れ溜息を吐きながらも笑ってしまう。
 それで夕食も食べ終わり、食器を流し台に持っていった時インデックスが「さっきの続きだけど…」と言い出した。

「とーまはもっと真っ直ぐ向き合うとおもってたよ」
「……なにが」
「好きな人にはハッキリ好きっていうと思ってたって言ってるんだよ」
「…」
「何か言えない理由があるの?」
「それは……」
「私はとーまより全然年もいってないから偉そうな事言えないけど…苦しいならいっそその思いを相手にぶつければいいと思うよ」
「……そ、そんな…こと」
「たとえ相手がとーまを拒絶しても、私が慰めてあげるんだよ。なんて言ったってシスターだからね。ちょっとくらいなら力になってあげられるかも」
「インデックス…」
「居候してる身だからね。なにかの役に立ちたいんだよ。私も」
「ありがとな。インデックス…。そうだよな、いつまでもこのままじゃいけないよな」
「そうだよ。真っ直ぐ進んだ方がとーまらしいかも」
「あぁ」

 上条はその後またありがとうとインデックスに言って頭を撫でた。
 インデックスはいいんだよーと気持ちさそうに撫でられている。そんなインデックスを見て上条は小さく笑い、着替えとタオルを持って
 風呂場へと消えていった。
 上条の背中を見送ったインデックスは小さく、本当に小さく言葉を漏らした。

「とーまにそこまで好かれるなんて、その子は幸せすぎるんだよ」


 美琴は常盤台の女子寮に帰ってくるなり、シャワーを浴びて夕食を済ませた。
 そして自分の部屋、208号室に帰ってくると一直線にベットに倒れ込んだ。208号室は相部屋なため、もう一人白井黒子がいるのだが、
 そんな倒れ込んだ美琴に白井は心配そうに声を掛ける。

「お姉さま? お体でも優れませんの?」
「んー? んーん。全然平気。ありがとね」
「それならいいんですが、黒子に出来る事があればなんなりとお申し付けくださいですの」
「うん」

 会話が終わると白井は風紀委員の仕事が残ってましたのと言い、机に向かいパソコンで作業をし出した。
 お嬢様の寮だけあって周りには騒がしい音が無く、今は時計が時間を刻む音と、白井がキーボードを打つ音しか聞こえない。
 耳を傾ければ自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい静かな、夜だった。

「黒子」

 美琴は枕に顔を埋めたまま白井に語りかけた。
 白井も一回は美琴の方を見て、何でしょうか? と言ったが美琴が伏せていたために、目を見て話せない事なのだと思いパソコンに視線を戻す。
 そしてキーボードを打つ音が聞こえてきたのを確認すると美琴はまた言い出した。

「気付いてるかもしれないけどさ。私…好きな人がいるの」

 美琴のその言葉に白井は一瞬キーボードを打つ手を止めたが、また打ち始めた。

「そんな事、とっくの大昔に気付いておりましたわ」
「………そっか」
「お姉さまは素直じゃありませんものね。でもこうして黒子に言い出した事は大きな進歩ですわ」
「もっと反対って言うか…色々言われるかと思った」
「確かに言いたい事は沢山ありますわ。でもお姉さまもそんなになるまで悩んでるんですもの、黒子は反対なんて出来ないじゃありませんの」
「…」
「お姉さまは―――」
「ん」
「お姉さまは黒子の、大切な大切な『親友』ですから」
「ありがと。…なんか、……はは」
「お姉さま?」
「先輩の面子丸潰れね」
「親友の前なら弱みを見せてもいいじゃありませんの。いつも常盤台のエースとしてのお姉さまじゃ頼る相手も少なくなってしまいますでしょう?」
「………ありがと。ほんとに」
「いえ。それにお姉さまは悩むよりまず行動…という性格だと思ってましたわ」
「…そう、よね。こんな悩んじゃって私らしくないわよね」
「超電磁砲の様に、真っ直ぐに…ですわ」
「うん。ありがとね黒子…私、あんたの事誤解してたわ。とてもいい子だったのね。もっと変態だと思ってた」
「いやですわお姉さま。黒子が変態だなんて。ところでその想い人の前に、わたくしに貞操を捧げる気はございませんの?」


 翌日。学校が終わり、下校中の上条当麻は溜息を吐いて歩いていた。
 今日も今日で授業中ぼけっとしてしまい課題プリントを沢山出されたからだ。そんな上条を見かねて委員長の吹寄が気合の説教1時間コースを実施。
 終わる頃には完全下校時間が近くなっており、上条と吹寄は下校すると、明日からはシャキっとしろよ! と言い残し吹寄は去っていった。
 上条は夕食の材料を買わなくてはいけなかった為に、最寄のスーパーまで足を運ぶ。
 しかし時間帯がずれていたのかタイムセールは終わっており、今日特売であった物が置いてあったらしき場所には『完売しました』の
 札が貼ってあった。

「不幸だ…」

 上条がその言葉を漏らすと、後ろから背中を思い切り叩かれる。
 こんな事をするのはデルタフォース所属の土御門か青ピくらいだが、この時間にスーパーにいるはずがないのでそれ以外の人物。

「よぉ御坂。いきなり背中ど突くのはやめてくれよ。ビックリして心臓止まりかけた」
「何言ってんのよ。あの電撃でも止まらなかったアンタの心臓は、これくらいじゃビクともしないでしょ?」
「おまえな…」
「えへへ」

 上条は美琴の笑顔を見ると途端に胸の中にある何かに駆られる。
 それはとても苦しく、とても熱いもの。
 上条はこの苦しみの正体が分からなかったが、苦しみを抑える事は出来ずに美琴に言った。

「……御坂。この後時間あるか? 下校時間過ぎちゃってるけど」
「へっ? こ、この後……う、うん。別にいい……けど。何かあるの?」
「ちょっと最近悩んでる事あってさ。御坂に色々聞いて欲しいんだ」
「……………驚いたわね。アンタでも悩む事あるんだ。まぁ、そういう事ならこの美琴先生にお任せね。何でも相談しなさい」
「恐れ入ります。美琴先生」
「ッ―――」

 美琴は自分で美琴先生と言っておきながら、その言葉を返されると顔を赤らめて俯いてしまう。
 上条は夕食の材料を買い物を始める。その材料は野菜や肉など。この後に訪れるであろう美琴に対する思いの打ち上げで、
 この苦しい気持ちが消えるであろうと確信したのか、久しぶりに本格的な料理をするため材料を買っていった。
 美琴はそんな買い物をする上条を隣でぽけーっと見入っている。


 そして会計を済ませた上条たちは自販機のある公園へ向かう。
 その間上条は今日学校であった事を美琴に溜息混じりに話すと、美琴は自業自得よと手厳しいお言葉を言い放った。
 公園に着くと、上条は美琴をベンチに座らせ、自販機でジュースを買ってきた。
 買ってきたのはザクロコーラとヤシの実サイダー。

「ほい。ヤシの実サイダー」
「…たまにはザクロコーラがいいな」
「へぇ、珍しいな。いつもサイダーなのに」
「アンタはいつもコーラよね。それで美味しそうに飲んでるから私も飲んでみたくなっちゃった」
「ふーん。まぁいいや。ほらよ」
「ありがと」

 美琴は上条からザクロコーラを受け取ると、その栓を開け一口付けた。
 そんな美琴を見て上条もヤシの実サイダーに口を付ける。

「…そんな美味しくないわね、コレ」
「そうか? 俺は好きだけどな。サイダーは美味いな」
「……ねぇ」
「うん?」
「やっぱそっちがいい」
「ブホッ!!」

 美琴はザクロコーラを両手で持って顔を赤らめながら、上目使いでねだってきた。
 美琴の事を意識している上条にはキツすぎる行為で、もう有無を言わずに真っ赤な顔を伏せ、ヤシの実サイダーを差し出した。
 受け取った美琴もさらに顔を伏せザクロコーラを上条に渡す。
 共に想い人の口を付けた缶ジュースを持っているため、その後どうすればいいのか分からなくなっていた。
 相手から先に飲んでくれればこっちも踏ん切りつくのに、といった牽制のし合い。
 しかしさっきの美琴がどうしても頭から離れないのか上条は全く動かない。
 美琴も美琴で動けなかったが、この空気に耐え切れず先程のスーパーでの事を話し始めた。

「…で。な、なにかしら? 美琴先生に相談事って」
「あ、……あの。その…えっと……」
「んー? やっぱり言えなくなった? そんなに顔真っ赤にしちゃって。さぞ恥ずかしい事なんでしょうけど」
「う…」
「へ? そ、そうなの!? あ、ご…ごめん。話づらくなるような事言っちゃって…」
「………いや、いいよ。俺がハッキリしなかったのがいけなかったんだから」
「そ、そう?」
「じゃあ言うぞ?」
「ど、どうぞ」

 上条は美琴の隣に座ると一回大きく深呼吸をした。
 美琴は上条が隣に座ってきたので緊張を解すために深呼吸した。
 そして―――

「俺さ、もしかしたらおまえに恋したかもしんねぇんだ」
「……………………は、…い?」
「この気持ちが何なのか、俺分からないんだよ。胸が苦しいっつーか。おまえを見ると体温上がるっつーか」
「え…あの、ふぇ? わ、私…?」
「これ恋なのか…御坂。おまえ今まで恋した事あるか? この苦しみ何なのか教えてくれよ!」
「わ、私だって恋した事くらいあるけど……えっと、それは」
「さ、さすが美琴先生だ。…で?」
「そ、そうね。たっ、たたた確かにそれは…こ、恋かもしれないわね。私を見たらドキドキしちゃうんでしょ!?」
「そうなんです…」
「そっかそっか。えへへ、なんだそうだったんだ…。えへへへ」
「なるほど。やっぱり恋だったのか…。いやー、気分晴れた。ありがとな、御坂!」
「ふぇ!? そ、そんな…いいよ。わ、私も…その…気分晴れたし」
「よっしゃ! じゃあ俺もう帰るな! 今日は気合入れて夕食つくれそうだぜ!!」
「そっそうね。夕食は気合入れて作らなきゃダメよね……………………………………って、はい?」
「ありがとなー。今度何か奢るからさー」
「ちょ! ちょっと待ちなさいよ! アンタ私の返事聞かないの!?」
「いいよー。俺この気持ちが何なのか知りたかっただけだしー。それに早く帰らないとインデックスに何されるか分からないしなー」
「な、に……を」
「じゃ、またなー」
「考えとるんじゃおのれはあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああす!!!」

 美琴は上条の小さくなる影に向かって電撃をお見舞いした。
 どうやら右手にかき消されたらしいがそれなりの恐怖を与えたようだ。

「あ、アンタね! 自分の気持ち言うだけ言って帰るってどういう神経してるのよ!!」
「はぁ…はぁ…し、死にかけた」
「ちゃ、ちゃんと私の返事も聞いてもらうわよ!!!」
「わかった。わかったからもう電撃は止めてくれ。本当に死にそう」
「わかればいいのよ。じゃあ言うわね? じ、実は―――」
「っとその前に!」
「……な、なによ?」
「俺の家で言ってもらってもいい? インデックスが飢えてペットの猫食いかねない」
「…うふ♪」
「あ、あれ…御坂さん? な、なんで眉をひそめながら笑ってるんでせうか? 笑う時はさっきみたいに、えへへと笑ってほしいのですが」
「それは無理ね♪ だってほんとは笑ってないもん。これは作り笑い」
「えっと……、では本心は?」
「アンタのその脳みそにちょっとばかし電撃を流しこんで無神経な考えを――――」
「ちょ! ちょっと待て!! んな事したらまた記憶喪失になるわ!」
「いいから。ちょっとだけちょっとだけ」
「いやだー! つーわけで去らば!!」
「あ! こら!! 逃げんな!!」

 そして上条と美琴はまたいつものように走りだした。
 しかし表情はいつもとは違う。二人ともとても楽しそうで、幸せそうで、とにかく不幸そうな顔ではなかった。


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