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霧生ヶ谷の怪異 - (2007/09/10 (月) 18:56:29) のソース
<div style= "background-position: right bottom; background-image: url(http://www27.atwiki.jp/kiryugaya?cmd=upload&act=open&pageid=59&file=kaeruyaki.jpg); background-repeat: no-repeat" align="left"> <p><u>霧生ヶ谷の怪異</u> 作者：望月霞 </p> <p> </p> <p> とあるところにある、不思議な店。 何が不思議なのかというと、すべてにおいて、である。<br> <br> まずは店の内装を述べようか。 ……といっても、見た人間によって話が違うので、これと言って定まってはいないのだが。 ある人は古びた木造と言ったり、ある人は豪華けんらん<br> <br> の城のようだ、と言ったり。 結果的に話をすれば “見る人によって違う”、ということだ。<br> <br> それを象徴するかのようにまた店の品物もよくわからない ―― らしい。 果たしてそれが、<br> <br> 記憶違いからきているのか、ただの夢物語なのか。 それすらも区別しがたい。<br> <br> まあ、人間の記憶とはそのようなものなのかもしれない。 現に、脳にも誤作動があるし、<br> <br> 記憶ならずとも “失敗” という観点から見れば、当たり前のことなのだろう。<br> <br> だが、ここは不思議な市だ。 一見は普通の市街地だが、一部において不思議なのだ。 <br> <br> そんな市街地の名は霧生ヶ谷市。 不可思議なことが色々と起こる、奇想天外な政令指定都市の一角にお連れいたそう。<br> <br> <br> ＊ ＊ ＊<br> <br> <br> 「てぇんめぇ、伽糸粋 （カシス） ！ 今日という今日は覚悟しやがれっ！！」<br> <br> 「はぁっ？ あんた誰に向かって口利いてんのよ。 何度やっても同じだっつーの」<br> <br> 「おーい、ふたりともー。 もういい加減によさないかー？」<br> <br> 「うっせぇよ！ このノロマッ！！」<br> <br> 「ノロマはないだろー？」<br> <br> 「いや、あんたは誰がどう見てもノロマだって。 加阿羅 （カーラ）」<br> <br> 「ひどいなぁ、ふたりしてー」<br> <br> 「何じゃ何じゃ、騒々しいのぅ」<br> <br> 「ジジ！」<br> <br> と呼びながら、わしに近寄ってくるのはわしの可愛い孫たちなんじゃよ。どうもまた喧嘩になりそうなんでな、外に出てみた、というわけじゃ。<br> <br> と、このように述べてもいまいちわからんじゃろうから、簡単な紹介をしようかの。<br> <br> まずはひとり目じゃ。 のんびり話しておる子がおろう。 この孫息子の名は加阿羅と言ってな。 微笑んておる表情が良く似合う、話しかた同様の性格をしておる子じゃ。 微笑が似合う、というのはわしと同じで、優雅、ということじゃな。<br> <br> 「また加濡洲 （カヌス） が騒いでおるのか？」<br> <br> 「なっ……！ 騒いでねぇって、勝負だ。 し ・ ょ ・ う ・ ぶ」<br> <br> 「それを騒いでるって言うのよ」<br> <br> 「うるせぇなこのクソお」<br> <br> <br> ごばきっ！！<br> <br> <br> おやおや、加濡洲が妹に顔面を殴られてしもうたわい。 けったいじゃのう。<br> <br> おお、そうじゃそうじゃ。 ちょうど良い、この勝気な性格の孫息子は加濡洲という名でな。<br> <br> 口は悪いがなかなかの人情を持っておる。 この辺りはわしに似たのじゃろう。 まあ、性格とは裏腹に喧嘩には弱いようじゃが……。<br> <br> 「いって～……」<br> <br> 「お前さぁー、口は災いの元、っていう人間の言葉知ってるかー？」<br> <br> 「知るかよっ、んなこと！！」<br> <br> 「ふぉふぉふぉ。 元気なのは良いことじゃが。 お客が来ていることを忘れてはならんぞ」<br> <br> 「えっ？」<br> <br> と、殴った張本人である孫娘が、キョロキョロと周囲をうかがう。 うむ。 この様子だと、どうやらお前さんに気がついておらなんだか。<br> <br> してだな、最後は孫娘の伽糸粋じゃ。 しっかり者で喧嘩が強いのいが特徴だのう。 唯一の女の子じゃが、能力の高さと気立ての良さもわしに似てな。 嫁にするには最適な娘じゃよ。 ……これ、お前さん。 まさかとは思うが、狙ってはおるまいな？<br> <br> 「ジジー、どこにいるのさー？」<br> <br> 「わしのすぐ隣にいようが。 修行が足らんのぅ」<br> <br> 「そんなこと言ってよ、ジジ。 本当は薬でも使ってんじゃねぇの？」<br> <br> ふむ、なかなか鋭いことよの。 喧嘩は弱くとも、感受性は強いのじゃろう。<br> <br> 「あ、そうだー。 なぁジジ、おれそろそろ行くよー」<br> <br> 「おお、もうそんな時間か。 行って参れ」<br> <br> 「あいよー」<br> <br> 「人間に捕まんじゃないわよっ！！」<br> <br> 「わかってるってー。 おれ鳥なんだよー？ イザとなったら空へと逃げるってー」<br> <br> 「そういう問題じゃねぇだろーが。 精肉にされちまうぞ」<br> <br> 「と言われてもなー。 そもそも食べれないだろー？ おれたちって、あいつらから見れば妖怪の類だしー」<br> <br> 「あんたねぇ、それでも長男！？ ―― って、あたしたちも行かなきゃね」<br> <br> 「そうだなぁ。 あ～、メンドくせぇ……」<br> <br> 「そうじゃそうじゃ、『真霧間キリコ』 には捕まるでないぞ」<br> <br> と、注意すると、孫たちは変化の術を中断させて、きょとん、とこちらを見よる。 ふぉふぉ、<br> <br> そんな仕草がまた可愛らしいわい。<br> <br> 「ジジ、誰それ？ 真霧間源鎧って人は知ってるけど」<br> <br> 「それの孫娘じゃよ」<br> <br> 「へぇぇ。 そんな奴がいんだ」<br> <br> 「もしかして、この間変な刃物で木を切ってた女の人かなー？」<br> <br> 「そうじゃよ。 加阿羅、よく知っておるな」<br> <br> 「この前偵察に行ったらさぁー、霊子の流れがおかしっくってー。 見てみたら、白衣を着て右手に刃物、左手に酒、かなー？ そんな人がいたよー」<br> <br> 「……うわ～、訳わかんねぇ……」 <br> <br> 「……それ、ただの変質者じゃなくて？」<br> <br> 「たぶん違うんじゃなーい？」<br> <br> 「あっ、そうそう！ こないださっ、六道区でドンパチあったの知ってっか！？」<br> <br> 「えー、知らなーい」<br> <br> 「あんた何かやったんじゃないでしょうねっ！？」<br> <br> 「オレじゃねぇよ！！」<br> <br> 「スノリ ・ ヴェランド。 最近この市にやって来たルーン術士じゃよ」<br> <br> 「さっすがジジ！ 何でも知ってんだなぁ！！」<br> <br> 「ふぅん……。 未だにあの使い手がいたのね」<br> <br> 「ほれほれ。 いい加減に行って参れ」<br> <br> 「ほーい」<br> <br> と、気の抜けた返事をした加阿羅は、再び変化の術を使いにはいる。 それに習い、加濡洲や伽糸粋も始めよった。 ふむ、中々良いに進んでおるわい。<br> <br> ……ん？ 何をしているか、とな？ あの子たちは１番楽な格好 ―― つまり、普段の姿に戻ろうとしておるのじゃよ。 したが、以前はよく失敗したもんじゃ。 じゃが、ようやく最近様になってきたかのぅ。<br> <br> <br> ぼんっ！！<br> <br> <br> ＜うーっし、せいこーう！ んじゃね～、ジジ！！＞<br> <br> バサバサバサ……<br> <br> <br> ぼぼんっ！！<br> <br> <br> ＜あたしも成功！ ジジ、何かお土産は？＞<br> <br> 「そうじゃのう。 良い材料があったら持ってきてくれるかの？」<br> <br> ＜んもう！ それじゃわからないってば。 ありきたりに持ってくるよ？＞<br> <br> 「うむ。 それでいいわぃ」<br> <br> ＜わかったわ。 じゃあ、行ってくる！＞<br> <br> キュキュウコンコン……<br> <br> <br> <br> ぼしゅーぅっ ――― ……！<br> <br> <br> ＜あ～、ようやくできた……。 んじゃな、ジジ＞<br> <br> 「帰ってきたら修行じゃよ。 加濡洲」<br> <br> ＜げっ！！ じょ、冗談じゃねぇっっ！！！＞<br> <br> ビョーンビョーン……べちっ。 ―― ビョーンビョーンビョーン……<br> <br> <br> <br> ふぉふぉふぉふぉっ。 ようやく行ったか。 お待たせしたな、お客人。 ん？ アレは何だっ<br> <br> たのか、じゃって？ ふぉふぉふぉ。 じゃから、元の姿に戻ったのじゃよ。 わしらはな、それぞれ本来の姿を持っておる。 加阿羅はカラス、伽糸粋はキツネ、加濡洲はカエル、といった具合にな。 ちなみに、わしはカッパじゃ。<br> <br> ……おお、何か聞きたいことがおありのようじゃな。 いやいや、お客人はもっと堂々としているものですぞ。<br> <br> なになに、ここは何処、とな。 最もな質問じゃのう。 したがな、それは秘密なのじゃよ。<br> <br> というよりも、決まっておらんのじゃ。<br> <br> まあ、もちろんこの辺は色々と訳ありなのじゃがな。<br> <br> しかし、それだけではあまりに失礼であるな。 そうじゃの、ヒントをやろうか。 この店の名は “ゲコ ・ カッパ専門店” と言うのじゃが、店名の元となっておるそれぞれの共通点を考えてみると良かろう。<br> <br> <br> <br> おや、もうこんな時間じゃのぅ。 お客人、もう戻りなされ。 わしがかけた術もとけかけておる。 そして、今度会うときはちゃんと自分の体を持ってくるのじゃぞ？ そうでないと、わしの孫たちが誤って食ってしまうやもしれん。<br> <br> <br> ―― ほっほっほっ。 そんな怖い顔しなさんな、お客人。 わしはそんな風に思ってはおらんよ。<br> <br> <br> <br> ……まあ、後はそなたら人間次第で決まるが、な。 ふぉふぉふぉ……<br> <br> <br> <br> ではな、お客人。 また何処かでお会いいたそう。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> </div>
