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お題 : 九頭身川 @ 作者 : 望月 霞
霧生ヶ谷市に存在する九頭身川。 一説では昔、モロモロという生物が陸地をめざそうとしたらしい。 もちろんそれは、神話か何者かの作り話としか信じられていないのが大半だろう。 中には信じきっている人もいるかもしれないが。 ちなみにモロモロというのは、ドジョウに類する魚であり、煮てよし焼いてよしの主婦の味方である。 話は変わって、とある昔。 その辺にいることから名づけられてしまった魚は、川ではなく山に住もうとしたことがあったらしい。 理由はおそらく、流れのままだ。 川をのぼること数か月。 身も心もやつれながらたどり着いた先は、ひと筋の道しか見えない暗きところであった。 「ああ、ここまできて黄泉路 (よみじ) だなんて」 「ここはそのような場所ではありませんよ」 いつの間にいたのか、暗闇のなかにひとりの超美男子が立っている。 髪は燃えるような血の色をしており、手には何もない。 服は控え目にしているのか、枯葉を連想させる蘇芳 (すおう) をまとっていた。 異常なまでに容姿端麗な男は、笑顔でこう語る。 「あなたはたくさんいるからこそ価値があるのです。 飢えに苦しんでいる人々を救うことこそ、あなたに与えられた天命なのですよ」 その言葉を聞いた諸々 (もろもろ)、のちにモロモロと呼ばれる魚は感喜極まり、自らの使命を仲間たちに伝えた。 そして、彼らは身を犠牲にしてその地に住まう人々を救ったのであった ――。 「ジジ、何書いてるのよ」 「ワシを主とした感動な話じゃ。 ふぉふぉふぉ、類稀なる文豪はつらいのぉ」 孫娘である伽糸粋 (カシス) は、あきれながら読んだのだった。
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