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    <title>kiyopso2 @ ウィキ</title>
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    <title>細かい設定</title>
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    <description>
      *シュトリの素体達

#image(http://img.atwikiimg.com/www65.atwiki.jp/kiyopso2/attach/42/26/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%88%E3%83%AA.png)

[[シュトリ]]の素体としてあるのは、６２３体のクローン体で、【００１】以外は皆その仕事にあわせた素体として
生み出され、元のサーバーから記憶と精神部分をコピーされて運用されている。
【００１】と【００６】、【０４７】【１２８】【３５９】の素体はメインサーバーである
シュトリ本人を認識しているが、それ以外の素体は認識すらしておらず、自身が本物のシュトリであると
認識している。
そのため、シュトリ本体を認識してしまうと極端なエラーが起きるため、エラーが起きる前に事象の削除が行われている。
　
　
***【００１】
シュトリの体（本体）を有する素体で、運営する会社の社長として運用されている。
唯一、精神がシュトリ（本人）のコピーではない素体であり、人工脳の中身は、自立型ＡＩシステムで作られた人格である。
そのため自身が人間なのか、機械なのか、という問いに答えることすらできない。


***【００６】    </description>
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  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/43.html">
    <title>小説まとめ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/43.html</link>
    <description>
      **小説まとめ

●清田用なので、時系列順になっています。
○時系列順に読むと面白くはないです。
●主に[[シュトリ]]軸のストーリーと[[ミルヒ]]軸のストーリーです。


&amp;color(red,yellow){【注意】NPCとの絡みがあります。捏造もあるので苦手な方は絶対に読まないこと}



【時系列】
----
公式ＥＰ①前

--[[始まりのお話]]　シュトリ（本人）が国を出る話
--[[願う先の未来【前】]]　シュトリ（本人）が研究所にいた頃の話①
--[[願う先の未来【後】]]　シュトリ（本人）が研究所にいた頃の話②
--[[嫌だとうち震えられるなら①]]　前半はシュトリ（本人）　後半は００６が研究所を出る話

----
公式ＥＰ①

--[[天使]]　シュトリ（本人）とミルヒの出会いの話
--[[嫌だとうち震えられるなら②]]　００６の話
--[[私はそれを信じることしかできない]]　シトリーが００６に力を使う話
--[[嫌だとうち震えられるなら③]]　【私はそれを～】の００６側の話
--[[死線を越える先の彼方]]　００１の。自分がシュトリ（本人）とは違うという話。
--[[ゆりかごの中は]]　００６とシトリーがシュトリ（本人）と会う話

----
公式ＥＰ②　この間、シュトリは００６と共に自国に帰っている
----
公式ＥＰ③

--[[繰り返しの現実【前】]]　マトイを救いたいというミルヒの話とタイムリープの話
--[[繰り返しの現実【後】]]　ミルヒを救いたいシュトリの話（未）

----
公式ＥＰ④

--[[Question and answer]]　ミケの繰り返しについての話と枝葉の話
--[[永久楽園]]　エーテルの疎通能力とフォトンの可能性を考えた結果。導いた答えの話（未）
--[[夢の終わり]]　さぁ、夢を見るのはこれでおしまい。残酷な御伽噺もお終い。（未）    </description>
    <dc:date>2017-07-17T21:51:49+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/55.html">
    <title>繰り返しの現実【前】</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/55.html</link>
    <description>
      目の前の事象が現実じゃなければどんなに良いだろう。
全てを救うなんて大それた事を考えているわけではない。
ただ目の前の、手に届く大切な仲間だけは絶対に救いたいと願うのは間違いなのだろうか。

殺せ、彼女の事を思うならば、全ての敵になる前に殺せ。
その言葉を吐いたのは未来を知って闇と共に生きた自分自身だった。
彼女を殺し、彼女の願った平和を手に入れる。これこそが自分のするべき事であると己の声で聞くたびに、きっとこれが正しい答えなのだろうと分かってはいるのだ。
しかし、選べるものか。
仲間を殺して得る平和の中に、もっとも平和を望んだ彼女がいないのならば、意味があるものなのかどうかさえも分からない。
全てが平和なら、その犠牲は無かった事のようにするのか。それが本当に正しいのかと問う相手は、肝心な時に姿を現さない。
答えが欲しい訳ではない。ただ一つの同意が欲しかった。

「無いな」
「お前なぁ、考える時間もなく即答か」
「彼女の望んだ事だろう。そのために作られたのだとしたら、その理由を君の感情だけで奪うのか？」

左右色の違う瞳を怪訝そうに歪めた青年は、目の前にあるコーヒーを飲み干して、カップをカツン、とテーブルに置く。
何を馬鹿げたことを、と呟く。未来から戻った《自分》が過去を変えてきた現実を受け入れていない訳ではないだろう。
こういった事象に対して柔軟な考えを持つ相手だ。それ故に話し相手としては丁度良かったとも言える。

「君はそこまでして助けたいと願うの？」
「当たり前だろう」
「それは―――彼女だからかい？　それとも誰にでもなのか？」

彼の言葉に自身はあっさりと即答する。《彼女だけな訳じゃない》。
その答えは、きっと彼の望まないものだろう。

「なら、君はどこまでを救う気だ？　[[ミルヒ]]、悪い事は言わない。君は全てを救いたいという馬鹿げた願いを捨てろ。
　彼女だけを救いたいならまだしも、誰でも―――」
「誰でも、ではない。私の手の届く《人間》だけは救いたいだけだ」

はぁ、そうか。
残念そうな声を漏らし、彼は茶菓子を口いっぱいに頬張る。
どうせ君の決めた事なのだから、とあっさり肯定するのだろう。
真実を目の前にして決して逃げない。事象の答えを見つけ出すまでは彼は何事も全力で対処していく。
だからこその信頼が自分の中にはあったのだ。朽ちた楽園の名を持つ彼の人は、ゆっくりと瞼を下ろす。

「ふぅん、まぁいいさ。好きにすると良い」
「恩に着る」



　　◆◇◆


例えば自身だったら、そんな選択をしただろうか。
ミルヒの言うような繰り返しの未来を。例えば《彼女》を救えるなら、過去に戻ってやり直すことができるとしたら――。
救うと決めて過去に飛び込めただろうか？

馬鹿馬鹿しい。
できるならとっくにやっている。自分の代わりに《彼女》が死ぬ必要などなかったのだから。
時間渡航能力がある人間がいるというのは分からない理論ではない。ただ、そのご都合主義には明らかに代償が必要になるだろう。
こういった所、《世界》は良くできているの一言で終わる。
全ての事象に代償のない奇跡は無いからだ。

白花が舞う和風建築群を横目に、この惑星の支配者は立っていた。光と闇、白と黒が交わる星ハルコタンの主にして神。
その名をスクナヒメと言った。
ミルヒとマトイが他のアークス達と協力して救った星の主は、訪れる旅人に酷く寛大である。
煌びやかな白黒の髪。翻す布地はシャラ、と良い音を鳴らす。現存する神の姿とはかくも静かで美しいものなのか。
高下駄をカランと鳴らし、開かれた扇で風を起こす。
桜色の花弁が宙を舞い、その姿は一瞬で自身の目の前へと詰められた。

『で、お主がミルヒの為にこちらへ来たのは知っておる。妾に何を聞きたくてやってきた？
　数多の星を食いものにし、己の理念のみで動くお主が』
「無理を承知の上で願い申し上げます。スクナヒメ様、ミルヒとマトイを救うためにお力を貸していただけませんか？」
『あの二人の為に力を貸す事は厭わぬ―――が、お主に力を貸すかと言えば《貸すつもりは無い》と答えるじゃろうな』

理念のみで生きる獣と彼女は言う。
スクナヒメにとってダークファルスは母性を喰らった魔物ならば、自身はこれからハルコタンに来る害悪そのものであると感じているのだろう。
だからこその答えだった。スクナヒメの判断は正しい。彼女はハルコタンという星の為に、自身という害悪を決して許さない。

『だがのぅ、お主はミルヒの朋友だと聞く』

朋友（とも）という言葉には些か語弊はあるが、きっとミルヒがそう説明しているのだろう。ならばそれで良いと彼女の言葉に頷いた。
スクナヒメは漏らした言葉をもう一度考え直すようにこちらをしっかりと見据えて、再度言葉を紡いだ。

『お主はどうやって二人を助けるつもりだった？　それを説明してもらおうかの』

白く細い腕を前で組み、静かにこちらを見据えている。
彼女にとって自身は交渉するに値するのか。今、その価値を試されようとしているのは分かった。
どうやって助けるかなど決まっている。どちらも無事に救えるなんていう都合のよい事は考えていない。
助けるならばどちらか、だ。今現状闇に染まったマトイを救う方法は無い。ならば、心だけでも救わなければ。
戦いを終わらせ、彼女の死でもって全てが完結する。そんな御伽噺であっても。
たった一人を救うために全てを犠牲にするならば、たった一人を殺して全てを救った方がどんなに簡単で美しい物語だろう。
救えない事を嘆く必要は無い。人間にとって限界というものは存在する―――ただそれだけだ。

『お主が考えている事は決して間違いと言うわけではない――が。
　妾はあまり好ましいとは思えぬ。それはつまり、マトイを――見捨てるということになるのだろう？』

一を捨てることで、全を救う事が良策ならば。
全を捨てて一を救う事は愚策だと誰もが笑うのだろう。
だからこそミルヒは…いや、未来からきた《仮面》（ミルヒ）は。これからの未来のためにマトイを殺す事を選んだ。

時間編纂における過去の修正は、一つの世界を閉じる行為だ。世界の成り立ちに関係のないような小さな事象ならば良い。
それは世界そのものが《うまく帳尻を合わせてくれる》からだ。
そうできているからこそ、ミルヒのような存在が生きていけるとも言える。
小さな事柄一つ変えることで、結果的に大局を変化させるのは《結果論》だが、マトイの場合は違う。
もともとミルヒが言うに、《シオン》という絶対的な全知全能が生み出した《力ある者》である彼女は、数々の因果によって絡め取られている存在だ。
今のマトイは一歩進めば世界を終わらせる悪そのものになる。
そんな彼女を救うとなれば、世界が導き出している大きな指針から離れ、確実な改竄を認めてしまう事になってしまう。
そうなればミルヒとマトイはどうなるのか。

二人とも救われない未来を招くかもしれない。
そんな未来が欲しかった訳じゃないと、嘆くミルヒを見たくないだけかもしれないが。

『お主は、分かっていてこの道を選んでいるのじゃな』
「――何の事やら」
『妾はマトイとミルヒ。二人を救うつもりのない奴に協力する気は毛頭ない。出直して参れ』

一瞬の風と共に神々しい姿が消え去っていく。それと同時に深い溜息を漏らした。


　□■□


何を真面目に話をしたのか。スクナヒメが相当機嫌悪く話をしていたのが妙に面白かった。
彼女の機嫌を損ねる方が、ダーカーを倒すよりも難しいというのに、目の前の男は盛大に損ねてきたようである。
ハルコタンから戻れば、自室のベッドに珍しく倒れ込んでいたから、構ってやろうと近づいたのが失敗だった。
「そもそも君が変な事を言うから」とこっちも機嫌が悪い。
てっきり、彼の端末の一つである《006》かと思って近づいたというのに、よもやの本人とは。

指通りの良い砂金色の髪を撫でると、相手は黙ってそれを受け入れた。
触られるのが好きではない癖に、人の温度を求めているあたりでこの男は歪んでいる。
緩やかに撫で続ければ、深い溜息が返った。納得いかない何かがあるのだろう。ただそれの答えを自分は知っていた。
そっと伸ばされた指先を受け入れる。冷たい、温度の無い手は昔から変わらない。
一つ一つを確かめるように彼の手は顔の輪郭をなぞっていった。本当に言いたい事なんて、目に書いてある。
彼の表情全て作りものでも、その目だけは嘘を吐けない。

「シュリ」
「何だ」
「ごめんな」

謝る位なら、諦めてくれよ！と声が上がる。思わず伸ばされた手を引いて抱き寄せた。
怒っているのだ、本当に。その体が震えているのも、呼吸が荒れたのも、ただただままならないと彼が怒ったからだ。

「珍しいな、感情を表に出して」
「君があまりにも馬鹿だからだ。マトイの役割は、今ここで深遠なる闇と共に浄化されること。それは君がいう全知全能が導いた答えでもあると分かっているくせに！それでも君は彼女を見捨てないという。何故だ？　友人だから？　魂が呼応する相手だから？　仲間だから？理由が分からない。サーバーの中を捜しても、過去の記憶を見ても、君が考えていることがまったく分からないんだ。人の言う、愛とか恋とか、そういう感情ならまだ理解できるのに」

彼にとってはマトイがやっていた事の名前すら、分からないものなのだろうと思う。
彼は本当に作りもののようなのに、時折人間を理解出来ない事に苦しんでいる。
その答えを言ってやったら、本当はとても喜ぶのではないかと知っていても、教えてやる事は憚られた。
そんなものは自分自身で気づかなければいけない。
精神的に不安定なのはきっと《彼》の中にも同じようにままならないものがあるからだろう。

「シュリ、なぁ――」
「僕は反対だ。君の選択は間違っていると思う。マトイを見捨てられないのは理解しよう、努力する。
　助けたいのも分かろう、努力する。でも現実問題、無理だろう？　お願いだから―――」
「有難うな、シュリ。私の事を思っての判断だ、痛み入る」

息を呑んだ相手の身体をそっと離す。怒っているだろう、そう思った。
見上げてくる目線に怒りは無い。ただ、少しだけ淋しそうには見えた。《自身の説得は何の意味もない》。
そのことを一番よく分かっているからこそ、彼の目はただただ淋しいだけなのだろう。

「――奇跡とは、起こらないから奇跡と呼ぶ。僕はそんなものに縋ってしか導けない答えが最善とは思ってない」
「…シュリ、私はな。人の出会いもその奇跡の一つだと思ってる。
　アークスになって沢山の友ができたよ。母星じゃ友人なんて、ニ、三人しかいなかった。
　マトイにも、シオンにも出会った。過去を変えた、未来を作った。全てが一つ一つ奇跡の積み重ねだ。
　―――お前と出会えたのも希望に似た奇跡だ。
　あの時、私を助けたのがお前じゃなければ、こんな風に心配してくれる奴もいなかったかもしれん」
「―――ずるい言い方だ。それじゃあ僕は君の愚行を許さずにはいられないじゃないか。
　馬鹿、本当に―――本当に馬鹿だぞ、ミルヒ」

溜息が漏れる。涙を流すような男ではないが、その手が震えているのをあえて見なかった事にした。
この魔性をこれ以上困らせたく無かったからだ。
いつものように、ただ微笑んで送り出してくれればいいのに。苦虫を噛み潰したかのような顔で、もう一度溜息を吐いた。



「えー、ミルヒさん、シュリさんを怒らせちゃったままなんですか？」

深い菫色の瞳がこちらを見据えていた。もう片方の色の違う瞳も同じようにこちらを見ている。
大き目のフルーツパフェを頬張りながら、同業者のウナはさらりとそう言った。
まったくもってその通りだった。
口をきいてくれない、のレベルではない。話こそしても、まったく協力的ではない。
怒っているのだろうと思って会話を求めても、シュリは決まって「君の決めた事だから」としか言わなかった。
何かを思い立ったかのようにデータ集めをし、毎晩寝ずにサーバー処理を続けている。
正直、脳の八割以上が機械であるという彼の、情報処理速度に関しては理解の限度を超えている。
シオンやシャオのような演算処理はできなくても、人並み以上の能力がそこにはあるのは確かだ。
もっと単純に物事を考えてもいいのでは思いつつ、自身も同じように悩みやすい性格なので言うのはやめた。
見事な赤毛を三つ編みにしながらウナが注文したクリームソーダに目線を移していく。
昔からこの飲み物には縁が無く、自身はまったく飲む事は無かったが、渦中の人物も好んで飲んでいる物だ。
『アイスクリームってさ、僕の実家だと超高級品なんだよ』と呟いていた姿を思い出す。
今より少しだけ穏やかな笑顔で笑っていた事も。

「ミルヒさんにとってシュリさんは大切な友人なんですね」
「まぁな。そんなことをいったらウナ、お前もだぞ？　大切な友人で仲間だ」
「…それは嬉しいですけど、何か違う感じもしいますね。ミルヒさんからすると付き合いが長いからかなぁ？」

そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
ただ自身には彼が抱えている闇そのものが理解できた、それだけだ。
彼は自分が持ち合わせる大切なものを全て守る代わりに、《人間であろうとした幼い自分》を殺した生き物だ。
故に魔性であり、人間では到底考えられない事をしておきながら、それでも人を愛さずにはいられない。
誰かが大切にしなければ、きっと壊れてしまうような作り物めいている所があるくせに、誰よりも堅い意思がある。
非常にアンバランスな生き物なのだ。
そんな面倒くさい奴だと知っていても彼との付き合いをやめなかったのは、間違い無く彼が誰よりも本当は優しい人間だと知っているからだろう。
人としての歪みが強く、《人間》を捨ててもなおあの機械に心は残ったのだ。
そこに残ったものが《優しさ》だけだとしたら、なんたる皮肉だろう。
そんな姿を友として愛した。それはきっと彼も同じなのだろうが。

「私はこれからハルコタンへ行ってくるが――あいつの事頼んだよ」
「えっ、頼んで行くんですか？　もう…このクリームソーダ奢ってくれたのはそういう理由ですね？」
「ウナは優しいから、お姉さんは嬉しいよ」

にこりと笑えば、ウナも同じように笑って返してくれる。
こんな時に一人にするほうがまずいのは分かっているが自身にも時間は無い。
マトイは待っている。一人で、待ち続けている。
未来から来た自分自身もまた、決断を待っているのだ。正しい答えなんて何一つとして無い事は分かっていた。
ダーカーの主にして深遠なる闇の器として存在しているマトイを。
彼女を殺してやれるのはきっと自分だけだろう。
そしてっまた彼女を救ってやれるのも自分だけなのだと思っている。
そんな現状だからこそ、《夢は見るな》だの《無理だ》だのという言葉が飛ぶのだろう。
理解は出来るのだ。そういう人間達の事も。
もしかすると自分も――未来から来た自分自身に会わなければ、マトイを救う方法は殺す事しかないと思ったに違いない。
救う事が奇跡だというのなら、その奇跡を手にするために支払う代償はきっと大きい事だろう。
それでも諦められないのは、彼女もまた誰かを救うために代償を支払い続けてきたからだ。
報われない事など許してはいけない。
人であれ何であれ、支払った分の対価は得られるべきなのだ。
ダークファルス【双子】が自身の命と引き換えに、深遠なる闇を呼びよせたように。
ならばマトイが独りで戦い続けてきた対価を今、彼女を救うという奇跡でもって世界は清算すべきなのに。

「ままならないのは辛いな」
「それを言っちゃったら、皆。自分にブーメランですよ、ミルヒさん。
　何でも上手くいく事は無いかもしれないけれど――－…それでも何かしらの形で報われるようになっているんですよ。
　きっと」

ウナの言葉に目を見開く。そうでなければこんな世界、ただ辛いだけではないか。

「本当に、そうであってほしいものさな」


◇◆◇



―――管理者の接続を承認。サーバー・アルカディアはこれより四十八時間、他サーバーとの連動を切断します。
―――テストサーバー・エバーを起動。サーバー・アルカディアはエバーとの連動を承認。接続します。

「宜しい、全て承認。アルカディア下位のサーバーは、全て単独行動の権限を与える。
　代行者は《001》、《006》へ。サーバー・アルカディアはテスト運用により、全サーバーから独立を完了。
　これより記憶・記録の保管及び、バックアップの作成に入ります」

巻き戻される時間。時間の逆行。それを可能にする力。
どんな因果であれ、必然的に起こりうる事実。繰り返しの現実は確かに歴史の枝葉をかえて過去を変えながら進んでいる。
例えばその力を自由に使えたならば、嘆いた過去全てを一蹴できる。
でもそれは敵わない。何度繰り返しても変わらない現実があるのだ。
だからこそ、未来からきたというミルヒ―――【仮面】は、繰り返しの果てにマトイを殺す事で世界と彼女を救う道を選んだ。
間違いだとは思わないし、それが正解だとも思う。
―――でもミルヒは望んではいないのだ。彼女の死をもってして終わる物語など。

「全てが平等で平和なら、人間に争いはないと言っていたけどな…キチェル。それは綺麗ごとだったよ」

平等なんてものはないから、争いがなくなることは無いとキチェルは言ったが。
例え平等であったとしても犠牲の無い平和などあり得ない。対価の無い幸福など存在してはいけないのだ。
故に、どこにその対価を求めるのか。
例えばミルヒとマトイの話ならば―――マトイに全ての犠牲と対価を支払わせることで世界を救う。
ミルヒはマトイを殺すという対価を払って世界を救った英雄に成り下がるのだろう。
そんな事をミルヒは望んでいない。
ただし対価とは支払えるものにしか要求されないものだ。

「僕は、何を支払えば―――君達を助けられるのか分からないよ」    </description>
    <dc:date>2017-07-11T01:40:13+09:00</dc:date>
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  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/15.html">
    <title>ミルヒ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/15.html</link>
    <description>
      **メニュー
--[[トップページ]]

*キャラ紹介

□清田（チムマス）
#region
--[[ミルヒ（高遠架）]]
--[[シトリー]]
--[[シュトリ]]
--[[メルフォンシーヤ]]
--[[ゼコー]]
--[[ナンナ]]
--[[レン]]
--[[三和]]
--[[ローマイヤー]]
--[[エイシャ]]
--[[ハイメ]]



#endregion
 
□natsukuma
#region
--[[アサカ]]
--[[櫂]]
--[[アルエット]]
--[[奏子]]
--[[レオン]]
#endregion

□肘だけであんな跳躍を
#region
--[[ウナ]]
--[[キンカ]]
--[[カイ]]
--[[ニーナ]]
#endregion　
 
□Garomre
#region
--[[ワルツ]]
--[[ジェニー]]
#endregion　
 
□睦月弐式
#region
--[[山神]]
--[[光定（兄）]]
--[[光定（妹）]]
#endregion　
 
□
#region
#endregion　
 
□
#region
#endregion　
 
□
#region
#endregion　
 
□
#region
#endregion　
 
□
#region
#endregion　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　

　
　
　    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:55:48+09:00</dc:date>
    <utime>1493222148</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/54.html">
    <title>Question and answer</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/54.html</link>
    <description>
      【Question】

ここに一匹の猫がいる。猫の名前は《ミケ》。猫にはほかの猫とは違い、不思議な力があった。
《ミケ》には、望んだ過去に戻れるという特殊な能力がいつの間にか授かっていて
《ミケ》は事あるごと…そう、例えば。
猫にとって困ることであったり、全く望んでいない未来であったり…不都合なことが起こる度に時間を遡ることができた。
何度も何度も《ミケ》は遡った。その度に今度こそ猫の望んだ未来になると信じて繰り返した。
幾度も繰り返していくうちに《ミケ》はこんなことを考えるようになった。

「なぜ、こんなにもやり直しているのに上手くいかないのか」

《ミケ》の疑問は次のやり直しの際にまた消えてしまう。
そして何度でも繰り返し、同じ場所へ向かっては戻っている。
そんな猫は一体どうすればよかったのだろう。


【Answer SIDE:S1】

そもそもの始まりは、どうして猫はこんな風に繰り返す選択肢を選ぶようになったのでしょう？
《ミケ》にとって繰り返す世界の先に何を見つけようとしたのかが問題で
その見つけられないのか、何が上手くできないのかは知らないけれど
猫にもっとも足りなかったのは学習するということなのだと思います。
繰り返すという事は、検証と実験を繰り返しながら正しい答えを導き出そうとする行為にも見えますが
必ず失敗するというのならば話は別。
必ず上手くいかないという事は間違っていることをわざわざ選択し、やっているということに他ならない。
つまり、それを止めない限り…猫は何をやったとしても猫が望んだ未来を導き出すことはできないんです。
だから、学習していくしかない。猫…確か名前は《ミケ》でしたっけ？　《ミケ》は望むべき未来を変更するべきだ。
そうでもしない限り、何度間違えて繰り返しても望んだものに辿り着くことは無いでしょう。

「では、《ミケ》が学習しなければ…結局何をしても同じ結果になると？」

聡明な貴女は理解が早くて助かります。つまり、その通り。貴女が言ったことが正解です。

「ふぅん、そうか。まぁ、面白い答えと言うよりは平平凡凡で詰まらない。
　答えとしては理解できるけれど、納得するには難しい答えだね。
　あと、この答えは私は好きじゃない」


【Answer　SIDE：S2】

うーん、正直に答えると、上手くいかない理由はたぶん…猫が望んでいることが高望みだからじゃないかなと思う。
もしくは全部を上手く行こうとさせすぎている完璧主義者か。
そもそも、繰り返して何度も何度もチャレンジするくらいには思い入れの強いものが猫にはあるのかもしれない。
でもどうして猫はそこまでして、自分の望む未来を手にしようとしているのだろう…という疑問は残るね。
《ミケ》は何度も繰り返すけれど、その度に失敗も後悔も思い出して、辛い思いをするのにそれでも繰り返すことを望む。
繰り返しを願う心はとても純粋なものであるのだとすれば、それは叶わない願いに手を伸ばし続ける行為にとてもよく似てる。
だからこそ、猫は考えなおすタイミングが必要なのかもしれない。考え直さないから、また失敗し続けるのかも。

「では《ミケ》は思い直さないと、また同じ結果になると？」

素敵な君だから理解が早くて助かります。つまり、君が言ったことが正解だと思います。

「ふぅん、そうか。なるほどな、考えなおす…か。まぁまぁ面白い答えだったよ、有難う。
　答えとしては理解できるけれど納得するには、ちょっと弱い。タイミング、と言うのは参考になったよ」


【SIDE：M】

「ということで、何度も繰り返す理由を問うたけれどあんまりにも面白くないこと続きだったから、首を二回刎ねた」
「野蛮なことで。ちなみに良い意味では言ってないからね。物騒なことは良くない、特に他者に対してはね」

蜂蜜色には程遠い、くすんだ砂金色の髪。
こちらを窘めるように向けられた左右色の違う瞳はこちらが痛くなる位の目線を向けている。
明らかに抗議の目線だが苦笑いでかわしていけば、深くため息を吐かれた。
眠っていないのか、それとも睡眠を必要としていないのか
目の前の男は上っ面だけで笑った自身に冷たい眼差しを向けたままだ。
良く笑う男だが、どうしてかこの話題を避けたいのか。あまり会話を弾ませてはくれない。
聡明な君だ、分かるだろう。と嫌みの一つを言ってやりたくなるが
その言葉を自身に投げかけたのは目の前の相手だったのでやめた。
言葉を言葉で返すのは嫌いじゃないが、この相手に返すのは、少々骨が折れる。
女性のように線の細い男だったが、差し伸ばしてくる手は男性のそのものだ。
目の前の男もきっと自分に似ているのだろうと思う。
あの猫にとても良く似ているのだろうと思うのだ。
叶いもしない未来や望みのために。ただただ、男は実直に、精密に。機械のように佇み続ける。

「で、何だっけ？　猫がなんだとか」
「そう、なんで《ミケ》は上手くいかないと思う？　《ミケ》は繰り返し繰り返し、今度こそ失敗は無いようにと繰り返し。
　それがどうして上手くいかないのだと思うかっていう質問なんだけど」

そうだねぇ、と男は首を傾げる。そして足を組み直して、数分黙っていた。
何かを考えているのか、それとも問いへの答えを真剣に悩んでいるのか。
そのどちらにも見えて自身は口を噤んだままでじっと見つめる。男の目線が自身の視線と交差した。
ふっと細められる瞳は美しい弓なりに歪む。これは化け物だと、以前、彼と仕事を共にする長身の女性キャストが言っていたが。
化け物という形容詞はあまり好きではなかった。それは目の前の男を人間ではないと認識する言葉だからだ。

「さて、先ほどの答えなのだけれども」
「お！　考えてたのかやっぱり！」
「まず一点。猫こと《ミケ》はどのような目的を持っていたか、だ。
　猫の望みが例えば《世界平和》のような大きな概念に似た望みだった場合。
　世界の平和という理論は、絶対の下で平等――もしくは誰もが他者に無関心であるという事以外で成立することは難しい。
　Ａにとっての平和がＢにとっての平和であるとは限らないからだ。
　それは世界中の人が幸福になりますように！といった願いも同義にあたる。
　つまり、そういった未来を願っているのならば最初から《ミケ》が望んだ世界は訪れない。
　それを作るなら、最初から他者などいない世界を作った方が手っ取り早い」

一息であっさりと論述していく姿はいつ見ても腹正しい。

「そして猫は、繰り返しているという点。
　つまり、猫にとっては望ましくないことが起こる度に過去に戻るという手段を取っている。
　何度も繰り返している段階でとても強い思い入れか、それか…どうしても諦められない思いか。はたまた意地か。
　少なくとも繰り返さずにはいられないことが起こっているという事だ。
　ならばそれが起こらないように対処するのが普通なのだけれど
　何度繰り返してもその事象がおこるという場合、そもそもの根本が間違っているというケースがある」

さら、と別の答えを導き出す様が一瞬自身に語りかけてきた全知全能たる惑星の体現者に見えて苦く笑う。
なるほど、続けて？と言えば彼はもう一度考えたように口元に手をあてる。
悩んでいるのか、それとも言うのを躊躇っているのか。
それでも彼はすっと、息を吸い直し、唇を動かしていく。

「最初から、《ミケ》には別の望んだ未来がある」
「…えーっと、大分ぶっ飛んだように感じたけど？」
「何と説明していいか…。だって、この話はそもそもの大前提に《ミケ》には望んだ未来があった。
　けれどならない、だから繰り返す。
　これが一連の流れとしてワンセットになっている。でも本当にそうだろうか？
　《ミケ》は望んだ未来を叶えるべく、何度も何度も繰り返しては失敗し
　結局またやり直すということが起こっているんだろう？
　目標が高いとしても、未来に起こることを知ってる状態でそんなに失敗するだろうか？
　そこまで、間違えるほど《ミケ》は愚かだろうか？　だって何度も繰り返すんだろう？
　それこそ１００回でも繰り返せば
　ここで何をしてはいけないか、この会話になったら話題を避ける。とかいろいろとできるはずだ。
　むしろやっていると仮定する。
　…それなのに、《ミケ》の望んだ未来にはたどり着けないならば……最初から《ミケ》が望んでいた未来は
　違うんじゃないかと思う」

酷く淋しそうな声で、男は言う。猫にとっての未来とは、では、一体なんだというのだろう。

「《ミケ》には、《ミケ》にも意識していない本当の願いや望む未来がある。それか…」

言葉を止める。そして瞳を逸らした。言いたくないのだろう。こちら側に瞳が戻ることは無い。
組んだ足を見つめるように、彼はただ俯く。
彼にはきっと導き出せてしまったのかもしれない。この意味のない質問の答えを。

「答えてくれないの？」

問いかける言葉に音は返らない。言うか言わないか、ただそれを考えている時間でもないだろう。
理解してしまえば何よりも早い。彼は、機械のように精密故に。
機械のように繊細故に。やっと交差する視線に、瞳に嘘は吐けない。
これを化け物と呼ぶのならば、何と純朴かと思い。そして歪んだ在り様が、あまりにも無慈悲なほどに邪悪だとも感じる。

「さぁ、答えを。理想郷の名を冠しながら、終ぞ理想に届かない貴方が導いた答えは何だった？」
「君は、望むべき未来も、本当に願っていたことも全て―――もう、分からなくなっている」

伸ばした指先を受け入れる。彼の細い首に指は強く食い込んだ。忘れている訳ではないと思っていた。
理解したくないと思っていた。だからこそ繰り返した。
何度も何度も繰り返せば、きっと正しい未来のほうから自身に近づいてきてくれると信じていた。
ケホッと音がする。ギチギチと締めた首にはしっかりと赤く痕が残る。このまま殺してしまえばいい。
この答えはとても気に入らない。
この答えはとても…

「そ…れで…も」

手を止める。涙ぐんだ彼の瞳に嘘は無い。続ける言葉がどんな甘味より甘く聞こえても。
どんなに優しい言葉に聞こえても、この手はきっと彼を殺す。

「君は諦めたりしないだろう？　未来を、願いを手に入れることを諦めたりするものか。だからこその君だ。
　……君にもしも僕から何か助言できるとすれば、唯一つだ」
「…それは何だい？」
「絶対に、再度同じ未来に行きつかないこと。
　そして君がこの世界から過去に飛ぶという事は、君を中心とした時間線から未来が消えるという事だ」

手を離せば、彼はこちらの手を強く握る。傷つけないようにとても優しく握り込んだ。
多少やり返されても仕方がないというのに、全くと言うほど敵意を見せない。

「君を失った時間軸は、君と言う特異点を失って崩れて行く。再生は出来ないし崩壊するしかなくなるだろう。
　そもそも時間を遡れるという段階で、その力こそが時間における特出すべき事象に他ならない。
　故に、君は同じ未来に辿り着くことをしてはいけない。
　また一度離れた時間に戻ろうともしてはいけない。君を失った世界は、ただの枝葉だ。
　大きな幹の、その先にある枝の葉っぱ。
　そこに戻れば、君を失ったという事象と君が戻ったという事象がぶつかり合って対消滅することになるだろう。
　君の願いの為の時間渡航は、そういう危険性を孕んでいる。
　それでも君は願わずにはいられないのかもしれない。
　だからこそ、今この時間から過去へ戻るのならば――この時間座標には来てはいけないよ」

手に握らされたのは一つのデータ。自身では確認すら取れない何かの欠片。
けれど、目の前の男が座標だといったのならば。
それはきっとここへと還って来るための鍵なのに。
その姿はまったくといっていいほど見えなかった。視覚出来ない切り捨てる過去を、彼は知っているのだろうと思う。

「私は何度だって繰り返すだろう」
「いいや、君に次は無いさ。君は分かってしまったのだもの。君が本当に見つけたかった願いが、そこに無いということに」
「だったらちゃんと見つければいいじゃないか。私にだって、その権利はあるよ。ねぇ、そうだろう？」
「ああ、そうだとも。だからこそ、次こそは繰り返さないで君は変わればいい。こんな残酷な御伽噺があってたまるかと。
　運命に抗って、抗って、抗って。それこそ神なども殺してしまえるほどに、君は……君の物語を生き抜かなければ。
　どうかその先に、再度君と僕が出会いませんように」

出会いませんように。
触れてもなお、共にあることを選ばない朋友であると、分かっている。何度も殺したのはその理由を確かめるためだ。
理想になりえぬ人と本当の望みを忘れた探究者に同じ未来が待っている訳が無いことを誰よりも互いが理解していた。

「さよなら、アルカディア」



【Answer】

「彼女はミーナという。こっちは[[シトリー]]、こっちは[[シュトリ]]。双子だ。分かりにくいがまぁ、そこらへんは感で」

何度も繰り返された自己紹介だった。適当な会話をこなした後に、名前ことで話をしているのを覚えている。
ミーナ、という名前がまるで猫につけるみたいな名前だと彼は言った。砂金色の髪を持つ男女の双子の片割れ。
名前をシュトリ・アルカディアという。彼は理想郷の名を持ち、妹だというもう一人は哲学の名を持つ。
何ともこだわった変な名前だと言えば「君なんて猫みたいじゃない。確か、えっと、[[ミルヒ]]の国だと猫の名前はミケらしいね？」などと抜かす。
くつくつと笑う妹と鈴を転がしたように笑う兄の双子だった。
出会ってはならないと思う。もう二度と出会ってはいけない。
そう思っていたのだ。
　
　
本当に。
　
　
　
本当に？
　
　
「私の名前は姫沙羅、私を信じてくれる人のためにいる正義の味方だ」
「ひめ？　しゃら？　きさら？　面白い名前だねぇ、綺麗な音ばっかり並べたみたいな名前だ」

また鈴を転がしたように笑う。

「そうかなぁ？　綺麗な名前じゃない？　割かし」
「そうだねぇ、確かに音の響きは綺麗かも。でも君はどっちかというとアイスクリームみたいだねぇ、美味しそうな色だ」

何が愉しいのか、にこにこと、からからと笑う声はどこか淋しさを含んで。
初めて会うはずなのに。ぼんやりと覚えているような気さえしている。でもちゃんと心は否定するのだ。
こんな生き物は知らない。気持ちの悪い、得体のしれない生き物だと。しかし一粒の感情だけは肯定する。
彼は化け物なんかじゃなくて、きっと願いの形を固めて作って、折り合わせて。
まるで祈りの姿にも似た、滑稽な機械仕掛けの―――。

「改めて、私は姫沙羅、君は？」
「――――僕は…シュトリ・アルカディア。終ぞ、人が至ったことのない楽園の名を冠する、夢見る機械です」
「仰々しい感じだね」
「まぁ、本当に仰々しいものだからなんとも言えないのだけれど…タイミングは見つけられたようだね、何より」

ふと浮かべられた笑顔に冷たさを感じて身震いする。あぁ、これだから嫌なのだ、こういった類は。
本能が相手の首を跳ね飛ばした瞬間、肉体は崩れて落ちる。
しかし血が滲むことは無かった。まるで最初から無かったかのように。
砂に、空気に還る。

「やっだなぁ、酷い。首刎ねること無いじゃない、痛いんだからね、まったく」

変わらぬ笑顔で笑う男はゆっくりとその瞳を弓なりに歪めただけだった。
　
　
　
　
　
　
　
　
　    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:35:44+09:00</dc:date>
    <utime>1493220944</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/53.html">
    <title>ゆりかごの中は</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/53.html</link>
    <description>
      attention　この話にはNPCとの絡み及び捏造が入ります。ご注意ください。
また曲解が多々入るため、苦手な方はブラウザ右上の×ボタン、及び赤○マークの閉じるボタンをお願いいたします。




いつも僕は最後の最後で見逃してきた。
手が届くと思った答えの先に、例え何もなかったとしても掴み取るべきであった。
なのに真実は指の間をすり抜けていくだけで、掴むことすらできないでいる。
何も得られないまま過ぎる時間の最後は必ず一つの言葉で締めくくられる。

「僕はまた―――会えなかった」

記憶の中でも、現実でも探し続ける青い龍は声一つ聞けず、また言葉一つ思いだすことすらできなくなってきている。
サーバーの欠損率が著しく上昇しているわけでもない。
なら答えは簡単だった。《僕》の把握していない何らかの力が働き
その記録にだけは近寄らせないようにしていたのだろう。

「シュリ、どうした？」
「ああ、[[シトリー]]。またベッドの上で君と《こんにちは》してるね、僕」

シトリーの表情が暗い。
瞳は揃いのような青と赤のオッドアイになっている。
そもそも、彼女も自分も生まれた時は赤い眼を持っていたはずなのにどうして片目は青くなったのか。
その理由を自身は覚えていない。
サーバーに問いただしても理由のかけらさえ、出てくる事はない。

「シュリ、私は――」

いつもシトリーがこんな顔をするのには、きっと訳があるのだ。
記憶の障害。
アクセスできない個所。
そしていつも行きつく、あの大地の先で。
必ず目が覚めるとこの白いベッドの上にいる。

「起きましたか？　シトリー。[[シュトリ]]、気分は？」

家主である[[ミルヒ]]がさら、とした声で呼びかけてくる。これも何度目だろうか。
良く分からないが間違いなく一度や二度ではない。

「…ちょっと叔父上の所に行ってきます」

最近アークスの仕事から戻ってきた叔父にこの現象について聞いてみても良いかもしれないと思う。
しかし、叔父が自身をあまり好いていない事も分かっていた。
寝台から身を起こし、着替える。
そのまま彼の部屋まで続く廊下に出て、見知った姿を見た。
弟だった。
末の妹と同じく生まれた双子の男児。周りに興味のなさそうな姿。
誰かに似ていた。そう、自身の知る自身の姿に良く似ていたのだ。

「――ヒルト」
「…ああ、兄さんですか」

本当に興味が無いのだ、きっとこの存在に。

「叔父上は？」
「え、あぁ、アージェンスさんなら他の任務に行きましたよ」
「あ～、なんだぁ…入れ違いになっちゃったか。残念だ…」

冷静な叔父の意見を聞きたかっただけなのだが、ヒルトは一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたように見えた。
きっと嫌なのだろうなとは思うが、別に問題には感じない。

「兄さん、アージェンスさんに何を？」
「ヒルトでもいいの。ねぇ、僕はヒルトの知る上で、昔の僕と何が違う？」
「…何が、というと？」
「だから、何が違う？　昔の僕と、今の僕と。この数カ月の僕は何か異なった所はあるかな？」

これは他者から見る姿が自身の認識とどこまで違うのかを知るためだ。
ヒルトは嘘をついたりはしないだろう。そこら辺は素直でとても安心している。

「兄さんは気付いていないんですか？」
「何を？」
「―――僕には時折、貴方が別人のように見えることがあります」

それは印象ではなく全く別の生き物のように。
さらりと告げた弟の言葉が反芻されていた。
別の誰かのように感じたのは何故か。それは本当に別の何かがいる可能性がある。
自身の記憶を一定において管理するような別の―――…。

「ねぇ、ヒルト。その人は―――昔の僕に似ていただろうか？」

これは素朴な疑問だ。今の自身とその印象が違う《もう一人》がいるとして、ではシュトリという存在は一体何なのか。
どちらが本物なのだ。

「…僕の記憶の中で、という話ならアークスシップに乗る前の貴方と今の貴方は大分違います。
　逆に別人だと感じる貴方の方が、前に近いと思いますね」
「そっか…そうかぁ…」

つまりこの考えは間違いじゃなかったのだ。
ずっと感じていた違和感は間違いじゃない。弟に「有難う」と告げ、部屋に戻る。
ミルヒの姿はなかった。あるのは自身のサポートパートナー。
そしてサーバー素体の端末として置いているメイリールとアスレインだ。

「…メイリール」

いつも通りの返事をしてくる端末に一つ問いかけをするならば。

「エノワスサーバーの端末数は？」
「６２３体です」
「それは僕を含めてか？」
「はい」
「ではもう一つ。管理サーバーは《リオキシス》《メイリール》《アスレイン》《フェリクリウス》《エマー》の
　五基で間違いないか？」
「―――いいえ、サーバーは六基です。○◇▲×※が足りません」

認識できない言葉がある。
明らかにアクセスできないこの言葉こそ上位の存在がいる証だ。
どうして気付かなかったのだろう。こんなにも記憶が曖昧なのは何故だったのか。

「そのサーバー名を教えてくれ、アスレイン」
「○◇▲×※だよ」
「――――シトリー」

自身の様子を隣の部屋から見ているであろう半身に声をかけた。
シトリーはゆっくり扉を開き入ってきた。
なるほど、テラスにいたのか。雪空が見えるそのテラスは家主のミルヒがとても気に入っている風景だという。
白く続くこの風景は自身もとても気に入っていた。

「シトリー、彼らは何て？　何と言っている？」
「…アルカディア…と、そう言っている。サーバー・アルカディア。お前と同じ名のサーバーだ」

その名が聞こえなかった理由は一つだ。
このサーバー名を《この僕》に知られてはいけなかった。
五つのサーバーのみが活動していると思っていた認識をずらしてはいけなかったのだ。
そう《シュトリ》という存在の在処が《自分》ではないという事実を。

「シトリー、僕はシュリかな？」
「勿論だ！私の兄にして半身たる男だ」
「その理由は？」
「…お前の記憶を私の力で弄った。それが適応されるのは《シュトリ》たるお前だけだ」

シトリーは目を伏せる。【追随と創現の記手】。
サーバーに記憶を持つ【理路整然の黙示録】たる自身。
それに強制書き込みを可能とする力はシトリーにしか使えない。
その役割を担った日から彼女はどこか淋しそうに言ったのを思い出していた。

『こんな力がなくとも、私とシュリは半身で、考えている事を隠したりはしないのに』

と。
その彼女を騙している男が《シュトリ》という男ならば、そいつは正真正銘最低最悪の屑だ。

「シトリー、僕は何度も《彼女》を思いだそうとした。その度に起きるとベッドの上…っていう状態を続けている。
　間違いないね？」
「ああ、間違いない」
「なら、その理由は？　怒らないから教えてよ」

シトリーは口を噤む。あまり言いたい事ではないのだろう。
…ならば一つだ。彼女を安心させるために、ここから先に進むために、やらねばならない事がある。
シトリーの手を取って強く引いた。体勢を崩したシトリーは床にぺたりと座りこむ。

「シトリー、【追随と創現の記手】を使ってほしい。僕の言う通りに言って」
「嫌だ、もう使わないと…」
「使ってくれ！　真実が分かるかもしれないんだ！」

この廻り廻る連鎖の答えを知ることができるかもしれない。
サーバーにアクセスを開始する。メインサーバー名はリオキシスと表示されていた。
つまり自分のメインサーバーは《リオキシス》なのだ。

「…シュリ―――」
「いいね、シトリー。僕は何があっても君を裏切らない。さぁ、言ってくれ」

シトリーは呟く。その言葉は強制的にサーバーへ接続する言葉だった。

「サーバーへアクセス。サーバー名の確認、端末番号の表示」

彼女の持つ小さめの端末モニタに指示を出して、シトリーにその通りに言うように伝えた。
これで何があっても保険は掛かる。

『サーバー名、リオキシス。端末番号【006】です』

シトリーは目を丸くした。端末番号の数が明らかにおかしい。
《シュトリ》という存在は間違いなく端末番号など持たないか、もしくは【000】でなくてはならない。

「【006】をリオキシスのメイン回線から剥離。回線能力を維持し、以下強制的権限は《記手》に依存する」

カチンと頭の中で何かが変わるような音がする。
サーバー内に広がる空間はとても広く、美しい森のようだった。
森の木は皆、自分と同じように《作られた》であろう存在。もともと一本しかなかった木を単純に増やすのではなく
状況に応じた形で増やしていった結果がこれだ。
《自己を最初の一本》だと誤認することで、皆が等しく《シュトリ》本人だと思って生活しているならば。
一人一人の《シュトリ》は自分の考えのまま《もともと与えられた目的のため》にしか動かない。
それが自身の意思だと信じて疑わないからだ。
【006】とナンバリングされた自身がそうであったように、残りの６２２人も皆、同じなのだろうか。

「…シュリ、これは…」
「協力してくれて有難う、シトリー」

シトリーはただ静かに頷くだけだった。彼女には何が起こっているのか分かったはずだ。
目の前にいる男は《自身の半身》のコピー、もしくは人形なのだと。

「シュリ」
「僕は【006】だ、そう呼んで？」
「……【006】。何がどうなっているのか教えてほしい。少なくともお前が《シュトリ》本人ではないことは分かった。
　じゃあ本人は何処に？」

サーバー内の森には複数の個体意識が保管されている。
いくらでも書き換えができる保存媒体と同じ。
このシステムを作り、管理・運用しているナンバーを持たざるものこそが《シュトリ》なのだ。
ならば本人とされる個体もまた《シュトリ》本人ではないのだろう。
生まれの肉体は本体でも、その脳は本物でも。
脳と記憶、そして人格といった精神的概念からすれば《シュトリ》とは、本人を含めた６２３体の端末の総意にして総称。
つまりサーバー・アルカディアこそがシュトリ本体に違いない。
ここにいる自分も本物。
そして肉体を保持するものも本物。
そうでなくては存在が成り立つわけがない。
なのに不思議なのは、自身の他に違う《シュトリ》がいても、自分もまた《シュトリ》で。
他のもまた同じく《シュトリ》なのだろう。

「シトリー。サーバー・アルカディアの場所は不明だ。
　でも、少なくとも僕は君の力でアルカディアの管理から逃れた。だから…何にも惑わされずに判断できる」
「何を…だ？」
「僕は君の双子の兄であり、兄じゃない。そして君の知る兄はもういないんだろう。
　それでも一番最初に六基の長たるサーバー・アルカディアが接続された個体を本物と呼ぶならば。
　いや本人が正しいのかもしれないけれど。
　この状況を作っている個体、彼こそがアルカディア。６２２体の別個体を全て管理し、データを保存し。
　何もかもを理解した上でこの選択肢を選んだヒト。
　６２３体で構成されるサーバー・アルカディアの長。
　それが君の知るシュトリ・Ａ・リマジュエール・エノワスその人かもしれない」

まるでその言い方が気に入らないという風にシトリーは首を横に振る。
自身の双子は、半身は。
《昔からずっと》生まれてきた時から《ずっともう人間ではなかった》のだという事実を。
前サーバーを担っていたキチェル・エノバは表向きでは《シュトリ》と同じ脳障害であったとされていたが
実際は違っているし、何よりもここまで機械として、システムとして成り立つ存在を
人間と呼ぶことはないだろう。
サーバー・リオキシス内に残っているデータの中で曖昧だった記憶が一つ一つはっきりしていく。
繰り返される記憶からデータを巻き戻す意味を。
そしてその記憶さえも【006】という個体のものではないことも。

「僕は…君の兄の姿をしたただの―――」
「言うな！　お前はこのシトリーの双子の兄にしてエノワスの王子。お前がシュリだ、私の―――」
「違うよ。そうじゃない。でも、僕の記憶に君はいる。
　きっと沢山の個体の中に君はいるんだ。まぁ、双子だったのが６２３人になっちゃっただけだよ。　
　大した問題じゃないって」
「…それ、大した問題だな？」

くつくつと笑いだしたシトリーにつられて笑う。
理由が分かれば何も怖くなくなった。記憶の中でリフレインされる真実がなんであっても。

「あの龍を失った時の記録が欲しいんだ、シトリー」


◇◇◇


意識レベルにおいて、サーバー内は森のようになる。
一人一人の人格こそが一本の木であるように。
しかし、枝葉は落とされなければならなかった。邪魔な枝は森に必要ないはずだった。
しかし、その木は、着実に他の木よりも大きくなる。
でも、その枝はもう―――落ちない。


◆◆◆


記憶の中にあるのは、いつでも同じ顔の人間が死ぬ姿だった。
エノワスを、あの惑星を支えてきたサーバーを分割し、そのまま時は流れて１１年もの月日が経過している。
目的を叶える為ならば手段を選ばなかった。
潰した国や企業はもう数十を越えている。
文明の違いを良い事に、人を騙し、そして得た大量の物資は全て移動型移住艦の建造に使われた。
あと少し。あと少しで、あの惑星の人口全てを移住させるための艦が手配できる。
艦にはその先何十年もを生き抜く準備は整えた。
移住先の候補もいくつも準備してある。
惑星を見捨てる代わりに得るのは文明の維持とそして守りたかった自身の保全だ。
一人の我儘で大量の人間が巻き込まれる。
でも、いずれ皆死に至るならば、例え何と言われようと何が起ころうと。
殺されようとも気にも留めなかった。

「【105】がロストしたか――…あそこの鉱石は特殊だ。直ぐに【105】をもう一度準備しなければ」

サーバー・フェリクリウスへ指示を出し、各地に準備してあるラボに作成指示を出した。
今年はロストする素体が多すぎる。

「ねぇ、アルカディア・エノバ。これはどういう事？」
『――うーん…どういう事とは何についてかな、シュリ。僕は君で、君は僕。
　脳に送っているデータは全て同一だ。何の認識もずれたりなどしていないよ？』
「シュリは、リオキシスにいる【006】の調整についても問題だと思っている。アルカディアは何もしないけど、理由は？」
『…シュリ。その理由は自分自身に問うているのと同じだと理解して敢えて言っているな？
　答えは明確だろう。【006】は必要だからだ。この【アルカディア・システム】に』

その声ははっきりとしている。
サーバー・アルカディアことアルカディア・エノバこそ《シュトリ・Ａ・リマジュエール・エノワス》その人だ。
そして自身もまた同一人物として《作られた》一人である。
６２３の端末。
それの主はナンバーを持たない唯一の脳。
今までの管理者がしなかった禁じ手を使い、核であったメインサーバー・エノバを乗っ取り
その本体と自身の脳を組み合わせて新しいサーバーのシステムを構築したその人こそ、本物だ。
自身は恐れ多くも、その《本物》と常に同期しつづける電脳を与えられ、本物の肉体を素材にしたアンドロイド。
それがこのシュリの姿だ。

シュリは【アルカディア】でならなくてはならない。
シュリこそが本物でなければならないのに、どうして【006】を必要とするのだ。
同じく、同一の存在だと言いながら、自分には【006】が必要だとする理由が分からない。
目標まであともう少しだというのに、このバグを修正しなければ、最後の最後で失敗してしまうんじゃないのか。

「アルカディア、シュリは提案する。【006】の削除を――」
『その恐れは何に対しての感情だ？【001】。お前はシュトリ。
　このアルカディアと同一たる唯一の端末だ。この程度で狼狽えるなど許さない』

感情のない声で【アルカディア】は言う。
確かに同じ存在なのに、体の中にいる感覚は一緒なのに。確かに別人のように感じるのはきっと。
この体の持ち主は―――本当の持ち主は【アルカディア】だからだ。
自身とて本物の《シュトリ》ではない。
だからこそ不安なのだ。【アルカディア】が『いらない』といったらそこで終わる。
【006】と交換と言われるかもしれない。

「シュリは―――シュリは…」
『分かっている、大丈夫だよ、シュリ。君は僕だ』


◇◇◇


夜はとても静かに時間の流れを受け入れる。
ぼんやりと光るライトは妙に眠たさを促していた。答えはいつ頃からか何となく分かっていたように思える。
僕は本物じゃなかった。
全て作りモノは僕自身だった。記憶も何もかも。
それでも僕は僕であると、そう思える何かが欲しいと願うのは駄目なのだろうか。
扉が開く音に振りかえる。
砂金色の髪をゆるやかにおろした双子の妹は自身の横に立つと不安げに笑った自分にふわりと目を細めて笑った。

「僕はさ、シトリー」
「なんだ？」
「本物の僕は、《シュトリ》は、きっと君を裏切りたいと願ったわけじゃないと思う」
「分かっている。当然だ。シュリはそんな性格ではない。例え苛烈であっても、元々の性質的に不可能だ。
　あれは他者を排除できない。昔からそうだった。ずっと。
　母が死んで、拍車がかかり、今となってはもうそれが当たり前になってしまっているのかもしれないが
　《シュトリ》という人間は、他者に望まれた姿を写しだそうとする鏡そのもので、そして
　鏡は受け入れることを拒否したりなどはしない。写り込むものを否定することなどあり得ない。
　だからこそ解せなかったんだ。どうしてシュリは【あの龍】の記憶を消されることがあんなにも嫌だったのか」

シトリーにとっては大したことではないのだろうと思う。
しかし今の僕には良く分かる。彼が望んでいたのは、たった一つ、忘れないための祈りと。
たぶんそうまでして守り抜かねばならなかった。妹も持つ必殺の手から、自身の記憶を。

「シュリ、覗いてみないか？　お前が知りたかった《シュトリ》そのものの記憶を」
「そんな悪趣味な事を――――…」

覗いてみたいと願うのは当たり前だ。
自身の主そのもの、自身の大本そのものの存在を知りたいと願うのは当然のことだろう。
だからこそシトリーはこのタイミングで聞いてきたのだ。あの《龍》のことを。

「……僕は、あの龍がどうなってしまったのかを知りたいよ、シトリー」
「……分かった。ならそのあたりだけを見る事にしよう、それならばいいだろう？」



　＋＋＋



僕は忘れてしまっていたのだろう。いや、きっとサーバーの中に答えが無かったのだ。
覚悟を決めるのは、いつだって運命と向き合うことを決めた時以外にあり得ない。

「…つまり何だ。これは。あいつは私を騙す為に、カミツにさえも協力を仰いだか」

覗き見た記憶には、彼と青い龍が映っていた。
サーバーの中から逆再生された記憶は、薄ぼんやりとしてはっきりはしていなかったが確かに。
確かに、その龍は《彼》の心を動かしたのだ。
止めた時間を、止まった感情を全て動かして、そして《未来を見据えるために》
願う先の未来を手に入れるために、手を伸ばすことを覚えさせた。
《彼》の行動は実に坦々としていた。
シトリーを騙す為にもう十年も前にロのカミツに協力を仰ぎ、《自分と同じ顔》の存在が来たら
何度でも《かの龍》が死んだ事を思い出させること。
そしてシトリーが来たら、一度協力し、必ず【追随と創現の記手】を使わせること。
シトリーの性格をよく知っているからこそ、その力を使わせた後の素体がどうなるか理解していたのだ。
そう、その《素体》こそが【006】である自身。
必ず【追随と創現の記手】を使えば、記憶の欠けた素体は暴走するように仕掛け
そしてシトリーはそれに対処するために記憶のループという手段をとるしかない。
そう仕向けて、彼は。

サーバー・アルカディア自身に【追随と創現の記手】が使われないようにすることを望んだのだ。

「イズハルアに言うべきだろうか」
「シトリー、それはやめてほしい。そんな事をしたら、僕も、彼も皆…」
「でも、ハルアはあの男を信じて今も一人で王宮の化け物たちと戦い続けているんだぞ？
　そんな不条理あってたまるか。シュトリは間違っている。でも…私は―――こんな選択を選んだ半身を止める術がない」

何故？とは聞けなかった。
それは目の前の自分と、そして半身に国と共に死ねと言っているのと同意語だからだ。
イズハルアに報告すれば必ずシュトリ本人は王国に戻ることになるだろう。そして自分もだ。
今現在、イズハルアに昔持ち合わせていた未来を見る力も、人の心を読む力もない。
それは当然だ。彼女は、エノワスの王となるために、この【006】と。
僕と、能力を交換したのだ。左手の小指を入れ替えるといった術式と犠牲を持って
《彼女の能力》と《シュトリ本人から譲渡された中途半端な能力》を交換し、今の彼女にその力が無い。
その代わりに、気象を操る能力を、かの気象現創を手に入れた。王となるためにそれは必要なことだった。
だからこそ、イズハルアは気にもしないで。
信じていたのだ。目の前にいる男が、まぎれもなくシュトリ本人であると。

「僕と交換させることで……彼はイズハルアの力さえも奪うことに成功したのか」
「そうだ。でなければ、イズハルアはとっくに気付いていてもおかしくない。シュリは分かっている。
　能力を理解し、自身を理解し、そしてシナリオを誰にも気づかせないために何度も何度も修正してきた。
　ここまでの大きなミスを、リスクを負ってでもな」

今の僕の結果が、《シュトリ》の本意ではないと、そう思いたい気持ちもある。
しかしきっとこれさえもが計算されつくした結果ならば。ならばどうして。
彼はこんな風に【006】などという不安定な存在をこのアークスシップに残したのか。
その理由を何となく分かってしまうのは、この艦にいるならば、あの空を。
高く羽ばたいていた、あの青い龍への感情と交わした約束を忘れずにいられると思っていたのだろう。
機械のように生きるしかないと確信したその時に。
それでも機械は、忘れないことを選んだ。
それでも機械は、笑いあえる事を選んだ。
それでも機械は、夢を見ることを誇った。

そう彼は、機械だと分かっている自分自身を。たかがシステムになり下がった自分自身を。
それでも後悔などはしていないのだ。

たった一つの約束を違えないために。掴むべき奇跡を、自身の手で握るために。
それをいつまでも記録し続けるために【006】はこの船に乗せられていたのだ。

「シトリー、僕は彼に会いたい」
「会えるわけがない。強制的に呼びだすことなども不可能だろう。お前が下位サーバーの存在である以上は流石に駄目だ」
「あるよ、方法はある」

そう方法はある。
彼は【006】を消したいわけではない。そう、この僕を消してしまっては困ると判断している。
ならばそれを逆手にとって、動揺した隙に【アルカディア】に直接接続してみればいいのだ。

「シトリー」
「【追随と創現の記手】で、お前に働きかけろというんだろう？　あれをおびき出す為に」

シトリーは深くため息をついた。そして部屋の中に戻ろうと促してくる。
家主のミルヒは当分の間、任務のために部屋をあけると言っていた。丁度良いタイミングだ。
寝台の上に座り、緩やかに微笑めばシトリーは言おうとしている事を全て理解しているような素振りで首を縦に振る。
シトリーはもう言葉を重ねることはなかった。
脳内に広がるのは深い森の姿だ。その一本が黒く染まり、見る見るうちに枯れていく。
これは僕自身の端末の姿だ。こうなれば、管理をしている本人がこちらに赴くしかない。
光のようなものが目の前を通過して、そして意識は一気に隔絶された。
まるで井戸の下から見上げるように、意識は遠のいていく。
しかし、はっきりと見えたのは。木の傍で佇む自身と同じ顔をした男の姿。
片目を赤いバラの飾りで隠し、そして手と足は電子化されているのか、赤とも言えぬ紫とも言えぬ、そんな色を
緩やかに讃えていた。

『酷い事をしてくれたものだ。お前も、シトリーも』

明らかにこちらに向かって話しかけているのだろう。纏った漆黒は容認を表す黒だった。
首を傾げながら自身の端末を一瞬で再生させた。緩やかに笑ったその姿は酷く自身の記憶の中の自分と似ていた。
《シュトリ・Ａ・リマジュエール・エノワス》
それが目の前の彼の名だった。確かに、その人なのだろうと感じる。

『お前たちがこんなことをしてくれたおかげで、シュリは疑心暗鬼になるし
　君以外に《リオキシス》に繋がっていた多数の《僕たち》は同じようにエラーを起こしてくれて大変だった。
　手間をかけさせてくれるね、酷い酷い』

坦々と語る男の姿は本当に、静かだった。
行為を咎める様子はなく、既に人間とは呼べない彼は静かに笑うだけだ。
木に触れる。枯れていた木を撫でながら静かに笑い続ける彼との距離は縮まることはない。
触れることは決して許さないといわんばかりに距離は一定だった。

「僕は、貴方の端末だ」
『そうだ』
「貴方はどうしてこんなことをしたいと思ったの？　シトリーやハルアを騙してまで」
『答えは分かっているはずだけれど？【006】。お前にはそれがあるはずだ、その記憶があるはず。
　メインサーバーを脅し、こんなところにまで呼び出したんだ。本当に聞きたい事を聞くと良い』

そして彼は天を仰ぐように首をそらした。

『シトリー、君もだ。聞きたいことがあるのならば問うがいい。答えられる範囲で答えると約束する』

口調はあえて静かなままだった。覚悟を決めてここまで来たのかもしれない。
彼が僕と同じ存在で、僕の根底そのものであるというのならば答えは明確だ。
罠の中に飛び込む段階で、何があっても生きて残る算段はついている。

「いくらでも質問していいの？」
『勿論だ。そのためにここまできた。それ以外に時間を取った意味がない』

その言葉に反応したのはモニタを介してこの映像を見ているであろうシトリーだった。
彼女が震えぬわけがない。こんな言葉を前にして怒りを覚えぬわけがなかった。そういう女だ。

《では、聞こうか、我が半身殿。どうしてこんなことをした？》
『明確な答えは出ているはずだが？』
《答えろ、シュリ。どうしてこんなことをした？　お前のクローン素体を作り、これをしている理由は何だ？》

そう。僕たちは分かっている。
彼がどういった手順でこの状況を作っていったかなど。でも分からないのは。
自身と繋がるサーバー・リオキシスから読み取れない内容の段階で、きっと自分以外の別の《シュトリ》も知らないのだ。
知らされるわけもない、たった一つの枝に大樹の意思は芽吹かないように。

《ハルアを騙し、私を欺いたその訳を教えてもらおうか》

シトリーの言葉に彼は苦く笑った。
そして距離を感じたその存在はやんわりと距離を詰めるかのように自身に近付き手を差し出す。
そうしてやっと気付いた。自分は思考の海に、この森の中に座り込んでいた事を。
そのまま差し出された手を掴んで立ちあがると、妙に顔色の悪いその男が困ったように目を細めるのを見逃さなかった。

『昔々、一つの惑星に文明が栄えました』

声はとても柔らかい。

『その文明は大きな空の、その先の星の力を使い、大きく大きく文明を育てていきました。
　そして文明は気付きました。自身達が住まう惑星そのものを管理する力を手に入れれば
　もっと生活が豊かになると』
《そう、その力こそが気象現創。故にかつての管理者たちは皆気象を操る力を持っているはずだった》
『惑星を管理していたものたちが、危機に気付いたのは文明が発達した後でした。
　文明によって空の星は力を失い、このままでは共に生きている惑星も一緒に滅んでしまうと知ったのです』

そうこれは、かつて母星にあったお話。
昔話のように語られるそれは、今もなお続く恐怖の象徴だ。故に《シュトリ》は考えていた。
故に《イズハルア》は悩んでいた。
失ったはずのかつての文明が少しずつ前の形に戻ってきていること。そして空の星と呼ばれる恒星が死に絶える前に
何とか文明を消し去り、恒星の命を長らえること。
文明を破棄すれば、《シュトリ》は死ぬだろう。命を繋ぐことはできてもその存在を維持できない。
文明を放棄すれば、最後の王として《イズハルア》もまた愛する民に殺されることになるだろう。
文明を維持できずに滅びを呼んだ王は処されるべきだと。

その未来を誰よりも嫌ったのは、目の前の【彼】であるはずなのに。
ならばどうしてこの話をするのだ。

《シュリ、私が聞いているのは》
『シトリー、僕はね。惑星を救うつもりはない。残念ながらそれは不可能だと知った』
《……百歩譲って、それを良しとして。ならばお前は何をしている。
　アークスをやる必要もない、サーバーを持ちだす意味は何だった？
　そして【006】含むお前の素体を作る意味は》

その答えを彼はきっと言うのだろうと思った。
こちらの肩にポンと手を置き、笑ったから。

『答えは簡単だよ、シトリー。僕は惑星を救わない、文明を残す為に惑星を滅ぼす。
　その代わりに、あの惑星に住む人間を他の星に移住させるんだ。全員、ね』

何を寝ぼけたことを、とシトリーは吐いて捨てるように言った。
でもそれが真実。彼は嘘などはついていない。本気でそれをするつもりなのだ。

『多くの人間を箱舟に乗せるには、その箱舟を準備する必要がある。システムを分解し、再度構築し。
　そして惑星を旅立つ時に困らないくらいにはしなければならなかった。だから、僕は…。
　僕以外の《使い捨て》を沢山準備して、僕という端末をいくらでも替えがきく存在にすり替えた。
　いや、正しい形にしたと言った方がいいのかもしれない。
　僕は端末として存在していながら、管理者だと位置付けられていたそんな存在だった。
　エノワスは【理路整然の黙示録】の存在を見誤っていたんだよ。このシステムは、この存在は。
　【最初】から、システムを管理する人間を【喰っていく】ことで成長するものだった』
《…まさか、お前は。システムを、あのキチェルから引き継いだエノバのシステムそのものを喰らったというのか？》


自身の知る限り、前サーバー管理者であるキチェル・エノバが残したシステムは。
最初のサーバーである《エノバ》と呼ばれるサーバー・コアの一部を脳に移植し、それと直接リンクすることで
利用できるものだった。
しかし彼が言っている事は違う。《エノバ》を喰らったといった。
最初の電脳にして、コアであったハズの《エノバ》と呼ばれるその存在に彼は自身の脳をすり替えたのだとしたら。
《エノバ》含む全てのサーバーは元より、古代人の脳を何らかの形で加工したもので作られていると聞いている。
つまり、その装置に自身を填めてしまったのだとしたら、もう彼は。

そう《シュトリ》という男そのものは。

『エノバはもういない。そう、アルカディア・エノバと呼ばれたその存在ももう無い。
　エノワスでは【理路整然の黙示録】と呼ばれたエノバ・システムは、その存在を失って形を変えた。
　この僕がそれをした。この僕が、それをするしかなかった。そうしなければ、僕は』

彼は言葉を飲み込むように唇を噛んだ。

《お前は消えてしまったのだと、そう言いたかったのか、シュリ。お前はお前を失いたくなかったと。
　ただそれだけのために、ハルアや私達家族を…》
『そうだ。何とでも言えばいい。君の半身はそういう男なんだ。僕は自分が可愛いばかりに
　惑星に住まう人間達そのものの運命を、人生を、全てねじ曲げようとしてる。そんな奴だよ。
　自分勝手で、傲慢で、まるで神様みたいに人の命を弄んで。
　…―――それでも』

そうそれでも彼は選び続けるしかないのだ。その選択肢を、必ず。

『僕は、僕の死ぬ未来も。ハルアが殺される未来も、全て回避してみせると決めた。奇跡を願っているとそう思うか？』
《夢物語を語るな愚図が。叶うはずもないものに縋るのは馬鹿がすることだ。奇跡は起こせない、お前は》
「…どうして？　シトリー、どうしてそんなことをいうの？」

つい発した言葉に、目を見開いたのは【彼】の方だった。
言葉を呑んだシトリーは、画面の外でため息をついたに違いない。どうしてお前が味方するのだと。
でも味方しなければならなかった。彼はその奇跡を起こす力を手に入れるために、あれほどまでに拘っていたものを。
あれ程までに否定したかったものを。
全て自分に受け入れてまでも選んだ道なのだから。

「誰だって奇跡を望むよ。誰だって希望を選ぶよ、そうだろう？　シトリーだってそうなはずだ。
　願わくばシュトリが、自身の知る兄のままであってほしいと、そう願っていたのは君だ。
　僕だってそうだ。願わくば君の兄でありたかったと、本当の兄でありたかったと思ってる。
　でも違った。僕は本物ではなくて、今ここにいる【彼】が本物のシュトリだ。
　そんな現実だよ、決して間違っているわけじゃない。でも理不尽な運命だと思う。
　でも人は、それでも。その理不尽さを受け入れ続けるだけでは生きていけない。自分はここにいると。
　それでも奇跡や未来を願って生きるのは普通の事なんだよ」
『お前はそう思うのか？　【006】。お前は過去の、そうアークスシップに乗った後の僕のデータを元に
　精神プログラムが組まれている。故に、研究ごとには真面目に向かうようにしてあったはずだが…
　そんな思考を？』
「…シュトリ。僕が貴方に言えるのは、貴方が塗り替えて作り替えた新しいシステムは。
　貴方が思っているよりもずっと優しく、そして残酷なものだよ。精神プログラムの同期は確かに成功してる。
　でも別の因子を。例えばその同期したデータから大きく外れる出来事…ファクターが追加になった時。
　それは《貴方の作ったコピー》の人格ではなく、その体が持った人格になり変っていく。
　きっと多くの《僕の兄弟》が同じような事になっているはずだ。それでも貴方のシステムは壊れなかった。
　なぜなら、それすらも貴方はシステムの中で演算していたからだ。
　そういった個体そのものの人格形成を、個性を、それさえも奇跡を生み出せる過程と信じて残した。
　だから貴方は……僕を消したりしなかった」

彼が大事にしていたその記憶と共に。
奇跡を掴むきっかけになるのならば、どんな要因でも縋った。
そうして彼は、沢山の死と生を受け入れ、時には自身でその死を受け入れ、そして。
一つのアルカディアとしてのシステムを作ったのならば。
もう、彼は人間ではなかった。
誰よりも人間でありたいと願った彼が、人間をやめた時に。その人間が何であるかを知るためだけに。
そのためだけに、覚えておくためだけに。
彼は可能性を捨てずに、そのエラーを、バグを愛し続けた唯の夢見る機械だったのだ。
その機械は夢を見続けている。
例え人格を失ったとしても、人間ではなくなったとしても。彼の見据えた、願う先の未来のために。

「貴方が望んでいるのは、惑星に住まう人全てを別の場所に移すこと。文明を新たに築かせること。
　そのために貴方がしているのは。多くの《僕の兄弟》達を動かして、世界中を駆け回って。
　……未来を得るための金を稼いでいるんだろう？　居住型移送艦の建設には莫大な資金が必要だもの」
『…データを分析した……わけではないな。流石は僕といったほうがいいのか、それとも【006】。
　お前がとても察しの良い素体であると褒めるべきなのか。
　どちらにせよ、君はどうするね。僕に使い捨てにされるのは嫌だろう？』
「嫌ですよ、そんなの当然だ。僕が貴方に要求するのはただ一つです。サーバー・リオキシス自体を。
　貴方のシステムの独立した配列に組み替えてほしい。そしてできればその権限を僕に下さい。
　僕は貴方に協力する。貴方の願う資金繰りだってする。サーバー・リオキシスに繋がる僕の兄弟ごと
　貴方は僕にあのサーバーを譲渡してほしいんだ」

息を呑んだように目を丸くした後、彼はゆっくりと笑った。
くつくつと声をあげて、彼の人は笑って真っ直ぐに手を伸ばし、そのままこちらの頬を指で撫でる。
何と愚かなことをしているのだと、創造主に向かって何を言っているのだと。
彼はきっとそんなことを言うのではないかと思った。
なのに彼は、あっさりと頷く。

『サーバー一つで満足できないとか、そんなことは言うなよ？　もう一人の僕。
　リオキシスはくれてやる。もともとそのつもりでシステムは独立してある。
　故にリオキシスからはデータが見れないのだ。どうせ、シトリーの改竄を受ければ、何かしらあるとは思っていたし
　それに…』
「それに？」
『あの船は特別だ。君がずっとあの船に乗り続けるというのならば、サーバー一つ惜しくない。
　どう頑張った所でサーバー・リオキシスはこのアルカディアの下位サーバーであるのは間違いないのだし。
　譲渡は不可能だが、管理者を君にすることはできよう。よろしく頼むよ、【006】。
　どうか君が、君の願う先の未来を手に入れられますように』

とん、と肩を叩いた指は軽い。
その手を取ろうと手を伸ばした瞬間には遅かった。
脳内の画像は真っ白な部屋に移り変わり、森はもう見えなかった。ただぽつんと、青い雪が降っている。
雪じゃない、これはきっと鱗なのだ。
結晶の欠片と共に見える、青い龍の鱗片。彼の愛した、その記憶を。

「僕に全部おいていくっていうのか。貴方の愛したそれを全て」

欠片に触れた週間、どうして記憶の中の龍が空をかけていくのか。
そしてどうして彼はイズハルアに《龍は空にいる》と告げていたのか。翼を失ったはずの青い龍は確かに。
彼の中では美しい青い空を、彼女の望んだ空を。
ただ美しい翼を広げて飛んでいたのだ。補完するのではなく、ただ彼が。
決して叶わない願いの先に、彼女を記録した。そんな彼女の幻影を―――多くの僕らは。

ただ愛し続けるしかないのだ。


　＋＋＋


接続が切れた先、目の前のシトリーの顔が酷く落ち込んで見えて首を傾げた。
どうして彼女が落ち込んでいるのか良く分からなかったからだ。
シトリーからすればきっと不毛な会話に聞こえていたのかもしれない。でも、僕には十分だった。
十分すぎるほどに彼は《シュトリ》そのものだった。だからこそ、安心したのだ。

「お前は馬鹿だ、【006】。あんな奴とっちめてやればよかった」
「いいよ、別に。彼は分かっていたから来てくれたんだ。僕がもう気付いてしまっている事。
　君の改竄を受け入れている事を。本来なら君に命令される可能性がある状況で君の所にはこないだろう？
　なのに来てくれた。君と僕を信じたから来てくれたんだ」

その言葉を聞いてシトリーは再度ため息をついた。
何一つとして現状は変わっていない。だが、きっとシトリーはイズハルアに言うことはないだろう。
この真実を告げるほど彼女は愚かではない。
そして僕もまた、それを誰かに伝えたいと思わなかった。

「僕さ、シトリー。彼に会ってくるよ」
「は？！」
「だから、彼に会ってくる。時間旅行してくるね。きっとこの辺りに来ているはずだ。
　でなければこんなにあっさりと現れるわけもない。だから君もよろしく」

ふんわりと笑って手を差し出せば、シトリーはただしぶしぶ握り返すだけだった。



◇◇◇


回線は流転していた。くるくると回る情報はコンソールを叩く指先から逃げていくようだった。
マザーシップに停泊しているロードサリファに客人が現れたのは、丁度その頃である。
白い、その欺瞞に満ちるような白はいっそ清々しいほどに美しく見えた。
青銀の髪が巻きあがる突風に揺らされている。

「やぁ、シュトリ・アルカディア。最後の納品かな？」
「ええ、ルーサー。貴方に頼まれた最後の素材を持って参上しましたよ。しかし、どうしてマザーシップに？」
「いいじゃないか。許可は出しておいたから普通に入ってこれただろう？　さぁ、寄こしてくれ」

小さい銀製の箱に納められたその物質を彼に手渡ししてサインを貰う。
これで彼からの長きに渡る仕事もお終いだった。

「貴方とのデータの件に関しては」
「ああ、昔からの協定通りに、今回の件を持って君を含む端末には、僕の事は残らない。それでいい」
「わかった。全サーバーへの告知はその後にでもしておく。データは抹消される。
　残るのはアルカディアの中にだけだ。それでいい？」
「ああ、それで結構。――――さて、君との話はお終いだ。アルカディアに代わってくれ」

彼はそう言ってゆるりと笑った。彼の望んでいるシュトリは、自身ではないというのは分かっている。
いましがた戻ってきたばかりの本物の《シュトリ》を出せと言っているのだ。
自身と常に同期しているから分かってはいるだろう。そのまま精神を入れ変わらせるかのように、体の接続先を
サーバー本体に切り替えた。

‐
‐
‐
‐

「…で、ルーサー。何の用事で？」
「何、君と話がしたかった。どうせ最後なんだ、少しくらい、いいじゃないか」

ルーサーが何を言いたいのかは分かっていた。
彼は現状を理解している。アルカディア・システムを考案するために彼の力と知識を借りたのだからそれは当然だ。
ルーサーは知識を与えることを惜しむ人間ではなかった。
科学者そのものと言ってもいいほどに、実験と結果には効率など求めないし、何よりもその過程を楽しむことさえ
彼にはできる素質があった。
そして長く、二年にも渡る技術提供を惜しみなくしてくれた彼に感謝の念すら持っている。
敬意は払えない。この男の底は知れないし、この男は全てを得るためなら一瞬で他の物を犠牲にするくらいは
平然と行えるだろう。
その対象に、間違いなく自分が含まれていても関係ない。彼は犠牲にする。大凡十年の見守った、この末路さえも。
だからこそ信用ならなかったが、それでも彼自体は誠実なのだ。
どんな時でも、自身の欲望にだけは。

「何を知りたかったの、ルーサー」
「君は僕が何を知りたいか考えたりしなかった？　そのシステムで君は僕を演算しようとしてみなかったのかい？」

彼の問いかけは不毛だ。興味のないものを、このシステムは演算などしない。
金にならない話は、基本的にしたくない。時間の無駄だからだ。

「して意味があるならしてる。お金の匂いがしないから、貴方をね、ルーサー？演算する意味が分からない」
「酷いね、一応君のパトロンの一人だと思っていたんだけど」
「冗談でしょ」
「すまない、冗談だ」

ひらひらと手を振って彼はゆっくりと近付いてくる。
形の良い手でするりと頬から首筋を撫で、左胸の上に指をとん、と置いた。
冷たい体温。鼓動の少ない体。既に脳とは切り離されたこの体は、キャストの体と同意語だ。
ただそれがもともとの自身の体を元にした生体パーツであるということだけで。

「アルカディア。昔、君に言った質問をもう一度していいかな？」
「……」
「君は、人間か？」

その言葉の意味を彼は知っている。
そして彼はこの十年、ずっとこの言葉を待っていた。彼はこのアルカディアから。
《シュトリ》という存在の本質から、たった一つの言葉を聞くためだけに十年間もずっと。
ただただ協力を惜しんだりはしなかったのだと。

「……これで満足か、ルーサー」
「ああ、満足だよ、アルカディア。君のそんな表情が見たかった」

きっと苦虫を噛みつぶしたような顔をしているに違いない。
彼はたった一言、この言葉を聞きたかった。

「…最後にもう一度問おう。体を脳を切り離し、サーバーがなければ記録すらできない君は人間か？」

認めてしまえばきっともっと楽だったのだと分かっていても。
認めることはできなかった。だが、もうそれも良いのだ。

「……残念ながら、長年考えた結果、僕は人間ではない」

そうか、とルーサーは言った。
満足そうに笑い、そのまま肩に手を回して抱き寄せる。
何て冷たい体だと、嬉々として呟いた彼の耳元で、それでも、と言葉を続けた。

「それでもね、ルーサー。僕は貴方の言う人間ではなくても、ヒトでありたいと願っている」

そう言い放った言葉に、かの男は笑うだけだった。
そっと体を離し、距離ととって礼をする。最後の仕事だからこそ、鮮やかに終わらねばならない。

「それでは、ルーサー。御機嫌よう。もう二度と会わないことを祈っているよ」
「待ってくれ、アルカディア。最後に、君に聞きたいことがある。
　君の従妹姫が持っていた未来を見る力で、君は一度だけ未来を覗いたことがあると言ったな。
　ならばこの先はどうなっていた？　君の願う先の未来は、そこで見えたのか？」

イズハルアの能力を封じるために、【006】の体を用いてやったことは。
彼女の力と劣化した自身の能力を取り換える作業。それは魔術回路を交換するのと同意である。
その一瞬だけ、未来を見たのかと聞かれれば、見たのは確かなのだ。でも、その未来は。

未来とは。

「ルーサー、未来はね、決められているものではないからこそ素晴らしいんだ。
　可能性を、奇跡を、それを人は愛し続ける。貴方もまたそうであるように」

その言葉に彼は笑うだけだった。
きっとこれが正解の答えでなかったのだろうとは思う。彼の望んだ答えはきっと違うけれど。
それでもこれが《シュトリらしい》と思ったに違いない。

「気をつけて行くんだよ、光の使徒。君以外にその高速艦は使えない。
　誰も君を止めることはできない。迷わずに行くといい。――――シュトリ、君は」
「…なぁに、ルーサー」
「素晴らしい負け犬だな、本当に」
「あら、嫌だなぁ。それ、貴方もでしょう。欲しいモノが手に入れられない、貴方も僕も。
　それでいいんだよ。それだけでいいんだ。僕らは、きっと」

見上げた空は美しい星の光を散りばめていても。
それはもう眩くて、あまりにも美しくても。手に入れられるものではないから。
それでも人は願ってやまない。



奇跡を手にする力を、世界を変える力を。
ゆりかごの中で、ずっと眠り続けている。
　
　
　
　
　
　
　
　
　    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:31:42+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/52.html">
    <title>死線を越える先の彼方</title>
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    <description>
      attention　本文にはNPCとの絡み及び捏造が入ります。









――――――思い返している。

「例えば夢を理解する人形がいて、愛を理解する機械があるとする。
　それの組み合わせを人だと呼ぶことは近年可能になった。人間の脳を持ち体を機械とするキャストもそれに近い。
　けれど人の皮を被りながら嘘を囀り、愛を夢をと嘯きながら真相をも
　闇の中に屠る君を果たして人は【ヒト】と呼ぶだろうか？
　機械の脳に縛られなければ全てを記録することすら、思い出を語ることすらできない君を他者は【ヒト】と呼ぶかな？」



――――――――とある男の言った正解を。正論を。



白く長く続く廊下を足を止めずに歩いていた。アークスシップ内居住区画。
ショップ街が並ぶ場所とは少しだけ離れたアークスが生活をする場所だ。
自身が身を寄せているチームのリーダー代行（本人は代行だと言っているが良く分からない）のキャストが
妹の面倒をみてくれているのと同時に、自身の素体である《006》と呼ばれる《自身》をも面倒を見てくれている。
彼女の部屋にささやかながら生活空間を貰っている《006》は自身が最初に生み出した素体の一つだった。
皆が知っている、穏やかで研究所にいたはずのシュリ、と呼ばれる男。
それの正体が人形に限りなく近い存在だと知ったら、いったいどんな顔をするのだろうか。
たぶん誰も気にとめたりなどしない。
とても簡略化された人間関係において、本物だろうが偽物だろうがそれは関係なかった。
それは血を分けた兄妹であろうが関係ない。
結局他者が求めるのは、関係のある人間においての立ち位置で、それ以外に関しては気にとめることもないのが普通なのだ。
故に《006》が人形であろうがなんであろうが、例えば[[シュトリ]]であろうが別の何かであろうが関係はない。
目の前にいる《それ》が自身の認識する当人であれば何ら問題はないのだ。
違和感を覚えたとて、何一つとして変わらないものであるならば、きっと「調子が悪かったのだ」程度で流せる問題なのだろう。

《006》という端末がとても稀有だったのは
大本である自身とかけ離れた精神構造と自己自立精神を持ってしまったことにある。
本来ならば、かの存在の人格形成を司る【サーバー・リオキシス】と
そこから精神の大本（原本）の保管されている【サーバー・フェリクリウス】へアクセスし
定期的に並列化を行うことで精神は大本の《シュトリ》という存在からかけ離れることはない。
それでも彼は。同じことを全ての素体がしている中で《006》だけは並列化を行えども、自己自立精神を持ってしまったのだ。
大誤算だった。
物に魂が宿るというのならばそれはとてもロマンティックなことだけれども。
蘇ってくる男の言葉に盛大なため息をついた。
誰もいないはずの閑散とした廊下にその音は大きく反響している。
ああ、嫌だ。
何を考えているのだ、と言い聞かせるのは簡単だった。答えなどない、異分子は削除すればいい。
この考え方からして、あの男に言わせれば「アルカディアは機械なのだ」になるのだろうが。

「苛々させられる、本当に、本当に」

ままならない現状に漏れるのはため息だけだ。
答えが見つからない訳ではない。ほぼ失われているにすぎないだけで。
何とも言えないこの微妙な感覚に深いため息が再度漏れた。導ける先などありはしない。
見据えた未来もいずれ失うかもしれない。
本当に、本当に得るものなど―――…

（これでは奴の思うツボか）

まずは頭の中を整理しようと廊下を抜けて部屋に入った。家人はいない。
[[シトリー]]はリリーパという惑星に仕事にいっているようであるし
ここの家人である[[ミルヒ]]こと『カールシュテインの化け物』は数日の間不在になるというのは分かっていた。
故に《006》の体に入ってこちら側に来たというのに。今日の予定では残り２時間。
その間に《006》に起きたバグを消化しなければ、この船に戻ってこれるのは一週間以上先になってしまう。
そうすれば最後《006》の中にアクセスできなくなれば、本体ごとこの船に着けて直接スクラップしかありえなかった。

《006》に起きた異変は間違いなく、シトリーが【追随と創現の記手】を使用したことによる
サーバー・リオキシスの改竄が原因だった。
そもそも自身が利用している『サーバー』というものの仕組みは非常に意味が分からないものだった。
昔の技術なのだか、正しい何かの運用法であるのかは知らない。
ただ用いられているのが、技術がまだ存在していた当時の古代人の『脳』であるということ。
それは人間の『脳』と当時の技術が結集された『電脳』がおり混ざったものであり、『脳』は全部で６台存在していた。
あまりにも古い記録過ぎて虫食い状態の情報だったが
はっきりしているのはその『脳』となった人間が全て何かしらの脳障害を患っていた事。
そして脳の持ち主は『脳』だけを残して全て死亡しているという事。
『脳』は現サーバーの核となり、先代のサーバー管理者であるキチェル・エノバがサーバーの仕組みを解読するまで
サーバーは全て一つの個体から作られていると思われていた。
エノワスの地下に眠っていた、あの巨大なサーバー達は。
６人の脳と電脳を用いて作られ、それを補助する機械と技術に支えられてのものであったと
サーバー管理者が知ったのがここ二十年の間だというのだから
よほどそれまでのサーバー管理者が抜けていたのか興味が無かったのか。

それでも、多少は、キチェルを恨んでいる。

彼女がこんなものを見つけなければ。
彼女がサーバーのあり方を、利用法を考えつかなければ。
きっと自身を含め、サーバーを管理するかもしれない未来の子供もまた
自身がこんな生き物なのだと知らずに済んだというのに。

だがキチェルのおかげで、巨大なサーバーを切り分けして解体する事ができることも分かっている。
いずれはこの巨大なサーバーは役目を終えて消えていく。
できれば最後のサーバー管理者に自身がなれる事を祈るのだ。
６台の『脳』に残された微妙な意識概念は、個々のサーバー一つ一つに特徴を与えたが
意見こそ交わすことができてもほぼ人格としては成り立たないはずであった…が
困ったことにシトリーからの改竄を受けてしまったからなのか。
それとも個々に分断したからなのか、各サーバーごとに時折やんわりとした命令拒絶を受けるようになっている。
いいのだ、この方向性で間違いはない。
しかし自身のサーバーである『アルカディア』を除く、５台の『脳』には代弁者たる管理者は不在だ。
いずれサーバー同士で喧嘩でも始められたらたまったものではない。

そもそも自身がサーバー管理者として６台の上に立てているのは
６台の中でメインサーバーとなる『エノバ』と呼ばれるサーバーの『脳』そのものを自身の脳に入れているからだ。
キチェルを含め、サーバーの管理者は皆、真名の後ろにエノバをつけて名乗る。
故にキチェルはキチェル・エノバであり。
彼女の呼称はレイラーナ・K・カルシャートという。
王族でもなければ貴族でもない、一般の市民から出たサーバー管理者だった。
そしてその彼女から『エノバ』の電脳を引きついだ自身を、アルカディア・エノバと各サーバー達は理解している。

[アルカディア、到着しましたか？］

やんわりと頭の奥から聞こえる声は酷く機械的だ。
サポートパートナーに扮して置いたサーバーの補助端末は、白く長い髪を持った少女の姿でそこにある。
メイリール。第３サーバーとして登録されている存在。

「着いた、到着が遅くなった済まない。始めよう」

今回の目的は《006》の調整だ。自身とのコンタクトが取れなくなれば、それはこちらでの不利に繋がる。
メイリールの手を取った瞬間、扉が開く音に振りかえった。
赤い髪に修道服。情報に少ないチームの一員という女性。
手にはミカンなのか何なのか判別は難しいが、何となく食物だろうというものを大量に抱えていた。

「…あれ？　ミルヒは？　シュトリはサポートパートナーの調整か何か？」

さら、と声をかけて目を細めた彼女。確か名前をクリムゾン・シスターと言った。
詳しい情報は知らないが、前にイズハルアが「あのヒルデに、友人ができた」と喜んでいた相手と同じ名前のような気がする。
サーバー情報を攫ってまで見る必要もないと緩く笑って返した。

「ちょ～っと調子悪いみたいで。メイリールは機嫌損ねちゃうと駄目なんですよ」
「へぇ、そうなの。あんまり機嫌損ねるような子に見えないのに気難しいのね」
「妹みたいでしょ？　気難しいの、でも可愛いんだよ」
「ヒルデはそんなに気難しいかしら？　お兄さんから見るとそう見えるの？」

備え付けられた椅子に腰をおろした彼女は、テーブルに果物を大量に盛って行く。

「うーん、ヒルデは真面目だなぁって思いますかね。シュリには無い真面目さがあの子にはありますよ。
　双子なのにヒルトとは違う方向で真面目だ。貴方みたいな友達がいてくれているからかな？」

こんな上辺だけの言葉ではきっと滑る。
言葉がどんどんと流れるように転落していくのが脳の中でシュミレーションされた。
行けない、他者と話すときはどうすれば良かったのかが思いだせない。
データの無い状態で人と話すのがこんなに難しかったということを思い切り再認識させられた。
それこそ人間ができるという《空気を読む》なんていう行為は地獄どころか発狂寸前になるんじゃないだろうかとさえ思う。

「シュトリ、貴方調子でも悪いの？　大丈夫？」

ほら来た。

「いや、どうかな、ちょっと調子悪いかも。
　この子のメンテナンスが済んだらちょっと寝てこようかなぁって思ってるんだ」
「貴方が寝るって判断するの珍しいわね。
　てっきり気分転換にアムドゥスキアに行ってくるとか言うのかと思った」

しまった盛大に外した。
何となく誤魔化すように笑った自身を見て首を傾げる彼女は「本当に大丈夫？」と再度声を発した。
一旦メイリールから手を離し、サーバー・リオキシスに接続申請をあげる。
現在サーバー・リオキシスはメンテナンスの真っ最中で
このメンテナンスには二日は要するという結果報告が上がってきていたのを思い出した。
しかしそんなものはどうでもよい。取りあえず、ここを切り抜けられなければ意味が無いのだ。

（アーカイブにアクセス、サーバー・リオキシスのメンテナンスを中断。
　サーバー・アルカディアよりリオキシスへ情報の転換と素体データの転送を要請…）

サーバーを介して働きかけるが応答が無い。まったくシトリーも良くやってくれたものだ。
自身のサーバー・アルカディアに直接改竄を防ぐための一計とはいえ、やはりここまでの被害が出るとは。
【追随と創現の記手】の能力とはこんなにも恐ろしいのだと思い知らされる。
やはり、自身はあの能力に管理されてしまうような機械と同じなのではないかと、思い知らされる。

「ねぇ、本当に大丈夫？　シュトリ」

近付いて顔を覗き込んでくれようとした彼女から離れようと立ちあがった瞬間、ぶつかった。
彼女の額と自身の額を盛大にぶつける。
一瞬、何かが止まったかのような感覚を味わった。
緩やかに座り込んだ目の前の女性は、呆然をただ宙を見つめている。
何が起こったのだ。
ただ言葉を失って座り込んでいる彼女に近づいて肩を叩くが、数秒反応が遅れたかのように見上げてくる目線と交差する。

「ごめん、大丈夫でした？」
「………えぇ」

力が無い声だった。

「如何したの、シスター。大丈夫？」
「…シュトリは、私をシスターとは呼ばないわ」
「……」
「貴方は誰？　何回も、何百回も誰かに殺され続け、それでも同じ顔で生きる貴方は何？」

突き付けられているのは真実だ。
まるで人間ではないと、そう言われるほどに正しく。等しく、これは人間ではない。
彼女はただ、声をあげたりはしなかった。

「逆に問いたい、シスター。君は何だ。何を見てそれを言っている？　シュリの何を貴方は見た？
　何人もの同じ顔の存在が、同一が死んでいく、殺されていく、廃棄されていく所を貴方は今見たのだろう？
　それは等しくシュリだ、そして等しく僕であり、等しく私でもある。
　《それが》貴方のが目の前にしているシュトリという存在の本質だ」
「私が知っている、貴方とは随分と違うのね」
「君が知るシュリは、僕の一部であり同一であって別個体だ。それが答えだ。
　シュリは嘘がつけない、嘘を吐くのも苦手だ。真摯に答えてくれるのならば、君に嘘を言ったりはしない。
　だから、君はこの真実をどうか」

声を緩やかに落とした。

「誰にも言わないで」

自身を人間の皮をかぶった化け物だと、言わないで。



　＊＊＊



「いいでしょう、分かった。
　細かい事はあまり良く分からないけれど、貴方は家族や皆を守りたいと願うからそんなことをしているのね？」
「そうだ。シュリは未来を変える。国を救う、惑星を滅ぼすけれど必ず。
　そのための犠牲だ、そのための金だ、そのための時間だ。でも、家族に嫌われるのは本当は嫌だよ」
「最初から相談すればいいじゃない」

さら、と告げる言葉に苦く笑うしかない。

「できれば苦労はしてない。
　理解されたいと願う反面で、こんなものが国にあることすら知らない家族を巻き込みたいとも思わない。
　できれば、最後の最後で恨んで欲しいと思うだけだ。嫌われるなら最後がいい。我儘だって分かってる。
　国を裏切り、半身を騙し、国のために死ぬと決めた女王を謀り。
　それでもシュリは妹にも、女王にも幸せに生きていてほしい。無駄に死んでほしくない。
　未来のために死ぬなんて馬鹿げている。
　できればヒルデやヒルトには、国にも能力にも縛られずにどうか幸せになってほしいと思う。
　そのためならシュリは出来る限りの事をしたいと思うし、できればその姿を見せてほしいとも思う」
「でも、貴方は分かってるのね。この道を選べば、進み続ければ妹にも国にいる家族や大事な人たちにも
　貴方は悪魔だの気が狂っただの言われて理解されない事を」
「裏切った、と思われるだろう。
　家族を愛しているのならばどうしてそんなことをしたのだと、ヒルデは言うかもしれないね。
　ハルアは激昂するだろう。裏切らないと誓った相手から裏切られる訳なのだから。
　シトリーはきっと、シュリに変わりに泣くだろう…なぁ。困ったなぁ。
　妹を泣きやませる方法をシュリは知らないから、できれば妹を宥めてくれる彼氏がいてくれることを祈りたい」

くつくつと笑って目の前の女性の手を取った。
冷たい温度だと思ったのだろう。目を細めて、言葉を発しようとした瞬間だった。
電脳が盛大なアラームを鳴らしている。会議の時間に遅れてしまう。これでは大損だと。

「ねぇ、最後に聞いていい？　貴方、そんな複数の貴方自身を用いて何をしてるの？
　惑星を滅ぼすのは分かった。でもならどうして…」
「シュリは、惑星にある無駄じゃない全ての命を移住させたい。
　そのために惑星を一つ買い取りたいくらいだし、居住型宇宙艦の手配も何もかも必要だ。
　シュリがしているのは、文明のある全ての場所から等しく。
　大量の物資と資金を得るために働いているということだ。つまり、金稼ぎだよ、シスター」
「……夢物語を実行するのって男のロマンなの？」
「さぁ？　奇跡は起こせるから奇跡なんじゃなくて、起こすことを祈り続けて進むことで降ってくるものだと思っている。
　浪漫といえば聞こえはいいが、それは御伽噺に近いものだとも思っているよ」

彼女をゆっくりと立ちあがらせて見上げる。身長の高い女性と話すといつもこうだ。
あと十センチ足が長ければ良かった。

「私は、ヒルデが悲しむような事になるならいずれは言うかもしれないわよ」
「その時はシュリが全力で君を消します。……君の能力についてはいずれ時間があるときにでも。
　時間が空いていれば君と一緒にデートだって構わないよ」
「遠慮するわ」
「そう？　残念だ」

サーバー・メイリールが残念そうな電子音を鳴らしている。
扉から出ていくクリムゾンを見送って、ため息を漏らした。
調整の時間はない。また今度《006》を調整するしかない。
丁度その時、サーバー・リオキシスから手続きの返事が返ってきた。
本当にわざとやっているんじゃないかと思う。



「…アーカイブに接続。サーバー・アルカディアよりサーバー・リオキシスに個体《006》の使用を返還。
　10分後に再起動及び、リオキシス管理者の意識レベル調整を行い行動を始めて下さい」
　
　
　
　　    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:15:22+09:00</dc:date>
    <utime>1493219722</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/51.html">
    <title>嫌だとうち震えられるなら③</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/51.html</link>
    <description>
      ――

とある男の報告書。

記憶の断片を拾うことができない黙示録は近親者の顔さえほぼ覚えていないに等しかった。
それでも自身の半身と自国の女王については鮮明に覚えており、近親者は名を告げられた瞬間に記憶が戻った所を見て
一度枝葉に凍結案件として王国の関係者のリストを入れていたと判断する。
黙示録は整理を続けており、現在アークスシップ内で特定の情報を集めながら
自身の欠けた記録を補完していると思われる。
何にしろ、出会わせてはならない。
答えに、導いてはならない。

――

断片は枝葉を消去します。必要事項以外は抹消し、それ以外の記録は全て《サーバー・アルカディア》に保管を要請。
―――…《サーバー・アルカディア》アクセス完了。
《サーバー・リオキシス》内から必要情報を破棄します。

「君の能力は酷く便利に見えて、とてもじゃないが利用しにくいものだね」
「何です、同情したような目で見ないでください。僕はこれが当たり前の世界の住人なんだ。
　貴方とは違う、僕は私は、システムなのです」
「面白い事を言う。人の姿をしたシステムだと君は言うか」
「ええ、それ故に。僕は…私は、この広大に広がる情報の海を愛し。
　感情の波を愛惜しむ事が出来る。前サーバーのキチェル・エノバとは違う」
「それでも君は、一体自分が誰なのかさえいずれ分からなくなるんだろう。残念だ、その姿を認識できなくなることが」
「そう、ならば貴方は私を覚えていて。僕が私を忘れても、貴方の記憶から消えませんから」


□■


足元が酷く不安定だった。管制官の女性は「あー、すみません」と間の抜けた声で返事を返してくる。
あの女、いずれ絶対にしばき倒す！
そう呟いたのは自身の妹と同行してくれている同じチーム所属の男だった。
優しげな仕草で妙に犬っぽい所があるが、彼はとても紳士的である。
それに引き換え、敵味方関係なくテクニックで吹っ飛ばす妹に頭を抱えるしなかった。

「[[シトリー]]」
「どうした、シュリ」
「何とかならんか、それ」
「何を指して何とかならんと言ってるのか、私には理解できない。もっと分かりやすく言え、端的に話すな。
　もっと人間味を強調しろ」
「シトリー、あのね。仲間巻き込んでテクニック使うのやめて、ね？」
「善処する」

駄目だ、こいつ。
そもそも前線で戦っているチームメンバーと実の兄を巻き込んでいることをそろそろ気付いてほしいが
如何せんそういう所に気の回る妹ではない。
元より出来は自身より遥かに良い。
高スペック・チート、最強伝説。そんな言葉が非常に似合う実の妹であり双子の半身だが、性格だけはどうも難ありだ。
豪快に龍族を吹っ飛ばした後、にこりと笑って「さぁ、次！」と大手を振って歩く様は
修学に付く学生以下に見える。

「クロは、あれ…ちょっと怖い」
「僕も怖い、実の妹なんだけど、怖い」

足元の安定しない大地に住まうのは、火山洞窟の上空に広がる浮遊大陸と称される場所だ。
実際、この土地は惑星アムドゥスキアに住まう龍族からは《テリオトー》と呼ばれる場所であり
龍族のランクとしては上級の者が住まうらしい。
もっとも自身らからすればどれが上級で、それが下級など知った事ではないのだが。
以前の調査で告げられた言葉を反芻している。
あれから長い間、他の任務にかまけてこちらにこられなかったのを悔やむが、まだ彼女はいるのだろうか。
この地に、いるのだろうか。

「そういえば、シュリ。お前はどうしてここに？」
「ちょっとした用事があってね。シトリーも珍しいね、足場が不安定なところは嫌だったのでは？」
「まぁ、クロが一緒に来てくれると言ったのでね。あと、久々に双子で歩くというのもいいかなと思って」

にこりと笑う彼女もまた自身と同じように因子を入れて無理矢理体を変質させたデューマンだ。
元々ヒューマンである体を変質させているのだから、それなりの覚悟はあったであろうし
強い力を制御することを強いられるのは理解しているはずであった。
シトリーには優先順序を正しく認識する能力がある。
それは彼女が古来より引き継いでいる能力を持ち得ている証であるが、シトリーにとってその能力など正直どうでもよいのだと思う。

自分自身は、国を愛している。家族の事もだ。
あのときからずっと続く、闇の侵食を受け入れるわけにはいかなかった。母のような人を作るのは―――。
そんなことは嫌だった。
母のように目の前で闇の中に呑まれていく姿を見たいと思わない。荒廃した国を見たいと願ったりはしない。
現国王であるイズハルアは予見している。
母星にある自国エノワスは終わる。終焉は迎えられ、システムは崩壊するだろう。しかし、その崩壊を、終端を。
どれだけ緩やかにできるのか。
それが彼女の目的であり、自分がアークス船に乗った理由でもある。
ダーカーからの侵食で終わることだけは避けなければならない。イズハルアの見た未来は。

彼女の写しだした未来の先は。


「シュリ、空に龍がいるぞ」
「…どこに？！」

シトリーには分かるまい。彼女を探す意味も何もかも。
どんどんと遠のいていった声。予見できない未来の形。
変速する記憶空間の歪みが既に半身を追いこんでいることなど。
彼女を見つけなければ、あの声を探さなければという意識だけが先行して動いているのは分かっていた。

「蒼…？」

その色を見たならば。
その美しい翼を見たならば。

「……パラセノス！」

声を上げずにはいられないほどに。
駆けだした足は速かった。こんなに早く走れるわけがないとそう思っていたのに。
出現するダーカーを消し去った光は妹のテクニックだろう。
走り抜けるその先に、昔どうしてだか見たことのある景色が映っていた。
妹とクロの姿はまだ無い。
飛来するその蒼を、声をあげて呼んだとしてもその言葉が返ってくることはなかった。

万物の定義は、その記憶に呼応する感情を保存することで鮮明な状態を保つことができる。
最善とは個人の中での定義。
最速とは個性の中での物理。
故に記録に残す感情というものではなく、事象のみが送信と受信を繰り返されている。

―――アーカイブに接続。忘れないで、忘れないで。違う、忘れない。僕は、私は、絶対に。この記憶を…
《サーバー・リオキシス》から《サーバー・フェリクリウス》へ情報保管の移動を申請。
……サーバー、承認しました。
これよりサーバーの再起動に伴い、管理者の記憶データの整理と情報データの補完を行います。

何度も交わした言葉があった。
声にならない声で、その龍は幾度となく呼びかけてくれている。
記憶の中にそのデータが無いのは、自身が凍結したデータとしてサーバーが保管しているからだ。
こんな記憶でなければいけないのが歯がゆい。本来ならば脳の中に、個人の記憶として持ち続けることができるそれを。
思い出を。
たかがデータと割り切られ管理されるシステムが本当に憎かった。
それでも彼女の声が耳に残っているのだ。やわらかい海の音。ヘッドフォンから聞こえてくるのは弟の歌う優しい歌だった。

「君を探してたんだ、どうして？　どうして僕を」

言葉は返らない。雄弁かつ美しい響きの言葉を持ったかの龍が話すことはない。
それでも彼女はきっと言うのだろう。

『お前が望んでいることを、叶えることはできたか？』と。

目の前の蒼き龍が以前自身に問うたのはこの言葉だけだったように思える。
イズハルアの予測した未来を変えるために。国を滅ぼしたとしても、民を救うために。惑星を救うために。
彼女の予見した未来は二つだった。

一つは【国を滅ぼす代わりに、母星を救うこと】
これは長く続くエノワスという国の死であり、それに付随するシステムの死だ。

もう一つは【国のシステムを残す代わりに、母星を失うこと】
形はどうであれ、王国の知識やシステムが残るのはこちらの選択肢。

幼き頃から予見の力を持ち合わせたイズハルアにとって、この真実こそ変えるべき未来だった。
変えられるならば、どんなことでもすると言った彼女に協力するためにアーカイブたる自身はその力を捧げたはずだったのに。
いつからだっただろうか。
そんな従妹の願いなどどうでもよくなって、母の研究にのめり込み、自分自身の物差しと然るべき未来を失ったのは。
イズハルアの予見は、予言は絶対ではない。
絶対になっていくルートを辿れば、それは絶対と呼べるのかもしれない。
しかし所詮未来を書き変えるためにその力を使うならば、イズハルアの見た未来を変えることはできるはずなのだと。
彼女も自身も思っているはずだったのに。

「パラセノス、僕は…まだ見つけられないんだよ、僕の答え。僕がどうしたらいいのか分からないんだ」

声を漏らしても、それに返事が無くても。
一度繋がったはずの精神ならば彼女には届くだろうと信じてやまない自分がいるのに。
どうしてその声は返らない？

「ねぇ、パラセノス、どうして？！　どうして僕に応えない？！」

振りかざした槍が堅い皮膚に食い込むのを見逃さない。
ダーカーに侵食されている様子はない。
しかし明らかにこちらを敵だと認識して戦う姿に違和感すら覚えるのに。
自身を掠める閃光に目を細めながら、龍族がこんなことで死ぬことはないのだと分かった上で戦っている自身がいる。
こんなにも傍にいるのに、彼女に届かない理由が分からない。
振りおろした先、龍が身を引いたのに気付いた。


『［やはり、出来ぬ]』
「…パラセノス？」
『[いくら、カミツ様のご命令でも][出来ぬ]』
「…何の話を？」

ゆるゆると近付いてくる龍は目の前まで来て立ち止まると、まるで頭を下げるように首を動かした。
何の話なのかは分からない。
自身の後ろからも近付いてくる足音が聞こえる。この軽い足取りはきっとシトリーのものだ。

『[かの龍に][縁ある者][名を聞こう]』
「…何を言ってるの？　僕は、[[シュトリ]]、シュリだよ？」
『[そうか][ならば真実を]』

龍の声は酷く静かだった。
彼女に良く似たその声を持った龍は、ゆるりと言葉を吐く。

『[かの龍は][もういない][魂は戻れず][かの地にもいない]』
「……え…？」
『[かの龍の][縁者よ]。[残念ながら][お前の探す龍は][もういない]』

何を言われているのか分からなかった。サーバーに問い合わせの連絡を入れ続ける。
優秀な《サーバー・リオキシス》が凍結したデータからその真相を引き出すまでの時間は
そうは掛からなかった。
管理者が思い出した時にだけ、その凍結を。
真実に巡り合った時にだけ凍結を解除するという条件で保管されたそのファイルの名を―――。

―どうして、この目の色は青に変わってしまったのか。
―どうして、彼女との会話ができないのか。
―どうして、その姿を追う事を誰もが止めたのか。

思い出される隣人たちとの関わりと共に見えるのは。
自身の中にあったはずのダーカー捕食因子が、ダーカーの侵食に負けた事実と。
それを救うために、自らがその侵食対象を喰らった龍の。
そんな簡潔なデータが、つらつらと報告書のように並んでいる。

「嘘だ」
『[酷な事をしてしまった][カミツ様を責めないでほしい][以前のお前と][約束][それを守った]』
「じゃあ…僕の中にあるこの記憶は何？　
　彼女が死んでいるのに、彼女の死を理解しながら、それでも彼女を探すといっているこの記憶は―――」

叫び散らした声と共に、後ろから近づいてくる足音は止まった。
どうしてクロはいないのか。
目の前の龍はどうして半身たるシトリーを敵視しないのか。
憤りとともに震える手には能力の暴走が見えた。これではまたダーカーの侵食を抑えきることができない。
でも良かった。この真相に辿り着いたのならば、彼女のいない世界を望む意味など―――。

ではどうしてこんなにも、自分はあの龍を求めていたのだろう。

「嫌だ、シトリー。お願いだ、僕の記憶を…」
「【追随と創現の記手】において、絶対の管理を行う。記憶の整理をサーバーに問おう。
　かの龍との記録データ、及び関係各所の枝葉全ての情報を削除申請。―――応えろ」
「……《サーバー・リオキシス》は【追随と創現の記手】の改竄を許可します。
　記録の削除を選定、枝葉のブロックを固定。
　サーバー内における指定データの削除を開始します。
　それに伴い、管理者の思考データと記憶データ修正のため、再起動と補完の許可を」
「許す」
「―――サーバー承認完了。十五分後、管理者の再起動を行います」

自身の記憶とそれに付随するサーバーに強制的な書き込み・消去を行えるのはシトリーだけだ。
これがシステムとしての管理方法ならば、どうしてこんな知識が、こんな能力が存在してしまっているのだろう。
要らない、これはいらないものなのに。
それでも、あの龍の姿をまだ探している。

「……シトリー…？」
「シュリ、御免なさい。先に、カミツという存在に接触し、情報を得ていたことは謝る。
　でも、私は…シュリが真実を知れば死を受け入れることを選ぶとそう思っている。
　生きる意味が無い世界に、シュリは望みを持ったりはしない。
　システムとして生きる理由が無いシュリは、前システムの管理者とは違う。
　その記憶がある限り、優しい私の半身には戻れない。
　国に帰ろう？一緒に、帰ろう。もう良いんだよ、戦うことなんていらなかった」
「お願い、システムに撤回の指示を」
「その龍の記憶も、アークスのしての記憶も、母が死んだ記憶も、全部全部お前にはいらない。
　パーツが揃えば死に急ぐ、そんなお前を見てられないんだよ、私は」

妹が泣いている。
気丈な妹が泣いている。
どうして、そんな顔をするのか、本当は分かっているはずなのに。

「ごめんね、シトリー。それでも」


僕はこの記憶を失いたくなかった。


■□


《サーバー・リオキシス内における結晶竜の死に関するデータの削除が終了しました》

情報は繰り返される。何度も何度も同じように繰り返されていくのだろう。
目が覚めると、当日のスケジュールがぎっちりと詰まった予定表が表示されていた。一体何をしていたんだっけ。
ああ、今日はチームのメンバーと一緒に遺跡へ出かけるんだった。そうだった。
コンソールを叩くと、そこには見慣れた従妹の顔がある。

『シュリ、お早う』
「あー、ハルア。お早う。どうしたの？」
『今日は何をしてくるんだ？　シュリ』
「え、遺跡にいってくる。すごい綺麗だよ、画像送るね。きっと君は好きだと思うよ。
　あと、時間があるなら…彼女を、彼女を探しに行かなくちゃ」

にこりと笑うと「そうか」という声が返ってくる。
最近こまめに連絡をくれる従妹に、一体どんな心境の変化が起こっているのかは分からない。
ヘッドフォンを身につけ、耳から聞こえる海の音と歌声にもう一度笑った。
彼女を探さなくては。
ずっとあの声を聞いていない。
研究所から出る前から、ぱたりと聞こえなくなってしまったあの結晶竜を探している。
研究所で何を行っていたのか、誰のデータを集めていたのかは分からない。
サーバーの凍結事象として自身の記憶からは整理されてしまったいるのだろう。
まったく面倒なシステムだと思うが、これがなくては情報収集も記録の保全も上手くできない。
全ては国のシステムを守るため、そして民を、家族を、皆を守るための力として。

「ちょっと、シュリさん。いつまで寝てるの、いくよ？」
「あ、はーい、[[ミルヒ]]さん待ってください～、置いていかないで～」

コンソールのボタンを一つ叩き、そのまま部屋を後にした。





-Next open ?
--- yes or no .


----


聞きなれないざらりとした音声に船の距離が相当離れていることが分かった。
見慣れたその顔はいつみても変わらない姿のままだ。

『連れないね、情報を売ってほしいという連絡だったのに』
「あ、そうなの、知らなかった。ごめんねぇ、沢山のデータを扱ってるからメール見てる暇が無くて」
『どれくらい包めば情報を分けてくれるのかな、《サーバー・アルカディア》』
「お前の好きな女の３サイズとかは聞くなよ、５０億メセタ積まれても調べられんぞ」
『変わらず苛烈で最高に横暴だ。ねぇ、君の今の居場所は？　その情報を買いたい』
「……えー、まぁ、座標くらいなら。３千万メセタで手を打ちましょう」
『……ぼったくりだねぇ。いいよ、それくらい支払ってあげるよ。どうせ君の事だ、近くにいるとか、そんな具合だろう？』
「はぁーい、確かに。現在地は○△×※あたりかな」
『嘘だろう…？　随分遠いレベル…ではないね。全く、酷い話だ』
「じゃあ、忙しいからまた」

一方的に切った通信はきっと相手の機嫌を損ねることになるだろう。
しかしそんなことは大いに関係ない。今は《サーバー・リオキシス》内に起こっている解除不可能の凍結事項を確認しなければ。
管理者の仕事を増やした挙句に、面倒な処理ばかりを残してくれた案件となってしまった。

「しかし、シトリーの奴め。酷い事をしてくれたもんだ。これで１０４人の僕や私は皆彼女の記憶を失うことになる」

それでも所詮は代わりのきく何かであっても。
魂の無い器に感情は宿る訳もないと、言い聞かせなければ始まりもしない。

「《サーバー・アルカディア》に接続。アーカイブの再修正を開始、演算を停止し新しい素体の準備を」

宇宙に一つ、ぽつりと浮かぶ白銀の船。
遠く離れた恒星の光が届かなくなれば、システムごと停止してしまう脆く儚いそんなものでも。

「何人死んでも、何回殺されたとしても。シュリがシュリであることに代わりはない」


ひとちぼっちの戦いを、続けて行くその存在として。    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:07:49+09:00</dc:date>
    <utime>1493219269</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/50.html">
    <title>私はそれを信じることしかできない</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/50.html</link>
    <description>
      （この作品にはEP1の内容の他に、NPCとの絡み・捏造が入ります。ストーリー全部に関係するため反転仕様ではありませんのでご容赦ください）


兄の行方を知っているのは、従妹だけだった。
否、知ろうとしなかっただけなのかもしれない。
目の前でダーカーに呑みこまれていった母親を見て、兄はおかしくなってしまった。
昔は言葉を持たなかった兄と意思疎通ができたのは自身だけで、その兄はいつでも優しかった。
双子。
愛すべき半身。
止める術を持たない私を止める唯一の楔。
そんなつもりでいたのは私だけで、私を置いて兄は遠く
あの白いキャストに導かれるままにアークスと名乗る組織に連れて行かれてしまった。
どうして私が置いていかれたのか。兄を良く理解していたのは私だけではなかったのかと、今でも思い出してしまう。

この感情に蓋をする方法があるのならば、今すぐにでもそうしたいほどに。




―　兄のサーバーは国から移動することに決めたらしい。
その話を耳にしたのは従妹が女王となってから二年も経った日の事だった。
寧ろ、移動することではなく移動した後だったわけだが
彼が急いでサーバーを解体までして何処かに消息を絶ってしまった理由が良く分からなかった。
実際消息を絶ったはずの兄は、半月後にはアークスシップに戻っていて
「どうしたの～？」と間延びした声で返してくることになったのだが、私にはどうしても不明確なままでそれは鎮座していた。

兄はこんなにも間の抜けた男ではなかった。

優しい男ではあった。誰よりも国を愛していたし、家族も愛している男だった。
私自身は他の家族をあまり好きだと思ったことはない。
妹も弟も、従妹も好きな人間はいたが、兄のように全員を愛おしいと思ったことはなかった。
彼は生まれた時に自身の脳で記憶するという能力を持たなかった。
それを障害だと医療ならばいうのだろう。勿論、私自身が判断するにしても、それは障害だ。
言語を発することができなかった兄は、生まれた時私の臍帯が首に巻きついていて窒息死寸前だったという。
生まれながらにして兄を殺しかけた妹とはどうなのかと思ったが
その結果、兄は自身の脳がほぼ使えず、声も出なかったのだという。
そんな兄に記憶する脳と役割を譲渡し、声を戻した人物が先のサーバー管理者であるキチェル・エノバその人だった。
彼女もまた、兄と同じくして先代のサーバーからその能力を引き継いだ人間であったらしい。
キチェルも兄と同じように生まれた時に自身の脳では記憶することができなかった。

この国には稀にそういった存在が生まれると言うが
実際はキチェルが残した資料では『兄ではない別の人間』がキチェルの後継者として相応しかったのだという。
しかし自然に生まれたはずのキチェルの後継者は、国があっさりと殺した。
兄を救うためだった。まがいなりにも兄は王の子であり、そして数年後に皆は確信した。
兄を救うべきではなかったのだと。

「苛烈だ、[[シュトリ]]の性格は私以上に苛烈だ。思考もさることながら、何よりもあれは賢すぎる。
　私のことを賢くて何でもできる妹だと思い込んでいるからチートだのなんだと言えるだけで
　エノワス人は元より欠陥だらけのポンコツ揃いだ。
　その中で、シュトリという男だけはそのポンコツさに磨きをかけてしまった挙句に、あの性格だ。
　頭を動かす場所が違うんだと思うが、何よりも問題なのはシュトリは自身がそれなりに賢い事を理解した上で
　自身を超えるものが常に存在し続け、その上位の存在をどれだけ欺けるか、に命をかけている」
「それって非常に問題なような気もするけどなぁ？　[[シトリー]]」
「それでもシュトリはハルアに逆らう真似はしないと思うし、協力するって決めた人間を裏切るような性格でもない」

異質な王族。
ハルアとシュトリはその典型的な形だった。
それに似ていると言えば、弟のヒルトだが
ヒルトの場合は何だか危ない橋をゆっくりと火をつけながら渡っているようなことを平然とやってのけてくるので
姉としては心が痛い。
叫び方を知らない人間は殺し方も知らない。
シュトリは殺し方を知り、叫び方を熟知した上で鳴かない。だが、弟はそうじゃない。
おお、怖い怖いと思いながらも、実はヒルトならば兄の真意を理解できるのではないかと思ってしまって項垂れることになった。

「シュリは、どうしてサーバーの分割を？　記憶が分割されてしまうのではないの？」
「実際それに近いことがアークスシップにいるうちに起こってしまったらしくてね、それで仕方がなしに許可したのさ」

サーバーが傍にあれば兄の記憶は分割されることはない。
記憶の集積機が傍にいあるというのは彼にとって一番の強みであった。

「持って行ったサーバーの名前は？」
「確かサーバーはリオキシスと呼ばれるものだったと思う。私も詳しい名前までは熟知していない、済まないな」

彼がエノワスが誇る叡智の箱を六つに分解した後、そのサーバーのうち五機はエノワス本国に残されていた。
一体どれがどのサーバーで、何という名前かなどは知らない。
ただ兄の事だから、名前は一つ一つつけていることだろう。記憶の断片をしまっておく脳。
彼にとって脳と同じ働きをする機械達。
それを人質にとって、国を裏切らないようにと監視する我々もまた、彼と同じく狂人だ。

「そういえば、イズハルア」
「ん？　どうした？」
「シュリが可笑しなことを言い残していたんだけれど『彼女』って何だと思う？」

思えば、これが最初の歪みで。

「うーん、誰を指しているのか私には皆目見当がつかないね」
「……そうか、私も知らない。シュリのいう『彼女』のこと」

兄の中にあるその存在の意味を。



　＊＊＊



「大体において、どうしてお前がこの船に乗っているんだ？ローマイヤー。ハルアが独りぼっちになってしまうではないの」
「それを言うなら君だって同じことだろう、シトリー。
　叔父上、弟、妹、双子の兄、とどんどん国を離れて行っていた中で好きな男を追いかけてアークスシップに乗るなんて
　どうかしている。それこそイズハルアを独りぼっちにしたのは君だ」
「お前は女王の夫だ」
「君は女王の従姉で、国の姫だ。何を言う」

さらりと憎まれ口を叩いた男の名を、キノリッチェル・S・ローマイヤーという。
かの宇宙連邦で名高い高名な騎士殿であったが守るべき惑星と国は既に消失しており、全てを失ったはずの彼を拾ったのが
現王国の女王であるイズハルアその人だった。
性格が合うというよりは似合いの二人に見えて彼らの小規模な婚礼はとても素敵であったと憧れこそしたが
この男は個人的に好きではなかった。
そもそも自分は、あまり好きな人間がいない。

「ハルアは何をお前に言った？」
「君や叔父上、君の妹、弟を連れ帰れと」
「そこに兄は含まれないのだな」
「シュリとイズハルアは互いに話し合った末の結論が今だ。
　アージェンス殿に関しては分からないが、君ら姉弟の道楽に付き合っていられるほど私も暇ではないんでね？
　塩梅の良い所で引き上げさせろと仰せつかっている」
「……私達は大人だ、放っておいてほしいものだね」
「君達は大人だが、一般人ではない。理解してもらいたいものだね」

この船に乗っているのであれば、一般人と同じだ。
しかし国に帰れば途端に頭を下げられ、平伏され、傅かれる存在ではある。そんなことは分かっていた。

「で？　私が言っていたものは調べてくれたのか？
「あぁ、調べてみたよ。シュリのいう『彼女』の存在だろう？
　なんとも閲覧が難しい所にしまいこんでいてくれていたよ。
　サーバーの中ではない、あえて干渉がされないと思っていたんだろうな、データのゴミ捨て場に」
「……答えは？」

ふむ、と声を漏らしたローマイヤーは首を傾げて緩やかに笑った。
嫌な笑顔だと思う。

「何でも勤めていた研究所で彼を助けてくれた龍らしい」
「…人間じゃないのか」
「ああ、あいつの心は人間ではなく龍族に向いたらしいよ」

どうしてそんなものに？と首を傾げるまで時間はいらなかった。
ただシュリにとって、あの兄にとって。
その龍という存在は、自身をも超えるほどに大事にされるようなものとして彼の中に保管されたのだろうと思う。

「その龍族についての調べは？」
「済まないが、そこまでは出てこなかった。
　君の権限でこじ開けようにも流石に応答してくれるような内容ではないらしい。ただ分かったのは」
「分かったのは？」
「浮遊大陸と呼ばれる、惑星アムドゥスキアの空のエリアで出会ったらしい」

さら、と口に出したローマイヤーは資料を片手に緩く微笑んだ。
その龍の特徴はそこまではっきりしていなかったが
その場所に行けば何か分かるのだと、ただそれだけが明確に見えた。






『そなたが強いのは良く分かった、どうかこれ以上はやめてはくれぬか？』

脳に直接響くような厳かな声は静かに静かに届いている。
なんとも不思議な声だと思う。無機質な風に聞こえるのに、それでも微かに意思を感じた。

「貴女はこの星の偉い人か？」
『さて、それは良く分からないが、そなたの名は？』
「私はシトリーだ。この星の生き物たちにはとても非道な事をしてしまった、それを詫びる。
　しかし探しているモノがいるんだ。どうか、その情報がほしい」
『……そなたに良く似た男を見たことがある』

声は少し強い口調で言った。

『私はロのカミツ。そなたがあちこちで焦がしつくしてくれた龍族の同胞だ。
　そなたが探しているのは、その男か？　それとも別のものか？』

焼き焦げた臭いが辺りに広がっていた。
燃やしつくしたのではなく、焦がし続けたといったほうが正しいその非道な行為は
一匹の巨大な陸龍を只管に雷であぶっただけのことだったのだが
流石に生かさず殺さずで問いかけだけを続けた自身の行為にこの惑星の管理者クラスが出てきたのだろう。
もしかすると中間管理職かもしれない。

「私によく似た男ならば、きっとそれは兄だ。名前をシュトリと言う。
　私が探しているのは兄ではなくて…兄の探している龍だ」
『…ではそなたもまた、兄と同じようにかの龍を探しているのだな』
「…ああ、そうだ」
『……残念だ。とても残念だ。龍はいない。かの龍は既に―――。
　同じ事実をそなたの兄にも告げた。しかし、そなたの兄は事実を聞いた途端に様子がおかしくなった』

カミツという存在は、淡々と兄の事を語った。
半年ほど前に兄はその龍を探して惑星アムドゥスキアを訪れたらしい。
流石自身の双子だけあって、豪快に龍族を締めあげた後、同じようにカミツを呼びだした。
カミツのいう真実を兄は受け入れなかったという。
本気で受け入れなかったどころか、その聞いた事実を脳の代わりとなるサーバーから消した。
そして何度も何度も繰り返し、その龍が生きているのだと思いこもうとしているのだと。

『かの龍は、そなたの兄の命を救った。
　そなたの兄はその記憶だけを愛し続け、そして彼女の愛に報いようと思ったのかもしれない』
「そんなものは不毛だ。兄は、そんなもののために生きてきたわけではない」
『そなた達を大事に思っているのは確かであろう。
　しかしあの作りもののような男が初めて身を焦がした程の感情を与えたのもまた
　我らの子等だったという皮肉が重なっただけだ。悪く思ってはいけない。
　そなたもまた、それに感情を焦がしてはいけない』
「……兄を連れ帰ることができるなら、例えばその龍の記憶を失ったとしたら、兄は戻るだろうか？」
『……それを望むならば、一度だけ協力を。そなたの兄が探す龍と同位のものを準備する。
　あとはそなたが好きにすると良い』



　＊＊＊



カミツは分かっていたのだ。兄の記憶をいじればどうなるのか。
自身の能力で彼のサーバーに干渉すれば、その記憶と思いは消しされよう。
そんな安易な考えで兄の心を踏みにじった自身を許せるわけもない。
【追随と創現の記手】は酷い事をしてくれる。この能力ほど、兄を殺すものはないのだと。

「で？　シトリー、これどうする気なの？」

居住空間を提供してくれている[[ミルヒ]]は冷めた声でそう言った。
ぐったりとベッドで眠り続ける兄を横目に、深くため息を吐く。

「あのね、構わないよ、別にね？　死んでないし、体もチェックしたけど大丈夫そうだ。
　しかし脳の中をこねこねっていうのはちょっとな」
「言いたいことは分かっている」
「私は君らの家の事も、君らの王国の何故か無駄に、部分的に高水準な技術も知らない。
　しかし分かったのは、君の兄の脳は半分以上が電脳だ。一部の脳はほぼ動いていないに等しい。
　生活水準を守るような、身体的な事に関しては動いていたとしても感情や記憶野においてその能力は発揮していない。
　つまりだ、君の兄は生きることはできても思考は不可能だ。
　それを君の国の過去の遺物とやらが何とかしてくれているのだろう。
　……その根本を揺らがす力を使っておきながら、こうなることは予測できなかったのか？」
「……何か、方法を思いつかないか？　ミルヒ」

まったく、こういう時に人頼みですか？
さら、と告げた声は本当に機械的だった。手を口元に当てながら、データを見比べて「あぁ」と声を漏らす。

「もしもできるならば、その君がかき消してしまった記憶、戻すことは？」
「出来るが、したところで安定はしないと思う」
「……なら答えは簡単だ。君の兄の脳は機械なのだろう？　時間を巻き戻せ。無かった事にするんだ」
「……巻き戻す？」
「そう、巻き戻す。この一定の事象に関して、彼が真実を知る前の時間に戻すのさ。
　簡単にいえば、彼がお熱をあげている龍が死んだのだと告げられる前に戻す。
　そして彼が真実を知った瞬間に、また知る前に戻す。
　そうすれば『彼女を失ったショックで意識を失うことはない』ということになるだろうね」

そんな単純に行くものだろうか。しかしやってみる価値はある。
もしもこれが成功したならば二度と【追随と創現の記手】は使わない。もう兄をこんな目に遭わせたくはないのだ。

「変幻は挙動を見逃さないだろう、鍵は記し手。導くは根源たる時間の改変。
　開け、サーバー・リオキシス。【追随と創現の記手】の名において、一定の事象における操作を行う」

呟いた言葉にまるで機械のように兄の声は響いた。

『サーバー・リオキシスは【追随と創現の記手】の操作を認めます。
　記憶域に作動、改変する事象を指定してください――…』
　
　
　
　
　
　
　
それから三日ほど過ぎた後、兄は目を覚ますことができた。
サーバーの改変が随分と時間を要したのは、彼にとってその龍の存在があまりにも大きかったからだ。
本国に相談する気にはなれなかった。
気持ちが落ち込むのも無理はなかったが、流石に自身の招いたことで兄を追い詰めたなど言えない。

「どうした？　お前にしては珍しく落ち込んでいるじゃねぇか」
「……あぁ、叔父上か。叔父上は相変わらずヒルトと仲が良いようで」
「…は？　何の話だ」
「いや、何でも」

父の弟であるという叔父。エノワスの血を引きながらも他の国へ一度は居住してしまった人間。
エノワスに固執することが無かったであろう叔父と
エノワスを愛せない自身を少しだけ仲間だと思ってしまっている自身を恥じた。
叔父がどう国を思っているかなど、叔父がどう親類を思っているかなど知らない。
もしかするとゴミクズ以下と感じているのかもしれないのだから。

「叔父上」
「なんだ？」
「私は、愚かだ。国を要らないと思いながら、国に与えられた力と運命を振って、他者を傷つける悪魔の娘だ。
　所詮エノワスの人間は呪いによって生かされているだけなのかもしれない。
　王座などと、治世者などと呼ばれておきながら、その運命に抗うことすらできないただの傀儡だ。
　この悪意の代償を、報いを、誰かがいつか支払うことになるのかもしれないな」
「…ほう、ならそれをお前が支払うと言うのはどうだ？」
「やめておく。私が支払った代償はもう、何にもならない価値を失った言葉だ」



ため息だけを残して、ただ膝を抱えた。    </description>
    <dc:date>2017-04-27T00:00:23+09:00</dc:date>
    <utime>1493218823</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/49.html">
    <title>嫌だとうち震えられるなら②</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kiyopso2/pages/49.html</link>
    <description>
      “時間は悠久ではない。理論と構成をもってのみ作用する
　―――アーカイブ《サーバー・リオキシス》内のタイムレコードを新たな枝葉によって更新。
　新しい時間に修復を要請―――…サーバー承認しました。
　これよりタイムレコードを前記録からの逆算で算出。歪みの修復完了。
　システムの再起動と管理者意識データの再設定を行います”








「はいはい、それで？　君が[[シトリー]]のお兄さんってことですかね？
　あー、見た目はそこそこ似てるけど…双子は男女だと似ないね…特に―――」
「足の長さ、胴の長さの事だけは！！そこだけは勘弁して下さい！！！」

まぁ、ねぇ。
そうのんびりとした口調で呟いたキャストの女は長身だった。
首を随分を上に上げないと目線すら合わないくらいに酷くでかいが気にしないことにしている。
この船の中にはチームで行動するという任務があるのか、殆どの人間がチームに所属している。
従妹から連絡が入っていた【妹】こと、双子の半身はこのキャストのいるチームに所属しているらしかった。

「シトリーねぇ、好きな男を追いかけて任務に行ったけど」
「…本当に何とお詫びをすればよいか」
「まぁ構わんよ。で、君はどうするね」
「僕は通常の任務をこなしながら、ちょっと別件を」

なるほど、別件ね。
さら、と言った。チームとしては何も気にすることはないと言った上で、キャストの女はため息交じりに重ねる。

「それ…シトリーを止めてくれるってわけでは…」
「え、別件？　ないですね」
「…ですよねー」

どうにも双子の妹は彼女の部屋に住み着いてしまったらしいのだが、どうにも一室乗っ取りをかけられたらしく
キャストの女の部屋はシトリーの家財で埋め尽くされていたようだった。

「まぁもともと家具屋だし？　良いんだけど。
　あー、あとシトリーが言ってたけれど、うちのオジサン、君の親戚なんだって？」
「…オジサン？　誰ですか」
「アージェンス」
「……確かに、叔父ですね。実の」

カチンッと頭の中で音がする。耳鳴りのような感じだが、たぶん違うものだろう。
何の音かは分からなかった。叔父とはもう何年も会っていない。そもそも生きていたのかとさえ思う。

「ずっと会ってないんですよ。叔父は何処に？」
「うーん、たぶん何処かの任務に行ったんじゃないかな？　君も行くんだろう？」

キャストの女はにこりと笑って手を振った。
任務に向かうと言っていたが、そもそもアークスの任務をそこまで真面目にこなす必要性を感じていない。
母の研究についてデータが一つとしてないという事は
国にとってもアークスにとっても良い結果ではなかったというのは明白で
それ故に自身はサーバー内の記憶を凍結させたのだろう。
ヘッドフォンの中は海の音が聞こえていた。そこに美しい声が乗っている。
幾許か臨んだことのある記憶は一体いつの頃だろうか。
幼い頃から海を見たことは無いに等しかったはずなのに。

「どうして海の音…？」

思わず漏れた声は酷く冷たく響いた。
赴く任務の内容を確認しながら、自身が探すべき情報を頭の中で整理する。
キャンプシップを手配し、転送装置でシップの中へ移った。
空の色は酷く穏やかだが、大地は赤黒く輝いている。惑星アムドゥスキア。
龍族の住まう惑星。
ここに探している『彼女』」はいるだろうか。
空に浮かぶ不可思議な大地を見上げながら、火の盛る大地に降り立った。


―――例えば、だ。そなたには分からぬかもしれないが、龍は魂を概念としてではなく
意識的に別体…いや本体であると認識するといったらどう思う？

青く輝く鱗。頭の中に響く声。これは音ではない、意思と意思を伝える最古の手段だ。
触れ合った指先から伝わる温度は言葉よりも確かだが、等しく純粋で何の形を示すものでもない。

「人は死んだらそれでお終いなの。だから死にたくないと願う。おかしい事かな？」
―――淋しくは思う。
「君は…とても良い龍だな。頭が下がるよ」


惑星アムドゥスキア火山洞窟。
この地は、龍族から『カッシーナ』と呼ばれている場所であり、彼らにとってはあまり良いところではないらしい。
しかし詳しい記録は何故か関連している部分の凍結の影響でデータベースから引き出すことはできなかった。
自身の能力も結局対して使えるものではないなと思いつつ、足元が悪い中を進む。
龍族の習性などに関しては、とある博士が情報をアークスに開示してくれているおかげで無駄な戦闘はしないで済んでいる。
ヒ族と称される地表に住まう龍族たちは口が重く情報を与えてくれることは少ない。
それでも見つけ出さねばならない。彼女の行方と痕跡を。

「[お前は][かの龍の][縁ありし者か]」

その龍は誰を指すのか。
目の前の龍族は青く光る鱗を差し出しながら再度同じ言葉を呟いた。

「彼女を、貴方は知っている？」
「[龍は契りを忘れない][お前][探すのは、空の主だ]」
「…空？　彼女が飛んでいる姿を見たことが無い。翼は折られ、彼女はもう」

思い出そうとすればするほど、記憶は奥へ奥へと消えていく。
覚えているのは、覚えていられるのは、その姿を探すことだけだというのか。
【理路整然の黙示録】は幾度となく自身を救ってきたが、これほどまでに疎ましく邪魔に思ったことはない。
必要な記憶まで、その枝葉に残しておいてほしいものまで抉りとって凍結される。
全ての記憶も感情も【理路整然の黙示録】のメインサーバーに送られデータとして管理されている以上
仕方がないのだと分かっていても。

この歯がゆさを酷く憎んでいる。

「彼女は何処に？　飛べない龍が空にいるわけがない」
「[飛べない龍は][空へ行くことはない][龍は翼を得た]」

優しい口調でいい残した地表の龍族は足早に岩の影に駆けて行った。
彼女は飛べなかった。あの日、その翼を折ってしまったのは自身であったのは確かなのに。データとしては確かなのに。
その記憶はやはり鮮明に出てくることはない。
折り畳み式のモニターをキャンプシップで開き、通信が何処にも漏れていないか確認する。
ある一定の周波を発するジャミングのシステムを開くと、固定の番号を入力して回線を開いた。
見覚えのある砂金色に近い髪色が映っていた。振り返ったその視線は翡翠で、ゆるりと笑う顔は酷く穏やかだった。
何を言いたいのか分かっているのだろう。彼女は口を開くことなく目を弓なりに細めるだけだ。

「イズハルア」
『如何した、シュリ。何かあったか？』
「君に頼みが」
『無理な頼みはやめてくれよ、そっちは昼間かもしれないがもう自国は深夜だ』
「…君の、 【絶対知覚の管理者】を僕に使ってくれ。そして引き出してほしい記憶がある」
『無理だ』
「どうして？！　君はその能力の支配者だ。今まで類をみないほどに能力は安定している。なのにどうして？」
『忘れたか、シュリ。お前の能力は私の支配下にはおかれない。能力で言うならシトリーに頼むしかないぞ』
「なら君がシトリーの能力を使って僕から情報を、記憶を引き出してくれ。
　どうして飛べない彼女が、飛べるわけのない彼女が空にいる？！　
　意味が分からない、僕には理解できない。確かに、あの日、あの時に彼女の―――」

キンッと高い音が鳴った。

「…………どうしてだ……なんで」

これはサーバーからの警告音だ。凍結をした情報を引き出すなど許されないと、まるで強く言い聞かされているようで。

『私で調べられる範囲は調べておいてやるから、お前はその足取りを追うんだろう？』
「勿論だよ。何のために記憶の凍結までしてこの船に乗ったと」
『研究所で調べた結果は確かに完全凍結されているから私ですら閲覧は不可だ。
　ただ一つだけ私がお前からの通信でわかっていることがあるよ』
「なんだ？」

彼女は静かに笑う。

『お前が探す龍は、空を飛べる。間違いない。お前は私に言った。彼女に翼を戻してやることができたと。
　だからお前に残る記憶に飛べない姿で映っているのだとしても
　それはサーバーがお前のためにギリギリで開示できている情報だからなのだろう。
　探せ、シュリ。お前がそうまでして探そうと願ったものだ。私はどんな結果になっても、味方だよ』

通信はあっさりと切られてしまう。
音のない空間にジャミングの周波数だけが流れていた。通信越しに映る彼女に嘘はなかった。
音であろうが何であろうが、個人を特定できるものならほぼ心象を写す彼女の能力に嘘がある訳がない。
イズハルアは情報を知らないでいる。
でも彼女は心象を写すこの能力の元々の持ち主だ。隠すことなど大したことではないのかもしれない。

「僕は、いつになったら…君に会えるのかな」

青く輝くその鱗を持った、かの結晶龍をずっと探している。



サーバーの欠片は記憶している。その枝葉を。

「僕はね、ハルア。彼女の事を忘れてしまうのだと思っている」
『そんな馬鹿な。お前が彼女を忘れるものか。
　人を愛せず、民を愛せず。半身と弟妹達の幸福を望み、国を愛し、それでもお前は彼女を捨てることはできなかった』
「そうかな」
『そうだとも』
「なら、君が覚えておいてくれ。かの高貴なるモノの名は――――パラセノスという」

かの結晶竜はその名を持っていた。
　
　
　
　
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