「自然法と人権思想の関係、国体法との区別」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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「国体法は自然法である」というような誤った話を(おそらく深く考えずに)書いている方々を時々見かけて気になっており、この件について、法思想史を踏まえながら少し説明していきたい。
<目次>
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*◆まず、ノモス(nomos 人為の法)とフュシス(physis ピュシス、自然の法)の用語解説
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|BGCOLOR(#CCCC99):ノモス【nomos ギリシャ】&br()<広辞苑>|掟・慣習・法律の意で、社会制度・道徳・宗教上の規定を指す古代ギリシアの観念。&br()前5世紀に出現したソフィストは、これを自然(ピュシス)と対立させ、その権威を相対的なものとした。&br()この考え方はキニク学派やストア学派にも見られる。|
|BGCOLOR(#CCCC99):ピュシス【physis ギリシア】&br()<広辞苑>|〔哲〕自然を意味する語。&br()ギリシア初期の哲学者たちが、ミュトス的世界観(※注釈:mythos神話的世界観のこと)を脱却し、もののありのままの真実を記述し、その変化を通じて支配する根本原理を探求したとき、それをこの名で呼んだ。&br()ラテン語のnatureと同じで自然のほか、宇宙・本性・性質などをも意味する。フィシス。|
|BGCOLOR(#CCCC99):ノモスとフュシス nomos kai physis&br() <ブリタニカ百科事典>|前者は「法律や習俗」、後者は「自然本来のもの」(人為によっては動かされぬ必然的なもの)を意味するギリシア語。&br()この両者が対立カテゴリーとして登場したのは、アテネにおいてである。&br()法は神聖であり正義と幸福(利益)は一致するものとされたが、法律の度重なる改変や周囲の実情に影響されて、かっては絶対視されていたノモス的なるもの一般の相対性や正義と利益の相反が鋭く自覚されるようになった。&br()当時ソフィストたちは制度や価値は本来ノモス的なものか、それともフュシス的なものかを問題とし、神や正義さえもフュシス的性格を奪われてノモス的なものの領域に組み入れられるに至った。|
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*◆次に、自然法 natural law の用語解説
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|BGCOLOR(#CCCC99):しぜん-ほう【自然法】&br()<広辞苑>|①自然界の一切の事物を支配するとみられる理法。&br()②人間の自然(本性)に基づく倫理的な原理。&br() 人為的・歴史的な実定法とは異なり、時と所を超越した普遍的な法と考えられている。&br() 規範的な意味を持つ点で、叙述的な自然法則から区別されうる。&br() ⇔実定法⇔人定法|
|BGCOLOR(#CCCC99):natural law &br()<ブリタニカ・コンサイス百科事典(natural lawの項)より全文翻訳>|法理学(jurisprudence)と政治哲学(political philosophy)に関して、社会ルールや実定法からではなく自然から派生した(とされる)全ての人類に共通する権利または正義の体系(a system of right or justice)である。&br()この概念はアリストテレスを先駆者とする。彼は“自然に適ったもの”が必ずしも“法に適ったもの”と同一ではないと考えた。&br()ストア派、キケロ、ローマ法学者、聖パウロ、聖アウグスティヌス、グラティウス、聖トマス・アキナス、ジョン・ドン・スコット、オッカムのウィリアム、フランシスコ・スアレスによって、様々な形で自然法の存在が主張された。&br()近代において、ヒューゴ・グロティウスは、例え神が存在しなくとも自然法は肯定される、と主張した。そしてトーマス・ホッブズは自然法を“理性によって発見された一般ルールの規範であり、それによって人間は自身の生活にとって破壊的な行為を禁止されている”と定義した。&br()ホッブズは、①仮想的な“自然状態”から理性的に演繹される法(=自然法)の複雑な体系と、②治者と被治者との間の合意による社会契約とを対比する試みを行った。&br()ジョン・ロックは、ホッブズから距離を置き、自然状態を自由で平等な人々が自然法を遵守する初期の社会として記述した。&br()ジャン-ジャック・ルソーは、①自己保存と②同情という“理性に先立つ”2つの原理によって行動付けられた孤立の中で美徳を保持する野生人(a savage)を措定した。&br()アメリカ独立宣言の著者達は、平等と他の“自明の”“奪うことの出来ない”諸権利を唱導する前段で、わずかに「自然の法」について短く言及しているに過ぎない。&br()フランス人権宣言(人間と市民の諸権利の宣言)は、自由・所有・安全そして圧制への抵抗を“時効のない自然の諸権利”であると主張した。&br()自然法の概念に対する関心は、19世紀に劇的に凋落した。それは部分的にはジェレミー・ベンサムや他の功利主義の提唱者達の懐疑的な攻撃の結果である。それ(自然法への関心)は20世紀の半ばに第二次世界大戦中のナチス体制によって犯された犯罪という脚光を浴びて復活した。&br()自然法(natural law)と自然権(natural rights)に対する懐疑は依然として強烈であるが、後代の著者達は自然権ではなく人権(human rights)をほぼ例外なく語るようになった。|
|BGCOLOR(#CCCC99):natural law &br()<オックスフォード英語事典(natural lawの項)より抜粋翻訳>|<1> 全ての人間の行為の基礎と見なされている不変の道徳的原則から構成されるもの。&br()<2> 自然現象に関連して観測される法則。観測される法則を集合的に言う。|
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*◆小まとめ
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以上のように、古代ギリシアの時代から、
真の法は、①ノモス(人為の法・・・アテネ・スパルタといった個別の共同体毎に自生的に生成されたきた人為的・相対的な法)か、②フュシス(自然の法・・・全人類に共通する絶対的で自然法則に匹敵する法)か、
を巡って意見の対立があり、中世期にはキリスト教の権威の下、普遍的・絶対的な自然法natural lawの存在が説かれるようになった。
キリスト教の権威が崩れだした近世期には、自然法 natural law は「神」の創造(=神定法)ではなく人類が共通して持つ「理性」から自ずと演繹されるもの(=理性法)である、と観念されるようになり、そうした「自然法」の内実を個々人の「権利」として把握したものを「自然権」natural rights と呼ぶようになった。
現在、様々な場面で、保守派論者によって悪しき左翼思想の典型として問題視されている「人権」human rights とは、ブリタニカ・コンサイス百科事典の解説にあるとおり、この自然権の20世紀半ば以降の変形であり、その淵源を辿れば
①自然法 natural law → ②自然権 natural rights → ③人権 human rights
となる。
従って、もし我々が本当に「人権」イデオロギーを否定するつもりならば、論理的には「自然法」にまで遡って否定しなければならないことになるはずである。
即ち、古代ギリシアの「真の法は①ノモス(人為の法)か②フュシス(自然の法)か」という問いに対して、我々は「①ノモスが真の法である」と答えるべき、こととなる。
※因みに、こうした「①ノモス(人為の法)と②フュシス(自然の法)」の区別は、法思想史の教科書(例えば
https://www.amazon.co.jp/dp/4641059721
の一番最初の方(古代ギリシアの法思想の項)に出てくる事項であり、またハイエク『自由の条件』にも法思想の解説の初めのあたりで大書されている事項でもある。
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*◆では、「国体法」とは何か
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日本には日本の、英国には英国の、またアメリカにはアメリカの、それぞれ歴史的に形成されてきた固有の国体がある、と考えるのが「国体論」であり、その国体を法規範として観念したものが「国体法」とよばれるものである。
(※この他に、国体を文化的意味で捉えて観念することも可能)
こうした「国体法」の理解は、「真の法は、①ノモス(=(共同体毎に人為的に形成された自生的な法であり、共同体間では必然的に相対的な内容となるもの)である」とする上記の理解と整合的である。
(つまり、「国体法」は、②フュシスないし自然法(=神の創造ないし理性からの演繹による全人類に共通的な自然の法)ではない)
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*◆まとめ
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以上から、国体法は、人為の法(ノモス)であって、いわゆる自然法ではない。
これを自然法だという論者は、法思想史を余り押さえていない者、という結論となるので注意されたい。
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*◆ご意見、情報提供
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