夏、大阪の魔物

京太郎「もうそろ久ちゃんの出番か……試合の前にジュースでも差し入れしようかな」

京太郎「えっと、何好きだったっけな」

京太郎「……無難にミルクティーだな。部室でも飲んでるし」ゴトン

京太郎「あれ? なんで水? 間違って隣押したかな」

京太郎「ってか、なんか視界が……」

京太郎「……やばい、倒れる――」グラッ


「あらら、大丈夫ですかーぁ?」

「もしもし、お兄さーん?」

「……気ぃ失ってるみたいやねーぇ」



京太郎「……超だるい」

京太郎「ここ、どこだよ」


「あ、目が覚めたんですかーぁ?」


京太郎「……ナースさん?」

「いえいえ、まだ高一ですよーぅ」

京太郎「白衣の天使に年齢なんて関係ないだろ」

「お兄さん大丈夫ですかーぁ? 主に頭とか」

京太郎「君の顔がぼやける程度には大丈夫」

「超ど近眼なんですねーぇ」

京太郎「可愛い顔が見れなくて超残念だぜ」

「もう、やですよーぅ」


京太郎「……冗談抜きにして頭痛い」

「風邪っぽいから少し寝とけば良くなるとは思いますよ-ぉ?」

京太郎「風邪か……もしかして俺、ぶっ倒れてた?」

「それはもう盛大にバターンって」

京太郎「そうか……悪いな、ここまで運んでくれたんだろ?」

「それは救護室のスタッフの方ですよーぅ。私は人を呼んだだけですから」

京太郎「まぁ、似たようなもんだろ」

「そうですかーぁ?」

京太郎「なんにしてもサンキューな」

「いえいえ、困ったときはお互い様ですから。それじゃあ、ちゃんと休んでてくださいねーぇ?」

京太郎「ああ……君、名前は?」

「えぇー、もしかして口説かれてます?」

京太郎「もうちょっとバスト増量してから出直せ。俺、須賀京太郎」


「荒川憩、こう見えて北大阪の代表なんですよーぉ?」



久「もうすぐ試合ね……」

久「京太郎たちどうしたのかしら? いつもなら顔見せに来るのに」


まこ「部長!」


久「あら、染谷さん。京太郎は?」

まこ「先輩が倒れて救護室に運ばれたって……!」

久「……は?」

まこ「さっき連絡があって……とりあえずわしは救護室に行って様子見てきます」

久「私も……! いや、お願いね」

まこ「部長も試合、頑張ってください」

久「ええ……」



「よろしくお願いしますねーぇ」

美穂子「よろしくお願いします」

久「お願いします」

「よろしく」



久(あいつ、こんな時になにやってるのよ)

久(……大丈夫なのかしら)トン


美穂子(……明らかに気が入っていないわ)

美穂子(久、どうしたというの?)トン


久(応援してくれるって言ったじゃない……)トン


「それ、ロンですよーぉ」


久「あ、はい」


久(この子、たしか北大阪の……荒川憩)

久(清水谷さんやセーラを抑えて一位になった一年生)


憩「お姉さん、あんまりよそ見してると危ないですよーぉ?」

久「……言われなくてもわかってるわよ」

憩「ならええですけど」


憩「ロン、7700」

憩「ツモ、3300オール」

憩「ロン、5400」


久(……やばい、もう点数が5000点を切った)

久(この子、すごく強い)

久(それになにより……私、全然集中できてない)


憩「リーチ、かけさせてもらいますねーぇ?」


久(あれに振り込んだらきっとハコ割れ)

久(待ち牌は……ダメ、リーチが早すぎて情報が少ない)


京太郎『久ちゃん』


久(――っ)


美穂子「ロン」

憩「あらら、振り込んじゃいましたねーぇ」


久(……なんとか親が流れた)

久(残すは二局……なんとか巻き返さないと)

久(でも、私……)



憩「おつかれさまでしたー」

美穂子「おつかれさまでした」

久「……」


美穂子「……何かあったの?」

久「何もないわよ」

美穂子「ウソ」

久「……」

美穂子「もしかして、京太郎さん?」

久「……試合の前に倒れたって」

美穂子「え……大丈夫なの!?」

久「わかんないわよ! わかんないから心配で不安であのざまよ!」

美穂子「久……」

久「今はほっといて……」



京太郎「うぁー、ぐわんぐわんだ」

まこ「もう立っても大丈夫なんですか?」

京太郎「いつまでも寝てらんねーしな。そこらへんで風邪薬買ってなんとかするよ」

まこ「じゃあ買ってきますよ。病人はおとなしくしてください」

京太郎「そうか、ありがとな」

まこ「なら早いとこ良くなってください。先輩の調子が悪いとこっちの調子まで悪くなりますから」

京太郎「あいよ」


京太郎「ふぅ……試合、どうなったかな」

京太郎「ここ、テレビとかないのかよ」

京太郎「久ちゃん、大丈夫かな」


久「……大丈夫じゃ、ないわよ」


京太郎「うおっ、来たんなら声かけてくれよ」

久「……四位だった」

京太郎「そっか……まぁ、そういうこともあるだろ」

久「私、気づいたの」

京太郎「……久ちゃん?」

久「あんたがいないとダメなんだって」


久「ねぇ、私――」


京太郎「ストップ。その先はやめようぜ」

久「どうして? 私が幼馴染だから?」

京太郎「違う」

久「じゃあどうしてよ」


京太郎「……今の久ちゃんはきっと、縋りたいだけだろ」


久「それの、それの何が悪いっていうのよ!」

京太郎「悪くはない。けど、きっと後悔する」

久「わかった風な口聞かないでよ……」

京太郎「わかった風じゃない。わかってるから言ってるんだよ」


京太郎(久ちゃんがいなくなったら照ちゃんで、照ちゃんがいなくなったら久ちゃんで)

京太郎(ほんと、偉そうに何言ってんだかな……)


久「意味、わかんない……」

京太郎「とりあえず頭冷やそうぜ。普通に話するぐらいだったら付き合うから」

久「……いい」

京太郎「……どこいくんだよ」

久「あんたがいないどこか」



京太郎「あーもう、なにやってんだかな」

京太郎「もうガッタガタじゃねえか」

京太郎「じゃああそこで受け入れときゃ良かったのか?」

京太郎「んなもんわかるわけねーだろ……」


まこ「失礼します」


京太郎「おう、悪いな」

まこ「さっき部長とすれ違いましたけど、なにかありました?」

京太郎「久ちゃんが何か言ってたのか?」

まこ「そういうわけじゃないですけど……泣いてて」

京太郎「……そうか」

まこ「先輩?」

京太郎「薬、そこ置いててくれ」


京太郎(ほんと、どうしようもない)

京太郎(なんて大馬鹿野郎なんだ……俺は)
最終更新:2015年06月05日 23:11