夏、大阪の姉妹

「もう快っ勝やな」

「油断してしてはるとつまづきますよ?」

「さっきセーラからジュース代ふんだくっ……やなくてもろたし、言うことなしや!」

「それとこれと関係あらへんでしょ」

「もうこれで団体戦の汚名はすすがれたに違いないっ」

「どうして人からお金とって汚名返上ですか」

「恭子……もうちょいツッコミの温度上げてくれへん?」

「そうは言うても、さっき愛宕プロから調子乗らせるなって釘刺されましたから」

「まさかのおかん直通!?」


久「どうして、どうしてなのよ……」


「……泣いとる人とすれ違ったときはどうボケたらええんやろな?」

「ボケることから頭離してください」

「うちからボケとツッコミを取ったら、ただの麻雀が強い美少女になってまうやろ」

「十分やないですか」

「あかん、あかんで? そんなん串カツにソースつけへんみたいなものやん」

「むしろやりすぎて二度漬け状態ですよ」

「せやから温度差っ」

「はぁ……それより、行っちゃいますよ?」

「ああもう、こうなったら……!」

「それにしてもあの人……どこかで見たような」


「そこのいい脚した姉ちゃーん! 一緒にお茶せぇへーん?」


「おっさんのナンパですか!」

「お、今のツッコミええな」

「やかましいわっ」



京太郎「……もう夕方か」

京太郎「体調は……微妙だな」


まこ「あ、起きたんですか」


京太郎「……久ちゃんは?」

まこ「それが……連絡しても心配ないってメールが来て」

京太郎「そうか……」ヨロッ

まこ「まだ寝てた方が……」

京太郎「大丈夫だ。こういう時は多少体動かしたほうが良い事もあるんだよ」

まこ「そんな馬鹿な」

京太郎「バカで結構。もうベッドで寝てるのにも飽きたんだよ」

まこ「部長を探しに行くんですか?」

京太郎「さぁな……染谷はホテルに戻って久ちゃんを待っててくれ」

まこ「……わかりました」


京太郎「……見つけたとして、俺になにができるんだよ」ボソッ



「はぁ、解説ってのも肩が凝るねぃ」

「なーんか面白いものでも転がってないかなーっと」

「インハイチャンプとの対局だったらそれなりに楽しそうだけど」

「わっかんねー、どうしてこんな暇なんだか」

「ん? あれって……」

「……ふーん、色々引き連れてるみたいだねぃ」

「面白そうだし、ちょっかい出してみますかねー」



久『あんたがいないとダメなんだって』


京太郎「……」


久『それの、それの何が悪いっていうのよ!』


京太郎「……」


久『意味、わかんない……』


京太郎「――っ、くそ!」

京太郎「どうすればいい、どうすればよかった!」

京太郎「このままじゃまた……」

京太郎「――畜生!」ガンッ


「お兄さん、荒れてるねぃ」


京太郎「驚かせたなら悪い。気分が悪くて」

「私でよければ話聞くけど、どう?」

京太郎「……君、誰だよ」

「あれ、わかんない? ま、咏って呼んでいいよ」

京太郎「俺ら、どっかで会ったっけ?」

咏「さぁ? でも他人だからこそ言えることもあるんじゃね? 知らんけど」

京太郎「……」


京太郎(正真正銘会ったことないはずだけど、なんとなく見覚えがある)

京太郎(見た目的には中学生。着物は珍しいけど)

京太郎(でも――)


咏「ふふん」

京太郎「――っ」ゾク


京太郎(ホンの少しだけど、照ちゃん達と似た感じだ)


咏「お兄さん、どしたの?」フリフリ

京太郎「いや、ちょっと歩こうか」

咏「かまわないぜぃ」


咏(いーい反応だねぃ)

咏(こりゃ予想以上に楽しめそうかも)



「はへー、恋バナだったんか」

「ちょっとうちらには荷が重いんじゃ……」

久「……他人にだったら話せることもあるって言われた気がするんだけど」

「せやけど、完全に門外漢やし」

「すいません、うちのバカが軽はずみに……」

「バカってなんやねん」

「自分の胸に手を当てて考えてみればええと思いますけど」

「バカ……馬と鹿……ホースと……鹿って英語でなんやったっけ?」

「無理にボケようとしなくてもええんですけど」


久「あなたたちの漫才はいいから。もう行ってもいい? これでも傷心中なの」


「こ、コンビ扱い……」

「ちょいちょいちょーい」

久「……まだなにかあるの?」

「うちに考えがある!」

「……今度はなんですか」ハァ


「気が沈んだときは美味いもん、それは大阪でも東京でもおんなじやで」


久「悪いけどそんな気分じゃ――」

「てなわけでれっつらごー! 恭子も行くでー」グイッ

「ちょっ、うちもですかっ」



咏「うーん、なるほどねぃ」

京太郎「ま、こんなとこだ」

咏「それよりお兄さんさ、麻雀とかやるの?」

京太郎「麻雀? ちょっとだけなら」

咏「それで、あんまり勝てなかったり?」

京太郎「……なんかそんなオーラでも出てるわけ?」

咏「オーラっていうか、運気の流れ的なもんじゃね? 知らんけど」

京太郎「運気の流れ? オカルト的なアレ?」

咏「お兄さんの場合はそっちの影響もあるかもねー」

京太郎「まぁ、色んなオカルトに出会ってきたしな」

咏「どっちかっていうと問題はお兄さん自身にあると思うんだけどねぃ」

京太郎「俺?」

咏「ま、そんなに引き連れてりゃ色々影響もあるのかね」

京太郎「だから、俺自身が問題ってなんだよ」

咏「いや、知らんし」

京太郎「はぁ?」


咏「とりあえず、まずは女性関係をきっちり清算しましょうってこと。具体的には一人に絞るとか」


京太郎「女性関係って……」

咏「あたしでもいーよ?」

京太郎「……今は考えたくないな、そういうの」

咏「だったらなにも考えずに言いたいこと言ってみりゃいいんじゃね?」

京太郎「……そうできたらいいんだけどな」

咏「もうあとは崩れるか雨降って地固まるかのどっちかっしょ」

京太郎「でもな……」

咏「そういうことができるのは若者の特権なんじゃね? 知らんけど」

京太郎「ふぅ……よし」

咏「お、腹決まった感じ?」

京太郎「余計なこと考えすぎるからダメなんだ。だからちょっと体動かしてくる」

咏「ま、頑張れ頑張れ、若者」

京太郎「話聞いてくれてありがとな。それじゃ」


咏「ありゃどうなるのか楽しみだねぃ」



京太郎「っく、はぁ……さすがに走り込みはきついか」

京太郎「病み上がりっつーか、病み途中なんだよな」

京太郎「最近体もなまってるし……」

京太郎「ダメだな……こんなんじゃまだまだだ」

京太郎「せめて相手がいれば――」


「避けてくださーい!」


京太郎「うおっ」パシッ

「キャッチした!?」

京太郎「危ねーな、気をつけてくれよ」

「すいません、ボールが転がってたんでつい」

京太郎「にしても飛ばしすぎだ。フェンス越えちゃってるだろ」

「あの……サッカーやってたりしました?」

京太郎「いんや、球技ならやってたけどな」

「けっこう本気で蹴ったつもりなんやけど……」

京太郎「サッカーか……いいな」


京太郎「時間あるならちょっと付き合ってくれないか?」



京太郎「あー、運動したぁ」

「ほ、ほんまにサッカー部やないんですよね?」

京太郎「ハンド部員だったな……えっと、愛宕絹恵さんだっけ?」

絹恵「あ、はい」

京太郎「10対11か……ちょっと負け越したな」

絹恵「むしろサッカーやってない人に追い詰められるとは思わなかったんですけど」

京太郎「男女差だな、多分」

絹恵「男女差、ですか」

京太郎「ま、でもスポーツやってる女友達はいなかったし、新鮮で楽しかったかな」

絹恵「はぁ……私も久々に思いっきり動いて気持ちよかったです」

京太郎「だろ?」

絹恵「ですね」

京太郎「さって、そろそろ――」


「おーい、絹ー」


絹恵「あ、お姉ちゃん」

京太郎「お姉ちゃん? 妹じゃなくて?」

「そや、姫松の愛宕洋榎とはうちのことやで!」

京太郎「あー、姫松ってあの」

洋榎「どや、すごいやろ」ドヤッ

京太郎「来年のシード権逃したあの」

洋榎「ぐふっ」ガクッ

絹恵「お、お姉ちゃんしっかり!」

京太郎「あー悪い」


「もう、どこいったかと思えば……あれ、絹ちゃん?」


絹恵「末原先輩、どもです」

「奇遇やな。ところで、こちらの方は?」

京太郎「須賀京太郎。さっきまで一緒にサッカーしてたんだ」

「はぁ……末原恭子です」

洋榎「どうせサッカーとか言って絹をナンパしとったんやろ!」

絹恵「ちょっ、お姉ちゃん!」

京太郎「おー、復活した」

洋榎「そりゃあ絹はうちと違って胸大きいし背も脚も長いモデル体型……」


洋榎「……orz」


京太郎「なんかものすごい勢いでまたしおれていったな」

恭子「どうせまたすぐ復活しますから」

絹恵「すいません、お姉ちゃんいつもこうで」

洋榎「ところで恭子、もう一人は?」

京太郎「復活早いな!」

恭子「今トイレ行ってます。もうすぐ来るんやないかと……」


久「ちょっと、二人共勝手に……って」


京太郎「久ちゃん?」

久「……」

洋榎「ふむふむ……よし、ここで解散!」

恭子「あー、なるほど」

絹恵「え、なにどういうこと?」

洋榎「ええから、馬に蹴られる前に退散やでー」

絹恵「え、えっ?」

洋榎「ほななー」



久「……あんた、いっつも女の子と一緒なのね」

京太郎「まぁ、そうみたいだな」

久「別にいいけど」

京太郎「……久ちゃん、俺」


久「やめて」


京太郎「なんだよ、聞いてくれないのか」

久「ううん、思えばいっつも受身だったから、今度は私の番」グイッ

京太郎「なんだよ――いてっ」

久「――んっ、これでよし」

京太郎「おい、これって」

久「先にホテル戻ってるから」


久「あと、私は往生際が悪いってことはよく覚えておきなさいよ」


京太郎「……わかってるっての」

京太郎「首、結構強く吸われたな。絶対跡残るパターンだ」

京太郎「にしてもずるいな。言いたいこと言わせないとか」



洋榎「いやー、これは恋のキューピッド名乗れるで」ホッコリ

絹恵「話が見えへんのやけど」

恭子「……思い出した。長野の竹井久」

洋榎「さっきの姉ちゃんがどうかしたんか?」

恭子「長野の代表ですよ。福路を破って一位抜けの」

洋榎「マジでか!」

絹恵「あれ、その人ってたしか……」

恭子「せや、江口セーラが気になる選手に上げとった一人」

洋榎「そんでもって、明日の対局相手……不足なしやな!」


洋榎「っしゃ、やるでー!」



久「あら」

洋榎「昨日ぶり」

久「まさか今日の相手だったなんてね」

洋榎「もう本調子みたいやな」

久「おかげさまでね。でも、手加減なんてしてあげないわよ?」

洋榎「アホ、格の違いをみせたるわ」

久「ふふ、楽しみにしてる」
最終更新:2015年06月08日 01:57