冬休み、小悪魔

京太郎「ってなわけでやってきました福岡!」

久「福岡にも雪って降るのね」

まこ「あの、今更ながらなぜ福岡?」

京太郎「え?」

まこ「その不思議そうな顔はいいからはよ答えんか」

京太郎「しょうがねえな……そりゃくじ引きだよ、くじ引き」

まこ「は?」

久「南端と北端に飛ばされたらどうしようかと思ったわよねー」

京太郎「ははは、実は日本の南端って東京なんだぞー」

久「まったく、有名無実とはこのことよね」

まこ「はぁ……まあええですけど」

京太郎「さて、福岡といえば修羅の国か……色々楽しみだな、抗争とか」

まこ「やめんかっ!」



京太郎「さて、宿の方は大丈夫そうだな」

久「本当、奇跡的よね」

まこ「ちょい、どこまで行き当たりばったりなんじゃ」

京太郎「まぁ、なるようになるもんだ」

久「どうする? 早速行く?」

まこ「新道寺……強豪校じゃな」

京太郎「新道寺なぁ、なんかあったような……」

久「なに含み持たせてんのよ」

京太郎「うーん、なんだっけなぁ……あっ」


京太郎「思い出した! マイル・シローズだ」


久「外人さん?」

まこ「いやいや、白水哩じゃろ」

久「あぁ、そういえば個人戦で戦ったわね」

京太郎「あいつそういや新道寺女子だって言ってたな」

久「あのねぇ……また?」

京太郎「またってなんだよ」

久「知らないとこで女子の知り合い増やしちゃってさ……ね?」

まこ「わしに同意を求められても困るんじゃが」

久「客観的な意見、プリーズ」

まこ「……まぁ」

久「ほら!」

京太郎「わかったわかったって」

まこ「はぁ……そんなことよりこの後は?」

久「そうねぇ……お昼の後は自由行動なんてどう?」

京太郎「お、いいな。去年は時間なんてなかったからな」

まこ「まずは店探しからじゃな」



京太郎「自由行動ね……さて、どうすっかな」

京太郎「新道寺の下見も悪くないけど」

京太郎「……せっかくだしそこらへんフラフラするのもありだよな」

京太郎「さっき昼飯食べたけどラーメン食いてぇな」

京太郎「よし、そうしよう」


「ねぇ、君一人?」

「えっと、あの……」

「俺ら旅行でここらに来たんだけど、案内してくんね?」


京太郎「おおう、典型的なナンパ」

京太郎「人を開放的にするのは夏だけじゃないってか?」

京太郎「いいなー、俺もナンパして女の子と仲良くしゃべりたい」

京太郎「……ダメだ、昔の失敗が頭をかすめる」


「私、用事があるんでっ」

「つれないこと言わないでさー」ガシッ

「ひっ」

「ほんのちょっと、先っちょだけでいいから!」

「ばっかお前いきなり下ネタかよぉ」

「思わず暴発しちゃいましたーってか?」


京太郎「……なんかやばそうだな、あれ」

京太郎「うーん、でも俺も人のこと言えないようなことやらかしてたしな」


「やめて、誰かっ!」


京太郎「……よし、そこらは棚上げだな」

京太郎「おーい、そこのお兄さんがたー」


「あん?」

「だれだオメ?」

京太郎「ナンパはいいけど引き際ってもんがあるでしょ」

「てめ、横からしゃしゃり出てきて勝手なこと言ってんじゃねぇぞコラ」

「痛い目見たくねぇならさっさと失せろや」

京太郎「まぁまぁ、そう熱くならないでさ」

「あぁ? 殴られねぇとわからないってか?」


京太郎「おっと」サッ


京太郎「やめといた方がいいと思うよ。ひと目もないわけじゃないし、そんなんじゃ喧嘩になっても勝てないだろうし」

「はぁ? ナメてんのかてめぇ!」

「大口叩きやがって!」

京太郎「だからさぁ……」


京太郎「その靴じゃ滑るだろって」


「なっ――」ツルッ

「のあっ――」ズルッ


京太郎「だからやめとけって言ったのに……雪道なめんなっての」

「あ、あの」

京太郎「今のうちに逃げるぞ」グイッ

「あっ――」



京太郎「ふぅ……追いかけてはきてないみたいだな」

「その、手……」

京太郎「ああ、悪い」パッ

「……」ジー

京太郎「そんなジッと見られても」

「あんたもナンパ?」

京太郎「いや、ラーメン食いに行くとこ」

「ふーん……ね?」


「付き合ってあげよっか?」



京太郎「……おい」

「なにー?」

京太郎「なんで俺、荷物持たされてんの?」

「えー? ラーメン食べに行った流れ?」

京太郎「違う! ここらを案内するからってついていったらこのザマだよ! しかもラーメン代俺持ち!」

「助かりまーす」

京太郎「こ、この野郎」

「私、女ばい」

京太郎「あーもう、そういう問題じゃないっ」

「こぎゃんやぁらしか女子と歩けるけん。我慢我慢」

京太郎「やらしいのはお前の根性だよ!」


京太郎「はぁ……まあいいや。鶴田姫子だっけ?」

姫子「なに?」

京太郎「これ、どこに運ぶんだ?」

姫子「あ、そいはもう一件回ってからで」

京太郎「まだあんのかよ!」



京太郎「ここでいいのか?」

姫子「ん、ありがとうございまーす」

京太郎「ったく、こんなたくさんなにに使うんだよ」

姫子「部の買い出しは一年生の仕事やけん」

京太郎「てか高一かよ。一個下じゃん」

姫子「じゃあ、先輩?」

京太郎「その通りだ。もっと敬えー」

姫子「えー? じゃあこれからも荷物持ちよろしくです、先輩」

京太郎「敬意の欠片もねぇな、おい」

姫子「あるけんね、先輩の部分とか」

京太郎「とかじゃなくて、むしろそこだけだよな?」

姫子「そうともいいますかね?」

京太郎「認めるのかよ」


京太郎「そういや鶴田って新道寺女子だよな?」

姫子「そうですけど?」

京太郎「麻雀部って明日もやってんの?」

姫子「え、うちになんか用ですか?」

京太郎「お、部員だったのか。なら話は早い」


京太郎「明日、遊びに行くわ」



姫子「部長、ただいまです」

哩「おかえり。買い出しご苦労」

姫子「あがな量、平気ですよ」

哩「すまん……他の子も捕まらんし、私も忙しかったけん」

姫子「そんぐらいよかですよ。退屈はせんでしたし……ふふっ」

哩「姫子?」

姫子「部長の言うとおり、男の人と話すのも悪くなか、ですね」

哩「えっ」



京太郎「さ、行こうぜ」

まこ「いきなり行って大丈夫じゃろうか?」

久「まあ、なんとかなるでしょ」

京太郎「あ、そのことなら全く心配いらないぜ」

まこ「アポでも取ってきたり?」

京太郎「そんなきっちりしたもんじゃないけど、ちょっと話してきたから」

久「それって、白水哩と?」

京太郎「いや、昨日知り合った子と」

久「はぁ……自由時間は失敗だったかしら?」

まこ「結果を見ればどっちとも言えんわな」



京太郎「よう」

哩「あれ?」

京太郎「鶴田って子に昨日遊びに行くって言ったんだけど」

哩「姫子に?」

久「あの、そろそろいいかしら?」

哩「あんたは……」

久「初めまして、ではないわよね」

哩「たしか、長野県代表の竹井久」

久「練習試合したいんだけど、ダメ?」

哩「あー……」ジロッ

京太郎「うん、いきなりで悪いとは思ってるよ?」

哩「ふぅ……とりあえず中へどうぞ」



哩「一体どういうこと?」

京太郎「いきなり引っ張ってなんだよ」

哩「いいからっ」

京太郎「鶴田から聞いてないのか?」

哩「姫子はまだ来とらんけん」

京太郎「なんだいないのかよ」

哩「君には多少恩があるけん、やけどそぎゃん勝手は部長として――」


姫子「おはようでーす」


姫子「あれ、こん状況は?」

京太郎「あー、昨日話したこと伝えてないのか?」

姫子「遊びに来るってやつですか? ざっくりしすぎやね」

京太郎「もうちょっと詳しく話したはずなんだけどっ」

哩「姫子?」

姫子「あ、あはは……ごめんなさい」

哩「仕方なかね……まあ、少しだけならよかよ」

京太郎「マジで!? サンキュー白水愛してるっ」

哩「ちょっ」

姫子「むぅ」



久「今日はどうもね」

哩「こっちもいい経験になったけん、気にすることなか」

久「それじゃ、今度はネト麻なんてどう?」

哩「ん、そいはよかね」


まこ「ふぅ」

姫子「お疲れ?」

まこ「あ、どうも」

姫子「清澄は来年は団体戦に?」

まこ「先輩方はそう息巻いとるんじゃがな」

姫子「また打てるの、楽しみにしとるけん」

まこ「おう」



京太郎「うんうん、仲良きことはいいことだな」

哩「ちょっと」

京太郎「うん?」

哩「こい、アドレスと電話番号」

京太郎「俺に?」

哩「こっち来るときは連絡入れること、よか?」

京太郎「よかよか」


姫子「あー、なにしとるんですか」


哩「姫子!? こ、こいはその……」

姫子「不公平ですよぉ、てなわけでどうぞ」

京太郎「お前もか」

姫子「寂しくて私の声が聴きたくなったら、いつでもかけてよかですよ」

京太郎「あんま男に気を持たせるようなこと言うなよ、この小悪魔め」

姫子「えー? そんなことなかですよぉ」

京太郎「あー、はいはい。それじゃ、またな」

哩「うん、また」

姫子「バイバイでーす」



姫子「部長が前に言ってたのって、あん人ですか?」

哩「姫子が昨日言ってたのも?」

姫子「……なんというか」

哩「……まあ」

姫子「こいも絆の深さですかね?」

哩「さて、な」



久「明日はどこ行く?」

京太郎「どこでもいいぜー」

まこ「もう、どこでもええわ」

京太郎「よし、じゃあ今度はダーツだな」

久「大外れとして海外行き追加しとく?」

京太郎「お、燃えるな」

まこ「やめいっ!」
最終更新:2015年07月25日 01:28