初夏、決戦前夜

美穂子「今日はこれぐらいにしましょう」

京太郎「んー、つっかれたー」

美穂子「すごい集中力でした……よく頑張ったと思います」

京太郎「ならさ、ご褒美とかダメ?」

美穂子「そもそも麻雀を教えてって言ってきたのは誰でしたっけ」ジトッ

京太郎「うっ、冗談だって。だからそんな目で見ないで――」


美穂子「特別ですよ?」


京太郎「――って、マジ?」

美穂子「嫌なら別にいいですけど」

京太郎「いや、嫌じゃない。ウェルカムだ」

美穂子「ならなんでも言ってください……えっちなこと以外で」

京太郎「……信用なくない?」

美穂子「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか?」

京太郎「……とりあえず外出ようか」



美穂子「あの、本当にこれでよかったんですか?」

京太郎「イタ飯は嫌い?」

美穂子「そうじゃないですけど、少し予想外でした」

京太郎「やっぱり信用ないのな」

美穂子「せめてお代は私が……」

京太郎「一緒にご飯食べてお題は俺持ち。ご褒美の内容は忘れたのか?」

美穂子「でも……本当にいいんですか?」

京太郎「いいのいいの。それよか話しようぜ」

美穂子「話、ですか?」

京太郎「せっかく一緒に飯食ってるんだからさ」

美穂子「じゃあ……い、いい天気ですねっ」

京太郎「夜だけどな」

美穂子「しゅ、趣味はなんですかっ」

京太郎「お見合いか」

美穂子「えと……出身はっ」

京太郎「長野です」

美穂子「あ、私もです」

京太郎「奇遇ですね」

美穂子「……」

京太郎「……」


美穂子「あの、ごめんなさい。あまり男の人と話したことがなくて……」

京太郎「無理しなくても適当に俺が話すからさ」

美穂子「……わかりました」



京太郎「みほっちゃんって麻雀強いんだな。教えるのも上手かったし」

美穂子「私はそんな……」

京太郎「もうすぐ大会だったよな? 俺が言うのもあれだけど、こんな時期に悪かったな」

美穂子「引き受けるって決めましたから。それに、自分の練習の時間はちゃんと確保してます」

京太郎「大会は個人戦?」

美穂子「それと、一応は団体戦にも」

京太郎「マジで!? あの風越でレギュラーってことだよな!?」

美穂子「えっと、そういうことになります」

京太郎「スッゲーなおい! やっぱり将来はプロになるとか考えてんの?」

美穂子「そ、そこまでは……でも、後に入学してくる後輩たちの目標になれたらって思ってます」

京太郎「そこらへんは大丈夫だろ。俺が保証する」

美穂子「あなたがですか?」

京太郎「あてになんない?」

美穂子「いえ、どんな人の応援でも心強いです」クスッ

京太郎「あ、今笑った」

美穂子「おかしいですか?」

京太郎「いや、嬉しい」

美穂子「そ、そうですか」



京太郎「……ところで、久ちゃんと戦ったんだよな?」

美穂子「はい」

京太郎「どうだった?」

美穂子「……強い打ち手だと思いました」

京太郎「そうか……今更だけど喧嘩売る相手が悪すぎだったな」

美穂子「本当にバカだと思います」

京太郎「言うねー。それで、勝てると思う?」

美穂子「……」

京太郎「だよな。ほんの数日の付け焼刃でどうこうなる相手じゃない」

美穂子「あの、本当に上埜さんと対局を?」

京太郎「俺はそのつもりだ。ここ数日麻雀やってて気づいたんだけど、やっぱり負けたら悔しい」

京太郎「んでもってなにがなんでも勝ちたくなる。多分それは久ちゃんも同じだ」

美穂子「それで麻雀をまた始めてくれるかもしれないと? でも今負けたらもっと麻雀が嫌になるんじゃ……」


京太郎「あいつを誰だと思ってるんだよ。あの久ちゃんだぜ?」

京太郎「追い込めば追い込むほどやばいんだよ。負けてじっと黙ってるはずない」


美穂子「……随分信頼してるんですね」

京太郎「ま、幼馴染の特権かな」

美穂子「そういえばそうでしたね」

京太郎「お、聞きたい? 俺たちの武勇伝」

美穂子「い、いえ……」

京太郎「まーまー、俺と久ちゃんが初めて会ったのは……」



美穂子(それから彼は上埜さんとの馴れ初めを延々と語り始めた)

美穂子(懐かしさを滲ませながらもその顔はとても楽しそうで……)


美穂子(私の心の中に、今まで感じたことのない気持ちが芽生えた)



京太郎「いよいよ明日か……」

京太郎「俺に勝てるのか……いや、勝たなきゃいけないんだ」


京太郎「そうしたら……照ちゃんに……」
最終更新:2015年03月10日 00:53