決戦

京太郎「……よし、頭も冴えてる。行くか!」

カピ「キュッ」

京太郎「応援してくれんのか? ありがとな」

カピ「キュー」

京太郎「よーしよし、土産話期待してろよ」



京太郎「よう、話すのは何日かぶりだな」

久「私は二度と顔も見たくなかったんだけど」

京太郎「酷いなおい」

久「とにかく、逃げなかったのね」

京太郎「それはこっちのセリフだな」

久「泣いても絶対許してやらないから、覚悟しなさい」

京太郎「泣くのはどっちだかな」


久「……」

京太郎「……」


久「始めるわよ。場所はこの学校の部室でいいわね」

京太郎「ああ、事前に許可は取ってある」



京太郎「失礼します」

「ああ、須賀くんだね?」

京太郎「はい。俺のわがままに場所貸してくれてありがとうございます」

「気にしないでくれ。そもそも顔を出す部員がほとんどいなくてね。この通り放課後になっても寂しいもんさ」

久「自動卓、ちゃんと動くんでしょうね」

「昨日点検しといたから問題ないよ。思う存分使ってやってくれ」

京太郎「だってさ」

久「そう……じゃあ思う存分叩き潰せるってわけね」

「そういえば、君も一年生なのかい?」

久「……そうですけど、なにか?」

「どこかで見た覚えがあるんだけど、ひょっとして去年大会に出てたのかな?」

久「さぁ、覚えがありません」

「じゃあ俺の勘違いか。すまないね」

久「いえ、それより早く始めましょう」

京太郎「そうだな。じゃあルールの確認からいくぞ」


京太郎「参加者は俺と久ちゃんの二人麻雀」

京太郎「親はなしで最初にサイコロ振って先に牌を引く方を決める。先攻後攻は交代で連荘はなし」

久「自風は?」

京太郎「それもなし。全部役牌扱いで」

京太郎「ポンもチーもありで、聴牌した方はそれを宣言。その時点でそいつは牌を引けなくなる」

久「相手の捨て牌でしか上がれなくなるということね」

京太郎「追っかけで聴牌宣言をしたらどっちも上がるまでツモ切りしかできなくなる」

久「上がるまで捨て続けるってこと? 時間がかかりそうね」

京太郎「聴牌してようとしてなかろうと、どっちかの捨て牌が18に達したら流局だ。ノーテン罰符は3000で」

久「持ち点は?」

京太郎「30000点。これがなくなるまでの殴り合いだ」


京太郎「以上だ。なにかわかんないこと、あるか?」

久「大体わかったわ」

京太郎「んじゃ、早速はじめるか」

久「喧嘩売ったこと、後悔させてあげる」

京太郎「望むところだね」



京太郎(配牌はまぁまぁ、うまくやれば上がりも狙える)

京太郎(よし、早速仕掛けるとしますか!)


久「リーチ」

京太郎「……速いな」

久「早く牌を引いて」


京太郎(まずい、先に聴牌された。まだ5巡目だってのに)

京太郎(こんな時は……とりあえず河を見るか)

京太郎(向こうの河には字牌と……一筒と九索。判断材料は少ないけど、ものすごく単純に考えればタンヤオ)

京太郎(俺の捨て牌には九筒が二枚。そしてまた同じのを引いちまった)

京太郎(これなら通るか……?)


美穂子『上埜さんの麻雀は、素直じゃない時があります』

美穂子『天邪鬼というか、普通の打ち手ではしないような悪い待ちをあえて選択することがあるんです』

美穂子『もし彼女がリーチをかけたら注意してください』


京太郎(……そういやそんなこと言ってたな)

京太郎(素直じゃない打ち方か……らしいというかなんというか)

京太郎(それじゃ、こっちだな)トン


久「ロン」

京太郎「――っ、マジか」

久「2600よ。早く点棒出して」

京太郎「……はいよ」ジャラ


京太郎(くそ、やられた。全く普通の三面待ちじゃないか)

京太郎(落ち着け……河をよく見れば回避できるはずなんだ)



久「ロン、3900」


久「ロン、2000」


久「ツモ、3200」



京太郎(くっ、一方的に点数が削られてる)

京太郎(俺も上がらなきゃ……!)


京太郎「通らばリーチ!」

久「通らない……ロン、12000」

京太郎「マジかよ……」


京太郎(やばい、もう点数が10000を切った……)

京太郎(なんとか取り戻さないと……いや、ここはまず防御が先か……!?)

京太郎(くそっ、落ち着け、落ち着け……!)


久「はぁ……うざった」

久「初心者丸出しの打ち方……そんなんで勝つとか豪語してたわけ?」

久「はっきり言って弱すぎて話にならない」

久「そうだ、私が勝ったら一個だけお願いしてもいいかしら」

京太郎「……いいぜ」

久「じゃあ……」


久「消えて。私の前から永遠に」

京太郎「――っ」


京太郎(く、そ……なんで今更こんなこと言われて動揺してんだよ……!)

京太郎(またいなくなる……俺のせいで……)

京太郎(やめろっ、今はそんなことを考えてる時じゃないだろ!)

京太郎(立ち止まるな。相手を見据えて牌を握れ……!)


久「ロン、1300」

京太郎「――あ」


京太郎(ダメだ……全く集中できない……)

京太郎(やっぱり無理だったのか、俺には)

京太郎(もうあんな楽しそうに麻雀やってる久ちゃんは見られないのか?)

京太郎(照、ちゃん……)


「その勝負、待ってください」



美穂子「どうして私はここにいるのかしら?」

美穂子「もう大会は間近……こんなことしてる暇はないはずなのに」

美穂子「……彼に麻雀を教えたのは私」

美穂子「なら勝負の行方が気になってもしょうがない……そうよね?」

美穂子「でも中に入らないと様子もわからないし……」


「君、もしかして福路美穂子さん?」


美穂子「は、はい!」

「ああやっぱり。去年の全中での活躍、見てたよ」

美穂子「あ、ありがとうございます。あなたは……」

「この学校の麻雀部の部長かな、一応」

美穂子「一応、ですか?」

「まぁ、実のところ幽霊部員ばっかりでまともに機能してないんだ」

美穂子「そうなんですか……」

「だから今はちょっと自動卓を使いたいって一年生に部室を貸してるんだ」

美穂子「……もしかしてその人の名前は須賀、だったりしませんか?」

「よくわかったね、もしかして知り合いだったりする?」

美穂子「あの、良ければ部室まで案内していただけないでしょうか」



『ロン、12000』


「彼女、やっぱり強いな」

美穂子「そう、ですね」

「あの子も君の知り合いなのかい?」

美穂子「ほとんど言葉も交わしてないですけど……」


美穂子(違う……あの時の上埜さんはあんな顔して打ってなかった)


久『はぁ……うざった』

久『初心者丸出しの打ち方……そんなんで勝つとか豪語してたわけ?』

久『はっきり言って弱すぎて話にならない』


美穂子(違う……上埜さんは相手を見下したようなことも言わなかったし、そんな打ち方もしなかった)


『あなたの目、綺麗ね』


美穂子(違う……私の知ってる上埜さんじゃ、ない)


久『ロン、1300』

京太郎『――あ』


美穂子(……あの人があんな辛そうな顔してるところ、初めて見た)

美穂子(私と一緒にいた時とは全然違う、今にも崩れてしまいそう)

美穂子(どうして……胸が、痛い)


美穂子「……やめて」

「あ、勝手に入っちゃ……」


美穂子「その勝負、待ってください」


京太郎「どうして……」

久「……あんた誰? 無関係な人に邪魔してほしくないんだけど」

美穂子「関係だったらあります。彼に麻雀を教えたのは私ですから」

久「へぇ、師匠ってわけ? ま、こいつはてんで弱かったけど」

美穂子「……きちんと教えられなかった私の責任です」

久「だったらなんなの? もうあんたにできることなんてないんじゃない?」

美穂子「私が、やります」

久「は?」


美穂子「私がその勝負、引き継ぎます」


京太郎「待てよ……これは俺の」

美穂子「これは私の喧嘩でもあるんです。だって、この人に言いたいことがいっぱいあるんですから」

久「それを麻雀でってわけ? いいわよ、退屈で死にそうだったし。あんたに勝ってすっぱりやめてやるわよ」

京太郎「……そうかよ」


久「了解が得られたところでどうする? 引き継ぐっていうなら点数もそのままってことになるけど」

美穂子「ええ、それで構いません」

久「本当にいいの?」

美穂子「はい。今のあなたには負ける気がしませんから」

久「……言ったわね」

美穂子「言いました」

久「どこの誰かは知らないけど、その言葉、取り消せないから覚悟しなさい」



美穂子(持ち点は5000。下手したら一回で吹き飛ぶ)

美穂子(こっちの配牌もあまり良くないし、当然それを狙ってくるだろうけど……)


美穂子「チー」


久(九筒を鳴いた? リーチを捨てても役があるってこと?)

久(でもお生憎さま、そのおかげで私は聴牌。リーチタンヤオピンフで3900ってところね)

久(相手の点棒を吹き飛ばすにはちょっとばかし足りないけど……)


久「リーチ!」


久「ロン、3900」

美穂子「はい」パタッ

久「……」


久(相手の持ってる五萬、たしか私のリーチの直後に引いたやつ……)

久(あれがあれば三色も加わって飛ばせてた)

久(まさか、ずらされた?)


美穂子「……大体分かりました」

久「あんた、その目……」

美穂子「宣言します。これから先、あなたには一度も上がらせません」

久「言ってくれるじゃない……!」



美穂子「ありがとうございました」ペコッ


久「嘘でしょ……」

京太郎「……みほっちゃん」

美穂子「それじゃ、失礼します」ペコッ


久「待って!」

美穂子「もう十分です。私の知ってる上埜さんはいないってわかりましたから」

久「あんたやっぱり去年の……」

美穂子「さようなら、竹井さん」



久「なんだってのよ……」

京太郎「久ちゃん……」


久「触るなっ」パシッ


京太郎「――ってぇ」

久「……もう帰る」



「……なんか色々事情がありそうだね」

京太郎「すいません、みっともないところ見せて」

「そんなことないさ。それより、久々にここの麻雀牌を使ってくれて礼を言いたいぐらいだよ」

京太郎「本当に、ありがとうございました」

「良かったらまた遊びに来てくれ」



京太郎(……結局俺は何も出来てない)

京太郎(こんなんじゃまだ……)
最終更新:2015年03月10日 00:58