夏、決着

恒子「ふー、あともうひとふんばりだー」

恒子「今のとこ順調に進んでるし、このままいってくれればなー」

恒子「でもちょっと盛り上がりに欠けるかなぁ……折角の決勝戦なのに」


えり「盛り上がりは私たちが演出するものではないと思いますが」


恒子「あ、お疲れ様でーす」

えり「まったく……あなたはいつも好き放題ですね」

恒子「いやぁ、それほどでも」

えり「褒めてません」


えり「いいですか? アナウンサーというのは――」


恒子(あちゃー、始まっちゃったよ……)

恒子(この人、こうなると話長いんだよね)

恒子(ここは適当に話を切り上げて……)


恒子「あっ、そういえば小鍛冶プロに飲み物買ってこいって言われてるんだったー」

えり「――ですから、人の目に触れるということをよく考えてですね……」クドクド

恒子「そういうわけで失礼しまーす」ソソクサ

えり「あっ、まだ話は終わっていませんよ!」

恒子「グッバイふぉーえば~」

えり「待ちなさい!」


えり「……行ってしまいましたか」

えり「彼女も彼女なりに一生懸命だというのはわかるのですが……」


みさき「お疲れ様です」


えり「村吉さん……あなたも休憩ですか?」

みさき「最後の最後に備えて飲み物でもと……それより、さっきここに福与さんいませんでした?」

えり「ええ、彼女にアナウンサーのなんたるかを説いていたのですが……」

みさき「逃げられてしまったと」

えり「あの奔放さが持ち味だというのはわかるのですが、報道する立場としては考えものですね」

みさき「なるほど……」


みさき(大概真面目ですね、針生さん)

みさき(他局のアナのことなんて放っておけばいいものを)

みさき(お人よしというか、なんというかですね)


みさき「福与さんより少し年上なだけの私が言うのはなんですけど、彼女も彼女なりに考えていると思いますよ?」

えり「……そうですね」

みさき「私たちはそれこそ相方への接し方に差異はあれど、真剣に向き合っていないということはないと思います」

えり「相方……あなたの場合は野依プロですか」

みさき「まぁ、そうなりますね」

えり「あなたは少し野依プロへのキツい言葉が目に付きますね」

みさき「あー……」


みさき(今度は矛先がこっちに……)

みさき(福与さんを見習って逃げるが勝ちですかね)


みさき「すみません、飲み物を買いに行く途中なので……それでは」ソソクサ

えり「あっ、待ちなさいっ」



恒子『副将戦、決着!』

恒子『ここでトップに躍り出たのは阿知賀、阿知賀ですっ!』


久「……」

まこ「……」

咲「け、結構一方的でしたね」

優希「結構じゃなくて大分だじぇ」

久「まぁ、また白糸台がへこんでくれたから」

まこ「うちの点数自体はあまり変わりなしか……」


和「戻りました」


優希「おかえりだじぇ」

和「先輩は?」

咲「トイレだって」

和「そうですか」

久「ふむ……あんまり落ち込んでないのね」

和「落ち込む理由もありませんから」

まこ「前の試合はしょげてたがの」

和「あれは……その、色々ありましたから」

優希「きっとお腹が空いてたんだじぇ」

咲「そんな優希ちゃんみたいな……」

和「稼ぎたかったのは本音ですけど、現状維持は出来ましたから……」


和「あとは……咲さんにお願いすることにします」


咲「うん、わかってる」

久「じゃああらためて気合を入れる必要もなさそうね」

優希「いっちょぶちかまして優勝だじぇ!」

咲「あはは……」


咲(でも、阿知賀の高鴨さん……)

咲(ちょっと不安かも……)


まこ「そろそろ時間じゃな……一人で大丈夫かの?」

咲「だ、大丈夫ですよ!」


久(試合はともかく、ここは不安ね)



恒子『副将戦、決着!』

恒子『ここでトップに躍り出たのは阿知賀、阿知賀ですっ!』


淡「あはっ、逆転されちゃった!」

菫「なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ……」

淡「だって絶好のシチュエーションだよ?」

尭深「リベンジ、かな?」

淡「そーそー、ここで一位を取れば高鴨穏乃に完全に勝ったって事だもん」

照「……清澄が一位じゃないだけマシ」

菫「そんなに妹のことを警戒してるのか」

照「それもそうだけど、それだけじゃない」

菫「それ以外のことといえば……須賀くんのこととか?」

照「……たまに菫は空気読まないよね」

菫「えっ」

淡「そーだそーだ」

菫「お前は黙ってろっ」ビシッ

淡「あわっ」


誠子「ただいま……」ズーン


尭深「おかえり、お茶飲む?」

誠子「うん、頼むよ」

菫「戻ったか」

誠子「すいません、なんかもう、弁解の余地もないです」

菫「そう肩をおとすな。逆転はされたが絶望的な点差じゃない」

淡「むしろよくやったって褒めたい気分だね!」

誠子「失点して褒められるとかある意味きついんだけど……」

尭深「お茶、どうぞ」スッ

照「お茶菓子も」スッ

誠子「ありがとう、ございます」


淡「じゃ、そろそろ行っちゃおうかなー」

菫「淡、わかってるな?」

淡「とーぜん! もう最初っから飛ばしてくんだから!」

菫「相手を侮るな。決勝卓にいるのは間違いなくお前と同格以上のやつらだと思え」

淡「まっ、本気を出した淡ちゃんが一番だけどねっ」

菫「だからそういうのは――」


淡「行ってきまーす」


菫「……最後まで話を聞け」プルプル

照「もういないよ?」

菫「わかっているっ」



恒子『副将戦、決着!』

恒子『ここでトップに躍り出たのは阿知賀、阿知賀ですっ!』


明華「あらら、完璧に競り負けちゃいましたねぇ」

ハオ「決勝ともなれば強いプレイヤーもそれなりにいるとは思いますが……」

「あれ、正直やばかったね。連荘は防げたからなんとかってとこだけど」

ハオ「そのことを考えれば、今回の一番の立役者は白糸台でしょうか?」

明華「やたら放銃すると思ったら差し込んでたんですね、あれ」

智葉「しかし、メグがああも簡単に撃ち負けるか……」

ネリー「ウソみたいに流れ寄ってたね……サトハだったらどうしてた?」

智葉「さぁな、当たってみないことにはな」


メグ「タダイマ……デス」


「いやぁ、きつかったね、今回は」

メグ「暗いのも決闘も通じない……とんだ八方塞がりデスヨ!」

智葉「メグ、落ち着け」

メグ「コンチキショウ! こうなればやけ食いデス!」


明華「メグちゃん、荒れてますねぇ」

「ある程度仕方ないとは言え、とても満足できる結果じゃないからね」

ハオ「鷺森灼……彼女の師はかつて国内無敗と呼ばれた小鍛冶健夜に泥をつけたとか」

「その話、十年くらい前のインターハイの話らしいね」

ネリー「監督、調べたの?」

「軽くだけどね。学生時代唯一の跳満以上の直撃が阿知賀の監督、赤土晴絵かららしい」

智葉「学生時代の小鍛冶プロ……今の宮永照みたいなものか」

ネリー「でもそのテルって結構失点してない?」

智葉「でかい直撃自体は少ない……二年前に一度、去年も一度、そしてこの夏に二度か」

「当時学生だった戒能プロと去年の個人戦でタケイに、今年のは阿知賀の先鋒とサトハにだね」

智葉「小鍛冶プロは三年のときに大会に初出場だが、宮永照は一年からだ。失点の機会も比較して多くなるだろう」


智葉(まぁ、小鍛冶プロは大会に出た年に初めて麻雀に触れたらしいが)

智葉(つくづく化物だな……あの人は)


ハオ「ネリー、そろそろ時間では?」

ネリー「あ、ホントだ」

明華「最後にひと花、咲かせちゃってください」

メグ「それだと散ってしまうのデハ?」ズルズル

「さぁ、ここで見事勝てばスポンサーたちもきっと素直になってくれるぞ」

ネリー「わかってるよ」

智葉「もはや言うことはないが……頑張ってこい」

ネリー「うん、行ってくるよ」



恒子『副将戦、決着!』

恒子『ここでトップに躍り出たのは阿知賀、阿知賀ですっ!』


穏乃「トップ! トップだよトップ!」

玄「はぇ~、一位になっちゃった……」

宥「灼ちゃんすごい……」

憧「赤土晴絵の再来だって」ニヤニヤ

晴絵「あはは……なんというか、結構恥ずかしいね」


灼「ただいま」


玄「帰ってきたのです!」

憧「赤土晴絵の再来!」

穏乃「次代のレジェンド、ネクストレジェンド!」

灼「ちょっ……」

宥「おかえり~」ムギュッ

灼「暑苦し……」


晴絵「灼、よくやってくれたね」

灼「多分、私だけの力じゃないから」

憧「謙遜しなくていいのに、ネクストレジェンド!」

灼「し、しつこいっ」

玄「うんうん、おもちをおもちでないことを除けば言うことなしなのです」

灼「うるさい」ゴスッ

玄「ふぎゃっ」

宥「く、クロちゃーん!」


灼「とにかく、一位はとってきたから」

晴絵「申し分ないよ、これで優位に立ったわけだし」

憧「二回戦以降、苦戦続きだったしね」

玄「うっ、その節は……」

宥「大丈夫、クロちゃんを責めてるわけじゃないから」

晴絵「これで守る側に立ったわけだけど、いける?」

穏乃「守るって……要するに相手に上がらせなければいいんですよね?」

憧「あと自分が振り込まないことね」

穏乃「じゃあ私が上がりまくれば万事オッケーだね!」

晴絵「そりゃ、攻撃は最大の防御とも言うけどね……」

穏乃「任せてください! 100速でぶっちぎりますから!」ダッ

憧「あ、しず!」


穏乃「じゃっ、行ってくるね!」


憧「……大丈夫かなぁ」

晴絵「まぁ、しずも無鉄砲に打ってるわけじゃないから」

玄「でも、あの卓には明らかに一人だけ強敵がいるのです……」

憧「あ、胸がどうとかの話だったらもういいから」

玄「お、お姉ちゃーん!」

宥「よしよし」ナデナデ

灼「はぁ……わずらわし」



京太郎「ふぅ……すっきりした」

京太郎「でもまぁ、俺がすっきりしたところでどうにもなんないんだよな」

京太郎「……流石に心配しすぎか」

京太郎「現状は阿知賀の一人浮き……でも絶望的な差じゃない」

京太郎「ここは咲を信じるか」


ネリー「信じたところで結果は変わらないよ。だって勝つのはネリーだもん」


京太郎「もう一人ぐらい、そういうこと言いそうなやつはいるんだよな……」

ネリー「白糸台のこと?」

京太郎「そうだな。あいつだったら自分が負けるはずないとか言い出しそうだし」

ネリー「あいつ、ちょっと調子乗りすぎだよね……」

京太郎「あー、そういうのは試合の時まで取っておけよ」

ネリー「うん、そうするよ」


ネリー「ところでさ、試合の後って時間ある?」

京太郎「ないな。うちで祝勝パーティーするからな」

ネリー「じゃあ大丈夫だね。それキャンセルになるから」

京太郎「悪いが今日ばっかりは応援してやれないぞ」

ネリー「いいよ、別に。欲しいものは勝ってからもらってくから」

京太郎「そうか」


京太郎(こいつの欲しいものってなんだろうな)

京太郎(優勝したらもらえるもの……金ではないよな)

京太郎(いや、スポンサーからって意味か? それなら納得だ)ウンウン


ネリー「何黙って頷いてるの?」

京太郎「お前も苦労してそうだなって思ってな」

ネリー「苦労……たしかにわからず屋相手にはしてるかも」

京太郎「頭の固いやつだっているだろうしな」

ネリー「頭が固いっていうか、にぶいんだと思うけど」

京太郎「わからず屋でにぶい……もしかしてそいつ、わかってて気づかないふりしてるんじゃないのか?」

ネリー「そうなの?」

京太郎「なんで俺に聞く」

ネリー「他に誰に聞くのさ」

京太郎「まぁ、ここに他のやつはいないけどさ」

ネリー「……」ジトッ


淡「あ、キョータロー!」


京太郎「……騒がしいのが来た」

淡「なになに、私の応援?」

ネリー「そんなことあるわけないじゃん」

淡「なんであんたが答えるの?」

ネリー「なんでもいいでしょ」

京太郎「お前ら……だからそういうのは試合で発散しろよ」


穏乃「ほら、会場はこっちこっち」

咲「ひ、引っ張らないで」


京太郎「っと、大将が勢揃いか」

穏乃「あれ、京太郎はここでなにしてるの?」

京太郎「世間話。それより、うちのとなにかあったのか?」

穏乃「もうすぐ開始だし、ばったり会っちゃったから一緒に行こうかなって」

咲「でも、わざわざあんなに引っ張る必要ないよね?」

穏乃「えー? だって寄り道しようとするしさ」

咲「……してないもん」

京太郎「事情は大体わかった……高鴨」

穏乃「なーに?」

京太郎「よく連れてきてくれた。褒めてつかわす」ワシャワシャ

穏乃「わっ」


咲「……」

ネリー「……」

淡「……」


穏乃「やめてよー」

京太郎「はは、照れるな照れるな」グリグリ

穏乃「わー♪」


咲(この子……)

ネリー(こいつ……)

淡(高鴨穏乃……!)


*1



恒子「もう戻らなきゃなぁ……」

恒子「あーあ……どこかに盛り上がるネタ転がってないかなぁ」


『はは、照れるな照れるな』


恒子「あれって……たしか、瑞原プロが引っ張り込んでた学生さん?」

恒子「清澄高校の須賀京太郎くんだっけ……ふむふむ」

恒子「すこやんも知り合いっぽいし……アリかも!」



京太郎「じゃあお前ら、存分にやってこいよ」


穏乃「はーい!」

咲「……」ジトッ

ネリー「……」ジトッ

淡「む~」ジトッ


京太郎「そういう不満は雀卓にぶつけてこい」

咲「そうだね、高鴨さんには悪いけど」

ネリー「阿知賀には容赦なくいかせてもらうから」

淡「絶対泣かせてやるんだから!」


穏乃「あれ、集中攻撃だ」

京太郎「点数的にしかたないんじゃないか?」

穏乃「そだね……よし、なんか燃えてきたー!」

京太郎「じゃ、俺はそろそろ――」


恒子「確保っ!」ガシッ


京太郎「え?」

恒子「さ、もうすぐ時間だから早く早く」

京太郎「ちょっ、いきなりなにするんだよっ」

恒子「いいからいいから」ムニュッ

京太郎「……」

恒子「てなわけでれっつらごー」グイグイ

京太郎「うおっ」


咲「……なに今の?」

ネリー「こっちが聞きたいよ」

淡「なにさ、私以外にデレデレして!」

穏乃「今の人……たしかアナウンサーだったっけ?」

咲「そうだ、たしか決勝の解説席にいた人だ」

ネリー「そのアナウンサーがキョウタロウを連れて行った……」

淡「むむっ、ということは……」

穏乃「京太郎、またテレビに出るんだ。すっごいね!」


咲(なによそれ……京ちゃんはまたバカなことして)

ネリー(つまり、今度はネリーの試合見てコメントするってことだよね?)

淡(あれ? もしかして私の活躍を見せつけるチャンス?)


穏乃「みんなー、会場行かないの?」



恒子「てなわけで連れてきちゃいました!」

健夜「……」ポカーン

京太郎「……ども」

恒子「瑞原プロが連れてきた謎の高校生……これで視聴率爆上げ間違いなしだよ!」

健夜「こ、恒子ちゃんっ、なにやってんの!?」

恒子「だから特別ゲストを――」

健夜「そういうことじゃないよっ」

恒子「まぁまぁ、小じわ増えちゃうよ?」

健夜「増えませんっ」


京太郎(この二人、普段からこんな感じなのかよ……)


健夜「京太郎くんも京太郎くんだよ、こんなにほいほいついてくるなんて!」

京太郎「あれ、今度はこっちに槍が……」


京太郎(間違ってもはやりんの情報に釣られたなんて言えないな……)


恒子「そこはほら、瑞原プロのおかげだよ」

京太郎「あんたが言っちゃうのかよ!」

恒子「あはは、ごめんねぇ」ケラケラ

健夜「京太郎くん?」

京太郎「あーもう! 本番始まりますよ本番!」



久(いよいよ最後の最後……)


菫(泣こうが笑おうが決着だ)


智葉(さて、どう転ぶか……)



恒子『決勝卓の大将戦……いよいよ、いよいよこれで決着です!』

恒子『というわけで、今回はいつもの二人に加えてもう一人特別ゲストを呼んでみましたっ!』


京太郎『……ど、どうも』



久「……」


菫「……」


智葉「……」


*2



恒子「えっと、結構急に決まったことだけど、須賀くんいける?」

京太郎「……ここまで来たらやるしかないですよ」

恒子「いい返事! お姉さん気に入っちゃった!」

健夜「試合、もうすぐ始まるよ」

恒子「すこやん、空気読んでよ……」

健夜「え、今の私悪いの?」

京太郎「はーい、じゃあ選手紹介から行きましょうか」

健夜「京太郎くん仕切ってるし!」

恒子「いいぞー、いけいけー!」

健夜「恒子ちゃん仕事して仕事!」


恒子「じゃあ順位順に行きますか」

健夜「まずは阿知賀の高鴨選手ですね」

恒子「赤土晴絵が率いる阿知賀のクローザー! 第二回戦、準決勝とぎりぎりの勝負を乗り越えてきた彼女ですが、今回はどんな戦いを見せてくれるのでしょうかっ」

京太郎「俺はリアルタイムで試合を見たことないんですけど、小鍛冶さんから見てどんな印象ありますかね?」


健夜「高鴨さんは……スロースターターですね」

健夜「巡が進むにつれ、局が進むにつれ調子が良くなっていく傾向にありますね」

健夜「調子づく前に叩かれてしまえばそれまでですが、最終盤での粘り強さは侮れないと思います」


京太郎「山の奥深くにいけば、力を増す……ってところですかね?」

健夜「あ、うん……もしかして見えたりしてる?」

京太郎「まぁ、なんとなく。多分、あいつは一度戦った相手にも強いと思いますよ」

恒子「なんだこの意味深な会話はぁ! てなわけで次行きます」


恒子「昨年個人戦九位の竹井久が率いる清澄の秘蔵っ子! 準決勝では宮永つながりかチャンピオン同様、中々の魔王っぷりを見せてくれました!」

健夜「この子は……京太郎くんの方が詳しいんじゃないかな?」

京太郎「いやまぁ、それはそうなんですけど……なんか俺が言っちゃうと身内びいきになりそうで」

恒子「すこやん、めんどくさがっちゃダメだよ?」

健夜「違います! ……もう」


健夜「清澄の宮永さんですが、やはり嶺上開花が印象的ですね」

健夜「ただ、それだけに頼ることなく、時には他家のアシストに回ったりして状況に対応してる様子も見られます」

健夜「自分が攻められることにはやや鈍いようですが、実力は高いと思います」


京太郎「まぁ、咲が強いのは保証しますよ」

恒子「ズバリ、その根拠は!」

京太郎「なんてったって俺の妹分ですからね!」

恒子「ここで身内びいき! さっきの自粛はどこいったんだぁー!?」

健夜「二人とも、脱線してないで次」


恒子「海外からの刺客、臨海の切り札! 今まで力を温存するかのように低空飛行が続いてきましたが、今回こそその全貌が明らかになるに違いない!」

京太郎「こいつは……ある意味シンプルっちゃあシンプルだと思いますね」

健夜「わかりやすいからこそ隠してたってのはあると思うんだけど」

恒子「説明もわかりやすくどうぞ」


健夜「ヴィルサラーゼさんは、流れを読むことに長けていますね」

健夜「その局に誰が上がりそうかは大体わかっていると思います」

健夜「ある種の未来予知とも言えますが、攻め時が固定されているというのは不自由ですね」


京太郎「ツキを寄せるってことがいまいちわかりにくいんですけど、一度限りの試合だったら全局ブーストみたいなことできるんですかね?」

健夜「その試合の前後しばらくに相当我慢がいりそうだけどね」

恒子「なにやら二人が常人にははかり知れない領域にいっちゃってる気がしますが、最後の選手紹介いきます!」


恒子「王者白糸台に流星のごとく現れた綺羅星! 宮永照の後継者とも噂される彼女ですが、準決勝同様、今回も大暴れが期待できますっ!」

京太郎「……高鴨の時と同じように小鍛冶さん、お願いします」

健夜「はい、わかりました」

恒子「ストップ! なにやら大星選手がカメラに向かって話しています」


淡『キョータロー! 勝ったらキスしよーね!』


京太郎「……」ダラダラ

健夜「……京太郎くん?」

京太郎「さあ、同じ名前の違う人のことじゃないですかね?」

健夜「はぁ……もう、君は相変わらずだね」

京太郎「大丈夫です、きっと別人です」

恒子「ええっと、なにやら放送事故じみた雰囲気ですが、引き続き紹介お願いします」


健夜「大星さんは準決勝で見せたとおり、早い段階でのリーチが主な武器ですね」

健夜「それ以外には役のない状態ですが、必ず刻子が含まれていて、それを暗槓した場合、かなりの割合で裏ドラが乗っかっています」

健夜「ただ、カンまで多少時間がかかるのと、しなければ火力がほとんどないのが難点ですね。相手を聴牌から遠ざけてそれを補っているようですが」


京太郎「単純に強そうですけど、他の連中もやっぱ黙ってはいないですよね」

健夜「そうだね、安全圏も相手の出足を遅らせるだけだし」

恒子「というわけですこやんのダメ出し選手紹介でしたっ!」

健夜「ちょっ、いきなり……しかもダメ出しってなに!?」

恒子「ほら、そろそろ試合も始まっちゃうし」

京太郎「ホントだ……き、緊張してきた」

恒子「大丈夫だいじょーぶ! なんか結構手馴れてるし」

京太郎「今更感あるしな……よし、腹括るか」

恒子「そうそう、お姉さんは君の味方だぜっ」

京太郎「すいませんけどフォローお願いします」

恒子「一緒にすこやんに立ち向かおうね!」

健夜「なんで私だけ敵対してるの!?」



まこ「アホか……」

久「なんというか……なんというかね」

優希「白糸台の大将生意気だじぇ! よし、咲ちゃん叩き潰せっ」

和「大星、淡……」



玄「お、お姉ちゃんどうしよう……き、キスだって!」モミモミ

宥「く、クロちゃん落ち着いてぇ……」

憧「余裕があるのかないのかよくわからないわね……」

灼「騒がし……」

晴絵「うわー、最近の高校生進んでるなぁ」

憧「えっ」

晴絵「え?」



菫「あいつは……!」

誠子「あはは……なんかもう、無茶苦茶だな」

尭深「恋は盲目ってやつかも……」ズズッ

照「……」ペキペキ

誠子「あの、先輩?」

照「ポッキー折れちゃった……新しいの買ってくる」



「情熱的だねぇ、日本の学生はもっとお堅いかと思ってたんだけど」

智葉「あれが普通と思わないでください」

ハオ「……なんというか、不真面目ですね」

明華「私は良いと思いますけど。情熱的でロマンチックですし」

メグ「うちの国ではけっこうありマスヨ?」

「ネリーのやつ、見事にカチンと来てるね。これが精神攻撃だとしたら大したもんだ」

智葉「多分あれは計算とかではないと思いますが」



淡「リーチ!」


淡(いきなり親番……ラッキーだねっ)

淡(今日は出し惜しみなし、最初っから飛ばしてくんだから)

淡(見ててね、キョータロー!)


穏乃(来た、大星さんのダブリー)

穏乃(でも今回は角が浅い……)

穏乃(まだ序盤だし、止められないかも)

穏乃(んー、でも裏ドラだったらどうにかなるかな?)

穏乃(やってみよ……裏ドラ乗るなー、裏ドラ乗るなー)


淡「――カンっ」


咲「――っ」ピク


咲(びっくりした……)

咲(もう、紛らわしいよね!)


ネリー「……」


ネリー(いきなり来たね、こっちと同じで出し惜しみする理由もないんだろうね)

ネリー(調子に乗ったやつをさらに調子に乗らせるのは癪だけど……)


淡「ツモ! 裏ドラは……あわっ!?」

淡「う~……1300オール! 連荘!」


穏乃(あ、ホントにできた)



恒子「大星選手、裏ドラ乗らずっ!」

健夜「これは……高鴨さんの」

京太郎「なんかウンウン唸ってたけどあれのせいってことですか?」

健夜「京太郎くんが言った通り、大星さんに慣れたんだと思う」

京太郎「あいつもとんでもない魔物ってとこか……」


京太郎(冬はそんな目立つほどでもなかったんだけどな……恐るべき成長速度だ)


恒子「すこやん、ここで一句!」

健夜「えっ、ちょっ」アタフタ

恒子「残念っ、時間切れです! というわけで実況に戻りまーす」


京太郎(というか健夜さん大変だな……)

京太郎(矛先がこっちに向かないことを祈ろう)



菫「裏ドラは乗らない、か」

誠子「この前も最後の最後でありましたけど……」

尭深「うん、最初っからこれじゃ辛いかもね」

照「……あの子、この前より強くなってる」

菫「だが聴牌の早さは変わらない……火力不足は数で補うしかないな」



淡「ツモ、1600オール! 四本場!」


淡(うぅ……なによなによ!)

淡(連荘できてるのに全っ然ドラ乗んない!)

淡(高鴨穏乃高鴨穏乃高鴨穏乃っ!)


淡「リーチ!」


淡(今度こそ、絶対跳満上がってやるんだからっ!)


穏乃(ふぅ……なんか疲れてきた)

穏乃(ノミでも上がれればいいんだけどなぁ)

穏乃(うーん、聴牌が遠い……)


咲「……」チラッ


咲(大星さんの支配に重なって、薄らとだけどなにかある)

咲(もしかして、高鴨さんがさっきから何かやってるのかな?)

咲(でも、なんか疲れてきてるみたい)

咲(……そろそろかな?)ズズッ


淡「――っ」

穏乃「?」

ネリー「……」


淡(なに、これ……)

淡(せっかく高いとこまで昇ったのに、引きずり下ろされるような)

淡(これが、サキの……?)


穏乃(なにこれ、下から押し上げられてるみたい)

穏乃(ちょっと楽になったかも)


ネリー(前の試合では使ってなかったけど、こんなのも持ってたんだ)

ネリー(でもこれ、今のネリーには追い風だね)

ネリー(自分の親番に合わせてたんだけど、あんなに連荘されたら仕方ないか)

ネリー(いくよ、一回目)


ネリー「リーチ」

咲「え」


淡(なによ、真っ向勝負ってこと?)

淡(でもすぐに角だし、私が先に上がっちゃうよ?)


ネリー「でも、ネリーはもっと速いから」

淡「え?」

ネリー「ツモ、4400・8400……千点棒ももらってくね」

淡「~~っ!」



恒子「ようやく東一局が終了! ここから事態も点数も激しく動き出すということでしょうかっ」

京太郎「出だしからハラハラしたなぁ」

恒子「須賀くん的には今のどう思う?」

京太郎「またざっくりしてますね……今の臨海の上がりですけど、多分うちの咲が絡んでるんじゃないかと」

恒子「臨海がリーチをかけたときに驚いたような素振りを見せたけど、上がられたのは予想外だったのでは?」

京太郎「それはそうですね。多分、自分で上がろうとしてたと思いますから」

恒子「ふむふむ、それでなにかをしたけど、結果的に臨海をアシストしてしまったと」

京太郎「咲はなんというか、点が減ったら上がりやすく、増えたら上がりにくくする、なんていうことができますから」

恒子「はー、なるほど……それではそろそろ試合の方に戻りましょうか」


健夜(……恒子ちゃんが意外とまともにやってる)

健夜(なんで私の時はああなんだろう……)ズーン


恒子「ほらほらすこやん、真面目にやってよ」

健夜「恒子ちゃんにだけは言われたくないよっ」



智葉「昨日に比べて控えめだな」

明華「それだけカウントを増やしているということでしょうか?」

ハオ「昨日よりはわかりにくくする、とも言ってましたね」

メグ「小分けにしておけば相手のあがりも潰せて一石二鳥、万々歳デス!」

「さじ加減が難しいところだね……厚くしすぎれば回数が減り、薄くしすぎれば相手に先を越されるか」



ネリー「ツモ、2000・4000」


ネリー(思ったより点数が低い……)

ネリー(もしかしてこれもサキのせい?)


淡「リーチ!」


ネリー(またダブルリーチ……懲りないね)

ネリー(でもこっちも低空飛行に入ったし……適当なとこで差し込も)


咲「……」


ネリー(ほっとくとこっちが大きなの上がりそうだし)


淡「ロン、2600!」

ネリー「はい」


咲(……今のって差し込み?)

咲(せっかくカンできそうだったのに……)



恒子「臨海が被弾っ! しかし、今のはわざとらしかったような……」

健夜「うん、あれは差し込みましたね」

京太郎「咲が嶺上開花しそうだったからですかね?」

健夜「裏ドラが乗らない状態なら、大星さんの打点は低いですからね」



久「今の、上がれてたら跳満くらいだったわね」

まこ「しかもこれで親番を流されたか……」

優希「しかしダブリー連発とは豪勢だじぇ」

和「さっきも結構見たような気が……」



咲(南入……)


穏乃「……」ゾゾッ


咲(なんか、空気重くなったな……)

咲(これが、高鴨さんの)


『シズノは言うなれば、深山幽谷の化身と言ったところか』

『いかな嶺上の花といえども、かの者が支配する領域で咲くことができるのか……否か』

『衣は、それが楽しみでならない』


咲(どうしよう、王牌が全然見えないよ……)


淡「……ノーテン」

咲「ノーテン」

ネリー「ノーテン」

穏乃「聴牌」



恒子「この局はまったく動きがありませんでしたねぇ、一体どうなっているんでしょうか?」

健夜「うーん、一言で言うなら五里霧中?」

恒子「これだから感覚派は……」ヤレヤレ

健夜「だ、だって本当にそう見えるんだよ!?」

恒子「京太郎くんはどう思う?」

京太郎「えっと、あれは間違いなく高鴨の仕業だと思います」

恒子「ほうほう、といいますと?」

京太郎「なんというか、後半に行くほど調子良くなるんですけど、それとともに山も掌握していくというか」

恒子「ふむふむ、だから他の三人の調子が悪くなったと」

京太郎「そんなとこだと思います。いやぁ、リードしてもらえると助かりますよ」

恒子「そうやって引き出していくのもアナウンサーのお仕事ですから!」

健夜「ねぇ、すっごく納得いかないんだけど……!」ピキピキ



晴絵「来たね、やっと暖まった」

憧「東場のダブルリーチ、全然裏ドラ乗らなかったけど、あれもしずが慣れたってことなのかな?」

晴絵「そうだろうね……でも、まさかこんなに早いなんてね」

玄「穏乃ちゃん、前半はちょっと辛そうだったね」

灼「多分、東場の最初の方だったからだと思……」

憧「じゃあ、今は……」

晴絵「そのくらいのことなら苦もなくやっちゃうんじゃないかな?」

宥「わぁ、あったか~い」



淡(聴牌が遅れるのはこの前もあった)

淡(でも、流局で罰符を払うことになるなんて……!)

淡(絶対……絶対、許さない!)


淡「リーチ!」


穏乃(ん、大星さんがリーチした)

穏乃(よし、私も行ってみよ)

穏乃(どっちが速いか競争だ!)


穏乃「リーチ!」

淡「――っ」


ネリー(阿知賀が初めてリーチをかけた)

ネリー(自分の領域に入ったから攻めに回ったってこと?)

ネリー(いや、でも――)


穏乃「ははっ」


咲(笑ってる?)


穏乃「ツモ、2600オール!」



恒子「前半戦、終了っ!」

健夜「前半で加点したのは臨海……とはいえ阿知賀の優位は変わりませんね」

恒子「となれば、阿知賀以外の三校は後半大きく動くということですね!」

健夜「そうせざるを得ないと思います」

恒子「ここで須賀くん、前半の締めをどうぞ!」

京太郎「ちょっ」


京太郎「えっと、前半では白糸台は果敢に攻めてましたが、うちと臨海は様子見の色が強かったですね」

京太郎「勝負に出るとしたら後半の東場だと思います」

京太郎「攻めるにしても守るにしても頑張ってほしいですね」


恒子「はい、無難&無難でしたがありがとうございました」

健夜「いきなり振られて答えられるだけすごいと思うんだけど……」

京太郎「ぶ、無難……」ピキッ


京太郎「――ここまできた理由なんてそれこそいろいろあると思う」

京太郎「でもここまで来た以上、ヌルい試合なんて見せんなよ、お前ら」

京太郎「勝利の女神は気まぐれで迷子な上にいっつもお菓子食ってるけど、前見てなきゃ届きすらしないんだからな」

京太郎「少なくとも俺はそうだった――以上!」



久「……あいつ、やらかしたわね。というか咲たちには中継聞こえるわけないのに」

まこ「そういやぁ、去年の部活動紹介の時も同じことやらかしてたのぅ」

和「去年というと、染谷先輩はそれを見て麻雀部に?」

まこ「ふむ、今考えてみるとそういうことになるかの」

優希「その話、聞きたいじぇ!」



京太郎「……やっちまったぜ」

京太郎「ついカッとなって言っちまったぜ……」

京太郎「あ~、カメラの前に出るだけでもアレなのに、もはや放送事故じゃねーか」


恒子「いやいや、良かったと思うよ?」


京太郎「まぁ、ふくすこコンビの放送事故に比べればマシかもしれないですけど」

恒子「いやぁ、そんな褒めないでよ。照れちゃうからさぁ」

京太郎「……ま、ある意味褒め言葉ですね」

恒子「あはは、これでも結構怒られちゃったりしてるんだけどね」

京太郎「これでも?」

恒子「新人って立場も色々めんどくさいんだよー」

京太郎「いや、多分新人とか関係なく怒られますから」

恒子「とりあえず、私でなんとかなってるから君は全然大丈夫ってこと」

京太郎「俺、アナウンサーじゃないんですけど」

恒子「細かいことは気にしない気にしない」


恒子「じゃ、休憩終わったらまた会おう!」


京太郎「一応、気を使ってくれたっぽいな」

京太郎「ふぅ……気分転換するか」グゥ

京太郎「ここはお菓子だな」



京太郎「飲み物はこれでよし、お菓子は……」


京太郎(勝利の女神……前を見てなきゃ届かない、か)

京太郎(俺はうつむいてる途中でどっかいっちまったからな……)

京太郎(離れてくなんてありえない……なら、なんで今こんなことになってるんだろうな)


京太郎「やめよう、きりがない」


京太郎「お、ポッキーあった」

照「あ、ポッキー発見」


京太郎「……」

照「……」


京太郎(やばい、どうしよう)

京太郎(咲もばったり会ったって言ってたけど、まさか俺もそうなるとは)

京太郎(これまで全く会わなかったのが不思議なんだけど……)

京太郎(……いや、俺が避けてたのか)


照「……京ちゃん」

京太郎「え、あ……な、なんだ?」

照「それ、買うの?」



京太郎「……」ポリポリ

照「……」ポリポリ


京太郎(無言で二人でポッキーを食べている)

京太郎(これは一体どういう状況だろうか)

京太郎(てか、なに話せばいいのやら……)

京太郎(咲は普通に世間話したって言ってたけど)

京太郎(……よくよく考えればこいつらが世間話ってまったく想像つかない)


照「咲と一緒なんだ」

京太郎「あ、ああ……」

照「京ちゃんは、咲がどうしてインターハイに出たか知ってる?」

京太郎「いや、聞いたことないな」

照「私に会いに来たんだって……おかしいよね。普通に来てくれれば普通に会えるのに」

京太郎「……」


京太郎(照ちゃんにとってはそうでも、きっと咲には……)

京太郎(あいつの気持ちもわかってやってくれよ)


照「……どうしてここに来たの?」

京太郎「どうしてって、そりゃあ――」

照「竹井久がいるから?」

京太郎「……そうだよ。久ちゃんがここに来なきゃ、多分俺もここに来てない」

照「……それだけ?」

京太郎「実はさ、照ちゃんにずっと言いたかったことがあるんだ」

照「うん」

京太郎「照ちゃんはさ――」


京太郎「――どうして、何も言わないでいなくなったんだよ」

照「……」


京太郎「あんなに一緒にいたのに」


京太郎(違う、そうじゃない)


京太郎「離れないっていったのも嘘だったのかよ」


京太郎(そうだけど、それだけじゃない)


京太郎「あの時の俺にはほかに何もなかったのに」


京太郎(もっと別のことが言いたかったはずだろ……!)


京太郎「なんで、俺を一人にしたんだよ……!」


照「……京ちゃん」

京太郎「……」

照「ごめん、なさい」ポロポロ

京太郎「あ……照ちゃん、これは――」

照「――っ」ダッ

京太郎「照ちゃん!」


京太郎「言っちまった……勢いに任せて」

京太郎「これが一番怖かったんだ」

京太郎「怖かった、はずなのに……」


京太郎「……戻るか」



恒子『戻ったぞー、お前らー! チャンネルも戻せよー』

健夜『いや、だからすでに見てる人にチャンネル戻せって言っても……』

京太郎『っしゃ、行くぜオラ!』

健夜『京太郎くんまで!?』


久「……」

まこ「後半戦開始か……」

優希「それにしても、先輩がスイッチ入った感じだじぇ」

和「はぁ……なんだか先輩が輝いて見えます」ウットリ


久(空元気……?)



ネリー「ネリーの親だね」


ネリー(前半で直に見れなかったものも大体見たし、攻めてもいいけど)

ネリー(もうちょっと、もうちょっとだけ待とうかな)


咲(後半戦……さすがに攻めなきゃまずいよね)

咲(南場に入ったら高鴨さんの影響が強くなる)

咲(なら、攻めるのは東場……!)


淡「リーチ!」


淡(後半戦に入ってまたダブリーできるようになった……)

淡(でも、南場に入ったら……そこは認める)

淡(だから――)スッ


咲「え?」

穏乃「あれ?」

ネリー「……」


淡(安全圏も、捨てる)

淡(捨てて、全部つぎ込む……!)


淡「――カン!」


穏乃(ダメだ、これ抑えられない……!)


淡「ツモ……裏ドラ乗った! 3000・6000!」



淡『ロン、18000!』


恒子「ここで盛り返したのは白糸台だぁっ! 有無を言わさぬ連続和了でトップに返り咲きましたっ!」

健夜「今のは防御を捨て攻撃に転じたのが功を奏したみたいですね」

京太郎「あとサイの目が良かったってとこっすね」

恒子「順位は変動しましたがまだ先は長いっ! さらなる激動が予想されます!」



菫「淡……!」

誠子「やった、尭深やったよ!」ブンブン

尭深「ちょっ、お茶飲めないよ……」

菫「そういえば、照はいないのか?」

誠子「あ……」



ネリー(白糸台……!)

ネリー(またダブルリーチかけてるし)

ネリー(放置してたら連荘される……しかも今度は跳満)

ネリー(全部つぎ込んで、まとわりつくものを全部振り切ってるんだ)

ネリー(それで強引に流れを持ってってる……)

ネリー(止めるには……これしかないか)トン


咲「……ロン、8100です」


咲(差し込み……取られる点数も低くはないのに)

咲(嶺上牌をツモれたら上がれてた……でも、それじゃ多分間に合わなかった)

咲(次は私の親番……ここで攻めなきゃ負ける!)


ネリー(という流れになると思ってここらへんにも寄せといたんだ)

ネリー(上がろうとしてるとこ悪いけど、サキの親番、流しちゃうから)

ネリー(昨日みたいに上回れると思わないでよね……!)


ネリー「リーチ」


咲(リーチ……多分、すぐツモっちゃう)

咲(でもね――)


咲「――カン」

咲「ツモ、8000オール」



恒子「必殺技、ついに炸裂ぅっ! 果たしてこれが反撃の狼煙となるのでしょうか!?」

京太郎「……」

恒子「須賀くんは感無量って感じかな?」

京太郎「え、あ……まったくですよっ」

健夜「……」

恒子「もう、ダメだよー? カメラの前じゃシャキッとしてなきゃ」

京太郎「すいません、気合入れますっ」パンパンッ

恒子「よしよーし、終わったらご褒美に頬っぺただけどキスしてあげるからね」

健夜「ちょっ、恒子ちゃん!?」

恒子「すこやんが」

健夜「って私!?」

恒子「アナウンサーとしてそれはさすがにマズイと思うんだよね、やっぱり」

健夜「もうちょっと自分の言動省みようよっ」



久「やっぱりおかしい」

優希「いつも通りの嶺上開花だと思うじぇ」

和「不可解なのも相変わらずですね」

まこ「……あー、とりあえず点増えたのは良かったと思うがの」


まこ(まったく、なにがあったのやら……)



ネリー(やってくれたね……!)ギリッ

ネリー(特大のは南場に二回……それで逆転はできる)

ネリー(他は南場で動きを封じられるけど、ネリーは大丈夫)

ネリー(……今は貸しておくけど、後で利子付きで返してもらうよ)


穏乃(まいったなぁ……三位かぁ)

穏乃(まだ点差は大したことないから、全速力で追いかければなんとかなるかな?)

穏乃(……よし、やってみよう!)

穏乃(簡単に諦めてたら特訓に付き合ってくれたみんなに悪いしね)

穏乃(和に見せるんだ、私たちが歩いてきた道を!)


淡「……」


淡(角、深い)

淡(さっきはいい調子だったのに……)

淡(サキ……違う、臨海のちっちゃいのが邪魔するから!)


穏乃「リーチ!」


穏乃(聴牌も早くなったし、このままいっちゃうよ!)



穏乃『ロン、7800!』


晴絵「……この調子で南場に入ってくれればなんとかなりそうだね」

憧「トップ取られてヒヤヒヤしたぁ……」

灼「まだ油断はできないけど、チャンスは十分にある」

玄「頑張って、穏乃ちゃん!」

宥「終わったらみんなでお鍋食べようね~」


「「「「えっ」」」」


宥「?」



恒子「緊迫の東場が終わりました! 状況は臨海の一人沈み! このまま三校でトップ争いになってしまうのかぁっ!?」

京太郎「いよいよ最終局面ですか……」

恒子「ちなみに須賀くんの優勝予想は?」

京太郎「清澄! って言いたいけど、正直わかんないですね。阿知賀が有利だとは思いますけど、臨海もまだなにかしてきそうだし」

健夜「どの選手にも付け入る隙はあるとは思います」

恒子「うーん、このままだとすこやんのダメ出しが始まりそうだから次行きましょうか」

健夜「始まらないよっ」



「最後の親番……ここで仕掛けるのかな」

明華「というかもう仕掛けないとまずいと思いますけど」

ハオ「正念場ですね」

メグ「残りカウントはどれくらいデスカネ?」

智葉「ここまでは不発も含めて三回……手の大きさを考えれば一回か二回だな」

「しばらくの様子見もそのためだと思いたいね」



穏乃「……」ゾゾッ


咲(また来た……)

淡(うっ……安全圏を捨ててるのに)


ネリー「……」


ネリー(どっちも辛そうだね)

ネリー(霧に包まれてなんにも見えないって感じかな?)

ネリー(でも、ネリーには関係ないよ)

ネリー(だって右も左もわからなくても、上だけはわかるから)

ネリー(それだけわかれば、飛べるから)


ネリー「リーチ」


穏乃(マズい、でかいのくる!)

穏乃(前半はわざとおとなしくしてたんだ……!)


ネリー「ツモ、12000オール」



恒子「いきなりの大逆転! 親の三倍満で状況がひっくり返ったァ!」

健夜「やっぱり、この局面まで隠していましたね」

恒子「それは一体!?」

健夜「前半で動けないと見せかけて、ということだと思います」

恒子「なるほど……これで完全に勝負はわからなくなったということですね!」

京太郎「いや、ヤバいですねこれ」

恒子「点数的には結構平らだけど、まだ何かあるということでしょうか?」

京太郎「阿知賀のせいで清澄と白糸台は制限がかかる……だけど、臨海はそうじゃない」

恒子「あら、もしかして清澄と白糸台……ピンチみたいな?」

京太郎「だと思います」



咲「……」


咲(どうしよう、これ……)

咲(点を取らなきゃなのに)

咲(でも、なんか昔のこと思い出すな……)

咲(まだ麻雀覚えたてで、なのにお姉ちゃんは手加減してくれなくて)

咲(手も足も出ないからがむしゃらに打って……)


咲「……」スッ


淡(あれ?)

ネリー(咲の支配が……)

穏乃(消えちゃった?)


咲(全然勝てなかったけど、楽しかった……)


咲「ツモ、600・1100」


ネリー(上がったと思ったら大したことなかったね)

ネリー(親は流れたけど、最後の最後に仕込んであるからネリーの勝ちはほぼ決まってる)

ネリー(サキはあんな感じだし、白糸台は封殺されてる……警戒するのは阿知賀だけかな?)


穏乃「……」スッ


ネリー(まさか、阿知賀まで!?)

ネリー(……わけわかんない)


穏乃「うん、そういうのも楽しそうだね」

淡「……バッカみたい。負ける気?」

穏乃「勝つよ。大星さんもそのつもりだよね?」

淡「……はぁ」スッ


ネリー(白糸台も……)


淡「仕方ないから付き合ってあげる。あんたには同じ土俵で勝たないと気がすまないし」

穏乃「頑張ろうね!」

淡「ふんっ」

咲「え……いいの、二人とも?」オロオロ

穏乃「初めて麻雀したときのこと思い出して、なんか楽しくなっちゃった」

淡「勝って文句言われてもヤダしね」

ネリー「……でも、ネリーは加減しないよ? というかできない。今更流れは変えられないし」

咲「いいよ、それでも私が上がるから」

穏乃「私も!」

淡「勝つのは私だけどねっ」

ネリー「……ふぅん、じゃあやってみれば」



恒子「ええっと……これは一体どうなってしまうのか!?」

健夜「ここからは普通に打つ、そう言ってますね」

京太郎「男子並に地味な戦いになるってことか……」

恒子「うーん、地味だけど……最後の最後にステゴロって考えると盛り上がるかなぁ?」

健夜「……」


健夜(普通に打つ……私もそんなことができたらなぁ)


恒子「ここまで勝ち上がってきた少女たちが最後に選んだのは素手と素手の殴り合いっ! これはどうなるかわかりません!」



淡「親ヅモ! 4000オール!」


穏乃「取った! ロン、7700は8000!」

淡「あわっ」


咲「ツモ、2000オール」


淡「ロン、5200は5500!」

ネリー「はい」


ネリー(ついに来た、最後の一局)

ネリー(ここにくるように調整してある)

ネリー(それで上がれば、ネリーの勝ち)


淡(上がる、高鴨穏乃に勝つ!)

淡(そしてキョータローと……)


穏乃(最後の最後……全速力だ!)

穏乃(勝って、胸張って和と……)


咲「……」


咲(お姉ちゃん、京ちゃん、和ちゃん、優希ちゃん、染谷先輩、部長、みんな……)

咲(私、勝つよ……!)


咲「――カン」

ネリー「なっ――」


ネリー(速い!?)

ネリー(普通に打ってるだけなのに、なんでネリーより速いの!?)


咲「ツモ、1600・3200……これで終わりだね」



恒子「長かった戦いがついに決着……! 激闘を制し、頂点を取ったのは初出場校……清澄高校です――!!」


恒子「いやー、終わった終わったー!」

健夜「ふぅ……」

恒子「なんか食べに行く? お姉さんおごっちゃうぞ」

京太郎「すいません、疲れたんで休みます……じゃあ」


恒子「あらら……振られちゃった」

健夜「そもそもこんな遅い時間に連れまわすのはどうかと思うんだけど」ジトッ

恒子「やれやれ、すこやんはそんなんだから彼氏できないんだよ?」

健夜「喧嘩売ってるなら買うよ!?」ガタッ

恒子「うわっ」



京太郎「最後の最後で嶺上開花……」

京太郎「素の運で引き当てるあたりはさすがだな」

京太郎「ついに終わり……久ちゃんの目標も達成か」

京太郎「……俺は、どうする」

京太郎「どうしたらいいんだ……」

京太郎「俺は、照ちゃんを……」



照「……」

照「わかってた、はずなのにね」

照「恨まれてても仕方ないって……」

照「でも、やっぱり辛いな……」


『なんで、俺を一人にしたんだよ……!』


照「ごめんね……京ちゃん」
最終更新:2016年07月11日 04:15

*1 (叩き潰す……!

*2 (なんであいつがあそこに……