秋、天照大神

照「菫、そこをどうにか」

菫「ダメだ! ダメだったらダメだ!」


淡「なになにー? なんかもめてんの?」

誠子「さっきからずっとあの調子でさ……」

尭深「宮永先輩が休みに長野に帰りたがってるんだけど、部長がそれを止めてるみたい」

淡「ふーん」


淡(長野……そういえば、テルとキョータローって幼なじみなんだっけ)

淡(ということは家とかも近いのかな?)

淡(……いーこと思いついちゃった!)


照「む……どうして許してくれないの?」

菫「一人で帰ると言ってるからだろうが! 今回はこっちで車を出すこともできないんだからな!」

照「そんな大げさな」

菫「ほーう? ならこの一年で迷子になった回数を言ってやろうか?」

照「……菫は卑怯だと思う」


淡「まーまー、ここはこの淡ちゃんに免じて落ち着いて」


菫「ややこしくなりそうだから引っ込んでいろ」ピシャリ

照「淡は黙ってて」ズバッ

淡「あわっ!?」


淡「うぅ……せっかくめーあんがあるのに」

照「名案?」

淡「だれかが一緒に行けばいいんじゃないの?」

菫「私が一緒に行けないからこんなに揉めてるんだが……」

淡「別にスミレじゃなくてもいーじゃん。他にも私がいるし、私が」

照「……一理ある」


照「じゃあ誠子、お願いします」

誠子「えっと、父さんと釣りに行く約束が……」

照「じゃあ尭深」

尭深「私も忙しいので……なんか面倒なことになりそうだし」ボソッ


照「全滅……希望は絶たれた」ズーン

淡「大丈夫だよ! 私が一緒に行ってあげるから!」

照「……来てくれるの?」

淡「もっちろん! キョータローの家にもお邪魔したいしね」

照「やっぱりダメ」

淡「行くったら行くのー!」


菫(……ものすごく不安だ)



京太郎「えっと、こっちはこの前の交流戦のだったっけ」プルルル

京太郎「あーはいはい、もしもしー」


久『今忙しい?』

京太郎「ちょっと牌譜の整理中。秋の大会も近いし」

久『ご苦労様……って言いたいけど、そんな量あったっけ?』

京太郎「洗い物はこまめにやってると結果的に楽なんだけどな……」

久『つまりサボってたツケがまわってきたわけね』

京太郎「その通り」

久『まぁ、明日は部活ないって連絡だったんだけどね』

京太郎「そうか、なら思う存分寝坊しよう」

久『私も美穂子と出かけてくるから』

京太郎「男子禁制フィールドの匂いがするな」

久『そういうこと。じゃ、おやすみー』

京太郎「愛してるよー」

久『寝言は寝て言いなさいね』プツッ


京太郎「……さて、夜更かしするか」



小蒔「――♪」


「ご機嫌ですね」

小蒔「わかります?」

「ええ、まあ」

小蒔「実はこれから、京太郎様に会いにいくんです。やっとお許しがもらえました!」

「京太郎……もしかして須賀京太郎のことですか?」

小蒔「知ってました?」

「彼はセレブリティですからね……」

小蒔「せれぶりてぃ?」

「ソーリー、少々皮肉が混じってしまいました」

小蒔「あの、良子さん……京太郎様となにかありました?」

「いえ、彼とは面識はありませんね」


(彼のせいでトラブルに見舞われたことはありますが)


「ひとまず移動しましょう。神境からワープできるとはいえ、出るのは山ですからね」

小蒔「あ、はい。今日はよろしくお願いします」ペコッ

「オーケイ、今日は春の代理です。任せてください」



京太郎「ごちそーさま……ふわぁ」

「なんだ、寝不足か? 彼女と遅くまで電話してたか?」

京太郎「違うよ、牌譜の整理。最近サボってたから……そもそも彼女いねーし」

「えー? まだ進展ないの? 照ちゃんとやっと仲直りできたのに?」

京太郎「それはまあ……色々あって」


「聞いた? 色々だって」ヒソヒソ

「ああ、あれは確実にコクられたな」ヒソヒソ

「でもきっと返事は保留ね」ヒソヒソ

「やれやれ、情けないやつめ」ヒソヒソ


京太郎「なんであんたらそこまで把握してんの!?」


「だってなぁ?」

「ねぇ?」


京太郎「だぁーもう! とりあえず俺、昼まで寝てるから!」バタン!


「本当に、そろそろ逃げられなくなる頃合じゃないかしら?」

「いざそういうことを突きつけられると、踏ん切りがつかないというのもわかるよ

「やっだぁー、あんな強引に連れ出したくせにぃ」グリグリ

「あっれー? 君の方からしがみついてきたような気がするんだよなぁ」



京太郎「んん……まだ十時か」

京太郎「もうちょっとだけ――ぐほっ!」


衣「きょうたろー、おっきしろー!」ユサユサ


京太郎「お、お前……なんでここに」

衣「お前じゃなくて衣!」

京太郎「わかった、わかったから……で衣、なんで俺の部屋に?」

衣「ハギヨシが送ってくれたよ」

京太郎「そういうことじゃなくて……」

衣「とーかが連絡したって」

京太郎「連絡? あ、メール来てる」

衣「ということだから一緒に遊ぼ?」

京太郎「あー、ハギヨシさんは?」

衣「もう帰った」

京太郎「なるほど……二人きりか」

衣「うん、久々だね」

京太郎「どっかで覗いてるのがいるかもだけど……なっ!」バタン


『うわっ』

『きゃっ』


衣「?」

京太郎「とりあえずドアはきちんと閉めようってことだな」

衣「はーい」

京太郎「俺は顔とか洗ってくるから覗き魔たちからお茶とかもらっとけ」

衣「うむ、甘味を食するのは吝かじゃない」

京太郎「昼が入らなくなるからちょっとだけな」

衣「えー?」



京太郎「ふいぃー、スッキリしたー」

京太郎「さて、これからどうするかな」

京太郎「ずっと家にいるってのもあれだし……どっかに連れてくか」

京太郎「まこっちゃんのとこに連れてったら出禁くらうかなぁ?」

京太郎「まぁ、そこらへんは昼飯の後だな」


京太郎「悪い悪い、待たせた――」ガチャッ


照「あ、京ちゃん」

淡「へぇー、ここがキョータローの部屋なんだ」キョロキョロ

衣「それは衣のお饅頭!」

照「早い者勝ち」モグモグ


京太郎「……」


淡「えっちな本とかないのー?」

照「机の一番下の引き出しの下か、本棚の裏」

淡「あわっ、本当にあった!」

衣「こ、これがきょうたろーの……」ワナワナ

照「……昔と傾向が変わってない」トオイメ

淡「おっきなのばっかだね」ポヨン

衣「むっ」ペタン

照「……」スカッ


京太郎(なんか増えてるんですけど……)



小蒔「き、緊張します……」

「では」ピンポーン

小蒔「ど、どうして押しちゃうんですかっ」

「呼び鈴はこうしてプッシュするものですよ」

小蒔「そうですけど、そうじゃないんですっ」


「はいはーい……あら、姫様?」


小蒔「お、お久しぶりです」

「もしかして京太郎に? 恋する乙女ねぇ」

小蒔「そ、それは……」カァァ

「どうも、今日は六女仙の代理で来ました。戒能良子です」

「戒能……中東で傭兵やってる麻雀プロだったかしら?」

「ノーウェイノーウェイ、どこから出た話ですか」

「ささ、上がって上がって。立ち話もなんだし」

小蒔「お邪魔します……」オズオズ

「私も……ん?」


(靴が多い……それも女物)


小蒔「どうかしました?」

「いえ」


(これは……嫌な予感がしますね)



京太郎「ともかくだ! 人の部屋を勝手に漁ってはいけません!」


淡「えー? つまんなーい」

照「大丈夫、何が出てきても私は気にしないから」

衣「お、おっきくないの見つけるまで……!」グスン


京太郎(泣かれるとすっごい罪悪感がふつふつと……)

京太郎(俺なんも悪いことしてないよな?)


淡「でもこれで証明されたわけだよねっ、キョータローは私のことが大好きだって」

照「淡はなにもわかってない」

衣「ふん、なにをほざくかと思えば……とんだ烏滸言を」


淡「でも私、京太郎とキスしたよ? マウストゥマウス」


衣「え?」

照「私も」

衣「え?」


衣「きょ、きょうたろ~……」ジワッ


京太郎(……なにこれ)

京太郎(なんでこんな追い詰められてんの、俺?)

京太郎(日頃の行い? ……ぐぅの音も出ないな)


衣「……衣もするっ!」ガバッ

京太郎「ちょっ」

淡「あわっ!?」

照「むっ」


衣「手ぇどけて!」

京太郎「落ち着け! 龍門渕に叱られるぞ!」

衣「そんなの知らないもん!」


淡「ダメダメ! 浮気は許さないんだから!」グイグイ

京太郎「浮気もクソもあるか!」

照「京ちゃん、キスしたいなら私が……」クイクイ

京太郎「俺からしたいなんて一言も言ってないからな!?」


小蒔「京太郎様? どうかしまし――」ガチャ


衣「ちゅーして!」

淡「私とキスするの!」

照「ダメ、私と」

京太郎「だぁーもう! うっとおしいっ」


小蒔「あ、ああ……これ、は……」フラッ


京太郎(なんで小蒔までここに来ちゃってんの!?)


衣「むっ、降神の巫女か」

淡「あっ、たしかえーすいの!」

照「……大きい」


小蒔「……」

京太郎「よ、よう……夏休みぶり」

小蒔「……あなたたち」スッ


小蒔「――そこに直りなさいっ!!」ゴッ


衣「ひぅっ」ビクッ

淡「あわっ」ビクッ

照「……」ピクッ


京太郎(過保護な神様出てきちゃったよ……)



小蒔「この男はこの子のもの……と言い切ってしまえばそれまでですが、あなたたちの言い分も聞いてあげましょう」

小蒔「本来ならばみだりに耳を貸すものではないのですが、今回は特別です」


淡「なにさなにさっ、さっきからえらそーに!」

衣「でも、衣以外の心得違いを正すのにはいい機会だ」

淡「こころえちがい? ちっちゃいのに難しい言葉知ってるね」

衣「衣はお前より年嵩だっ!」


照「京ちゃん、ポッキー食べよ」ゴソゴソ

京太郎「あー……」


小蒔「……」ゴゴゴ


京太郎(神様を前にしてこいつらのフリーダムさ)

京太郎(おかげですっごいオーラ出してるんだけど……)


小蒔「……そこのあなた、こちらへ来なさい」

京太郎「俺?」

小蒔「ほかに誰がいるのですか」

京太郎「あなたじゃわかりにくいだろ」


小蒔「……『須賀京太郎』」


京太郎「――っ」

小蒔「こちらへ来なさい」


京太郎(なんだこれ、体が勝手に……)フラフラ


小蒔「そのままこの子の体を支えていなさい」

京太郎「……」ガシッ

小蒔「ふふ、悪くない座り心地ですね」


淡「あー! いつの間にかキョータローが取られた!」

衣「衣の特等席がっ」

照「……まずいかも。縛られてる」

淡「ちょっとテルー、しっかりしてよー」

衣「うん? 名で縛ったということ?」

淡「どゆこと?」

照「わかりやすく言うと、今の京ちゃんは相手の意のまま」

淡「なにそれずるい!」


京太郎(ずるいじゃねーよ……)

京太郎(てか、名前で呼べっつったのは失敗だったな)

京太郎(でも小蒔の体……柔らかい)

京太郎(どうせ動けないならこの感触を楽しむか)ホクホク


衣「むっ、きょうたろーがデレデレしてる」

淡「ホントだ!」

照「くっ、きっとあの胸のせいに違いない……!」


京太郎(……なんでわかるんだよ)


小蒔「さて、本題に入りましょうか」



「む、上が静かになりましたね」

「修羅場に決着がついたのかしら?」

「はは、刺されてたりしてな」

「もう、シャレになってないわよ!」

「ご心配なく。ヤバそうなアトモスフィアでしたら私が介入します」

「頼りになるわねぇ」



衣「衣ときょうたろーはいずれ伴侶になる。金剛不壊の絆で結ばれているからな」


淡「キョータローは私のもので、私はキョータローのものって感じ? だって両想いだしね!」


照「そんなの今更言葉にするまでもない。……あえて言うなら、お互いになくてはならないもの……とか」



小蒔「あなたたちの想いはよくわかりました……その上で私が裁定を下しましょう」

小蒔「この男はこの子のものです。諦めなさい」


淡「は? わけわかんないんですけど!」

衣「ふぅ、神仏の類が世迷言……笑止千万だな」

照「潰す……!」ギュルルル


京太郎(なに煽っちゃってんの!?)

京太郎(あーもう、動けないし……!)


小蒔「諦める気はないと……困りましたね」


小蒔「――『大星淡』」

淡「あわっ!?」

小蒔「――『天江衣』」

衣「むっ、衣の体が……」

小蒔「――『宮永照』」

照「……私たちも縛られた」


小蒔「どれだけ強大な力を持っていても、所詮は人の領域。動きを封じるだけなら容易いことです」

小蒔「さて、あなたたちには黙って見ていてもらいます」シュル


京太郎(ちょっ)


小蒔「この男の体に、この子のものだという印を刻み付けるのを」


淡「ヤダヤダっ、キョータロー!」

衣「うぅ、きょうたろ~」ジワッ

照「京ちゃん……」


京太郎(……何この状況。俺、お姫様ポジションかよ)

京太郎(まったく……あんまりやりたくないけど)ズズッ


小蒔「力が……まさかまた」

京太郎「あんた、ちょっとやりすぎだ」


淡「あれ、動けるようになった」

衣「体を縛る力が弱まった……?」

照「……」ムスッ


京太郎「ここらが潮時だろ。おとなしく引っ込んどけ」

小蒔「……仕方ありませんね。この子を任せます」スッ

京太郎「おっと、毎回毎回いきなりだな」


小蒔「んん……京太郎様?」


京太郎「やっと目覚めたか……ってこのやりとりも毎度のことだな」

小蒔「ふふ、本当ですね……あっ、なんで胸元がはだけて……」カァァ

京太郎「あー、それな。お前が眠ってる間に――」

小蒔「だ、大丈夫です。心の準備はできてますからっ」

京太郎「大丈夫じゃない、大丈夫じゃないからちゃんと聞いてくれ」

小蒔「京太郎様にはその、私の初めてもあげちゃいましたし……」テレテレ

京太郎「ちょっ、言い方ぁ!」



京太郎「えーっと、みんな落ち着いたところでちょっと言いたいことがあります」ゲッソリ


衣「衣はお膝の上!」

淡「右腕もーらいっ」

照「じゃあ私は左で」

小蒔「お背中、失礼しますね」オズオズ


京太郎「動けないから離れてくんない?」


衣「え~?」

淡「まーた照れちゃってー」

照「ダメ」

小蒔「そ、そんな……」シュン


京太郎(は、果てしなくめんどくさい……)


照「でも、このままじゃ手狭なのもたしか」

淡「そーだね、色々ハッキリさせときたいし」

衣「きょうたろーの独占権……うん、善哉」


小蒔「そういえばこれからお昼、どうでしょうか?」


小蒔「その、久しぶりに二人きりで色々と……」モジモジ

京太郎「あのさ、昼を食べに行くのはいいんだけど――痛い痛い抓るなお前らっ!」



「そろそろお昼ね、あの子達はどうするのかしら?」

「何か作るんだったら材料が足りないんじゃないか? ほら、あの人数だし」

「いえ、どうやら外で食べるようです」

「すごいな、麻雀プロというのはそんなこともわかるのか」

「ケースバイケースですね」

「残念ねぇ、お嫁さん候補と一緒に食事するの楽しみだったのに」

「問題は候補を全部集めたらもっと大変なことになりそうなことだな、ははは」

「……笑い事ではないのでは?」


(というか息子さんの女性関係に心配はないのですか)


「さて、それでは私もそろそろ。ついて行かねばいけませんので」



京太郎「というわけで来ちゃった、てへっ」

まこ「帰れ」

京太郎「そんなこと言わないでさぁ、ちょっとお昼食べて卓を一つ借りるだけだから」

まこ「はぁ……卓を貸すのはともかく、うちは飯屋じゃないけぇのぅ」

京太郎「あれ、頼んだらカツ丼とか出てくるだろ」

まこ「あれは常連へのサービスじゃ」

京太郎「俺の顔に免じて……な?」

まこ「魔物が四人……まぁ、宣伝としては十分かの」

京太郎「よし、話は決まりだな」

まこ「それより、あの後ろにいるのは……」


「……」


京太郎「戒能プロだな。石戸たちの代理だって」

まこ「神境の関係者だったと」

京太郎「そうらしい」

まこ「ふぅむ……」


京太郎(しかし、戒能プロ……どっかで会ったことあるような気がするんだよな)


京太郎「……まこっちゃん、なにやってんだ?」

まこ「こ、これは……」


『戒能プロVS牌に愛された子たち――ドリームマッチ絶賛開催中!!』


京太郎「……」

まこ「……」

京太郎「気持ちはわかるけど……てか去年も同じことやってなかったか?」

まこ「うっ、それは……」

良子「そもそも今日はプライベートなので。大々的に宣伝されるのは困りますね」

京太郎「というかVSってなんだよ。思いっきり事実と違うじゃん」

まこ「くっ、なら写真一枚!」

良子「それくらいならオーケイです」


淡「キョータロー、はーやーくー!」


京太郎「わかったわかった! じゃ、昼は適当におすすめ頼むわ」

まこ「カツ丼とカツカレーとトンカツ定食のどれがいい?」

京太郎「見事にカツづくめ……待ってろ、今聞いてくるから」


まこ「やれやれ、ほんに忙しい男じゃの」

良子「彼はいつもああなのですか?」

まこ「最近ひどくなってますね」

良子「とんだプレイボーイですね」

まこ「あれでもうちの副部長なんですが……まったく否定できないのが辛い」



衣「衣の親番っ」ポチッ


まこ「しかし、まさかこんなことになるとはの」

京太郎「ギャラリー少ないのが残念だな」

まこ「……動画でも撮ってどこぞのサイトに投稿しようか」

京太郎「こらこら」


照「ロン」

小蒔「あうっ」

照「まだまだこれから」


良子「……」


良子(それにしても、彼女がこんなふうに打つとは……)

良子(二年前に私と打った時とは大違いですね)

良子(あの時はその強さも相まってまさにモンスターでしたが)


淡「それだっ、ロン!」

照「むっ」


良子(今はそれがなりを潜めている……ハテナですね)

良子(もっとも、それは宮永照だけではないようですが)


小蒔「引けました! ツモです」

淡「あわっ、潰されちゃった……」

衣「むむっ、猪口才な」


京太郎「ふぅ……」

まこ「なんじゃ、疲れた声出して」

京太郎「いや、さすがに四人分はきついというかな」

まこ「はぁ?」

京太郎「いや、なんでもない」


良子(それより気になるのが彼です)

良子(その周りに漂う力、私の見間違いではなければ……)

良子(ふむ、中々にインタレスティングですね)


照「私の勝ち」

淡「う~、もっかい! 一回勝負とは言ってないもん!」


京太郎「おうおう、いい感じにヒートアップしてんな」

まこ「そもそも、なんのために対局を?」

京太郎「勝てば俺を独占できるらしい」

まこ「よし、部長に連絡じゃな」

京太郎「それだけは勘弁してください!」



小蒔「ツモですっ。これで私の勝ちですね」


照「今のところ総合得点は……」

淡「えっと、全部足して……」

衣「むっ、面妖な」

小蒔「見事に真っ平ら……びっくりです」


京太郎「咲がいないのにプラマイゼロか……ま、引き分けだな」

衣「まだ勝負はついてないっ」

淡「そーだそーだ!」

京太郎「もういい時間だろ、ほら」

照「いつの間にこんな時間に……」

小蒔「そろそろ帰らないと怒られちゃいます……」

京太郎「よし、今日はここまでだな」

淡「むー、不完全燃焼だー!」

照「せっかく京ちゃんと一緒に過ごせると思ったのに……」


咲「お姉ちゃん、淡ちゃん!」バン


照「あ、咲」

咲「やっと見つけた……!」

淡「なになに、なんかあったの?」

咲「起きたら二人がいなかったから探しに来たの!」

照「だって咲は起きなかったし」

咲「うっ……と、とにかく家に戻るの! お父さん寂しがってるんだから」

照「むっ、それは……」

淡「うーん、しょうがないなー」

咲「もう、目を離したらこれだから……」


京太郎(お前が言うな)

まこ(あんたが言うたらいかんじゃろ)


咲「それじゃあ、失礼します」ペッコリン

照「また今度」

淡「まったねー」


京太郎「……嵐のように去っていったな」

まこ「まったくじゃ」

京太郎「ひとまず俺の家まで戻るか。それでいいよな?」

小蒔「そうですね、お義母様たちにも帰る前に挨拶しておきたいです」

衣「衣もそーする」



京太郎「じゃ、忘れ物はないか?」

小蒔「私は大丈夫です」

衣「衣は……あっ、きょうたろーの部屋にお電話置きっぱなしだ」

京太郎「ほら、取ってこい。ついでに龍門渕に連絡しとけ」

衣「うん、そうだね」


小蒔「京太郎様、私たちはそろそろ」

京太郎「そうか。ま、今度来るときは事前に連絡くれよ」

小蒔「はい、お手紙送ります」

京太郎「そうしてくれ」ワシャワシャ

小蒔「ん……」

京太郎「それとさ――お前、記憶戻ってるだろ」

小蒔「……わかっちゃいました?」

京太郎「ファーストキスのことも忘れてたはずだからな」

小蒔「そうでしたね……作戦失敗です」

京太郎「神様が引っ込んだ時か?」

小蒔「なんでもお見通しですね。すごいですっ」

京太郎「そりゃあな」


京太郎(部屋に入ってきたときは動揺してたのに、目覚めたあとはそんな様子はなかった)

京太郎(嫉妬を受け入れられればって言ってたな、たしか)


小蒔「私が前に言ったこと、覚えてますか?」

京太郎「んー……間接キスがどうたらってやつか?」

小蒔「実はあの後に続きがあるんです」


小蒔「関節キスは好きな人と、本当のキスは契りを結んだ殿方と」


小蒔「私は京太郎様と二度も出会って、二度も運命を感じちゃいました」

小蒔「今もそうです。きっといつか結ばれると信じています」

小蒔「でも……」


京太郎「小蒔?」

小蒔「京太郎様は言ってくださいました。私の嫌なところも受け入れると」

京太郎「ああ、そうだな」

小蒔「ちょっとだけ、わがまま言ってもいいですか?」

京太郎「言えよ、聞かせてくれ」

小蒔「……です」


小蒔「京太郎様が他の女性と仲良くしているのは、いやです」

小蒔「もっと私に構って欲しいです」

小蒔「もっと、ずっと傍にいたいんです……」


小蒔「……」

京太郎「……」

小蒔「えへへ、困らせちゃいましたね……ごめんなさい」

京太郎「――いや」ギュッ

小蒔「あっ――」

京太郎「それでいいから」

小蒔「京太郎様……」


京太郎「俺は自分で思ってた以上に気が多くてさ、小蒔の気持ちに応えられるかどうかもわからない……でも、逃げはしないから」

京太郎「詰ってもいい、ぶん殴ってもいい、愛想つかしても……はちょっと堪えるけど」

京太郎「お前が楽になるならなんでも言ってくれ。できる限りのことはするから」


小蒔「……じゃあ、少しの間だけ、動かないでいてください」

京太郎「わかった」

小蒔「そのまま――んっ」


小蒔「二回目、ですね」

京太郎「あ、ああ……」

小蒔「これはおまじないです。もっと私のことを見てくれますようにって」

京太郎「小蒔……」

小蒔「京太郎様……」


良子「ん、んんっ!」


小蒔「ひゃわっ」ビクン

京太郎「っとと」

良子「ソーリー、お邪魔虫にはなりたくなかったのですが、そろそろ出たほうがいいと思いまして」

小蒔「あ……もうそんな時間なんですね」

良子「イエス」

小蒔「京太郎様、また……」

京太郎「ああ、大晦日にはまたそっちに行くから」

小蒔「はい、お待ちしてます」

良子「では、失礼します」



京太郎「衣ー?」ガチャ

衣「今ちょうどお電話が終わったところだ」

京太郎「そうか、時間かかってたみたいだから覗きに来たんだけど」

衣「巫女はもう帰った?」

京太郎「ああ、さっきな」

衣「これで二人っきりだね」

京太郎「あれ、これから帰るって流れじゃなかったっけ?」

衣「……やっぱり忘れてる」


京太郎(忘れてる?)

京太郎(ってことは、今日はなんかあるってことだよな)

京太郎(九月の第一日曜日……九月六日)


京太郎「……今日ってお前の誕生日だったな」

衣「む~、やっと思い出した! ず~っと寿を待ってたのに!」

京太郎「悪い、色々立て込んでたろ……な?」

衣「ふん」プイッ

京太郎「機嫌直せよ……つっても難しいか」


京太郎(こいつとしては、最初っからそのつもりで遊びに来たって事だよな)

京太郎(まいったな……プレゼントも用意してないし)


京太郎「わかった。お詫びに一つだけ言うこと聞いてやる」

衣「それは真誠?」

京太郎「本当だよ」

衣「うん、なら後にとっておく」

京太郎「そうか……じゃあ行くか」

衣「きょうたろーも一緒に来るの?」

京太郎「ああ、帰ったら盛大に騒ぐんだろ?」

衣「おっきなケーキを用意してるって」

京太郎「俺も参加する。せっかくだしな」

衣「うん、奇特なことだ」

京太郎「このっ、偉そうに」グニュグニュ

衣「うにゅっ」


京太郎「でもまぁ、その前にちょっと寄り道だな」


衣「寄り道?」

京太郎「プレゼント、買わなきゃな」

衣「じゃあこれから逢瀬だね」

京太郎「まぁ、それでいいか。好きなだけ連れ回せ」

衣「わーい♪」


京太郎(昼に家を出る前、俺は全員に力を使った)

京太郎(先に小蒔に対して使っていたからだ)

京太郎(麻雀をするというなら、せめて条件は同じにするべきだと)

京太郎(もちろん全員に説明して、その上で使った)

京太郎(それでこいつからも流れてきたってことは……そういうことなんだろうな)

京太郎(まぁ、今回は一太のことはなんにも言えないな……)
最終更新:2016年07月12日 02:45