秋、空いた穴を埋めるもの

姫子「ふーん、週末に里帰りね」

煌「この前の三連休に行ければよかったんだけど、忙しくてどうも」

姫子「あはは、頑張れ新部長」

煌「もう、そんなこと言って自分だけ楽する気でしょ」

姫子「えー? むしろ先輩たちがかせしよると、こっちはやりづらいというか」

煌「そう、それ。それなんだよね……」

姫子「なんか困っとーと?」

煌「困ってるというか……その、白水元部長が」

姫子「ぶちょ、やなくて先輩が?」

煌「手伝ってくれるのはありがたいんだけど……気を使いすぎというか、過保護みたいな」

姫子「あー……」

煌「この前なんかちょっと昔の牌譜探してたら――」


哩『牌譜? そいやったら私が探しとく』


姫子「そんくらいならまだ問題はなかと思うけど?」

煌「それだけじゃないからね。練習のメニュー組んでる時なんか――」


哩『そいは……ああ、今度の練習の』

哩『ふむ、こっちはこん組み合わせの方がよかと思う……あ、ご、ごめん!』

哩『今は花田が部長……うん、わかっとる』

哩『そうだ、今お茶淹れてくっから待っとって!』


煌「ってお茶だけでなくケーキまで買ってきて」

姫子「花田こすか」

煌「ずるいじゃなくて……どう思う?」

姫子「どがん思うて……花田がばこすか」

煌「だからそれはもういいから」


姫子「多分、急に暇んなって戸惑っとーと思う。部屋でも時々ほけまくいやし」

煌「ほ、ほけま……なに?」

姫子「ほけまくい、ボーッとしてるってこと」

煌「なるほど、ぬっよりはわかりやすいかも」

姫子「そう?」

煌「そうなの」


煌「話戻すけど、白水先輩は大学はもう決まってるんだっけ?」

姫子「推薦でね」

煌「それなら受験勉強する必要もないってこと」

姫子「やけん、余計に時間ば持て余し気味みたい」

煌「先輩はそういうの苦手そうだしねぇ」

姫子「あはは、人のこつ言えんよ、花田も」

煌「だから私は今度実家に帰るってば」

姫子「実家って長野やったっけ?」

煌「久しぶりに中学時代の後輩たちと会う予定なんだよね」

姫子「里帰り、長野……うん」

煌「姫子?」

姫子「花田の里帰り、私たちもついてってよか?」



姫子「てなわけで長野行きましょう」

哩「いきなりなんね」

姫子「ぶちょ……やなくて先輩、最近は暇そうですし」

哩「私は受験勉強なかけん、他ん人より暇になるんはしょんなか」

姫子「江崎先輩とか、なんもかんも政治が悪いって」

哩「いや、政治がどがん関係しよる」

姫子「んー、受験て行政も関係あっと思いますけど」

哩「そいは置いといてよか?」

姫子「オッケーです」


哩「で、なんで長野」

姫子「花田が里帰りすって聞きまして」

哩「理由になってなかね」

姫子「先輩もいますし、よかかなーと」

哩「先輩……ああ、須賀くん」

姫子「泊まる場所は心配なかです。そいならって花田ん家に誘われました」

哩「花田、懐が深かね……」

姫子「行きましょうよぉ」

哩「んー」

姫子「もう暇で暇で花田に構いまくってるって聞きました」

哩「あ、あいはちゃんと花田が部長として問題なかか見よっただけで」

姫子「お茶淹れて、ケーキまで用意して?」

哩「うっ……」

姫子「そいなら気分転換でもどーですかって感じです」

哩「……ごめん、心配かけて」

姫子「今更やないですか。てなわけで行きましょうよぉ」

哩「わかった……あと姫子」

姫子「はい?」

哩「ありがとう」

姫子「それも今更です」

哩「ん、そうやね」



京太郎「今度こっち来るって?」

哩『うん、久しぶりやし顔出す』

京太郎「顔出すって……んなことしなくても付き合うけど」

哩『暇やと?』

京太郎「平たく言えばな」

哩『……竹井さんは?』

京太郎「やっと解放されるーってのびのびしてたよ。生徒会長だったからさ」

哩『部長やって生徒会長……』

京太郎「まぁ、麻雀部に人が来なさすぎて職権乱用目的でな」

哩『職権乱用!?』

京太郎「部活動紹介とかあるじゃん。あれも会長権限でだいぶ優遇してたな」

哩『部活動紹介……うっ、頭が……』

京太郎「どうかしたのか?」

哩『ちかっと古傷ばえぐられて』

京太郎「そ、そうか」


京太郎「にしても、お前が電話してくるなんて珍しいな」

哩『こっちから会いに行っけん、事前に連絡ばせんと』

京太郎「お前そういうとこマメだよな」

哩『常識やけん』

京太郎「まぁ、だからって連絡先を渡されたんだけどな。よくよく考えたら大胆だな」

哩『――っ、そいは気にせんでもよかとね!』

京太郎「うおっ、いきなり大声出すなよ」

哩『あ、ごめん』

京太郎「こっちも悪かったよ。ついからかってしまった」

哩『もう……』

京太郎「珍しいといえば、鶴田がおとなしいな」

哩『姫子が?』

京太郎「こういうときは電話かけてくるからな。まぁ、普段から結構かかってくるんだけど」

哩『……』

京太郎「あいつっていつもあんなやかましいのか?」

哩『え、あ……な、なに?』

京太郎「鶴田が普段からやかましいのかって」

哩『特にそがん風には』

京太郎「なるほど、わざとかあいつめ」

哩『……そいぎ、また週末に』

京太郎「ああ、待ってるよ」


京太郎「なんだろうな、あの反応」

京太郎「……もしかするとお叱りを受けた鶴田から電話が――」プルルル


『鶴田姫子』


京太郎「って言ったそばから……もしもし」

姫子『あ、先輩ですか?』

京太郎「人生の先輩だな」

姫子『あの、なんば言いよるとですか?』

京太郎「まぁ、聞き流せ」

姫子『あ、私の声が聞けて嬉しゅーして?』

京太郎「寝言は寝て言え」

姫子『またまたぁ、わざわざ誕生日に会いにきたじゃないですかぁ』

京太郎「あれはもののついでだ。勘違いすんな」

姫子『俗に言われよるところのツンデレですね』

京太郎「寝言は寝て言え」

姫子『そい、何回目ですか』



姫子『ふんふん、ぶちょ……やなくて先輩が?』

京太郎「まぁそういうことなんだけど……先輩先輩言われるとだんだん混乱してくるんだけど」

姫子『もう、名前で呼んで欲しいなら素直に言えばよかと思いますよ?』

京太郎「言外に含んですらいないメッセージを受け取るのはやめなさい」


京太郎「とりあえず呼び方は今まで通りでいい。本題に戻すぞ」

姫子『んー、特に心配はいらんですよ?』

京太郎「そうなのか? 俺のせいで怒られてたらさすがに申し訳なくなるからな」

姫子『先輩はにぶちんやけん、私がわかりやすく例えてあげます』

京太郎「いまいち納得いかないな……」


姫子『つまりですね? 犬ばすいとー人がいます』

姫子『でも撫でるのはちゃーがつかって、尻込みしてるわけです』

姫子『ばってん、そがなこつお構いなしに撫でよる人ば見っと、どがん思いますかね?』


姫子『まぁ、私が言えるんはこがんとこですね』

京太郎「うーん……んなこと気にしないで好きにかけてこればいいのに」

姫子『え、今のでわかりました?』

京太郎「わかりやすく例えるっつったのはお前だろうが」

姫子『ですけど、やっぱ予想外です』

京太郎「よし、俺が馬鹿にされてるのはよーくわかった」



優希「ビッグニュースだじぇ!」

咲「ど、どうしたのいきなり?」

優希「実は今度の週末に――」


京太郎「新道寺の花田がこっち来るんだろ?」

優希「じぇ!?」

久「こっち着くのは金曜の夜だったかしら?」

優希「じぇじぇ!?」

まこ「同じく新道寺の鶴田と白水も来るらしいのぅ」

優希「じぇじぇじぇ!?」


優希「せ、先輩たちはもしや……エスパー?」

和「なにを言っているんですか」

咲「でも、どうしてそんなに知ってるのかは気になるよね」

和「単純に考えれば、知り合いだとか」

久「その通りよ。去年いろいろ縁があったもんでね」

京太郎「そうそう、冬に福岡に遊びに行ったりとかな」

まこ「行き先をダーツやらくじ引きで決めるのは問題ありじゃと思うがの」

優希「なんだか楽しそうだじぇ、私もやりたい!」

久「そういうのは現部長のまこに言いなさい」

優希「どうかお願いします!」

まこ「あほう、ダメじゃダメ」

優希「そんなっ!」


咲「話だけ聞くと、相当色々やってそうだよね、京ちゃんは」

京太郎「なんだ、含みがある言い方だな」

咲「どうせ行く先々で色んな女の子に声かけてたんでしょ?」

京太郎「あのな? 最近の高校麻雀に限った話じゃ、女子の方がレベルが高いんだよ」

咲「だから女子高ばかり狙ってたんだ、ふーん」

京太郎「狙うとか人聞き悪いなぁ」


和「それにしても、先輩たちにとって、インターハイは知り合いばかりだったんですね」

久「そうねぇ、二回戦以降は知ってるとことしか当たらなかったし」

和「阿知賀のみんなとも知り合いだったみたいですし」

久「あ、また合宿するんだったらあそこがいいんじゃない? 宿の調達も楽だしね」

和「いいと思います。今度染谷部長に提案してみます」

久「私もついてっちゃおうかなぁ、暇だし」

和「竹井先輩はもう推薦が決まったんでしたか」

久「そ、議会長やってたかいがあったってところね」


優希「どうでしょう的な旅はともかく、花田先輩の家に突撃だじぇ!」

京太郎「行くのはいいけど、何人で押しかける気だ?」

優希「えっと、ムロマホも来るって言ってたっけ?」

和「咲さんもどうですか?」

咲「いいの? 私、全然交流なかったし」

和「私の尊敬する先輩を知ってもらいたいんです」

咲「……うん、わかったよ」

優希「というわけで先輩たちも含めたら八人だじぇ」

京太郎「押しかけるにしては多すぎだな……ま、俺は別のタイミングで顔見せに行くよ」

久「そうね、私も同意見」

まこ「わしも同じく」

優希「むぅ、先輩たちはノリが悪いんだじぇ」

京太郎「そう言うなって。頼んだぞ、副部長」

優希「はーい」


久「今更ながら、優希が副部長っておかしな感じね」

まこ「本人の立候補に加えて和の推薦じゃ」

久「意外と面倒だから押し付けたってパターンだったり」

まこ「それはないじゃろ、性格的に」

久「まったくもってその通りね」

まこ「まさか咲にやらせるわけにはいかんしのぉ」

久「残念ながら反論の余地はないわね……」

まこ「ま、優希も芯が強ぅなったけぇ」

久「そうね。見守ってあげて、部長」

まこ「任された」



姫子「んー、きゃーなえたー」

哩「花田、すまんね」

煌「いえいえ、こうしてお泊まり会……すばらです!」

姫子「持ちネタよかけん、アイスなかと?」

哩「こら、姫子」

姫子「別によかとですよ。花田も私相手だと遠慮ないですし」

煌「はいはい、アイスなら後で持ってくるから」

哩「重ね重ねすまんね」

煌「いえいえ、アイスを食べながらの語らい……すばらです!」


煌「明日は午後から高遠原の後輩たちが来るんですけど、お二人は?」

哩「須賀くんたちとお昼ば食べる予定やな」

姫子「花田も来る?」

煌「そうだなぁ……お昼ならご一緒できそうかな?」

姫子「決まりやね」



京太郎「よう、久しぶり」

久「元気だった?」

哩「そっちこそ」

姫子「染谷はおらんとですか?」

京太郎「まこっちゃん少し遅れるってよ」

久「で、そっちの子が例の花田さん?」


煌「花田煌です。こうしてここで出会えたこと……なんとすばらなことでしょうか」


久「すばら?」

京太郎「持ちネタだ、気にすんな」

久「ふーん、結構面白そうな子ね」

煌「今日はお昼にご一緒してもいいでしょうか?」

京太郎「そんなかしこまらなくてもいいだろ。話はきいてるしさ」

久「そうそう、優希と和の先輩なら他人じゃないしね」

姫子「花田、気ぃ使いすぎ」

煌「そうかな?」

哩「そうやね、姫子ほど砕けろとは言わんけども」

姫子「私、そがんフランクですかね?」

京太郎「俺に対しては遠慮や配慮って言葉を忘れてる節が見受けられるな」

姫子「えー? 嬉しいくせにぃ」グリグリ

京太郎「な? 見ての通りだ」

哩「まったく……」

久「随分なつかれてるわね」

京太郎「からかわれてるの間違いじゃないか?」

久「ま、そこはノーコメントで。藪はつつきたくないし」



京太郎「ほい、これで全部か?」

久「えっと、これとこれは私ので……」

姫子「こっちは私たちのですね」

哩「ん、ありがと」

京太郎「まこっちゃんたちは……」


まこ「ふむ、人数が多いと大変そうじゃな」

煌「多いなりにシステム化されてる部分もありますから、なにからなにまで自分でやるというわけじゃないんですけど」


京太郎「なんか意気投合してんな」

久「二人とも新部長だし、話題には事欠かないんじゃない?」

京太郎「元部長同士はなんかないのか?」

久「そうねぇ」

哩「そうやね」


久「まこなら大丈夫じゃない? って感じだけど」

哩「やっぱ引き継ぎからそがん時間も経ってなか、心配やね」


京太郎「この意識の差……」

姫子「部の規模の問題もあっと思いますね」

京太郎「久ちゃんはわりと普段からまこっちゃんに任せっきりってのもあったからな」

姫子「哩先輩は心配性……てよりも責任感強か人ですし」

久「心配するのはいいけど、疲れない?」

哩「そいは……」

京太郎「ま、息抜きのために来たんだし、とりあえずバーガー食って落ち着こうぜ」

姫子「ですね」



哩「……」


哩(こい、どがんしよう)

哩(ハンバーガーば食べるには口ばおっきく開く必要がある)

哩(やけん、正面には須賀くんが座っとる)

哩(さ、さすがにそいは……ちゃーがつかっというか)

哩(下や横向いてたら不自然……誰かと席ば交換すっにも理由がなか)

哩(……どがんしよう)


京太郎「食わないのか?」

哩「た、食べるよ?」

京太郎「ふむ……口内炎で口を開けられないとか?」

哩「いや、そがなこつは……」

京太郎「そうだな、なら食べてるのを見られるのが恥ずかしいとか」

哩「――っ」

京太郎「あ、当たったのかよ……」

姫子「もう、先輩デリカシーなさすぎ」

久「こいつにそんなの期待してもしょうがないけどね」

京太郎「当てずっぽうで言っただけだってば……」

姫子「ダメです。罰として食べさせてあげてください」

京太郎「はぁ?」

哩「ひ、ひひひっ、姫子っ!?」

姫子「さぁさぁ、早く早く」

京太郎「まぁ、やれっつーんならやってもいいけどさ」

哩「ちょっ」


哩(な、なんか……なんかこん状況ば切り抜ける方法はっ)

哩(……そうだっ)



哩「……」カァァ

京太郎「あー……」


久「なにやってんだか……」ハァ

姫子「ここまで大胆に攻めるとは……」


京太郎「……うまいか?」

哩「……味、いっちょんわからん」

京太郎「たしかにこれじゃ食べてるとこは見えないけどな……」


京太郎(だからってまさか上に座ってくるとは……正直予想外だった)

京太郎(……柔らかい)


姫子「むぅ」

久「自分でけしかけたくせにむくれない」

姫子「そうですけど……」

久「まあ、人間追い詰められると思いもよらない方へ舵を切るのよね」

姫子「完璧予想外でした」


京太郎「あっ、携帯に電話かかってきた」プルルル

哩「んんっ」ビビクン

京太郎「おまっ、変な反応すんなって」

哩「ま、まいるよ……」

京太郎「持ちネタはいいから」


煌「なにやら楽しそうなことをやっていますね。すばらっ」

まこ「……はぁ、人の目っちゅうのを忘れとらんかの?」



煌「では、私はこれで」

まこ「わしも家の手伝いに戻るかの」

姫子「そいぎー」フリフリ

京太郎「花田、また今度な」

久「今度は優希たちにいっぱい振り回されてきてね」

煌「はい、久しぶりなので楽しみですね」スバラッ

まこ「しかし……あっちは大丈夫かの?」


哩「……」フラフラ


京太郎「……さぁ?」

煌「先輩のあんな姿も珍しいですねぇ」

久「とりあえずこの後は休憩取りましょうか」

姫子「ですね」

まこ「そのほうがええじゃろうな」



哩「ふぅ……」

哩「まったく、とんだ醜態やね」

哩「穴があったら入りたい……」

哩「……もうぬっか」ゴロン


京太郎「またそれか」


哩「す、須賀くん!?」ガバッ

京太郎「まぁ落ち着け」

哩「う、うん……」

京太郎「飲み物でも飲んでさ」

哩「……ありがと」


哩「二人は?」

京太郎「しばらく一人でそっとしておこうって方針だったんだけどな、トイレ行くって抜け駆けしてきた」

哩「そう……」

京太郎「話し相手は俺じゃなくても務まるけど、さっきは悪いことしたしな」

哩「あいは私の自爆やけん。気にせんでもよかよ」

京太郎「じゃあお礼だな」

哩「お礼?」

京太郎「さっきの、役得だったから」

哩「あ……」カァァ


哩「か、帰るっ」スクッ


京太郎「まぁまぁ座れって」グイッ

哩「あうっ」



京太郎「こうしてるとさ、去年のインハイ思い出すな」

哩「あん時もベンチ座って、飲み物飲んで……やっけ?」

京太郎「そうだな。こんなに付き合いが続くとは思ってなかったけど」

哩「そこは同意見やね。ばってん、まさかいきなり訪ねてくっとは」

京太郎「だから悪かったって。ちゃんと伝えなかった鶴田も悪い」

哩「責任転嫁? 感心せんね」

京太郎「お前な、散々買い物付き合わされたあげくラーメン奢らされたんだぞ?」

哩「姫子……すまんね、後で言っとく」

京太郎「ははっ、思いっきり保護者みたいな言い方だな」


京太郎「いや、でも……だからか」


哩「どがんした?」

京太郎「お前さ、もしかして寂しかったりするのか?」

哩「……」


京太郎「うちの母親もさ、もう一人でできるって言ってもしばらくはベタベタしてきたんだよ」

京太郎「今考えると、あれって寂しかったのかって思うんだよな」

京太郎「なんとなくだけどさ、今のお前と同じなんじゃないかなって」


哩「とぜんなか……言われてみっとそがん気がすんね」

哩「ずっと、胸に穴が空いとる……」

哩「やけん、穴ば埋められん。どがんしたらよかとね」


京太郎「……」


ゾロ目 マイル・シローズ、甘える


京太郎「それでいいんだよ」

京太郎「寂しいなら寂しい、何かが欲しいなら何かが欲しいって言えばさ」

京太郎「結局さ、言わなくてもなんでも分かるってのは怠慢だよな」

京太郎「ま、俺が偉そうに言えるわけじゃないけどさ」


京太郎(言いたいことも言わないで、聞くべきことを聞かないで痛い目にあったからな)


京太郎「根本的な解決なんてそれこそ時間がって話だけど、今日はどうだった?」

哩「……そうやね、たしかに言う通り」

京太郎「そういうことだ。求めれば与えてくれるやつの心当たりぐらいはあるだろ」

哩「須賀くんは、応えてくれる?」

京太郎「当たり前だろ。ちょうどずっと背負ってたものがなくなっててさ、ちょっとの間でいいんならいくらでも言え」

哩「じゃあ――」ポスッ


哩「抱きしめて……」

京太郎「おう」ギュッ

哩「撫でて」

京太郎「はいよ」

哩「名前、呼んで」

京太郎「哩……これでいいか?」

哩「あと……顔、隠させて」

京太郎「わかったよ」

哩「ありがと……」ギュッ



姫子「あ、先輩どんだけトイレ長いんですか」

京太郎「どうも腹の調子が悪くてさ。ほら、飲み物買ってきたから」

姫子「じゃあ許します」

久「ところで、あんたなんで上脱いでるの?」

京太郎「ちょっと暑くてな……さっき水に落としちゃったし」

久「ふーん……ま、いいけどね」


哩「ごめん、待たせた」


姫子「大丈夫ですか?」

哩「うん、もう大丈夫」

久「目、赤いけど」

哩「欠伸のしすぎやね」

久「……ま、いいけどね」


京太郎「よし、じゃあ移動するか。時間は有限だしな」

哩「そうやね……うわっ」グラッ

京太郎「っと、大丈夫か?」

哩「ありがと、きょうた……んんっ、須賀くん」


姫子「ん? あれ?」

久「……はぁ」

姫子「あの、先輩なんかしました?」

京太郎「俺はトイレ行ってただけだから。まい……白水はそっとしておこうって言ったろ」

姫子「あれ……やっぱりなんか変!」

京太郎「はいはい、いいから行くぞ」

姫子「むぅ……」


久「……目を離しすぎたわね」
最終更新:2016年10月28日 02:20