三年、夏、酒は飲んでも飲まれるな――if

京太郎「……」


えり「うぅ……わらひなんか、わらひなんかぁ……」

恒子「ねーねー須賀くんさー、ちゃんと聞いてるー?」


京太郎(突然泣き出した針生さんと、やたら絡んでくる福与さん)

京太郎(いや、福与さんは普段から絡んでくるけども)

京太郎(二人とも酒が回ってるのは明白だ。顔赤いし酒臭い)


咏「あっはっは、面白いねぃ」

京太郎「おいこら元凶」

咏「いや、知らんし」

京太郎「あんたが煽りまくった結果だろうが!」

咏「えー? 酔っ払ってるからなに言ってるのかさっぱりだねぃ」ケラケラ

京太郎「こ、この野郎……」


恒子「ほらほらー、須賀くんも飲め飲めー」

京太郎「いや、だから未成年……」

恒子「おらー! 私の酒が飲めないってかー!?」

京太郎「絵に描いたような酔っ払い!?」

えり「しゅがくんもわらひのことなんか、どうでもいいんでしゅよね……」

京太郎「針生さんも落ち着いて……」

えり「やっぱりぃ……」ジワッ


京太郎(超、めんどくせぇ!)


咏「いーい気味だねぃ」

京太郎「傍観者は一番罪が重いんだぞ!」

咏「いや、知らんし」


咏「でもまぁ、どーしてもってなら手助けしてあげなくもないけど、どうする?」


京太郎「ほ、本当にこの二人をなんとかしてくれるのか?」

咏「そっちの誠意次第じゃね? 知らんけど」

京太郎「誠意って……」

咏「例えば……一日あたしの言いなりとかどう?」

京太郎「却下」

咏「ま、気が変わるまで気長に待つかねぃ」


恒子「次の店行くぞ次ー!」

えり「わらひなんかどーせわらひなんかどーせ……」

京太郎「……」


京太郎(いっそ俺が酔いつぶれたい……!)



恒子「酒ぇ……足んないぞー」

えり「うぅ……ひっく」


咏「あっはっは、もう二人ともグデングデンだねっ」

京太郎「笑い事かよ……というかこの二人はどうするんだ」

咏「んー? ホテルすぐそこだし、大丈夫じゃね? 知らんけど」

京太郎「おい大人」

咏「めんどくさいことからうまく逃げるのも処世術だぜぃ?」

京太郎「汚い大人かよ!」

咏「ま、ホテルのロビーに突き出せば部屋までご案内してくれるっしょ、多分」

京太郎「……しかたない、どうにかして連れてくか」



咏「護送完了! さぁて、次はどこ行く?」

京太郎「帰るわ」

咏「ま、時間が時間だしねぃ」

京太郎「なんか疲れたよ……」

咏「これでいつ酔っ払いに絡まれても安心じゃね?」

京太郎「できればそんな安心はいらなかった……」

咏「まぁまぁ、お兄さんにいいものあげるからさ」スッ

京太郎「……何この酒?」

咏「割と高いから味わって飲むこと」

京太郎「未成年に酒渡すんじゃないよ。この不良大人が」

咏「高校生ぐらいだったら隠れて飲んでるもんじゃね? 知らんけど」

京太郎「まぁ、くれるんだったらもらうけど。そんでうちの親に送っとく」

咏「つまんねっ!」



咏「二十歳になったら覚悟しとけよー」フリフリ


京太郎「覚悟って……潰す気かよ」

京太郎「酒渡してきたりな。まったくなんなんだか」プルルル

京太郎「電話? ……何この番号」ピッ


恒子『酒が足んないぞー!』


京太郎「えっと、もしかして福与さん?」

恒子『おらー、勝手にいなくなってんじゃねーぞー!』

京太郎「いや、てかなんで俺の番号――」

恒子『いいから罰として酒!』

京太郎「だからなんで――」

恒子『いいからもってこいやー!』プツッ


京太郎「……とりあえずこれ届けて逃げるか」



恒子「もう、おっそーい!」

京太郎「はいはい、例のブツ持ってきましたから」

恒子「感激のあまりお姉さんキスしちゃいそうだよー」

京太郎「それはまた素面のときで……じゃあ俺はこれで――」


えり「ひ、一人にしにゃいれぇ~」ガシッ


京太郎「ちょっ、なんで針生さんがここに!」

恒子「寂しいとか言って離れてくれなくてさー。おかげで酔いもちょっと冷めちゃったし追加のお酒でもと」

京太郎「あんた絶対まだ酔ってるだろ!」

恒子「あははっ、細かいことは気にしなーい」バシバシ

京太郎「ぐっ」

えり「しゅがくぅん、みしゅてないれぇ……」ギュウウ

京太郎「ちょっ、帰るから離してくれませんかねっ」

恒子「あーもーうっさいなぁ……これでもくらえっ」ズボッ

京太郎「むぐっ!?」

恒子「いっき、いっき」


京太郎(三尋木プロに渡された酒は値段だけでなく度数も高かったらしい)

京太郎(喉が焼けるような感覚も束の間、俺の意識はあっさりと途切れた)



京太郎「うっ……頭いてぇ」

京太郎「なんだここ、昨日の夜はなにして……」フニュッ


京太郎(え、なに今の感触)

京太郎(というか俺、どうして裸で……)


恒子「ふわぁ……もう朝?」ハラッ

えり「んんぅ、狭い……」ハラッ


京太郎「……え?」


京太郎(なぜか同じベッドに寝ていた二人も全裸だった)

京太郎(寝起きに頭痛で思考が鈍っているとはいえ、ここから何が起きたのかを察するのは難しくはない)


恒子「あれ、須賀くんに針生アナ……」

えり「……ウソ」

恒子「あらら、やらかしちゃったねー」アハハ

えり「わ、笑い事じゃないですよ!」

恒子「貴重な体験だったねー、色々と」


京太郎(顔を赤らめたり青ざめたり、反応は対照的だったが、やらかしてしまったことはほぼ確定らしい)

京太郎(責任だとかそういう言葉が頭をよぎったが、みんな酒に酔って前後不覚だったということもあり、ひとまずその場は収まった)

京太郎(俺が酔ったのは福与さんのせいのような気がしてならなかったが)

京太郎(残念なところをあげるとすれば……)


京太郎「なんで、なにも覚えてないんだよ……!」


京太郎(こんな美人二人との初体験が酔いの彼方に消えてしまったのは、さすがにもったいなさすぎた……というところか)



京太郎(そんなことがあった後でも、インハイ個人戦は続く)

京太郎(自分の部屋に帰ってからテレビをつけると、二人は何事もなかったかのように仕事をこなしていた)

京太郎(それでも、何も変わらなかったというわけではなく……)


恒子「あ、須賀くん。やっほー」


えり「あら? 奇遇ですね」


京太郎(こころなしか、二人とのエンカウント率が増えたような気がする)

京太郎(さらに――)


恒子「ねぇねぇ、せっかくだし一緒にお昼食べない?」ムギュムギュ


えり「この前のお詫びというわけではないのですが……今晩、その……ディナーをご一緒できればと」チラッ


京太郎(福与さんはやたらと体を密着させてくるようになり)

京太郎(針生さんはなんだか色っぽい目で食事に誘ってくるようになった)

京太郎(……これ、どう受け取ったらいいんだろうか)




特にオチはなくつづかない
最終更新:2017年01月31日 06:52