小学二年、出会い

『他の子達は須賀くんが急に殴ってきたと言ってます』

『先生、京太郎が理由もなくそんなことするとは思えません』

『しかしですね、現に怪我をした子もいるわけですし……』


京太郎「……」

京太郎「手、いたいな……」

京太郎「母さん、まだかな」


「お待たせ~」

京太郎「べつに、まってないけど」

「さ、帰りましょうか。あ、手つないで帰る?」

京太郎「いいって!」



「京太郎、また喧嘩したんだって?」

京太郎「あいつらがムカつくこと言うから」

「喧嘩は否定しないと……しょうがないな」スッ

京太郎「――っ」ビクッ

「手、大丈夫か?」

京太郎「あ……うん」

「するな、とは言わないけどな、せめて怪我はするな。こっちも心配するからな」

京太郎「……」

「さて、そろそろ飯だな! 今日は何かな?」


京太郎「父さんがそんなんだから、おれも……」



京太郎「ごちそーさま」

「お粗末さま♪ 宿題は?」

京太郎「今日はないけど」

「それじゃあ、お母さんとお話ね」

京太郎「……今日のこと?」

「それもあるけど、最近元気なさそうだから……なにかあったの?」

京太郎「なんもない。いつも通り」


京太郎(そうだ、いつものことなんだ……)


「ウソでしょ、お母さんには話せない?」

京太郎「だから、なんもないって」

「本当に? もし悩んでることがあるなら――」


京太郎「うっさいな! なんでもないったらなんでもないから!」


京太郎「……もうねる、おやすみ」


「……まずいこと聞いちゃったかしら?」

「意地っ張りだからなぁ、男子ってのは」

「そう思うんならなにか言ってよ」

「悪い、俺はさっき話したから」

「もう……それで、明日だっけ?」

「ああ、少しは元気出してくれるといいんだけどな」



京太郎「いってきます」

「今日は学校終わったらまっすぐ帰ってきてね?」

京太郎「……わかった」

「絶対よ? 絶対だからね?」

京太郎「わかったって」


京太郎(なんて言ったけど……正直、学校行きたくないな……)


『見ろよこいつのあたま、ふりょーだふりょー!』

『やーい、まっきんきん!』


京太郎「……はぁ、サボろ」



京太郎「……」ボー


京太郎(サボるのはいいとして……なにすればいいんだろう?)

京太郎(うろうろしてたら、ほどーってのをされちゃうんだっけ)

京太郎(家にもどったら、またなんか言われるだろうし)

京太郎(というか、もう学校はじまってるな……家に電話されちゃってるかな)


京太郎「……はぁ」


「なにしてるの?」


京太郎「だれ、おまえ」

「こっちが聞いてるんでしょ」

京太郎「うっせーよ、ちかよんなよな」プイッ

「……えいっ」ゲシッ

京太郎「うわっ」ズシャ


京太郎「なにすんだよ!」

「こんな日なのにしんきくさい顔してるそっちがいけないんだから」

京太郎「わけわかんね……」

「あ、どこ行くのよ」

京太郎「……ふんっ」

「……とりゃっ」ドゲシッ

京太郎「うわっ」ズシャア


京太郎「さっきからなんなんだよ! なんでけるんだよ!」

「こっちの話を聞かないのがわるいんでしょ」

京太郎「てっめぇ……!」

「ぼうりょくふるうんだ。ふーん、先生に言っちゃおうかな」

京太郎「知るかよっ」ブン

「わっ、あぶなっ」

京太郎「ないたってゆるしてやんねーからな!」

「きゃっ、こわーい」タタッ

京太郎「まてよ、このっ」



京太郎「はぁ、はぁ……」

「ふぅ、ふぅ……」

京太郎「おまえ、足はやいな」

「そっちこそ……クラスじゃ一番だったのに」

京太郎「とにかく、もうにがさな――うわっ」グラッ

「わたしももうダメ……」ヘタッ


京太郎「……おまえもサボり?」

「そんなとこ。それより、おまえって言うのやめて」

京太郎「名前とか知らないし」

「そっか、そうだった」


「久、上埜久」


京太郎「うえの? 二組にそんなのがいたような……」

久「そゆこと。よろしくね、すがくん」

京太郎「……なんで名前知ってんのさ」

久「この前ケンカしてたでしょ。みんなふりょーだって言ってる」

京太郎「……」

久「ふりょーだからケンカするの?」

京太郎「ちがう、あいつらが……!」ギリッ

久「ふーん、じゃあかみそめてるからふりょーなの?」

京太郎「……そめてねーし。バカなやつらはしんじないけど」

久「ホント、バッカみたい。だってさ――」


久「そのかみ、お日さまにあたるとキラキラしてきれいじゃない」


京太郎「……は?」

久「それに外人さんみたいでかっこいいし」

京太郎「……アホくさ」

久「あ、まちなさいよ。わたしヒマなのに」

京太郎「ふん……ついてきたいなら好きにしろよ」

久「ツンデレってやつ?」

京太郎「わけわかんねーし」



京太郎「……」グゥ

久「……」グゥ


京太郎「おなかへった……」

久「……うん」

京太郎「いまごろお昼かな……」

久「うん……あ、そうだ」ゴソゴソ


久「これ、いっしょに食べない?」

京太郎「ポテチ?」

久「家出るときにこっそりもってきたの」

京太郎「学校におやつもってくとかいけないやつだな」

久「どうせサボるつもりだったからべつにいーの」

京太郎「そっか、サボってるんだった」

久「そうそう、じゃあ……」ググッ


久「あれ?」

京太郎「かせよ」ベリッ

久「……もうちょっとがんばったらあけれたのに」

京太郎「ぜったいパーンってなってたから」



久「やっぱりポテチはうすしおね」ポリポリ

京太郎「おれはのりしおの方が好きだな」ポリポリ

久「あれ、のりがつくのがなんてんね」

京太郎「いいじゃん、あとでなめればいいし」

久「うわ、男子ってへいきでそういうことするんだ」

京太郎「べつにいーだろ」

久「きたないからさわんないでよね」

京太郎「まだなめてねーし、ほら」

久「あぶらでべとべと!」


久「あーあ、せっかくのおたん生日なのにだいなし!」

京太郎「たん生日?」

久「お父さんは帰ってこれないって言うし……」

京太郎「それでサボったのか?」

久「……うん」

京太郎「ガキっぽいなー」

久「はぁ!? じゃあそっちはなんでサボってんのよっ」

京太郎「お、おれのことなんてどうでもいいだろっ」

久「ふこうへい! ぜったい話してもらうから!」



久「ふーん、それで学校行きたくないんだ」

京太郎「わ、わるいかよ」

久「ガキっぽい」

京太郎「う、うるせーな!」

久「ほかのやつらがね」

京太郎「……だよな!」

久「なにあせってんの?」

京太郎「なんでもねーから!」


『そのかみ、お日さまにあたるとキラキラしてきれいじゃない』


京太郎(……そういや、言ってたな)

京太郎(あんなこと言われたの、はじめてだ……)


久「どしたの?」

京太郎「なんでもねーって!」



京太郎「もう下校時間だな……」

久「あーあ、帰りづらいなぁ」

京太郎「ホントそれだよな」

久「もうちょっと遊んでる?」

京太郎「いいや、帰るよ。すぐ帰ってこいって言われたし」

久「へんなとこでりちぎなんだ」

京太郎「えっと……おまえ、なんて言ったっけ」

久「だからおまえって言わないでってば! 上埜久、ちゃんづけだけはやめてよね」

京太郎「じゃあそうだな……」


京太郎「うん、ひさちゃんだな」


京太郎「というわけでよろしく、ひさちゃん」

久「ちゃんづけやめてって言ったのに!」

京太郎「女子も気になるんだな。おれはいきなりよびすてにされたらカチンときたけど」

久「じゃあ、あんたはきょうたろうね」

京太郎「はぁ!? よびすてかよ!」

久「そっちだってワザとちゃんづけしたでしょ……っと」


久「じゃ、また明日学校でね。バイバーイ」


京太郎「……ふん、帰ろ」



「おかえりなさい」

京太郎「……ただいま」

「ちゃんと帰ってきたのね。えらいえらい」ナデナデ

京太郎「おこんないの? その、サボっちゃったのに……」

「たまには一人になりたいかなーってね。そーれーにぃ――」


「なんと、お母さんは妖しげな術で居場所をサーチできちゃうんだから!」


京太郎「……はぁ?」

「すごいでしょ」

京太郎「ウソくさ」

「ふーんだ、信じてもらえなくたっていいもーん」イジイジ

京太郎「とりあえず、ごめんなさい」

「だから、無事帰ってきただけで十分よ」ギュッ

京太郎「……うん」

「あ、でも先生は怒ってるかもしれないから気をつけてね」

京太郎「うっ……」

「……それで、明日は学校に行ける?」

京太郎「……」


『じゃ、また明日学校でね。バイバーイ』


京太郎「行くよ。バカでガキっぽいやつらの言うことなんか気にしない」

「そう、じゃあ大丈夫ね。……あ、好きな子でもできた?」

京太郎「……なんでそうなるのさ」

「母親の勘? うーん、これは当たっちゃったかな?」

京太郎「ちがうから。ぜんっぜんちがうから」

「ふふ、あーやーしーいー」ツンツン

京太郎「や、やめてよ……」


「ただいまー。お、帰ってたか」


「おかえりなさい♪」

「連れてきたぞ。家の中あったかくしといてくれたか?」

「もちろん」

京太郎「なにその大きなカゴ」

「これか? そうだな……新しい家族だよ」

京太郎「かぞく?」

「百聞は一見に如かず……ほら」


「キュッ!」


京太郎「ど、どうぶつ?」

「キュッキュッ」スリスリ

京太郎「うわ、なにこいつ」

「カピバラだな。ネズミの仲間だ」

京太郎「ネズミにしては大きすぎる……」

「まだ子供だからな、もっと大きくなるぞ」

京太郎「それに、なんだか、くっついてくるんだけど」

「一番人懐っこいのもらってきたからな。まぁ、遊んでやってくれ」

「あ、そうだ。名前つけなきゃね」

「京太郎、お前がつけてやれ」

京太郎「え、おれが?」

「キュッ、キュッキュッ」クイクイ

「ほら、催促されてるぞー?」

京太郎「わ、わかったよ……」


京太郎「カピバラだから……カピ、とか?」


「……ぷっ」

「……ふふっ」

京太郎「……なにさ」

「いやいや、安直だけどいいんじゃないか?」

「この子も気に入ったんじゃない?」

「キュッ!」

京太郎「そ、そうかな?」

「キュッキュッ!」スリスリ

京太郎「……これからよろしくな、カピ」



京太郎「あ~、やっぱ学校行きたくない……」

京太郎「でも行くって言っちゃったしなぁ」

京太郎「はぁ……」


『じゃ、また明日学校でね。バイバーイ』


京太郎「……まあ、わるいことばっかじゃないかな」


「あ、ぼーりょくま!」

「まっきんきんのすが!」


京太郎「……」


「学校出てきたのかよ」

「ずっと休んでりゃいいのにな」


京太郎「……ふん」スタスタ


「な、なんだよ、やんのか?」

「また先生に言いつけてやるからな!」


京太郎「バカなうえにガキっぽいのにつきあってる時間とかねーから」

京太郎「じゃーな」


久「あ、きょうたろうじゃん。いっしょに行かない?」

京太郎「じゃあどっちが先につくかしょうぶな」

久「えー? 朝から走りたくない」

京太郎「お先っ」ダッ

久「ちょっ、ひきょうもの!」ダッ
最終更新:2017年04月26日 01:42