冬、転ばぬ先のなんとやら

『お願いだから、黙ってて』

『あなたにそれを言われたら、私は……』


京太郎「確かになぁ……」

京太郎「問い詰めてどうするんだって話だし」

京太郎「それでもし、小蒔の時みたいなことになったとして」

京太郎「……俺にどうにかすることができるのか?」


京太郎「……やめだ、やめ」

京太郎「んなこと考えたってな」

京太郎「そうだ、勉強だ勉強」

京太郎「集中してりゃ他のことも考えないしな」

京太郎「……なんつーか、弱腰っつーか及び腰というか」

京太郎「インハイ途中だったらどうしてただろうな……」



京太郎「……腹減った」グゥ

京太郎「いくら集中してても三大欲求には勝てなかったよ……」

京太郎「しかし、まだ晩飯前だよな。正直微妙な時間だ」

京太郎「うーむ……」プルルル

京太郎「あん?」


『園城寺怜』


京太郎「電話なんて珍しいな」ピッ


怜『なんとかしてよキョウえも~ん!』

京太郎「しょうがないなぁ、とき太くんは」

怜『ありがとうキョウえもん!』


怜『ダメ、やり直し』

京太郎「いきなり始まったコントに対応してやってんのにダメ出しか」

怜『須賀くんは大切なことを忘れとる』

京太郎「はぁ、というと?」

怜『うちも女の子ってこと。とき太くんはないんとちゃう?』

京太郎「切っていいですかねぇ?」

怜『ほな、テイク2いってみよかー』



怜『なんとかしてよキョウえも~ん!』

京太郎「しょうがないなぁ、とき美ちゃんは」

怜『ありがとうキョウえもん!』


京太郎「で?」

怜『でっていう?』

京太郎「ヨースター島に生息してそうな恐竜は置いといて」

怜『そうして今日も赤い帽子の配管工に乗り捨てられるんやな……』

京太郎「おいやめろ」


京太郎「……で?」

怜『でっていう?』

京太郎「まぜっかえすな。もうスーパードラゴンは奈落の底だよ」

怜『ブロック叩けばあら不思議。ちゃーんと元鞘やで?』

京太郎「あれってどこから湧いてくるんだろうな?」

怜『そもそも、Tなんたらムンチャクッパスさんは緑のでええんかな?』

京太郎「同時に二体出てこないし、その時いるのがムンチャクッパスさんでいいんじゃねーの?」

怜『ちょっと待った、それやと名字っぽくない?』

京太郎「なるほど、じゃあTが名前か」

怜『なんの略やねん。寺生まれなん?』

京太郎「寺生まれのスーパードラゴンって何事だよ」

怜『破ぁ!! みたいに叫ぶんかな?』

京太郎「あいつが口から出すのは長い舌だろ」

怜『時々火ぃ吐いとらん?』

京太郎「でも白くて丸っこい幽霊は倒せないからなぁ。そもそも建物の中に入ってこないし」

怜『やっぱりここはスターで無敵化アタックやな』

京太郎「でっかいのは滑り台アタックでワンパンだしな」

怜『除霊(物理)やん』

京太郎「まったくだ。って、倒してるのは全部配管工じゃねーか」

怜『つまり、M・Mは寺生まれだった……?』

京太郎「あいつはコウノトリに運ばれてきたんだよ。そもそもイタリア人だろうが」


怜『で、なんやったっけ?』

京太郎「俺が聞きたいぜ」

怜『え、うちの声が聞きたくてたまらなかった?』

京太郎「言ってないんだよなぁ」

怜『だいじょぶだいじょぶ、いつでもウェルカムやでー』

京太郎「……えっと、清水谷竜華さんの番号は」

怜『うそうそっ、ちゃんと話しますー!』



京太郎「ほうほう、受験勉強したくないと」

怜『二次試験はよ終わって! せやけど来ないで、ホンマに……』

京太郎「あぁ、うん」


京太郎(すっげーよくわかる……)

京太郎(試験とかなくなんないかなー)


京太郎「まぁ、あれだ。俺も同じ気持ちというか」

怜『え、うそ。告られてもうた』

京太郎「どうしてすぐ脱線するんですかねぇ?」

怜『人生、多少寄り道せんとつまらない人間になってまうやろ』

京太郎「人生の寄り道と話を脱線させるのとではまた違うからな?」

怜『人の一生を物語と捉えれば……どうやろか?』

京太郎「どうやろか、じゃねーよ。保護者に連絡するぞ」

怜『むぅ、この塩対応……もしかして彼女できた?』

京太郎「いや、正直そんな暇ないし」

怜『なるなる……朗報ゲット』ボソッ

京太郎「朗報?」

怜『……竜華にとってって意味』

京太郎「あ、そうか……って、納得するのも恥ずかしいな」

怜『やーいこの色男ー』

京太郎「たしかになぁ……」


京太郎(客観的に見たら否定できないよな)

京太郎(あんまりおいしい思いした実感はないけど)


怜『ついに認めたっ』

京太郎「あーもう、俺のことはどうでもいいんだよ!」

怜『と、容疑者は述べており――』

京太郎「勝手に容疑者にするな」

怜『じゃあ、被疑者?』

京太郎「それでなにか変わったとでも?」

怜『なんか響きが被害者っぽいやん』

京太郎「たしかにAを一個引っこ抜けば同じだけどな」

怜『ひがいしゃ、ひがぃしゃ、ひぐぃしゃ、ひぎしゃ……一致してもーた』

京太郎「してねーよ」

怜『コナン手前味噌からの古代米味噌よりはマシマシ』

京太郎「まさかパン食べてラスボスになるとは……」

怜『まぁ、人間とパンが融合するような世界やから』

京太郎「リアクションが激化してきた時から、まさかとは思ったけどな」


『怜ー? そろそろご飯ー』


京太郎「お、清水谷と一緒だったか」

怜『そろそろお暇やなー』

京太郎「おう、帰れ帰れ」

怜『せやけど、ご飯の後は……』

京太郎「……言うな。強く生きろ」

怜『須賀くん? もし、無事に帰って来れたら……ううん、やっぱやめとく』

京太郎「いや、お前のホームはあっちな」

怜『死亡フラグについては?』

京太郎「いいから飯食え。俺も飯食いたいんだよ」

怜『はーい』



京太郎「やっと終わったか……」

京太郎「あいつと話してるとついつい長くなるよな」

京太郎「いつの間にか乗せられているというか……まったく、関西人ってやつは」

京太郎「愛宕姉とだったら物理的なツッコミをかいくぐる展開になるし」

京太郎「……いや、あれは俺がおちょくってるのもあるか」

京太郎「なんにしても、大阪の人間はコントが好き……って一纏めにすんのは失礼か?」

京太郎「ま、今回は時間潰れたからいいか」


『京太郎ー? ごーはーんー』


京太郎「はいはーい」



怜「あーん、勉強もーやだー」

竜華「もうちょっとやん、頑張ろ?」

怜「無理ったらむーりー」

竜華「でも、ご飯前にも休憩したし……」

怜「提案! 休養日をもうけるというのは!?」

竜華「せやから、もうちょっとだし頑張ろうって言うとるやん」

怜「やーすーみーたーいー」

竜華「うーん……」


怜(もうちょい押したら行けるかな?)

怜(ここで実現が難しい要求を突きつけて……)

怜(なんとしても一日休みを! ゴロゴロしたいっ)


怜「あーあ、場所が変わればやる気も出るんやけどなー」

竜華「たしかに……じゃあ、どこか出る? 図書館とかならよさそうやけど」

怜「えー? そんな近場とかやる気出ぇへんしー」

竜華「姫松の方にでも行ってみる? むこうにも図書館あると思うし」

怜「なんやねんその図書館推し」

竜華「え、だって静かで集中できるやん」

怜「とにかく却下ー。県外レベルやないとやーだー」

竜華「奈良とか?」

怜「近いわぁ、奈良近いわぁ。せめて長野ぐらい離れてないと」

竜華「長野……ちょい遠いかな」


怜(よーしよし、このまま諦めてくれれば……)


竜華「……」


竜華(長野に行けば……須賀くんに会えるし、怜も勉強に身が入る)

竜華(え、一石二鳥やない?)


竜華「決定、長野行こか!」

怜「そうそう、ここは諦めて……あれ?」

竜華「そうと決まれば早速準備せなな」

怜「あの……竜華、本気?」

竜華「なんか問題ある?」

怜「それは費用っちゅーか……ほら、うちあんま貯金ないし」

竜華「心配はいらへんで? うちはわりとお金持ちやし」

怜「たしかにタワマン暮らし……」

竜華「というわけで、明日は早起きして新幹線やな」

怜「……」


怜(ミスった、長野なんて言わなければ……)


竜華「楽しみやなー♪」



京太郎「あ゛~~」


久「見なさい、あれが二次試験を数日後に控えた受験生の姿よ」

まこ「こりゃあ、いつも以上に……ゾンビじゃな」

久「体は生きてるわ、多分」

まこ「つまり廃人かい」

京太郎「だれが廃人だ」

まこ「生きてたんかい」

京太郎「勝手に殺すな」

久「そうそう、こういうのは生かさず殺さずが基本だから」

京太郎「鬼か!」

まこ「鬼畜じゃな」

久「とまぁ、今のはあくまで一般論だから」

京太郎「嘘つけ! そんな非情な一般論があってたまるかっ!」

久「はいはい、だから気分転換にまこの店に行こうとしてるんでしょ」

まこ「じゃけぇ、うちの店は溜まり場じゃないと……」

京太郎「まさか……ゲン担ぎにあそこの名物のカツ丼でも食わせようってのか?」

まこ「こら、いつうちの名物がカツ丼になった」

久「え? 靖子がブログでそう書いてたわよ?」

まこ「店の名前は?」

久「出してたけど?」

まこ「くっ、客が増える気配がないのはなぜじゃ……!」

京太郎「商魂たくましいなぁ」



まこ「ただいまー」

久「ただいまー」

京太郎「ただいまー」

久「喉かわいたし、なんか飲みますか」

京太郎「ちょっと冷蔵庫のぞいてくるか」

まこ「やれやれ……勝手知ったる他人の家か」


竜華「あ、久しぶり」


久「あら、珍しいお客さんね」

竜華「受験勉強の気分転換にって。ね、怜?」


怜「……」グッタリ


京太郎「おい、なんか死んでるぞ?」

竜華「移動中に勉強頑張ってたからなぁ」

京太郎「お、おう……」


京太郎(哀れ……こっちに来た理由はわからないけど)

京太郎(強く生きてくれ……)


怜「ううっ」ギュッ

京太郎「……なんだ?」

怜「うちはもうダメや……せめて、死ぬ前に……」

京太郎「死ぬ前に?」

怜「死ぬ前に……スタバでめっちゃ名前長いの注文してみたい……」

京太郎「よし、まだ大丈夫だな!」

怜「見捨てないでっ」ガシッ

京太郎「ええい、はなせっ」

怜「後生、後生やからっ」


竜華「仲ええなぁ」

久「でも、店の中で騒ぐのはどうかと思うけどね」

まこ「あんたがそれを言うのかい」



まこ「ともあれ、うちの店にようこそいらっしゃい」

竜華「へぇ、実家がお店やっとるって聞いてたけど、雀荘なんやね」

久「そうなのよ。私の行きつけ」

怜「あと藤田プロのブログでお勧めされてたし」

京太郎「良かったじゃないか。宣伝効果あったぞ?」

まこ「ふむ……」

竜華「カツ丼が名物って。そういえばセーラが食べたがってたっけ」

まこ「そこか、そこなのか……」


久「それで、ここのカツ丼を食べに来たってわけじゃないわよね?」

竜華「うん、まぁ、そうなんやけど」

まこ「しかし、時期が時期じゃけぇ。受験勉強は大丈夫なんかいの?」

怜「……はぁ」

京太郎「遠い目だな。あっ……(察し)」

竜華「もちろん、ただ遊びに来たんやなくて、今回は勉強しにきましたっ」

久「……はぁ?」


京太郎「おい、胸張ってよくわからないこと言ってるぞ?」ヒソヒソ

怜「うちが、うちがあないなこと言ったばかりに……」ダンッ

京太郎「いや、なにがあったんだよ……」


久「まぁ、ずっと同じところで勉強っていうのもあれだし、気分転換に違うとこでするっていうのもわかるけど……」

まこ「さすがに大阪からここまでは遠すぎじゃな」

竜華「うちももうちょい近場でええと思ったけど、怜がここらへんまでこないと気分転換にならんて」

久「なるほど……」

竜華「同じとこじゃ勉強にならんて言うから」

久「ふむふむ……」


久(つまり、サボりたいから適当な条件突きつけたら……って感じね)

久(うちのもやりそうな手口ね)

久(まったく……真に受けちゃったのね。当てが外れた園城寺さんはお気の毒だけど)


竜華「怜の言う通り、長野やったら色々捗りそうなのもたしかやけど……」チラッ


京太郎「トキ、病んでさえいなければ……」

怜「せめて痛みを知らずに安らかに……」

京太郎「それじゃあお前が止めを刺す側だな」

怜「まぁ、デッサイダデステニーやな」

京太郎「ジョインジョイントキィか」

怜「もしくはジョインしてから相手が選んだ後にすかさずジョイントキィや」


久(……案外別の理由も絡んでそうね)ハァ

久(とりあえず勉強させとけば変なことも起こらないでしょ)


京太郎「――っ」ビクッ

怜「――っ」ビクッ


京太郎「……感じたか?」

怜「うん、感じた」

京太郎「これは――」


「「地獄(勉強)の気配……!」」


まこ「いいからさっさと座りんしゃい。他の客の邪魔じゃけぇ」



「「「「ごちそうさまでした」」」」

まこ「お粗末さまでした」


京太郎「いやぁ、また美味くなったんじゃねーの?」

久「トンカツ料理の店開いたら成功しそうじゃない?」

怜「けぷっ……もうお腹いっぱい」

竜華「ハーフ頼めば良かったやん」

怜「せやけど美味しかったから後でセーラに自慢しよ」

まこ「やれやれ、また妙なとこで評判になってしまいそうな……」


「さっき昼食べたけどまた腹減ってきたな……」

「俺にもカツ丼一丁!」

「こっちにもお願いな」

まこ「はいはいただいま」


京太郎「いいじゃないか、賑わってるみたいで」

久「雀荘としてはどこか間違ってるけどね」

怜「提案! せっかくの雀荘やん。ちょっと打つっちゅーのは?」

京太郎「おお、たしかにな。せっかく来たんだしな」

竜華「それええかも」

久「いや、良くないでしょ。勉強はどこいったのよ」

京太郎「うぐっ」

怜「くっ」

竜華「あ、そうやった」

怜「竜華、騙されたらアカン!」

京太郎「そうだっ、俺たちには休養が必要なんだ!」

久「やっぱり結託した! 清水谷さん、押し切られちゃダメよ」

竜華「え、えぇ?」

怜「竹井さん、うちらを苦しめて楽しいんかっ」

久「ちゃんと勉強しなさい受験生!」

京太郎「ぐあっ! その言葉は俺に効く……」

竜華「ちょっ、ケンカは……そうや!」


竜華「ここは仲直りに麻雀……なんてどうかな?」



久「東風戦で持ち点は25000、アリアリで赤は……三枚でいい?」

竜華「かまへんよ」

怜「たった4局かぁ。勝ったらなんか特典は?」

久「なし」

怜「えー?」

久「ウマもオカもなし。さっさと終わらせるわよ」

京太郎「そうだ、失点したら一枚脱――」

久「速攻で素っ裸にされたいの?」ジトッ

京太郎「――ぐのはなしですね、はい」


京太郎(危ない、殺されるところだったぜ……)

京太郎(迂闊なことは言うもんじゃないな)


竜華「うーん……でも、なんかご褒美みたいのあったほうが楽しめそうやない?」

怜「せやせや、せっかくの息抜きやん」

久「ご褒美ね……たとえば?」

竜華「膝枕とか?」

久「だれがするのよ?」

竜華「もちろんうちが」

久「あなたが一位になったら?」

竜華「あ……あはは、考えとらんかった」

怜「別のだれかにしてもらえばええやん。須賀くんとか」

京太郎「俺? 硬いし、枕にするには向いてないんじゃないか?」

竜華「うちはしてもらいたいかも……なんて」モジモジ

久「はぁ……早いとこ始めましょうか」

怜「ご褒美の件については?」

久「もうトップが最下位に何かさせるでいいんじゃない?」

京太郎「めんどくさくなってるだろ」

久「否定はしないけど」


久(ま、トップとればいいだけのはなしだしね)

久(京太郎を飛ばしちゃえば一石二鳥ってところね)

久(さて、さっさと勝って勉強させますか)


竜華「勝った人が最下位の人に……」


竜華(もし、うちがトップで須賀くんが最下位になったら)

竜華(またこの前みたく……)ポー

竜華(……よし、頑張ろっ)


京太郎「……」ゾクゾク


京太郎(なんか、ひたすらいやな予感が……)

京太郎(久ちゃんの目的はうっすらと見えるけど……)


怜「ふわぁ……」


怜(ねむ……)

怜(トップの特典は魅力的やけど、ここはおとなしくしとこ)

怜(巻き込まれると面倒やねん)



京太郎「……」


京太郎(珍しく良い配牌だ)

京太郎(局数も少ないし、せっかくの親番……ここは)


京太郎「リーチ!」


怜「……」


怜(アカン、二巡先でツモられる)

怜(連荘で長引くとこっちにも矛先が、なんてこともありそうやし)

怜(ずらせるチャンスがあれば……)


竜華「……」トン

怜「ポン」


怜(うんうん、ナイスタイミング)

怜(これで当面の危機は――)


京太郎「っしゃ、ツモ! ……裏乗って親倍!」


京太郎「さ、というわけで点棒よこせー」

竜華「須賀くんツイとるなぁ」チャラ

久「ま、ハンデにはちょうどいいんじゃない?」チャラ

怜「……なんでやねん」チャラ


怜(まさかそこにもあったとは……!)

怜(はぁ……やっぱおとなしくしとこ)


京太郎「連荘連荘、このままみんな飛ばしちゃうぜ」

久「いいからさっさとサイコロ振りなさい」

京太郎「また鹿倉みたいなこと言うなぁ」ポチッ



京太郎(またいい感じだな……おいおい、流れ来ちゃってるのか?)

京太郎(勝てる、勝てるんだ……!)


竜華「ツモ、一本場で2100・4100や」


京太郎「……」

久「短い天下だったわねぇ」

京太郎「うるさいっ、まだ俺がトップなんだからな!」



京太郎(って意気込んだのはいいけど……なにこの配牌?)

京太郎(もはや悪意しか感じねぇ……まぁ、いつものことだけどよ)トン


久「ロン、18000」


久「さ、点棒プリーズ」

京太郎「……うぃっす」チャラ


京太郎(早速まくられた……)


久「連荘よ。さっさと終わらせちゃいましょうか」



久「来た……ツモ! 4100オール」


京太郎「やべぇ、やべぇよ……」

怜「最下位……」

竜華「……」


竜華(うーん……このまんま好き放題させとくのは……)

竜華(出し惜しみせずにいこか)スッ


怜「……」トン

京太郎「……」トン

久「……」トン


竜華(怜は明らか力が入っとらん……あんまりやる気ないのかな?)

竜華(須賀くんは……表情筋が強ばってて、呼吸もちょい乱れとる……配牌悪そう)

竜華(竹井さんはポーカーフェイス。やけど、ほんのり上気して口角も僅かに上がっとる)

竜華(ここは拙速でも調子崩しといたほうが良さそうやな)


竜華「ポン」

竜華「チー」


久(……仕掛けてきた)

久(こっちの足を止めようって腹積もりだろうけど――)トン


怜「……ポン」


怜(危ない危ない……今度は跳満ツモられるとこやった)

怜(竜華ー、あとは頑張ってなー)


竜華「ツモ、700・1200」


竜華(今の副露……もしかして竹井さんがツモりそうだった?)

竜華(なら怜には感謝しとこかな……ありがと)

竜華(次はうちの親番……トキちゃん)


トキ『呼ばれて飛び出てやでー』ポンッ


怜(むっ、この感覚は……竜華の太ももから?)


トキ『きっちりナビしたるから頑張ってなー』


竜華(使用制限があるけど、この短い局数……使わな損や)

竜華(しっかり頼むで)


トキ『報酬に後で太ももスリスリさせてなー』


竜華(……怜に膝枕すればええんやろか?)


京太郎「……」


京太郎(なんも見えないけど、なんか変なのいるな)


トキ『変なのってなんやねん』

竜華(トキちゃん?)



竜華「ロン、5800」

久「はい」


久(なんかスタイル変わった?)

久(ちょっとやりづらくなったわね……)


怜(ふーむ……インハイ以降、こないな打ち方もしとったけど)

怜(まるで先が見えてるかのような……まさかっ)

怜(うちがスリスリしてた太ももに未来視パワーが……!)

怜(……なーんて、んなわけないやんな)



京太郎「……」


京太郎(そして安定の安牌なしおくん……もうやだっ)

京太郎(こっちか? それともこっちか?)

京太郎(ええい、ままよっ)トン


竜華「ロン、一本場で4200やな」

京太郎「……へい」


京太郎(……まあ、そこまで高いわけじゃないから良しとするか)

京太郎(まだ最下位じゃないしな)


怜「……」


怜(さすがにこのまんまはマズいなぁ)

怜(なんもせんでも、ツモでゴリゴリで持ち点が10000……)

怜(最下位は回避せんと……となると)チラッ


京太郎「?」

怜「……」ニコッ

京太郎「……」


怜(点数が一番近い須賀くんを引きずり落とす……!)

京太郎(……もしかして、ロックオンされた?)



怜「ロン、3900は4500」

京太郎「くそっ!」

怜「ふふん、これでビリとはおさらばや」


怜(とはいえ大した点差でもないし、だれかにツモられたら簡単にひっくり返る)

怜(ここはノミをかましておさらばやな)


竜華(トキちゃん、いけそう?)

トキ『ムリムリ、この局はあがれへんわ』フルフル

竜華(そっか……ならせめて聴牌はしとかんとな)


久(園城寺さんも仕掛けてきたわね)

久(トップを取る気はないみたいだけど、さすがに最下位はいやなのね)

久(ともあれ、あとは清水谷さんを警戒しとけば大丈夫そうね)


京太郎(あと一回、あと一回上がれれば……!)

京太郎(久ちゃんがトップにいる以上、最下位だけは……!)


怜「聴牌」

京太郎「……ノーテン」

久「聴牌」

竜華「聴牌」


京太郎(点棒取られてったよ!)


怜「一本場ー」



怜「……」


怜(聴牌……倍満かー、これ上がったらトップやん)

怜(さすがにそこまではなぁ)

怜(ま、無理してあがらんでもええか)

怜(ツモ上がりと放銃だけ気をつけとけば――)


竜華『ツモ、6100・12100』


怜(……アカン、竜華ツモる)

怜(しかも三倍満……そしたら親被りで最下位転落やん)

怜(須賀くんや竹井さんから直撃取りに行く可能性もあるけど……)


『怜? ちゃんと勉強せなあかんで?』


怜(見える未来はほぼ確定……このままやったら勉強させられる……)

怜(どうにかしてずらさななー……って、だれも鳴ける牌は出しそうに無し)

怜(せめてうちが捨てたので鳴いてくれれば……)トン


京太郎「……」

久「……」


怜(ありゃ、空振り?)

怜(……南無三っ)


京太郎「……」トン


怜「ろ、ロン」

京太郎「えっ」

怜「親倍で24300……あははー、見事に逆転やな」



久「あらら、負けちゃった」

竜華「もうちょいであがれたんやけどなぁ」

京太郎「結局最下位かよ……しかも飛ばされたし」

怜「ともに下手っぴやったころが懐かしいわぁ」

京太郎「あの頃のお前はどこに行ってしまったんだ……」

怜「もう、昔の私はいないの……だから、さようなら」

京太郎「待ってくれ! 俺はまだ君に言いたいことが……あいたっ」


京太郎「なにすんだよ久ちゃん……」

久「ほっとくとどこまでも脱線しそうだったから」

怜「せやせや」

京太郎「お前が乗せてくるからだろうがっ」

竜華「まぁまぁ、仲良しってことやん」

怜「ツーカーやし?」

京太郎「打てば響く?」

久「あーもう、また脱線する前にさっさと決めちゃってよ」

京太郎「あー……トップのご褒美ってやつか」


京太郎(最下位になったのは痛い。だけど、最悪とは言いがたい)

京太郎(なぜなら、俺と園城寺はある程度利害が一致しているからだ)

京太郎(勉強させたい勢の久ちゃんと清水谷、休みたい勢の俺と園城寺)

京太郎(少なくとも勉強に向かうことだけはないだろう、多分)


竜華「それで、どうするん?」

怜「せやなー……」


怜「うちと逃げて……とか?」


久「は?」

竜華「え?」

京太郎「なんだそりゃ?」


怜「よし決定、てなわけで……おいしょっ」ヒシッ

京太郎「いきなりのしかかってくんな」

怜「れっつらごー」

京太郎「いや、いきなり逃げてっつわれてもだな」

怜「うちはトップ、須賀くんは?」

京太郎「……わかったよ」


京太郎(そう、これはしかたなくだ)

京太郎(最下位はトップの言うことを聞かなきゃダメだからな!)


京太郎「そういうわけなんだ……逆らえないんだ……」

久「まこ、出口塞いで!」

まこ「じゃかあしいっ、今カツ丼のオーダーで手が離せんわ!」

京太郎「おさらばっ」ダッ

怜「ごーごー」


竜華「……行っちゃった」

久「私としたことが……」ハァ



京太郎「はぁ、はぁ……体力落ちたかな」

怜「うちが天使の羽のように軽いとはいえ、人一人背負ってあのスピードは大したもんやわ」

京太郎「そりゃどーも」

怜「怜ちゃん専用のでっていうに就職せぇへん?」

京太郎「却下。乗り捨てられて奈落の底はごめんだ」

怜「いけずやなぁ……んしょっと」ストッ


怜「さーて、なにしよか?」


京太郎「なにするかよりも、もっと切実な問題があるんじゃないのか?」

怜「せやな……須賀くんも同じ気持ち?」

京太郎「ああ、とにもかくにも――」


「「――寒いっ!」」


怜「コートも置いてきぼりで寒いの当たり前やん……」ブルブル

京太郎「あの状況じゃ持ってくる余裕はなかったよなぁ」

怜「と、とにかくどっか入らへん?」

京太郎「どっかねぇ……」


京太郎(適当に走ってたから、よく知らないとこ来ちゃったんだよな)

京太郎(ってか、ここらへんあんま開いてる店が……)


――ポツッ


怜「冷たっ」

京太郎「雨かよ……まぁ、最近気温上がってきたからな」

怜「濡れる前にはよっ」

京太郎「とりあえず軒下に避難するか」

怜「せやから寒いてゆーとるやん……あっ」


怜「あそこ、あそこのお城みたいな建物!」


怜「あれなら開いとるっぽくない? 今人出てきたし」

京太郎「お城みたいな……?」

怜「えーからはよはよっ」グイグイ


『平日ショートタイム(80分)1,990円均一』


京太郎「……」

怜「にわか雨っぽいし、一番安いこれでええんやない?」

京太郎「なぁ、俺も初めて入るけど、ここって……」

怜「なんやねん、ウブなネンネじゃあるまいし」

京太郎「それは男に使うセリフじゃないんだよなぁ」

怜「えーからラブホ入ろ」

京太郎「とうとうぶっちゃけやがった!」



怜「わぁ、思ってたより広ー」

京太郎「なんだってこんなとこに入ってんだか……」

怜「緊急避難緊急避難。なんか飲む?」

京太郎「こういうとこのは高そうだから遠慮しとく」

怜「せやなー……あ、テレビある。つけてみよ――」

京太郎「ストップ!」

怜「あぁん、リモコン返してー」

京太郎「ダメだ、テレビはダメだ」


京太郎(絶対変なのやってるから)

京太郎(もし大音量で流れてみろ。気まずいどころじゃなくなるぞ……)


『んううぅううっ! だめぇ! もうだめぇ! イクっ! イクイクイクゥ!』

『イキすぎィ!』


京太郎「……」

怜「お盛んやなぁ、おとなりさん」

京太郎「いやいや……」


京太郎(どうすんだよっ、なんか居心地悪くなったじゃねーか!)

京太郎(もうちょっと防音しっかりしとけよ!)

京太郎(こっちがなんかしたらむこうにも筒抜けってことじゃん!)

京太郎(いや、しないけどもさっ)


怜「……」


京太郎(こいつはこいつで平然としてるし……)

京太郎(まったく……内心で騒ぎまくってるのがバカらしくなってくるな)

京太郎(そうだ、こいつは清水谷が大好きだから滅多なことにはならないだろ)

京太郎(せっかく入ったんだし、文字通り時間一杯休憩してりゃいいんだよな)

京太郎(あくまでいつも通り。こんなふうに肩にゴミが付いてたら取ってやるぐらいの気安さで)スッ


怜「ひうっ」ビクッ


怜「な、なに?」

京太郎「悪い、ちょっと――」

怜「あないな声聞かされて落ち着かんのはわかるよ?」

京太郎「まぁ、それはそうなんだけど――」

怜「うん、うちもちょい変な気分なんやけど……イエスノー枕のイエスの方というか」


京太郎「だから、肩のゴミ取ろうとしただけだっての!」


怜「……」カァァ

京太郎「あー……断り入れてからやるべきだったな」

怜「……アカン、ハズい。めっちゃハズい」ボスッ

京太郎「悪かったよ……ちょっとシャワーで頭冷やしてくる」

怜「へ?」


怜「シャワーって……やる気満々?」

怜「どないしよ、どないしよ……」ゴロゴロ



――シャー


京太郎「……」


京太郎(なんでシャワー浴びてんだよ俺は!)

京太郎(バカなのか? 絶対勘違いされるだろうがっ)


京太郎「あーもうっ」ゴン

京太郎「いたた……」


京太郎(落ち着けよ、俺)

京太郎(シャワーを浴びたからなんだってんだ)

京太郎(普通に体拭いて、服着て、そんで園城寺にもシャワー浴びさせて……ってそうじゃなくてだな)

京太郎(ダメだな、予想以上に動揺してる)

京太郎(あいつがあんな反応するから……)


――キュッ


京太郎「転ばぬ先の杖ってのがあったらな……」

京太郎「ま、なるようにしかならないか」

京太郎「あいつは未来が見えたとき、どんなことを思うんだろうな」



怜「……」スゥスゥ

京太郎「……」


京太郎(そしてこのはしごを外された感……)

京太郎(別にいいけどさ。そういう目的で入ったわけじゃないし)


京太郎「……ふぅ」ボスッ

京太郎「寝るか。時間まではまだけっこうあるし」

京太郎「けど、その前に……バスローブでいいかな?」パサッ


怜「ん~……勉強やだぁ」ムニャムニャ


京太郎「病弱ってんなら体冷やさないようにしとけよな」

京太郎「さて、俺も……」



怜「んん……あれ、寝てた?」ハラッ

怜「バスローブ? いつの間に」

怜「須賀くんは……」


京太郎「……zzz」


怜「……寝てる」

怜「なんかされた気配もなし……なんやねんな」

怜「あれこれ考えとったのがアホらしくなるわ」

怜「ま、うちも寝てたんやけど」

怜「うーん、この無防備……これはなんかせんとあかんなぁ」

怜「そや、せっかくの機会やん。アレやってみよか」


怜「んしょ……頭重……」


京太郎(ん……なんだ? 頭を持ち上げられてる?)


怜「竜華に比べたら貧相やけど……って、膝枕じゃかなわへんな」

怜「恋敵とはいえ、認めざるをえんからなぁ」


京太郎(恋敵……そういや前にそんなこと言われたな)

京太郎(勝手に膝枕めぐって争ってることにされて)


怜「ところで須賀くん……起きとる?」

京太郎「……起きてる」

怜「寝たふりとか」

京太郎「今しがた起きたばっかだよ」

怜「ま、ええけど……で、うちの太ももの感想は?」

京太郎「スベスベしてる」ツツッ

怜「セークーハーラー」

京太郎「普段の自分を思い返そうぜ……よいしょ」

怜「もうええの?」

京太郎「いつまでも乗っかってたらしびれるだろ」

怜「その状態でグリグリするのも楽しいんやけど」

京太郎「やる方はな……それに、恋敵に膝枕してどうするんだよ」

怜「恋敵? うちと竜華?」

京太郎「なんでそうなる……お前らってそんな関係だったのか?」

怜「まぁ、そうなるんやないかな?」


京太郎(ちょっと待て、それだと……)


怜「今まで竜華の背中押してきたし、そろそろええかなって」

京太郎「……本気か?」

怜「うん、竜華の太ももと同じくらい須賀くんが好き」

京太郎「お前……もうちょっと例えようはないのか?」

怜「せやかて、それ最上級なんやけど」

京太郎「まぁ、そうなんだろうけど……」

怜「むぅ、いまいち反応薄いなぁ」

京太郎「悪い、どうもお前相手だと空気が」

怜「じゃあ……須賀くん、ずっと好きでした」

京太郎「なんだって! それは本当かい!?」


怜「……ふざけとらん?」

京太郎「いや、ほんとごめん。どうも条件反射で」

怜「む~」プクー


怜「……おいしょ」

京太郎「人の上に乗っかって何する気だ」

怜「行動は言葉よりも雄弁……そうやない?」

京太郎「……近いぞ」

怜「近寄らな、できないやん」

京太郎「わかった、もうわかったから」

怜「動かんといて、うちのこと嫌いでないなら……」

京太郎「お前……嫌われてないのわかってて言ってるだろ」

怜「もう、黙ってキスさせて……んっ」


怜「……どうやった?」

京太郎「どうもこうも……冷蔵庫からコーラ出して飲んだろ」

怜「てへ、バレちゃった?」

京太郎「まぁ、いいけどさ」

怜「お詫びに……もっかいキスする?」

京太郎「……もう好きにしてくれ」



怜「雨上がったなぁ」

京太郎「帰るのこえー……」

怜「ヤっちゃったもんはしかたないやん。デキちゃってた時は認知してな」

京太郎「ヤってないからデキもしないんだよなぁ」

怜「ひどいっ、うちとお腹の子は見捨てるのっ?」

京太郎「やめろ、この場所でそれはシャレにならない」


京太郎「相手の出方がわかれば対策できるんだけどな」

怜「備えあれば、的な?」

京太郎「転ばぬ先の、とかな。お前なんか見えないの?」

怜「そない便利やないしなぁ」

京太郎「そっかー、そうだよな」

怜「それよりも寒いからくっついてもええかな?」

京太郎「いいぜ。俺も寒いし、ここらじゃ知り合いもいないだろうしな」

怜「所詮うちらは人に知られたらいけない関係……そうなんやな」

京太郎「ちげーよ。ただでさえ俺はアレな噂が多いからってだけだ」

怜「噂? 事実の間違いやないの?」

京太郎「俺はまだ童貞だ」

怜「奇遇、うちも処女」


京太郎「……カミングアウトはさて置き、戻るぞ」

怜「ここは牛歩作戦でいこか。じっくり一時間ぐらいかけて」

京太郎「いや、上着もなしに一時間はさすがに辛い」

怜「せやせや。ほな、ぴったりくっつかんとな」ピトッ


怜「ね、ダーリン?」


京太郎「……まあ、寒いしな」

怜「あ、顔赤くなってる」

京太郎「寒いからな」

怜「ふふん、そういうことにしといたる」


京太郎(よく言うよな、自分だって赤くなってるくせに)

京太郎(ま、帰ったら揉めるのは目に見えてるし、今のうちに楽しんで――)


『覚悟は出来てる? 答えは聞かないけど』

『久ちゃんっ、この量は死ぬっ、死んじゃうからっ!』

『問答無用っ!』

『ぬわーーーーっっ!!』


京太郎「……」


京太郎(なんだ今の?)

京太郎(妙にリアリティが……)


怜「どしたん?」

京太郎「いや、なんでも。多分気のせいだろ」

怜「ふぅん」



京太郎(それが気のせいでもなんでもないことは、時計の長針が一巡する頃に明らかになる)

京太郎(もちろんそんな未来が待ってることは露知らず、俺たちは地獄へ向けて歩を進めるのみだったとさ)

京太郎(……めでたくなしめでたくなし)
最終更新:2017年07月17日 23:00