白水哩――君が満足するまで

「来たねぇ、東京。夢ん国!」

「千葉やなかった? 東京言うとーけども」

「ん、たしかに。政治上ん理由?」

哩「なして政治ば引き合いに出すかね」

「そいもこいも――」

「政治は悪くなかね」

「……」

哩「とりあえずチェックインやね」



「しかし、鶴田のふくれっ面も中々やったねぇ」

哩「そいはしょんなかね」

「相変わらず哩先輩ラブだから。ついてくっとか言うかと思った」

「こん時期は春の大会もあるし、無理やと思う」

哩「姫子なら心配いらん。花田もいるし」

「ま、なら私らは卒業旅行ば楽しまんとね」

「ランドとシー、どっち先行くと?」

「迷うな……美子はどげん思う?」

「質問に質問で返されても……哩は?」

哩「ざっとなか問題やね……」

「しゃーない、ここはとっておきば……」ゴソゴソ


「しんどうくん鉛筆!」


哩「なっ! そがんグッズあったと!?」

「いんや、自作のシールでデコっただけ」

「シール作ったんだ」

「もちろん、各種ヴァージョンも揃えとっとよ」

「……どれがどれ?」

「ニュートラルはしんどうくんで、首に蝶ネクタイが父、頭にリボンが母」

「相変わらず書き分けがなっとらんね」

哩「……」


哩(ほ、ほしい……!)


哩「そ、そいでなんばすっとね?」

「転がしてどっち行くか決めようかと」

「神頼み?」

「テストもこいで乗り切った」

哩「すごいな」

「色んな意味で」

「じゃ、早速」コロコロ



京太郎「来たな、夢の国」

京太郎「なんで千葉なのに東京を名乗っているかはともかくとして」

京太郎「さて、ランドとシー、どっちに入る?」

京太郎「この日だけでどっちもっていうのはさすがにきついだろうし」

京太郎「いや待て、そもそも一人で入って大丈夫なのか?」

京太郎「今は卒業旅行シーズン……大抵はグループだろうし、中にはカップルも……」

京太郎「……やばい、勇気がしぼんできた」

京太郎「……少しベンチで休むか」



「さ、シーに行こう」

「あげな決め方で……」ハァ

哩「まぁ、迷って中々決められんのよりはよかて思う」


「うーん、やっぱり混んでる」

哩「同じように卒業旅行かね?」

「カップルもいっぱい……」

「お、ベンチでイチャついとるね」

哩「あっちは一人で……」


「くそっ、カップル多い……!」ダンッ

「やっぱり一人じゃハードル高ぇよ……」


哩「……あれ?」

「ん? どげんしたと?」

哩「なんか……見間違いやろか?」

「あそこのベンチの人? なんやろ、具合悪いとか?」


「やってらんねぇ……もう寝るか」ゴロン


哩「……」


『それじゃ、お近づきの印にこれどーぞ』


「横になったね」

「彼女に振られたか……なんもかんも政治が悪い」

「もう言いたいだけやね」

哩「……ちょっと、飲み物ば買ってくる」



京太郎「くそっ、カップル多い……!」ダンッ

京太郎「やっぱり一人じゃハードル高ぇよ……」

京太郎「やってらんねぇ……もう寝るか」ゴロン


京太郎(……どっかのだれかもそう言って寝ようとしてたな)

京太郎(今頃何してるかな。卒業旅行でどこか行ってるかもな)

京太郎(ま、ゴールデンウィークには実家に帰るだろうし、その時にでも……)


哩「お、お近づきの印に……こいっ、どうぞ!」


京太郎「いいんだ、俺はどうせ独り者さ……」

哩「ええい、なんば言っとーと!」ピトッ

京太郎「うわ、熱っ」ビクッ


京太郎「……どうしてここに?」

哩「卒業旅行」

京太郎「なるほど」


京太郎(それがまさかここだとは……)


哩「そっちも?」

京太郎「ま、そんなとこ」

哩「一人で?」

京太郎「ひ、一人旅だから……」

哩「竹井さんは?」

京太郎「さぁな。友達と卒業旅行ってとこか?」

哩「そう……」

京太郎「それより、これもらってもいいのか?」

哩「どうぞ」

京太郎「はは、いつかとは逆だな」

哩「お返しやけん」

京太郎「の割には緊張してたな」

哩「べ、別に緊張は――」


「で、知り合いと?」

「そろそろ説明が欲しいとこやね」


京太郎「そっちの二人は……たしかインハイで見たな」

哩「江崎仁美に安河内美子」

仁美「よろしくー」

美子「よろしく」

哩「そいで、こん人は――」


仁美「いや、知ってる知ってる」

美子「須賀京太郎さん、ですよね」


京太郎「わぁ、俺有名人」

仁美「まぁ、スレでも外人と一緒に避妊具買ってたとか、幼馴染と同棲してるとか」

美子「た、爛れてる……」ドンビキ

京太郎「待てや! 確実に誤情報混じってんぞ!」

哩「ひ、避妊……同棲まで……」プルプル

京太郎「……わかった、この話はやめよう。ハイ!! やめやめ」



京太郎「いやぁ、助かった。一人でここ入るのキツかったからさ」

仁美「そもそも一人旅やろ」

美子「じゃあなんでここに来たんですか」

京太郎「うぐっ、言葉の針が……」グサッ

哩「ま、まぁ……人には事情ちいうもんがあっけん」

京太郎「そ、そうそう、色々あるんだよ」

仁美「……」

美子「……」


仁美「哩と鶴田の相手って……」ヒソヒソ

美子「うん、だと思う」ヒソヒソ


京太郎「さ、せっかくだし楽しもうぜ」

哩「そうやね」

京太郎「今ならカップルも怖くないな。腕組みでもしてみるか?」

哩「なっ……!」カァァ

京太郎「冗談冗談。おーい二人ともー、行こうぜー」



哩「つ、疲れた……」


哩(京太郎といると、不必要に心拍数が……)

哩(周りがカップルばかりなのも……)モンモン


京太郎「なに頭抱えてんだ?」

哩「ち、ちかっと考え事」

京太郎「そうか? まぁ、とりあえずこれでも飲んどけ」

哩「ありがと……」


哩「……二人は?」

京太郎「さっきのアトラクション、もっかい行ってくるってよ。そんな並んでないしな」

哩「そう……すまんね、足取り乱して」

京太郎「気にすんなよ、無理したって楽しめないし、そもそも俺は乱入者だぞ?」

哩「……たしかにペースは乱されっぱなしやね」

京太郎「お、あそこのカップル、キスしてるな」

哩「――っ」ピクッ


京太郎「――みたいな感じか?」


哩「もう……なんね。今日はいつもより――」

京太郎「意地悪だってか?」

哩「あ……うん、おーどーか」


哩(顔、近っ)


京太郎「なあ、男子にとって意地悪したくなる相手って、どんなやつだと思う?」

哩「い、いっちょんわからん」

京太郎「そうか、なら――」グイッ

哩「――んんっ」


京太郎「――ってのはどうだ?」

哩「あ、え……あぅあぅ」プシュー

京太郎「あらら、前はそっちからしてきたのにな」


仁美「哩ー、大丈夫かー?」

美子「うわ、ゆでダコ?」


京太郎「ちょうど良かった。俺はそろそろ行くから、こいつ頼むわ」

仁美「りょーかい……って、もう帰ると?」

京太郎「これから宿探しだし、明日は朝から移動なんだ」

美子「他にも行くとこが?」

京太郎「気楽な一人旅だからな。色々まわってるんだ」


京太郎「じゃ、そういうわけで」


美子「行っちゃった……」

仁美「哩、哩ー?」ペシペシ

美子「いっちょん起きる気配なし」

仁美「うーむ、なんもかんも――」

美子「悪いのはあの人かもね」

仁美「……たしかに」



哩「……」


哩(あれから一ヶ月とちょっと)

哩(ゴールデンウィークに入って佐賀ん実家に帰って)

哩(ばってん、京太郎からの連絡は一つもなし)


『なあ、男子にとって意地悪したくなる相手って、どんなやつだと思う?』


哩「なんね、あいは……」モンモン

哩「それに……」スッ


哩(キス、された……)


姫子「まーいる先輩っ」

哩「うひゃあっ」

姫子「ちょっ、そがんたまがらんでも」

哩「ご、ごめん」

姫子「なんば考ゆっとですか」

哩「んー……」


『なあ、男子にとって――』


哩「~~っ」カァァ

姫子「うわっ、大丈夫ですか!?」

哩「大丈夫、大丈夫やけん……」

姫子「どこがですかっ」


京太郎「お、いたいた」


姫子「あれ、先輩?」

哩「――っ」

京太郎「見つけられたのはラッキーだったな」

姫子「なんですか? あ、もしかして……私に会いに来たとか?」

京太郎「まぁ、それもあるか……哩、ちょっとこいつ借りてくぞ」グイッ

哩「あ……う、うん」

姫子「もう、そがん引っ張らなくてもついてきますってば」

京太郎「そうか?」パッ

姫子「むぅ、どーして手ぇはなしちゃうんですか!」

京太郎「はいはい、いいからさっさと来いよ」



哩「……」ソワソワ


哩(二人はまだやろか)

哩(そもそも、二人でなんば話とーと?)

哩(まさか……姫子と)


姫子『もうっ、先輩がっつきすぎですってばぁ♪』

京太郎『うるせぇな、黙って抱かれてろよ』

姫子『あぁん、先輩のケダモノぉ♪』


哩「……」モンモン


京太郎「またボーッとしてんのか」

哩「うひゃあっ」

京太郎「おわっ」

哩「な、なんね?」

京太郎「なんね、じゃねーよ。びっくりしただろうがっ」

哩「ごめん……姫子は?」

京太郎「あー……帰るって言ってたな」

哩「そう……ん? そん傷、どがんしたと?」

京太郎「いや、まぁ……さっきちょっと引っ掻かれてな」

哩「まさか姫子に?」

京太郎「まぁな……ま、このぐらいはしかたないよな」

哩「……」


哩(そっか、姫子と話って……)

哩(そいで、次は私ん番……)グッ


京太郎「さて、暗い話はここまでにするか」

哩「か、覚悟はできとっけん」

京太郎「そうか? なら場所移すか。もうちょっと人目につかないとこにさ」



京太郎「それでさ、この前話したことなんだけど」

哩「……」ギュッ

京太郎「こら、なに防御体勢取ってんだ」

哩「だ、大丈夫やけん……いつでも来っとよかよ」

京太郎「……とりあえず腕は下げる」グイッ

哩「あっ」

京太郎「顔を上げる」クイッ

哩「ちょっ」

京太郎「目は……閉じたままでもいいか」ギュッ

哩「えっ――んむっ」


哩(また、キス……?)


京太郎「それで、この前聞いたことの答え、わかったか?」

哩「……い、いっちょんわからん」

京太郎「……そうか、なら――」

哩「んんっ――」


京太郎「どうだ?」

哩「ま、まだ……」

京太郎「しかたないな……」

哩「んっ――」


京太郎「さすがにわかっただろ」

哩「ううん……」トロン

京太郎「……お前わざとだろ」

哩「そがんこつ、なかよ……?」

京太郎「なら、わかるまでするしかないな」

哩「うん……じっくり、たっぷり」

京太郎「言われなくてもしてやるさ」

哩「京太郎……んんっ――」




『エンディング――君が満足するまで』
最終更新:2018年01月01日 12:01