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    <title>s053</title>
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    <description>
      彼女は彼にチョコレートをあげるのだろうか…… 
今日は2月14日、バレンタインデー。世間では女の子が想い人に気持ちを伝える絶好の機会だ。 
お菓子メーカーの陰謀という人もいるが、そんなのは知ったことじゃない。 
自分の気持ちを伝える為なら、そんな陰謀など利用してやろう。女の子はたくましいのだ。 
「佐々木さん、佐々木さん。佐々木さんはキョンさんにチョコをあげないんですか？」 
「ああ、橘さん。いや、恥ずかしい話だが、迷っているんだ。」 
目を伏せて喋る彼女からは、いつもの余裕のようなものが感じられなかった。 
「……告白……するんですか？」 
彼女は何も答えなかったが、その沈黙が言外に私の問いを肯定していた。 
「……佐々木さんなら……きっと、大丈夫なのです。」 
「でも、僕のよな男女が告白したところで、気持ち悪がられるだけのような気がしてね……怖いんだ。」 
「佐々木さんは十分可愛いです！」 
私は意図せずに叫んでいた。 
「何で自分に自身を持ってあげないんですか！そんなの、佐々木さん自身が可哀想じゃないですか！」 
彼女が驚いたように私を見つめるが、私の言葉は止まらない。 
「貴女が好きなキョンさんは、貴女のことをそんな風には思ったりしません！それはキョンさんへの侮辱です！何より、そんな人を好きになってしまった貴女自身への冒涜に他なりません！」 
私は頭に血が上るのをはっきりと感じたが、自分の口を付いて出る言葉を止めることが出来なかった。 
「橘さん…………」 
落ち着きを取り戻すと、笑顔で彼女の背中を押そうと言葉を紡ぐ。 
「もし――そんなことは絶対にあり得ませんが――万が一にでも駄目だったときには、私が一緒に食べてあげます。いいえ、食べさせてください。佐々木さんの作ったチョコが美味しくないはずないのです。」 
「…………ありがとう、橘さん。」 
「……こういうのは、決心が鈍らないうちに、すぐ行動に移すものです。」 
「……うん。」 
少し逡巡するような仕草を見せたが、彼女はもう一度ありがとうと言い残すと、彼の下へと行ってしまった。 
頭のいい彼女のことだ、私の気持ちなんてとっくにお見通しなんだろう。 
「あーあ、無駄になっちゃったなぁ……」 
彼女が去ったあと、後ろ手に回していた紙袋を弄びながら一人呟いていると、急に後ろから声をかけられた。 
「―――それは―――なに……？」 
「うひゃぅ！？くっくく、九曜さん！？い、一体いつからそこにいたんですか？」 
「―――ずっと―――いた……」 
「そ、そうですか……」 
「―――それは―――なに……？」 
「これですか？これはチョコレートですよ。」 
「―――ちょこ―――れいと……？」 
「よかったら食べますか？」 
「―――いい―――の……？」 
「構いませんよ。もう必要なくなってしまったみたいですし……丁度、一人で食べるにはちょっと多いと思ってたところです。」 
包装を全て剥がしてから、彼女に一口サイズのチョコレートを渡してあげる。 
包みのまま渡したら、そのまま食べてしまいそうな気がしたからというのは内緒だ。 

「――――――……。」 
彼女は暫らく手のひらに乗せてチョコを眺めていたが、ゆっくりと口の中に放り込んだ。 
「―――美味しい……」 
「お口に合いましたか？」 
「―――意外と……」 
「…………。九曜さん、一言余計なのです。」 
「よう、橘に九曜。お前ら、こんなとこで何やってんだ？」 
振り返ると、佐々木さんが彼を連れて戻ってくるところだった。 
彼のコートのポケットからは佐々木さんのチョコが覗いていたのには後から気が付いたが、そんなものは見なくとも彼女の幸せそうな表情から、私は結果が分かってしまった。 
もっとも、結果が違っていたところで、私の想いが叶うはずもなかったろうが。 
そう、これは負け戦。最初から勝負など決まっていた。今更どうこう言っても仕方がないのに…… 
「美味しそうだね。」 
彼女が私のチョコを見てそう言った。 
「本当だな。一つ貰ってもいいか？」 
「ええ、どうぞ。」 
私はそう答えるのが精一杯だった。 
「悪いな。」 
彼がチョコを口にすると、途端に目を見張る。 
「ほぉ、こりゃ美味いな。」 
それはそうだ。だって、とっても頑張ったんだもの。そこら辺の女子高生が作るものと一緒にして欲しくない。 
込めた想いだって負けてはいない自身があった。 
「ほら、佐々木。お前も食えよ。」 
彼は私のチョコを一つ掴んで、彼女の口の中に放り込む。 
私は少しむっとしたが、頬を染める彼女を見ると、何かを言う気が失せてしまった。 
「本当だ、美味しいね。」 
そう言って微笑んだ彼女は、この世のものと思えないくらい美しかった。 
まるで、女神のようだった。 
少なくとも、私にとってはそれそのものに見えた。 
今までずっと見ていたはずなのに、どうして私は彼女がこんな表情ができることに気が付かなかったのだろう…… 
いや、理由は分かっていた。彼のおかげなのだろう。彼が彼女をこんなに素敵にするのだ。 
彼女の笑顔のおかげで、先程まで恨めしく思っていた彼のことが少しだけ好きになった。 
どうやら私は、自分が思っていたよりも単純な人間ようだ。 
でも、私はそれで満足だった。 

彼女が幸せなら、それが私の幸せだ。     </description>
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    <title>短編</title>
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    <description>
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-[[へいさくうかん&gt;s002]](【涼宮ハルヒの憂鬱】橘京子たんを慰めるスレ/301-)
-[[コンビニにて&gt;s003]](【涼宮ハルヒの憂鬱】橘京子たんを慰めるスレ/323)
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-[[風邪&gt;s006]](【涼宮ハルヒの憂鬱】橘京子たんを慰めるスレ/442)
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-[[消失と創造&gt;s051]]
-[[たまごがゆ&gt;s052]]
-[[私が貴女にできること&gt;s053]]    </description>
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    <title>s052</title>
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    <description>
      　デートは中止という電話が掛かってきたのは約束の時間の、三十分前だった。 
「それは、また」 
　吐く息は白く。商店街の街並みは、昼間だというのにライトアップされ、普段とは違う一面を見せている。 
「唐突ですね。どうしたんですか？」 
「……声聞けばわかるだろ。風邪引いたんだよ」 
　ジングルベルの音がやかましい。携帯を耳に押し当て、声に少しだけ力を込める。 
「でも、キョンさんですからね。長門さんあたりを連れ込んでるという可能性を、否定しきれません」 
「そうだと言ったらどうする気だ？」 
「そうですねぇー」 
　まったく、と笑みが浮かぶ。風邪をひいていても、意地悪な所は変わらない。 
「泣きます」 
「……冗談だ。手ごわくなってきたな、お前」 
「それはもう。いつもいつも愛のあるイジメをしてくれる素敵な彼氏がいますから」 
　携帯の奥で、言葉に詰まる彼の姿が目に浮かぶ。こういう直接的な言い方に弱いのだ、彼は。 
「……あのな、橘。いや、彼氏である事は否定しないし、いやむしろ嬉しいくらいなんだが、いきなり」 
「とりあえず、そっち行きますね。大人しく布団で寝ていてください」 
　有無を言わさず電話を切った。 
　過剰なまでのデコレーション。喧しいくらいのクリスマスの音。 
　となりに誰かさんでもいれば、素敵なイリュージョンと心躍る音楽へと変わったのだろうけれど。 
「でも、しょうがないですね」 
　少しだけ残念そうに息をついて、デートのスタート地点に別れを告げた。 
　こんなのだからこそ、私たちらしいといえるのだろう。 
　財布を確認し、銀行前に止めてあった自転車を引っ張り出す。スーパーまで走って五分。 
　気分晴らしに鼻歌でも歌いながら、たまご粥を作る歌を歌いながら、唐突に閃いた。 
　腕時計の針は十時を指している。ちょっと早い昼食になるが、たまご粥でも作ってあげよう、と橘は思った。 
　商店街を、風を切って駆け抜けていく。 
　クリスマスという幻想を振り切り、ただの十二月の二十四日として、今日という日を迎え撃つ。 
　 

　キョンの住むマンションは、駅前にあって大きくて綺麗で、家賃も高い。 
　もちろん、一人暮らしをするには贅沢すぎる部屋であり、一般的な両親を持つ大学生が住むにはちょっと無理な家賃である。 
　では、どうして彼はそこに住んでいるのか。 
　そのカラクリは隣に住む長門有希さんとその反対側に住む朝倉涼子さん、の謎の叔父さんの支援による。 
　どこをどう吹っ飛べばそうなるのか理解できないが、高校を卒業すると同時にマンションを買い上げ格安で提供したのだ。 
　始めのうちこそ断った彼であったが、長門有希と朝倉涼子の誠意ある説得により首を縦に振ったそうだ。 
　そうした訳で、彼の部屋はSOS団の支部として十二分に活用され、佐々木団（キョン命名）の支部と化している。 
　と、そこまで考えて溜息。 
　敵は強大である。 

　駐輪場に自転車を止めて、カゴから袋を取り出す。念のため、卵が割れてないか確認。 
　問題なし。 
　角の店で買ったガトーショコラを落とさないように気をつけつつ、マンションに入る。 
　暗証番号は暗記している。何せ、自分の誕生日だ。 
　ちょっとだけ優越感に浸りつつ、ピピピピ、とボタンを押してドアを開けた。エレベーターに乗り七階を押す。 
　707号室が彼の部屋だ。サブマリンかよ、という彼の謎の突っ込みは誰にも理解されず、闇へと消えた。 
　エレベーターを降りて、部屋へと向かう。 
　呼び鈴を押してみる。 
　反応なし。 
　念のため、もう一度押してみる。反応がない。寝ているのかしら？ 
　ポケットから合鍵を取り出して、ロックを解除。 
　と、がらんとした廊下の先、寝室のドアが開いていた。 
「……あー、橘か？」 
「お邪魔します。起きてましたか」 
　ケーキの箱をテーブルの上に置いて、袋から卵とネギを取り出す。 
「ほらほら、病人は寝てて下さい。ひどい顔ですよ」 
　寝巻きのまま、彼が起きてくる。髪はボサボサで、辛そうに息をしている。 
「いや、何する気だ？」 
「れすきゅー、です。とりあえずお昼ごはんでもと思いまして。お米、炊いてありますよね？」 
「ああ、あるけど。正直、あんまり食欲無いんだが」 
　キッチンに常備してある自前のエプロンを取り出す。 
　三角巾をキュっと締めて、振り返り、笑う。 
「たまごがゆ、お嫌いですか？」 

　たまごがゆのつくりかた。 

　一　炊いてあるご飯に水を入れ、コトコトと弱火で煮込みます。 
　二　鼻歌でも唄いながら、ネギを細かく切りましょう。 
　三　ネギと一緒に溶き卵を加えて、 

　……大事な事を忘れていた。 

「お塩がいいですかー？　お味噌がいいですかー？」 
　寝室の奥から任せるー、の声。ならばと思い、味噌を入れる。 
　薄味が彼の好みだ。 

　四　よく煮込んだら、お皿にとってあげましょう。 

　愛情たっぷりの、たまごがゆの出来上がりー 

「出来ました」 
「ああ。悪いな」 
「ふふん、自信作ですよー」 
「いや、たまごがゆってそんなに難しいもんじゃないだろ？」 
「まだまだですねー。簡単な料理ほど腕を振るいがいがあるってものです」 
　そういうもんなのか、という言葉に、そういうもんですよ、と返す。 
「……まあいいか。頂きます」 
「はい、どうぞ。熱いですから気をつけて下さいね」 

　外はクリスマス一色で。 
　みんな、それぞれのクリスマスを楽しんでいるのだろう。 
　けれど、それを羨ましいとは思わない。 
　何故ならば、キョンが美味しそうに、自分の作ったたまごがゆを食べているからだ。 
　頬笑みが隠しきれない。湧き上がってくる嬉しいという感情が、どうしても止められない。 
　だって、たまごがゆを、あんなに美味しそうに食べているのだから。 
「おい、そうニヤニヤしながら見られると食べづらいんだが」 
「あ、お気になさらず。今、もの凄い幸せ感じてますから」 
「答えになっとらん」 

　ジングルベルの鈴が鳴る。 
　今日はクリスマス。雰囲気に浮かれ、デコレーションに酔う日。 
　そんなお祭りに参加できないのは残念だったけれど。 
　でも、と橘は思う。 
　雰囲気も、ロマンも、鈴の音もない。 
　この部屋にはクリスマスの破片すらない。 
　けれど。 
　そんな十二月の二十四日もあっていい、と橘は思うのだ。 
　だって、今。 
　とても幸せなのだから。 

「キョンさんキョンさん」 
「ん？」 
「メリー、クリスマス」 
　幸せそうに、橘京子は笑った。 



「で、そのケーキはなんだ？」 
「あ、これですか。これは私が食べたかっただけです」 
「…………」     </description>
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    <title>s051</title>
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    <description>
      クリスマスまであと少しとなると、教室の雰囲気も多少変わる。 
落ち着かない様子の人も居れば、何が楽しみなのか浮かれている人も居る。 
「佐々木さん、今年のクリスマスイブはどうするのですか？」 
お昼休み、机を挟んだ向かい側から橘さんが、お弁当をつつきながら聞いてきた。 
ちなみに彼女は先ほどの例で言えば、どちらかというと後者だろう。 

そして私はどちらでもない、[[その他]]になる。 
「どうって、普通に家に帰って家族とケーキ食べるわよ」 
「えぇー？ そんな事言って、本当はいい人とデートの予定だったりしないんですか？」 
「生憎、そんな相手はいないもの」 
「そんな、勿体無い」 
「勿体無いって、私は特に気にならないけど」 
橘さんが不服そうに言い返す。 
「違いますよ」 
「違うって？」 
「逆です。佐々木さんを放置するなんて世間の男はなんて勿体無い事をしちゃうんでしょうか」 

時々思うのだけど、どうして橘さんは私をこうも持ち上げるのだろう。 
話し方にしても、同級生なのに敬語まで混ざったりする。 
結構付き合いだって長いのに、何故なんだろう。 
前に、その辺を聞いた事があるけれど、彼女にもそれほど明確な理由はないらしい。 
何となく、そうなってしまうのだそうだ。 

それはともかく、さすがにそれは言いすぎだと思ったけど、幸い周囲に今の発言を聞きとがめた人は居ないようだ。 
私は苦笑しながら首を振る。 
「それはさすがに過大評価が過ぎるわよ」 
「過ぎてませんよ。んんもう、あたしが男なら絶対、ほっとかないのになー」 
「毎年そうしてるんだから、別に･･･」 

不自然に言葉を切った私に、橘さんが怪訝そうに聞く。 
「どうしたんですか？」 
「え、ああ、だから別に今年もいつも通りって事」 
「･･･あの、佐々木さん、その家族でケーキ食べるのって、時間厳守なんですか？」 
「特にそういう訳ではないけど？ 行事という程でもないし」 
「あのですね！」 
橘さんが身を乗り出してくる。 
「なに？」 
「他にクリスマスの予定がないなら、せっかくだからいいもの見に行きませんか？」 

こうして彼女に、やや強引に押し切られる形で、私はクリスマスの約束を取り付けられた。 
行き先は、少し遠くの町で、数年前に作り直された光るイルミネーション。 
そこがクリスマスの日限定で、イベントをするのだそうだ。 
存在は知っていた。去年は新聞のニュースでも見た。 
かなり派手だったし、賑わったらしい。 

確かに、せっかくのクリスマスなのだし、そういう綺麗なものを鑑賞するのは悪くない。 
行き帰りの所要時間から計算しても、女子高校生が帰宅するのに非常識な時刻にならずに済む。 
特に理由もなく女一人で行く気にならなかったけど、二人なら多少はましだろう。 
本当はカップルで行くべき場所という気もするけれど。 

午後の授業が始まる。 
何だか上機嫌の橘さんを見ながら、私はさっき言葉に詰まった原因を思い出す。 
毎年そうしてると言ったけど、厳密には違った。 
去年のクリスマスも、やはり家に帰るのが遅く、ケーキは後から食べた。 

あの頃の私には、とても仲の良い異性の友達がいた。 
彼が去年のクリスマスの夕方、私を誘い２人で街を歩き回った。 
と言っても彼の目的は、クリスマス限定商品が時間切れで投売りされるのを狙っただけなのだけど。 
実に色気のない事おびただしい話だ。 
でも彼には私を誘う必然性はないのに、ごく自然に声をかけてきた。 
一緒に行くのが当然、という風に。 
私も疑問すら感じずに同意し、妙にわくわくしながら街に向かった。 

一昔前ならともかく、今は売り手側もあまり無計画な事はしない。 
だから収穫はちゃちなものだった。 
安っぽい限定商品とか、賞味期限の短そうなお菓子がいくつか買えただけ。 
それでも、宝探しの探検の様なそれは楽しかった。 

クリスマスの時だけではない。 
彼と共に居た中学最後の一年は、とても楽しい日だった。 
その最中には、そこまでとは思わなかったけど、別々の学校に行ってしまった今になって、痛感する。 
彼は今、どうしているのだろう。 
時折、無性に会いたくなるけども、何でもないのにわざわざ押しかけて行くだけの踏ん切りがつかない。 
行きたいのだけど、私が女で彼が男という事実がブレーキになってしまう。 
そこに色々な意味が勝手に付いてくるからだ。当人同士にも、周囲からも。 

学校が終わり、私は橘さんと共に下校する。 
彼女は例のイルミネーションの見所を、色々と解説してくれる。 
その詳しさは、どうやら前にも見に行った事がありそうなのだけど、あえてこちらからはそれを聞かない。 
聞いて欲しくない話なのかもしれないから。そうでないなら、そのうち話してくれるだろう。 
しかし、橘さんの解説どおりのイベントだとすると、思ったより帰宅が遅くなりそうだ。 
さすがに泊り込みにはならないだろうけど。 
ひょっとすると男女で見に行った人は、そのままどこかに泊り込むのかもしれない。 

駅の構内で、私は彼女と別れる。 
「それじゃ」 
「クリスマス、楽しみですねー。それじゃ、また明日」 
嬉しそうに微笑みながら、橘さんは多少オーバーアクションで手を振り、自分の乗る路線があるホームへ歩いていった。 
まだ４日もあるのに、今からこんなにはしゃぐなんて、気が早いことだ。 
とか言いながらも、実は私も結構楽しみにし始めていた。 
イルミネーションだけではない。橘さんとは仲のいい友達なのだ。 
友達とどこかに行く事自体が、楽しみなのは当たり前だろう。 

朝。 
いつもと同じ、けだるい目覚め。 
でもいつもと違う、何か良く判らない違和感がある。 
何か、楽しい事があったような。 
日付的には、クリスマスが迫っている。その関係だろうか。 
でも、思い出せない。思い当たる事がない。 
漠然と考えているうちに、違和感は消えていった。 

私はいつもと同じ様に支度を済ませ、義務を果たすように学校に向かう。 
自分を奮わせて授業に集中し、やがて放課後。 
どこのクラブにも入っていないから、そのまま下校する。 
帰宅の途中、数日ぶりに彼女は居た。私を見つけ、こちらにやってくる。 
「佐々木さん、こんにちは」 

挨拶をしてくる相手に無言を貫けるほど、私は意地悪くはなれない。 
「こんにちは」 
「それで…」 
「また同じ話なら、私の答えも同じよ。興味はない」 
「え…はい。でも…本当なんですよ？」 
「別に、嘘を言っているなんて思ってないわ」 
「それでは、信じてくれるんですか？」 
「それも違うの。真偽は問題にしてない。話が突拍子もなさ過ぎて、私には扱いきれないのよ」 

神だの能力だの世界の真実だのという話題は、ただの読み物としてならいいだろう。 
でも個人に降りかかってくる話としては、途方もなさ過ぎる。 
「それじゃ、ね」 
何を言えばいいのか悩んでいる様子の彼女を置いて、私は再び歩き始めた。 
もちろん、この程度であきらめる相手ではないだろうけど。 
ふう、と溜息が漏れた。 
足が重い。まあ、これは彼女のせいばかりではない。 

「佐々木さん」 
背後から急いで追いついてくる気配と共に、彼女がまた呼びかけてきた。 
振り返りもせずに答える。 
「なに？」 
「あの、あのですね。クリスマス、何か予定入れてますか？」 
「別にないわ。それが何か？」 
思わずむっとしたせいか、少し言葉が刺々しくなってしまった。 

「でしたらクリスマスに、ちょっといいもの見に行きませんか？」 
「いいもの？」 

首を傾げる私に、彼女は少し遠くの町で、クリスマス限定のイベントをする光るイルミネーションの話をした。 
そういうのがあることは知っている。去年は新聞のニュースで見た。 
とっても綺麗らしいけど、だからって理由もなく一人で見に行くほどではない。 
そんな事を考える私に、彼女はそのイルミネーションの見所を、顔を輝かせて解説してくれる。 
どうやら前にも見に行った事がある様子だ。 
判る気はする。新聞の写真でも結構派手だったから、現場で見ればさぞ壮観だったのだろう。 

説明をしていた彼女は、ふと気が付いたように付け足す。 
「あ、念のために言いますけど、これは今までお願いしていた事とは一切関係ありません。純粋にあたし個人からの提案です」 
「まあ、それが綺麗なのは判ったけど、なんでそれを私に…」 
「佐々木さんが元気なさそうだったからです。たまにはこんな賑やかな物を見に行くの、いいと思いますよ？」 

余計なお世話。却って疲れそう。 
喉まで出かかった反論が、何故か言えなくなった。 
まあ確かに、彼女の言う通りでもある。気晴らしした方がいいのは自分でも判ってる。 
でも他人から言われたくはない。 
そのはずなのに。 
どうしてだか、私はその提案を嬉しく思ったのだ。 
軽く眩暈がする。何かを思い出しそうだけど、思い出せない。 

「…佐々木さん？」 
黙り込んでしまった私に、橘さんが少し不安そうに話しかける。 
それで我にかえった。 
不思議な事に、先ほどまでの苛立ちが収まっている。 

私は軽く微笑みながら、そして自分が微笑んでいる事に少し驚きながら、言った。 
「そうね。たまにはそういうのもいいかな」 
「…あ、ええ、そうですよ！」 
「だけど、言いだした側の責任ってあるわよね？」 
「はい？」 
「エスコートくらいはお願いできるかな？ 橘さん」 
「え……あ、はい！ 喜んで！」 
目の前の橘さんの笑顔。 
それが、誰かと被る。 
誰だろう。 
私に、彼女と似ている知り合いなどいただろうか。いないはずなのだけど。 
なのになぜ、懐かしく思ってしまったのだろう。 
まるで、親友と再会したみたいに。 

＜終＞     </description>
    <dc:date>2017-03-13T02:18:31+09:00</dc:date>
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    <title>s050</title>
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    <description>
      　季節は梅雨である。梅雨といえばじめじめとしてアンニュイな気持ちになりやすそうなものだが、 
意外にもハルヒはいつも通りのハイテンションで、春先の佐々木をめぐる騒動以来、古泉のアルバ 
イトもトンと減っているようである。そんなこんなで、世界の平穏を気にすることもなく、いつも 
どおりハルヒにつれまわされて体力と財布の重量だけが減っていくなか、束の間の平穏を謳歌して 
いた日曜日のことである。ちょっとした事件が起こった。 

　いつものように部屋でごろごろと漫画を読んでいた俺に、妹が猪のごとく突撃してきた。 
「ねぇ、ねぇ、キョンくん。明日学校でね。そうごうがくしゅうっていうので外国の人と日本の文 
化の勉強をするの。」 
学習指導要綱が代わったことにより総合的な学習が強化されたらしいが、外国人と触れ合うとはほ 
んのちょっと前じゃ考えられなかったことである。あの頃は、出島などの一部を除いて外国人がい 
るところなどは存在しなかった。 
「そうか。楽しんでこいよ。」 
俺は大いなる平穏を維持するためにも受け流すことにした。うむ、ナイスな判断だ、俺。 
「うんっ。それでね。みんな一人一人が日本っぽいものを持っていって紹介するんだって。だから 
ね。あたし剣玉にしたのっ。」 
「ほう、そうかそうか。それは何よりだ。しかし、家に剣玉なんてあったか。」 
「ないよ。だからキョンくん買ってき」 
「断る。」 
妹が言い終わる前に返事をした。何が悲しくてせっかくの休日に剣玉を買いに行かなければならな 
いのだろうか。日本っぽいものなら、俺が十秒ほどで水墨画を描いてやるからそれをもって行きな 
さい。俺の水墨画は凄いぞ。 
観念的過ぎて本人にも何が書いてあるんだか分からないんだからな。 
「えー、それじゃあダメだよう。さっきテレビで剣玉やってたんだもん。」 
つまり、テレビでやってた剣玉に感化されてやりたくなったわけだな。これはいよいよもって、行 
く必要がなくなってきたぞ。 
「それにね。お母さんからもうお金貰ってきたの。キョンくんにもお駄賃でこのきれいなお札を」 
「行かせて貰おう。」 
俺は再度、台詞の途中で割り込んだ。妹の手には剣玉代と見られる野口秀夫さんと、俺へのお駄賃 
と見られる源氏物語の絵巻物が握られていた。 
　その後、任務を果たすべく駅前まで出張ってきた俺であったが、すぐに窮地に立たされる事にな 
った。剣玉が売ってないのである。むぅ、どうすべきか。このまま帰ったのでは紫式部さんは返却 
されてしまうだろうし、かといって電車に乗って都会まで出たのでは、俺の取り分が減ってしまう。 
そもそも剣玉なんてどこに売ってるんだ。やはり、おもちゃ売り場しかないだろうか。んー、んっ、 
待てよ。大きめの１００円ショップになら売ってるんじゃないのか。あそこなら値段も１００円で 
電車賃を考慮に入れても足が出ることはない。うむ、決定だ。膳は急げとばかりに、俺は電車に揺 
られホームタウンを後にした。これがトラブルのもとになるとも知らずにな。 

大都会に着いた後はとんとん拍子に話が進んだ。１００円ショップも剣玉もすぐに見つかり、店 
員さんのさわやかな笑顔にも癒されながら、晴れやかな気持ちでお店を後にした。ルンルン気分で、 
柄にもなく口笛でも吹いてやろうかと思いつつ歩いていると、突然、雨が降ってきた。サムデイイ 
ンザレインなんてものではなく、サムデイインザスコールだ。突如として振り出した大雨は、あた 
ふたとしている俺の服をあっという間にびしょびしょにし、普段のさえない俺を水も滴るいい男へ 
と変身させてしまった。って冗談を言っている場合ではない。早いとこ雨宿りできる場所を見つけ 
なくては。あたりを見回すとどこの店もびしょびしょのまま入れるような雰囲気ではなく、雨宿り 
は出来そうにない。ええい、どこかないのか。俺は走りながらも懸命にあたりを捜索した。普段の 
不思議探索でも、このくらい真剣に行えば何か見つかっていたかもしれない。何せこっちにはハル 
ヒがいるんだからな。俺の弛まぬ努力の結果、一箇所だけ雨宿りが出来そうな場所を見つけた。そ 
の店は歩道の方向にも屋根がせり出しており、雨の大部分はしのげることだろう。はやる気持ちを 
押さえつつ、ダッシュでその店まで行き、びしょ濡れの髪を掻き揚げてショーウィンドウを覗いた。 
ランジェリーショップだった。幸いにして店内に客はいないようだが、店員さんの目線が痛い。い 
や、向こうも事情はわかっているといった様子だが、そのためかやや笑みをこぼしており猛烈に恥 
ずかしい。思春期のうぶな男子生徒には拷問のような仕打ちだ。もしもこの姿を知り合いに見られ 
ようものなら生き地獄だ。やれやれ、泣きっ面に蜂とはこのことだな。 

１５分ほどその場で雨宿りしていたが、一向に雨脚が弱くなりそうな気配はない。さて、どうし 
ようか、と思いをめぐらせていると、 
「あれっ、こんなところで何してるんですか。」 
とできれば二度と聞きたくない声が聞こえてきた。地獄に仏という言葉はあるが、地獄にはやはり 
鬼しかいないようだな。俺はそう言うと顔をもたげて、そいつ、橘京子を見据えた。白いブラウス 
にオレンジのワンピースを着て、三度目にあったときも持っていたフェンディーの傘を掲げていた。 
橘は、思わず笑い返してしまいそうになる楽しげな笑みを浮かべ、こちらへと近づいてきた。 
「ふふっ、そんなこと言ってると、本当に鬼にしか会えなくなってしないますよ。…それにしても 
どうしたんですか。こんなところにお一人で。高校生の女の子に下着をプレゼントするのはあんま 
りベターな選択とはいえませんよ。」 
くそっ、誰がそんなことするか。かくかくしかじかで雨に降られちまっただけだ。まぁ、お前には 
関係ないがな。 
「もう、またっ。見ればわかりますよ。ちょっと冗談を言っただけじゃないですか。それで、どう 
するんですか。そんな格好のままじゃ電車にだって乗れませんし、風邪を引いてしまいますよ。」 
お前に言われなくてもわかってるさ。だからこそこうして途方にくれていたわけだ。 
「なるほど、ランジェリーショップに駆け込みたくなるほど途方に暮れていたのですね。」 
くっ、しつこいぞお前。朝比奈さんのこともこないだのことも絶対に許してやらないからな。 
「あっ、そうだ。」 
俺の悪態にも涼しい顔をしていた橘は、今まさに思いついた、というような声を上げると、右手の 
人差し指をあごに当て、やさしげな笑みを浮かべた。そして、ややあってこう言い放った。 
「あたしの家に来ませんか。このすぐ近くなのです。」 
さて、どうするべきか。 

　二十分後、俺はとある大手ファッションセンターの前で一人たたずんでいた。人が出入りするた 
びに店内から店のオリジナルの歌が流れてくる。軽快かつ単純なそのリズムは、俺の脳細胞の中に 
もすっかりと刻まれてしまった。だがそれも仕方のないことだろう。なんせ十分もここに立ったま 
まなのだから。 
　橘のやつが、『家に帰る前に一箇所だけ寄って行きたいところがあるんですが、いいですか。す 
ぐ済みますから。』と言って、やってきたのがここである。女の感覚からすれば十分というのは大 
変短い時間になるのだろうが、いつも買いたいものだけを買ってすぐに帰る俺にとっては、ずいぶ 
んと長い時間である。無論、これから世話になる人間に対して文句を言う権限などあろうはずもな 
いが、相手はあの橘だ。なんとなく、その行動すべてに難癖をつけてしまうのである。それにして 
も、ここで買える服は、現代の女子高校生が利用する衣服としてはいささかミスマッチではないだ 
ろうか。ハイブランドの服で全身をそろえろという気はないが、もう少しハイカラな店をチョイス 
して欲しいものである。あと付け加えておくが、俺は決してこの店を批判しているわけではないか 
らな。この不況の中、低価格を堅持しているその姿勢には感動すら覚えているくらいだ。むっ、そ 
うか。橘のやつ貧乏なのか。神的な能力をハルヒが所持している以上、あっちの組織は機関ほど裕 
福ではないはずだ。いや、しかし、朝比奈さんを＠誘拐したときはワゴン車を一台丸々放棄してい 
たな。ふむ、やはり橘のセンスに問題があるだけか。などと取り留めのない思考によって雨や風に 
因る体温の低下を紛らわしていると、やっとこさツインテールが自動ドアを潜り抜けてこちらへ走 
ってきた。 
「お待たせしてしまってごめんなさい。こんな天気なのに、会計が込んでいたの。」 
橘は軽く頭を下げると、左手にぶら下げた荷物を俺に突き出してきた。ちょっと待て、なんでお前 
が買ったものまで俺が持たなきゃならんのだ。断固拒否させてもらう。 
「そんなんじゃ女の子に嫌われちゃいますよ。あっ、でも今モテモテでしたよね。あなたのそんな 
そっけない態度に惹かれてるのかしら。」 
大きなお世話だ。それに俺は全くもててなどいない。誘拐だけじゃなく、嫌味まで言えるようにな 
ったようだな。お前の家に行かざるをえないとはいえ、荷物持ちまでするつもりはないぞ。 
「今日のあなたはなんだか藤原さんみたいですね。文句ばっかり。ふふっ、そんな怖い顔しないで 
下さい。ほんとにあの人のことが嫌いなんですね。それと、今買ってきたのはあなたの服なのです。 
ビショ濡れの服を乾かす間に着る服がないと困るでしょう。あたしはメンズ服は持ってないですし…。」 
ぐっ、卑怯な。それを先に言っていれば俺とて何の文句もなく持っていたものを。 
「あたしが言おうとした矢先に、あなたが発言したんでしょう。面白かったのですぐには訂正しな 
かったですけど。じゃ、そろそろ行きましょうか。」 
橘は俺に荷物を預けると、当たり前のようにこちらへ身を寄せてきた。そもそも傘は一本しかった 
わけで、相合傘のようになるのは必然である。これが初めての相合傘なら相手が橘とはいえ多少狼 
狽気味にもなろうが、こちとらハルヒで一度経験済みだ。俺はうろたえることなく悠然と歩を進め 
た。橘の家へ向かう途中は取り立てて言及することもない。橘が大体しゃべっていて、俺がそれに 
相槌を打つという構図だ。たまに橘が俺の肩に頭を預けて、俺の反応をからかったりしていたが、 
どうということもない。俺は顔を赤くなどしてないしな。そこ、嘘じゃないからな。 
　一人で暮らしているという橘の家は、わりと新らしい高層マンションだった。入り口にはカード 
キーのロックだけでなく、リアル警備員まで常駐していた。いたるところに監視カメラも取り付け 
てあり、女の子の一人でもこれなら安心して暮らせそうである。橘の部屋はそのマンションの最上 
階に位置しており、エレベーターで５分以上も揺られてやっと到着した。まったく、景色はきれい 
なのかもしれんが利便性には疑問を持たざるを得んな。こつこつと前を歩く橘について行きながら 
そんなことを考えていた。そのうちに、橘が立ち止まった。 
「着きました。ここです。」 
そう言うと、鍵を空けて部屋のドアを開けた。 
「ふふふ、ようこそあたしの家へ。あっ、ちょっと玄関で待っててくださいね。今、タオルを持っ 
てきますから。」 
俺はとことこと部屋の中へ入っていく橘を見ながら、ドアを閉めた。玄関には今橘が脱いだ靴しか 
置いておらず、それ以外はちゃんと靴箱にしまってあるようだった。また、壁にはくまさんのポス 
ターが張っており、同じ一人暮らしでも、長門とは違い女の子を感じさせるインテリアで占められ 
ている。 
「お待たせしました。まずはこれで大体の雫を拭っちゃってください。」 
橘がこりゃまたくまさんの描かれたバスタオルをもって戻ってきた。全裸に赤いＴシャツのくまさ 
んだ。 
「おう、悪いな。」 
「そうしたらそこの扉がバスルームになってますので、先にシャワー浴びちゃってください。あと、 
濡れた服は乾燥機に入れておいてくれれば乾かしますから。」 
橘は今出てきたばかりの扉を指差しながらそういった。俺は体を拭くと、やっと少し落ち着けると 
思いながらバスルームへ向かった。バスルームには橘の下着が干してるなどといったお約束もなく、 
すぐに熱いお湯を浴びることが出来た。シャワーを浴びると先ほど買ったばかりの地味なスウェッ 
トの上下を着てバスルームを後にした。 
　廊下に出ると、食欲をそそる匂いが鼻腔をついてきた。 
「ん、なんか作ってるのか。」 
「あっ、お湯加減はどうでしたか。」 
かわいらしいフリルのついたイエローのエプロンを着た橘が、キッチンから顔を覗かせてきた。 
「おかげさまで生き返る思いだ。礼を言っておこう。それで、何を作ってるんだ。」 
「ビーフシチューです。あなたも昼ごはんはまだでしょう。服が乾くまで時間がかかりますし、食 
べて行きませんか。」 
確かにもう昼時だな。今日は休日ということで朝起きるのも遅く、朝ごはんを食べてないし腹が減 
ってきたな。 
「何から何まで悪いな。」 
「いえ、気にしないで下さい。あなたにはこれからもいろいろと迷惑をかけることもあるでしょう 
から。ギブアンドテイクなのです。」 
橘は腰に手を当てて誇らしげにそう言った。というかこれからまだ迷惑をかけるつもりなのかよ。 
出来れば勘弁してもらいたいもんだ。 

「それじゃあ、あたしもシャワーを浴びてきますね。鍋の火はこのままかけといてください。」 
そう言うと、エプロンをはずし着替えを持ってバスルームに入っていった。お約束のやり取りがあ 
ってもいいものだが、橘はお約束が嫌いなようで、そのまま鼻歌を歌いながら出て行ってしまった。 
しばらくするとシャワーの音が聞こえてきた。同世代の女の部屋に一人残されるというのはなんと 
も落ち着かないもので、あちらへ歩いてはすわり、歩いてはすわりと、おまわりさんが見ていたら 
職務質問されそうな装いだった。橘の部屋はホワイトを基調として、暖色系のオレンジやイエロー 
のマットや家具、それにすっかりおなじみのくまさんのグッズが並べられていた。また、棚の上に 
はにおいつきのアロマキャンドルが弱弱しい明かりをともしている。玄関でも述べたが、長門（部 
屋には何もない）や中学時代に訪れた佐々木の部屋（佐々木らしくスタイリッシュにまとめられて 
いた）とは違って、ザ・女の子といった部屋は、俺に一切の安らぎを与えることはなかった。しか 
しながら、徐々にではあるが落ち着いてきた俺は、背の低い机の前に身じろぎもせずに座っていた。 
「ふーいい湯だった。やっぱりシャワーは生きる活力を与えてくれるのです。」 
２０分後、橘がバスルームから出てきた。湯上りということもあって、いつもよりやわらかい印象 
を与える表情をしている。また、濡れた髪がわずらわしいからだろうが、自慢のツインテールを解 
いて、髪をシニヨンに結い上げていた。Ｔシャツにジャージという色気のない服装ではあるものの、 
そこから覗くうなじは、普段、幼い印象を与える橘を女性的に演出していた。ギャップとは恐ろし 
いものである。なるほど、あのツインテールはこういう効果もあるわけか。谷口あたりなら野獣と 
かしているところだろう。いや、あいつはいつでも野獣か。 
「あっ、シチューもそろそろ煮えたみたいですよ。」 
俺が風呂上りの橘に面食らってる間に、当の本人はキッチンへすいすいと入っていたようだ。 
「パンしかないんですけど、かまいませんか。」 
キッチンから橘の声が聞こえる。昼食にパンとは日本も国際化したものである。俺はどちらかとい 
えばお米のほうが好きだが、メインディッシュがビーフシチューならパンもなかなかいいものだ。 
「じゃあ、運ぶの手伝ってもらえますか。」 
「おう。」 
それから、しばらくは世間話をしながら橘の料理に舌鼓を打った。一人暮らししているだけあって 
こいつの料理がなかなか上手く、一瞬こいつのしてきた悪行―主に誘拐―を忘れてしまいそうにな 
るほどだった。 
　昼食を終えて一段落すると、橘がコーヒーとカステラを持ってきた。 
「食後はやっぱりコーヒーですよね。砂糖やミルクは入れますか。」 
「いや、俺はブラックでいい。」 
ゆらゆらと湯気を立てるコーヒーを口に含むと、強い苦味が広がった。しかしただ苦いだけでなく、 
その奥にはしっかりとこくがあった。意外にも橘もブラックのようであったが、カステラを片手に 
幸せそうにコーヒーを飲んでいた。ん、そういえばお前の両親はどうしてるんだ。組織のこととか 
知ってるのか。 
「いえ、二人とも機関については何も知りません。もちろん、佐々木さんや涼宮さんのことも知り 
ません。ごくごく普通の一般人なのです。今は仕事の関係でアンドラで暮らしています。」 
アンドラってどこにあるんだ。アフリカのどっかか。いや、あれはアンゴラだったか。ええい、や 
やこしい。まぁそれはともかく、よく一人暮らしが許されたな。俺の妹じゃ絶対許してもらえない 
だろうな。 


「ええ、それはもう、説得するのに苦労したのです。でも、あたしはしっかり者で、信頼も厚かっ 
たですから、いろいろと理由を言ったら許してくれました。一人暮らしは高校に入ってからですけ 
ど。両親には感謝しないといけないですね。そのおかげで、今、こうしてあなたの前にいられるの 
ですから。」 
俺にとっては残念な結果だがな。 
「もうっ。」 
橘はそういいながら手をパタパタとさせている。しかし、親御さんが何も知らないということは、 
こいつはずっと秘密にしながら活動していたわけだ。こいつといい古泉といい怪しいやつばっかり 
だな。それにしても、一人娘が母国で誘拐なんかしてると知ったら、お前の親も泣いてるんじゃな 
いか。 
「それは…、そうかも知れません。でも、あたしたちにとっては絶対に必要なことだったの。機会 
を設けてくれるなら、朝比奈さんにも是非謝りたいと思っているわ。」 
おう、是非ともそうすべきだね。出来れば会わせたくはないが、今日は借りもできたし、考えてお 
いてやろう。だがな、お前たちがなんと言おうが、あんな行為に意味などあるはずもない。 
「そうですね…。まだあなたの服が乾くのに時間がかかりますし、いい機会だから話しておこうと 
思います。」 
橘は、神妙にそう言うと語り始めた。 
「あの誘拐劇の意味を理解して頂くには、まず、あたしたちの置かれた状況を理解して頂かなくて 
はなりません。佐々木さんが神のような存在であるということや、あたしたちに力を与えた存在が 
佐々木さんであること。これらのことは事実です。少なくともあたしたちにとっては真実なのです。 
これは絶対に譲ることの出来ないことなの。また、佐々木さんが神のごとき力を持っていたほうが、 
世界が平穏である、ということにも、確信を持っています。事実、涼宮さんは、幾度となく今の世 
界を変容させようとしてきました。中学時代は特にひどかったのです。しかし、そんなあたしたち 
の思いとは裏腹に、改変能力は涼宮さんが所有し、宇宙人や未来人はあちらに近づいて行きました。 
あたしたちは不安になりました。」 
橘は、ここでいったん言葉を切ると、少し冷めたコーヒーをこくりと飲み込んだ。 
「あたしたちはその不安を解消するために、様々な意見を出し合いました。その中には、非常に危 
険な強硬手段、つまり、佐々木さんや涼宮さんを暗殺しよう、と言う者たちまでいました。二人が 
いなくなれば、世界の消失を心配する必要はなくなりますからね。殺した時点で、世界が消えてし 
まう危険性もありますが…。ただ、そういったリスクがなかったとしても、そのような手段に賛成 
することは出来ないのです。絶対に。ですが、それに対して強く反対し、そう主張する者たちが組 
織から出て行ってしまったら、もう彼らを止める事はできません。組織は彼らに対して何の拘束力 
も持たなくなるのですから。できることといえば、せいぜい佐々木さんたちの護衛を強めることく 
らい。だからあたしたちは、彼らを組織に留めつつも、そういった手段を今後、絶対に実行させな 
いようにする必要があったの。あっ、でも、これで組織のことを軽蔑しないでほしいの。だって、 
同じような火種は、機関も未来人も宇宙人も抱えているんだから。宇宙人に関しては、あなた自身、 
身をもって体験したんじゃなかったかしら。」 

確かに、ハルヒなんていう子供に言いように振り回されて、機関の仕事に嫌気がさしているやつは 
いるだろうな。宇宙人にだって俺は一度殺されかけたし、機関に対しても、未来の勢力に対しても 
きな臭さは感じているさ。だがな。朝倉の襲撃以来、どの勢力も強硬な手段には出てきてないし、 
それどころかいろいろと世話になってる。結局のところ、あいつらの勢力はそういう爆弾をきっち 
り抑えることに成功していて、お前らのところは暴発させちまったってことだろ。おまえがどんな 
人間であれ、そんなやつらを信じることなど絶対に出来ないな。 
「早合点しないで、あれは抑え切れなかった訳ではないの。ガス抜きのようなものなの。あたした 
ちは今言ったような状況にあって、ずっと耐えてきたわ。そんな中、やっと転機が訪れたの。」 
藤原と九曜か。 
「ええ、その通りよ。彼らの出現で、あたしたちはにわかに活気づいたわ。これでやっとスタート 
ラインにたてた、ってね。そのおかげで、これまであった強硬論は一切消えうせたわ。むしろ、今 
までそういっていた人たちほど深く思いつめていたから、今までの陰鬱とした議論が嘘のように喜 
んでいたわ。でもね。だからこそ、未来からの甘言に簡単に乗せられてしまったの。それでも、彼 
らを諭すことは出来たと思うわ。だって３年間も抑えてきたんですもの。だけど、そうして抑えた 
後で、あたしたちの行った方法が失敗したらどうなるかしら。一度、光を見てしまっただけに、彼 
らはきっとひどく落ち込むと思うわ。それこそ強硬な手段も辞さないほどに。そしてそうなったら、 
あたしたちは彼らを止める事はできないわ。なぜなら、彼らの主張を遮ってまでやった方法が失敗 
しているから、あたしたちに対する信頼が失われてしまうでしょ。もちろん、これはあくまで想像 
よ。でも、そうなる可能性が少しでもあるなら、それを排除しておきたかったの。」 
つまり、そいつらの主張を一度採用することにより、今後、そいつらが暴走するのを防いだってこ 
とか。 
「ええ、それにあの誘拐劇が失敗するだろうってことはわかっていたから。失敗すれば彼らも、あ 
たしたちの失敗にも寛容にもなるし、一石二鳥だったのです。ただ、これはあくまであたしたちの 
都合だし、朝比奈さんには恐ろしい目にあわせてしまって申し訳ないと思っているわ。」 
橘はそう言うと、視線を落とし頭を深く下げた。まあ、なんていうか。今の話が本当だとするなら、 
さっき言ったとおり朝比奈さんに合わせてやらんでもない。実際、古泉の話によるとお前は反対派 
だったらしいし、俺がお前の立場だったら同じことをしたかもしれんしな。 
「ふふふ、ありがとう。朝比奈さんに会えるのを楽しみにしているわ。」 
橘は少し安堵したように笑顔を浮かべた。うむ、精々、謝罪の言葉でも考えていなさい。だがな、 
これはあくまで誘拐のことについてだけで、ハルヒの力を移すとかは待ったくべつだからな。 
「ええ、わかっているわ。だから、それに関しては別の手段を考えてるの。」 
『それはどんな？』と橘に声をかけようとすると、突然、不意に、猛烈な眠気が襲ってきた。体が 
がくりと傾き、腕がテーブルの上を払う、もうコーヒーの入っていないカップが静かに絨毯に落ち 
る。しかし、それでもカップは割れることはなかった。状況が全くつかめないまま、頭をもたげ橘 
を見据えると、親しみを感じさせる笑顔は消えうせ、橘京子個人から機関の橘京子の表情に変わっ 
ていた。 
「やっと、睡眠薬が効いてきたみたいね。今飲んでいたコーヒーに入れておいたの。このあと、藤 
原さんと九曜さんに協力してもらって、あなたと佐々木さんを監禁させて頂くわ。あなたが何日も 
佐々木さんと一緒に行方不明になったら、涼宮さんはどう思うかしら。ふふふ、世界が崩壊してし 
まうかもしれないわね。どうすればくい止められるかしら。」 
くそっ、一瞬でもこいつを信用した俺が馬鹿だった。意識が朦朧としてきて口が動かない。橘が何 
かぐだぐだとしゃべり続けているが、一切頭に入ってこない。体の感覚が段々となくなってくる。 
まぶたを開けているのも辛くなってきた。俺は最後の抵抗のつもりで、ありったけの殺意をこめて 
橘をにらみつけた。そんな俺の視線も橘は華やかな笑顔で受け流し、ゆっくりと口を４回動かした。 
お・や・す・み 
と。そしてそれを最後に、俺の意識は夢の世界へと旅立っていった     </description>
    <dc:date>2017-03-11T20:20:11+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/131.html">
    <title>大海原の死闘！４</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/131.html</link>
    <description>
      『――――！！？』 
　怒気の篭ったその声の方を振り向くと、森からすぐ先。開けた草原の上に立つ一人の男性がそこにいた。 
　まるで、いきなり現れたかのように。 

　俺達にとって、このサプライズゲストは寝耳に水だった。この島にいる海賊や作業員を眠らし、且つ活動中だった海賊も殆ど藤原と 
九曜の手によって片付けられていた。加えて海岸近くの森に身を潜めるから、こちらから様子を窺い知ることはできてもこちらを見つ 
け出すのはかなり困難なはず。しかも今の今まで人がいる気配などなかった。 
　その状態で、いきなり声を掛けられたら誰だって驚くに違いない。 
　……いや、それよりも。 
　突然沸いて出たかのようなこの殺気は一体なんなんだ。いくら負の感情が高まっているとは言え、人の感情がここまでマイナスに傾 
くものなのかと疑いたくなるような気の質。話し合いなどまるで通じそうにない。 
　その証拠に、藤原は額に汗をしたまま刀に手をかけ、いつでも斬りかけられるようにスタンバイしている。先程まで座り込んでいた 
九曜もいつの間にか立ちあがり、虚無の瞳に写すのは彼の姿のみ。 
　かく言う俺を握り締め、森の向こうに立つ奴に対して剣を突きつけていた。 
「奴を倒そう」 
　そんな優等生ぶりを発揮した感情ではない。 
「怖い」 
　ただそれだけだった。 
　剣でも構えてないと、自分の心が恐怖で折れてしまう。 
　奴の放つ圧倒的な負の感情は、それほどまでに強かったのだ。 


「盗人の真似事だけではなく、この施設を内部から破壊して形骸化しようとは……」 
　男は、一歩、また一歩と歩みを進め、こちらに近づいてきた。 
　それに伴い、彼の表情も少しずつ明らかになっていた。 

「……ふっ。怒りを通り越して賞賛にも値する」 
　その容姿は、歴代のジェームス・ボンドの良い所どりをしたような、どのジャンルの女性からも好かれるオールマイティかつミステ 
リアスな容姿の持ち主だった。 
　中年を称するほど老けてはいないが、青年を称するほど青臭さがない。見た目に反し、貫禄やら威厳と言ったものが富に感じられる 
　すらりと伸びた銀色の長髪を腰上で縛り、額には赤色のバンダナ。 
　白いジャケットとパンツに身を包んだその風体は、およそ海賊絡みの人間とは思えないほどフォーマルに着こなしていた。 
　いや、だからこそ。奴の滲み出る威圧感に飲み込まれそうになるのももっともなことである。 
　そして、それが剣に込める力をより強いものにさせた。 
　極度の緊張感によるものなのか、武者震いの親戚みたいなものなのか……そこまではわからない。 

「申し遅れたな。俺はこの建設現場の総指揮を任されているものだ。名前は……」 
「名前など聞く必要もあるまい」 
　木陰で、何かに耐えているかのように身構えていた藤原が言葉を放った。 
「あんたは海賊の親分。識別信号などその程度で十分だ」 
「……ふ」 
　男は髪をフッと揺らし、 
「どうやら色々知っているようだな。ただの泥棒とは訳が違う、ということか。なるほどな……くくくく…………」 
　男――海賊の親玉と思わしき彼は、額に手を当て場違いな笑い声を聞かせた。 
「となると、お前達の狙いが何なのかも理解した。……なるほど、アレが欲しいと言うわけか」 
　一体何を言ってるのか、俺にはさっぱりわからなかった。 
「アレ……って、何のことだ？」 
「分からないフリをするのならそれでも構わん。何れにせよ――」 
　冗談ではなく本当に背筋が凍りそうな口調で、奴は言い放った。 


「お前達を倒すと言う事に変わりはないのだからなっ！」 


「来るぞ！」 
　藤原の一声で、呆然と立ち尽くしていた俺の体がふと軽くなった。 
　音も立てずこちらの間合いに入った奴の手刀が、俺の脇腹を襲う！ 
「っ！」 
　寸でのところで受け止めた。 
　間をおかず今度は顔面目掛けて正拳が迫るが、これは手にした盾で何とか防ぎきった―― 
「うっ……！？」 
　――だが、甘かった。奴の連続攻撃第三段、膝蹴りが俺のみぞおちに決まった。くそ痛え。 
　しかし間合いが甘かったのか、倒れこむほどの痛みではないようだ。たたらを踏みながら何とか踏みとどまり、お返しとばかりに膝 
蹴りを仕掛けた足を掴みかかった。 

「……！」 
　まさかそうくるとは思っていなかったのか、残った片足で思いっきりバックステップを放ち、俺の間合いから遠く離れる。 
　その着地を狙って藤原と九曜が同時に動く。相手を挟むように間を詰めた二人は同時に攻撃を仕掛けた。 
　藤原は刀を横薙ぎの一閃、九曜は杖を叩きつけるような一撃。しかも避けにくくするために、わざとタイミングをずらしている。 
　これはいくらなんでも避けきれまい！ 
「舐めるなぁっ！！」 
　しかし、奴は冷静に藤原の一閃を交わすと、九曜が振り下ろした杖を掴みやがった！ 
「おおりぁぁぁぁあ！」 
「――――――！！」 
　そのまま力任せに九曜を投げ飛ばした！　何という馬鹿力だこいつは！？ 
　黒髪を舞い散らせながら上空高くまで舞い上がる――が、ここでスキが生じた。 
「せいっ！！」 
　藤原が更に間合いを詰め、がら空きになった胴に一閃！ 
「ぐっ！」 
　惜しい！　奴のジャケットを薙いだのみ。 
「貴様ぁ！」 
　お返しとばかりに藤原に掴みかかった。藤原も負けじと裾を掴み、肉弾戦に発展する――かと思いきや。 
「――今だっ！」 
　互いに相手の利き腕を牽制しながら組み手をしていた片方が、突然声を上げた。叫んだ先は――上空！？ 
「――――スカイ…………ダイビング――――アタック……――――」 
　なんとぉ！　投げ飛ばされたはずの九曜が空中で受身を取ってその場に待機していたのだ！ 
　この辺はさすが体術と魔術に長けている九曜の面目躍如といったところか。 
　藤原の掛け声に間をおかず、そのまま落下。重力を利用して突き刺さるような蹴りを叩き込む！ 
「……ぐはっ！！」 
　たまらず親分はその場にしゃがみこんだ――いや。 
「うぉぉおおぉぉ！！」 
　唐突にダッシュを仕掛け、全くのノーマークだった俺に再び攻撃をしかけてきやがった！？ 
　突然の事にどう対処すべきか悩み…… 
　……いや、慌てるな。冷静に対処すれば何とかなるはずだ。内心の動揺を余所に、剣を構え、攻撃に備えて攻撃に備える。 
　――さあ、いつでもかかってこい。相手になってやる―― 
　心の中でそう暗示をかけながら。 

　しかし。ここで予想外の出来事が起きた。 
　俺が剣を構えるや否や、奴はおもむろに踵を返し、先ほどまでいた場所へと戻り始めた！ 
　狙いは……まさか藤原！？ 
「……！？」 
　藤原の方もこの方向転換は予想外だったらしく、奴を追って走っていたその歩みを止めること叶わず自分の間合いを完全に外されて 
しまう。 
　この間合いでは武器を持ってない奴の方が有利！ 
「喰らえっ！」 
「……！　ぐはあっ……」 
　奴の放った回し蹴りがカウンター気味に入り、きりもみしながら藤原は後方……つまり俺の方まで吹っ飛んできた。 
「藤原！？　大丈夫か藤原！？」 
　声をかけても返答がない。 
「起きろ藤原！！」 
「…………ぐっ……」 
　必死の叫びで何とか身を起こそうとするが……だが、遅かった。 
「死ねぇ！」 
　何時の間に移動したのか、奴の手刀が藤原の胸元に―― 

　ドォン！ 

　――決まらなかった。 
　気を利かせた九曜の魔法の一撃が、奴と藤原の距離を遠のかせたのだ。 
「……ちっ、魔法使いとは……やっかいだな」 
　しぶしぶ獲物を諦め、俺達との間合いを空けた。お手柄ではあるが、見るからに辛そうな表情を浮かべる九曜にどのような言葉をか 
けるべきだろうか。やはり魔法攻撃は厳しいか…… 
「この空間で魔法を使えるとは大したもんだ。それだけは誉めてやる。だが」 
　肩で息をつく九曜を見ながら、ネチリを笑いながら嘯いた。 
「それの代償も計算に入れたほうがいいぞ」 

　どうやらこいつは魔力が弱まるこの空間の特殊性を知っているらしい。九曜は魔力障壁と言ってたが―― 
「何なんだ、この空間は？」 
　念のために聞いて見た俺に対し、 
「特殊な魔力障壁だ」 
　奴は九曜と同じ解答を返した。 
「ここら辺一体に、魔法効率が極端に悪くなる結界を張り巡らせた。普通の人間では魔法すら発動しないだろう」 

　魔法効率とは、どれだけの魔力を消耗して物理的エネルギーを作り出すかという秤のことだ。どれだけ魔力が強大だろうとも、それ 
を物理的に上手く変換できなければはっきり言って役に立たない。 
　魔法効率は個々の魔法によっても差は有るようだが、その人の先天性的能力や調子などによっても大きく左右されると言う。 
　九曜がこの空間内で不完全ながらも魔法を使用できたのは、彼女自身の能力が優れているためである。 
　――以上、ここまで海賊の親分が懇切丁寧に説明してくれた。 

「しかし、だ」 
　俺達と対峙したまま、しかし全く動こうとはせずそのまま話を続けた。 
「魔力を具現化させるためには、そいつ自身の体力が必要になる。魔法効率の悪いこの空間では、魔力の他に体力の消耗も激しい。そ 
れだけの魔法を使えば反撃する力も残っていまい」 
「――――…………」 
　先ほどよりも激しく肩を動かしながら、九曜は奴の戯言に耳を傾けていた。 
　……九曜、あいつの言ってる事は本当なのか？ 
「――――――概ね………………正解に――……――該当する……――――」 
　ちっ、何と言うことだ。頼みの綱だった九曜もこれでは…… 
「わかった。もういい。お前は休んでろ。魔法はいざと言う時のためにとって置け」 
「――――――――」 
　暫くダッシュ連発した九曜は、「――わかった……――」と言って俺と奴の前から身を引いた。 
　奴はしたり顔で、 
「ふ……馬鹿な奴だ。魔法があれば、或いは俺に勝てたかもしれないのに……何故その女を戦線から離脱させたのだ？」 
　うるさい。その手には乗らん。 
「どうせわざと体力を消耗させて、ヘタったところを攻撃するつもりだったんだろう？　それは問屋が卸さないぜ」 
「ほう。ならどうするつもりだ？」 
　決まっている。 
「あとは……俺がケリをつける」 


「うおぉぉぉぉぉおおぉおおぉぉっ！！！」 
　がむしゃらに雄たけびを上げ、奴を目指して一直線。思いっきり振りかぶってバッサリと斬りつける！　……が、簡単に交わされる 
「そんな大ぶりが当たるか」 
　小馬鹿にした口調で言い放った奴の表情が思いっきり俺の逆鱗に触れた。 
「どりゃあ！！」 
　再び斬りかかる――が、これも虚しく空を斬るのみ。 
　その後も何度が斬りかかるものの、まるで園児相手に相撲を取る横綱のように軽くあしらわれた。 
「くくくっ、よくもまあそんな陳腐な攻撃で俺を倒そうと思ったもんだ」 
　完全に馬鹿にした口調で俺の一撃をまた軽く交わした。 
　逆に奴からの攻撃は一切無い。格下だと思って舐めきっているのだろう。先ほどのオカマ野郎と同じように。 
「どりゃぁぁああぁぁ！！」 
　更なる大振りで袈裟斬りを仕掛けるも、あっけないほど簡単に交わされた俺はぜえぜえと肩で息をついた。 
「くそ……くそっ……！！　何で当たらないんだ！」 
「もう一度剣の基本を習うことだな。最小の力で最大の効果を狙うのが、武術の極意。お前のような攻撃では効率が悪すぎる」 
　斯くも偉そうにいいやがった。 
「くそ……くそ……くそ……お前なんか……お前なんか…………」 
　俺は負けた悔しさから、呪文のように戯言を口走っていた。 
「いくらでもほざくがいい。それが俺とお前との実力の違いなんだ。分かったか」 
「……ちくしょう……ちくしょう…………」 
「分かったのなら大人しくここで朽ち果てるんだな。命乞いの時間は与えてやる」 
「……れ……いよ………………な……えよ………………」 
「せいぜい気の済むまで懺悔するがいい」 
「……なを…………なす……ものに……」 
「この世界に生まれてことに。俺に歯向かったことに」 
「――――――」 
「ふ、どうやら終わったらしいな。ならば死ぬがいいっ！」 

　勝利に酔いしれた奴は、手刀を高らかに掲げた。 
　彼が散々ダメ出しをした、大ぶりの手刀。 
　それこそ、俺が狙った瞬間でもある！ 


「喰らえっ！　制裁の業火をっ！！」 
「――なっ！！？」 


　ドォォォォオォオォォオォォォン…………… 


　――轟音は、俺の耳元で響き渡った。 
　強大な魔力の炎が奴の体を包み込んだ。奴の体は紅く燃え盛っていた。 
　あれだけ間近で放った魔法だが、幸運にも俺の方は殆ど被害が無かった。 
　恐らく反動で双方が吹っ飛ばされたため、燃え移ることなく大事に至らなかったのだろう。 
　せいぜい、吹っ飛ばされた時に転がって色々と打ったくらいだ。 
「大丈夫か！？」 
　よろよろとしながらも、何とか歩いてくる藤原。そして九曜。どちらも体力の消耗はあるものの、それなりに無事の様子だった。 
「――――――」 
　九曜の瞳が俺に何かを語りかけているようでならなかった。恐らく、 
「あんた、魔法が使えたのか……」 
　今まさに藤原が質問したことを聞きたかったのではないだろうか。 
　そう。もう既に忘れているかもしれないが、俺も何故か魔法が使えるのだ。今までに一回しか使った事はないが、発動する事は発動 
した。 
　そして、これこそが最後の切り札になると思ったのだ。 
　先の戦いで、俺が素人戦士並のレベルしか持ってないと悟った親分は、俺に攻撃するのを止め、どちらかと言うと藤原や九曜に攻撃 
を絞っていった。 
　そりゃそうだろう。自分の脅威にならない奴を倒したところで高が知れてる。それよりはやっかいなのをさっさと片付けたいものだ 
　そして自分の狙いどおり藤原を倒し、九曜も魔法を使わせることで体力を消耗させ、ほぼ自分の勝ちを確信した奴は俺との対戦を完 
全に舐めていた。 
　俺の切り札――魔法があるとは知らずに。 
　ただ、九曜でさえ魔法の行使が困難なこの空間において、俺の魔法も上手く発動できるかどうかは疑わしかったし、発動しても威力 
が弱かったり、かわされたりしたのでは意味が無い。 
　だから、奴が油断して近づいてくる時を狙っていたのだ。 
　使う魔法は、最初の一回で使用した炎の魔法。他の魔法も使えるのかもしれないが、万一発動しなかったらどうしようもないので、 
ここは一つ実績のある魔法を使用することにした訳だ。 
　そして、俺の読みどおり魔法は発動し――奴を火達磨に仕上げた。 


「なるほどな……だが、あれだけの攻撃魔法ともなればあんたの体力もかなり消耗したんじゃないのか？」 
　ああ、そう思って構えていたんだが、思ったよりそんなこと無かったぜ。疲れたって感覚はまるで見当たらない。 
　それに魔法の力が弱まるって聞いてたのだが、以前俺が放った時と全く変わらない威力だったように見えるが…… 
「――――それは――あなたが…………――――選ばれしもの……――――だから――――」 
　突然、九曜が話に割って入ってきた。 
「選ばれしもの！？」 
　そう言えば、初めて九曜に遭った時、ドームの家からそんな声が聞こえてきたような…… 
「あなた――――には……――――特別な…………力が――――――宿っている――――――…………――――魔力障壁の――――干 
渉を――――――受けないのも…………――――その一つ――――――」 
　そ、そうなのか？ 
「そう……」 
　まるで長門のように即答しやがった。 
「そうか、そう言うことか」 
　藤原は何かを悟った様子で、俺が先ほど炎の魔法で親玉を吹き飛ばした辺りを見つめていた。 
「あんたの魔法は、この世界で一般的に使用される魔法とは具現の方法が違うようだ」 
　どう言う意味だ？　と俺が訪ねると、藤原は嬉々とした表情で語りだした。 
　曰く、その場で物理的エネルギーに変換される一般魔法に対し、俺の魔法は魔力自身が放たれるそうだ。炎のように見えるアレも、 
実際のところ炎のように見えるギミックであり、触ったところで熱くないだろうし、火傷をする事もないそうだ。 
　つまり、親玉が言ってた『魔法効率を低下させる障壁』は、魔力自身を打ち放つ俺の魔法の前では何の役割もないってことになる。 
　そうか……だから触手をこの魔法でやっつけた際も、周りに燃え移る事もなく対象物のみを焼き尽くしたと言うわけか。 

　知識も何も無い俺が魔法を放てたのも、単に魔力の塊を放出したと考えれば納得のいく話だ。 
「正確に言うならば、『燃えたように見えた』だけだろう。焦げたように見えるのは、魔法が術者の意思に沿って作用した結果に過ぎ 
ない。魔法は元々概念的作用を示さない力だからな。やろうと思えば凍りつく炎だとか、燃える吹雪だとか、相反する組み合わせも可 
能だ。ただ……」 
　ここまで息継ぎせず喋った後、再び燃え盛る炎の塊に目をやった藤原は、 
「本質は、あんたの魔法……いや、魔力自身が直接敵を倒したと言うわけだ。……やったな」 
　……ああ。 
　正直人間に対して魔法を使ってしまったと言う嫌悪感はあるが、相手はカタギの人間ではなかったし、それにあの負の感情を前にし 
てはそうも言ってられない。そう自分に言い聞かせることにした。 
　ともあれ、これで漁師達は強制労働から解放されたし、海賊も殆どを駆逐した。これで港町にも活気が戻ってくるはずだ。親父さん 
の頼まれごとを無事果たした、って感じだ。 
　――しかし、代償も決して小さいものではない。 
　橘、あの時聞こえた声は本当にお前なのか？　本当にまだ生きてるのか？　お前は？ 
　それとも意識を失った俺が見た、単なる厳格なのか？ 
　生きているのなら、早く俺達の目の前に姿を見せてくれ。 
　いや、俺から迎えに行く。 
　きっとあの洞窟で、無事でいるはずだ。 
　待ってろよ、橘―― 


　しかし。 
　俺のこの願いは、またもや中止せざるを得なくなった。 
　何故なら―― 


　ドンッ！ 
『…………！？』 
　爆ぜるような轟音は、未だ燃え盛る炎の塊から聞こえた。 
「なっ……何が起きた？」 
「――――――――」 
　藤原も九曜も、一体何が起きたのか分からないと言った表情で、爆発した炎の塊をただひたすら眺め。 
　そして現れたのは、俺たちの想像を遥かに超える…… 


　――やってくれたな、貴様達―― 

　……くぐもった声は、俺の魔法で火達磨になった海賊の親分に相違なかった。 



　――まさか、お前が選ばれしものだったとは―― 

　しかし、炎の塊はまるで意思があるように蠢いていた。 



　――一刻の猶予もままならぬ―― 

　最初は塊だった炎は徐々に大きくなり、そして…… 



　――ならば、全力を以ってうぬらを―― 

　木々よりも巨大な龍の形を形成した。 



『滅する！』 

　――カッ！ 
　紅色に燃えさかる龍の口が大きく開いた。瞬間、奴の口から荒れ狂う轟焔が俺達を襲う！ 

　ゴゴゴゴゴゴゴ…… 

　間一髪。俺達は何とかその場を離れ、事なきを得た。 
　しかし、凄まじいまでの轟音と振動を携えながら、俺達が今までいた場所は炎の海へと変化している。 
　なんつう威力だ。こんなのまともに喰らったら一瞬ににてお陀仏だぜ！ 
　攻撃しようにも炎の塊相手にどうすればいいかさっぱりわからん。 
「一体何が起きたんだ！？」 
　やや離れた位置で待機する九曜に向かって叫んだ。 
「――――――」 
　たっぷりの沈黙を放った九曜だったが、俺の方を向いて口を動かした。 
「――賢者の石で…………憎悪が増幅された――――」 
『賢者の石！？』 
　俺と藤原の声がハモった。 
　ってことはつまり、この島にある『賢者の石』は、アイツが持っていたということか！？ 
「――半分は……正解――――しかし、半分は間違っている――――――」 
　な、どういうことだ？　無知で教養のない俺にでも分かるように説明してくれ！ 
「――――この島の…………――賢者の石は――――」 
　ここで九曜の会話がストップ。何故ならば、奴の攻撃の第二段が襲い掛かったからだ。 
　再び襲い掛かる炎のブレスは九曜に向かって一直線！ 
「逃げろ！！」 
　俺の声とほぼ同時に、九曜がいた場所を閃光が薙いでいた。炎は再び燃えさかり、十字の壁を形成する。九曜の姿はその壁が邪魔に 
なって確認できない。 
　無事か、九曜！？ 
「――問題……ない――――」 
　抑揚の無い言葉にむしろ安堵感を得た俺はホッと胸をなでおろした。 
　しかし、このまま奴の攻撃が続けばここは火の海にと化してしまう。その前に何とかしなければ、俺達の勝機は無くなる。なんとか 
して活路を見出さなければ…… 
　……そうか！　これなら！ 
　俺は剣を鞘に納め、再び呪文の詠唱を試みた。 
「魔法か？　だが奴に炎の魔法など効くとは思えんぞ！？」 
　その光景を見た藤原は野次を飛ばした。そんなことは百も承知だ。俺が唱えているのは炎の魔法じゃない！ 
　イチかバチか、やってみる！ 


　――清き麗しき水の眷族よ！　我が元へ集え！　そして邪なる焔を清めたまえ！！！―― 


　再び唱えたでまかせ呪文は、前回よりサマになっていると信じたいものだが――いや、それはどうでもいいことだ。 
　人生をかけた大博打に等しい俺の呪文詠唱は、俺の思いに呼応して水の矢を形成した。 
「いっけええぇぇえ！！」 
　弓など一度も引いたことの無い俺だったが、気合をかけると共に水の矢は炎の龍を目掛けて一直線に駆け抜けた。 
　狙いは完璧。炎の龍は微動だにできず、俺の放った水の矢をまともに受ける！ 
『ウギャァァァァアアァァァァァ！！！！！！』 
　よし、効いている！ 
　――と思ったのも束の間だった。 
『グルォアオォォオォァァァァ！！！』 

　――パシッ―― 

「なんとぉ！？」 
　あの野郎！　力任せに水の矢を掻き消しやがった！ 
「ダメだ！　あんたの魔法が効かないわけじゃないが、絶対的にパワーが不足している！」 
「――――賢者の石の…………力で――――増幅している――――正面からの……攻撃は――――効かない……――――」 
　それじゃあどうすればいいんだ！？ 
「何とか隙を作って、至近距離から魔法をぶっ放すしかない！」 
　だが隙をついての攻撃はさっきしたばっかりだ！　同じ技が二度通用するとは思えんぞ！ 
「九曜！　こちらの魔法を増幅する術とかかけてくれないか！？」 

「そんな――都合の……いい――――魔法は………ない――――」 
　ならどうすればいいんだよっ！？ 
「――――――――」 
　頼むからこんな時に沈黙しないでくれぇ！！！ 

『ウルガァァァァッ！！！！！』 
　奴が三度炎を吐く。十字に隔たられた少し先に閃光が迸り、 
「――しまった、囲まれたか！」 
　三角形上に仕切られた炎の壁は、俺達を確実に包囲した。 
「九曜、空飛べるか！？　あるいは瞬間移動でもいい！！」 
「――――体力の――…………消耗が――――――激しい――――――三人は…………無理――――――――」 
　くっ……万事窮すか！？ 
　今度こそ窮地に迫った俺は思わず目を瞑り―― 


　――その時。突然、大地が揺れ始めた。 

「うおっ！」 
　立っていられない位の激しい揺れに、思わず尻餅をつく。 
「この揺れは一体……？」 
　藤原もその場に屈みこんで事の成り行きをただ呆然と見守り、 
「――――」 
　激しい揺れの中、ただ一人何事も無く佇む九曜は、漆黒の瞳を天蓋の方向――違う、例の三角屋根の方に向けていた。 
　まるでヒーローが現れるのを楽しみにしている無邪気な子供のような瞳で。 
「どうした！？　何があった！？」 
　俺の声にワンテンポ遅れながらも反応した彼女は、 
「――――来たっ！」 
　来た……って、何が？　そう聞き返そうとしたその瞬間。 
　ドンッ！！ 
　勢いよく屋根を突き破って飛び出したのは、大量の水――いや、これは温泉か！？ 
　噴水の如く飛び出た温泉は遥か上空まで舞い上がり、暫く経って大量のしぶきをあたりに撒き散らす！ 
「炎の壁が……消えていく……！？」 
　先ほどから呆然と屈みこんでいた藤原は、賞賛とも驚嘆とも取れるかすれ声を搾り出した。いやまあ俺も呆然としているわけだが。 
　これで当面の危機は去ったが――それより、 
「一体、何が起きたと言うんだ？」 
　俺の最もな質問に、答えを返したのは解説役の九曜ではなかった。 
『皆さん！　大丈夫ですか！？』 
「……なっ……あ……あいつ…………」 
「……無事だったか……」 

　――先ほど吹っ飛ばした三角屋根の上空。水柱の先端。 
　そこにいたのは、奈落の底へと落ちたはずの橘京子だった。 


『すみません皆さん、遅くなっちゃって！』 
　温泉が湧き出す轟音にもかかわらず、遠く離れた橘の声は何故かはっきりと聞くことが出来た。 
「生きてたのか！」 
　喜びの余り、俺が上げる声もついつい大きくなってしまう。 
『はいっ！　こんなことじゃくたばらないのです！』 
　夢の中で聞こえた声と同じく、やんちゃで元気一杯の声があたりに木霊した。 
　しかし、水柱の上に立つ橘京子の姿をみて、ある疑問が脳裏に浮かび上がった。それは、 
「どうしたんだその体！？」 
　水柱の上に立つ橘の体は、何故か蒼く輝いていたのだ。幻想的な光景だが、決して普通ではない。怪訝に思うのも当然だろう。 
『心配いりません！　大丈夫なのです！』 
　純白のローブをはためかせながら、橘京子は自身たっぷりに言い切った。 
　言葉どおりに受け取っていいのか、それとも何も考えてないだけなのか。そこまではわからないが。 
『それより、今からあたしも戦います！』 
　戦う……って、どうする気だ！？　俺達だってあいつに効果的なダメージが与えられないんだぞ！ 
『大丈夫！　そこで見ててください！！　それじゃあいきますよっ！！！』 
　一方的に話を終えると、橘は呪文のような何かを口にし――そして、変化が訪れた。 

　橘の周りを覆っていた蒼い光は見る見る大きくなり、やがて龍を形成し始めた。 
　大きさ、形とも炎の龍と全く同じ。対照的なのはお互いの構成要素のみ。 
　あいつ……あんな隠し技を持っていたのか……？　というか、そんな技を持っていたのなら最初から使えよ！ 
『とりあえずツッコミはなしの方向で！』 
　コミカルなツッコミを飛ばす水龍は、俺の知っている橘京子に間違いなかった。 

『ガルルルルル……』 
『……………………』 
　炎を纏った炎龍と蒼いオーラを纏った水龍は、相手の出方を伺っているのかお互い牽制し合っていたのだが、 
『……行くわよっ！！』 
　先に動いたのは、橘扮する水龍の方だった。 
『ゴアァアァァ！！』 
　それを待っていたのだろうか。突っ込んだ瞬間、水龍目掛けてファイヤーブレスを解き放つ炎龍。危ないっ！ 
『ふっ、甘いっ！』 
　しかし橘は身じろぎするどころか、片手でブレスを叩きやがった。マジかよっ！！ 
『これでも喰らいなさいっ！』 
　お返しとばかりに橘が解き放ったのは――水の衝撃波か！？　俺の魔法なんぞよりもよっぽど強そうな衝撃波が炎龍の体に降りかか 
る！ 
『ルグオォォオォォォォッ！！！！』 
　炎の龍は堪らずよろめいた。おおっ！　効いているぞ！ 
　しかしこのまま黙ってやられる相手ではない。俺の時と同様、力任せに攻撃を打ち破り、橘目掛けて炎の玉を連発する。 
『くっ！』 
　この攻撃にさしもの橘も足止めをせざるを得なかった。しかし、それはまさしく足止めに過ぎない。奴の本命の攻撃はここからだ。 
『ギャオァアァァ！』 
　なんと炎の龍は橘目掛けて体当たりをかましたのだ。 
『きゃあぁ！……ぐっ……』 
　強引な攻撃にたたらを踏む橘。勢いはあったものの、ダメージ自体はそれほどでもなさそうだ。 
『やりましたね……お返しなのです！』 
　目には目を。歯には歯を。体当たりには体当たりを。そう考えたかは知らないが、やられたらやり返す精神だけは立派だ。炎龍が仕 
掛けた攻撃を、そっくりそのまま体当たりで返しやがった。 
『ゴァァァアアァァ！』 
　そして同じく踏ん反り返り――そして。 

『ふふふふ……やりますね……』 
『………………』 
　両者は再び対峙し、 
『いくわよっ！』 
『ガウゥゥァァア！！』 
　再び激突する―― 


　実力は五部と五部。全くの互角。 
　それはつまり、この勝負の決着は何時まで経ってもつかないことを示唆している。 
　或いは油断した方が命を落とすか――どちらにせよ、緊張感の高い戦いであることは間違いない。 
　何とかしてこちら側を有利に持ち込みたいが――どうすればいい？　いい方法は無いのか、九曜、藤原！？ 
　俺に振られて暫し沈黙した二人だったが、内片方がやおら喋りだした。 
「――矢を…………放つ――――」 
　矢……？　何のことだ？ 
「そうか！　その手があったか！」 
　連られて藤原も叫びだした。 
「あんたの技とあいつの技を組み合わせるんだ！」 
　どうやって！？ 
「――大丈夫……あなたは……――指示通りに――動いて――――――」 
　……わかった、頼むぞ！ 



『ガウゥゥアアァァアァァ！！！！』 
『うをりゃああぁぁあぁぁー！！！』 
　何度目の衝突になるだろうか。頭目扮する炎龍と橘扮する水龍とのぶつかり合いは、未だに続いていた。 

　衝突のたびに巻き起こる轟音と水蒸気、熱風。そして靄。 
　その靄は徐々に視野を遮り、今やこの空間の視界はゼロ近くまで低下していた。 
　もちろん全く見えないと言うほどではなく、数メートル位であれば認識可能だ。躓いて転ぶとか、踏み外して崖に落ちてしまうとか 
そんなことはまずないだろう。逆に言うと、それ以上離れると全く認識できないのだが。 
　そんな中、藤原はある行動に出ていた。 
「うおおおおおおっ！！」 
　気合と共に駆け抜け、目の前に立ちはだかる炎龍に脇差を投げつける！ 
　もちろん炎の化身である炎龍に物理的な剣の攻撃が効くはずもない。炎で出来た体を虚しく突き抜け、勢いを失った脇差はそのまま 
放物線を描いて地面へと落ちていった。 
　しかし、 
『ウォォオォォォッ！！』 
　炎龍は水龍から視線を外し、眼下にいるソイツに対し咆哮を上げた。対決の邪魔をした怒りによるものなのか。それとも単に敵と判 
断したのか。そこまではわからないが。 
「かかってこいっ！」 
　負け時と挑発するのはもちろん藤原。妖刀天叢雲を抜き、威嚇する炎龍に向かって大声を張り上げる。 
『グァアアアア！！！』 
　それに呼応するかのように、炎のブレスが解き放たれる！ 
「はっ！」 
　或いは避け、或いは剣を振るって炎のブレスを交わした。なかなかやるっ！ 
　しかし、いくら名刀とは言え、炎を……それもいくらでも再生する炎を断つのは到底無理な話である。 
　そして恐らく炎龍もその事に気付いている。 
　事実、炎龍の攻撃には余裕の色が見えている。自分を脅かすほどの脅威ではなし、軽く遊んでやろう。その程度の認識でしかない。 
　だが、そんなことは彼も承知だ。彼が剣を抜いたのは、相手を倒すためではない。 
　彼の役割は別のところにあるのだ。 


　――清き麗しき水の眷族よ！　我が元へ集え！　そして邪なる焔を清めたまえ！！！―― 


『…………！？』 
　間近で聞こえた俺の声に、面白いほど驚きの反応を見せた。 
　まさか非力な人間がおとりを買って出たとは思わなかったのだろう。完全に油断していた炎龍は、俺の動き――九曜に魔法で飛んで 
もらい、彼らと同じ目線の高さに来たことをまるで気付いていなかった。 
　俺が放った水の矢は、炎龍の真後ろを突き進んでいる。いくらこいつでも不意を突けば手痛いダメージを与えられるはずだ！ 
『ウォォォオオォオォォ！！』 
　だがしかし、炎龍は水の矢が当たる直前で身を捻り、俺の攻撃を交わしやがった！　何と言う反応だ！？ 
　水の矢は炎龍の脇を虚しく過ぎ去る――――が、まだ終わりじゃない！ 

「受け取れ！　橘っ！！」 
『はいっ！』 

　遥か彼方に消え去ろうとした水の矢は、橘扮する水龍が受け止める！ 
　受け止めた水の矢を持ち替え、弓を引くように水の矢を構え、そのまま炎龍に向かって一直線！ 


『これでも――喰らえぇぇぇぇぇぇ！！！』 
『――グウオオォォォォォォ――！！！』 


　――凄まじいまでの爆発音が島全体に……いや。港町まで聞こえるくらい響き渡った―― 



「……みんな、無事か……？」 
　ビッグバンを連想させるような激しい閃光の後、その圧倒的な光と音で視覚と聴覚を一時的に失った俺は暫くその場に蹲り、事の成 
り行きにヤキモキしながら感覚の回復に専念していた。 
　やがてボンヤリと辺りが見え始め、そして耳鳴りから来る頭痛も納まりかけた頃、何とか立ち上がって言葉に出したセリフが上記の 
ものである。 
　驚くべきことに、だだっ広い草原とそれを取り囲むように存在していた木々は全くの無傷だった。あれだけの戦闘があったとは思え 
ないほど静かに梢を静かに梢を揺らしていた。 

　まさか、夢だったってことは……はは、あるわけないか。 
　その証拠に、俺の直ぐ近くには九曜の姿が、そして数歩先にはおとり役を買って出た藤原の姿がそれぞれあった。俺と同じく気を失 
っていたのかその場に寝転んでいたが、幾分も経たないうちに身動きをし始めた。 
「くっ……」 
「――――」 
　どうやら二人とも大したケガは無いらしい。不幸中の幸いとは正にこのことかもしれない。 
　残るはただ一人。 
「……あいつは、どこだ？」 
　辺りを見渡しても、他に人間らしい人影は見えない。そう言えば炎龍の化身だった海賊の親分の姿も見えないが……まさか、あの攻 
撃に耐え切れず消滅してしまったのか？ 
『縁起でもないことを言わないで下さい！　あたしならここにいますよっ！』 
「へっ！？」 
　キンキンと劈く声は、上空から聞こえた。 
『やっほー！　皆さん大丈夫でしたかー！？』 
　そこに佇むのは、やたらのん気な声を振舞うツインテール。 
「お前こそ大丈夫なのか！？」 
『当たり前なのです！』 
　上空にいるせいだろうか。不自然な大きさに見えることと、その周りを取り囲む蒼いオーラに若干の違和感があるが、場違いに明る 
い声は俺の知る橘京子のものに相違なかった。 
「とりあえず降りて来い！　色々聞きたいことがある！」 
『ええ、今から行きます！　あたしも話したい事がありますので！』 
　そう言うと彼女はゆっくりと降下し始め、蒼いオーラを纏う橘の姿が徐々に大きくなり――ん？ 
「あいつ……何かを抱えてやがるな……」 
　違和感の正体はまさにそれだった。まだ少し遠いから分からないが、白い色をした何かを抱えていたのだ。 
　橘のローブと同色だったから、気付くのに遅れたが…… 
　やがて地上に降り立つと、彼女が纏った蒼いオーラが消え、逆立っていたツインテールも重力に沿って下方向に垂れ下がる。 
「うんしょ、と！」 
　彼女は抱えていたものをその場に下ろした……って。 
「こいつ、海賊の親分じゃねーか！」 
「ええ、そうですよ」 
　そうです、じゃねえだろ。起きて暴れだしたらどうするんだ！　 
「いいえ、もう大丈夫です」 
　自身満々に答えた。「何故だ？」 
「諸悪の根源は倒しておきましたから」 
　諸悪の根源？　俺は海賊の親分を指差して「それはこいつのことだろうが」 
「いいえ」橘は少し悲しげな顔をして否定した。「全ては、この力のせいなんです。これをみてくだささい」 
　橘はローブの内側に手を入れ、自分の胸の真ん中辺を弄り、あるものを取り出した。 
　それは卵台の大きさをした、蒼く澄んだ宝石のような代物で…… 
「まさか、賢者の石か！？」 
　藤原が思い出したかのように叫んだ。 
　そうだった。すっかり忘れていたが俺達はこの賢者の石を探すためにここに潜入したんだったっけ。 
「ええ、そうなのです」 
　しかし、いつ手に入れたんだ。橘。 
「実は――」 


　橘の話は、以下のようなものだった。 
　あの三角屋根の下で、オカマ野郎に足場を崩され、彼女は間違いなく奈落の底へと落ちていった。 
　ポジティブシンキングな橘京子も、その時ばかりは死を覚悟し、色んなものが走馬灯の如く思い出されては消え、消えては思い出し 
を繰り返していたそうだ。 
　そして最深部にある温泉の湧出部に落ち、息も出来ず気が遠くなり――そこで不思議な声を聞いたのだと言う。 

　――お願いします…………彼を救ってください―― 
　――彼は……悪の力によって魂を奪われてしまいました―― 
　――わたしたちは一心同体……このままでは……わたしも―― 
　――そうなる前に…………取り戻してください―― 
　――わたしの力をお貸しします……どうか、彼を救ってください―― 

　意識が遠のく中、橘は不思議な力が自分の体に入ってくる感覚を受けた。 
　どんな力なのか、どういった作用があるのか。そんなことはわからない。 

　ただ、あれだけ苦しかった水の中が、全く苦にならないことに気付いた。 
　それどころか、水が自分の意思で好きなように動かせるような気がしたのだ。 
　手を振るうと水柱が立ち、足を動かせば渦巻きが発生する。 
　そして、念じれば水が意のままに動かせる。 
　これなら――抜け出せるかも！ 
　そう考えた橘はここから脱出しようと念じ…… 


「……最初はよく分からなくて。ちょっと暴れさせすぎました。まさか水柱がみんなを攻撃してたなんて……」 
　悪びれた様子で、おずおずとその場の状況を口にした。 
　俺達がオカマ野郎と戦っていた時に発生した地震は、なんと橘が起こしたものだったのだ。 
　全く、迷惑と言うか何と言うか……だが、そのおかげでオカマ野郎を倒すことができたんだけどな。 
「そう言っていただければありがたいです。それでその後なんですが、暫く制御しようと色々頑張ってたんですが、どうも上手くいか 
ず……そしてさっき聞こえた不思議な声にもうちょっと協力してくださいって頼んだんです」 
　頼んだのか、おい。 
「そしたら『……人選間違えたかも』って言いながらあたしの懐に入り込んできたんです。この賢者の石……いいえ、水の精霊さん 
が」 
　……苦労、したんだな…… 
「ええ。本当に」 
　お前じゃない。水の精霊の方だ。そう突っ込みたかったがとりあえず黙っておく。 
「そんなこんなで余計な時間を使っちゃいましたから急いで上に登って……あとは知ってのとおりです」 
　つまり……お前のあの力は賢者の石のおかげなのか？ 
「はい、そうなります。彼女……女性かどうか分かりませんが、暖かい声がそれっぽいんで彼女ってことにしておきますが、ともかく 
相棒を助けるためにあたしの身に乗り移ったんです」 
　相棒と言うのは、もしかして海賊の親分のことか？ 
「いいえ、彼ではありません。彼女の相棒は……」 
　未だ気を失っている海賊の親分のジャケットを弄り、そして何かを掴み取った。 
「これです」 
　橘が取り出したのは、紅い輝きを持つ宝石。「もしかしてそれも賢者の石か！？」 
「はい。あたしに力を貸してくれたのが水の賢者の石。そして彼に力を与えたのが炎の賢者の石です」 
　なんと、この島には賢者の石が二個あったのか…… 
「――――近接……し過ぎて――…………――観測――――――出来なかった……――――」 
　何故かガクッと落ち込む九曜。気にするな、お前のせいじゃなかろう。 
「それにこの時には炎の賢者の石は邪悪に染められていたんですから。正常な反応を示さなかったのかもしれませんね」 
　フォローする形が俺と橘が九曜を励ました。 
「ところで、何故炎の賢者の石は――炎の精霊は悪に染まったんだ？」 
　腕組みをしながら藤原がふとした疑問を口にした。 
「それは――詳しくはわかりませんが、恐らく魔王の仕業だと思います」 
　どうして、そうわかる？ 
「以前にも仰いましたが、魔王の力は即ち陰と陽の暴走にあります。世界を二分する力ですから普通の人間ではとても太刀打ちできな 
いでしょう。対抗するには、源を同じくする五行の力を借りるのみなのです。それも全て。逆に言えば、その中で一つでも力が欠けて 
いれば魔王の力には及ばないってことになります」 
「そうか、魔王は先手を打って力を封じ込めたってわけか」 
「そうです。この島にあった二つの賢者の石のうち、一方を悪に染めたのです」 
　しかし、何故一方だけなんだ？　二つ有るなら二つとも悪の力で染めればいいじゃないか。 
「そこまでは分かりませんが……魔王のパワーが足りなかったのか、それとも途中で邪魔が入ったのか。恐らくそんなところじゃない 
かと」 
　なるほどな……だが今回、賢者の石のパワーの凄さを始めて知ったぜ。一つでもアレだけのパワーがあるなら、五つ合わせれば確か 
に世界を揺るがすほどの力になるってのは本当らしいな。しかも橘がその力を使えるとなればこれからの旅がかなり楽になる。 
「あ、言い忘れましたけど」きょとんとした表情で橘は、「あの時は水の精霊さんがパワーを与えてくれたから使えただけなのです。 
炎の精霊さんが元に戻った今、水の精霊さんの声はもう聞こえません」 
　え？　ってことはつまり…… 
「多分、今までどおりって事で……」 
　……はあ。そうでしたか……とても残念だが、仕方あるまい。 
「ともかく、俺達の目的は達成できたし、この島ともお別れだな」 
　俺がそう言うと、しかし不満げな表情で、 
「何言ってんですか！　親分を懲らしめるという目的がまだ残っています！」 
　いや、さっき十分懲らしめたじゃないか。 

「アレは親分じゃなくて操られた炎の精霊さんを正気に戻らせるためにしたこと！　だから手加減してあげたのよ！　親分は親分でき 
っちり懲らしめないと！　こら、起きなさい！！」 
　未だ目を覚まさない親分に向かって往復ビンタをぶちかました。 
「……っ！！　な、何だ！？」 
「起きましたかこの腐れ下郎！？　あたしが懲らしめてやりますからそこで大人しくなさい！！」 
「なっ……なんで私がそんなことを！？」 
「お黙りなさい！　漁師を使っての強制労働の数々！　港町で悪態過多のチンピラ！　お役人と吊るんでの贅沢三昧！　そして何より 
海賊と言うあなたのステータス！　どれをとっても許しがたいわ！　天に代わってあたしが罰を与えてあげます！」 
「ま、待ってくれ！」 
　せびるように拝み始める親分。正直、先ほどまでのクールさは微塵も感じられなった。 
「私は悪いことしとらん！　何故罰を受けなければいけないんだ！」 
「今更シラをきっても遅いわ！　今までの悪行の数々を忘れたとは言わせないわよっ！」 
「た、確かに少し前までは海賊として貨物船を襲っていたりしてたが……だが、ここで仕事を始めてからは真っ当な仕事をしているつ 
もりだ。ここの建設だって富豪や役人の要望があって建設を始めただけで、決して悪事を働くためにしているわけではない！」 
「……へ？」 
「漁師にだってちゃんとそれなりの報酬で働かせいるし、強制労働もしておらん。第一働き手は任意で募集してたんだぞ」 
「……ええっと……」 
「町のチンピラに関しては、教育が行き届いてないと言うことで詫びよう。だが、それも私が直接騒動を起こしたのではないぞ」 
「…………ええええっと……」 
「事実、私の部下に声が高くて行動がオカマっぽいのがいるんだが、よき監督者として現場の作業員に人気だったんだぞ」 
「………………ええええええっと…………」 
「……おや、そう言えば彼はどこにいるのだ？　さっきから姿を見せないが……」 
「……………………えええええええええっと…………」 

　親分の猛追にグウの音も出ず変な呻き声を出し固まる橘。 
　そんな彼女に、俺はやれやれと溜息を洩らしながら心の中でこう呟いた。 

　――だから言ったじゃねーか。これはこの街の問題であって、俺達がしゃしゃり出る必要は無いって―― 



　この後、この親分に散々こってりと絞られた。 
　作業員を眠らせたこと。温泉の出る洞窟を崩壊させたこと。部下にケガをさせたこと。 
　先の戦いで行方不明になった幹部ことオカマ野郎（生きてた）も説教に加わり、俺達がしでかしたこと全てに説教を喰らい、気がつ 
けば頂上に上った太陽が水平線に近づくまでになっていた。 
　最後は自分達も悪かった部分があるということで納めてくれた海賊団一味は、本当はいい奴等なのかもしれない。 
　こうして、賢者の石探しの第一陣を何とか終えた俺達は再び船に乗り込み、港町目指して船に揺られていた。 

「……にしても、不可解な部分もある」 
　船頭に立ち、舵をとりながら藤原は呟いた。 
「どうしてあの場所に魔力障壁が発生してたんだ？」 
「恐らく、悪の力に取り込まれた賢者の石がやったのではないでしょうか？」 
「水の魔法ならともかく、全ての魔法を遮る力があるというのか？　あの石に」 
　……確かに。賢者の石全ての力を使えば可能かもしれないが、たった一つでアレだけの力を発揮できてたとは思えない。 
「帰路の途中だから確認する由もないが、あの障壁は賢者の石の力ではなく、陰と陽の力ではないのか？」 
　その可能性も有るな。だが、 
「だとしても、俺達がここに来ることはもう無いだろう。だから確認する必要も無い」 
「……ふっ、道理だな」 
　くくくっ、っと小さく喉を鳴らした。納得したわけではないだろうが、疑問に思う事は無いだろう。 

　斯く言う俺も、一つの疑問があった。 
　それは、あのオカマ野郎と対決した際に言い放った、『あの方』の存在である。 
　オカマ野郎自身が言ってたが、奴のメインの武器だった魔力銃は、『あの方』から頂いたことになっている。 
　普通に考えるならば、オカマ野郎が言う『あの方』とは、海賊の親分だと考えられるんだが……しかし、どう考えてもおかしい。 
　オカマ野郎は確かに親分を尊敬していただろうが、しかしあの親分はそんな武器を持っているようには見えなかった。 
　それどころか、魔法の『ま』の時も知らないくらいである。 
　ならば、魔法を理解して且つそれを武器に応用できる人物が他にもいるはずだが……それは一体誰なのか。 
　もっと言うと、俺達の味方なのか、それとも敵なのか。それすらわからない。 

　オカマ野郎に聞いておくべきだったな。上手くいけば俺達の旅がより楽になるはずなのに。 
　まあ……今更戻る気にならないのは、先に言ったとおりなんだが。 

「はあ……残念ですぅ……」 
　そんな中、島から離れるのを一番名残惜しんでいたのは例のツインテールだった。どうした。まだ説教して欲しかったのか？ 
「いいえ。あれだけ大口叩きながら海賊のお金を踏んだくれなかったことです」 
　そう言えばこいつ、酒場の親父さんと約束してたっけ。 
「海賊と言う名前から悪人だろうから、そんな奴らからお金をかっぱってもオッケーだと思ってました。でも……」 
　まあ、確かに今は真面目に働いているようだし、にもかかわらず盗みをしたらこっちが罪に問われかねない。 
「そうなんです。はあ……どうしよう」 
「――――大丈夫…………――――」 
　意外な奴が喋ったと思ったら、更に意外なことを口にした。 
「――お金は…………たくさん――――ある――――ほら……これ――」 
　ドサッ。 
　なっ……この大袋に詰った金銀財宝は一体……！？ 
「宝物……殿――――から――――くすねて……――――きた――」 
『！？』 
「――この世界は、モンスターを倒したからと言って宝石や金貨を落とすわけではないからな。資金は別の方法で調達せねばならん」 
　九曜に続けて藤原も喋りだした。 
「これで暫くは飯の心配も無かろう。たくさん取ってきたからそのうち少しを親父さんにやればよかろう」 
　ばっ…… 
「馬鹿かお前らぁぁ！！　これじゃあ俺達が犯罪者じゃねーか！」 
「ふっ、どうせかりそめの世界だ。何やっても別段困ることは無かろう」 
「あるわぁぁぁ！　これから盗人容疑で指名手配されたらどうするんだあ！」 
「―――情報……操作は――得意…………――――」 
「そう言う意味じゃないだろぉがぁぁぁ！！！」 
「まあまあ、海賊ですしいいじゃないですか。これで親父さんとの約束果たせるわ。ありがとう」 
「…………ふんっ」 

　夕日に照り返されているせいか、はたまた橘に感謝され照れているのか。微妙に頬を赤らめる藤原を見て思った。 
　俺はこれが夢であって欲しい、妄想で終わらせて欲しい、と。 


　第一部　完！ 


　… 
　…… 
　……… 


佐々木「と言うドリームを見たんだが、どうだいキョン？」 
キョン「どう、って言われても……」 


　終わりたい。 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――     </description>
    <dc:date>2017-03-11T19:53:11+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/123.html">
    <title>橘京子がRPG風の世界で奮闘しているようです（仮）シリーズ</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/123.html</link>
    <description>
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-[[序章　邂逅（前編）　―橘京子―&gt;序章　邂逅（前編）　―橘京子―]]
-[[序章　邂逅（中編）　―周防九曜―&gt;序章　邂逅（中編）　―周防九曜―]]
-[[序章　邂逅（後編）　―藤原―&gt;序章　邂逅（後編）　―藤原―]]
-[[大海原の死闘！１&gt;大海原の死闘！１]]
-[[大海原の死闘！２&gt;大海原の死闘！２]]
-[[大海原の死闘！３&gt;大海原の死闘！３]]
-[[大海原の死闘！４&gt;大海原の死闘！４]]    </description>
    <dc:date>2017-03-11T19:52:41+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/130.html">
    <title>大海原の死闘！３</title>
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    <description>
      「散々手こずらせてくれましたが、まずは一人ですね」 



　悲鳴が大反響を起こす常闇の大空洞。その余韻が鳴り止まぬ中、一際甲高い声が俺の耳を劈いた。 
　極めてクールで、背筋をも凍りそうな程の殺気を持ったそいつは、恐らく男だろう。 
　恐らく、と言うのは他でもない。一般的男性より三オクターブ程高いその声が原因だ。加えて変な女言葉を使うせいでやたら気持ち 
悪く感じる。 
「何のためにここまで侵入したかは知りませんが、おいたはこの辺でお止しなさい。そうでないとあなたも彼女と同じく奈落の底に真 
っ逆さまですよ。そう……」 
　ギシュ、と何かを握りしめるような音の後、ドンッ！　と言う音が俺の直ぐ後ろで響き渡り、そして岩が転がり落ちていくのが分か 
った。 
「この魔力銃でね」 
　魔力銃……？ 
「そうよ、坊や。この素晴らしい破壊力。魔力銃がどの程度の力を持っているか、今ので分かったでしょ？」 
「それで、足下を崩してあいつを……橘を落下させた、ってわけか」 
「あらあら。ご名答よ。思ったより頭が良いのねぇ、ボクゥ。ほほほ」 
「あいつはどうなったんだ、言え！」 
「あらあら、せっかく誉めてあげたのに。やっぱり知能が低いのかしら。そんなこともわからないの？」 
　まるで……いや、まるっきり馬鹿にした口調で言い放つ。。 
「いくら底に温泉が噴出しているとはいえ、この高さから落ちて五体満足でいられるとお思い？」 
　く……やっぱりそうなるのか…… 
「ふふふ、彼女のことは残念だったけど、あなた幸運だったわね。彼女が身を呈して庇ってくれなかったら、あなたが落ちてたのよ。 
ちゃんと彼女の分まで長生きしなきゃ。そのためには、大人しく引き下がることを推奨するわ。それとも……」 
　カチャリ、と金属音が響いた。 
「彼女と一緒に死出の旅に出るなんて……言わないわよね？」 
「それはこっちのセリフだ」 
　あいつは少々方向音痴なんでな。お前に三途の川の水先案内人をしてもらうと思ってたところなんだ。よろしくお願いするぜ。 
「ふふふふ……言うじゃない。でも悲しいかな、お子ちゃまねえ。この暗闇で、あたくしがどこにいるのかわかってるのかしら？」 
　俺は何も答えない。 
「その様子じゃ分かってないみたいね。だからお子ちゃまなのよ」 
　ふざけるな。ならお前は分かるってのか？ 
「ええ、もちろん。…………そこよっ！」 
「てっ！」 
　俺のコメカミに何かがヒットした。恐らく小石か何かを拾って俺に投げつけたのだろう。 
「どう？　もし今のが石じゃなくてこの銃だったら、あなたの首から上は綺麗さっぱりなくなっていたわよ。これでもまだあたくしを 
倒そうなんて妄言吐けるかしら？」 
　…………。 
「ふふふふ……感じる。感じるわ。絶望の淵に立たされて恐れおののくあなたの表情が……ああ、ゾクゾクしちゃう！」 
　何かものすごく偏ったフェティシズムをお持ちのようだ。できれば関わりたくないが……だが、それも無理な相談だ。 
　こいつに関する俺の対処は二つに一つ。倒すか、倒されるかだ。 
　もちろん逃げるとか降伏すると言う選択肢もあるにはあるが、他の敵ならともかくこいつに対してだけは選ぼうとは思わない。 
　何故なら―― 

「ふう……なかなかいい思いをさせてもらったわ。お礼と言っちゃ何だけど、今引き返すなら命は助けてあげる。死んだお仲間の敵を 
取るために自分が返り討ちに遭うってのもナンセンスだと思わない。それに今時、敵討ちなんて流行らないわよ。ま、かわいそうだと 
は思うけど、犬か猫にでも噛まれたと思って諦めて頂戴。そのほうがボクのためよ。おほほほほほ……」 
「………………」 
「ん？　何て言ったのかしら？　もっとはっきりと大きな声で言ってちょうだい」 
「うるせえ！　大きなお世話って言ったんだよこのオカマ野郎！」 
「なっ……！　オカ、オカオカ……オカマ野郎ですってぇ！」 
「ったりめーだこの変態！　さっきから黙って聞いてりゃバカみたいに甲高い声を上げやがって。それに口調がまるっきりカマじゃね 
えか！　カマカマ野郎！」 
「カマって言うんじゃないざますよ！」 
「なら『ざます』なんて使うなこの大カマ野郎！」 

「キィーッ！　むかつくぅぅぅ！！！」 
「仲間がやられたってのにのこのこ身を売るバカがどこにいるってんだ！　絶対ゆるさねえ。お前だけは絶対倒してやる！」 
　――普通、そう思うだろ？ 
　だから、こいつの実力がどうであろうと、戦い抜くのみ。 
　そして――勝つ。勝って橘の敵を討ってやる！ 


「舐めたことを言うんじゃないわよ！　人間、出来ることと出来ないことがあるってこと、思い知らせてあげる！　来なさい！」 
　それはこっちのセリフだ。その思い上がった性根を叩き直してやる。 
　いよいよ戦闘のゴングが鳴り響いた。俺は剣を抜き、先ほど衝撃音がした方を振り返り奴の行動に備えた。 
　この暗闇のせいで相手がどこにいるかわかったもんじゃないが、魔力銃とやらを撃った方向から推察するに俺の後ろに回ったのは想 
像に難くない。 
　が、 
「どこ見てるのよ！　こっちよ！」 
　反響する声は、しかし俺の横手から聞こえてくるような印象を受けた。相変わらず声が反射するから位置が分かりにくい。加えて相 
手は俺が見えるかの如く正確に動いている。 
　この勝負、明らかに俺のほうが部が悪い。長引けば長引くほど殊更だ。 
　ならば、短期決戦を試みるしかない！ 
「うおりゃあ！」 
　イチかバチか、声が聞こえた方に突進を仕掛ける。奴の首級目掛けて一直線。恐らくこの辺に―― 
「引っかかったわね！」 
　しかし、声は俺の予想を裏切る場所から発せられた。 
　――即ち、俺のすぐ横。 
「なっ……」 
　何だと！？ 
　声に反応して思わず振り返ると――見えた。何かを構えた、人影らしき黒い影が。 
「死になさいっ！」 
　声と同時に影が蠢く。この至近距離では交わせない！？ 
　だがっ！ 
「うぉぉぉぉぉおぉぉっ！！！」 


　――そして、銃声が響き割った。 


「くっ！」 
　俺の脇腹あたりに、何かがかすめていくのがわかった。魔力銃とやらの攻撃だろうか。 
　間一髪で避けた……いや、正確には外してくれたと言った方がいいかもしれない。殆どゼロ距離からの銃撃だ。交わせと言われてそ 
うそう交わせるもんじゃない。 
　それくらいのギリギリの軌道だったわけだ。奇跡といってもいい。まさしく驚愕ものだ。 
「なっ……」 
　そして、俺以上に驚いているのが約一名。 
「……避けた……なんて……」 
　もちろん勝利を確信して疑わなかった例のオカマ野郎だ。避けられるとは思っていなかったのだろう。掠れた声があからさまに動揺 
の色を示していた。よし、チャンスは今しかない。 
「どうした、それで終わりか？」 
「な……」 
「挑発に敢えて乗ってやったとも気付かず……哀れな奴だな」 
「なっ…………」 
「しょせん暗闇の中からこそこそ銃を撃つことしかできない小心者のオカマ野郎だからしかたないか」 
「っ……この……言わせておけば……」 
「事実だろうが。嫌なら白昼堂々拳と拳で勝負してみるか？」 
「…………」 
「なんだ、出来ないのか。力も度胸もないなら、やっぱり卑怯者じゃないか」 
「……ぐ…………」 

　暗闇の中、微かに響く舌打と歯軋りを聞き、俺は心の中でほくそ笑んだ。 
　既にお分かりかもしれないが、俺は『挑発』を試みたのだ。 
　わざと怒らせるような発言をして相手に冷静な判断をさせなくするこの方法は、基本的に頭に血が上りやすい猪突猛進タイプの人間 
に有効な戦法である。 

　逆に言うと冷静に物事を判断できる軍師タイプの人間には有効な方法ではないし、また頭に血が上りやすいタイプでも逆上して手当 
たり次第攻撃されては困るので、相手を選ぶ戦法であるのもまた事実だ。 
　さて、見たところ、このオカマ野郎は猪突猛進タイプとは思えないし、口車に乗るほど頭が悪いとは思えない。むしろ暗闇に紛れて 
相手の弱点をつくなど、狡猾ではあるが妥当な戦法を取るあたり『挑発』が有効な人物とは思えない。 
　しかし、である。 
　俺はこいつに『挑発』という戦法は有効であると感じとった。何故か。 
　その理由は、人並み以上に高いこいつの自尊心にあった。 
　先ほどの発言から、俺を子供扱いし、自分の優位性を自慢気に語るなど、こいつの自我自賛ぶりは目に余るものがあった。 
　侵入者を退治する時に前口上やら自分の武器の説明をする奴なんてまずいない。そんなことをしていればその間に逃げられるし、武 
器の特性を見破られて無にされたのでは元も子もない。 
　余程場数を踏んだ奴か、敵の注意をひきつけるため、はたまた時間稼ぎくらいにしかそんなことはしないだろう。 
　だが、こいつの場合はそのどちらとも違う。単に自分は凄いんだぞと自慢したかっただけだ。 
　自分は絶対に負けるはずがないと想像……いや、妄想しているからこそできる発言だ。 
　それを一番強く感じたのは奴が俺に小石をぶつけた時だ。さっさと俺に狙いをつけて魔力銃を放てばいいのに、それをしなかった理 
由は、『自分は夜目が利くんだ』、『ここでは俺の方が強いんだ』と言うちっぽけなプライドを保つために及んだ行為だったのだ。 
　つまり。 
　端的に言うと、こいつは『プライドだけは一人前のマイルール野郎』なのだ。 
　やたらと自慢してくるわりには中身が伴わなず、そのくせ指摘すると『お前に俺の高尚な意図がわかるはずも無い』みたいなことを 
言ってキレる奴。まさしくそう言ったタイプの人間なのだ。 
　そして、こう言う野郎には『挑発』と言う戦法は大いに有効なのだ。頭でっかち且つ自尊心が人並み以上に高い輩は、そのプライド 
が傷つけられると途端に冷静さを失い、子供でもわかるような下手な策略に引っかかることがままある。 
　エリート官僚や会社役員が不祥事を起こした際に行われる謝罪会見等で、正論で攻めてきた記者達に逆上して余計に社会的地位を失 
うなんてこともままあるが、今回それを狙ったってわけだ。 
　自分の理解し得ない現象を相手が理解している。たったそれだけのことが自分のプライドを傷つけ、逆上して冷静な判断をできなく 
させるのだ。 

　……まあ、それっぽいことを長々語ったわけだが、実のところさっきからかわれた事に対する仕返しってのが本音なんだが、その辺 
は俺の心理を汲み取っていただければ幸いである。 
　ともかく、俺の思い通りの展開になってくれればそれで問題はないのである。 
　しかし―― 


「くく…………くほほほほ…………くほほほほほほほほほほ…………」 
　突然、奇妙な笑い声が静寂の洞穴に木霊した。 
　この声の発生源は、もちろんこのオカマ野郎。 
「……確かにあなたの言う通り、あたくしは戦闘に対する能力はないわ…………くくくく…………」 
　ぶつぶつと喋りだすその様は、場所が場所だけに決して喜ばしいものではなかった。俺の野次が心底効いたのか、或いは何かの作戦 
か……用心に越したことはない。 
　剣を構えたまま、声のする方を向いてそのまま臨戦体制をとった。 
「剣だって満足に扱えないし、魔法もからっきし。そう、おちこぼれだったのよ…………ふふふふ…………」 
　笑い声と共に、俺はゾクリとする何かを感じ取った。 
　何か……と言われてもそれが何だかわからない。わからないから適当に言うが、恐らく雰囲気と言うかオーラと言うか……ともかく 
先ほどまでとは違った空気が、辺りにはびこんでいることだけは分かった。 
　その空気を発しているのは、間違いなく奴。一体何を考えてやがる……？ 
「でもね」 
　訝しげな俺の表情をどう捉えたのか、オカマ野郎は凛々しい声で「あの方にお遭してからは、違った」 
　あの方？ 
「素晴らしい御仁だった。何の取柄もないあたくしを拾ってくれた。そして『これを使うのに一番相応しい』と、与えてくれたのよ」 
　カチャンと、再びシリンダーを引く音が聞こえた。 

「この魔力銃……普通の銃と違って、色々なメリットがあるの。先ずは弾。自分の精神力が弾になるから、弾切れがないのよ。自分が 
死ぬか、戦意喪失するまでね。それに万一相手に取られても、弾を発射することはできない。あたくしの精神に同調するように作られ 
ているから、そもそも他人が使うことができない。そして、普通の銃と違って火薬を使うわけじゃないから、火花が飛ぶ事もない。つ 
まり、こう言った闇討ちには最適な道具なのよ」 
「……何が、言いたい？」 
　俺がそう言うと、くくくくという笑い声と共に再びオカマ野郎のトーンが上がり始めた。 
「あなたは、これを見切ることができない…………できる訳ないのよっ！」 
　――狂喜の声と共に、ためらいも何も無く引き金を引く姿が脳裏に浮かんだ。 


「なっ…………」 
　この驚愕の声は俺のものではなく、今まさに銃を放ったオカマ野郎のものである。 
　本日二度目となった驚愕の声は、しかし今回ばかりは俺も軽口を叩ける状態ではなかった。 
　――次の瞬間に起きた、奇蹟とも言える一瞬のせいで。 

　奴の銃の軌道。それは間違いなく俺の真正面目掛けて放たれた。 
　弾は三発放たれた。俺の真正面に来たものの他に、ワンテンポ遅れて二発。最初の一発からそれぞれ体一つ分ずらした位置を正確に 
飛んできた。運良く最初の一発を交わしても、後続の弾が俺の体を貫通するように。 
　全て計算ずくで仕組んだことだったのだろう。三発の弾が放たれたとき、勝利に歪む奴の顔が見えたような気がした。 
　しかし、そこから先は奴も……いや、俺でさえ予想だにしなかったことが起きた。 
　弾が放たれた瞬間、俺はとっさに剣を振りかぶり、飛んできた弾をそのまま叩き切ったのだ。 
　二つに分かたれた魔力の塊は、俺を避けるかのように後方へと飛んでいき、壁に当たってそのまま霧散し、後に続く二発の弾も、俺 
の横をすり抜けて同様に破裂した。 
『…………』 
　オカマ野郎はもちろん、俺もあまりのことに声すら上げられない。そりゃそうだ。やれと言われて出来ることじゃない。先ほど反射 
的に弾を交わした時もそうだったが、この辺はまさしく運がよかったとしか言いようがない。 
「な……なんで……なんで…………」 
　ワナワナと震える声は、傍から見ても明らかに動揺していた。 
「なんで魔力の弾が切れるのよっ！」 
「なんで、って言われても……何となく飛んできたのが見えたから、そのままズバッと……」 
「見えた…………ですって！！」 
　オカマ野郎の声は、更に一オクターブ上昇した。 
「魔力よっ！　純粋な魔力の塊よっ！！　見えるわけないじゃない！！！」 
　いや、そういわれても。俺だってはっきりくっきり分かったわけじゃない。ただそれっぽい空気の渦がこっちに伝わってきたから、 
何となく…… 
「何となく、じゃないっ！」 
　怒られた。 
「あたくしさっき言ったでしょ！　普通の人にはそんなもの見えないのよっ！　魔力が見えるのは神か魔族、あるいは……」 
　そこまで言って奴の口が止まった。 
「……まさか…………まさか…………あなた…………まさか！」 
　何かを口にしようとした瞬間、しかし奴からそれ以上の言葉を口にすることは無かった。 


　――ズシャァァァァァァァァァァン―― 


　突然。本当に突然である。 
　奴のいた場所目掛けて、凄まじい音と共に何かが飛んできたのだ。 
『――――！！？』 
　言葉も無いまま――何か叫んだかもしれないが、轟音に掻き消されて何も聞こえなかった――奴の気配はそこからきれいさっぱりと 
消え去ったのだ。 
　一体、何が起きている？ 

　――ゴゴゴゴゴゴゴ―― 

　間をおかず、今度は辺りが細かく振動し始めた。最初は地震かと思ったが、どうやら違う。遥か下方で何かが勢い良く飛び出してお 
り、それが壁に当たって洞窟全体を揺るがしているようだ。 
　事実、再び俺の目の前にその何か――オカマ野郎を葬った何か――が通過し、 
　ピシャッ。 
　その一部が俺に降りかかった。 

「これは……」 
　人肌程の暖かさを持ったその液体。それは。 
「……温泉が噴出しているのか！？」 


「おい！　大丈夫か！？」 
　余りのことにその場で呆けていると、突如上の方から男性の声が聞こえてきた。 
「藤原？　藤原なのか！？」 
「ここは危険だ！　一旦外に出るぞ！」 
　一体何が起きているんだ！？　何故温泉がこんなに噴出しているんだ！？ 
「わからん！　だがこの振動は異常だ。海底火山の前触れかも知れんぞ！」 
　何だって！？ 
「それに湧き出る温泉が異常だ！　この水圧では直撃すればひとたまりも無い！」 
　分かった、逃げよう……と言おうとして、思い出した。 
「ダメだ！　橘がまだ下にいるんだ！」 
「何だと？」 
　さっきの奴の攻撃を受けてこの下に落ちて行ったんだ！　何とかして助け出さないと！ 
「無理だ！　この状況で下に行くなんて自殺行為だ！　せめてコレが治まってからにしろ！」 
「く……」 
　確かに、藤原の言うことは最もである。今俺がいる場所はそれほどでもないが、それでもたまに水しぶきがこみ上げてきている。下 
に行けば行くほど激しさを増すだろうし、そんな状態で人探しなど出来るわけも無い。 
　だが……このままでは、あいつは……橘は…… 
「――危ないっ！」 
　バシャン！！ 
　俺の目の前を、再び水柱が横切った。 
「ほら見ろっ！　この状態じゃ探しにいけるわけなかろう！」 
　――ここは撤退しか方法はないのか…… 
「それにこれだけ激しい状態なら、あいつはもう……」 
「ふざけるなっ！！」 
　飛び交う轟音に負けないくらいの声で一喝した。 
　そんなことがあってたまるか。あいつは生きている。生きているに違いない。 
　悪運だけは異常に強い橘京子が、目的を達成することなくのたれ死ぬなんて……絶対にありえない。 
　絶対……絶対生きているはずだ。 

　――その時。 
『――！！？？』 
　今までとは比べものにならない位の揺れを感じた。立っていられないくらいの強い揺れだ。 
　あちこちから聞こえる水しぶきもその激しさを増し、心なしか徐々に上方に近づいてくる。 
　このままでは水柱に当たって息絶えるか、増水した温泉に飲み込まれるのが早いか……どちらにしろ、良い結末は待っていない。 
　ここから逃げようにも、揺れが激しくて一歩も前に進めない。 
　つまりこのまま死を迎えるしかないってことか…… 

　……ちくしょう、俺がバカだった。 
　藤原の言うことを素直に聞いて、少しでも上に逃げていれば助かったかもしれないのに…… 


「ちっくしょぉぉぉ！！！」 


　――俺の後悔の叫びは、次の瞬間襲い掛かってきた水柱の轟音に掻き消された―― 


　……… 
　…… 
　… 


　――ん、ここはどこだ―― 

　――やけに明るいな。天国か？―― 

　――地獄がこんなに明るい訳ないよな―― 

　――だとしたら、やっぱり天国か―― 

　――どちらにせよ、俺は死んだのか―― 

　――いや、俺が死んだことはどうでもいい―― 

　――それよりも、アイツらに謝らないと―― 

　――すまない、俺が不甲斐ないばかりに―― 

　――藤原……お前もこっちにいるのか？　だとしたら俺のせいだな―― 

　――九曜……お前は超人的だから死ぬことは無いだろう。後は頼んだ―― 

　――そして橘……せっかくお前に貰った命なのにフイにしてすまなかった―― 

　――良く考えたら、結構助けられたのに―― 

　――最初に遭ったゴブリンの時も、触手と戦った時も―― 

　――それなのに、感謝の言葉もなかった―― 

　――バチが、当たったんだな―― 

　――すまん。橘―― 

　――次に遭ったら、お前に―― 



『何言ってるんですか！　まだ終わってないですよ！』 

　……え？ 

『こんなことでくたばってたまるもんですか！　海賊の親玉を懲らしめるまであたしは死にませんよ！』 

　何……だって……？ 

『さあ、早く目を開けるのです！　目を開けてからが本番なのですから――』 



『早く！！』 



　瞬間、俺の脳が一気に覚醒した。 



　辺りを見渡せば、そこは建設中のリゾート施設。先ほど侵入していた三角屋根の洞窟は少し離れたところに存在していた。 
　先ほどまでの揺れが嘘みたいに納まっている。まるで夢であったかのように。 
　どうやら俺は、三途の川を渡り損ねたようだな……あいつのおかげで…… 
「おい、大丈夫か！？」 
　藤原……か。お前こそ大丈夫なのか？ 
「ああ。あいつが……あの宇宙人が間一髪のところで俺達をテレポートしてくれた」 
　そうだったのか。 
「すまない、九曜」 

「――――――」 
　彼女は何も答えなかった。元々沈黙が信条の宇宙人だからそれに関しては疑う予知は無いのだが、しかし様子がおかしかった。 
　下に顔を背け、小さく肩で息をしている。何が起ころうとも無表情のこいつにとって、それはとてつもなく奇異な行動に見えて仕方 
ない。 
「どうした九曜？　何があった！？」 
　すると彼女はいつも以上にスローなペースで、 
「――――力を…………酷使――――し過ぎた…………――――身動きが………………取れない――――」 
「……あっ」 
　小さく声を漏らした。そう言えば、ここは魔法の障壁とやらで力が弱まっているんだった。ここに侵入する際も、一人を浮遊させる 
のがやっとだったはずだ。なのに俺達二人を無理矢理ワープさせたものだから、激しく魔力を消耗したのだろう。 
　……すまん、九曜。お前にも迷惑をかけたか。 
「大丈夫…………――――休めば――――――回復する…………」 
　ならいいが……しかし、正直これはまずい展開だ。 
　九曜と言うスーパーパーフェクト戦士が動けないと言うのもそうだが、実は俺の体力も予想以上に消耗している。 
　怪我こそ無かったが、先ほどの戦闘の爪痕は決して小さいものではない。自分ひとりならともかく、倒れかけている仲間を庇ってま 
で敵の攻撃を凌げるとは言い難い。 
　見た目五体満足なのは藤原だけだが、お荷物二人を抱えて行動するのはかなりの危険を伴う。 
　一旦どこかに隠れて、体力と魔力の回復を待つのが得策か…… 
「九曜、動けるか？　ひとまずあそこの木陰まで移動するぞ」 



「そう言えばあの洞窟で最初に襲ってきた奴ら、一体どこに行ったんだ？」 
　何とか歩き出した俺達一行は、特に敵に見つかる事も無く森の影へと侵入し、ほっと一息ついたところでふと疑問に思ったことを口 
にした。 
「アイツらなら僕とこの宇宙人で倒してやった。感謝するんだな」 
　皮肉にも自慢にも聞こえそうな口調で、侍風の戦士は語り始めた。 
　曰く、当初の手筈通り海賊の根城に侵入し、睡眠薬を仕込むのに成功した後その場を立ち去ろうとしたのだが、突如建物内が忙しく 
騒ぎ出した。 
　隠れて様子を伺ったところ、侵入者が三角屋根の洞窟に現れたと言うではないか。心当たりのあった二人は自分達以外の侵入者―― 
つまり俺と橘だ――を助けるべく、海賊どもの跡をつけてあの三角屋根の洞窟に侵入したのだという。 
「殆どの奴等は雑魚だったから、倒すのにはそんなに苦労はしなかった。ただあの魔力銃の使い手だけは少しやっかいだったものでな 
距離を取って様子を伺っていたのだが……あんたが挑発をしてくれたおかげで奴に気取られること無く堂々と倒せた」 
　果たして、今のは誉め言葉なのだろうか？　それともけなされているのだろうか？ 
「全ての海賊を倒し、あんた達の助けに入ろうとして……後は知ってのとおりだ。あんな風に温泉が湧き出るとは……こちらも予想外 
だった」 
　一体なんであんなことになったんだ？ 
「全く以って分からん。湧水量が突然増えたとも考えられるが、それより外因的要素の方が大きそうだ」 
　外因的要素？　まさか海賊どもが俺達を始末しようとして……？ 
「いや、それは無いだろう。もしそうだとしたら、僕達やあんたに狙いをつけるはずだ。しかし実際は洞窟のあちこちに飛んでいたし 
そんなことをして洞窟を崩してしまってはせっかくの温泉が台無しになってしまう」 
　なら一体誰が…… 
「九曜、お前はわからないか？」 
「――――――………………」 
　幾分落ち着きを取り戻したのか、既に平静を取り戻して静かに俺の瞳を見つめ、 
「―――――彼女………………の――――――――身に…………宿った――――力――………………――――」 
「……は？」 
　一体どういう意味だ――？ 
　しかし、その言葉を口にすることは無かった。 
　何故なら―― 


「やってくれたな、貴様達」 
　――言い様のない程の殺気が辺りを覆いつくしたからだ。     </description>
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    <title>大海原の死闘！２</title>
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      「いいか橘、ファンタジーの世界だろうが現実の世界だろうが、チームワークってもんは非常に重要なウェイトを占めているんだ。 
リーダーシップを発揮してもらうのは構わないが、それに誰もついてこなければ何の意味も無い。何かアクションを起こしたいなら、 
せめて皆の同意を得てからにしろ。わかったな」 
「……反省してます」 

　崖を登りきり、近くの木陰で身を隠した後、茂みの上で正座している橘にこう説教してやった。 
　橘は元々組織の幹部（だった気がする）ということもあり、決断力や行動力に関しては優れている部分があるのだが、如何せんその 
方向が間違っている場合も多々見受けられる。一人で勝手に出歩いてごろつきといざこざを起こしたり、感情的になって出来もしない 
ことをやろうとしたり、一人で金を使い込んだり……冷静さを欠くような言動ばっかりだ。 
　まだそんなに強い敵がいるわけでもないし、困難なトラップがあるわけでもないから然したる被害は無いが、今後そう言う場面に直 
面した場合、俺達は本当に命を落としかねない。もう少しクールに徹してもらいたいものだ。 
「あ。それどこかで聞いた事あります。確か我が師カミ……」。 
「下らんツッコミをすな。お前はもう少しそのでしゃばりを自嘲しろ」 
「……す、すみません。ですが、九曜さんも藤原さんも、基本的に自分から行動することがありませんですから、あたしが引っ張って 
いかないと本当に何もしないんで……」 
　気持ちは分からんでもない。が、暴走の一途を辿っているこいつを野放しにするほど俺も人間ができている訳でもない。 
「分かった分かった、俺も協力してやる。というか俺が指揮をとるからお前はそのサポートに回れ。いいな」 
　本当はリーダーとか班長とかそんなガラじゃないんだが、それ以外の奴が俺以上にその資質が無いんだからしかたない。働きアリの 
法則って奴だな。ご存知だろうか？　一個の巣にいるアリのうち、その八割はちゃんと仕事をしているが、残りは何もせずサボってい 
るそうだ。そして、その巣から働いているアリを取り除きサボっているアリだけにさせると、やっぱり八割が働いて残りの二割が働か 
ないらしい。本当にサボっているのかどうなのかは分からないが、アリの社会でも役割分担と言うのはきちんと出来ているってわけだ 
　これは人間社会においてもしばしば見られる光景で、でしゃばりや仕切りやがいるならリーダーが勝手にソイツがやってくれるわけ 
だが、自分から行動しない奴や引っ込み思案の奴がいたらしょうがないから自分がやるか、って訳になるわけだ。 
「そうしてもらえるとありがたいです。実はあたし、こういうの役柄は慣れてなくて……ふう、助かりました」 
　ああ、よく分かる。未遂に終わった誘拐事件で既にそんな気がしてたさ。 
「誰も動かないなら、自分から動くしかありませんでしたから。舵をとる適任者がいれば、そちらにあわせたいと思います。そもそも 
勇者はあなたですからね。あたしには乾坤一擲を投じる程の決断はできませんし。これでよかったのです。お二人とも構いませんよ 
ね？」 
「――――――」 
「これも既定事項のうちだ。仕方あるまい」 
「決まり、ですね。それでは新リーダーとしてよろしくお願いします。あたしの後釜として頑張ってください」 
　立ち上がってパンパンと埃を払った後、橘は深深とお辞儀をした。 
　というわけで、これより先は俺がリーダーとしてこの三人を取り仕切ることとなってしまったのだ。 
　藤原辺りがもっと文句を言ってくると思ったが、あっさりと承認した気がするが……深く考えても仕方あるまい。なるようになるだ 
ろう。 
　ところで、いつ橘がリーダーと言うことになってたんだろうか？ 



　一通り橘への説教が終わったところで、ようやく本題へと入ることができる。ここからが本番だ。 
　潜ませている身を少し起こし、その先に広がる光景を確認する。 
　周辺をぐるりと森に囲まれた工事現場。荒地や整地された土地が入り混り、建設物も完成間近なものからようやく柱を立て終えたも 
のまで様々。今まさに工事中でございといった感じである。 
　そんな中、目に付くのは黙々と働く作業員達。石を拾って運ぶものや、木を削って柱に差し込むもの。中には座り込んで休んでいる 
ものもいた。サボっている……というより休憩しているだけだろうが。数はおよそ二十。それほど多くは無いように見えるが、これで 
全員と言うわけではない。ここからでは見えない位置で働いているものもいるだろうし、それに先ほどから行き来している建物もある 
からである。 

　その、人が行き来を繰り返している建物は二つあった。その内の一つ、大多数の作業員が行き来を繰り返している建物は休憩所だろ 
うか？　そこそこ人の往来が多いようだが……。ちなみに更に奥に見える、もう一つの建物には殆ど人の往来は無い。忘れた頃に一人 
が入り、そしてまた忘れた頃に一人が出て行く。そんな程度でしかなかった。 
　さてさて、どう出るべきかね。 
「九曜、どうだ？　賢者の石の気配はわかるか？　ここまで近づいたんだし、少しは特定できるだろ？」 
「――――――――――――」 
　俺の言葉にワンテンポ送れながらも杖を取り出し、およそ人間には理解不能な呪文を唱える。同時に杖の先端に据えつけられた水晶 
は蒼く輝き、そして点滅を繰り返した。 
「――――近い…………もうすぐ――そこ…………」 
　呪文と区別つかない平たいトーンが返ってくる。すぐそことは一体どこだ？ 
「――――――」 
　暫し考え込みながらもゆっくりを杖をあげ、その方向を指した。 
　木々が立ち並ぶ、その先にあるのは、 
「あっちは……今施設を建設しているところに見えるんですが……」 
「――――そう…………」 
　まさか、あの工事現場のどこかにあるなんて事は…… 
「正解………………あの――――――中心に………………眠っている――――――」 
　……マジですか？ 
「――――マジ…………」 
　おいおいおい、何だこの相場を無視した展開は？ 
　大概のゲームじゃ『水』の力を得るためには海岸線にほど近い岩場の洞窟が相場だって言うのに、人口施設のど真ん中に存在してい 
るとはね。普通のゲームじゃ物足りないからと言って、そんな小手先だけの小細工は止めて欲しいものだ。 
　第一あの中に入って探すなんてかなり無謀だ。部外者の俺達がのこのこと建設現場に行って探しものしていたら間違いなく怪しい人 
状態、いきなり攻撃されることはないにしても、事情徴収の後強制送還されること請け合いである。 
　しかも困ったことに、相手は漁師、港町の一般市民だ。海賊共ならば容赦する必要も無いが、カタギの人間に手を出すわけには行か 
ない。もしかしたら海賊も混じっているかもしれないが、残念ながら顔だけで人を判断するのは難しい。 
　つまり、人に見つからず傷つけず、敵の縄張りど真ん中で探しものをしなさいってことになる。 
「無理だろ、普通」 
　だが、いくら愚痴を言ったところで何も解決はしないのもこれまた事実である。未だ杖を掲げている九曜に手を下げるよう促し、そ 
して別の質問をしてみる。 
「なあ、魔法で姿を消すとかってのは……無理か？」 
「ここでは……無理――――障壁が――――力を……阻害している――――」 
　港町で一回、この島に着いたと時にもう一回。そして今回も同じ返答を返した。やっぱりか。何となくは予想していたが、いよいよ、 
手詰まり感漂ってきたぜ。 
「作業員になりすまして調べるってのは？」 
　九曜の髪を分け入るかのように現れたのは、例のでしゃばりだった。さっき俺が諌めたことを既に忘れてやがる。 
「……う、す、すみません……」 
「まあいい。その意見には賛成だ」橘にしてはまともな意見だしな。 
「ふふん、あたしだってこれくらいの計略は考えつくのです」 
　どうですかと言わんばかりに胸を反らした。やれやれ。少し真っ当な意見を言ったところで天狗になるんじゃないぞ。「さっきから 
そう言ってるだろ、」そう突っ込もうと思った瞬間、 
「いや、それは止めた方がいい」 
　別の人物によって阻まれた。 
「えっ……？」 
　橘の意見を否定したのは、藤原。 
「何故だ？」 
「ここの作業員は、港街の漁師達だと言う事は先ほど酒場で聞いたな」 
　ああ。 
「あの街に漁師がどのくらいいるかは知らないが、街の規模と工事の規模からして、ここで働いている漁師はおよそ数十人程度。それ 
ほど多い人数って訳じゃない」 
　それがどうした？　人数が少ない方が忍び込みやすいだろうが。 
「ふっ、人数が少なければ容易に事が運ぶとでも思っているのか？　おめでたい奴だ。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんやとはまさに 
この事を言っているに違いないな。くっくっく……」 
　つり上がった唇が俺の平常心をかき乱し、喉を鳴らす音がやたらと耳障りに聞こえた。思いつく限りの罵詈雑言が口から出かかって 
いたが、こいつとパーティを組んでいる以上既定事項となりつつある出来事であるから何とかお口のチャックを閉じ、ギリギリのとこ 
ろで踏みとどまった。 
「何が言いたいんだ。優越感に浸るのもいいが、分かりやすく説明しろ」 

　それでも若干皮肉交じりの言葉を浴びせるが、全く気にした様子も無く不発に終わる。未来の優位性から来る自信の表れだろうが、 
俺にとっては腹立たしいことこの上ない。朝比奈さん（大）以上に裏をかいてやりたい存在の一つである。今に見てろ。 
　さてその藤原だが、気持ち悪い笑いを見せるのに飽きたのか、やがて口を元の形へと戻し、そして淡々と言い放った。 
「つまり、作業員全員が顔見知りの可能性がある」 
『あ……』 
　俺と橘は同時に声を上げた。つい失念していたが、藤原の言うことは最もだ。お互いが知り合いと言うことならば仲間意識も強いだ 
ろうし、逆に言えば俺達が紛れ込んでも、一目置かず関係者じゃないと見破ってしまうだろう。 
「そう、その通りだ。日雇いで雇われたどこの骨とも分からん輩ならばその方法も使えただろうが、知り合い同士しかいない作業場で 
見知らぬ人物がこそこそしていたらそれこそ訝しく思われる。そのまま通報されて追い出されるのが関の山だ」 
　うむ……ならどうすればいい？　夜を待って探すか？ 
「それも非効率的だ。加えてあの杖は賢者の石とやらに反応して光るのだろう？　夜空の闇に紛れようというのに、侵入していること 
を周りにばらすマヌケがどこにいる？」 
　それじゃあ日の暮れかけや日の登りかけに探索するってのはどうだ？ 
「構わんが、果たしてそんな短時間で見つけられるのか？　それにそれまでどこで身を隠すのだ？　木々に覆われているとは言え、こ 
の辺りにも当然見回りがくるだろう」 
　ええい、なら堂々と殴り込みをかけて…… 
「孫子や六韜三略を読み返すんだな。相手は漁師だけじゃない。姿は見えないが海賊共もいるんだ。敵の戦力も分からんのに戦いをを 
挑むなど正気の沙汰とは思えん」 
「くううう、なら一体！　……どうすればいいんだ？」 
　ありとあらゆる意見を藤原に否定され、若干……いや、かなりムカついていた俺は微妙に声を荒げ、そして直ぐ潜めた。 
「大丈夫だ。そんなときのために秘策がある」 
　言って、藤原は再び口を吊り上げた。 



　作業員が休憩所として使用している建物はそれほど立派な造りをしているわけでもないが、それでも数十人が集まる場所だけに大き 
さだけはそこそこ広かった。平屋ながらも、食堂と調理場、休憩所、事務所のように机や椅子が建ち並ぶ部屋、会議に使うようなだだ 
っ広い部屋エトセトラエトセトラ……俺の家の近所にある公民館や集会所よりも広いかもしれない。 
　当然、俺達が身を隠せるスペースもそこそこある。 
「（ここまでは侵入できましたけど、ここからどうやって調理場までいくんですか？）」 
　とある部屋の一つ。工事用具がやたらと置かれている納戸のような物置のような、そんな場所。整然と並ぶ木製の杭に身を委ねた橘 
は、砂袋の上に座り込んだ俺に小声で語りかけた。 
「（まあ、何とかなるさ）」つられて俺も小声で話し掛ける。 
「（そんな事言って。行き当たりばったりの計画じゃダメですよ）」 
　はい、お前が言うな。 
「（大丈夫だ。この時間、大多数の作業員が外であくせく働いているはずだ。調理番の奴ら以外に人は入ってこないはずだ）」 
「（ならいいんですけどね……）」 
　そう言って橘は不満交じりの溜息をついた。 
　俺達が侵入したこの屋敷。先の説明したとおり、作業者向けの食堂兼休憩所である。説明するほどでもないと思うが、作業者はこの 
部屋で飯を食い、休憩するわけである。 
　では何故ここに侵入したか。もちろん建物内をしらみつぶしに探すわけでも、事情を知っていそうな人に話を聞くためでもない。 
　答えは、藤原が唱えた『秘策』にあった。 

　……… 
　…… 
　… 

『作業者を眠らせる！？』 
「ああ」 
　唇を弧の形に曲げたまま、藤原は俺達の反応を楽しむかのように笑みを浮かべた。 
「賢者の石は建設現場のど真ん中で、探しに行けば確実に見つかる。とは言え作業者はカタギの人間。手を出すのは忍びない。関係の 
無い人間に手を出さず、僕達が悠々と探し物をするには、眠ってもらうのが一番だ」 
「だが待て、どうやって眠らせるんだ？　九曜の魔法はここでは弱まっているから効果は望めないぞ」 
「考え無しに提案するほど低俗じゃない。これを見るんだな」 
　懐から取り出した木綿の袋を軽く放り投げ、そして再びキャッチした。「何だ、それは？」 
「睡眠薬だ」 
　睡眠薬……って、なんでまたそんなものを？ 

「あんた達と合流する前、とある街で手に入れた代物だ。元来魔術の儀式で、熊や獅子などの猛獣を生贄に祭り上げる際に暴れないよ 
う処方するものらしいが、しかし製造した日から時間が経ち過ぎて本来の効果が無くなり、大型の猛獣には殆ど効き目が無くなってし 
まったそうだ。とは言え、温厚な動物ならまだまだ使える。気性や大きさにも依るが、人間程度の動物なら半日程度は効くそうだ。格 
安だったこともあり、有事に備えて買っておいたのだが……どうやら役に立つときがきたようだ。これを使って作業員を眠らせ、その 
間に賢者の石を探せば無益な戦闘も避けられる。余裕があれば現場を荒らすか、あるいは工具を破壊すれば作業を大幅に遅らせること 
ができる。一石二鳥だ」 
　いつに無く饒舌な藤原。しかし俺は藤原の申し出に一つの疑問を抱いていた。 
「でも、どうやって睡眠薬を摂取させるの？　そのまま服用させるわけにはいかないでしょ？」 
　それはどうやら橘も同じだったらしい。いくらよく効く薬でも、その人が飲んでくれなければ意味が無い。 
　しかし藤原は待ってましたかと言わんばかりの表情で、 
「作業員の食べ物や飲み物にでも混ぜればいい。幸いなことにこの薬は水溶性だ。加えてここには食堂があるようだし、そこに侵入し 
て混ぜてしまえばいい」 
　なるほど…… 
「が、ちょっと待て。ということはあの建物に侵入しなければいけないのか？」 
「そうなるな」 
「『そうなるな』じゃないだろ。どうやって侵入する気だ。正面切って侵入するわけにはいかないだろうが」 
「侵入するには何も正面からという既定事項はない。よく見てみろ。あの建物の裏手側は比較的森に近い。ああいった建物には勝手口 
がつきものだ。森を伝って勝手口から侵入すればさほど難しいものではない」、 
　藤原に指摘されよく見ると、確かに裏手側は森に面していた。加えて建設現場とは逆方向だから、多くの作業員の目は向けられてな 
いだろう。確かにあそこからなら侵入も容易いかもしれない。 
「なら、早速計画を実行しよう。先ずは二手に分かれる」 
　なぜ二手に？ 
「あそこの建物は主に作業者向けだが、もう一つ、さらに向こうにある建物があるだろう。豪奢な佇まいからしてあちらが海賊共の根 
城だ。そちらも押えておくに越したことはない」 
　ふむ……確かにその通りだ。作業者達が眠りこけて探し物をしている間にやってこられても困る。 
「奴らの本拠は一筋縄ではいかないだろう。僕が宇宙人と乗り込む。あんた達二人はそっちを頼む」 
　色々とエキスパートな九曜が仲間にいた方が心強いのだが、適材適所という言葉もある。より重要なミッションに就くのは仕方ない 
し、その方が良いと思う。だが藤原、何故お前までそっちに行くんだ？ 
　若干口を噤んだ後、。 
「……少し考えることがある。それでは不満か？」 
　不満と言うほどのものはない。珍しく積極的に行動しているから何があったのかと思ってな。わかった、そっちは任せる。上手くや 
ってくれ。 
「……ふん、あんた達もな」 
　顔を横にそらし、不満げな表情を露骨に示しながら俺に睡眠薬を渡した。 

　… 
　…… 
　……… 

「（これがその睡眠薬ですか。本当に効くのですかね）」 
　ポンポンと、藤原がそうしていたように木綿の袋を軽く投げ、そして再びキャッチする。その姿を見て、橘はやや不満げな顔を浮か 
べた。 
「（さあな。だがこれ以外に良い案が無いから仕方あるまい。ブツブツ言ってないでそろそろ忍び込むぞ）」 
「（あ、待ってください！）」 
　椅子にしていた砂袋から立ち上がると、橘も慌てて歩き出した。その時背もたれにしていた杭に余分な力が加わり、ゴロゴロと音を 
立て転がり始めたのは言うまでない。 
　倒れる前に止まったから良かったものの……あんまり慌てるんじゃない。 
「（うう、ゴメンなさい……）」 
　……やれやれ。 

　目的の場所に向かう途中、辺りが開けた廊下もあった。しかし俺達を除いて誰一人歩いてくる様子も無く、そのまま突っ切ることが 
出来た。他の部屋には休憩中の人間も何人かいたが、全員爆睡中だったのでこれまた警戒する必要がなかった。彼らは夜勤部隊なのか 
ね。あと鉄製でできたいかにもなドアもあったが、今回の目的には何も関連が無いと思い無視を決め込むことにする。万が一にでも誰 
かと鉢合わせるのもご免被りたい。 
　と言うわけで、目的の場所まで一直線に目指した俺達は、特にトラブルもなく調理場へと侵入することに成功した。そしてこれまた 
上手い具合に調理場には誰もいない。時が昼ころだと言うことあり、随所で昼食の準備をしている光景も見られた。大き目の寸胴で煮 
込んでいるのは、地元で取れた魚だろうか？　それとも肉だろうか？ 
　まあどっちでもいいけどな。 
「（しめた。煮物なら簡単に睡眠薬を仕込みやすい。誰もいないし今のうちに入れちまおう。橘、廊下を見張っててくれ）」 
「（了解！）」 
　耳元で囁く声を聞いた後、橘は廊下と調理場を隔てるドアの前へと立ち、辺りを数回見渡す。そして振り返りＯＫのサイン。 
　急いで紐を緩め、袋の中の粉を鍋に移す。舞った粉が独特な甘い芳香が俺の嗅覚神経をくすぐる。……確かに効きそうな匂いだが、 
ここで俺が眠ってしまうわけにはいかない。トラップしそうになるのを何とかこらえて、残り半分程度になったところで袋の口を閉じた。 
「（あれ、全部入れないの？）」 
「（ああ。全員が食べるとは限らないしな。それよりも、ほら。あっちに入れたほうがいい）」 
　俺は外に流れる小川を指さした。そこには数個の金属製の容器が静められていた。 
　あの中にあるのは、恐らく飲み物。天然の清水で冷やしているのだろう。 
「（汗水たらしながら働いているんだ。あっちの方が全員に行き渡る）」 
「（なるほど、ちゃんと考えているんですね。見た目と違って）」 
　……こいつに言われると腹が立つ。 
「（うるさい、それよりもちゃんと見張ってろよ。いいな！）」 
　軽口叩いて外に出ようとした瞬間、 
『あ……』 
　ドアを開けて入ってきた男と思わず声が揃ってしまった。 

「あ、あんたら……そこで何を……」 
　この場の三人目の人物――エプロンとコックの帽子を被っているから、おそらく調理当番の男――はその体格にそぐわず声を震わせ 
その場を後ずさりした。 
「あ、あの……実は、調理担当として雇われて……交代で調理をするのも大変だと上からのお達しがあって……」 
　舌先三寸、苦し紛れの言い訳を試みる。 
「そんな話聞いてないのだが……本当か？」 
　やっぱり疑われた。「は、はい！　突然だったもので、今日はひとまず手伝いと言う形で……」 
「……うむ……しかしな……」 
　男はあからさまに訝しげな顔をする。まだ何かあるのか！？ 
「……なら何で鎧を着込んでいる？」 
　うっ！ 
「…………これは……ですね、お守りですよ、お守り。万が一にでも魔獣とかち会った時のために用意していたんです！」 
「……ふうん、そうか」矯めつ眇めつ俺を見つめ、「すまない、疑って。本職がいてくれりゃこっちも大助かりだ」 
　警戒心が解けた調理番は部屋の中へとやって来て、俺の肩をポンポンと叩いた。その場の勢いもあって、愛想笑いでその場をしのぐ 
　ふう、何とか誤魔化せたか…… 
　そう言えば橘はどこに行った？　廊下の方を見るが、橘の姿が見当たらない。……あいつ、どこに隠れやがったんだ？　こっちは大 
変だと言うのに……。 
「実はよ、俺っちの味付け皆に不評でさ。最近自信喪失気味だったんだ。俺の自信作、『ピリカラ海鮮サワークリーム煮混み』。ちょ 
っと味見してくれないか！？」 
　俺の内心の動揺など分かるべきも無い調理番の男は、やたら慣れしつこく小皿にスープを取り出し俺に渡してきた。 
　そう、睡眠薬入りのスープである。 
　もちろん味見などできるはずもなく「いえ！　結構です！」と言葉を返すしかなかった。 
「どうして？　……そうか、やっぱり不味いのか……本職は匂いだけで分かっちまうってわけか……はあ……せっかくだが捨てるか……」 
　そんなことされたらせっかくの睡眠薬がおじゃんになってしまう。俺は寸胴を掴む調理番を慌てて止めに入る。 
「いや、あのですね！　実はさっき味見をしたんです。そう、一人の時に！　素人料理にしてはなかなかのものでした！」 
「そ、そうか」 
　ちょっと照れる調理番。ごついから可愛いとまでは言えないが、愛嬌溢れるおっさんである。 
　……なんか色々と大変な人である。橘よ、俺を一人にしやがって。恨むぞ。 
「ところで、その袋は何だ？」 
　ギクッ。 

「え？　これ？　ええとですね、これは……ちょ、調味料の一つでして……これを入れると味に深みが増すんです」 
　もちろん嘘だ。 
「ほほう、ちょっと、貸してみな」 
「えっ……」 
「どんな味なのか確かめたいからさ」 
　ここで『ダメです』とは言えない。いや、拒否する理由が思い浮かばなかった。下手な嘘をついて拒否すればますます怪しまれる。 
「どれどれ…………ん？　この匂い、嗅いだことあるな……確かあれは魚場を荒らしまわっている鮫を退治する際、知り合いの魔導士 
から分けてもらった眠り薬……んんっ？　眠り薬！？」 
　……まずい展開になってきた。てか何ゆえピンポイントで睡眠薬の存在を知ってるんだこのおっさんは！ 
　これ以上の言い訳は無理だ。くっ、仕方ない、無理矢理にでも黙ってもらうしかないっ！ 
　男に気取られぬよう、気配を殺して剣に手をかけ、様子を見守る。スキがあればいつでも攻撃態勢に移るためだ。 
「眠り薬がどうして……ん？　そう言えば鍋からも同じ匂いが……まさか鍋にこの薬が……何のために…………はっ、もしかしてお前 
達……」 
　……く、これ以上は無理か。 
　手にした剣に力を込め、そして振り上げる！ 


　トサッ。 


　突然。 
　本当に突然だった。 
　声を荒げようとした彼は、突然その場に倒れこみ、うつぶせになったままその場に眠りこけたのだ。 
　もちろん、俺がやったわけではない。剣は上空に構えたまま、振り下ろすタイミングを失っている。 
「どうしたんだ……一体？」 
　剣を鞘に戻し、不審な目つきで恐る恐る彼に近づいた。 
　ゴンッ。 
　テーブルの下から物音が聞こえた。 
「だ、誰だ！？」 
　テーブル下に置いてあった物陰から、一際大きな影が動いた。影は次第に大きくなり、そしてついにその全貌を明らかにした。 
「……あいたたた……あたしですよ、あたし。大丈夫でしたか？　危なかったのです」 
「橘っ！？」 
「ふう、よっこらしょ。あー、疲れた」 
　ううんと体を伸ばし、我慢していたおやつを目の前にしたかのように顔を綻ばせた橘は、体にまみれた埃をポンポンと払って俺と対 
峙した。 
「お前、今までそこに隠れていたのか？」 
「はい、そうです。この人が突然入ってきたもんだから、ビックリしちゃって。とりあえず身を隠せそうなところに避難してたの。で 
も意外と狭くて、中々体も動かせなくて……大変だったわ」 
　そ、そうか……逃げたわけじゃなかったのな。だがこっちはそれ以上に大変だったぜ。どこまで嘘が通じるか冷や冷やもんだったん 
だからな。「ところで橘、これはお前がやったのか？」 
「ええ」と橘。「即効性の眠り薬を仕込んだダーツです。不安定な体制からだったけど、ちゃんと命中したわ」 
　よく見ると、調理番の男の腕に、小型のダーツが突き刺さっている。こんな隠し芸ももっていたのか、こいつは。 
「ふふん、どうですか？　役に立ったでしょ」 
　可愛らしい笑みを嫌味たっぷりに浴びせるその姿はまさしく橘京子である。 
　その橘は、調理番の男に刺さったダーツを抜き、近くにあった布で軽く拭いた後、太腿に装着していたホルダーにしまいこんだ。ス 
カートを捲し上げる姿にドキッとしたのは言うまでもない。男の悲しい性だ。 
「いつの間にそんなものを用意したんだ」 
「九曜さんにリクエストしてもらって、ここに仕込んでおきました。もしもの時のアイテムなのです。バッグでもいいんだけど、いか 
にもここに隠してますってのが嫌だったし、あと見た目ダサかったし。結構かっこいいでしょ？」 
　よく分からん彼女の価値観に、俺は「ああ」としか言えなかった。そんなところにダーツを仕込むとは……まるで警視庁の女豹であ 
る。あっちは正確にはナイフだけど。 
「さて、残りの睡眠薬を早く仕込みましょう。ぐずぐずしてたらもうすぐご飯の時間になっちゃうわ」 
　そうだな。 

　金属製の入れ物に薬を仕込んだ後、俺は橘と協力して配膳作業を行っていた。調理番を眠らせてしまったために余分な仕事が増えた 
形となったわけだ。 
　とは言え、飲み物が入った入れ物と、先ほど完成した煮物料理を食堂に運び込むだけだったけどな。それ以外の準備は既に整ってい 
たからこの調理番には感謝したいところだ。 
　そうそう、このおっさんの処遇に関してだが、このまま起きてもらっても困るので、さるぐつわと手足を縛って調理場裏の勝手口付 
近でお休みいただくことにした。最悪でも明日の朝、次の当番が存在に気付いてくれるだろう。 
　全てが終わった後、先ほど来た道を戻り、分かれる前にいた森へとやってきた。各々の仕事が終わった後、ここで待ち合わせようと 
約束していたからである。 
　しかし、ここで俺達の予想を裏切る事件が発生していた。 
「九曜さん達、来てませんね……」 
　そうなのである。俺達がここに到着して約半時間。九曜と藤原は未だ姿を見せなかったのだ。既に息を整えた俺達は暇を持て余して 
いた。 
　だがここで勝手な行動をとるのは早計だ。 
「あいつらが攻めあぐんでいるとは思えん。何かしら思い立ったことでもあるんだろう。当初の約束通り、ここで待って様子見してお 
けばいいさ。それにもう少しすればあの睡眠薬入りの飯を食った奴らが眠りこけるだろう。賢者の石探しもあいつらの手助けも、その 
後すればいいことさ。それまでは休んでいてもいいと思うぜ」 
「……うん、それもそっか。それじゃあ少し休んでおきましょう。ふぁあ～」 
　うちの妹にも劣らぬ、マヌケなあくびを一つした後、橘は近くの木陰に背をもたれ、十秒と立たずに眠りに陥った。 
　おいこら、休むってのは寝ると言う意味じゃないぞ。 
「すう……すう……」 
　……ダメだ、こいつ。まるで緊張感が見られない。敵の陣地に忍び込んで活動していることを忘れてもらいたくないね。こんなんだ 
から俺が苦労する羽目になるわけで。 
　はあ、ハルヒとはまた違った意味で扱いづらい奴である。 
　今後本当に上手くやっていけるのかね。 
　ふう、やれやれ…… 



　……………… 
「……さん、……さんったら！」 
　……………… 
「起きてください！　時間ですよ！」 
　……あと五分…… 
「……もうっ、こんなに寝起きが悪いなんて……こうなったら……」 
　……………… 
「えいっ！！」 
「うごあぁああいぃぃっっ！！！」 
　――余りの激痛に、絶叫を上げる暇すらなかった。 
「何しやがるっ！　このバカ橘っ！！」 
「しーっ！！」 
　……っと、そうだ。大きい声を上げちゃダメだったんだな……だがこの一撃はきつい…… 
「（お前、よりにもよって男の一番大事なところを……もっと普通に起こしやがれ！）」 
　大声が出せないから迫力もイマイチどころかイマサンくらいである。 
「（股間を蹴ったことは謝りますけど、でもずっと寝ているあなたが悪いんですから。しかも敵地のど真ん中だと言うのに）」 
　さっきまでぐうぐうと寝ていたこいつに言われるともの凄く腹が立つ。 
「（あたしは気配を感知して起きる能力があるから大丈夫なのです。決して無防備に寝ているわけじゃありません）」 
　絶対嘘だ。なら今度試してやる。寝ているところで額に「肉」って書いてやるからな。 
「（低俗な悪戯は好きになれません……って、そんなこと言ってる場合じゃないわ。ほら、あっちを見て）」 
　橘が指差したのは、俺達が先ほど侵入した建物。 
「（昼休みになって暫くたつんですけど、その後全く動きが見られません。おそらく食事を食べて皆寝込んでるんだと思います。今が 
チャンスです！）」 
　確かに見てみると、作業場には人っ子一人見えない。だがまだ休憩中で外に出ていないだけと言う可能性もある。 
「（一旦あの建物の様子を観察してからだ。念には念を入れたほうがいい）」 
「（そうですね、分かりました。では様子を確認しに行きましょう）」 
　急いで走り出す橘に、「ちょっと待て」 
「（どうしました？）」 
「（言っておくが、誤魔化そうともしても無駄だ。さっきの蹴りの痛みは忘れないからな。後で責任とって貰うぞ）」 
「（わ、わかりましたよっ。だから早く行きますよ！）」 

　それから数分の後、鈍い痛みがようやく治まった俺は橘とともに建物の近くまでやってきた。森の中に身を隠しながら、建物の中を 
探る。すると、 
「（ほらっ、皆さん寝てますよ！）」 
　かすかに見える食堂の窓から見えたのは、橘の言葉通りの光景だった。あるものは椅子に座ったまま、あるものは机に突っ伏したま 
ま。もしかしたら床に寝転んでいるかもしれないが、ともかく人と言う人全員が沈黙を続けていた。 
　どうやら藤原の睡眠薬の効果はバッチリだったようだ。いや、疑ってたわけじゃないが、実際目の当たりにすると結構怖いものだ。 
　願わくばあの薬がただの睡眠薬であって、永遠の眠りを与える睡眠薬じゃないと願うことのみだ。 
「（念のため建物の中に入って確認するぞ）」 
「（何もそこまでしなくても……もしかしたら起きちゃうかもしれないじゃないですか）」 
「（念のためだ、念のため。サッと見渡して確認するだけだ）」 
「（でも……）」 
「（さっき股間を……）」 
「（……もうっ、わかりましたよ！）！」 
　というわけで、恐る恐る建物の勝手口へと近づき、慎重に辺りを探る。人の気配はするものの、ここから流れる空気はおよそ場違い 
のものだった。 
　できるだけゆっくりと、音を立てずドアを開く。たしかここは休憩所の一つだったよな。 
　小指すらも入らない程の隙間を開け、中の様子を探る。するとそこにいたのは、屈強な男たち。しかし全員が全員ともその場に倒れ 
こんでいた。よく見ると俺達が先ほど配膳した食事や飲み物を手にしている。 
　中に入って更に確認。男たちはすうすうと寝息を立てている。どうやら本当に眠っているだけだ。 
「（もういいでしょ。起こしたらまずいんだし、さっさと賢者の石を探しに行きましょうよ）」 
　まあ待て橘。少し気になることがある。そこを調べてから行くことにする。 
「（ま、まだ調べるんですかぁ……）」 
「（俺の大事なところを蹴ったお前が……）」 
「（言わないで下さい！　わかったわよ、行けばいいんでしょ！？）」 

　さて、俺が気になって向かった先というのは、この建物にある一つの部屋だった。 
　それは他の部屋が簡素な板で出来たドアなのに対し、その部屋だけは鉄製で頑丈なつくりになっている件。実はここに侵入してから 
気になっていたのだが、当初の目的とは関係ないためスルーしていた。だがこうなった以上、ここも調べておきたいものだ。 
　先ほどと同じく微かに扉を開く。えらく重要そうな佇まいの割に鍵はかかっていなかった。油の切れが悪いのか錆付いているのか、 
ギギギギと響く音が一瞬俺達を驚かせる。そこそこ反響したにも関わらず、廊下、そして部屋の中から誰かが動き出す様子は見られな 
い。無人なのか、あるいはここも眠りこけているのか…… 
　なるべく音を立てず、部屋の中に潜り込む。そこにあったのは…… 
「ここは……設計室……ですか？」 
　きょろきょろと辺りを見渡しながら、橘が俺に続いた。 
「ああ、多分な」 
　同じく部屋をきょろきょろと見渡しながら、俺は頷いた。 
　部屋の中央に置かれたテーブルには、模造紙クラスの大きさの紙が何十枚と転がっており、その上には重りなのかはたまた設計用の 
道具なのか、数種類の定規とコンパスが無造作に置かれていた。 
　机を挟んで両脇にあるのは傾斜がつけられた製図用の台。たしかドラフターっていうんだっけな。 
　橘の言うとおり、ここはどう見ても設計室にしか見えなかった。恐らく、これから建てられる施設を製図するための部屋だろう。 
　何とはなしに、ドラフターに設置されている書きかけの製図を覗き込む。図面には『本館　１Ｆ　カジノ』とかかれていいた。どん 
なものが設置されるかまでは書かれてないが、板や壁の太さ大きさはミリ単位まで細かくかかれている。 
　へえ、海賊共が考えた割にはやたらと細かいものだ。もっと大雑把にしてもいいと思うんだが。すげえ、ネジの材質やトルク、果て 
はピッチまで指定しやがる。ここまで緻密に作られてるってことは、海賊達にとって余程重要な収入源になるに違いない。 
　いや、金儲けどころか、もしかして……あいつら…… 
「あ、これ！　見てください！」 
　橘の声で自分の中に沸き出でた、仮説にも劣る妄想を振り払った。「どうした？」 
「これって、怪しくないですか？」 
　指を指したのは、机の上に広がっていた一枚の製図だった。レイアウトからして、海賊共が設立しようとするリゾート施設全体の見 
取り図だろうか。 
「これがどうかしたのか？」 
「ここを良く見てください、ここ！　怪しくないですか！？」 
　言って更に指を製図に近づけた。 

「……なるほど、確かに」 
「でしょ？　でしょ？　早く行きましょう！」 
　遠足に行きたくて行きたくてたまらない幼稚園児のように、橘は興奮した表情を見せた。 


「リゾート施設のど真ん中にこんなものがあったとはね……」 
「ホント、絶対隠していたとしか思えません」 
　橘が示した『怪しい場所』――島のおよそ中心に存在する下向きの洞窟に進入した俺は、微妙に感心しながら暗い足場をゆっくりと 
下っていた。 
　この洞窟、洞窟と言うよりは穴と言っても過言じゃないもので、直径およそ十メール、深さは全くの未知である。暗くて底が見えな 
いというのもあるが、この穴が限りなく深いということもあるだろう。 
　また、その穴に沿うような形で螺旋状の道が作られている。そこそこの幅はあるものの、踏み間違えれば穴の底、およそ助かりそう 
にないだろう。目印代わりのロープが張ってあるが、踏み間違えたらロープを掴んだところで助かりそうにも無い。 
　しかし、いかにも何かありそうな場所なのは間違いなかった。 

　あの後、他の設計資料や議事録と言った資料も調べてみた（会議の資料を取っておくなど結構律儀な海賊共である）。 
　それによると、この洞窟自身は海賊共が住みだす以前から存在していたようで、その一番奥、つまり一番深い部分には温泉が湧き出 
ていることが分かった。 
　これに目をつけない海賊共ではない。当初の計画は単なる温泉施設だったのだが、話は肥大化し、スパや温水プールといった一台レ 
ジャー施設にしようという計画を掲げ、設立に向けて着々と計画を進めていったことが議事録から読み取れた。 
　何ともまあ、欲深い海賊共である。 
　俺達が洞窟があることに気付かなかったのは、建設物が邪魔をしていたのと、この洞窟を覆うように三角屋根の建物が建てられてい 
たからだ。恐らく掘削施設か、あるいは温泉汲み上げ施設のどちらかだろう。 
　あるいは、意図的に隠しているのかもしれないが、な。 

「気をつけろよ、橘」 
「大丈夫ですよ、これくらい」 
　悪い足場をものともせず先陣を切るのは、非高所恐怖症なのか、あるいは何も考えてないだけなのか。 
「だって、またスカートの中を覗かれるの嫌だから。あなたより低いところにいないと安心できないわ」 
　いくら俺でもそこまで飢えてはおらん。しかもこれだけ暗いと見ようと思っても見えないさ。よっぽど近づかない限りな。 
「だから距離をとっているのです」 
　そうかい、もう何でもいいよ。 
「……でも、本当にここにあるのかしら、賢者の石って」 
　おいおい、いきなり失望するようなこと言うなよ。お前だってここが怪しいと思ったんだろ。 
「そうだけど、確信はないから。せめて九曜さんがいてくれたら助かるんだけどな……」 
　ああ。そう言えばさっきから音信不通状態だったな。あいつらならそうそう敵にやられる事もないだろうけど、これだけ長い時間連 
絡が取れないと不安であるな。だがな、橘、 
「まずはあたし達ができるだけのする、でしょ。大丈夫、分かってます。何ならあたし達が賢者の石を見つけ出しましょうよ。最近ち 
ょっとバカやってたから、あたしの実力を知らしめてやるのです」 
　……バカやってた自覚はあったのな。まあ、落ち込んでいるよりはいいけど。 
「それに、いつの間にか賢者の石を手にしているかもしれません。先日の一件のように。あたしってばその手の運はある方ですから」 
　なるほど。つまり、 
「またあそこに賢者の石を挿れられたいって言うわけだ」 
「なっ……！」 
　俺の言葉に、橘はくるりと振り向いた。 
「橘さん、意外とお盛んですねえ」 
「……そんなこと無いわよ！」 
　暗くてよく見えないが、若干橘の顔が紅くなっているように見えた。よし、いい機会だ。少しからかってやれ。 
「いやいやいや。あなたも立派な青少年。体をもてあます事もありましょう」 
「…………！」 
「それは当然のことですよ。ただできればもう少し一目を憚っていただけたら嬉しいですねえ。あれじゃあただの○乱行為にしか見え 
ません故」 
「………………」 
　俺のセクハラ紛いの言葉に、しばしの沈黙。そして。 

　橘はやおら背にした弓を構え始めた。 

「……ちょっと、じっとしてもらえる？」 
「……ちょ、冗談だ！　悪かった！　俺に向けるのは止めてくれ！」 
　マジでやばいって、そう言うのは。ほら、朝比奈さんも言ってただろ？　人に向けて撃っちゃいけませんって。 
　……あ、そうか、あの映画見てないかこいつは……などと余裕ぶっこいている場合じゃない。 
　橘の殺気は以前消えてない。ギシギシと音を立てる弓。右手に納まる獲物は、狙いをゆっくり定めている。 
　――まさか、本気で放つ気か！？ 
　そう思った瞬間、橘の右手は矢を解き放った！ 
「えいっ！」 
　思わず目をつぶり、身を潜め…… 
「ぐっ、うおぁぁ～！」 
「！？」 
　後方から聞こえる叫び声に思わず目をやる。 
　声は奈落の奥底に消えていったが、それと同時に緊張感が走った。。 
　暗くてよく見えないが、俺達にあからさまな殺気を送ってくる人数、およそ十。 
　直感で分かった。こいつらは現場作業員だった港町の漁師じゃない。おそらく―― 
「油断しないで！　敵よっ！　海賊達が現れたわ！！」 
　橘が叫ぶや否や、殺気が一斉に動いた！ 


「くっ！」 
　慌てて剣を抜き、構える。しかし。 
「だめだ、どこにいるのかさっぱり分からん！」 
　辺りが暗いせいもあるが、足音が反響しまくって距離感すらつかめない。目で見える範囲が限りなく狭いこの中では、敵の存在がわ 
かった段階ではもう遅い。 
　どうすりゃいい！？ 
「左っ！　左からです！」 
　――橘っ！？　まさか見えるのか？ 
「もうすぐそこっ！」 
　声が終わるか終わらないかのタイミングで、人影が蠢くのが見えた。 
「このっ！」 
「――ぅおっ！！」 
　何か武器を振り上げたようにも見えたが、俺のほうが早かった。勢いに任せた俺の剣は襲ってきた男の腹を薙ぎ、そのままロープを 
潜り抜けて崖へと落ちていく。 
「今度は正面！　来るわ！」 
　反射的に剣を右九十度回転。正面から現れた影の武器を絡めとる。 
「なにぃ！？」 
　間髪入れずみぞおちに蹴りを叩き込むと、堪らず男はその場に蹲った。 
「やったわ。その調子ですよ！　こっちも負けられないわ！」 
　言う橘も、瞬くほど華麗に弓矢を奮う。正しく矢継ぎ早に放った矢は都合三人の断末魔を上げさせ、 
「ぎゃわぁああぁぁぁぁぁー！！」 
　訂正、四人の断末魔を上げさせた。 



「……やったか？」 
　剣を構えたまま気配を探る。一応の攻撃が止み、殺気まで蔓延っていた気配はまるで感じなくなっていた。 
「わからないわ。攻撃は止んだみたいだけど……」 
　弓を引いたまま、辺りを見渡す橘。 
「……うん、姿は見えないわね。全部倒したか、あるいは逃げ帰ったか……そんなところね」 
　ようやく弓矢の構えを解く。その言葉に同調して俺も剣を鞘にしまいこんだ。 
「しかし、こんな闇の中でよく攻撃が当てれるな。対したもんだ」 
　自分でも驚くくらい、橘への賞賛の声を上げた。俺が苦労して二人を倒している間に難なく四人を葬り去ったのだからそれも仕方の 
無いことである。しかも俺が倒した二人も、橘のアドバイスが無ければ逆にやられていたかも知れん。まるでこの暗闇が見えているか 
のごとく的確なアドバイスだった。 
「まあ、見えてましたからね。言い忘れていましたけど、あたし普通の人より夜目が効くのです」 
　なっ……それは本当か？ 
「ええ。すごくよく見えるってわけじゃないけど、ある程度なら。例えばですね、ほら。あの崖に生えているハート型のヒカリゴケと 
かくっきりと」 

　指差す方を目を凝らして見るが、そんなものは全然見えない。……いや、うっすらと光っているのは分かったが、それがハート型を 
していることまでは判別つかなかった。 
なるほど、橘が考え無しに足場の悪い道を下ったいけたのは、単なる命知らずと言うわけではなく、夜目が効くという実績から来たも 
のだったのか。 
「だから言ったでしょ。これくらい大丈夫って」 
　橘の自身たっぷりの表情（正直表情までは見えないが、おそらくそんな顔をしていると言う俺の憶測が強ち間違っているわけでもな 
かろう）に、俺は返す言葉も無い。 
「ふふふ、どうですか、これなら本当に役に立ったでしょ？」 
「……まあな」 
　しぶしぶ言う羽目になった俺の言葉に、橘は、 
「ふふふ、ありがとう」 
　思いがけない言葉を発しやがった。 
「よかった。ようやく認めてもらえた。佐々木さんに誉められるのも嬉しいけど、あなたに誉められるともっと嬉しいわ」 
　えへ、と橘とは思えないくらい可愛らしい声を上げる。意味不明な行動に、思わず 
「……それは一体どういう……」 
　――しかし、俺はこれ以上の言葉をかけることができなかった。 

「…………！？」 
「……？　どうした、橘？」 
「危ないっ！　逃げてっ！！」 
　橘京子は、いきなり俺にタックルをかました。 
「いてえ！　何しやがる！！　怪我をしたらどうする気だ！」 
　――しかし、この言葉も橘の耳に届けることができなかった。 


　――瞬間、俺のいた場所……つまり、橘が今いる場所が、突然崩れだしたのだ。 


　足場の崩壊で、それを構成していた岩は奈落へと吸い込まれていく。それはその頭上にいた橘もまた同様だった。 
「きゃあぁぁぁぁっっっっ！！！」 
「橘っ！　捕まれっ！！」 
　限界ギリギリのところまでやってきて剣の鞘を差し出す。……しかし。 


　届かなかった。 


「たちばなあぁぁぁぁーーーーっ！！！！！」 


　――悲鳴を残しながら、橘は大穴の底へと消えていった――     </description>
    <dc:date>2017-03-11T18:30:32+09:00</dc:date>
    <utime>1489224632</utime>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/128.html">
    <title>大海原の死闘！１</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/kyokotan/pages/128.html</link>
    <description>
      「あの島か……」 
「いかにも低俗な輩が好きそうな、下劣な建物ばかりなのです」 
「油断するなよ。奴らが攻めてくるかもしれない」 
「……気配は――――ない…………一気に――――攻める――」

　小船を漕ぐことおよそ数十分。 
　ついに南の島の一歩手前までやってきて、それぞれ思い思いの言葉を放った。


　この島に来た理由は二つある。 
　一つは水の賢者の石を手に入れること。 
　そしてもう一つは、この島に建設中の建物を破壊し、責任者をある人の前まで突き出すこと。

　――ああ、当初は前者のみの目的しかなかったわけだが、成り行きによって俺達は後者の目的を果たさずにはいられなくなってしま 
った。 
　その理由はもちろん、 
「うずうずしてきました。とっちめてやるから覚悟なさい！」 
　武者震いなのか、それとも水しぶきが冷たくて震えているだけなのか。 
　ツインテールとレースのスカートを交互に靡かせ、無計画無責任発言を発した張本人、アーチャーこと橘京子は声を高らかに上げた

　……… 
　…… 
　…

　事の発端は、俺たちがごろつき達を追い払った後まで遡る。 
　騒動の後、南の島に渡るための船を捜すため、俺達は船着場の散策を開始した。元々港町だから、使用していない船の一隻か二隻く 
らいはあるだろうし、漁師さんにでも声をかけて、漁のついでに送ってもらえれば特に支障なく南の島へといけるだろう。そう考えて 
のことだった。 
　しかし、現実はそう甘くは無いらしい。実際に入り江まで来てみると、船はおろか漁師の姿すら見つからなかった。 
「おかしいですね、ここは元々漁業で生計を立てている街なのです。それなのに船が一台もないなんて」 
「みんな漁に出てるんじゃいのか。あるいは他の場所に船を止めているとか」 
「だとしても、船が一台もないのはおかしいです。非番の人の船とか、あるいは壊れて動かなくなった船の破片でもあればまだわかり 
ますが、それすらありません」 
「それじゃここは船着場じゃないんだろ」 
「いえ、よく見てください」 
　橘は入り江に埋め込まれたアンカーボルトを指差した。 
「ほら、これは船を繋ぎとめるものですよ。しかも見た感じ、それほど古いものではありません。これはとりもなおさず、最近までこ 
こを船着場として利用していたことに他ならないでしょう」 
　ふむ……確かにこの辺の整備はきちんとなされているようだ。ではどうして船が無いのか……分かる奴はいないのか？ 
「その質問はナンセンスだ」腕を組み、互いの袖に手を入れた藤原がふてぶてしい表情で言い放った。「何故なら当事者でもない限り 
事の真相を把握することはできないからだ」 
　至極真っ当な意見ではある。 
「僕達のような非当事者があれやこれやと妄想に耽っていても何の解決にも至らない。さっきの酒場なり近くの民家なりで話を聞いた 
方が詳しい話も聞けるし、余程早いだろう。そんなことも分からないのか？」 
　が、こいつにそう言われるのが悔しかったので、「船が無いことを調べてどうする。俺達は南の島に渡る方法を探してるんだ。話を 
ずらしてもらっても困る」と口を尖らしてみた。 
　すると藤原は、 
「どちらにせよ、誰かに聞いた方が手っ取り早いさ。そっちこそ大局が見えてないようだな」 
　すげえむかついた。当たってるだけに血液の温度が五度くらい上昇したぜ。 
「ま、そう言うことにしてやるさ」 
　殆ど負け惜しみ的な発言をして、一人踵を返した。腹が立つことこの上ないが、このまま熱くなったらもっと負けた気がしてならな 
い。ここは余裕を持ってクールに徹した方がいい。 
「あの、どこへ行くんですか？」 
　数歩遅れて橘もついて来る。別段どこの民家でも良いのだが、無意識に向かった矛先は既に既定事項ってやつさ。 
「さっきの酒場、だ。店の主人なら色んな話を知っているだろうし、詳しく教えてくれるだろう」

「知らねえな、そんなこと」 
　俺の予想とは裏腹に、酒場の主人に冷たくあしらわれた。 
「南の島に渡る方法も、港に船が無い事も、あんた達余所者にとっては関係ないことだ。関係ないことをベラベラ喋る舌を持ち合わせ 
てはおらん。第一騒ぎを起こして店を壊し、あまつさえ詫びの一つも入れない奴らにハイハイと媚びへつらうほどお人よしじゃないん 
だよ、俺は」 
　壊れた椅子とテーブルを表へと出し、箒と塵取りを使って床を掃除しながら次々と不満の声を上げていった。 
　……確かにあれは悪かったと思う。向こうから因縁をつけてきたとは言え、俺達も当事者の一味だからな。店を出て行く前に、せめ 
て弁償代くらい渡して去るべきだったかもしれない。 
　そこはかとなく自己嫌悪に陥った俺は橘に小声で「チップ持ってないのか？」 
「……今はちょっと持ち合わせが……さっきので……色々と…………」 
　しんみりとした口調で答えた。 
　……たく、全部お前のせいだろうが。あの時お前がした行動が、全てここまで引き摺ってんだぞ。

　……… 
　…… 
　…

　チビデブが消え去り一通り落ち着いた後、橘はやおら藤原の羽織を強奪し、韋駄天の如く走り去っていった。あっけに取られながら 
も追いかけていった俺達が目にしたのは、なんとこの町に一軒しかないブティック。再び着るものが無くなったもんだから、自身の服 
を購入するため（本人曰く『あたしをキズモノにしたんだから当然よ』とのことだ）なりふり構わずここまで走ってきたのだろう。 
　真っ裸で行動するわけにもいかないだろうし（俺的には全く困らんが）、人目も気になるだろう。服を購入することはまあ大目に見 
てやらんでもない。手持ちの金で買える服を選んでこいと承認してやった。 
　……しかし、思ったよりも高級そうな店構えなのが気になる。

　それまですることもなかった俺は店の前まで迫ってくる波をひたすら数え、それが三百と三十を超えたあたりだろうか。ブティック 
のドアが開き、橘が新コスチュームに身を包んでやってきた……って、おい。 
「お待たせしました。どうですか、これ。似合うでしょ」 
　ふふんと鼻を鳴らし、くるっと一回転。独特の光沢を持った、クリーム色の生地が風にたなびく。 
　割と大きめにカットされた胸元と、足元にはスリットの入った、セクシーさをアピールするノースリーブのワンピース。右肩に添え 
られた緋色のコサージュが映えている。 
「分かる？　この生地が何か？」 
　やたらと上から目線の橘が、自信満々に呟いた。 
　この艶、この輝き。見たことがある。確かあれは……親戚の姉ちゃんの結婚式で、姉ちゃんが着てたドレスと同じ光り方を……ヴ 
ェールを纏った姉ちゃんが着ていたのは…… 
「もしかして、絹か？」 
「あら、詳しいのね、そうです。絹なのです！　この世界にもこんなに出来のいいシルク地があったのね。うんうん、佐々木さんにも 
着せて差し上げたいわ！　あたしだけが着るのはもったいないのです！」 
　何やらご満悦の様子の橘。テンションも高めで声も大きい。着せ替え人形にお気に入りの服を着せて喜ぶ五歳児のような反応だ。 
　しかし、気付いているだろうか？　橘を見守る三人の中で体をプルプルと震わせている輩がいたことを。 
「あの……なあ……橘……」 
　そのプルプルとさせていた人物は、声までプルプル震わせていた。 
「はい？」 
「一体なんだ……これは……？」 
　その輩はまだ付けっぱなしになっているタグを指差し、再び声をプルプルと……いや訂正、プルプルではなくワナワナと搾り出した 
「ああ、気付きましたか！？　これは有名デザイナーが直々に手がけたもので、素材も作りも逸品です！　昨年モデルの在庫処分って 
ことで安く買い叩いちゃいました！」 
　イミフなノータリンの解答をしやがった。 
　あのなあ橘、その人が聞きたいのはそう言うことじゃないと思うぞ。しかも安いときましたか。 
「これは想像なんだがな、安いといっても科学文明の発達していない、あるいは畜産技術の発達していないこの世界では養蚕技術も決 
してレベルの高いものじゃないだろうから捨て値で買ってもさっきまで着ていた貫頭衣と、ついでに革の胸当て[[その他]]諸々の組み合わ 
せ……そうだな、十セット分くらいの値段はするだろう？」 
　ワナワナしていた声の主は寧ろ冷静に分析を始め……もういい。俺だ、俺のことだ。 
「いいえ、違います」 
　しかし橘は俺の発言をきっぱりと否定し、自信満々に答えた。 
「三十着分に相当しましたっ！」 
「なお悪いわあっ！！」 
　反射的に手刀を橘の頭に叩き落した。ゴスッと中々いい音が響き渡る。 
「痛たたた……何するんですか！」

　それは俺の台詞だ！　どうやって稼ぐかも分からないのに無駄なことでお金を浪費するんじゃない！　よくあるゲームみたいにモン 
スターを倒せばお金を稼げるわけじゃないんだぞ！　第一何でドレスなんだ！　戦闘には不向きなのは分かりきったことだろうが！　 
どうせ金をかけるなら炎に強いローブとか、体か軽くなる魔法がかかった靴とか、そう言うものに金をかけろ！ 
「だ、だって……カワイイ服を着たっていいじゃない。こんな世界でもお洒落は楽しみたいのです。それにまたあの触手に襲われたら 
嫌じゃないですか。絹は動物由来ですから襲われる事も無いのです」 
　結局そこですかい、あんたの基準は。 
　もう完全にツッコミ戦意を喪失した俺は、こいつとの交渉を諦め、代わりにある方向を指差しこう言ってやった。 
「返品、してこい」 
「ええー！　だってこれ二度と手に入らないかも……」 
「いいから返してこいっ！！！」


　俺の怒気迫る顔に本気を見て取った橘はしぶしぶと店に戻り、待つ事更に波数百個分。再び俺達の前に現れた橘は藤原の羽織を着込 
んでいた。 
「あの……ドレスは返品してきました。でも、返品するには違約金が必要だからって言われて……全額じゃないけど少しお金を払わさ 
れました……」 
　何が少しだ。それでも革製の鎧くらい買える金額だったろうが。もの凄い無駄に金を使いやがってこの野郎。 
「す、すみません……」 
　殊勝にも礼儀正しくペコリと頭を下げた。 
「あと……申し訳ついでにもう一つ言わなきゃいけないことが……」 
　何だ、言ってみろ。 
「ええとですね……その……し、下着は……一度穿いてて、その……よ、汚れてるかもしれないから、返品お断りということで……」 
　以外にムチムチとした腿をもじもじと交差させ、やたらと恥ずかしげに報告した。羽織の隙間から見える白い輝きは……いや、俺の 
見間違いかもしれないから突っ込むのは止めよう。 
「ああ、わかったよ。下着無しで動き回れというのは流石に酷すぎるしな。それに下着までシルクってわけでもあるまい」 
　しかし橘は身を一瞬たじろがせた。っておい、まさか…… 
「あ、いえ…………実はですね……これもシルクで……」 
「………………」 
「えへへ……穿き心地いいですよ……」 
　テレ笑いをする橘を見て、俺は本気で頭をガクッと凹ませた。


　結局、橘が無駄に購入したシルクの下着は済崩し的に橘の所有物となった。どうせ返品できないのならばそのまま穿いてもらってい 
ても構わない。というかそれより他にいい方法がない。この世界に使用済みの下着を高値で買い取ってくれる店があればそこに売りつ 
けるんだが。 
　なお彼女の上着についてだが、これは九曜が用意することとなった。曰く、魔法で作製可能との事。 
　二つ返事で無造作に杖を振るとシャランと効果音が流れ、橘の体が白く光り――現れたのが新コスチュームだった。 
　基調は九曜が着ているローブだろうか。半袖のワンピースタイプで、ヴェールの代わりにティアラを身に付け、九曜とお揃いのロザ 
リオが忠実に再現されていた。 
　とは言え、異なる点も結構ある。一番違うのは服の色で、九曜のイメージカラーとも言うべき黒であるのに対し、橘が身に付けてい 
たのは純白のそれだった。先ほどのシルクのドレスのようなクリームがかった白ではなく、本当に真っ白。白無垢やウェディングドレ 
ス連想させる、透き通るような純白である。 
　そしてデザインも全体的にレースやフリルがついており、スカートの丈も短めで膝が見えている。そのくせスリット入りってのは最 
早何とも……。 
　どちらかと言えば、俺が始めて橘と会った時の衣装、アレを白くしたと言った方が良いのかもしれない。 
　少々問題のある衣装の気がしてならないが、本人は『すっごく可愛い』とお気に入りの様子なので文句は言わないようにする。 
　もちろん触手対策もバッチリ。生地に使用したのは綿ではなく化学繊維。消化酵素で分解できない分子配列にしたのだとか何とか。 
詳しいことは分からないが、これなで例の触手が襲ってきても大丈夫だろう（ただし未確認）。 
　橘といえば目に涙を浮かべ「九曜さんありがとう」と諸手を取って大層喜んだ。 
　てか、最初から九曜に頼めばよかったんだよな、これ。

　… 
　…… 
　………

　以上、少々話はずれたが回想話である。

　そんなわけで誰かさんが無駄にお金を消費してしまった事が災いし、俺達の手持ちもかなり心細くなった訳である。この状態で店の 
修理代を払うのは少々……いや、かなり厳しい。 
　それに詫びの一つもいれずこの場を立ち去ったのも事実である。店の主人が頑なになるのは当然の事であろう。 
　さて、どうするかね。 
　このままバイバイサヨナラってのは寝覚めが悪いし、今更謝ったところで許してくれそうもない。一番良いのは主人の怒りの引き金 
となった橘に、お詫びと称して修理代金分を払い終えるまで橘を無賃金労働させることだが…… 
　等と頭の中でベストな解決策を模索していたその時、 
「さっきはすみませんでした。変な人たちに絡まれたとはいえ、お店に迷惑をかけるようなことをして……」 
　俺達の塊から前に一歩踏み出し深々と頭を下げたのは、その問題児の橘だった。

「…………」 
　主人は何も答えない。ただただ橘の目線を追いつづけている。 
「ただ、あたし達はここで待ち合わせをしていただけです。そしたらあいつらがたまたまちょっかいをかけてきて、それを見た仲間が 
あたしを助けようとして、ああなってしまったのです。決してこちらでいざこざを起こすためにやってきたわけではありません。だけ 
ど、あたし達が迷惑をかけたのは事実です。手持ちは余り無いですが、壊したものはなるべく弁償しますし、お店の復旧も手伝います 
それで足りなければ労働奉仕もします」 
「…………」 
「船の件や、南の島に渡る方法については、仰りたくなければそれでも構いません。別の方に聞くか、あるいはもっと他の手段で渡航 
致します。怒りはもっともですし、あたし達も甘んじて受け入れます。ただ、あたし達があのごろつきのような悪人だとは思わないで 
欲しいのです。それだけは信じてください。お願いします」 
「…………」 
「ごめんなさい、言いたかったのはそれだけです。それでは、本当に申し訳ありませんでした」 
　再び腰を90°曲げて謝りを入れた後、「いきましょ」と声をかけて店を出ようとする橘に対し、 
「……待ってくれ、嬢ちゃん」 
　呼び止めたのは店の主人だった。 
「……さっきの奴等、この辺でああやって騒ぎを起こしてるならず者でね。こっちも相当参ってったんだ。気に入らない奴に因縁つけ 
ては金をせびり、女性客にちょっかいをかけて……本来ならもっと観光客がいても良いはずなんだが、奴らが住み着いてからは客が遠 
のいてね。この店に来るのは一部の常連くらいで、しかも状況がわかってるだけに誰も口を出さなかったところなんだ。俺はてっきり 
新手の奴等がこのシマに現れたとばっかり思ってよ……そうか、すまなかった。謝る。嬢ちゃんは心優しい子なんだな」 
「いえ、そんな……」 
　言われて頬を紅くした。いつに無く女の子っぽい照れ方である。 
「ですが、それなら何故警察……いえ、この街の衛兵や役人にでも連絡しないのですか？」 
　最もな意見に、しかし店の主人……親父さんは溜息混じりに答えた。 
「それができれば苦労はしないさ。お役人だってあいつらには逆らえはしないんだからな」 
　それはどういう意味ですか？ 
「何、簡単なことだ。この街のお役人が、あいつらの親玉とつるんでいるんだよ」 
『……！』 
「元々あいつらは海賊あがりでね。昔からやりたい放題やってたわけだが、それでもこの街のお役人がまともだった頃はそんなに被害 
も無かったんだ。だがある日突然、お役人はああいった輩を取り締まらなくなったんだ。何度問い掛けても『見回りを強化する』『よ 
く言い聞かせておく』の一点張り。酷い時にゃ『お前達が迷惑かけたんじゃないのか？』と来たもんだ。それに実際被害にあっても奴 
らの白々しい嘘を信用してそそくさとその場を去りやがって。帰った後は後で好き勝手やり放題。ありゃどう見ても賄賂か何かで役人 
とつるんでいるに違いない。そうでなきゃあそこまでぞんざいな扱いはしないぜ、いくらなんでも」 
　今まで黙ってて聞いてたからだろうか、親父さんは堰を切ったように不平不満を吐き出した。そうか、だからさっきも、あれほどの 
騒ぎなのに誰も助けに来なかったのか。 
「確かに、尋常ではなさそうだ。しかしそれならば別の街や隣国に直訴するという方法もあるだろう」 
　藤原の提案に軽く鼻で笑い、

「とうの昔に考えたさ。だが奴等はちゃんと対策を考えてやがる。奴等は南の島にお偉いさん専用の高級リゾート施設を設立する計画 
を立てやがったんだ。しかもこの街の役人だけじゃなく、ご丁寧に他国の役人にまで招待状を送ってる始末だ。お偉いさんも、自分達 
にとってうまみのある話をワザワザ潰すほど正義感に溢れた役人はいないって訳で、どこに直訴してもこの街と同じように門前払いを 
喰らうだけさ」 
　壊れた椅子とテーブルをロープで縛りながら、親父さんは自嘲めいた声で愚痴を零した。 
「それだけじゃねえ。最近じゃこの街の衆に漁を禁止して、自分達の施設の建設に手を貸すよう求めてやがる。応じればいいが、断ろ 
うもんならさっきみたいなのを毎日送り込んでくる始末だ。だから地元の漁師はこぞって建設現場で働いているよ。正直な話、漁で稼 
ぐよりも遥かに儲かるらしくてな。くそ……この街のやつは全員、あいつ等の言いなりになってやがる。欲しいのは金、金、金……… 
…ここも昔はよ、金なんか無くても漁で釣り上げた獲物の大きさを競ったり、鮫やシャチに襲われて生き延びた武勇伝を語ったり、時 
化で漁に出れなくて酒飲みながらふて腐れたり……そんなやり取りが楽しかったんだ。だが今じゃ朝早く島に向かって、夜遅く帰って 
くるだけのルーチンワーク。休みはある事はあるらしいが、疲れてるからどこにも行かず家で寝て過ごし、次の日また島に向かう…… 
いくら金が手に入るからって、何が楽しいんだそんな生活！」 
　親父さんは折れた椅子の足を、壊れたテーブルに思いっきり打ち付けた。 
「……すまねえ、ちょっとイライラしてた。余所者にこんな事言ってもしょうがないわな。……話はずれたけどよ、南の島に行くのは 
止めとけってのはそう言う意味だったんだ。正直なところ、椅子やテーブルが壊した事よりそっちの方が引っかかってな。だからあん 
た達に突っかかったんだ。申し訳ねえ。南の島に行くなんてとんでもねえ。何のために行くか知らないが、どうせろくな事が無いぜ」 
　全てをぶちまけた親父さんに対し、暫くの沈黙が続いた。 
　……なるほど、親父さんの気持ちもわかる。この街の風情を台無しにした、海賊上がりが憎い事もしみじみ感じた。 
　だが、悪いがそれはこの街の問題だ。俺達がしゃしゃり出て解決するような問題じゃない。それに俺達が南の島に行く理由はもっと 
違うところにある。それは藤原も九曜も、そして橘も同じだ。 
　だから俺は橘にアイコンタクトを送った。何とかして南の島に潜り込めるよう協力してほしいと。今のところ、彼を説得できるのは 
心を許した彼女だけだろう。 
　頼んだぞ、橘。 
「……いいえ、それでも行きます。あたし達は。あたし達にはやることがあるんです」 
　果たして俺の意図を汲み、橘は俺が思っていたとおりの言葉を口にした。 
「……一体、何の目的であの島に？」 
　怪訝そうな顔で質問する親父さんに対し、橘はチラとこちらを見て再びアイコンタクトを求めてきた。この際だからカミングアウト 
してもいいだろう。よし、言ってやれ。 
　すると橘はニッと笑い返し、そして再び親父さんに言葉を続けた。


「あたし達がそのリゾート施設をぶっ潰すからです！」


『ええーっ！！！』 
　俺と親父さん、ついでに藤原という男連中の声が不本意ながらもハモった。 
「リゾート施設が潰れれば海賊共も面子丸潰れだし、働いてたこの街の漁師さんも戻ってくるわ。一石二鳥じゃない！」 
「じょ、嬢ちゃん、いくらなんでもそれはやり過ぎじゃないか……？」 
「何考えてんだ馬鹿橘！　そんなの無理に決まってるだろ！」 
「踊らされるのは好きじゃないが、既定事項はちゃんと守ってくれ！」 
「今の話を聞いて、黙って指を加えて見ているわけには行かないわ！　悪逆非道の限りを尽くす海賊一味なんて生きてる価値無いじゃ 
ない。あたしは曲がったことが大嫌いなの」 
　誘拐を強行したお前が言うなぁ！！ 
「あれはあれ。これはこれ、よ」 
　何だかハルヒみたいな発言をするツインテール。 
「というわけだから、やっぱりあたし達あの島に渡るわね。渡る方法ってやっぱり船しかないのかしら？　おじさん持ってない？」 
「あー、あの島を行き来する程度の船ならあることはあるが……しかし……何もそこまでしなくても……」 
「じゃあそれ、お借りしますね。そうそう、レンタル料は壊した椅子とテーブルの代金とまとめて払いますから。それでいいでしょう 
か？」 
「別に代金は請求しないが……だからそこまでしなくても……」 
「遠慮しないで下さい。あたし達が迷惑をかけたわけですし、それにお金はリゾート施設からかっぱらってきますから」 
『えええーっ！！！』

　再び三人の声がアンサンブルを奏でた。 
「民を苦しめて搾取したお金は、民に還元されるべきだと思います。うん」 
　ねずみ小僧にでもなったつもりか、この誘拐少女め。 
「んん……！　もうっ！　だからその話はもうしないで下さい！　ともかくっ！」 
　店の前にある通りからも確認できる南の島をビシッと指差し、 
「魔獣をバッタバッタ倒すのも面白いけど、人の悩みを解決してあげるのも勇者一行の醍醐味！　首を洗って待ってなさい！！」 
　最早当初の目的を忘れてる橘は、一人妥当海賊アンドリゾート施設に闘志を燃やしたのだった……

　… 
　…… 
　………

　ハイ、回想終わり。これでようやく本編の話ができるわけだ。


　この島は一帯がリゾート施設と化しているものの、実際の面積はそれほど大きいものではない。小一時間もあれば島を一周できるく 
らいの広さだ。ファンタジー世界の設定に因んで、ランドとシーを合わせたくらいの広さではないだろうかと推測してみる。 
　だが、だからこそ上陸する際は細心の注意を払うこととなる。小さければ小さいほど外部からの進入に気付かれやすいし、発見も容 
易になってしまう。 
「九曜、どこに賢者の石があるかわからないか？」 
「…………ここから――――では……観測――できない…………もっと――近接が――必要――――」 
　そうか、なら先ずは見つかりにくそうなところに接舷するしかないか……。 
「あそこなんてどうでしょう？」 
　橘が指を指した向こうは、岩盤と木々に囲まれた入り江だった。かなり入組んでいるから船も目立たないし、進入後も豊かな緑が俺 
達の存在を隠してくれそうだ。難を言えば少々登り辛いかもしれないが、見た感じそれほど絶壁というわけでもない。それにいざとな 
れば九曜の魔法でひょいと乗り降りができるだろう。 
「それは――――困難を極める…………」 
　どうしてだ。 
「魔法障壁………………本来の――――――力が――――出ない…………一人が――限界…………」 
　ああ、そう言えばそんなこともいってたな。 
「と言うことは、この中だとお前の魔法は制限されてしまうって訳か？」 
　数十秒の時間をかけ、九曜はナノ単位で首を傾げた。 
「ということは、どうやってこの施設を破壊するんですか！？　九曜さんの魔法が無ければ破壊は困難じゃないですか！」 
　知らん。俺達は賢者の石を捜索しに来たんだ。施設の破壊を公言したのはお前だけだろ。 
「じゃああたし一人で壊せって言うの？　いくらなんでも無理よ！」 
　さて困った。その無理難題を一人でヒートアップしてやってのけると言ったバカにどう説明すべきかね。 
「先ずは賢者の石の回収を優先する。それが当初の目的だからな。破壊活動はそれからでもいいだろう。というか破壊活動を先にした 
ら、下手をしたら瓦礫の中から採取しなければいけなくなるんだぞ、わかってるのか？」 
「……うう。で、でも……」 
「そしてもう一つ。お前の最大の目的は、佐々木を助け出して元の世界に戻ることだろうが。俺達はそのために賢者の石を探している 
んだ。目先の情に流されて本来の目的を忘れるんじゃない」 
　然して橘は「はっ！　そうでした！」と我に返ったかのように呟いた。おい、本気で忘れてたんじゃないだろうな？ 
「ま、まさかそんなこっと、あるわけないでしょ」 
　少し噛んだのが気になるがまあいい。 
「それに破壊活動をしなくても、ここの親玉を見つけ出して懲らしめてやればいいだけの話だ。幸いにも腕の立つ奴らが揃ってるんだ 
し、痛めつけてやれば悪事は納まるだろうよ」 
　俺の言葉に橘は腕組みをしてなにやら考えこみ、 
「……それもそうですね、わかりました。ここはあなたの言うとおりにします。賢者の石を探すことにしましょう」 
　ようやく全会一致で目的が決まったわけだ。 
「……でもちょっと残念だったわ」 
　何がだ。 
「せっかく大金をつぎ込んで創り上げた施設が、ものの数秒でケシズミと化す姿。凄く荘厳で美しいと思ったんですが……」 
　……カタストロフィーを望むんじゃない。

　とまあ他愛のない会話（？）もしつつ、当初の目的通り岩場に囲まれた入り江へとやってきた。果たして俺の予想通り、岩と木々に 
囲まれて他からは死角になっている。 
　加えてもう一つのメリット。それは岩の並びが思ったよりも登りやすそうな配置になっている点だ。これなら九曜の魔法をを使った 
り、ロッククライミングをしたりする必要が無いことだ。とは言え、そこそこ急峻な場所だから、気をつけるに越したことは無いが。 
「よし、登るぞ」 
　適当な岩と船をロープで縛り、近くにあった岩へと乗り移った俺達一行は早速岩場へと手をかけた。 
「あの……ちょっと急じゃないですか？」 
　そうか？　俺としては思ったよりも楽そうだと思ったんだが。 
「でも、ほら、あそこ。上に行くにはあそこを飛び越えないといけないと思うんですが、ちょっと遠くないですか？」 
　あれくらいなんてこと無いだろ。ここから見るから思ったよりも怖く見えるだけだ。近くにいけばなんてことはない」 
「でも……」 
　ったく、破壊願望があると思えば変なところで恐怖症を発揮する奴だな、こいつは。 
「わかった。なら九曜の魔法で先に上がってろ。一人くらいなら問題ないらしいしな。スマンが頼めるか？」 
「分かった…………」 
　クルリと杖を回し、二人は中に浮かび上がった。 
「ありがとうございます九曜さん。では、お先ー」 
　やれやれ。


　先述のとおり、岩場登りは思ったよりも厳しいものではなかった。登山開始からおよそ十分、俺と藤原は既に八割以上を上りきって 
いた。あと少し。その残りの二割も、崖の程度からしてみればそれほど急なものでもない。 
　確かに高さがあるから恐怖心に駆られるのもわからなくもないが、下を見なければいいだけのこと。川場の岩渡りとそれほど変わり 
は無い。田舎でそんな遊びばかりしていた俺にとってはお茶の子さいさいである。 
　藤原も特に不満など言わず登ってくるあたり、大した事無いのであろう。九曜は元々何も言わないから言いとして……そうすると橘 
だけじゃないか。文句を言ったのは。あれくらいの岩場を登れなきゃ今後が思いやられる。 
「二人とも―、早く早くぅー！」 
　その問題児橘は、九曜の力を借りて俺達の目の前をぷらぷらと浮遊し、余裕ぶっこいて俺達に手を振っていた。 
「ほらほらぁ、そんなことじゃ勇者の名が泣きますよぉー、早く来てくださーい！」 
　お前なあ、一人だけ贔屓しているのによくそんなことが言えるな。 
「だって、あたしは女の子ですよ。こういった力仕事は男共に任せて、あたしはもっとインテリジェントかつスマートな職業があって 
いるのです」 
　ああそうかい。 
「さしあたり、参謀あるいは軍師……いいえ、賢者です」 
　それはよかったな。 
「これからは賢者様と呼んでください！」 
　…………。 
「知の無い凡庸の民よ。あたしに跪きなさいっ！　こんな感じですよ！！　おほほほほっ！！」 
　……ぷっちん来た。久しぶりに切れたぜ、俺は。 
　自分の我侭で高価な服を買い、勝手に盛り上がって変な約束を取り付け、そして九曜の威を借り調子にのるこいつの姿にもう我慢の 
限界が訪れた。「九曜！」 
「――――何……」 
「高度をもっと上げれくれ！」 
「――――把握……」 
「……ちょ、ちょっと！　九曜さん、そんなに上がったら！」 
　俺達がいる場所よりも人一人分、ちょうど崖の頂上辺りまで高度を上げ、そして二人は俺達の真上に来た。 
「いやぁ！」 
　ふっ、狙いどおり橘の下半身がよく見える。 
「賢者様ー、シルクのお召し物が丸見えですよー」 
「や、止め……ちょ、見ないでぇ！！」 
　思いっきりバカにした口調でしゃべる俺を無視し、慌てて押さえ込もうとする。しかし隠すものが何もない空中ではそれも徒労に終 
わる。 
「あれー、おかしいなあー。賢者様ならどんな時も慌て深めないはずなのにー。どうかされましたかぁー」 
　白々しく言う俺に、 
「わ、わかりました！　ごめんなさい！　謝りますから許して！」 
　まだ駄目だ。さっきの件もあるからもう少し懲らしめる。 
「九曜、そのままグルンと逆さまにしてくれ！」 
「うそぉ！　九曜さんお願い止めて！！」 
「――――――」 
　もちろん橘の言うことを聞く九曜ではない。杖を上下逆さまにすると同時に、白いローブの少女は足を天に向けた。

「きゃあー！　きゃあー！　きゃあー！！！」 
　足をじたばたもがくのは、ローブによって視界が遮られたためか、それともお間抜けな姿を他人に見られたためか。しかしそれはど 
うだっていい。橘の、調子に乗る悪い癖を懲らしめるためには仕方ないことだ。 
　そして、更なる試練を命じるべく、心を鬼にして九曜に命令した。 
「そのままグルグル空中回転！！」 
「ヤメテェーーーーーーーー！！！！！！！！！」 
「――……――」 
「構わん九曜、やっちまえ！」 
「ごめんなさいーーー！！　ごめんなさいごめんなさいごめんなさい！！」 
　今にも泣きそうな顔で必死に懇願する。が、 
「こ゛め゛ん゛な゛――――」 
　橘の声は半ばにして掻き消された。 
　……いや、橘自身が声を上げなくなっていた。 
　もしかしたら何か言っているかもしれないが、何も聞こえてこない。

　かくして、俺達が崖を上りきるまでの間、橘は一人人間大車輪を満喫したのだった。


　なお余談だが、橘が俺達の頭上にきた際、藤原は下らんとか言いつつもチラチラと見、まんざらでもない表情を浮かび上げていた。 
何だかんだ言ったところでこいつも一般的な男の子と言うのが分かった瞬間である。 
　更に余談だが、、その際九曜も当然頭上にきたわけで、九曜の黒いローブから覗く白い足と、その奥に潜む……その…………なんと 
言うか…………対照的に黒い何かが…………黒光りなす何かが………… 
　そうか、あれが長門の言う『天蓋領域』に違いない。



　とまあ、この島に侵入するまでひたすらバカをやっていた俺達だったが、これから数時間の後に今まで経験したことの無いような恐 
ろしい体験を目の当たりすることとなる。 
　それは、長門と朝倉が見せたバトルともカマドウマとの死闘とも……いや、もしかしたら森さんが橘に向けた笑みすら生温い。 
　それほどまでに畏怖と戦慄にまみれた、負の力としか言いようのないものだった。 
　もちろんそんな力と対峙することも、そしてその力に抗うことも、予想どころか妄想するに値しなかった。 
　この時は、まだ。    </description>
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