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h44-31 - (2014/04/30 (水) 16:33:19) のソース

私には一人許せない人がいます

中学生の頃、京ちゃんと付き合っていた女性です

その人がいたせいで私は京ちゃんに女として見られた事はありませんでした

だから私は京ちゃんにとっては他のたくさんの友達の一人でしかなく、

燃えるような想いが届く事はありませんでした

京ちゃんは人気があったので他の女の子達も苦い思いをしていました

だから、みんな彼女に――んで欲しいと願っていましたし、

いっそ実行しようかと陰で言っている子がいた事も知っています

私だって口に出した事はありませんが、もし本当に彼女が――んでくれたらどれだけ嬉しかったか…

――んだ後に京ちゃんを巡って激しい争奪戦が始まる事はわかっていますが、それでもチャンスがないよりはマシです


……

そうこうしている間に高校進学の時期が来ました

ここで朗報がはいりました

京ちゃんが彼女と別れたというのです

友達からその話を聞いたときの私は口では「へぇー」という淡白な返事をしただけですが、

きっと体は喜びで震えていたと思います

それでも京ちゃんの口から本当か聞きたかったので直接に確かめにいったら


「別れたっていうかさ…

あいつには未来と麻雀の実力があるから、東京の強豪校に行ったほうが才能を伸ばせるし、

それが将来的にも二人の為になるって思って…」


麻雀、その頃の私は距離を置いていたものですが、この時ばかりはこの世に麻雀があったことに感謝しました

そういえば京ちゃんの彼女は麻雀がとても強い事で知られていました

だからこそ、二人は互いに離れざるをえなかったのでしょう

しかし、京ちゃんから実際に話を聞くとその別れは再会の約束のようなものなのです

麻雀で離れた二人は、麻雀でまだ結びついているのです

忌々しい……

しかし、嬉しい事に京ちゃんは清澄高校に進学をするという話を聞き出せました

京ちゃんには話していませんでしたが私の志望校の一つでしたので、ちょっとした運命を感じました

私のクラスでは清澄高校への進学者はあまりいませんでしたので、

これで京ちゃんに好意を持っていたほかの子達よりだいぶリードできます

その日から清澄へ行く日が待ちきれなくなりました


……

高校へ進学してから思ったとおり京ちゃんとの距離はだいぶ縮まりました

ふざけあって、スキンシップもしてくれるようになりました

ああ、これからもっと深い関係に発展することも夢ではない、と考えると毎日が幸せでした

ですが、京ちゃんは何を思ったか麻雀部に入ったではありませんか

京ちゃんが付き合っていた子と違って、京ちゃん自身は牌に触れた事もあるかどうかも怪しいのに

インターミドルチャンピオンの原村和が目当てではないかという噂もありましたが、私には分かりました

あの女です、麻雀を続けるために東京へ行った彼女への想いが京ちゃんに麻雀部の戸を叩かせたのです

それに気づいた時の私の腹の煮えたちようは誰にも想像できないでしょう

京ちゃんなら色んな可能性があったはずなのです、器用で、運動も出来る私の自慢の京ちゃん

それが、あの、あの女に潰された

このままでは私の恋も空振りに終わってしまうかもしれません、何か手はないかと考えました

しかし、ある日転機が訪れました

京ちゃんが私を初心者と思って麻雀部の部室に連れて行ったのです

正直、打ちたくはありませんでしたが京ちゃんの顔を潰すわけにもいかず、無難に終わらせようとしました

それがどういうわけか私を入部へと導くことになるのですから、何が起こるか分かりません

ですが麻雀部のメンバーを見て、ある計画が浮かびました

麻雀のために京ちゃんを置いて東京へ行ったあの女…

彼女を全国大会で叩きのめしてやりたくなりました

折角、彼氏を長野県において旅立っていったのに、それすらも無様に終わり絶望する表情を拝んでやりたくなったのです

彼女が進学した学校は確か白糸台高校、私とは疎遠になっていた姉もいる高校

あそこならば間違いなく全国まで進んでくるでしょう

そう思うと、まるで高校麻雀の全国大会に私の因縁が収束されている気がしてくるのです

そして確信をしました

京ちゃんが私と同じ学校に進学をしてくれたこと、麻雀部に入ったこと、白糸台高校、全国大会……

これは私に与えられた愛の試練であると、

届かないと想っていた恋を成就させるため神が与えた、避けられない試練なのであると

白糸台を叩き潰して優勝をすれば、それは京ちゃんの愛を得られる事になるという確信をしたのです

この面々ならそれも不可能ではないと思うと、俄然やる気になってきました


……

そして今、私達は全国大会の場にいます

白糸台とはブロックも分かれているとはいえ、京ちゃんがあの女に会いに行かないかどうか不安でしたが、

京ちゃんはじっとこらえているようでした

だから安心して試合に集中しようとしていたのですが、事件が起こりました

あろうことか、あの女のほうが我慢できずに会いに来てしまったのです

京ちゃんは高校に入ってからも電話やメールで彼女との連絡をとりあっていたようなので、

清澄高校に進学したことや麻雀部への入部も勿論あの女は知っていたでしょうから、

大会で清澄の名を見つけてもしやと思ったのでしょう

京ちゃんを見つけたあの女は飛びつきました

「きょーたろー!!」

「……淡!」

会場中を探し回ったのか息切れしながら胸に飛び込んできた彼女――大星淡を本当に愛おしそうに抱きしめ返す京ちゃん

二人は見つめ合って、久しぶりとかそんな会話をしていました


……それを偶然にも目撃してしまった私のとる行動は一つでした

「………京ちゃん!ここにいたんだね!あれ?その子は…」

大星淡の姿と名前を私は知っていましたが、彼女は私を知りません

京ちゃんも友達にいちいち紹介もしていなかったので、私が知らない振りをしていることにも気づきません

「あ、咲…」

「サキ…って、その子?」

二人がこちらを向きます

その時、目が合った私と大星淡との間に確かに火花が飛び散りました

あちらは二人の逢瀬を邪魔しに来た事と、親しげに京ちゃんに話しかけていたことに激しい怒りを覚えたようです

なんてことはありません、あの子も私と似たような嫉妬深い女だったのです

ということであれば、私が京ちゃんに抱いている恋愛感情にもこの一瞬で気づいたはずです

くすり、と笑みがこみあげてきました

折角なので歩を進めて近づき、自己紹介をしました

「私は清澄高校の宮永咲!京ちゃんの彼女さんかな?」

「……白糸台の大星淡、きょーたろーとはずっと付き合っているよ」

自分の所有物とばかりに必死に京ちゃんにしがみつく大星淡

そんな様を見せる大星淡を私は少しだけ気に入りました

なので試合では、存分にむしりとってやるつもりです

京ちゃんの目の前で唯一のとりえであった麻雀で蹂躙されれば、

どんな顔をするだろうかと想像すると晴れやかな笑いが止まりませんでした


私を睨みつける大星淡と、不穏な空気を感じ取りうろたえる京ちゃん


もうすぐだよ、京ちゃん…もうすぐその女から解放してあげるからね…


「(ああ、どうやって嬲ってあげようかな…)」


この女と打つのが本当に、待ちきれません


カンッ