ID:QtQxp9cu0氏:変化(ページ2)

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 家に帰るとつかさからメールが来ているのに気が付いた。『ありがとう』それだけのメッセージだった。かがみを説得したお礼なのか、私が明日立ち会うのを喜んでいるのか、 ボールを返したお礼なのか、それともかがみが明日母親役をしてくれるようになったのか、いろいろな意味で取れる。電話して聞いてみるのが手っ取り早い。だけど それは出来なかった。もし、かがみが来ないと言ったら明日の立会いに行きたくなくなるから。どうせ全ては明日分かってしまう、だから返信もしない。 今日は調子が悪い。人身事故で電車が遅れていた。もっと早く起きればよかった。車で行けばよかったか。いまさらそんな後悔しても遅い。 ホームで電車を待っている。つかさはもう公園に居る時間だ。このままだと大事な約束を破ってしまう。気ばっかりが焦ってしまう。かがみは一緒なのか。 もう対面しちゃってるかな。早く来てくれ~ 電車は三十分遅れで到着した。何とか間に合いそうだ。目的の駅に着くと飛び出すように改札口に出た。公園に向かおうとした時だった。かがみが改札口のベンチに座っていた。 つかさと一緒じゃなかったのか。さては一度は断ったけど気が変わってここまで来たのはいいけれど、断った手前、行くに行けない状態になってる。まったく世話のやけるかがみ。 こなた「かがみ、何してるんだよ、もう時間が無いよ」 私を見上げじっと見つめるかがみ。折角ここまできて立ち往生はさせない。 こなた「もう覚悟を決めてかなたちゃんの所に行こう、つかさが待っているよ」 かがみ「かなた……私は……」 立ち上がる気配がない。もう待っては居られない。私はかがみの手を掴み引っ張った。かがみはやっと重い腰を上げた。掴んだ腕を持ったまま私は走った。最初は少し 抵抗したけど直ぐにペースを合わせて走ってくれた。やっと覚悟を決めたようだ。嬉しかった。かがみが来てくれた。それだけでいい。この調子だとかなたちゃんの前でも ただ突っ立っているだけかもしれない。偽者だとバレてしまうかもしれない。それでも構わない。  公園に着いた。つかさとかなたちゃんがシートの上に座っていた。公園の入り口でかなたちゃんの方を指差した。 こなた「あの子がかなたちゃんだから、会ってくれるだけでいいからね、無理に演技なんかしなくてもいい、息が整ったら近づいて名前を呼んであげて」 かがみは暫く公園の周りを見回すとゆっくりとかなたちゃんに近づいて行った。つかさがそれに気が付いた。かなり驚いた様子だ。やっぱりかがみは一度断ったのか。 つかさは直ぐに公園の入り口に居る私に気が付いた。手を上げて答えた。するとつかさはゆっくりと立ち上がった。かなたちゃんはつかさを見上げた。 かなたちゃんはつかさが見ている方に体を向けた。そこにかがみが居る。 かなた「ママー」 叫ぶと同時に立ち上がり裸足のままかがみに駆け寄った。そしてそのままかがみに抱きついた。かがみは突っ立ったまま見下ろしていた。 名前を呼んでって言ったのに何もしない。ここまで恥かしがりやとは思わなかった。 あれ、かがみの体が震えている。緊張してしまったのか、なんだか見ていられなくなってきた。つかさも心配そうにかがみ達を見ている。 つぎの瞬間顔から数滴の水……涙? 良く見るとかがみは目にいっぱいの涙を浮かべていた。かがみはしゃがみ込んでかなたちゃんを抱きしめた。 かがみ「かなた……」 息を呑んだ。一変して迫真の演技、なんだやれば出来るじゃないか。これだ、これを私は見たかった。もっと近くで見たい。 「こ、これは、これはどうゆう事ですか……」 聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返るとはみゆきさんが居た。そしてみゆきさんに手を掴まれているかがみが立っていた。 えぇ、また振り返った。そこにはかなたちゃんを抱いているかがみが居る。かがみが二人。 みゆきさんの連れて来たかがみはかなたちゃんを抱いているかがみを見て呆然としていた。 こなた「かがみ、かがみだよね?」 みゆきさんが連れて来たかがみに問いかける。 かがみ「だったら私は誰なのよ」 この口答え、みゆきさんの連れて来たかがみは本物だ。それじゃもう一人のかがみは…… 抱き合っている二人を見ていると親子そのものだ。疑いの余地はない。かなたちゃんの母親……つかさのおまじないは、かなたちゃんのお母さんを生き返られた。 そんなバカな……心の中で何度も呟いた。 私、つかさ、かがみ、みゆきさん、四人は二人を見ていた。時間が止まったように。ただ見ていた。 かなたちゃんとかがみにそっくりの女性は本当の親子のように……一年ぶりの再会を喜んでいた。  これはおまじないの効果でも奇跡でもない。かなたちゃんのお母さんは亡くなっていなかった。それだけの話だった。だったら何故もっと早く気付かなかった。 それも簡単だ。かなたちゃんのお母さんは洪水で助けられたときに頭を強打したらしく強度の記憶喪失になっていた。身分を証明するものを一切持ってなかった為に 誰だか分からなかった。母親の治療した施設はここからかなり離れた場所にあったので捜索が難航したようだ。偶々リハビリでこの町に来た。本当はあの駅に降りる予定では なかったが人身事故で一時的にあの駅で待機していた。そこに私がやってきた。そしてかなたちゃんを見て全ての記憶が戻った。それだけの話…… あけみさんが身の内を話し終わり皆が落ち着きを取り戻した頃だった。あけみさんは私に近づいてきた。 あけみ「本当にありがとうございました、強引に引っ張られた時はどうなるかと思いましが、かなたが、娘が私の記憶を取り戻してくれました」 私に何度も頭をさげるあけみさん、驚いた、声までかがみそっくりだ。双子のつかさが他人に見える。 こなた「お礼ならつかさに、私はおまじないを実現しようとしただけ……です」 そう、つかさのおまじないがなければこの親子は逢えなかった。私はそれに便乗しただけ。 あけみさんはつかさの方を向き何度も頭を下げた。つかさは照れくさそうに手を頭の後ろに当てていた。だけどなんかおかしい、つかさの表情が少し悲しげに見える。 みゆき「……奇跡としかいいようがありません、よかったですね」 あけみ「ありがとうございます」 かがみ「ここまで私に似ている人が居るなんて……」 あけみ「私も驚いています……」 しばらく私達はみゆきさんの言う奇跡の余韻に浸りながら会話をしていた。するとあけみさんは何かを思い出したようだ。 あけみ「あっ、そうでした、私は施設に一度戻らなければ、記憶が戻ったのを知らせないと、一年間お世話になった人達にお礼をいわないといけません、それに突然居なくなって     私を探しているかもしれませんし、急がないと」 あけみさんは立ち上がった。 かなた「ママ……」 かなたちゃんはあけみさんの腕をつかみ止めた。 あけみ「すぐ戻ってくるから……」 今度は両手で腕をつかんだ。今にも泣き出しそうだ。また別れてしまうのではないか。そう思っているに違いない。 つかさ「あけみさん、一緒に連れて行ってあげて、そうすればきっと施設の人も喜ぶと思います」 あけみさんは少し考えた。 あけみ「そうですね、それがいいかもしれない、かなたも離れたくないでしょうから」 つかさはかばんから何かを出してあけみさんに差し出した。それはあけみさんの写真と鍵だった。 つかさ「太郎さんから預かったものです、受け取って下さい」 あけみさん写真を受け取ると自分の写真をじっと見た。 あけみ「この写真……結婚した時のもの……太郎……」 旦那さんを思い出したのか、あけみさんの目がまた潤み始めた。 つかさ「太郎さん、今日は帰りが遅いって……だから鍵を預かりました……」 あけみ「そうですか、つかささん、今までかなたの相手をしてくれて有難う、今度家に遊びに来て、主人と一緒にお礼がいいたい、皆様もどうぞご一緒に……」 つかさは返事をしなかった。あけみさんは一礼するとかなたちゃんの手を引き駅の方角に歩いて行った。かなたちゃんは母親、あけみさんの顔を見上げて目線を一度も そらす事はなかった。そう、一度もつかさに振り返って手を振らない。ずっとあけみさんを見ていた。つかさが悲しい顔をしたのがなんとなく分かった。 私達は二人が見えなくなるまで見送った。 かがみ「……奇跡って本当にあるのね」 一言、ぽつりと言った。かがみから『奇跡』なんて言葉が聞けるとは思わなかった。 かがみ「つかさ、こなた、みゆき、ごめん、私は間違っていた、みゆきが駅に迎えに来なかったらと思うと……今までの自分が恥かしい」 かがみも駅前まで来ていたのか。時間差だったか。みゆきさんは諦めていなかった。私の説得だけだったらかがみは来なかったのか。 みゆき「いいえ、泉さん、つかささんには遠く及びません、お恥ずかしながら……」 かがみ「なんだか私、とっても嬉しいわ、どう、四人集まるのも久しぶりじゃない、これから私の奢りで食事でもどう?」 かがみの奢りなら断る理由はない。 こなた「賛成」 みゆき「いいですね」 つかさは黙って何も言わない。 かがみ「つかさ、行くんでしょ?」 つかさ「う、うん……」 かがみ「どうしたのよ、歯切れがわるいわね、今回一番の功労賞はつかさなんだからもっと喜びなさいよ」 つかさが元気のない理由は分かっている。少し静かな所で少し落ち着きたいに違いない。この公園は静かだ。 こなた「奇跡にもう少し浸りたいんだよ、つかさは」 かがみは少し間を空けてから話した。 かがみ「そう、私とこなたでお店を予約するから、二時間後、会いましょう」 こなた「実は私も浸りたい、良いでしょ?」 こんな時はつかさを励まさないとね。 かがみ「それじゃ、みゆき」 みゆき「はい、お供いたします」 二人は駅の方に歩いて行った。 公園は私とつかさ二人だけ、静かになった。つかさの顔は一段と悲しく見えた。 こなた「つかさ、そんなに寂しいなら、かなたちゃん、あけみさんが戻るまで預かっていれば良かったんじゃないの?」 つかさは首を振った。 つかさ「あけみさんに写真を渡す時、かなちゃんのポケットに手品で使ったボールを入れた……」 全く気が付かなかった。もうつかさの手品は芸術的にさえ感じてしまう。 こなた「何で、また手品でかなたちゃんを楽しませなくていいの?」 つかさ「もう手品をする必要がないから……楽しませる必要がないから、もうかなちゃんとは会わない」 こなた「必要あるって、あけみさんも言ってたじゃん、遊びに来てって」 つかさ「かなたちゃんがあのボールを見ていつか奇跡を起こした巫女さんが居たね…って思い出してくれればいいよ」 かなちゃんの願いを叶えてしまったつかさ、もうかなちゃんはつかさを必要としていないと思っているのか。 こなた「お母さんと一年ぶりの再会だよ、どうしてもあけみさんに集中しちゃうよね、つかさを見なかったくらいでそんなに落ち込むなんて、思い込みすぎだよ」 つかさは私の目を見ながら真剣な顔をした。 つかさ「私ね、このおまじないが終わったら……かなちゃんのお母さんになっても良かったかなって思ってた」 こなた「はははは、お母さんだなんて、お母さんはね結婚しないと成れな……」 私は固まった。まさか、かなたちゃんのお母さんになるって、太郎さんと結婚するって意味なのか。冗談なのか。 かがみに頼まれてつかさを尾行していた時を思い出した。あの時旦那さん、太郎さんと話していたつかさは親しげだった。私があの時思ったのは勘違いではなかった? こなた「まさか、太郎さんの事、好きだったの?」 つかさは頷いた。 これは事故だ。悲劇だよ。 こなた「つかさ……太郎さんとは……その……何処までいったの……かな?」 もちろん性的な意味で聞いた。これは興味本位で聞いたんじゃない。親友として聞かなければならない。 つかさ「まだ告白もしていないよ、でも、このおまじないが失敗したら告白するつもりだった……失敗すればかなちゃちゃんもあけみさんを諦めてくれる……     100%失敗のおまじないなんだよ……そうだよね、こなちゃん……それなのに……好きになっちゃいけなかったのかな……そんなのないよね…… 奇跡が起きても……喜べないよ……あんなにかななちゃは喜んでいるのに……最低だよね……私って、いけない事したのかな……教えてよ、こなちゃん」 こなた「つかさ……」 すがりつくように答えを求めるつかさ。私は何も答えられない。いや、かがみやみゆきさんだって答えられない。 深い関係になっていなかった。少し安心したけど私はつかさを甘く見ていた。ベビーシッターごっこをしていただけだと思っていたけど、つかさはもう大人の階段を昇っていた。 つかさにとってかがみは来ても来なくても良かったのか。告白もしていないから恋愛とは程遠い……だけどそんな淡い恋に真っ直ぐなつかさを少し羨ましく思った。 つかさ「私、ついてはいけない嘘をついていた……それでこなちゃん、お姉ちゃん、ゆきちゃんも騙して恋を実らせようとしてた……うんん、かなちゃんも騙そうとしてた、 きっと罰が当たったよね、こなちゃん、私を嫌いになっちゃったでしょ、きっとお姉ちゃん、ゆきちゃんも……」 自分の欲望の為か……正直に言っていれば直ぐに手伝ったのに。それに奇跡の罰って何なんだよ、こんなの反則だよ。ゲームにもないシチュエーションだ。 かがみやみゆきさんはどうか知らないけど、私はつかさをもっと好きになった。このまま抱きしめたいくらいだ。 だけどつかさは嘘をついた。ついてはいけない嘘を。 しかも私のお母さんへの想いを利用したのは許さない。 こなた「つかさ、私は許さない、だから責任をとってもらうよ」 つかさ「……何をすれば許してくれるの……」 つかさは目を閉じた。覚悟を決めたようだ。 つかさがかなたちゃんにおまじをかけた時分かった。もう終わっていたと思っていた。諦めていた。そして出来ないと思っていた。 だから自分に嘘をついていたってね。 今のつかさなら出来る。奇跡を起こしたつかさなら私を救ってくれる。 こなた「お母さんに逢えるおまじない、私にかけて」 つかさ「え、なに言ってるの、そんなおまじないしたって、こなちゃんは亡くなっているのを知っているし……無理だよ、出来ないよ」 こなた「責任を取ってくれるんじゃなかったの?」 つかさは戸惑いながらもシートを広げた。 つかさ「座って……」 私は靴を脱いでシートの上に座った。つかさは目を閉じ私の頭に手を乗せた。ここで呪文のようなのを唱えるはず。しかしいつまでも黙っていた。 つかさの顔を見るとつかさは涙を流していた。 つかさ「こなちゃん、もう止めようよ、こんなの悲しいだけだよ」 私はそれでも黙っておまじないを受け続けた。 明後日を待つ必要はない、おまじないをした結果は分かっている。奇跡は二度も起きない事も。つかさの涙が私の膝に落ちるのが分かる。 私も涙が出てきた。悲しい。そう、悲しかった。だからつかさやみゆきさんのお母さんが羨ましかった。だからかがみの説得で涙が出た。悲しくなかったなんて嘘だった。 お母さんの記憶が殆ど無い私はいつか逢えると心奥底に期待していた。どこかで生きているのではないかと。このおまじないはその淡い期待すら消し去ってくれる。 そう、私はお母さんと本当のお別れがしたかった。お母さんはもう居ないと、とどめを刺して欲しかった。 大事な人と逢わせたおまじない、それは大切な人との別れのおまじないに変わった。 このおまじないは本来こうして使うもの、そうでしょ、つかさ…… 私の心の問いに答えるようにつかさは呪文を唱えた。つかさの目から涙が消えた。 つかさも、もう二度と逢えない、片思いの彼とその娘、かなたちゃんにお別れをしている。そんな気がした。 こなた「終わったよ、こなちゃん」 私は立ち上がり靴を履いてシートから離れた。するとつかさはシートを畳んだ。するとつかさはクスクスと笑い始めた。 こなた「何がそんなに可笑しいの?」 つかさ「だって、こなちゃん、大学生にもなっておまじないをかけてって、真顔で言っちゃうんだもん、かなちゃんみたにね~」 なんかカチンときた。 こなた「そう言うつかさは既婚の男性に手を出そうとするなんて、この先何人の奥さんを泣かすのかな~」 つかさ「恋するのは自由だよ、ゲームでしか恋の出来ないこなちゃん」 つかさが口答えしている。いつもは私の一方通行で終わっちゃうのに。かがみとは違う新鮮さを感じた。 こなた「そんなに背伸びすると怪我するよ」 つかさ「冒険しないと大人になれないよ」 そうさ、つかさはもう大人さ、また新しい恋をすればいい。その調子ならもう大丈夫だね。 こなた「つかさに言われたくない」 つかさ「こなちゃんに言われたくないよ」 お互い言うことが無くなった。沈黙がしばらく続いた。 こなた・つかさ「ふふふ、はははは~」 笑った。二人で笑った。なんだろう、今までのわだかまりが流れ去ったように清々しい気分だ。 こなた「さてと、行こうか、かがみとみゆきさんが待ってるよ」 つかさ「そうだね、行こう」 こなた「ただいま」 そうじろう「おかえり、こなた」 家に帰るとお父さんはすでに帰っていた。仕事が終わったみたいだ。 そうじろう「どうした、何か良いことでもあったのか、そんな楽しそうにし……」 お父さんは話すのを止めて私をじっとみている。 こなた「何か私の顔に付いてる?」 そうじろう「い、いや、ちょっとお母さん、かなたの面影が……こなた、お前も大人になったな……来年はもう二十歳か……」 私は何も変わっていない。つかさに遠く及ばないよ。だけど私にお母さんの何かを感じたと言うのなら…… こなた「それなら、お母さんの話をしてよ」 そうじろう「珍しいな、こなたの方から聞いてくるなんて……」 こなた「出来れば私の生まれる前、お母さんと出会った頃、それから亡くなった時の話が聞きたい」 お父さんは少し顔をしかめた。やっぱり。 こなた「無理ならいいよ、部屋に行くから……」 そうじろう「座りなさい、話す、話すが……少し覚悟して聞きなさい」 私が席に座るとお父さんはお母さんの話を語りだした。流石作家のはしくれ、まるで隣にお母さんが居るみたいにリアルに表現する。いや、私を通してお母さんに 語りかけているみたい。そして、お母さんの亡くなった話は初めてだったせいか、涙無しにはいられなかった。 そうか、そうだった。何故今まで気が付かなかったのかな。 つかさのおまじないはもう一つ奇跡を起こした。 私はお母さんに逢えた。いや、もうずっと前から逢っていた。お父さんとお母さんの話をする度に…… でも今なら私が想えばいつでも逢える。 つかさのおまじないはそれを気付かせてくれた。  その後、あの一家がつかさの前に来ていない。もしかしたら太郎さんはつかさの恋に気が付いていたのか、今となっては知る術はない。その必要もない。 二度と会わないかもしれないのだから。 つかさはあの事は忘れたように振舞っている。天然で、空気で、いつもかがみの陰に隠れて目立たない。夏休み前と何も変わらない。 皆は奇跡の裏にある本当のつかさを知らない。 いつか話すだろうか。私とつかさだけの秘密になるかもしれない。それはつかさが決めれば良い。その時、私が答えられなかった答えが見つかるといいね。 ちょっと危ないつかさの恋の冒険、でもそれは私達を巻き込み奇跡を呼んだ。そして、私達を変えた。 終
 家に帰るとつかさからメールが来ているのに気が付いた。『ありがとう』それだけのメッセージだった。かがみを説得したお礼なのか、私が明日立ち会うのを喜んでいるのか、 ボールを返したお礼なのか、それともかがみが明日母親役をしてくれるようになったのか、いろいろな意味で取れる。電話して聞いてみるのが手っ取り早い。だけど それは出来なかった。もし、かがみが来ないと言ったら明日の立会いに行きたくなくなるから。どうせ全ては明日分かってしまう、だから返信もしない。 今日は調子が悪い。人身事故で電車が遅れていた。もっと早く起きればよかった。車で行けばよかったか。いまさらそんな後悔しても遅い。 ホームで電車を待っている。つかさはもう公園に居る時間だ。このままだと大事な約束を破ってしまう。気ばっかりが焦ってしまう。かがみは一緒なのか。 もう対面しちゃってるかな。早く来てくれ~ 電車は三十分遅れで到着した。何とか間に合いそうだ。目的の駅に着くと飛び出すように改札口に出た。公園に向かおうとした時だった。かがみが改札口のベンチに座っていた。 つかさと一緒じゃなかったのか。さては一度は断ったけど気が変わってここまで来たのはいいけれど、断った手前、行くに行けない状態になってる。まったく世話のやけるかがみ。 こなた「かがみ、何してるんだよ、もう時間が無いよ」 私を見上げじっと見つめるかがみ。折角ここまできて立ち往生はさせない。 こなた「もう覚悟を決めてかなたちゃんの所に行こう、つかさが待っているよ」 かがみ「かなた……私は……」 立ち上がる気配がない。もう待っては居られない。私はかがみの手を掴み引っ張った。かがみはやっと重い腰を上げた。掴んだ腕を持ったまま私は走った。最初は少し 抵抗したけど直ぐにペースを合わせて走ってくれた。やっと覚悟を決めたようだ。嬉しかった。かがみが来てくれた。それだけでいい。この調子だとかなたちゃんの前でも ただ突っ立っているだけかもしれない。偽者だとバレてしまうかもしれない。それでも構わない。  公園に着いた。つかさとかなたちゃんがシートの上に座っていた。公園の入り口でかなたちゃんの方を指差した。 こなた「あの子がかなたちゃんだから、会ってくれるだけでいいからね、無理に演技なんかしなくてもいい、息が整ったら近づいて名前を呼んであげて」 かがみは暫く公園の周りを見回すとゆっくりとかなたちゃんに近づいて行った。つかさがそれに気が付いた。かなり驚いた様子だ。やっぱりかがみは一度断ったのか。 つかさは直ぐに公園の入り口に居る私に気が付いた。手を上げて答えた。するとつかさはゆっくりと立ち上がった。かなたちゃんはつかさを見上げた。 かなたちゃんはつかさが見ている方に体を向けた。そこにかがみが居る。 かなた「ママー」 叫ぶと同時に立ち上がり裸足のままかがみに駆け寄った。そしてそのままかがみに抱きついた。かがみは突っ立ったまま見下ろしていた。 名前を呼んでって言ったのに何もしない。ここまで恥かしがりやとは思わなかった。 あれ、かがみの体が震えている。緊張してしまったのか、なんだか見ていられなくなってきた。つかさも心配そうにかがみ達を見ている。 つぎの瞬間顔から数滴の水……涙? 良く見るとかがみは目にいっぱいの涙を浮かべていた。かがみはしゃがみ込んでかなたちゃんを抱きしめた。 かがみ「かなた……」 息を呑んだ。一変して迫真の演技、なんだやれば出来るじゃないか。これだ、これを私は見たかった。もっと近くで見たい。 「こ、これは、これはどうゆう事ですか……」 聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返るとはみゆきさんが居た。そしてみゆきさんに手を掴まれているかがみが立っていた。 えぇ、また振り返った。そこにはかなたちゃんを抱いているかがみが居る。かがみが二人。 みゆきさんの連れて来たかがみはかなたちゃんを抱いているかがみを見て呆然としていた。 こなた「かがみ、かがみだよね?」 みゆきさんが連れて来たかがみに問いかける。 かがみ「だったら私は誰なのよ」 この口答え、みゆきさんの連れて来たかがみは本物だ。それじゃもう一人のかがみは…… 抱き合っている二人を見ていると親子そのものだ。疑いの余地はない。かなたちゃんの母親……つかさのおまじないは、かなたちゃんのお母さんを生き返られた。 そんなバカな……心の中で何度も呟いた。 私、つかさ、かがみ、みゆきさん、四人は二人を見ていた。時間が止まったように。ただ見ていた。 かなたちゃんとかがみにそっくりの女性は本当の親子のように……一年ぶりの再会を喜んでいた。  これはおまじないの効果でも奇跡でもない。かなたちゃんのお母さんは亡くなっていなかった。それだけの話だった。だったら何故もっと早く気付かなかった。 それも簡単だ。かなたちゃんのお母さんは洪水で助けられたときに頭を強打したらしく強度の記憶喪失になっていた。身分を証明するものを一切持ってなかった為に 誰だか分からなかった。母親の治療した施設はここからかなり離れた場所にあったので捜索が難航したようだ。偶々リハビリでこの町に来た。本当はあの駅に降りる予定では なかったが人身事故で一時的にあの駅で待機していた。そこに私がやってきた。そしてかなたちゃんを見て全ての記憶が戻った。それだけの話…… あけみさんが身の内を話し終わり皆が落ち着きを取り戻した頃だった。あけみさんは私に近づいてきた。 あけみ「本当にありがとうございました、強引に引っ張られた時はどうなるかと思いましが、かなたが、娘が私の記憶を取り戻してくれました」 私に何度も頭をさげるあけみさん、驚いた、声までかがみそっくりだ。双子のつかさが他人に見える。 こなた「お礼ならつかさに、私はおまじないを実現しようとしただけ……です」 そう、つかさのおまじないがなければこの親子は逢えなかった。私はそれに便乗しただけ。 あけみさんはつかさの方を向き何度も頭を下げた。つかさは照れくさそうに手を頭の後ろに当てていた。だけどなんかおかしい、つかさの表情が少し悲しげに見える。 みゆき「……奇跡としかいいようがありません、よかったですね」 あけみ「ありがとうございます」 かがみ「ここまで私に似ている人が居るなんて……」 あけみ「私も驚いています……」 しばらく私達はみゆきさんの言う奇跡の余韻に浸りながら会話をしていた。するとあけみさんは何かを思い出したようだ。 あけみ「あっ、そうでした、私は施設に一度戻らなければ、記憶が戻ったのを知らせないと、一年間お世話になった人達にお礼をいわないといけません、それに突然居なくなって     私を探しているかもしれませんし、急がないと」 あけみさんは立ち上がった。 かなた「ママ……」 かなたちゃんはあけみさんの腕をつかみ止めた。 あけみ「すぐ戻ってくるから……」 今度は両手で腕をつかんだ。今にも泣き出しそうだ。また別れてしまうのではないか。そう思っているに違いない。 つかさ「あけみさん、一緒に連れて行ってあげて、そうすればきっと施設の人も喜ぶと思います」 あけみさんは少し考えた。 あけみ「そうですね、それがいいかもしれない、かなたも離れたくないでしょうから」 つかさはかばんから何かを出してあけみさんに差し出した。それはあけみさんの写真と鍵だった。 つかさ「太郎さんから預かったものです、受け取って下さい」 あけみさん写真を受け取ると自分の写真をじっと見た。 あけみ「この写真……結婚した時のもの……太郎……」 旦那さんを思い出したのか、あけみさんの目がまた潤み始めた。 つかさ「太郎さん、今日は帰りが遅いって……だから鍵を預かりました……」 あけみ「そうですか、つかささん、今までかなたの相手をしてくれて有難う、今度家に遊びに来て、主人と一緒にお礼がいいたい、皆様もどうぞご一緒に……」 つかさは返事をしなかった。あけみさんは一礼するとかなたちゃんの手を引き駅の方角に歩いて行った。かなたちゃんは母親、あけみさんの顔を見上げて目線を一度も そらす事はなかった。そう、一度もつかさに振り返って手を振らない。ずっとあけみさんを見ていた。つかさが悲しい顔をしたのがなんとなく分かった。 私達は二人が見えなくなるまで見送った。 かがみ「……奇跡って本当にあるのね」 一言、ぽつりと言った。かがみから『奇跡』なんて言葉が聞けるとは思わなかった。 かがみ「つかさ、こなた、みゆき、ごめん、私は間違っていた、みゆきが駅に迎えに来なかったらと思うと……今までの自分が恥かしい」 かがみも駅前まで来ていたのか。時間差だったか。みゆきさんは諦めていなかった。私の説得だけだったらかがみは来なかったのか。 みゆき「いいえ、泉さん、つかささんには遠く及びません、お恥ずかしながら……」 かがみ「なんだか私、とっても嬉しいわ、どう、四人集まるのも久しぶりじゃない、これから私の奢りで食事でもどう?」 かがみの奢りなら断る理由はない。 こなた「賛成」 みゆき「いいですね」 つかさは黙って何も言わない。 かがみ「つかさ、行くんでしょ?」 つかさ「う、うん……」 かがみ「どうしたのよ、歯切れがわるいわね、今回一番の功労賞はつかさなんだからもっと喜びなさいよ」 つかさが元気のない理由は分かっている。少し静かな所で少し落ち着きたいに違いない。この公園は静かだ。 こなた「奇跡にもう少し浸りたいんだよ、つかさは」 かがみは少し間を空けてから話した。 かがみ「そう、私とこなたでお店を予約するから、二時間後、会いましょう」 こなた「実は私も浸りたい、良いでしょ?」 こんな時はつかさを励まさないとね。 かがみ「それじゃ、みゆき」 みゆき「はい、お供いたします」 二人は駅の方に歩いて行った。 公園は私とつかさ二人だけ、静かになった。つかさの顔は一段と悲しく見えた。 こなた「つかさ、そんなに寂しいなら、かなたちゃん、あけみさんが戻るまで預かっていれば良かったんじゃないの?」 つかさは首を振った。 つかさ「あけみさんに写真を渡す時、かなちゃんのポケットに手品で使ったボールを入れた……」 全く気が付かなかった。もうつかさの手品は芸術的にさえ感じてしまう。 こなた「何で、また手品でかなたちゃんを楽しませなくていいの?」 つかさ「もう手品をする必要がないから……楽しませる必要がないから、もうかなちゃんとは会わない」 こなた「必要あるって、あけみさんも言ってたじゃん、遊びに来てって」 つかさ「かなたちゃんがあのボールを見ていつか奇跡を起こした巫女さんが居たね…って思い出してくれればいいよ」 かなちゃんの願いを叶えてしまったつかさ、もうかなちゃんはつかさを必要としていないと思っているのか。 こなた「お母さんと一年ぶりの再会だよ、どうしてもあけみさんに集中しちゃうよね、つかさを見なかったくらいでそんなに落ち込むなんて、思い込みすぎだよ」 つかさは私の目を見ながら真剣な顔をした。 つかさ「私ね、このおまじないが終わったら……かなちゃんのお母さんになっても良かったかなって思ってた」 こなた「はははは、お母さんだなんて、お母さんはね結婚しないと成れな……」 私は固まった。まさか、かなたちゃんのお母さんになるって、太郎さんと結婚するって意味なのか。冗談なのか。 かがみに頼まれてつかさを尾行していた時を思い出した。あの時旦那さん、太郎さんと話していたつかさは親しげだった。私があの時思ったのは勘違いではなかった? こなた「まさか、太郎さんの事、好きだったの?」 つかさは頷いた。 これは事故だ。悲劇だよ。 こなた「つかさ……太郎さんとは……その……何処までいったの……かな?」 もちろん性的な意味で聞いた。これは興味本位で聞いたんじゃない。親友として聞かなければならない。 つかさ「まだ告白もしていないよ、でも、このおまじないが失敗したら告白するつもりだった……失敗すればかなちゃちゃんもあけみさんを諦めてくれる……     100%失敗のおまじないなんだよ……そうだよね、こなちゃん……それなのに……好きになっちゃいけなかったのかな……そんなのないよね…… 奇跡が起きても……喜べないよ……あんなにかななちゃは喜んでいるのに……最低だよね……私って、いけない事したのかな……教えてよ、こなちゃん」 こなた「つかさ……」 すがりつくように答えを求めるつかさ。私は何も答えられない。いや、かがみやみゆきさんだって答えられない。 深い関係になっていなかった。少し安心したけど私はつかさを甘く見ていた。ベビーシッターごっこをしていただけだと思っていたけど、つかさはもう大人の階段を昇っていた。 つかさにとってかがみは来ても来なくても良かったのか。告白もしていないから恋愛とは程遠い……だけどそんな淡い恋に真っ直ぐなつかさを少し羨ましく思った。 つかさ「私、ついてはいけない嘘をついていた……それでこなちゃん、お姉ちゃん、ゆきちゃんも騙して恋を実らせようとしてた……うんん、かなちゃんも騙そうとしてた、 きっと罰が当たったよね、こなちゃん、私を嫌いになっちゃったでしょ、きっとお姉ちゃん、ゆきちゃんも……」 自分の欲望の為か……正直に言っていれば直ぐに手伝ったのに。それに奇跡の罰って何なんだよ、こんなの反則だよ。ゲームにもないシチュエーションだ。 かがみやみゆきさんはどうか知らないけど、私はつかさをもっと好きになった。このまま抱きしめたいくらいだ。 だけどつかさは嘘をついた。ついてはいけない嘘を。 しかも私のお母さんへの想いを利用したのは許さない。 こなた「つかさ、私は許さない、だから責任をとってもらうよ」 つかさ「……何をすれば許してくれるの……」 つかさは目を閉じた。覚悟を決めたようだ。 つかさがかなたちゃんにおまじをかけた時分かった。もう終わっていたと思っていた。諦めていた。そして出来ないと思っていた。 だから自分に嘘をついていたってね。 今のつかさなら出来る。奇跡を起こしたつかさなら私を救ってくれる。 こなた「お母さんに逢えるおまじない、私にかけて」 つかさ「え、なに言ってるの、そんなおまじないしたって、こなちゃんは亡くなっているのを知っているし……無理だよ、出来ないよ」 こなた「責任を取ってくれるんじゃなかったの?」 つかさは戸惑いながらもシートを広げた。 つかさ「座って……」 私は靴を脱いでシートの上に座った。つかさは目を閉じ私の頭に手を乗せた。ここで呪文のようなのを唱えるはず。しかしいつまでも黙っていた。 つかさの顔を見るとつかさは涙を流していた。 つかさ「こなちゃん、もう止めようよ、こんなの悲しいだけだよ」 私はそれでも黙っておまじないを受け続けた。 明後日を待つ必要はない、おまじないをした結果は分かっている。奇跡は二度も起きない事も。つかさの涙が私の膝に落ちるのが分かる。 私も涙が出てきた。悲しい。そう、悲しかった。だからつかさやみゆきさんのお母さんが羨ましかった。だからかがみの説得で涙が出た。悲しくなかったなんて嘘だった。 お母さんの記憶が殆ど無い私はいつか逢えると心奥底に期待していた。どこかで生きているのではないかと。このおまじないはその淡い期待すら消し去ってくれる。 そう、私はお母さんと本当のお別れがしたかった。お母さんはもう居ないと、とどめを刺して欲しかった。 大事な人と逢わせたおまじない、それは大切な人との別れのおまじないに変わった。 このおまじないは本来こうして使うもの、そうでしょ、つかさ…… 私の心の問いに答えるようにつかさは呪文を唱えた。つかさの目から涙が消えた。 つかさも、もう二度と逢えない、片思いの彼とその娘、かなたちゃんにお別れをしている。そんな気がした。 こなた「終わったよ、こなちゃん」 私は立ち上がり靴を履いてシートから離れた。するとつかさはシートを畳んだ。するとつかさはクスクスと笑い始めた。 こなた「何がそんなに可笑しいの?」 つかさ「だって、こなちゃん、大学生にもなっておまじないをかけてって、真顔で言っちゃうんだもん、かなちゃんみたにね~」 なんかカチンときた。 こなた「そう言うつかさは既婚の男性に手を出そうとするなんて、この先何人の奥さんを泣かすのかな~」 つかさ「恋するのは自由だよ、ゲームでしか恋の出来ないこなちゃん」 つかさが口答えしている。いつもは私の一方通行で終わっちゃうのに。かがみとは違う新鮮さを感じた。 こなた「そんなに背伸びすると怪我するよ」 つかさ「冒険しないと大人になれないよ」 そうさ、つかさはもう大人さ、また新しい恋をすればいい。その調子ならもう大丈夫だね。 こなた「つかさに言われたくない」 つかさ「こなちゃんに言われたくないよ」 お互い言うことが無くなった。沈黙がしばらく続いた。 こなた・つかさ「ふふふ、はははは~」 笑った。二人で笑った。なんだろう、今までのわだかまりが流れ去ったように清々しい気分だ。 こなた「さてと、行こうか、かがみとみゆきさんが待ってるよ」 つかさ「そうだね、行こう」 こなた「ただいま」 そうじろう「おかえり、こなた」 家に帰るとお父さんはすでに帰っていた。仕事が終わったみたいだ。 そうじろう「どうした、何か良いことでもあったのか、そんな楽しそうにし……」 お父さんは話すのを止めて私をじっとみている。 こなた「何か私の顔に付いてる?」 そうじろう「い、いや、ちょっとお母さん、かなたの面影が……こなた、お前も大人になったな……来年はもう二十歳か……」 私は何も変わっていない。つかさに遠く及ばないよ。だけど私にお母さんの何かを感じたと言うのなら…… こなた「それなら、お母さんの話をしてよ」 そうじろう「珍しいな、こなたの方から聞いてくるなんて……」 こなた「出来れば私の生まれる前、お母さんと出会った頃、それから亡くなった時の話が聞きたい」 お父さんは少し顔をしかめた。やっぱり。 こなた「無理ならいいよ、部屋に行くから……」 そうじろう「座りなさい、話す、話すが……少し覚悟して聞きなさい」 私が席に座るとお父さんはお母さんの話を語りだした。流石作家のはしくれ、まるで隣にお母さんが居るみたいにリアルに表現する。いや、私を通してお母さんに 語りかけているみたい。そして、お母さんの亡くなった話は初めてだったせいか、涙無しにはいられなかった。 そうか、そうだった。何故今まで気が付かなかったのかな。 つかさのおまじないはもう一つ奇跡を起こした。 私はお母さんに逢えた。いや、もうずっと前から逢っていた。お父さんとお母さんの話をする度に…… でも今なら私が想えばいつでも逢える。 つかさのおまじないはそれを気付かせてくれた。  その後、あの一家がつかさの前に来ていない。もしかしたら太郎さんはつかさの恋に気が付いていたのか、今となっては知る術はない。その必要もない。 二度と会わないかもしれないのだから。 つかさはあの事は忘れたように振舞っている。天然で、空気で、いつもかがみの陰に隠れて目立たない。夏休み前と何も変わらない。 皆は奇跡の裏にある本当のつかさを知らない。 いつか話すだろうか。私とつかさだけの秘密になるかもしれない。それはつかさが決めれば良い。その時、私が答えられなかった答えが見つかるといいね。 ちょっと危ないつかさの恋の冒険、でもそれは私達を巻き込み奇跡を呼んだ。そして、私達を変えた。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)

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