ID:qGxVJSiz0氏:another story of lucky star

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 銀色の月が漆黒の天井の真上に差し掛かる頃、少女はそれを眺めつつ少し震えていた。 秋風が身体に染み込む。都会の喧騒を知らぬ町外れで、うっすらと涙をにじませながら呟く。 「・・・来ちゃったんだ・・・」 男は少女の肩に手を乗せて「ごめんな」と一言呟くと、もうそれ以上、声を出せなかった。 ―――――翌朝 「おっはよー!柊姉妹~!」 「おはよぉ、こなちゃん」 「おっす、こなたぁ~。そのまとめて呼ぶのやめないか?」 柊かがみのこめかみがぴくぴくと震えているのを知ってか知らずか、蒼髪の泉こなたは顔全体を緩ませながらにやけている。 どことなく空気にいっそうの透明感を感じる秋空の下、少女たちはいつものように学校へと向かっていた。 教室にたどり着けばやはり、いつもと変わらぬ喧騒が回りを支配し、何事もなく平穏な日々が続くと思われていた。 「そういえば、もうすぐお月見だよね」 「そうね、そんなイベントもあったわね」 「クリスマスとかバレンタインに比べるとイベント感は薄いし、なによりギャルゲーでもそこでフラグは・・・」 「わかった、わかったから、私たちに通じないような話を堂々とするな!」 「おひょ~」 「ふふふ、相変わらずですね皆さん。おはようございます」 クラス一の優等生、高良みゆきが両腕にプリントを抱えて会話に入り込んできた。 「おっす、みゆき!その荷物は何よ?」 「ちょうど良かったですわ。かがみさんのクラスの分もありますから、持って行っていただけないでしょうか?」 「なぁに、ちょっと見せてね?”都市伝説にまつわる民族史と社会科学の変遷”?なんじゃこりゃ?」 柊つかさの頭上にトレードマークのリボンよりも巨大なはてなマークを誰もが確認し、同じようにプリントを覗き込んだ。 「なんでも、黒井先生が卒論で書いたものらしくて、次回からの授業で使用するとのことです」 「ほへー、だてにネトゲしてるわけじゃなかったか」 「あはは、黒井先生には悪いけど、人って分からないものね」 「なぁ、柊~、もうHR始まるんやけどなぁ~」 ゴスッ!ゴツッ! 「った!す、すみませんでしたー!」 「あう~、なんで私は出席簿の角なんですかー」 頭を抱え走り出すかがみとその場でもだえるこなた。教室中が笑いに包まれた。 「さぁ、席につきぃ~。はじめるでぇー」 「さぁて、今日はこなたの買い物に付き合っちゃおうかなぁ~」 「あ、ごめん、かがみんや。今日はバイトの日なのだよ~」 「そうなんだ!?わかったわ、またにしましょ」 「こなちゃん、最近アルバイトの回数増やしたの?」 不思議そうな顔でつかさはこなたの顔を覗き込んだ。 「うん、ちょと忙しくてね~。人手が足りないって言うか…」 「へぇ、じゃあ、パティも忙しかったりするわけだ?」 「へ?う、うん。そだねー」 「なんか憧れちゃうな~。アルバイトやってるだけでも”大人”って感じなのに、仕事で忙しいとかかっこいいよね~」 無邪気に笑うつかさの横で、こなたが少しだけ暗い表情をしたのをかがみはぼんやりと眺めていた。 ――21時のニュースです。先程、○○市××町の××交差点付近で28歳の会社員男性が襲われるという事件が発生しました。 男性は首筋に鋭利な刃物で傷つけられたような裂傷があり、大量の出血を伴い現在大学病院にて緊急手術を受けているとのことです。 次に――― 「ちょ、××町ってこなたのバイト先のあるところじゃなかったっけ!?」 「え!そうだっけ!?こなちゃん大丈夫かな?」 二人は居間を飛び出すと一目散に電話機の元へ駆け寄り、泉家へとダイヤルを回した。 「はい、もしもし、泉ですけど~」 「こなちゃん!」 「こなたぁっ!」 「ぬおぉぉぉぉ!かがみにつかさ!いきなりなんなんだ!?」 受話器の向こう側で頭頂部の毛が揺れる様が手に取るようにわかる。二人はほっとして溜息を吐き出すと、次の瞬間笑いがこみ上げてきた。 「もうー!心配したんだよ!?」 「な、な、なに?なに!?」 「ちょっと、つかさ貸しなさいよ!・・・こなたー!元気そうね!」 「う、うん。元気だけどさ、なんなのよ?」 「いいのいいの!元気ならね!また、明日話すわぁ~」 そう言って柊家の三女と四女は受話器を置いた。 あっけに取られていたこなたも受話器を置く。だが、その表情には笑顔は無く、苦悶の、悲哀の相が現れていた。 「いい・・・友達だよね・・・」 部屋へと続く階段をゆっくりと慎重に踏みしめる。 「私なんかにはもったいないくらい、いい友達だよね」 自室のドアノブにそっと手をかける、ゆたかを起こさないように。 「もう・・・後戻りは出来ないからね・・・」 こなたは部屋の壁に向かって険しい眼光を光らせた。 その先にあったのは・・・。 「よごれちゃったな。これじゃ、ブルセラショップに売れないよ」 うっすらと涙を浮かべながら見つめるセーラー服は赤く・・・染まっていた。 次の日、陵桜学園内のどこにも泉こなたの姿は無かった。 「なんだよ、あいつ・・・。休むなら一言くらい言ってくれてもいいのに・・・」 「昨日、電話の時一方的だったから、怒っちゃったのかなぁ~?」 さびしげな二人。いつもいるはずのもう一人が今日はいない。 HRの時点でも担任である黒井は「ずるちゃうん?来たらとっちめてやるけどな~」としか、言ってなかった。皆勤賞とはいかないまでも、少なくとも3年になってからは 病欠以外のこなたを見ることは無かった。 「でも、メールも出来ないほど重症なのかも!」 「いやいや、それならおじさんから連絡が入るでしょ?」 「そだね・・・」 なにか、嫌な予感がしてた。お姉ちゃんも同じだと思うけど、なんか嫌な予感がする。 そう考えながらつかさは今日5度目のメールをこなたに送った。 <こなちゃん、何かあったの?> 泉こなたはそれから1週間、学校を無断で休んだ。 「どうしたんや泉?」 「すみません、ほんとに何でもないんです!あはは、ネトゲやりすぎてガッコ忘れてたとかさすがの私も言い出しにくくって・・・」 朝の職員室。校内にいる生徒の数もまだまだ少なく、静かな無機質な空気を感じた。 「にしてもやなぁ~・・・」 黒井ななこは思った。泉こなたとは同じネトゲでよく遊ぶほうだ。友人登録もしてるし、プライベートでのメール交換もしている。たしかにこいつは”オタク”と呼ばれる人種に間違いはない。 だが、そこまで羽目をはずしてのめり込むほど壊れた人間ではないはずだ! 教師と生徒以上のつながりを持つ彼女だからこそ、そこの疑問点がどうしても拭えない。 「ホント!ゴメンナサイ!」 こなたは飛び上がるように伸びると深々と頭を下げた。謝罪の言葉を言い終えると黒井の顔を一瞥して退室していった。 「まぁ、えぇわ。そや!今度、例の人狼倒しにいかへんかぁ?結構ゴールド稼げるらしいで?」 ビクッとして肩をすぼめる。歩みを止め小さな声で言う・・・。 「人狼はしばらく見たくないっすね・・・」 再び歩き出す蒼髪の少女。彼女のささやきは担任の耳に届いたのだろうか・・・。 それから放課後までの間というもの、つかさにみゆき、どこから聞きつけたのかひよりやパティまでがこなたの元にひっきりなしに訪れ、彼女の不登校について質問を浴びせた。 もちろん、かがみもその中にいたことは言うまでもない。だが、こなたは一様に「ネトゲ」とだけ答え、引きつった笑いでごまかし続けていた。 ――またもや、奇妙な殺人事件が発生しました!現場はまたしても××町!若者の街として賑わいを見せていたこの街には午後8時以降、その影を見ることは出来ません―― 家に帰った二人はそれぞれ別々の時間を過ごしていた。 どう考えても嘘をついているとしか思えない親友に対する怒りや悲しみが混沌となり、食事すら受け付けずに自室にこもる双子の姉。 垂れ流したままのテレビ画面をずっと凝視したまま動かない妹。 「あんたたち・・・。」 次女まつりも只事ではない何かを感じてつかさの横に腰を下ろす。 「どうしたのよ?何かあったの?けんかでもした?」 「うぅん。してないよ・・・」 「じゃあ、どうしたの?なんか変だよ。空気が澱んでる気がする・・・」 「え!?」 つかさは不意に正気を取り戻し、まつりにの顔に近寄る。 「うわぁ!な、何よいきなり!?」 「まつりお姉ちゃん、いま、なんて言ったの!?」 「へ?何のことよ?変って言っただけよ」 「ちがう!そのあと!」 いつも温和なつかさの表情に激しさが溶け込む。 「空気・・・空気が澱んでいる気がするよ、って・・・」 「やっぱりそうだよ!」 つかさは立ち上がり駆け出すように居間を飛び出る。あっけに取られたまつりは口をあけたまま妹の消えていく様を見ているしかなかった。 そこは少しかび臭くて、決して気持ちのいいものではなかったがどこか落ち着きのある静寂と温もりが充満していた。 ここに入るのは何度目だろう?少女はそんなことを考えながらろうそくの灯りだけを頼りにゆっくりと歩いていた。 しばらくすると古ぼけた木作りの扉が彼女の前を阻んでいる。中で何者かの呟く声と、ばさっばさっという音が、年代ものの扉の隙間から漏れ出てくる。 少女は扉に手をかけ力を込める。 「おとうさん・・・」 「おぉ、きたね・・・」 いつも見ているものの、その姿は平時のそれではなく、こんな夜中にする格好でもない。 「お父さん・・・」 心配そうに父を見つめる少女。父親は振り向きやさしく声をかけた。 「つかさは優しくていい子だね。それ故にこんな辛い役回りを務めさせて、ごめんな」 ただおは我が子に近づきそっと頭を撫で、やわらかく抱擁した。
 銀色の月が漆黒の天井の真上に差し掛かる頃、少女はそれを眺めつつ少し震えていた。 秋風が身体に染み込む。都会の喧騒を知らぬ町外れで、うっすらと涙をにじませながら呟く。 「・・・来ちゃったんだ・・・」 男は少女の肩に手を乗せて「ごめんな」と一言呟くと、もうそれ以上、声を出せなかった。 ―――――翌朝 「おっはよー!柊姉妹~!」 「おはよぉ、こなちゃん」 「おっす、こなたぁ~。そのまとめて呼ぶのやめないか?」 柊かがみのこめかみがぴくぴくと震えているのを知ってか知らずか、蒼髪の泉こなたは顔全体を緩ませながらにやけている。 どことなく空気にいっそうの透明感を感じる秋空の下、少女たちはいつものように学校へと向かっていた。 教室にたどり着けばやはり、いつもと変わらぬ喧騒が回りを支配し、何事もなく平穏な日々が続くと思われていた。 「そういえば、もうすぐお月見だよね」 「そうね、そんなイベントもあったわね」 「クリスマスとかバレンタインに比べるとイベント感は薄いし、なによりギャルゲーでもそこでフラグは・・・」 「わかった、わかったから、私たちに通じないような話を堂々とするな!」 「おひょ~」 「ふふふ、相変わらずですね皆さん。おはようございます」 クラス一の優等生、高良みゆきが両腕にプリントを抱えて会話に入り込んできた。 「おっす、みゆき!その荷物は何よ?」 「ちょうど良かったですわ。かがみさんのクラスの分もありますから、持って行っていただけないでしょうか?」 「なぁに、ちょっと見せてね?”都市伝説にまつわる民族史と社会科学の変遷”?なんじゃこりゃ?」 柊つかさの頭上にトレードマークのリボンよりも巨大なはてなマークを誰もが確認し、同じようにプリントを覗き込んだ。 「なんでも、黒井先生が卒論で書いたものらしくて、次回からの授業で使用するとのことです」 「ほへー、だてにネトゲしてるわけじゃなかったか」 「あはは、黒井先生には悪いけど、人って分からないものね」 「なぁ、柊~、もうHR始まるんやけどなぁ~」 ゴスッ!ゴツッ! 「った!す、すみませんでしたー!」 「あう~、なんで私は出席簿の角なんですかー」 頭を抱え走り出すかがみとその場でもだえるこなた。教室中が笑いに包まれた。 「さぁ、席につきぃ~。はじめるでぇー」 「さぁて、今日はこなたの買い物に付き合っちゃおうかなぁ~」 「あ、ごめん、かがみんや。今日はバイトの日なのだよ~」 「そうなんだ!?わかったわ、またにしましょ」 「こなちゃん、最近アルバイトの回数増やしたの?」 不思議そうな顔でつかさはこなたの顔を覗き込んだ。 「うん、ちょと忙しくてね~。人手が足りないって言うか…」 「へぇ、じゃあ、パティも忙しかったりするわけだ?」 「へ?う、うん。そだねー」 「なんか憧れちゃうな~。アルバイトやってるだけでも”大人”って感じなのに、仕事で忙しいとかかっこいいよね~」 無邪気に笑うつかさの横で、こなたが少しだけ暗い表情をしたのをかがみはぼんやりと眺めていた。 ――21時のニュースです。先程、○○市××町の××交差点付近で28歳の会社員男性が襲われるという事件が発生しました。 男性は首筋に鋭利な刃物で傷つけられたような裂傷があり、大量の出血を伴い現在大学病院にて緊急手術を受けているとのことです。 次に――― 「ちょ、××町ってこなたのバイト先のあるところじゃなかったっけ!?」 「え!そうだっけ!?こなちゃん大丈夫かな?」 二人は居間を飛び出すと一目散に電話機の元へ駆け寄り、泉家へとダイヤルを回した。 「はい、もしもし、泉ですけど~」 「こなちゃん!」 「こなたぁっ!」 「ぬおぉぉぉぉ!かがみにつかさ!いきなりなんなんだ!?」 受話器の向こう側で頭頂部の毛が揺れる様が手に取るようにわかる。二人はほっとして溜息を吐き出すと、次の瞬間笑いがこみ上げてきた。 「もうー!心配したんだよ!?」 「な、な、なに?なに!?」 「ちょっと、つかさ貸しなさいよ!・・・こなたー!元気そうね!」 「う、うん。元気だけどさ、なんなのよ?」 「いいのいいの!元気ならね!また、明日話すわぁ~」 そう言って柊家の三女と四女は受話器を置いた。 あっけに取られていたこなたも受話器を置く。だが、その表情には笑顔は無く、苦悶の、悲哀の相が現れていた。 「いい・・・友達だよね・・・」 部屋へと続く階段をゆっくりと慎重に踏みしめる。 「私なんかにはもったいないくらい、いい友達だよね」 自室のドアノブにそっと手をかける、ゆたかを起こさないように。 「もう・・・後戻りは出来ないからね・・・」 こなたは部屋の壁に向かって険しい眼光を光らせた。 その先にあったのは・・・。 「よごれちゃったな。これじゃ、ブルセラショップに売れないよ」 うっすらと涙を浮かべながら見つめるセーラー服は赤く・・・染まっていた。 次の日、陵桜学園内のどこにも泉こなたの姿は無かった。 「なんだよ、あいつ・・・。休むなら一言くらい言ってくれてもいいのに・・・」 「昨日、電話の時一方的だったから、怒っちゃったのかなぁ~?」 さびしげな二人。いつもいるはずのもう一人が今日はいない。 HRの時点でも担任である黒井は「ずるちゃうん?来たらとっちめてやるけどな~」としか、言ってなかった。皆勤賞とはいかないまでも、少なくとも3年になってからは 病欠以外のこなたを見ることは無かった。 「でも、メールも出来ないほど重症なのかも!」 「いやいや、それならおじさんから連絡が入るでしょ?」 「そだね・・・」 なにか、嫌な予感がしてた。お姉ちゃんも同じだと思うけど、なんか嫌な予感がする。 そう考えながらつかさは今日5度目のメールをこなたに送った。 <こなちゃん、何かあったの?> 泉こなたはそれから1週間、学校を無断で休んだ。 「どうしたんや泉?」 「すみません、ほんとに何でもないんです!あはは、ネトゲやりすぎてガッコ忘れてたとかさすがの私も言い出しにくくって・・・」 朝の職員室。校内にいる生徒の数もまだまだ少なく、静かな無機質な空気を感じた。 「にしてもやなぁ~・・・」 黒井ななこは思った。泉こなたとは同じネトゲでよく遊ぶほうだ。友人登録もしてるし、プライベートでのメール交換もしている。たしかにこいつは”オタク”と呼ばれる人種に間違いはない。 だが、そこまで羽目をはずしてのめり込むほど壊れた人間ではないはずだ! 教師と生徒以上のつながりを持つ彼女だからこそ、そこの疑問点がどうしても拭えない。 「ホント!ゴメンナサイ!」 こなたは飛び上がるように伸びると深々と頭を下げた。謝罪の言葉を言い終えると黒井の顔を一瞥して退室していった。 「まぁ、えぇわ。そや!今度、例の人狼倒しにいかへんかぁ?結構ゴールド稼げるらしいで?」 ビクッとして肩をすぼめる。歩みを止め小さな声で言う・・・。 「人狼はしばらく見たくないっすね・・・」 再び歩き出す蒼髪の少女。彼女のささやきは担任の耳に届いたのだろうか・・・。 それから放課後までの間というもの、つかさにみゆき、どこから聞きつけたのかひよりやパティまでがこなたの元にひっきりなしに訪れ、彼女の不登校について質問を浴びせた。 もちろん、かがみもその中にいたことは言うまでもない。だが、こなたは一様に「ネトゲ」とだけ答え、引きつった笑いでごまかし続けていた。 ――またもや、奇妙な殺人事件が発生しました!現場はまたしても××町!若者の街として賑わいを見せていたこの街には午後8時以降、その影を見ることは出来ません―― 家に帰った二人はそれぞれ別々の時間を過ごしていた。 どう考えても嘘をついているとしか思えない親友に対する怒りや悲しみが混沌となり、食事すら受け付けずに自室にこもる双子の姉。 垂れ流したままのテレビ画面をずっと凝視したまま動かない妹。 「あんたたち・・・。」 次女まつりも只事ではない何かを感じてつかさの横に腰を下ろす。 「どうしたのよ?何かあったの?けんかでもした?」 「うぅん。してないよ・・・」 「じゃあ、どうしたの?なんか変だよ。空気が澱んでる気がする・・・」 「え!?」 つかさは不意に正気を取り戻し、まつりにの顔に近寄る。 「うわぁ!な、何よいきなり!?」 「まつりお姉ちゃん、いま、なんて言ったの!?」 「へ?何のことよ?変って言っただけよ」 「ちがう!そのあと!」 いつも温和なつかさの表情に激しさが溶け込む。 「空気・・・空気が澱んでいる気がするよ、って・・・」 「やっぱりそうだよ!」 つかさは立ち上がり駆け出すように居間を飛び出る。あっけに取られたまつりは口をあけたまま妹の消えていく様を見ているしかなかった。 そこは少しかび臭くて、決して気持ちのいいものではなかったがどこか落ち着きのある静寂と温もりが充満していた。 ここに入るのは何度目だろう?少女はそんなことを考えながらろうそくの灯りだけを頼りにゆっくりと歩いていた。 しばらくすると古ぼけた木作りの扉が彼女の前を阻んでいる。中で何者かの呟く声と、ばさっばさっという音が、年代ものの扉の隙間から漏れ出てくる。 少女は扉に手をかけ力を込める。 「おとうさん・・・」 「おぉ、きたね・・・」 いつも見ているものの、その姿は平時のそれではなく、こんな夜中にする格好でもない。 「お父さん・・・」 心配そうに父を見つめる少女。父親は振り向きやさしく声をかけた。 「つかさは優しくていい子だね。それ故にこんな辛い役回りを務めさせて、ごめんな」 ただおは我が子に近づきそっと頭を撫で、やわらかく抱擁した。 ―――××町 人が倒れていた。その脇にはおびただしい量の血液が溢れ、路面を覆いつくしている。 辺りには小さな人影があるだけで、入り組んだ狭い路地には何も動くものはない。 「ふぅ・・・。まだ・・・まだなのかな・・・」 女の子の声。肩で息をし、身体には熱を帯びているようだ、暗闇の中でも蒸気が立ち上るのが見える。 柔らかな風が流れると、月を覆い隠していた雲がすーっと流れ、白銀の月光が地上に降り立つ。 地面にも着きそうな蒼く長い髪がふわりと揺れ、暗闇から姿を現したのは、泉こなたその人であった。 「!?」 不自然に彼女の頭上の毛が微妙に揺れ、咄嗟に身をかがめると、低い姿勢のまま路地を走り抜けた。 そしてその直後、彼女を追いかけるかのようにもう一つの影が現れた。 どれくらい走ったのか、しばらくしてこなたは小さな公園にたどり着いた。 「ふう、珍しいね、一人でいるなんて」 追いかけてきた影に対し、彼女は親しげに話しかける。 「やっぱり、気づいていたんだね」 「ふふふ。長い付き合いだからね~。それにしてもその”巫女服”よく似合ってるね?”つかさ”」 「こなちゃん・・・」 「ん~でも、やっぱ巫女服は赤い袴がいいかなぁ~?そっちの方が萌えるしね」 なにを想像してるのか、こなたはぐふふと含み笑いしながら、紫色の巫女服を着たつかさを見つめていた。 「知ってるかもしれないけど、話しておくね」 つかさはそう言って一呼吸置くとこなたの返事を待たずに続けた。 「柊家はね、昔からずっとこの地域周辺の守護や八百万の神々を祭ること生業としてきたの。地鎮祭も小さなほかの神社に分業はしてるけど、 かなり広範囲に対して、大きな権力を持ってるの」 月がゆっくりと音を立てずに頭上に達する。いつの間にか雲は消えてなくなり、月光が二人の影を短く映し出す。 「だけどね、本当の目的はそうじゃないの。本当の目的は・・・」 「封魔の一族でしょ?」 つかさがギクリとして背筋を伸ばす。その表情には普段の優しく暖かなつかさはなかった。 「やっぱり、知ってたんだね」 こなたはコクリと頷く。 「ごめんね、こなちゃん。ずっと、友達でいたかったな・・・」 「へ!?ちょ、ま、つかさ!!!」 つかさはポンと軽く地面を蹴ると5メートルはあったであろう間合いを一瞬のうちに詰め寄り、いつの間にか取り出した短刀を一閃させると、そのままこなたの首に切り付けた! 「うそ!?これがつかさ!?」 目を白黒させながらこなたはそれを数ミリの差でよける。 「ま、いいか!こうなたら腕試しもよかろう」 「なにブツブツ言ってるの?こんな事長く続けたくないの!お願い!こなちゃん!」 にやりと笑い、両の手で拳を作る蒼髪の少女。 溢れる涙に構いもせず、泣き喚くように短刀によるつきを繰り返す幼き巫女。 こなたがふわりと宙に舞い、つかさの攻撃をよける。その滞空時間はとても人間業とは思えない。空を飛ぶが如く。 「こなちゃん相手に物理攻撃ばっかじゃダメだね・・・」 つかさは攻撃の手を止め、小さく何かを呟きはじめた。 「言霊・・・まずいな」 こなたは地面に降立ちつかさとの間合いを詰める。その動きは先程のつかさよりも速い。一気に10メートル以上の間合いを0にする。 「ウソ!?」 つかさの言霊が唱え終わらないうちにこなたの両手がつかさの肩をつかみ、そのままコンクリートの上に押し倒した。馬乗りになったこなたはすぐさま右手を振り上げ・・・ 「今までありがとう・・・」 弱く小さな声でつかさが囁く。 ドガァッ! 何かが砕ける音がした。 「たのしかたよ~、つかさ~」 顔中を緩ませにやける蒼髪の少女。 長い髪の毛がつかさの顔を覆い隠し、側に寄らなくては表情さえうかがい知る事は出来そうにない。 「むふふ~、こんなに動けるのに体育のときは隠してるつかさ萌え~」 こなたは右の拳をゆっくりと引き上げる。彼女の拳からぱらぱらと小石の様なものが落ちていった。 「こ、こなちゃん!? ヒビの入ったコンクリートの上でつかさは目を丸くしてにやけたこなたを見つめる。 「よいしょっと!」 こなたはつかさを解放し、後ろに一回転して親友に手を差し伸べた。 「さぁ、起きて!せっかくの巫女服が台無しだよ?」 「・・・」 何も分からぬままこなたに引き上げられたつかさはきょとんとしたまま動かない。 「つかさってけっこうせっかちだよね?私の話も聞いて欲しいのだけど」 こなたの表情はいつもどおりのゆるゆる顔。 「申し遅れたけど、私もね裏高野の退魔師なの。宗派は違うけど、同業者ってところかな?」 「へ?・・・え?」 「あれあれ~、さっきまでの熱血封魔巫女はどこ行ったんだろ?それともこっちが正体なのかな?」 「まさか、は、や、と、ち、り、?」 目を丸くして片言で聞き返す。するとこなたは豪快に笑い、腹を抱えてのけぞる。 「あははは、うん、早とちりだよ!早とちり!よかった!いつものつかさに戻って!つかさに殺されたら負けかなと思ってる」 徐々につかさの顔から緊張が解け始めると、夜の公園に二人の少女の笑い声が響いた。

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