「ID:.ABGjLco氏:クリスマス・プレゼント」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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<p><font size="1"> 聖夜の奇跡とか、私は信じてない。<br />
そんな簡単に起きたら奇跡とは言わないし、それが自分に起きるとは限らない。<br />
でも、クリスマスは好きだ。イベントごとは楽しいし、プレゼントももらえるしね。</font></p>
<div><font size="1"> </font></div>
<p><font size="1"> 聖夜の贈り物って意味では、誰にでも奇跡があるのかな。なーんてね。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
~クリスマス・プレゼント~</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
月曜の朝、私、泉こなたは地獄を見ていた。<br />
鬼の手によって、布団を引っぺがされ凍てつく大地に放り出されたのだ。<br />
「お休みだからっていつまでも寝てちゃダメよ」<br />
「さむぅい……」<br />
「ほらほら、ご飯も出来てるから」<br />
「はぁい」<br />
眠い目をこすりながらながらリビングへ上がると、そこには日本らしい朝食と、お父さんが待っていた。<br />
「お、こなた起きたのか、おはよう」<br />
「おふぁよ~」<br />
「なんだ、まだ寝ぼけ中か?」<br />
「お母さんに布団取られた……」<br />
「ははは、災難だったな」<br />
「何が災難ですか、お掃除もあるんだから早く起きてもらわないと。はい、お味噌汁」<br />
「ありがとー」</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> 今日は12月24日のクリスマスイブ。と言っても、ロマンスのカケラもない私は“いつも通り”お父さん、お母さんと過ごす予定だ。<br />
ギャルゲだと色々特別なことがあるけど、リアルじゃそうそう特別なことなんてないよね。<br />
プレゼントなんだろうなぁ。私も一応、二人にプレゼントを用意してある。お母さんには天使の羽根をあしらったペンダント、お父さんにはこの前欲しがってたエロゲーフィギュア。<br />
まぁ、お父さんが怒られるような気もするけど、それはそれで面白いからいいよね。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1">「ねぇこなた、あの夢はまだ見るの?」<br />
「夢……ああ、うん。昨日も見たよ」<br />
ここ最近、私はずっと同じ夢を見ている。誰かが、私を呼ぶ夢。<br />
その夢には、女の人が三人出てくる。私の知らない人たち。<br />
一人は、眼鏡をかけた優しそうな人。その人は私のそばに来て色々話しかけてくれる。声を聞いてるとなんとなく落ち着く。<br />
次に、頭にリボンをつけたかわいい子。最初はあの子、ずっとごめんなさい、って言ってた。それがいつの間にか、大きな声で私を呼ぶようになった。<br />
そして、ツインテールのツンデレっぽい人。この人は何も言わない。何も言わないで遠くからじっとこっちを見てる。<br />
そんな夢が、毎日続いてる。アニメとか漫画的に言えば、私がすごい力を持っていてそれを目覚めさせるために……とか。<br />
前、なんなんだろうってお母さんに聞いてみたら『その意味はこなたが気づかないとダメよ』って言ってたっけ。なんか意味深だけど正直お父さんの影響だよね。<br />
「何か変わった?」<br />
「んー、ツインテールの人が何か言った気がするけど、あんまり聞き取れなかったよ」<br />
「そう……。こなた、あとで行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」<br />
「別にいいけど、どこいくの?」<br />
「内緒」<br />
「えー、教えてよ~」<br />
「行けば分かるわ。きっとね」<br />
「?」<br />
思わせぶりなお母さんに、首をかしげる。言い方からすると私が知っているところだと思うけど。<br />
そんな疑問を感じながら、私は朝食をすませた。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1">「こんにちは」<br />
クリスマスイブの今日、私はつかさ、みゆきと一緒にこなたの病室へお見舞いに来ていた。<br />
こなたは、三ヶ月ほど前に交通事故に遭い、それ以来ずっと眠ったまま。容態は安定していて、いつ目が覚めるかは本人次第らしい。<br />
「やあ、みんないらっしゃい」<br />
「こんにちは、そうじろうさん。お花持ってきたので替えてきますね」<br />
「ああ、いつもすまないね」<br />
「いえいえ」<br />
事故の後、みゆきは毎日のようにこの病室へ通い、いつの間にか、こなたのお父さんのことを『そうじろうさん』と呼ぶようになっていた。<br />
……セクハラとかしてないだろうなこの人。<br />
そう考えていた時、不意におじさんと目が合った。<br />
「や、かがみちゃん。さすがにおじさんもTPOぐらいはわきまえてるよ」<br />
「そう願います」<br />
視線の意味に気づく辺りがまた危ないと思うのは私だけだろうか。<br />
数分後、帰ってきたみゆきの手に抱かれていたのは、三色の花を生けた花瓶。<br />
青色、すみれ色、桃色。みゆきはいつもこの色を揃えて持ってくるらしい。私たち四人をイメージしたと言っていたこの花を。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1">「あの、おじさん、これ私たちからこなちゃんにです」<br />
「これは……」<br />
「クリスマスプレゼントです。今年寒いからマフラーとか」<br />
「そうか、うん。ありがとう」<br />
今日来たのは他でもない、このクリスマスプレゼントを渡すためだ。<br />
三人で一つずつ。ウインターニットとマフラー、そして手袋を持ってきた。今年の冬は一段と寒い、だから必要になるだろうと思って、そうなることを願って。<br />
「よかったな、こなた。早く起きないと、次の冬までお預けになっちゃうぞ」<br />
「そうよ。っつか、そんなんじゃコミケも行けないわよ。……付き合ってあげるのはいいけど、代わりに行くのはごめんだからね!」<br />
「わ、私も行くから!」<br />
「お付き合いします」<br />
聞こえてるんだか聞こえてないんだか分からないけど、なんとなく、こなたが少し笑ったように見えた。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> 電車に揺られ、バスに揺られ、私がたどり着いたのはどうやら学校だった。<br />
「りょうおう、がくえん?」<br />
「ええ、陵桜学園よ」<br />
「ここって……お母さんの母校とか?」<br />
「……いいえ、違うわ」<br />
「じゃあ、ここって何?」<br />
「こっちよ」<br />
「え、ちょ、待ってよ、お母さん」<br />
お母さんは何も言わず校舎へ向かって歩き出した。<br />
誰もいない学校。確かに今日は休みだけど、ここまで人がいないものだろうか? なんで、門が開いているのだろう? なんで、お母さんは私をここへ連れてきたのだろう?<br />
そして、なんで私は、ここに見覚えがあるんだろう? 通る廊下も、上がる階段も。まるで、通いなれた場所のような……。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> お母さんは、ある教室の前で止まる。見上げると、プレートに『3-B』と書かれていた。<br />
「ここよ」<br />
ガラリ、と扉を開ける。ふと、懐かしさを感じた。<br />
「私、ここ……」<br />
知ってる。確かに、ここを知ってる。<br />
私はここで……そうだ、あの人たちと。夢で見た彼女たちとここで。<br />
「こなた」<br />
お母さんが、そっと私の手を握り、問いかける。<br />
「かがみちゃんが言ったこと、本当に聞こえなかった? あなたに何を伝えようとしたか、わからなかった?」<br />
かがみちゃん? かがみ……あのツインテールの人のことだ。わかる。<br />
『早――こな――』<br />
「う……」<br />
「よく思い出して、聞こえていたはずよ。かがみちゃんだけじゃない、みんなの声も」<br />
頭の中にあの夢の光景が広がる。<br />
あの人がいったこと、かがみが私に伝えたこと……。<br />
『早く帰ってきなさい、こなた』<br />
「っかがみ!」<br />
「……思い出したのね?」<br />
そう。私が見たあの夢の意味。<br />
「みんな、私を待ってるんだね」</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
つかさを助けたあの日、私は大怪我を負った。<br />
「みゆきちゃんのおかげで一命は取り留めたけど、生死をさまよったあなたの精神、心は危険な状態にあったわ」<br />
そんな私を、お母さんが捕まえて、助けてくれたんだよね。<br />
「でも今度は、それがあなたが目覚めない原因になってしまった」<br />
こうしてお母さんと出会い、お母さんというものを知り、<br />
「あなたは、自分の記憶に鍵をかけた」<br />
目覚めてしまわないよう、私を呼んでいるみんなの事も一緒に。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1">「私自身、こなたと過ごせるのが幸せだった。それがいけなかったのかも知れない」<br />
「ううん、私も同じだよ。だから、気付かなかった。気付こうとしなかった」<br />
お父さんと二人でも、寂しくなかった。それは本当。でも、お母さんが居たらとか、会ってみたいとか、思わなかったわけじゃないから。<br />
「ごめんなさい、こなた。何もしてあげられなくて」<br />
「そんなことないよ。月並みな台詞だけど、お母さんは私を産んでくれた。私が、かがみやつかさ、みゆきさんと、みんなと出会えたのは、お母さんのおかげなんだよ?」<br />
「こなた……」<br />
「私こそごめんね。せっかく会えたのに、私帰らなきゃいけない。またお母さんを一人にしなきゃいけない……」<br />
「いいえ、こなた。お母さんは一人じゃないの。ずっと、こなたとそう君のそばに居て、見守ってるから。<br />
言ったでしょう? 少しだけどこなたと過ごせて、本当に幸せだった。したくても出来なかったことがたくさん出来た。だから私は、幸せなの」<br />
「……お母、さん……」<br />
涙が流れる。お母さんと別れるのが悲しい? お母さんと過ごせたのが嬉しい? きっと、全部。<br />
そっと、私を抱き寄せてくれるお母さんの目にも、涙が溜まっていた。<br />
「大好きよ……こなた」<br />
こんな風にやさしく抱きしめてもらえるのが、どれほど幸せなことか、私は初めて知った。<br />
この温かさを感じられるのは、こうして会えるのは、話すことが出来るのは、きっとこれが最後だ。今のうちに、言えるうちに、言っておかないと。<br />
「――お母さん、ありがとう。大好きだよ」</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> 神社の拝殿へ向かって、三人で歩く。私たちは、こなたのお見舞いを済ませた後、うちでクリスマスパーティをしていた。<br />
お互いにプレゼントを交換して、つかさが焼いたケーキを食べて。<br />
でも、やっぱり盛り上がらなかった。あいつが居ないから、こなたがいないと、寂しくてつまらない。<br />
そんな時、みゆきが『せっかくですから、御参りしませんか?』って、言ったのよね。<br />
「あれ?」<br />
「何?」<br />
「どうしました?」<br />
少し前を歩いていたつかさが、声を上げる。<br />
「ほら、あそこ」<br />
つかさが指差したのは私たちの前方。<br />
確かに、誰かが歩いている。あの子も御参りに? 背格好からして女の子のはず。服装はコートにウインターニットと……。<br />
「……え?」<br />
おそらく、二人も同じことを思っているだろう。私たちは顔を見合わせ、その子の元へ走り出す。<br />
小さな背中に向かって、一気に走る。<br />
持ち前の足でいち早く追いついたみゆきは、その子を呼び止めた。<br />
「待ってください!」<br />
その子が立ち止まり、まさかと思いながら、私はその名を口にする。<br />
「……こなた?」<br />
「みんなと、一緒に卒業できますように」<br />
そう言いながら、その子はゆっくりとこちらを振り向いた。<br />
「って、お願いしに来たんだ」<br />
眠たげに、半開きになった目。左の目尻にある泣きボクロ。猫のような、いつもニコニコと笑っている口。それは間違いなく、<br />
「こなた……っ」<br />
誰からともなく、私たちはそばへ駆け寄り、その小さな身体を力いっぱい、抱きしめた。<br />
「馬鹿! 心配したんだから!」<br />
「そうです! ずっと、ずっと待ってたんですよ!」 <br />
「おかえり……こなちゃん、おかえり!」<br />
「……ただいま」<br />
はっきりと、こなたはそう言った。<br />
ただいま。私たちが長い間待ち望んだ、その言葉を言った。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
「こなた! 目が、覚めたんだな……」<br />
泣きながら喜ぶお父さんの姿が、どれほど心配をかけたか私に教えてくれた。<br />
「ごめんね。心配かけて」<br />
「いいんだ……いいんだ、お前が起きてくれただけで」<br />
「うん……私ね、行くところがあるんだ」<br />
お父さんは、少しも考えず即答する。まるで、それがわかっていたように。<br />
「ああ、行ってこい!」<br />
お父さんから渡されたのは、ラッピングされた赤い包み。<br />
「もって行くといい。プレゼントだ、みんなからのな」<br />
「……ありがとう。そうだ、私からお父さんにプレゼント」<br />
「ん?」<br />
伝える。お母さんに頼まれた、あの言葉を。<br />
『予想とは少し違ったけど、こなたを立派に育ててくれてありがとう。私はいつも、そう君たちのそばに居るからね』<br />
「だってさ」<br />
唖然とするお父さんを尻目に、私は病室を飛び出す。<br />
「行ってきます!」<br />
ドアを隔てて、声が聞こえてくる。お父さんの嬉しそうな声が。<br />
「そうか、はは、そうか! かなた、お前が……。ありがとうな、かなた」<br />
私はそっと、その場を後にした。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
「やっぱりつかさのケーキはおいしいね~」<br />
「えへへ、たくさん食べてね」<br />
「あんたよく食べれるわね。今まで何も食べてなかったのに」<br />
呆れたように言うかがみの顔は、笑っていた。<br />
「いやぁ、つかさのケーキだし」<br />
「どういう理屈だ」<br />
「つかささんのケーキはおいしいですから」<br />
かがみだけじゃない。みんな笑ってる。つかさも、みゆきさんも、私も。<br />
「まぁ、そこらの店のケーキなんて目じゃないのは確かね」<br />
「かがみこそ、まだ食べるんだ。私来る前に食べたんじゃなかったの?」<br />
「うるふぁいわよ!」<br />
「お、お姉ちゃん」<br />
「うふふ。まあまあ」<br />
楽しい。みんなと過ごすのが、すごく楽しい。みんなの笑い声が、とても心地いい。<br />
お返しをしよう。私を待っててくれた、大切な、大切な親友たちに。何が出来るかわからないけど、私に出来ることを、何か。<br />
私は幸せだ。こんなに想ってくれる友達が居る私は、お父さんとお母さんにあんなに想って貰える私は、きっと世界一幸せ。<br />
大好きなみんなが居るここが、</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> <br />
ここが――私の居場所。</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> end</font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p><font size="1"> </font></p>
<p> 聖夜の奇跡とか、私は信じてない。<br />
そんな簡単に起きたら奇跡とは言わないし、それが自分に起きるとは限らない。<br />
でも、クリスマスは好きだ。イベントごとは楽しいし、プレゼントももらえるしね。<br /><br />
聖夜の贈り物って意味では、誰にでも奇跡があるのかな。なーんてね。<br /><br /><br />
~クリスマス・プレゼント~<br /><br /><br />
月曜の朝、私、泉こなたは地獄を見ていた。<br />
鬼の手によって、布団を引っぺがされ凍てつく大地に放り出されたのだ。<br />
「お休みだからっていつまでも寝てちゃダメよ」<br />
「さむぅい……」<br />
「ほらほら、ご飯も出来てるから」<br />
「はぁい」<br />
眠い目をこすりながらながらリビングへ上がると、そこには日本らしい朝食と、お父さんが待っていた。<br />
「お、こなた起きたのか、おはよう」<br />
「おふぁよ~」<br />
「なんだ、まだ寝ぼけ中か?」<br />
「お母さんに布団取られた……」<br />
「ははは、災難だったな」<br />
「何が災難ですか、お掃除もあるんだから早く起きてもらわないと。はい、お味噌汁」<br />
「ありがとー」<br /><br />
今日は12月24日のクリスマスイブ。と言っても、ロマンスのカケラもない私は“いつも通り”お父さん、お母さんと過ごす予定だ。<br />
ギャルゲだと色々特別なことがあるけど、リアルじゃそうそう特別なことなんてないよね。<br />
プレゼントなんだろうなぁ。私も一応、二人にプレゼントを用意してある。お母さんには天使の羽根をあしらったペンダント、お父さんにはこの前欲しがってたエロゲーフィギュア。<br />
まぁ、お父さんが怒られるような気もするけど、それはそれで面白いからいいよね。<br /><br />
「ねぇこなた、あの夢はまだ見るの?」<br />
「夢……ああ、うん。昨日も見たよ」<br />
ここ最近、私はずっと同じ夢を見ている。誰かが、私を呼ぶ夢。<br />
その夢には、女の人が三人出てくる。私の知らない人たち。<br />
一人は、眼鏡をかけた優しそうな人。その人は私のそばに来て色々話しかけてくれる。声を聞いてるとなんとなく落ち着く。<br />
次に、頭にリボンをつけたかわいい子。最初はあの子、ずっとごめんなさい、って言ってた。それがいつの間にか、大きな声で私を呼ぶようになった。<br />
そして、ツインテールのツンデレっぽい人。この人は何も言わない。何も言わないで遠くからじっとこっちを見てる。<br />
そんな夢が、毎日続いてる。アニメとか漫画的に言えば、私がすごい力を持っていてそれを目覚めさせるために……とか。<br />
前、なんなんだろうってお母さんに聞いてみたら『その意味はこなたが気づかないとダメよ』って言ってたっけ。なんか意味深だけど正直お父さんの影響だよね。<br />
「何か変わった?」<br />
「んー、ツインテールの人が何か言った気がするけど、あんまり聞き取れなかったよ」<br />
「そう……。こなた、あとで行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」<br />
「別にいいけど、どこいくの?」<br />
「内緒」<br />
「えー、教えてよ~」<br />
「行けば分かるわ。きっとね」<br />
「?」<br />
思わせぶりなお母さんに、首をかしげる。言い方からすると私が知っているところだと思うけど。<br />
そんな疑問を感じながら、私は朝食をすませた。<br /><br /><br /><br />
「こんにちは」<br />
クリスマスイブの今日、私はつかさ、みゆきと一緒にこなたの病室へお見舞いに来ていた。<br />
こなたは、三ヶ月ほど前に交通事故に遭い、それ以来ずっと眠ったまま。容態は安定していて、いつ目が覚めるかは本人次第らしい。<br />
「やあ、みんないらっしゃい」<br />
「こんにちは、そうじろうさん。お花持ってきたので替えてきますね」<br />
「ああ、いつもすまないね」<br />
「いえいえ」<br />
事故の後、みゆきは毎日のようにこの病室へ通い、いつの間にか、こなたのお父さんのことを『そうじろうさん』と呼ぶようになっていた。<br />
……セクハラとかしてないだろうなこの人。<br />
そう考えていた時、不意におじさんと目が合った。<br />
「や、かがみちゃん。さすがにおじさんもTPOぐらいはわきまえてるよ」<br />
「そう願います」<br />
視線の意味に気づく辺りがまた危ないと思うのは私だけだろうか。<br />
数分後、帰ってきたみゆきの手に抱かれていたのは、三色の花を生けた花瓶。<br />
青色、すみれ色、桃色。みゆきはいつもこの色を揃えて持ってくるらしい。私たち四人をイメージしたと言っていたこの花を。<br /><br />
「あの、おじさん、これ私たちからこなちゃんにです」<br />
「これは……」<br />
「クリスマスプレゼントです。今年寒いからマフラーとか」<br />
「そうか、うん。ありがとう」<br />
今日来たのは他でもない、このクリスマスプレゼントを渡すためだ。<br />
三人で一つずつ。ウインターニットとマフラー、そして手袋を持ってきた。今年の冬は一段と寒い、だから必要になるだろうと思って、そうなることを願って。<br />
「よかったな、こなた。早く起きないと、次の冬までお預けになっちゃうぞ」<br />
「そうよ。っつか、そんなんじゃコミケも行けないわよ。……付き合ってあげるのはいいけど、代わりに行くのはごめんだからね!」<br />
「わ、私も行くから!」<br />
「お付き合いします」<br />
聞こえてるんだか聞こえてないんだか分からないけど、なんとなく、こなたが少し笑ったように見えた。<br /><br /><br /><br />
電車に揺られ、バスに揺られ、私がたどり着いたのはどうやら学校だった。<br />
「りょうおう、がくえん?」<br />
「ええ、陵桜学園よ」<br />
「ここって……お母さんの母校とか?」<br />
「……いいえ、違うわ」<br />
「じゃあ、ここって何?」<br />
「こっちよ」<br />
「え、ちょ、待ってよ、お母さん」<br />
お母さんは何も言わず校舎へ向かって歩き出した。<br />
誰もいない学校。確かに今日は休みだけど、ここまで人がいないものだろうか? なんで、門が開いているのだろう? なんで、お母さんは私をここへ連れてきたのだろう?<br />
そして、なんで私は、ここに見覚えがあるんだろう? 通る廊下も、上がる階段も。まるで、通いなれた場所のような……。<br /><br />
お母さんは、ある教室の前で止まる。見上げると、プレートに『3-B』と書かれていた。<br />
「ここよ」<br />
ガラリ、と扉を開ける。ふと、懐かしさを感じた。<br />
「私、ここ……」<br />
知ってる。確かに、ここを知ってる。<br />
私はここで……そうだ、あの人たちと。夢で見た彼女たちとここで。<br />
「こなた」<br />
お母さんが、そっと私の手を握り、問いかける。<br />
「かがみちゃんが言ったこと、本当に聞こえなかった? あなたに何を伝えようとしたか、わからなかった?」<br />
かがみちゃん? かがみ……あのツインテールの人のことだ。わかる。<br />
『早――こな――』<br />
「う……」<br />
「よく思い出して、聞こえていたはずよ。かがみちゃんだけじゃない、みんなの声も」<br />
頭の中にあの夢の光景が広がる。<br />
あの人がいったこと、かがみが私に伝えたこと……。<br />
『早く帰ってきなさい、こなた』<br />
「っかがみ!」<br />
「……思い出したのね?」<br />
そう。私が見たあの夢の意味。<br />
「みんな、私を待ってるんだね」<br /><br /><br />
つかさを助けたあの日、私は大怪我を負った。<br />
「みゆきちゃんのおかげで一命は取り留めたけど、生死をさまよったあなたの精神、心は危険な状態にあったわ」<br />
そんな私を、お母さんが捕まえて、助けてくれたんだよね。<br />
「でも今度は、それがあなたが目覚めない原因になってしまった」<br />
こうしてお母さんと出会い、お母さんというものを知り、<br />
「あなたは、自分の記憶に鍵をかけた」<br />
目覚めてしまわないよう、私を呼んでいるみんなの事も一緒に。<br /><br />
「私自身、こなたと過ごせるのが幸せだった。それがいけなかったのかも知れない」<br />
「ううん、私も同じだよ。だから、気付かなかった。気付こうとしなかった」<br />
お父さんと二人でも、寂しくなかった。それは本当。でも、お母さんが居たらとか、会ってみたいとか、思わなかったわけじゃないから。<br />
「ごめんなさい、こなた。何もしてあげられなくて」<br />
「そんなことないよ。月並みな台詞だけど、お母さんは私を産んでくれた。私が、かがみやつかさ、みゆきさんと、みんなと出会えたのは、お母さんのおかげなんだよ?」<br />
「こなた……」<br />
「私こそごめんね。せっかく会えたのに、私帰らなきゃいけない。またお母さんを一人にしなきゃいけない……」<br />
「いいえ、こなた。お母さんは一人じゃないの。ずっと、こなたとそう君のそばに居て、見守ってるから。<br />
言ったでしょう? 少しだけどこなたと過ごせて、本当に幸せだった。したくても出来なかったことがたくさん出来た。だから私は、幸せなの」<br />
「……お母、さん……」<br />
涙が流れる。お母さんと別れるのが悲しい? お母さんと過ごせたのが嬉しい? きっと、全部。<br />
そっと、私を抱き寄せてくれるお母さんの目にも、涙が溜まっていた。<br />
「大好きよ……こなた」<br />
こんな風にやさしく抱きしめてもらえるのが、どれほど幸せなことか、私は初めて知った。<br />
この温かさを感じられるのは、こうして会えるのは、話すことが出来るのは、きっとこれが最後だ。今のうちに、言えるうちに、言っておかないと。<br />
「――お母さん、ありがとう。大好きだよ」<br /><br /><br /><br />
神社の拝殿へ向かって、三人で歩く。私たちは、こなたのお見舞いを済ませた後、うちでクリスマスパーティをしていた。<br />
お互いにプレゼントを交換して、つかさが焼いたケーキを食べて。<br />
でも、やっぱり盛り上がらなかった。あいつが居ないから、こなたがいないと、寂しくてつまらない。<br />
そんな時、みゆきが『せっかくですから、御参りしませんか?』って、言ったのよね。<br />
「あれ?」<br />
「何?」<br />
「どうしました?」<br />
少し前を歩いていたつかさが、声を上げる。<br />
「ほら、あそこ」<br />
つかさが指差したのは私たちの前方。<br />
確かに、誰かが歩いている。あの子も御参りに? 背格好からして女の子のはず。服装はコートにウインターニットと……。<br />
「……え?」<br />
おそらく、二人も同じことを思っているだろう。私たちは顔を見合わせ、その子の元へ走り出す。<br />
小さな背中に向かって、一気に走る。<br />
持ち前の足でいち早く追いついたみゆきは、その子を呼び止めた。<br />
「待ってください!」<br />
その子が立ち止まり、まさかと思いながら、私はその名を口にする。<br />
「……こなた?」<br />
「みんなと、一緒に卒業できますように」<br />
そう言いながら、その子はゆっくりとこちらを振り向いた。<br />
「って、お願いしに来たんだ」<br />
眠たげに、半開きになった目。左の目尻にある泣きボクロ。猫のような、いつもニコニコと笑っている口。それは間違いなく、<br />
「こなた……っ」<br />
誰からともなく、私たちはそばへ駆け寄り、その小さな身体を力いっぱい、抱きしめた。<br />
「馬鹿! 心配したんだから!」<br />
「そうです! ずっと、ずっと待ってたんですよ!」 <br />
「おかえり……こなちゃん、おかえり!」<br />
「……ただいま」<br />
はっきりと、こなたはそう言った。<br />
ただいま。私たちが長い間待ち望んだ、その言葉を言った。<br /><br /><br />
「こなた! 目が、覚めたんだな……」<br />
泣きながら喜ぶお父さんの姿が、どれほど心配をかけたか私に教えてくれた。<br />
「ごめんね。心配かけて」<br />
「いいんだ……いいんだ、お前が起きてくれただけで」<br />
「うん……私ね、行くところがあるんだ」<br />
お父さんは、少しも考えず即答する。まるで、それがわかっていたように。<br />
「ああ、行ってこい!」<br />
お父さんから渡されたのは、ラッピングされた赤い包み。<br />
「もって行くといい。プレゼントだ、みんなからのな」<br />
「……ありがとう。そうだ、私からお父さんにプレゼント」<br />
「ん?」<br />
伝える。お母さんに頼まれた、あの言葉を。<br />
『予想とは少し違ったけど、こなたを立派に育ててくれてありがとう。私はいつも、そう君たちのそばに居るからね』<br />
「だってさ」<br />
唖然とするお父さんを尻目に、私は病室を飛び出す。<br />
「行ってきます!」<br />
ドアを隔てて、声が聞こえてくる。お父さんの嬉しそうな声が。<br />
「そうか、はは、そうか! かなた、お前が……。ありがとうな、かなた」<br />
私はそっと、その場を後にした。<br /><br /><br />
「やっぱりつかさのケーキはおいしいね~」<br />
「えへへ、たくさん食べてね」<br />
「あんたよく食べれるわね。今まで何も食べてなかったのに」<br />
呆れたように言うかがみの顔は、笑っていた。<br />
「いやぁ、つかさのケーキだし」<br />
「どういう理屈だ」<br />
「つかささんのケーキはおいしいですから」<br />
かがみだけじゃない。みんな笑ってる。つかさも、みゆきさんも、私も。<br />
「まぁ、そこらの店のケーキなんて目じゃないのは確かね」<br />
「かがみこそ、まだ食べるんだ。私来る前に食べたんじゃなかったの?」<br />
「うるふぁいわよ!」<br />
「お、お姉ちゃん」<br />
「うふふ。まあまあ」<br />
楽しい。みんなと過ごすのが、すごく楽しい。みんなの笑い声が、とても心地いい。<br />
お返しをしよう。私を待っててくれた、大切な、大切な親友たちに。何が出来るかわからないけど、私に出来ることを、何か。<br />
私は幸せだ。こんなに想ってくれる友達が居る私は、お父さんとお母さんにあんなに想って貰える私は、きっと世界一幸せ。<br />
大好きなみんなが居るここが、<br /><br /><br />
ここが――私の居場所。<br /><br /><br />
end</p>