え、このお花を? …似合わないね うん、そんな事だと思った でも…お花が綺麗だから、許してあげる じゃあ、わたしは… - この花をあなたに - 「伯父さん、誕生日おめでとうございます!」 綺麗にラッピングされた箱を、にこやかな表情で差し出すゆたかに、そうじろうは困惑した目を向けた。 「…俺?」 「はい」 そうじろうは読んでいた新聞をテーブルに置き、壁にかかっているカレンダーを見た。今日は八月二十日。 「俺の誕生日、明日だけど…」 「あ、あれー…?」 ゆたかが心底困ったように、手に持った箱とカレンダーを交互に見る。 「ゆーちゃん、もしかしてあの本のお父さんのプロフィール見たんじゃないかな」 居間のテレビでゲームをやっていたこなたが、そうじろう達のほうを見ながらそう言った。 「あー…あれか」 そうじろうが納得したように手を叩く。 「え?あ、あれって間違ってるんですか?」 ゆたかが困惑したようにそうじろうを見ると、そうじろうは照れくさそうに頬をかいた。 「うん。間違ってるんだよ…俺の誕生日、かなたと一日違いでね。家も隣だったし、小さな頃からかなたの誕生日に合わせて、一緒に祝って貰ってたんだよ。それで、俺自身もごっちゃになってるのかな。誕生日聞かれたときに、時々二十日って言ってしまうんだよ」 「大抵、気がついて直すんだけど、あの本だけそのまま出ちゃったんだよね」 そうじろうの説明をこなたが補足する。 「そ、そうだったんですか…」 項垂れるゆたか。その目が、居間の隅に置いてあるプレゼントの山に向けられた。 「じゃあ、このプレゼントも間違って…?」 「そうみたいだね…ってかお父さん」 「ん、なんだ?」 「こういうのって出版社とか通してだから、間違ってても合わせてくれるんじゃないの?」 「いや、それがな。今年のは、ここに直接送られてきたんだよ」 そうじろうの言葉に、こなたが目を丸くする。 「え、それって…」 「うん、どっかから住所が漏れたらしくてなあ。昨日、担当さんに気をつけるようにって言われたよ」 「…いや、本気で気をつけてよ…ってかやばいよねそれ」 「いや、悪いことばかりじゃないと思うぞ」 「…その心は?」 「ファンの女子高生とかが、プレゼントとか持って押しかけてくるという可能性もあるじゃないか」 「いや、ないから」 顔の前で手を振り、速攻で否定するこなた。それを見たそうじろうが、渋い顔をする。 「浪漫の分からないやつだなあ」 「いや、浪漫って言うか来たら困るし。危ないから」 「俺が?」 「いや、その女子高生が」 「…とことん、信用ないのな」 「普段が普段だし」 容赦のないこなたの言動に、そうじろうが溜息をつく。 「…伯父さんとかなた伯母さんって、幼馴染なんですよね?」 二人の話が途切れるのを見て、ゆたかがそうじろうにそう訊いた。 「ああ、そうだよ。さっきも言った通り、家が隣だったし、誕生日も一日違いだしな…いやー、運命だよなあー」 空、というか天井を見上げながらうっとりとするそうじろうに、ゆたかは思わず冷や汗を垂らしていた。 「そ、そうですか…えっと…それじゃ、誕生日のプレゼントなんかはどうしてました?」 「大抵、手渡しで交換してたな。これも言ったけど、誕生日は同じ日に祝ってもらってたからなあ…大人になっても、その習慣は変わらなかったな」 「へー…あの、貰って一番嬉しかったものって何ですか?」 「嬉しかった?…それは難しいな…かなたがくれた物はなんでも嬉しかったからなあ…」 「じゃさ、お父さんがあげたもので、印象に残ってるのは?」 悩み始めたそうじろうの横から、今度はこなたがそう訊いた。 「俺が?…そうだなあ…小学生の頃だったかな。一度だけ、花をプレゼントしたことがあったな」 「へー、お花ですか」 それを聞いて、目を輝かせるゆたか。しかし、こなたの方はなんとも胡散臭げな目をそうじろうに向けていた。 「…こなた。何か言いたそうだな」 「いや、似合わないって言うか…それってあれでしょ?プレゼント買うお金、漫画かなんかに使っちゃって、仕方なくどっかから摘んできたのプレゼントしたんでしょ?」 「い、いや…そんなことは…」 こなたの指摘に、そうじろうは思わずそっぽを向いてしまった。 「うわお。図星か」 「…伯父さん…」 そうじろうの反応に、さすがのゆたかも呆れた顔をしていた。 「い、いやでも、その花ホントに綺麗だったんだぞ!なんていうか…白くて、かなたのイメージにぴったりでな。誕生日とは別にいつかプレゼントしようと思ってたんだ!本当だぞ!」 醒めた目で見る娘と姪に、必死で訴えるそうじろう。ふと、その動きがピタリと止まった。 「お父さん?どったの?」 「いや…なんつーか…あの時、かなたは最後なんて言ったんだっけか…こなた、知らないか?」 「…いや…わたしが知るわけないじゃん…」 「それはアレだ。転生的な何かで、記憶を継いでるとか」 「だと面白いんだけど、残念ながらわたしはただの女子高生です」 答えるこなたに、そうじろうは心底残念そうに溜息をついた。 「しっかし、最近物忘れが酷いな…自分が歳だって実感するよ」 「しっかりしてよ、お父さん。明日にはさらに歳をとるんだし」 「…嫌な言い方するなよ」 「で、でも歳をとれば威厳とか色々…」 「いや、ゆーちゃんそれはない。この人に限ってそれはない」 「こなたー…そんなにお父さんが嫌いかー?」 そんな風に取り留めのない話をしながら、その日は過ぎていった。 翌朝。そうじろうは、ほのかな甘い香りで目が覚めた。 眠い目をこすり枕元を見ると、一輪の白い花が落ちていた。 「…なんだこれ?」 その花を手に取る。どこかで見た色に形。そうじろうは、その花を顔に近づけ匂いを嗅いだ。 「これ…まさか…」 その匂いで、そうじろうは全てを思い出していた。慌てて部屋にある電話を手に取る。 「…おはようございます、お養父さん。朝早くにすいません。どうしても、聞きたいことがありまして…」 ノックの音で、こなたは目を覚ました。 「…ふぁーい」 半分寝ぼけながら返事をすると、部屋のドアが開き、そうじろうが入ってきた。 「…あれ…お父さん、どっか出かけるの?」 そうじろうはいつもの作務衣ではなく、スーツを着込んでいた。 「ああ、ちょっと実家にな」 「実家ぁ!?」 驚きに、一気に目が覚める。 「ちょ、なんでまた急に?〆切から逃げるの?」 「いや、そうじゃなくて」 「じゃあ、借金?お父さん出て行った後に、パンチパーマのオッサンが来たりするの?」 「…いや、こないから…ちょっと、約束を思い出したんだ。明日には戻ると思うから、ゆーちゃんと留守番頼んだぞ」 そう言いながら、そうじろうはこなたの頭に手を置いた。こなたは少し困った顔で、溜息をついた。 「しょうがないなー…変な父親もつと、苦労するよ」 「それは、お互い様だと思うけどな」 「こういう風に育てたの、お父さんじゃない」 文句らしきものを言いながらも、こなたは微笑んでいた。 「…気をつけてね」 「ああ、行ってくる」 そうじろうはこなたの頭を一撫ですると、手を振りながらこなたの部屋から出て行った。その背に、こなたもまた手を振った。 一面に咲く、白い花。彼女に似た、綺麗な花。 「…ほんとにいっぱいだ」 そうじろうは呟きながら、あの時の彼女の言葉をしっかりと思い出していた。 じゃあ、わたしはこの花をいーっぱいにして、そう君にプレゼントしてあげるよ 「あの時、お前はプレゼントくれなかったんだよな」 風が吹き、甘い香りが満ちる。彼女に似ていると感じた、一番の理由はこの香りだ。 「俺は、あの言葉そのものがプレゼントだと思ってたんだ」 彼女を抱きしめた時と同じ甘い香り。 「ちゃんといっぱいにしてくれてたんだな…」 そうじろうは目を瞑り、花の匂いを…愛する人の匂いを、全身で感じた。 「ホントに…お前が傍にいるみたいだよ…かなた…」 ごめんね、遅くなって やっと渡せたよ 約束のいっぱいの花 そう君 誕生日おめでとう - おしまい - **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 感動しました。GJ &br()かなたのSS、自分も作ってみたいけどなかなか &br()イメージが湧かない。羨ましいです。 -- 名無しさん (2009-10-19 01:18:17)
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