――ねぇ、みなみちゃん。 私達って、何だか「水」みたいだよね? 教室。休み時間で、他の皆もトランプをしたり、本を読んだりしている。 その中で、私とゆたかは椅子に座って、机を挟んでお喋りをしていた。 そのお喋りの中でのゆたかの発言な訳だけど……。 「……?」 ごめん、ゆたか。流石にちょっと分かりにくい。 「あ、あれ? みなみちゃん? どうしたの?」 「あ、いや……」 ちょっと落ち着いて考えてみる。 水……。私達が水……。水……? わ、分からない……。 ゆたかは何かを期待するような視線でこちらを見つめている。 とも流石にズバッと言えないから、もーちょっとだけ考えてみる。 み、水……。ミミズ……。ち、違う。畑は耕さない。 水……。! そうか、水。こういう事? 「……なるほど」 「あ、分かるのみなみちゃん?」 「うん。水は……。とっても美味しいよね」 「……?」 ゆたかは私の言葉を聞いてちょっと困った顔をしている。 ……アレ? 違う? 「お、美味しいけど」 「そう。田村さんが言っていたの……。ネタ的な意味で美味し」 「ちょっ、岩崎さん!?」 私が言い終わる前に、田村さんが飛び込んできた。 ああ、やっぱり意味も分からずに言ってみたのが悪かったのかな―― 「ままままぁ、アレだよ。二人って見てて楽しいし!」 田村さんは意味も無く慌てている様子。まぁ、特に気にはならないけど……。 「で、みなみちゃん。私が言った言葉の意味、分かる?」 ゆたかはまた、期待するような目でこっちを見てる。 「さっきのが違うなら……」 どうしようか。結構自信があったんだけど……。 いや、あったの? 私。 「水……。そうだね、水と言えば飲み物と言えばジュース……」 「い、岩崎さん?」 「ジュースと言えば……。オレンジジュース。甘酸っぱいって事?」 そうか、これだ! これなら絶対正解だ。 そう思って私はゆたかと田村さんの表情を伺ったけど、二人とも笑顔のまま凍りついている……。 「……」 これほど冷たくなった空気は正直見たことが無い。 お、おかしい。こんなはずでは無かったのだけど……。 「い、岩崎さん……。言い辛いけど……。ただの連想ゲームだよね?」 田村さんの一言がグサリと胸に突き刺さる。 そ、その発想は無かった……。そうか、私はただ連想ゲームをしていたからミスしたのか! そうして自分の失態を憂いている私を尻目に、ゆたかは 「まぁまぁ。私の言う事が分かり辛かったのかもしれないね」 と、苦笑いをしつつ言う。 ごめんゆたか……。 「それじゃ、何でゆたかは私たちの事を水に喩えたの?」 こうなったら、単刀直入に聞いてみた。 考えてみても分からないなら聞けば良い……。とちょっと開き直ってみながら。 「うん、それはね……」 キーンコーンカーンコーン。 絶妙なタイミングで、始業を知らせるチャイムが鳴った。 「あ、チャイム鳴っちゃった……。ごめん、みなみちゃん。この話は次の休み時間でねっ」 「あ、うん……」 ゆたかはこちらに向けて手を振りながら、自分の席へと帰って行った。 数学の授業。 先生は黒板に数式を書くのに忙しく、周りの生徒は一生懸命ノートを取っていたり、諦めたのか寝ている生徒も居る。 いつもの光景である事には変わりない。 大事な時期だから、ちゃんと受けない訳にはいかないけど、ゆたかが私達を水に喩えた理由について私は考えていた。 別に、正解させたからって何か賞品が出る訳では無いのだけれど、答えを導き出せないのは何だか悔しかった。 (水……。水……) さっきから水という単語を、頭の中で呪文のようにリピートをしている。 だけど、ゆたかの意図は全く掴めない。 もしかしたら慣用句とかから来ているのかな? あれはどうだろう。「水掛け論」……。いや、違う。田に水がほしい双方が水を掛け合ってまで争うって言うのが由来だった……かな。 私とゆたかはそんなに仲は悪くない。むしろ、とても大事な友達……。 じゃあこれは?「水に流す」……。意味が分からない。友好関係とかに絡める事の出来ない慣用句……。 ダメだな。やっぱり、全然思いつかない。 「――は、次――題。――崎さ――」 ああでも無い……。 「岩崎さ――」 こうでも無い……。 「岩崎さん?」 ハッ、と気付いた時には教室の空気はとてつもなく淀んでいた。 先生と、クラス中の生徒がこちらを見つめていて、ゆたかもそれの例外じゃなくて、もう何が何だか……。 「は、はい」 「この問題、解けますか?」 先生は黒板に書かれた式を指差している。 ……分からなくは無い。と思う。 「えっと……。3エックスです」 「違います」 ……傷つくなぁ……。 先生は呆れた顔をしながら、 「まぁ、普段の態度から見て、今日はたまたまだと思いますが、もっと授業には集中するように。それでは、気を取り直してこの問題を――」 と、違う生徒に問題を解かせようとしている……。 失敗した。授業にはちゃんと集中しないと、やっぱりロクな事が無いな。 まぁ、次の休み時間を楽しみにしていよう……。 そして、待ちに待った次の休み時間。 終わる時間を教えてくれるチャイムがとても綺麗な音色に聴こえる。 いつもはゆたかが私の席まで来てくれるけど、今くらいは私から行こう。 そう思って、私はゆたかの席に向かった。 「ゆたか」 声を掛けると、机の上で何か作業をしていたゆたかはこちらに振り向いて、「あっ、みなみちゃん」と笑顔で答えてくれた。 「さっきの話なんだけど」 「あっ、うん。でも……。何だか改めていうのは恥ずかしいなぁ」 ゆたかはちょっと照れている様子。正直、早く教えて欲しい……。 「あっ、そうだよね。ごめんごめん。そんなに気にしてくれてるとは思わなかったよ」 ゆたかは指先を顎に当てて、ちょっと嬉しそうにする。 「うん……。気になってた」 「分かった、言うよ」 ゆたかは一拍間を開けて言った。 「私達がなんで水かって事だよね。水ってね、切っても切れないじゃない?」 「う、うん」 「だから……。私達みたいだなって。縁が切れないでしょ?」 そ、そういう事だったのか……。 「なるほど……。良い事を言うね、ゆたか……」 「え、えへへ」 ゆたかは照れながら笑う。そうか、こんなにも簡単な答えだったのか……。 それをすぐに気付けない私って、なんなんだろうな。 いや、それで憂鬱になるのは間違ってるかな。 もっと、ゆたかと仲良くなろう。 それなら……。ゆたかも喜んでくれるだろうから。 fin
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